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Ⅰ 企画趣旨と論点整理         委員長 上泉和子 1.本企画の背景と企画主旨 来る2025年,いまから10年後の地域包括ケアの実 現をめざして,急ピッチで制度改正を中心とした改 革が進んでいる.さらにその10年後の2035年,厚生 労働省は「保健医療2035」において,「地域主体の保 健医療への再編」を明確に示しており,我が国の保 健医療福祉は大きなパラダイムシフトを求められて いる.『ケア中心』の時代への転換,施設内看護から 『地域』を単位とした看護サービスへの転換の実現に あたって,まさに看護の真価が問われているといえ る. 日本看護管理学会では学術活動推進委員会の企画 により,「看護管理者が創生する地域包括ケア」と題 した指定インフォメーションエクスチェンジを開催 し,「人々が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人 生の最後まで続けることができる」ために,看護管 理はどうあったらいいか,何をすべきかを議論する こととした.特に,①そもそも地域包括ケアとは何 か,②実は,看護管理者が地域包括ケア創出のカギ を握る存在であり,システム構築の当事者ではない か,③地域包括ケアのための看護マネジメントとは どのようなものか,それぞれの地域でそれぞれの立 場で看護管理者は何かできるか,など,病院,行政, 教育・研究,に携わる方々からの独自の取り組み例 を紹介し,参加者との情報交換を行ったので報告す る. 2.そもそも地域包括ケアとはなにか わが国の「地域包括ケアシステム」は,「Commu- nityBased (地域を基盤としていること)」,「Inte- grated Care (統合されたケアであること)」という, 二つの主要な概念によって構成されている.すなわ ち,「住み慣れた地域で,我が家で,安心して生活で きるように,行政や専門職,住民が目的を共有し, ネットワークをつくり,連携・協力しながらケアが 提供できること(田中,2014 )」であり,“地域ぐる みで”実現することが,“包括(あるいは統合)”の 意味するところである.保健医療福祉の専門職のみ ならず,地域のすべての人々が地域包括ケア実現の 担い手ということになる. では,ケアを統合するとはどのようなことであろ うか.しばしば「連携」という言葉が用いられるが, “連携(Linkage )”とは,必要に応じて他の機関等 に照会して答えを得るような協力関係で,“協調 Coordination )”では,それぞれの個人や機関は, 特定の状況においては協働して,その業務を実施す るという状況である.例えば地域圏域内で医療や介 護,保健分野の専門職,あるいは,行政の担当者が 86 日看管会誌 Vol. 19, No. 2, 2015 特別企画 第19回日本看護管理学会学術集会 学術活動推進委員会企画 「看護管理者が創成する地域包括ケア」報告 Report of the Designated Information Exchange ‘Integrated Care: Nurse Administrators will Create’ in the 19 th Annual Conference of the JANAP 座長:    委員長 上泉 和子 Kazuko Kamiizumi 委員  吉田 千文 Chifumi Yoshida 話題提供者:茨城県立中央病院看護部長      角田 直枝 Naoe Kakuta 川崎医科大学付属川崎病院看護部長付参与兼 川崎医療福祉大学特任教授      山田佐登美 Satomi Yamada 宮城県南三陸町歌津総合支所保健師  髙橋 晶子 Akiko Takahashi 八戸市立市民病院副看護局長/ 青森県立保健大学大学院博士前期課程 川野恵智子 Echiko Kawano 委員:    熊谷 雅美 Masami Kumagai 成田 康子 Yasuko Narita 鄭  佳紅 Keiko Tei 中村 恵子 Keiko Nakamura 上野 栄一 Eiichi Ueno 久保田聡美 Satomi Kubota 芳賀 邦子 Kuniko Haga The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 19, No. 2, PP86-95, 2015

「看護管理者が創成する地域包括ケア」報告janap.umin.ac.jp/mokuji/J1902/10000004.pdf · 『地域』を単位とした看護サービスへの転換の実現に

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Ⅰ 企画趣旨と論点整理         委員長 上泉和子

1.本企画の背景と企画主旨 来る2025年,いまから10年後の地域包括ケアの実現をめざして,急ピッチで制度改正を中心とした改革が進んでいる.さらにその10年後の2035年,厚生労働省は「保健医療2035」において,「地域主体の保健医療への再編」を明確に示しており,我が国の保健医療福祉は大きなパラダイムシフトを求められている.『ケア中心』の時代への転換,施設内看護から『地域』を単位とした看護サービスへの転換の実現にあたって,まさに看護の真価が問われているといえる. 日本看護管理学会では学術活動推進委員会の企画により,「看護管理者が創生する地域包括ケア」と題した指定インフォメーションエクスチェンジを開催し,「人々が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができる」ために,看護管理はどうあったらいいか,何をすべきかを議論することとした.特に,①そもそも地域包括ケアとは何か,②実は,看護管理者が地域包括ケア創出のカギを握る存在であり,システム構築の当事者ではないか,③地域包括ケアのための看護マネジメントとはどのようなものか,それぞれの地域でそれぞれの立場で看護管理者は何かできるか,など,病院,行政,

教育・研究,に携わる方々からの独自の取り組み例を紹介し,参加者との情報交換を行ったので報告する.

