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地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - 平成19年3月 農林水産省生産局

地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - …...地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - 平成19年3月 農林水産省生産局 i

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地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 -

平成19年3月

農林水産省生産局

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i

- 目次 -

目次 ...............................................................................................................ⅰ Ⅰ 鳥獣害防止対策の取組事例集作成の考え方 1 野生鳥獣による農作物被害状況 .............................................................ⅳ 2 事例の選定及び整理・構成の視点 .........................................................ⅶ ■事例地域マップ ......................................................................................ⅶ

Ⅱ 地域における鳥獣被害防止対策の取組事例 1 北海道:シカの被害防止対策 1-1 畑作地帯の取組(足寄

あしょろ

町ちょう

).......................................... 1

1-2 酪農専業地帯の取組(釧路市音別町おんべつちょう

) ................................ 5

2 青森県:むつ市脇野沢におけるサルの被害防止対策 2-1 行政を主体とした電気柵と追い払いによるサル対策の取組(むつ市脇野沢)8

3 宮城県:サルの被害防止対策 3-1 サルの特定鳥獣保護管理計画に基づく宮城県の取組と仙台市の対策事例.. 14

3-2 仙台市のモデル事業

3-2-1 カキもぎ対策 -放任果樹の管理-(上かみ

愛子あ や し

)................... 20

3-2-2 サル用電気柵の設置(北子ほ っ こ

原ばら

)................................ 24

4 福島県:西会津町におけるサルの被害防止対策 4-1 西会津町のサル対策の取組.......................................... 27

4-2 西会津町の各地域における取組事例

4-2-1 地域ぐるみの総合的なサル対策-まとまりがよい例(出戸い で と

)...... 30

4-2―2 地域ぐるみの総合的なサル対策-まとまりに苦労している例(小山こ や ま

)34

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ii

5 群馬県:桐生市における官民学の協働で進めるイノシシの被害防止対策 5-1 市が中心となった官民学の協働で進める取組.......................... 37

6 滋賀県:総合的対策の先進的な取組と体制づくり 6-1 近江八幡市の総合的なイノシシ対策

6-1-1 隣接集落の先例に学び被害防止対策の初動を早めた事例(近江八幡市南

津田町) ............................................................. 42

6-1-2 個別の取組から地域全体の取組に進展し成果を上げた事例(近江八幡市

島町しまちょう

)............................................................... 45

6-1-3 NPO法人等の参加による被害防止対策(近江八幡市白しら

王おう

町ちょう

) ... 49

6-2 複数の野生獣に対応するためのさまざまな防護柵

6-2-1 サーカステント(おうみ...

猿落・猪ドメ君)で囲う畑地(大津市栗原)52

6-2-2 防護柵の設置と農作物残さ処理の徹底(竜王町薬師く ず し

)............ 57

6-2-3 恒久柵と新型サル用型電気柵を使った地域ぐるみの対策(日野町中之郷)

..................................................................... 61

6-3 放牧による緩衝地帯づくり

6-3-1 家畜放牧による緩衝地帯づくり(木之本町小山こ や ま

)................ 64

6-3-2 牛放牧による耕作放棄地管理(東近江市杠ゆ

葉ずり

尾お

)................ 67

6-3-3 緬羊放牧とおうみ...

猿落君の組合せ(日野町鳥居と り い

平ひら

).............. 70

7 奈良県:中山間地域における総合的対策 7-1 奈良県における取組体制............................................ 73