2.そもそも地域包括ケアとはなにか わが国の「地域包括ケアシステム」は,「Commu-nity Based(地域を基盤としていること)」,「Inte-grated Care(統合されたケアであること)」という,二つの主要な概念によって構成されている.すなわち,「住み慣れた地域で,我が家で,安心して生活できるように,行政や専門職,住民が目的を共有し,ネットワークをつくり,連携・協力しながらケアが提供できること(田中,2014)」であり,“地域ぐるみで”実現することが,“包括(あるいは統合)”の意味するところである.保健医療福祉の専門職のみならず,地域のすべての人々が地域包括ケア実現の担い手ということになる. では,ケアを統合するとはどのようなことであろうか.しばしば「連携」という言葉が用いられるが,“連携(Linkage)”とは,必要に応じて他の機関等に照会して答えを得るような協力関係で,“協調(Coordination)”では,それぞれの個人や機関は,特定の状況においては協働して,その業務を実施するという状況である.例えば地域圏域内で医療や介護,保健分野の専門職,あるいは,行政の担当者が

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特別企画 第19回日本看護管理学会学術集会 学術活動推進委員会企画

「看護管理者が創成する地域包括ケア」報告Report of the Designated Information Exchange ‘Integrated Care: Nurse Administrators will Create’

in the 19th Annual Conference of the JANAP

座長:   委員長 上泉 和子 Kazuko Kamiizumi      委員  吉田 千文 Chifumi Yoshida話題提供者:茨城県立中央病院看護部長      角田 直枝 Naoe Kakuta

川崎医科大学付属川崎病院看護部長付参与兼      川崎医療福祉大学特任教授      山田佐登美 Satomi Yamada      宮城県南三陸町歌津総合支所保健師  髙橋 晶子 Akiko Takahashi      八戸市立市民病院副看護局長/      青森県立保健大学大学院博士前期課程 川野恵智子 Echiko Kawano委員:   熊谷 雅美 Masami Kumagai,成田 康子 Yasuko Narita,鄭  佳紅 Keiko Tei,      中村 恵子 Keiko Nakamura,上野 栄一 Eiichi Ueno,

久保田聡美 Satomi Kubota,芳賀 邦子 Kuniko Haga

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 19, No. 2, PP 86-95, 2015

集まってその圏域で支援が必要でありながら,様々な理由で困難とされている事例について定期的に会合を持つことができている段階,と説明されている(筒井,2014).地域包括ケアがめざす“統合(Integration)”とは,連携でも協調でもなく,複雑なシステムを一つに統合することであり,連続して切れ目のないサービスが提供できること,施設中心ではなく患者中心であることなどの理念とともに,学際的なチームとケア提供の標準化,情報システム,などのサブシステムが必須である.地域包括ケアの詳細はわずかな紙面では十分に説明できないものであるが,「Community Based(地域を基盤としていること)」,「Integrated Care(統合されたケアであること)」の二つのコアとなる概念をふまえ各自の今後の取り組みの糸口になればと思っている. システムの整備は始まったところであり,10年後にこのシステムが完成をみるかは看護にかかっているといっても過言ではない.ここで紹介する先駆的な取り組みを参考に,それぞれの地域でそれぞれの立場でシステムを考えていくことの一助となれば幸いである.

Ⅱ 話題提供

1.病院看護管理者の立場から:         茨城県立中央病院 角田直枝

1)はじめに 地域包括ケアでは,地域にある様々な保健医療福祉の組織がつながる必要があるが,看護師は他の組織を知る機会が少なく,自施設を越えて組織を繋がるには,新たな仕組みが必要だと考えた. 茨城県は東京の北東にあって面積も広く,看護師数の人口比の順位をみると40位台が続く県である.そこで,茨城県の少ない看護師を効率的に育てることをめざし,当院ではいくつかの事業に取り組んだ.多施設の看護師を協働して育成する取り組みは,その過程で互いの立場を理解できる効果もあり,これは地域包括ケアを推進するときの基盤を作ることになったと考える.2)当院の特徴と県内での役割 まず当院の特徴であるが,当院は500床の一般病院で急性期医療を担う総合病院である.県立病院は4

つあり,その中でも最も病床数が多い総合病院である.当院のある笠間市は県庁所在地の水戸市に隣接した県央部にあり,県内全域との交通も比較的便利な位置にある. 病院内は ICU・CCU・HCUが32床,PCU23床,結核病棟25床があり,その他の一般病棟は7対1看護の体制となっている.都道府県がん診療連携拠点病院である一方,「断らない救急」をスローガンに二次救急でありながら,救急車受け入れ台数は県内3位と救急医療でも役割を果たしている. 一方県内の状況をみると,県北部に代表される交通上院外の教育を受けるには不利となる地域もあり,4年前に調査した認定看護師の分布では,ほとんどが県央部や県内部の大規模病院に所属していたなど,看護師の人数や教育を受ける機会に較差が生じていた.このような背景から,当院は立地条件や自治体立病院であるという特徴から,教育機能を果たすことで,県内の看護師が自分の所属以外の看護師との関係構築を促進しようと考えた.こうしたことは,今後2025年に向けて急性期から慢性期の医療へかなりの病床を移行するときの準備にもなると考えたのである.3)県内組織を繋げる取り組み 県内の組織を繋げる取り組みは,大きく分けて2つあり,院内教育の一環として行うものと,他の施設との人事交流によるものとがある.院内教育の一環として行うものは認定看護管理者ファーストレベルや認定看護師を教育課程に派遣する仕組みである.また,他の施設との人事交流では助産師出向や新卒訪問看護師の初年度研修受け入れなどである.これらを順に紹介する.(1)認定看護師等育成の試み 茨城県では一部の大規模病院に認定看護師等が集中していた一方,認定看護師がまだ一人もいないという病院も多数ある.そこで,認定看護師が不在である病院や訪問看護ステーションに対し,当院が認定看護師育成の支援をしようと考えたものが「いばらき看護力アップ大作戦(事業名としてはいばらき看護力アップ事業)」であった. これは認定看護師が不在またはごく少数である施設の看護師を対象とし,その看護師が認定看護師教育課程に進学するときに,一度当院に出向として来てもらう手続きをして,それから教育課程に入学す

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るというシステムである.これにより,その看護師は急性期の総合病院を経験し,また多数の認定看護師と出会う機会を作ることができる.これは認定看護師になったときに,他の施設,他の分野の看護師たちとのネットワークとして活かされると考えたからである.この事業を利用した認定看護師が26年度に初めて2人誕生した.どちらも元々所属する病院での認定看護師第1号であった. 次に,認定看護管理者ファーストレベル(以下,ファーストレベル)であるが,これは茨城県看護協会が行っていた認定看護管理者教育に加え,当院も認定機関として教育を始めたものである.背景には,ファーストレベルの受講希望者が受け入れ可能数より多く,例年受講を断念せざるを得ない看護師が30人程いるという実態があった.そこで,この30人に教育機会を提供できるよう,当院が開講することを考えた. 実際に開講してみると,ほぼ県内全域から受講者が集まり,所属する施設も急性期病院,訪問看護ステーションなど様々であった.数か月間,週末に繰り返し会い,ともに助け合って学習することで,受講者達は自然と自分の所属以外の施設の特徴やそこでの業務の様子などを知るようになった.これは,入院患者の転院や次に述べる人事交流の際にも流れを円滑にする効果があったと考える.(2)他施設との人事交流 他施設との人事交流は,当院に他の施設から看護師が来るものと,当院の看護師が他の施設に出向くものがあり,このうち一方だけ行う施設もあれば,双方向で行う施設もある.なかでも特徴的なものをいくつか紹介する. まず助産師であるが,これは当院が10年産科診療を中断していた背景が関与している.そのため,当院では,助産業務から離れざるを得ない助産師が10人以上いた.そして,5年以上前からこうした助産師を県内の他の病院に出向させていた.最も長期に,そして人数を多くお願いしたのは,県北部の厚生連の病院であった.この病院とは双方向での人事交流も行い,このうちの1人が,その後(1)に述べた「いばらき看護力アップ事業」により認定看護師の資格を取得した.さらに,この取り組みが日本看護協会の助産師出向システムにつながり,26年度はこれを活用して2人の助産師を2か所の民間病院に出向

させた. 次に他の施設から当院に来るものの一つが,新卒の看護師の受け入れである.すでに数年の実績があるものは,当院に近接する茨城県立こころの医療センター(以下,こころ MC)に就職する看護師について,新卒者の場合,数年間当院で教育を行っている.これは当院が精神科医療に果たす役割に関連している.当院は精神科病棟がないが,県内の精神科病院の身体合併事例の受け入れ医療機関になっている.そのため,どの病棟にも精神疾患の患者が入院するし,こころ MCとの間では頻繁に患者の転院がある.そのためこうした人事交流により,身体科と精神科の交流を深める効果があると考えている. 新卒訪問看護師の受け入れについては,26年度に新たに取り組んだ.訪問看護ステーションで採用した新卒看護師を当院で1年間教育のために出向にきてもらった.この仕組みの運用には,訪問看護ステーションの所長と当院の師長が,日頃の患者の入退院や前出のファーストレベルの受講者同士としての交流があることが大いに役立った.4)当院の取り組みの評価と病院看護管理者の役割

 当院でのこうした取り組みは27年度もさらに拡大している.これは取り組みに関与したそれぞれの病院の看護管理者からの評価として,ある程度満足いただけているものと考える. さてそれではなぜこのように繋がれたのであろうか.それは,看護管理者は組織の代表であり,組織同士をつなげるときには管理者がまず動くという考え方があるからである.今回延べた取り組みの過程では,他の医療機関の看護管理者との交流や信頼が基盤となっている.地域包括ケアを創るには,看護管理者自身が互いにつながることがまず第一歩だと考え,特に地域の中核病院ではその動きの発信者として自身をとらえ,今後も多くの地域でこうした取り組みが広がることを期待する.