7-2 奈良県の各地域における取組事例

7-2-1 地域ぐるみの鳥獣害対策(十津川村高津た こ つ

)........................ 76

7-2-2 急傾斜地の果樹園におけるイノシシ・シカ対策(下市町西山)...... 79

7-2―3 忍び返し柵を使ったイノシシ対策(桜井市笠).................... 82

8 三重県:先進的なサル防護対策 8-1 サルの早期発見システムと地元住民による追い払い(亀山市).......... 85

9 兵庫県:犬を使った追い払いと捕獲獣の処理 9-1 イヌを使った野生獣の追い払い体制の構築(香美町).................. 91

9-2 捕獲獣の有効利用(丹波市など).................................... 94

10 島根県:中山間地域における罠などの伝統的な捕獲と防護柵 10-1 農事組合を中心とした鳥獣害対策への取り組み(津和野町堤田)........ 98

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iii

11 佐賀県:全県的なイノシシ対策の推進 11-1 佐賀県における総合的なイノシシ被害防止対策....................... 101

11-2 地域・集落全体を囲んだワイヤーメッシュ柵(みやき町山田)......... 106

12 熊本県:捕獲と連携した獣肉加工施設 12-1 全国初の総合獣肉処理センター(多良木町)......................... 110

Ⅲ 鳥獣害被害防止対策の関係図書・資料一覧

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iv

Ⅰ 鳥獣害防止対策の取組事例集作成の考え方 1 野生鳥獣による農作物被害状況 (1)農作物被害の状況

平成17年度の野生鳥獣による農作物被害金額は、約 186 億円となっており、そのうち獣類に

よる被害金額は 118 億円に及んでいる。獣類の被害金額のうち約 9割(101 億 5 千万円)はイノ

シシ、シカ、サルの 3獣種によるものであり、それぞれ全国計でみると、イノシシは 48 億 8 千

万円、シカは 38 億 8 千万円、サルは 13 億 8 千万円となっている(表 1)。

表 1 地域別・鳥獣別被害金額(実数)

被害金額(万円)

鳥類計

3種以外地域

鳥獣計

(万円)

獣類計 3獣計

イノシシ シカ サル 計

全国計 1,868,853 690,472 1,178,381 1,015,905 488,563 388,446 138,896 162,476

北海道 317,446 14,317 303,128 278,626 0 278,626 0 24,502

東 北 173,088 92,177 80,911 41,506 10,572 7,260 23,674 39,405

関 東 319,858 166,042 153,817 122,045 65,134 21,858 35,053 31,772

北 陸 87,269 59,881 27,388 16,151 6,679 1,410 8,062 11,237

東 海 91,435 49,416 42,018 37,322 14,983 8,486 13,853 4,696

近 畿 188,137 45,326 142,811 127,875 68,897 39,703 19,275 14,936

中四国 281,217 84,326 196,891 175,657 139,330 15,652 20,675 21,234

九 州 385,217 163,305 221,912 215,181 181,426 15,451 18,304 6,731

沖 縄 25,186 15,682 9,504 1,542 1,542 0 0 7,962

出典:“野生鳥獣による農作物被害状況(平成 17年度)” 農林水産省ホームページ生産局「鳥獣害対策コーナー」

(2)地域別の農作物被害状況

地域別の被害状況をみると、北海道はシカによる被害金額が全体の約 9割を占め、九州や中

四国では、イノシシによる被害金額が、それぞれ全体の約 8割、約 7割を占めている。東北、北

陸では、サルによる被害金額が全体の約 3割を占めている。関東、東海、近畿では、イノシシを

筆頭に、シカ、サルの 3獣種による被害が平均的に発生している(図 1)。

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v

16.2

81.8 7.0 8.2

70.8 7.9 10.5

48.2 27.8 13.5

35.7 20.2 33.0

24.4 5.1 29.4

42.3 14.2 22.8

13.1 9.0 29.3

91.9

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

北海道

東 北

関 東

北 陸

東 海

近 畿

中四国

九 州

沖 縄

イノシシ シカ サル 3獣以外

図 1 地域別・獣種別農作物被害の割合

(3)作物別の農作物被害状況

作物別に被害状況をみると、稲が 29 億円と最も多く、次いで果樹が 24 億円、野菜が 22 億円

となっている(表 3)。イノシシは稲、果樹、野菜に多く被害が及んでおり、シカは飼料作物、、

畑作物(ムギ類と豆類)、稲に多く被害が及んでいる。サルは果樹、野菜に多く被害が及んでい

る(表 3、図 2)。

表 3 作物別・農作物被害の状況

区 分 計 稲 畑作物※ 野菜 果樹 飼料作物 工芸作物 その他

鳥類計 690,474 148,086 59,115 180,950 276,825 8,533 3,155 13,810

獣類計 1,178,379 296,289 150,918 222,165 248,626 173,281 51,922 35,178

イノシシ 488,563 209,175 59,100 83,982 102,264 8,905 12,007 13,130

シカ 388,446 63,364 65,890 44,453 15,820 151,846 31,513 15,560

サル 138,896 11,098 15,719 41,307 66,946 721 234 2,871

3獣以外 162,474 12,652 10,209 52,423 63,596 11,809 8,168 3,617

合 計 1,868,853 444,375 210,033 403,115 525,451 181,814 55,077 48,988

出典:“野生鳥獣による農作物被害状況(平成 17 年度)”