2.病院管理者の立場から:           川崎医科大学附属川崎病院 山田佐登美

1)はじめに 「地域包括ケアシステム」は,施設や領域を超えたネットワーク型システムであり,Communityを基盤に Integrationされた全人的 Careを提供するし

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くみである.それ故に療養生活支援の専門家である看護職にとっては自らの専門性を十分に発揮し,成果をあげる大きなチャンスとなる. 急性期病院においては,適切な在宅復帰支援が求められる.そのためには地域の医療・介護等の専門職や家族,地域住民と連携協働しながら,疾病や障害からの回復だけでなく,患者の幸福感つまり,患者の価値観による最善を模索していく必要がある.「入院」には,治療そのもののリスクに限らず,「感染」や「ADL・認知機能低下」,「依存性」,「無力・抑うつ・絶望感」等のリスクが存在する.しかも,在院日数短縮傾向により,患者が主体的な療養生活を送るための準備が十分ではない.私たち,急性期病院の看護職は,「疾病や障害をもち,病院という環境にいる“患者さん”」は知っているが「地域で家族や友人たちと生活を営んでいる人格をもった“〇〇さん”」をしっかり理解しているとは言えない. こうした中で今後どうあるべきか考え,前任の病院(尾道市立市民病院)での 4つの取り組みについて紹介したい.2)事例紹介(1)外来から入院へのスムーズな情報伝達と適切

な入院準備(「入院支援センター」の設置) 2014年4月からいわゆるベテラン看護師2名と事務官1名で開設した入院支援センターでは,全診療科の入院予定患者とその家族を対象に以下のサービスを提供している.-入院予約当日にデータベースに基づいた情報収集だけでなく,患者の在宅での生活情報(ADLや認知機能を含む)を得て,電子カルテに入力する.場合によっては,ケアマネジャーや訪問看護のケアプランも把握しておく.転倒や褥瘡のリスク,栄養状態低下,家族のサポート力低下等があれば,病棟や地域連携室,或いは医療チーム等に入院前から情報提供している.また,患者家族から対話を通して情報を得ていくので,患者家族の不安や動揺の軽減,治療への納得へも繋がっている.病棟側からすると,入院前から十分な情報があれば患者に迅速かつ個別的に対応することも可能となり,業務も効率化された.- 入院に関する準備とオリエンテーション,特に中止薬等の服薬管理については説明とともに中止日と入院前日等に電話で確認し徹底することで,予

定通りの治療開始となっている.-入院当日は,患者の準備状態の確認とリストバンドの装着を行い,入院病棟まで案内している.(2)入院中に患者の ADLや認知機能を低下させ

ない取り組み 2011年に看護部で「トイレで排泄キャンペーン」を打ち上げ,「排泄ケアの向上」から患者のADL低下防止を試みた.自宅ではトイレで排泄していたにもかかわらず,「転倒転落防止」を目的に床上/室内排泄を計画実施する事例が多々あったことから,「トイレでの排泄」を前提とし,転倒しないようにトイレにいくにはどうしたら良いのかを考えた.「前提が変われば発想も変わる」ということで様々な意見からケアを見直した結果,まず室内排泄が激減した.病棟によってはポータブル便器がほとんど使用されなくなった.個々の排泄パターンをアセスメントし,計画的にトイレでの排泄を誘導することで患者のADLは維持され,尊厳が挽回された.認知機能にも良い影響があった.排泄の自立の可否は,在宅復帰に大きく影響する.現在は,単なるオムツ交換から「排泄ケア」に変換していくことで「オムツからの離脱」,「患者の可動域を妨げない適切なオムツの選択と装着」等に取り組んでいる. 急性期医療においては,患者を「○○できない」「◆◆のデータは異常値だ」等否定的に捉えがちである.患者の持てる力を正しくアセスメントして,その力を奪わないケアが ADLや QOLを高め,患者の尊厳を見出すケアとなる.排泄以外では,服薬管理もむやみにナース管理にせず,退院後も自分でできるよう,在宅で活用されている「お薬カレンダー」等を用いて,失敗しながらもできるだけ自己管理することを原則にしている.(3)早期から退院支援に取り組むための体制づく

り(在宅支援看護師の配置) 各病棟・外来には「在宅支援看護師」を任命し,在宅支援のファシリテーターとして育成,活用している.地域医療連携室室長が企画をし,月1回程度,学習会と事例検討などのミーティングを行っている.目標やベストプラクティス事例を共有することで院内全体のスキルや意識向上に貢献している.(4)地域との連携協働(人材や医療チームを地域

で共有し,活用する取り組み) ワンコール作戦:まず退院後1両日中に在宅復帰

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患者にコールし,在宅療養上の問題はないか,家族の疲弊や困難感はないか等アセスメントしている.そして,問題があればその時にアドバイスしたり,場合によっては外来受診を早めたり,専門看護外来の受診を勧めている.来院が難しい場合は,患者・家族の同意の上,訪問する場合もある. 在宅訪問による支援:ハイリスク患者や緩和ケア対象患者(看取りを含む)等,ニーズに応じて在宅訪問を2009年頃より始めている.特に認定看護師が増加してからは,彼女たちを中心に地域連携室看護師,病棟看護師が訪問している.訪問看護やケアマネジャー等と一緒に訪問する機会も増えている.これは,多様なケアを患者の元で統合し,提供されるので重症化予防や患者家族の安心につながる.そして在宅側と急性期病院側との間でノウハウが交換される場となるので互いのスキルアップとなる.また,急性期病院のナースにとっては,入院中のケアがどう在宅療養に影響を与えているのかを知る機会にもなり,達成感ややりがいになっている.更に「とても難しいと心配だったけど,活き活き暮らしているのを見ると患者さんの力ってすごいな」と感じることがケアのあり方を変えるきっかけになる.最近では,緩和ケアや心不全チーム,NST等,院内の専門チームが地域の医療機関や施設と協働しながら在宅療養支援をする事例も増えてきている 院内で実施している研修や認定看護師らが企画運営している「院内認定制度」における研修は地域に公開し,自由参加を奨励している.ナレッジだけでなく人と人との交流の場にもなり,「声がかけやすく,親密」な関係ができる場となることも大きなメリットである.3)今後の課題 限られた資源を有効活用し,成果を最大限にするためには組織を超えた協働が必要である.医療や介護の質にばらつきがあることは,患者(利用者)や家族にとって不幸なことである.ばらつきをなくすためには地域全体で人材を育成し,優れた人材は共有すること,互いに高め合って新たな価値を創りだすという理念(競争から共創へ)をもって取り組みたいと考える. また,「少子化」から鑑みると何もかも専門家がということではニーズに応えることはできない.住民一人一人がセルフケア能力を高める/維持すること

と,少しの「Nursing mind」と「Careスキル」を持つことによって近隣で助け合うことができるよう,看護職が支援できることもたくさんあるのではないかと思う.例えば,在宅に移行する患者の家族に積極的に関わり,患者へのさまざまな感情を汲み取りながら Careスキルを伝えることがまず可能なことではないかと考える.4)おわりに 患者の辿る全てのプロセスに関与することはできない.しかしながらできるだけ「医療」という箱に入る前と箱から出た後についても関心をもち,予測しながら人格をもった1人の生活者として理解することに尽力していきたいと思う.そして,自らの領域や業務範囲といった枠から互いにはみだしながら重層的に関わることができるしくみを模索していくことが「地域包括ケア」を成立させるのではないだろうか.

3.地域保健師の取組みから:          宮城県南三陸町 髙橋晶子

1)東日本大震災の経験から 平成23年3月11日.大津波により町は壊滅状態.800名以上の死者,行方不明者と建築物被害7割の大惨事となりました.本部機能を担うはずの役場や救急医療の拠点となるはずの公立志津川病院,保健センター等拠点施設のほとんどが壊滅し,何もない状況から医療,保健,福祉活動が始まりました. 当時保健福祉事業の再開にあたっては,高齢者の介護相談の急増,介護施設や事業所の被災による介護サービスの停止,仮設住宅入居者の孤独死対策や心のケアの問題等課題が多すぎてどこから手を付けたらよいかわからない状況の中でのスタートでした.また,多くの町民がボランティアとして活動している一方で,薄暗い避難所の廊下に1日中座っていたり,仕事や役割を失ったためにすることがなく,ぼんやりと過ごす人も少なくありませんでした. 震災7か月後には,国立長寿医療研究センター大川弥生先生のご指導の下,全町民を対象とした生活機能調査を実施し,南三陸町の高齢者に生活不活発病による生活機能低下が多く発生しているという事がわかりました. 震災後の保健活動を通して感じたことは,町民の力,地域の力は無限大であるということです.南三

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陸町の町民は,中学生,高校生も含め必死で救助,救護活動にあたりました.また津波被害を免れた地域では,がれきを潜り抜け救助を待っている病院等へおにぎりを届けたり,被災者も水汲みからトイレづくり食事づくり等避難所の設営から運営まで行いました. また,住居,仕事,役割,遊び場,買い物ができる等日々の当たり前の生活がいかに健康的生活と深いつながりがあるかという事に気づかされました.震災により町は分断され,孤立している家も多く,被災者のみならず地域全体が大きな環境変化の中で生活しています.自分たちの地域を自分たちの目で診て,町民一人一人の声に耳を傾けること,さらに,南三陸町の財産である町民の力を引きだすことが地域づくり,町づくりにつながっていくものと感じました.2)生活不活発病対策を切り口に 地域包括支援センターでは,大川弥生先生のご指導の下,生活不活発病対策を重点的課題と位置づけ,事業を推進していきました.町長も震災後町民が老け込んだ,活気を失っていると感じており,町をあげて「生活不活発病対策」に取り組むことを明言し,平成23年12月には保健福祉分野のみならず公民館や産業振興課等の職員にも声掛けし,職員の研修会を開催しました.また,仮設住宅等への啓発活動,医療機関スタッフ,ケアマネジャーへの研修会を開催し,「生活不活発病」の理解を深める取り組みを実施しました.「支え合い一人一人が輝いてみんな笑って暮らすべし」を合言葉に,事業から町民の思いに目を向けた活動,町民を主体とした展開を心掛け,地域づくりにつながる活動を目指しました.生活不活発病予防の取組をご紹介します. 震災後町民は,趣味の活動も控え,老人クラブや婦人会活動もできない状況にありました.そこで,平成24年1月に,いきいき教室(介護予防事業)の参加者による新年会を企画しました.震災から未だ1年も経たない中,新年会の開催というのは,「不謹慎」「まだまだ楽しむ気にはなれない」等複雑な思いが入りまじり,1歩踏み出すのは非常に大変な事でした. 最初に,南三陸町で生活不活発病のリスクが高まっていること等を寸劇を通して伝え,得意な踊り等の披露をしていただきました.出演者からはひと