農林水産省ホームページ生産局「鳥獣害対策コーナー」

※この表ではムギ類、豆類、雑穀、イモ類を畑作物とした。

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vi

37.3 44.2 8.2

5.1 87.6 0.4

23.1 60.7 0.5

41.1 6.4 26.9

37.8 20.0 18.6

59.5 24.1 10.6

18.9 59.7 13.8

37.4 12.9 26.6

5.0 86.1 3.4

70.6 21.4 3.7

0% 20% 40% 60% 80% 100%

麦類

雑穀

豆類

いも類

野菜

果樹

工芸作物

飼料作物

その他作物

イノシシ シカ サル 3獣以外

図 2 獣類による被害金額の作物別・主要獣別の割合

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2 事例の選定及び整理・構成の視点

(1)事例選定の考え方

我が国における野生獣、とりわけイノシシ、シカ、サルによる被害の実態を踏まえて、これら

の 3獣種に関する全国の被害防止対策の取組事例の中から、平成 18年度鳥獣害対策専門家育成

委託事業検討委員会の推薦や助言等を踏まえ、具体的な事例調査地点の選定を行っている。

(2)取組事例の構成

取組事例には、表題(例えば「滋賀県:総合的対策の先進的取組と体制づくり」)を付け、そ

の地域の概況、被害防止対策の概要、具体的な取組内容、対策の成果と問題点、今後の方針及び

課題について分析、整理している。

また、巻末に本事例集とともに活用できる鳥獣害被害防止対策に関する関係図書、各地域の普

及啓発資料等の一覧を掲載している。

■事例地域マップ

北海道足寄町

佐賀県みやき町

青森県むつ市(脇野沢)

熊本県多良木町

北海道釧路市

宮城県仙台市

福島県西会津町

兵庫県香美町

奈良県下市町

奈良県十津川村 奈良県桜井市

三重県亀山市

滋賀県近江八幡市、東近江市、竜王町、日野町

滋賀県大津市滋賀県木之本町

兵庫県丹波市

群馬県桐生市

島根県津和野町

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Ⅱ 地域における鳥獣被害防止対策の取組事例

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1

NO. 1-1 畑作地帯の取組

地 域 北海道 足寄町あしょろちょう

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・捕獲 対策獣種

農家の形態 専業農家が 6割 5分を占める 主な被害作物コムギ、テンサイ、イモ類、

豆類、雑穀、飼料作物

対策事業主体 足寄町、農業共同組合

利用している事業

名等

シカ用防護柵の設置: 平成 8 年農業生産体制強化推進対策事業、平成 9 年畜産再編

総合対策事業、平成 10 年中山間地域農村活性化整備事業、平成 11 年畜産再編総合対

策事業、平成 12 年畜産振興総合対策事業 等

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

足寄町は十勝の東北部に位置し、面積は 1,408.09 k ㎡である。気候は、十勝内陸気候の影響

を受けるため、寒暖の差が極めて大きい。また、降水量は少なく晴天の日が多いため、日照時間

が長い。

足寄町の農家数 371 戸のうち約 65%に当たる 241 戸が専業農家であり、自給的農家は 2 戸に

過ぎない。耕地面積 13,400 ha のほとんどが畑地(牧草地が 71%、普通畑が 28%)として利用

され、主な農作物としてはコムギ、テンサイ、ダイズ、インゲンなどが作付されている(グラフ

と統計でみる農林水産業・http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

(2)エゾシカによる被害状況

平成元年頃から、エゾシカによる農作物被害が目立ち始めた。その後、平成 7~8 年頃には被

害金額が約 2億円に達した。エゾシカによる農作物被害は、春先にコムギの若芽や移植直後のテ

ンサイの食害からはじまり、イモ類、豆類、雑穀、そのほか飼料作物(牧草)まで被害が及び、

単なる収量の減収に止まらず、品質の低下、病害の助長を引き起こしている。また、食害以外に

踏み倒しによる被害も発生している。

農作物以外では、販売用の苗木の食害、植林した樹木の樹皮剥ぎ害も見られる。

2 対策の概要

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2

○平成 2 年~10 年は主に電気柵、古い漁網の防護柵を設置した。平成 8 年以降は、樹脂ネット

柵の設置を進め、さらに平成 10 年以降は耐久性がある素材で、エゾシカによる噛み切りや破

損に強く、維持管理の手間がかからない

金網柵の設置を進めている(図 1)。

○狩猟及び有害鳥獣捕獲によって、毎年

1,000 頭以上(メスジカを含む)のエゾ

シカが捕獲されている。捕獲と平行して

地元猟友会によって毎年、シカの生息個

体数のモニタリング(ライトセンサス)

を行っている。

3 具体的な取組内容

(1)エゾシカ防護柵の設置と維持管理

○平成 2年以降、まず電気柵やのり網によ

る防護柵の設置を始めた。

○平成 8 年~10 年、被害金額が大きなムギ類、イモ類、豆類、雑穀の畑地と山林が接する地区

を中心に、樹脂ネット柵(高さ 2 m。鉄パイプを支柱に使い、その間に樹脂ネットを張る)