り一人コメントをいただきました.ある出演者のコメントです.「震災当日,高齢者芸能大会が開催されており,350名以上の高齢者が会場に閉じ込められました.翌日,着物姿のまま,がれきの中を夢中で,自宅に向かいました.震災後全く踊りを踊る気持ちにはなりませんでした.いつの間にか,仲間と会うことも,化粧をすることもなくなっていました.家が残っていることも,申し訳なく思いました.今日は,あの日着ていた着物を着,あの日と同じ踊りで,皆さんを元気づけたいと思います.」会場は,涙あり,笑いあり,震災後の再開を喜び合い,次の活動につながる機会となりました.その後,仮設住宅内で新たな踊りの会が結成されたり,施設等への慰問活動につながったり,徐々に仲間づくりや社会参加の再開へと広がっていくことができました. また,ある仮設住宅では,仮設住宅に入居したものの,漁業や農作業が再開できず,何もすることがない状況が続いていました.地主さんの呼びかけで,仮設住宅周辺の雑木林の開墾が進み,役場は後方支援に回りながら町民とともに畑づくりを推進して行きました.地主さんが畑づくりの指導者として携わり,数か月後には,広大な畑が完成し,いきいきと楽しく畑作業に取組む町民の姿を見ることができ,また生活機能調査でも機能低下者が減少という結果が出ました.3)地域包括ケアシステムの構築に向けて 南三陸町では,震災前から公立志津川病院との連携が強く,顔の見える関係が震災時の大きな力となりました.公立志津川病院では,役場保健福祉部門への看護師の派遣,病院医療調整室,訪問看護ステーションの早期立ち上げ,退院時医療調整会議の開催等行政や地域とつながりを持ち続けてきました. 今,地域包括ケアシステムの構築に向けて,どの地域でも検討を進めているところと思いますが,まず,地域の現状を把握し,課題を明確にしていくことが重要と考えています.被災地では,環境の変化も著しく,健康課題も日々変化してきています.関係機関と連携を図りながら,課題を共有していくことが重要と思われます.また,医療サイドからの情報発信は非常に重要で,保健サイドへ発信していくことで予防策へつながることが多々あるように思います. 例えば,進行性のがん患者が増加している,褥瘡

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の在宅患者の入院が増加している等の日頃感じていることを発信すると,保健部門では,がん検診の受診勧奨の強化等につなげたり,在宅患者の褥瘡について,ケアマネジャーや介護サービス事業所等との勉強会,介護教室の開催へとつながったり,いろいろな形でつながり広がることができます.医療の現場からは,なかなか患者の「生活」「地域」は見えにくいものと感じていますが看護職には,多職種をつなぐ大きな役割があります.患者の生活に目を向けることで,自然に地域の関係者とつながっていくものと思います. 地域包括ケアの体制づくりのためには,町民同士のつながりや関係部署とのつながりが重要です.地域の課題に向かい,色々なところとつながりながっていくことが大切です.忘れてならないのは,常に中心は町民であること.一つの目標に向かい,新たなつながりを創りながら,各々の役割,得意分野を生かしながらつながっていくことが大切な事と考えています. 地域包括ケアシステムは,特別なことではありません.日常の積み重ねがとても重要です.人のつながりが大きな力になり,地域の力は無限大に広がります.また,システムを生かすのは人です.まずは地域に目を向け,小さな出会いを大切に,小さなところからつながって行きましょう.看護管理者の皆さん,まずは一つ一つできるところから,業務の中で感じていることを地域で活動している多職種の皆さんと語り合ってみませんか?

4. 看護管理学の研究者の立場から:       八戸市立市民病院/青森県立保健大学大学院

 川野恵智子アクションリサーチで地域包括ケアを創成する ─多職種のがんケアへの思いの共有─1)はじめに A病院は,608床の地域中核病院である.地域がん診療連携拠点病院として,圏域のがん患者とその家族の療養支援の拠点となり,がん患者を総合的に支援する「がん総合支援センター(以下支援センター)」の導入を病院事業として計画している.支援センターは,院内に点在するがん関連のサービスを集約して窓口を一本化し,がん患者の健康に関わるサービスの計画から提供・調整を行う場であり,部

門を超えた保健・医療ケアと社会的ケアの調整をする部門と位置付ける. 支援センターの具体的な役割・機能の探索に,ソフトシステムズ方法論 (Soft Systems Methodol-ogy:SSM)をベースにしたアクションリサーチを行っている.ここでは,地域包括ケアの基盤概念である「ケアを統合すること」について,病院・地域,職種や役割など異なる背景のメンバーによるアクションリサーチワークショップの内容の一部を紹介し,支援センター構築における思いの共有の意義について述べる.2)SSMをベースにしたアクションリサーチとは SSMによる探索のプロセスは, 7つのステージで展開される.ステージ1・2はワークショップメンバーが各自の思いを表出する段階,ステージ3・4では,メンバー間の思いの共有を根拠にして,問題状況について1つのモデルとして表現する段階,ステージ5では,このモデルを使って,思いと現実を比較し,その差異を認識する段階,ステージ6は,望ましいアクションプランを策定する段階,ステージ7はそのアクションプランを現実の問題状況で実践する段階という構成になっている.この方法論を用いることは,実践による更なる学習を引き出すことによって,問題状況に改善をもたらすと同時に,新たな思いが触発され,再度このプロセスが展開し,自らの見方・考え方を自己変革していくという,自己創出的なプロセスとして進展していくことができるものである.3)結果 ワークショップは,2015年6月に2日間実施した.ワークショップ参加者は,A病院でがん領域に関わる医師・看護師・薬剤師と,地域で訪問診療に携わっている医師・訪問看護師,ホームホスピス代表,ケアマネジャーであった.参加者を3つのグループに分け,各グループのステージ 5までの展開の結果から,支援センターのアクションプランのコンセプトとなる①意思決定支援 ②職場内のコミュニケーション ③チーム医療 というキーワードが明らかになった.ここでは, 1グループの「意思決定支援」について述べる.(1)ステージ 1・2 参加者全員が「今の仕事の状況をどう感じているか」というテーマについて,各自が思うことを絵に

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したリッチピクチャーを用いて表出した.図1は,参加者の一人が描いたリッチピクチャーである.がん患者の治療の過程を,険しい山道を登る状況として描き,どちらの山を登るかについて選択を余儀なくされる患者や家族を前に,子供のころこたつに入ると,ほっこりとした気分になり,特に話すつもりはないがつい話してしまう,そんな自身の体験と重ね,自分はこたつのような存在になりたいと話した.「がん患者が療養の過程で幾度も遭遇する選択の場面」に対し,「ほっこりとしたあたたかいこたつのような場」を提供したいという思いを共有するとともに,ほっこりという感覚に参加者の多くが共感した.

(2)ステージ3・4 ステージ1・2での思いの共有をもとに「ケアをマネジメントすること」について議論し,「こたつのようなあたたかい時間をつくること」「患者・家族,医療者も悩んで決めたことは間違いではなく,悩んで決めた道だから受け入れることができる」などにアコモデーションし,さらに「ケアをマネジメントするとはどうすることか」へと議論を展開し,「これでいいんだ,よかったと思えるために,こたつのようなあたたかい時間(場)をつくり,みんなが大丈夫だと信じて決められない道を選ぶこと」という,概念活動モデルを導いた.(3)ステージ5 概念活動モデルの根底にある思いを,比較表を用いて現実の出来事と擦り合わせを行った.迷いながらも在宅で看取ることを選択して退院された患者とその家族の事例で,看取り後に来棟して語った「入院していたらもう少し長く生きられたかもしれない」

「やっぱりこれでよかったんですよね」との家族の思いについて議論し,こたつのような場所で決めたことは,患者や家族,医療スタッフ「みんな」がよかったと思えることが重要であるということについて新たな気づきを得た.そして,現行のインフォームド・コンセントに基づいた意思決定支援とはモードが異なり,「みんなが決めたことを信じることができる支援」がこのグループが考える「意思決定支援」であるということにアコモデーションした(図2).

4)まとめ 今回のワークショップで抽出された「ほっこりこたつ」についての概念化は,さらに検討が必要であるが,本ワークショップでアコモデーションした支援の在り方は,「A病院型意思決定支援」として,支援センターの重要なコンセプトにつながると考える. また,背景の異なるメンバーが,本音で思いを語ることができるのかという不安のもとスタートしたが,其々が描いたリッチピクチャーを介して語られた現状に対する思いの共有によって,異なる背景の垣根が排除され, 1つのことを共に考える集団に変った.これは内山(2007)が述べている,異なる背景に基づいた人々の妥協またはコンセンサスではなく,思いの共有による「異なる世界観の同居」と捉えることができ,思いの共有による「異なる世界観の同居」は,ケアの統合のシステム構築のプロセスに重要な意味を持つと考える.つまりそれぞれの世界観は変えられないが,アコモデーションによる思いの共有による世界観の同居は可能であり,多様なシステムや職種を統合していかなければならない地域包括ケアの構築における前提条件として意味を持つと考える.