を設置した。

○平成 10 年以降、エゾシカの被害地域が拡大に伴い、より耐久性のある金網柵(木杭を 5~7 m

間隔で打ち込み、20×20 cm 目合いの金網を張る)の設置を進め、平成 13 年以降は牧草地帯

にも金網柵を設置した(畜産振興総合対策事業を活用)。平成 16 年時点での町内のエゾシカ防

護柵の総延長は約 557 km に及ぶ。

○防護柵の維持管理は町内に約 30 ある管理組合が行う。管理組合は、防護柵を設置した範囲に

農地を所有する農業者で、1組合当り 5~50 戸の農家で構成されている。

○管理組合は年 2回の定期見回りのほかに、災害等があった場合は臨時の見回りも行う。また、

防護柵の補修は管理組合ごとの負担により処理し、補修金額が高額になった場合は、JAが費

用の一部を助成する場合もある。

平成 2年~: 電気柵・のり網柵の設置

平成 8年~: 樹脂ネット柵の設置

平成 10 年~: 金網柵の設置

図 1 足寄町におけるシカ用防護柵の変遷

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3

平成 7・8年に設置した樹脂製のネット柵

(所々に破れている部分あり)

新しく設置した金網柵

(牧草地一帯と向かいの山林を囲む)

(2)エゾシカの捕獲と調査

町が地元猟友会に依頼し、エゾシカの有害鳥獣捕獲(期間は 4月~10 月頃)、モニタリング(ラ

イトセンサス)を実施している。有害鳥獣捕獲にかかる費用は、町とJAが約 1/2 ずつ負担し

(年 700~800 万円)、またライトセンサスの調査費用は道が負担している。

注)ライトセンサス: 夜間に車で走りながら左右をスポットライトで照らして、ライトの光を

反射して光るシカの眼を頼りに、シカの個体数を数える調査方法である。

812974

747 745548

342

1033

1211

855 1008

842

706

0

500

1000

1500

2000

2500

H12 H13 H14 H15 H16 H17

年度

シカの捕獲頭数

注)平成 16 年と 17 年度は道による雇用確保のための委託事業分も含む(1~3月)

図 2 足寄町におけるエゾシカの捕獲頭数(平成 12 年~17 年度)

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4

4 対策実施による成果と問題点

(1)成果

防護柵の広域設置によって、平成 9年度は約 2億円であったエゾシカによる農作物被害金額

が、平成 10 年以降は約 1~1.5 億円に減少した。

(2)問題点

○広域に防護柵を設置しているため、河川や道路との交差箇所、土地所有者に了解が得られない

箇所など防護柵を設置できない箇所が残され、それらの箇所から柵内へエゾシカの侵入を許し

ている。

○経費を抑えるため最短距離で防護柵を設置したが、防護柵内に山林の一部が取り込まれ、そこ

に生息していたシカの追い出しが不十分であったため、防護柵内に残されたエゾシカが繁殖し

て増えるという事態が起こっている。

○林縁部に設置した防護柵にはツル植物が絡み、補修等の際の弊害となっている。また、傾斜地

に設置した防護柵では、エゾシカに跳び越えられることがある。

○冬季は積雪により防護柵が機能しない場合がある。また、強風や河川増水によって、防護柵が

支柱ごと倒壊・流失することがある。

5 今後の方針及び課題

新たな防護柵はもとより、町内で最初(平成 8~9 年)に設置した樹脂ネット柵の老朽化に伴

う補修についても、町単独で防護柵の更新費用を支出することが難しい。一方、補助事業や道か

らの財政支援も期待できない。そのため既存の防護柵を維持管理することによって、長期間使用

することが課題である。

崖下に設置された金網柵 増水で決壊した金網柵

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5

NO. 1-2 酪農専業地帯の取組

地 域 北海道 釧路市 音別町おんべつちょう

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・捕獲 対策獣種

農家の形態 専業農家が約 6割 主な被害作物 牧草、デントコーン

対策事業主体 音別町、農業組合

利用している事業

名等

シカ用防護柵の設置: 山村振興等農林漁業特別対策事業(国 5 割、道 4 割、町 1 割

の負担)、中山間地域等直接支払制度

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

音別町は、釧路支庁西部に位置し、町の南部は太平洋に面し、人口は沿岸部に集中している。

北部は丘陵・山岳で、町中を音別川が流れている。平成 17 年 10 月に釧路市と合併し、現在、釧

路市の飛び地となっている。

釧路市の音別地域は酪農専業地帯であり、主に飼料作物(牧草、デントコーン)を栽培する。

釧 路 市 は 専 業 農 家 が 約 60 % を 占 め る ( グ ラ フ と 統 計 で み る 農 林 水 産 業 ・

http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

(2)エゾシカによる被害状況

平成元年頃から、エゾシカによる牧草やデントコーンへの被害が目立ち始め、平成 8年には被

害金額 1億 3600 万円に至った。

2 対策の概要

○平成 6年頃から電気柵の設置を進めたが、エゾシカが電気柵に慣れて柵を越えて農地に侵入す

るようになり、また、維持管理(漏電防止の除草作業等)に多くの労力を要することから、電

気柵を取り止め平成 10~11 年に金網柵を町内全域に設置した。

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6

○狩猟及び有害鳥獣捕獲によって、エゾシカ(メスジカを含む)を捕獲している。同時に地元猟

友会によって毎年、生息個体数のモニタリング(ライトセンサス)を行っている。

3 具体的な取組内容

(1)シカ用防護柵(金網柵)の設置と維持管理

○平成 10~11 年、町内全域の農地に金網柵(高さ 2.1 mもしくは 1.5 m。支柱の木杭を 5~7 m

間隔で打ち込み、目合いは 20×20 cm の金網を張る)を設置した。設置場所については、農業

者との協議を踏まえて決定した。現在、町内の金網柵の設置延長は約 150 km に及ぶ(高さ 2.1

mの柵が 130 km、高さ 1.5 mの柵が 20 km)。

○金網柵は、出来るだけ農地と山林の境に設置するようにした。しかし、費用削減のために最短

距離で金網柵を設置した箇所では、柵の内側に山林を取り込むように囲った箇所もある。

○農業者で防護柵の管理組合をつくり、年 2回の見回りを含めて補修等の維持管理を行う。その

際、柵の補修等の費用は管理組合が負担する(小さな補修は個人で処理)。大きな補修が必要

な場合、施工業者に作業を協力してもらい進めている。

林道沿いの金網柵 河川をまたぐ箇所:エゾシカの侵入防止のため防

護柵の下側をシートで覆う

(2)エゾシカの捕獲と調査

○平成 7年以降、町が地元猟友会に依頼し、エゾシカの有害鳥獣捕獲を実施している。有害鳥獣

捕獲は予算の範囲内(約 150 万円/年)で行うため、毎年約 300 頭(1頭 5,000 円)の捕獲に

留る。

○エゾシカの有害鳥獣捕獲は、狩猟者の約 8割を占める農家の繁忙期である 6月を除き、通年実

施している。

○昭和 61 年から地元猟友会において、毎年春と秋にエゾシカの生息個体数調査(ライトセンサ

ス)が行われている。

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7

4 対策実施における成果と問題点

(1)成果

平成 11 年度(町内全域の金網柵設置が終了した年)に 1億 3,900 万円あった農作物被害は、

平成 15 年度には 4,500 万円に減少し、その後現在まで横這いの状況で推移している。

(2)問題点

○事例 1-1 の足寄町と同様、河川や道路との交差箇所、土地所有者の了解が得られない箇所で防

護柵が途切れ、エゾシカの侵入箇所となっている。また、エゾシカを十分に追い払いせずに生

息地である山林を防護柵の内側(農地側)に囲い込んだ箇所も見られる。

○林縁部に設置した金網柵にはツル植物が絡むことが多く、補修等の際に手間がかかる。

○設置した金網柵の老朽化が進んでいる。金網柵の耐用年数は約 15 年と言われているが、町単

独で柵の更新費用を出すことは困難で、先行きが見込めない状況となっている。

5 今後の方針及び課題

エゾシカの侵入箇所となっている防護柵の切れ目を塞ぐこと、防護柵の中に囲い込んでしまっ

たエゾシカを捕獲すること等が、今後の課題である。

ツルが巻いてしまった防護柵 林道が防護柵を挟むため、ゲートを設置

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8

NO. 2-1 行政を主体とした電気柵と追い払いによるサル対策の取組

地 域 青森県 むつ市 脇野沢

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・追い払い 対策獣種

農家の形態 脇野沢地区の大半は自給的農家 主な被害作物 イネ、野菜

対策事業主体 むつ市(脇野沢)