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図2   SSMでの学び

図1  ワークショップでのリッチピクチャー

Ⅲ ディスカッションとアンケートの概要: 委員 吉田千文

1.意見交換 話題提供後,会場からの質問,話題提供者間での意見交換,そして全体討議が活発に行われた.まず,地域包括ケアにおいて住民が nursing mindを持って支え合うことが必須として,効果的な状況管理と効果的な情報管理と福祉・介護職などとの関係の持ち方について質問が出た.これに対し,山田氏から事例ごとに異なる多様なケア提供者が一同に会し情報・意見を共有していること,患者の了解を得て近所や民生委員などの地域住民が参加し情報共有することもあると説明された.情報を一部の者が保有するのではなく,ケアに関わる人がそれぞれの判断で責任を持って行動できるよう情報や互いの意見を共有することの重要性が確認された. 次に,住民間のつながりをつくるために高橋氏が震災前から行っていた取組みについて質問がでた.高橋氏からは次のような説明があった.小規模な町で,普段から町民同士が知りあいで互いの生活状況が共有され易い.特別なことをしたとは思っていなかったが,振り返ると震災前に街で認知症モデル事業に取り組んだ。その際に町民が盛り上げて約1割が認知症サポーターになっている。高橋氏の話から,日常的にコミュニティづくりを積み重ねることの重要さが確認された. 各話題提供者の既成概念を覆した看護管理実践とそれを導く責任感や信念が語られるにつれ,会場内には地域包括ケア創出における看護管理者の役割の重要さが共有されていったように見受けられた.そして,具体的な看護管理方法についての意見交換に進んだ.まず,一人ひとりの看護師が個別事例の支援のためにアクションを起こすことが重要という意見がでた.現在は大半の看護師が急性期病院に所属しているが,それぞれの事例の生活上の問題解決のために,実際に自らアクションを起こすことで,行政や在宅側の多職種を巻き込み種々の制度を理解できる.この経験から得た知識をもとにさらにアクションを積み重ねていくことが,地域包括ケアを推進することになるという意見であった.また,人々の地域での療養を支える機能を急性期病院や専門医療機関を含む地域全体で支援する仕組みの重要さが指摘された.これには訪問看護ステーションの24時

間の看護提供体制,高度看護実践のスキル修得,人材育成,そして多職種連携を含む.さらに,地域包括ケアシステムの創設にあたっては,構造を考える前に,そこに関わる立場の違う人達が思いを共有する機会を持つことが重要であるという意見がだされた.

2.アンケート結果 回収数は75部であった.参加者の職種は,記入のあった53人のうち43人が看護師で,医療機関所属が45人(60%)で最も多く,次に教育・研究機関17人(23%),職位は部門管理者27人(36%),部署管理者20人(27%),教員15人(20%)であった.看護実践の場での管理経験有りは61人(81.3%)で,10年以上の経験者は4割強であった.参加理由は,「地域包括ケアについて関心があった」49人(65.3%)が最も多く,次に「地域包括ケアについて知識を得たいと思った」41人(54.6%),「これからの時代の看護あるいは看護管理のあり方を考えたいと思った」40人(53.3%),「地域包括ケアの独自の取組みについて知りたいと思った」36人(48.0%),「病院或いは所属施設の経営のためのアイディアを得たいと思った」31人(41.3%)と続いた. プログラムについては,話題提供での独自の取組みや活動の発表について,62人(85.7%)が「興味や関心をもった」「面白かった」「役に立つと思った」と回答した.その理由は,自由記述の分析から「地域全体で看護力を向上させる仕組みづくり」,「地域の看護職・他職種・行政・住民とのの連携を作る実践」,そして「住民の力,自助・互助を高める看護職の活動」などについて,「看護管理者としての実践に新しい着想を得たり,具体的な活動をイメージすることができた」,さらには,「改めて自身のできることを考え直す機会を得た」ということが示された. 自由記述には,「互いに人が支えあうことの大切さを改めて感じた」「尊厳ある生活を支えるために看護師一人ひとりが自分の役割を理解し,働く場,働き方をしっかり考えていくべきだ」といったケアや専門職としての役割の本質についての気づきと共に,「施設を越えて地域で,我が家でのその人をどう考えるについて,思いを共有し理解していくかが大切」,「保健師や行政,多様な人ともっとこのような事例についての話をしなくてはならない」といった対話の

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重要性についての気づきが記載された.そして看護管理者としてその価値を「どう示すかが求められるかもしれない」,「看護管理者は医師を含めすべての職種に介入できる強みがある.これを活かしながら地域ケアシステム作りができると思う.活動していきたい.」と,地域包括ケアにおける看護管理者の役割と実践に向けた意欲が示されていた.しかし一方で,「重要性はわかるが自組織のことで精一杯で看護管理者ができることは限られている」,「もっと具体的方法を知りたい」といった意見もあった.

Ⅳ まとめ

 今回のインフォメーションエクスチェンジを通して,参加者がケアや看護職の役割の本質に立ち戻っ

て地域包括ケアを捉え直し,理解を深めて,看護管理者として取り組むべき方向性をつかんでいること,また実践に向けて勇気づけられたていることが,会場での意見交換やアンケートからうかがえた.しかし厳しい現場の状況の中で具体的な活動を見いだせない状況もうかがい知ることができ,今後も学会として継続した取り組みの必要性が示唆された.

■引用文献田中滋(2014)地域包括ケアサクセスガイド.東京:メディカ出版.

筒井孝子(2014)地域包括ケアシステム構築のためのマネジメント戦略─ Integrated Careの理論とその応用.東京:中央法規.

内山研一(2007)がん現場の学としてのアクションリサーチソフトシステム方法論の日本的再構築.東京:白桃書房.

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