利用している事業

名等

・防護柵(源げん

藤城どうしろ

地区)の設置: 中山間地域総合整備事業

・防護柵(片貝かたかい

地区)の設置: カモシカ食害対策事業

・防護柵(小沢こざわ

地区)の設置: 里地棚田保全整備事業

1 地域の概況

(1)立地や農業の概要

旧脇野沢村(以下、脇野沢と称す)は、平成 17 年 3 月 14 日、川内町、大畑町と合併し、新「む

つ市」となった。むつ市は、この合併により青森県で一番大きな面積を持つ市町村となり、県の

総面積の約 11%を占める。平成 18 年時点では、脇野沢には専業農家はなく、すべて兼業もしく

は自給的農家である(半農半漁の農家も多い)。また周囲の山林の大半は国有林のため、民間の

林業家はいない。

当該地域で栽培されている主な農作物(換金作物)はイネ、ミョウガ、アサツキである。その

ほか主に自家消費用として多種の野菜(ダイズ、ナガイモ、ネギ、ダイコン、ハクサイ、キャベ

ツ、ニンジン、アスパラガスなど)が栽培されている。

(2)サルによる被害状況

昭和 45 年(1970 年)に、下北半島のサルとその生息地(脇野沢と佐井村の一部)が国の天然

記念物に指定された。その当時は、半島北西部の大間町、佐井村、風間浦村と半島南西部の脇野

沢の海岸域のごく狭い地域に、6群~7群、150 頭~200 頭程度のサルが生息していた。その後、

サルの群数・個体数は増加し、平成 16 年(2004 年)、下北半島全体で 28~29 群、約 1400~1600

頭となった。脇野沢では、昭和 59 年(1984 年)に 1群、21 頭であったが、その後増加し、平成

18 年(2006 年)現在、5群、296+α頭となっている。

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9

脇野沢では、昭和 35 年(1961 年)に九艘くそ う

泊どまり

地区の畑にサルが出没するようになり、昭和 37

年には同地区で被害が頻発化した。このころから保護と被害防止対策を兼ねて、同地区では、研

究者などの助言を受けてサルの餌付けを開始した。昭和 42 年、再びサルによる農作物被害が問

題となり、翌 43 年から旧村は九艘泊地区に対して被害補償を始めた。昭和 45 年以降、九艘泊か

ら旧村内の他の地区へサルによる被害が拡大し始め、昭和 53 年になるとサルの群れの分裂に伴

い、被害が一気に広域化した。平成 10 年には民家侵入するサルが出現し、新たなサル問題とな

った。

サルによる農作物被害に対して脇野沢では、昭和 43 年から猿害監視員を置き、昭和 56~59

年には国の許可のもとで、捕獲(捕獲したサルは野猿公苑で飼育)を数回実施した。また平成 6

年から防護柵の設置を進め、平成 9年には農地の 9割が防護柵で囲われた。平成 12 年からは、

民家への侵入や人的危害をおよぼすサルの捕獲を取り組み始めた。

2 対策の概要

○平成 16 年に、青森県でサルに対する特定鳥獣保護管理計画が策定された。

○平成 6年から電気柵の設置をはじめ、平成 18 年時点では脇野沢の農地(主に畑地)の約 9割

(総延長約 14 km)を防護柵で囲うと同時に、猿害監視員(市の職員もしくは委託)によるサ

ルの追い払いを実施している。

○人に危害を加える恐れのあるサルについては、個体識別のうえ捕獲を実施している。

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

H1 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17

年度

被害金額 千円

カモシカ

サル

図 1 サル、カモシカによる農作物被害金額の推移(脇野沢)

3 具体的な取組内容

(1)防護柵の設置と管理

脇野沢における代表的な防護柵の設置と管理状況を示した(表 1)。

○源藤城地区は平成 5~9年、片貝地区と小沢地区は平成 18 年に防護柵が設置された。源藤城と

片貝は、カモシカとサルの侵入防止を図るために電気柵を導入した。また、小沢では金網でカ

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10

モシカの侵入防止を図っている。

○源藤城と小沢の 2地区の防護柵の設置は、施工業者が行い、片貝地区の防護柵は、猿害監視員

が設置作業を行った。

○片貝地区の電気柵周辺の除草作業は、各農家に要請しているが、農家によって対応はまちまち

である(写真下左)。市職員や猿害監視員が除草作業を行うこともある。また、冬季(11 月~

3月)の管理作業(太陽発電パネルとバッテリーを回収、樹脂ネットの巻き上げ)も、市職員

と猿害監視員が行っている。

○脇野沢全域の防護柵の補修作業は、主に猿害監視員が行っている。

○平成 6年以前は、普通の金網を防護柵として使用していたため、積雪によって金網が簡単に押

し曲げられていた(写真下右)。平成 6年以降に村(脇野沢)で設置した金網柵については、

積雪に強い金網柵としたため、冬季の金網損傷は減少した。

電気柵周辺の草刈状況が農地境界で大き

く異なる

積雪で上端が押しつぶされた金網柵

表 1 脇野沢における代表的な防護柵とその概要

地区 農地の概要 防護柵の概要

源藤城 畑地 5.6 ha

・電気柵(金網+電線 6本:支柱は木杭)

・高さ 2.4 m、格子の目合い 15×10 cm、柵の延長 1,148 m

*金網の接地面にプラスチック製ネットを埋め込み野生獣の掘り返しを防

片貝 畑地 2.4 ha ・ネット型電気柵

・高さ 2.0 m、網の目合い 10×10 cm、柵の延長 499.5 m

小沢 畑地 19.2 ha

・金網(支柱は木杭)

・高さ 2.5 m、格子の目合い 15×10 cm、柵の延長 6,170 m

*金網の接地面にプラスチック製ネットを埋め込み野生獣の掘り返しを防

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11

木柱(高さ2.2m、 間隔約2.5m)

※木柱は防腐剤を塗装

金網(15×9 cm)

電線(6本)

源藤城地区の電気柵

(柵上部にサル侵入防止の電線を張る)

源藤城地区の電気柵の模式図

支柱(高さ 2m、 間隔約 3m)

ネット(9×9 cm)

針金

ネットの緑色部分と最上部の針金に通電

片貝地区のネット型電気柵:ネットの緑

色部分と最上部の導線に通電

片貝地区のネット型電気柵の模式図

小沢地区の金網柵

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(2)追い払い

○脇野沢全域の農地へ出没するサルの群れ(3群)に電波発信器を装着し、猿害監視員(市職員

を含む、以下同じ)が毎日のサルの群れの位置を把握、その日に出没しそうな集落(農地)に

先回りし、追い払いを実施している(作業体制は表 2)。

○猿害監視員は追い払いと同時に、個体識別をしながらサルの行動を記録し、問題個体(人を恐

れず、人に危害を加えるような個体)の抽出を行う。

○猿害監視員が把握したサルの位置情報と群れの出没予想地区について、地域の防災無線等を使

い住民に知らせている。

○猿害監視員による追い払いには、電動ガン、パチンコ、動物駆逐用煙火(188 円/個、脇野沢

では年間約 200 個を消費)を使用する。動物駆逐用煙火は、非常に大きな爆発音を発するため、

農地に散らばり食害する多数のサルを 1~2 名で追い払う時に有効である(使用には、煙火打

上従事者手帳もしくは動物駆逐用従事者手帳が必要)。

○その他、市ではロケット花火、パチンコの購入費を予算化し、必要とする住民に配布すること

で、住民による追い払いも推進している。

表 2 脇野沢における猿害監視員の調査・追い払い作業体制

期間 調査・追い払い時間 猿害監視員の調査・追い払い体制

農閑期 4 月~5月

11 月~3月 8 時~17 時 3 人/日体制

農繁期 6 月~10 月 5 時~13 時(早番)

11 時~19 時(遅番) 2 人 1組で 2交代制(4人/日体制)

注)脇野沢・川内地域の猿害監視員は合計 12 名体制である。

電動ガンを持った猿害監視員 サルの追い払いに使われている動物駆逐用煙火

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4 対策実施による成果と問題点

(1)成果

脇野沢地域では、サルとカモシカによる農作物被害金額を年間約 100 万円以下に抑えることを

目標とし、継続的な追い払いの実施と防護柵の設置(平成 6年~9年に行った防護柵設置事業)

により、被害ピーク時の平成 5年度に比べて、サル、カモシカによる農作物被害は約 1/10 に減

少した(平成 17 年度の被害金額が 100 万円を下回る)。ただし、平成 6年以降の被害金額の減少

は、耕作放棄地の増加に伴い、被害金額として数字に現れていない。また、平成 17 年度の被害

金額の減少は、当年、ブナの実が豊作であり山中にサルの餌が豊富であったこと(市職員からの

聞き取り情報)も考慮する必要がある。

(2)問題点

○片貝地区など広域を電気柵で囲った農地では、農家により電気柵周辺の除草の仕方・頻度に偏

りがあり、一貫した管理が行えていない。

○サル追い払いチームは、旧脇野沢村の職員を含む猿害監視員 12 名で構成され、主に旧脇野沢

村をその活動範囲としていた。しかし、平成 17 年の市町村合併により活動範囲はむつ市全域

に及ぶようになり、平成 17 年以前と同じ体制(人数)では、サルの群れを追跡・監視するこ

とが難しい状況にある。

5 今後の方針及び課題

○人馴れが進み、より賢くなったサルに対応するため、むつ市ではNPO法人(ニホンザルフィ

ールドステーション)の協力を得ながら、ニホンザル保護管理専門員を 1名養成する予定であ

る。

○むつ市としては、猿害監視員を中心に、今後も根気強くサルの追い払いを継続することが必要

であると考えている。

○青森県が平成 17 年に行った住民アンケート調査(脇野沢、川内、大畑及び佐井村)によると、

今後も安心した日常生活や農業を続けていくための対策として「有害捕獲」を支持する回答が

約 8割を占める一方で、「電気柵の整備」は約 3割に止まった。地域住民の被害防止対策に対

する意識改革も課題である。

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NO. 3-1 サルの特定鳥獣保護管理計画に基づく宮城県の取組と仙台市の対策事例

地 域 宮城県及び仙台市

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○

主な

対策

特定鳥獣保護管理計

画に基づくサルの群

れの追い上げ

対策獣種

農家の形態 宮城県及び仙台市の専業農家は1割弱

で、自給的農家が 1割 5分~2割 主な被害作物 イネ、野菜、果樹

対策事業主体 宮城県、仙台市

利用している事業

名等

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

宮城県は、東を太平洋に面し、西を奥羽山脈と接している。気候は、夏は酷暑の日が少なく、

冬は温暖で降雪量も東北の中では少ない。

宮城県、仙台市ともに販売農家率は約 80%以上、耕地面積の約 80%が水田である。イネ、ダ

イズ、野菜(ダイコン、バレイショ)、果樹(リンゴ)の栽培が盛んである(グラフと統計でみ

る農林水産業・http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

(2)宮城県におけるサル、イノシシによる被害状況

宮城県内にはサルの群れが 28~29 群(約 1,500 頭)、ハナレザル(オス)が約 200 頭、総数約

1,700 頭が生息する(平成 18 年時点)。その多くは奥羽山脈周辺の山地に生息するが、旧松山町

と旧鹿島台町にまたがる丘陵地帯に 2群、金華山に 6群がそれぞれ隔離的に分布する(図 1)。

昭和 60 年以降は仙台市、平成に入ると加美町、白石市、七ヶ宿町で、サルによる農作物被害

が発生するようになり、現在では、金華山の群れを除く県内に生息する全てのサルの群れが、農

作物被害を引き起こすようになった。

また、宮城県におけるイノシシの分布は、近年急速な勢いで拡大(北上)しており、平成 18

年には、仙台市の北に位置する加美町でイノシシの出没が確認された。

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15

松山・鹿島台

金華山

奥新川 A1、A2

秋保大滝 A、B

定義

注)上図は、「平成 17 年度 宮城県ニホンザル保護管理事業委託業務 完了報告書」の図 12 を基に作図

図 1 宮城県のサルの群れの分布概要

(3)仙台市におけるサルなど野生鳥獣による被害状況

○平成 17 年度の野生鳥獣による農作物被害金額は、総額で 182 万円、主な加害鳥獣としてサル

のほか、ツキノワグマ、イノシシ、カモシカ、カラス、カモなどである。被害金額の約 1/3

がサルによるもので、主な被害作物はイネである(図 2)。

○これまで仙台市におけるサルによる農作物被害は、主に東北自動車道より西側地域(奥羽山脈

側)で発生していたが、平成 18 年夏以降、東北自動車道より東側地域でもサルによる被害が

報告されるようになった。

○10 年以上前までは、県南部の丸森町周辺がイノシシの県内分布域の北限であったが、近年、

急速な勢いでその分布域が北上し、平成 11 年には仙台市、平成 18 年には加美町(仙台市の北)

で生息が確認されるようになった。また、仙台市では、平成 17 年にイノシシを 40 頭捕獲した

が、平成 18 年は、例年より早い時期からイノシシによる被害が発生し、その被害金額も前年

に比べて増加している。

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16

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

H15年度 H16年度 H17年度 H18年度

                   注)平成18年度は7月までの結果

被害金額 万円

クマ

イノシシ

サル

注)仙台市農業振興課の統計に基づき作図

図 2 仙台市における野生獣(サル、イノシシ、クマ)による農作物被害金額の推移

2 対策の概要

宮城県では、平成 17 年にサルの第 1次特定鳥獣保護管理計画を策定し、現在、平成 19 年から

の第 2 次特定鳥獣保護管理計画を策定中である(表 1)。これらの計画に基づいて各種の被害防

止対策が実施されている。

表 1 宮城県における特定鳥獣保護管理計画の策定状況

野生獣の種類 特定鳥獣保護管理計画の策定状況

サル ・第1次計画…平成 17~18 年(2年間)

・第 2次計画(策定中)…平成 19~23 年(5年間)

イノシシ ・平成 19 年度以降、県内の生息調査を行う予定である。

ツキノワグマ ・平成 14 年から県内の生息調査を実施し、平成 18 年度末に特定計画の指針を示

す予定である。

○サルの群れの追い上げ対策(以下、「追い上げ」という。表2「宮城県及び仙台市で実施

されているサルの追い上げ対策の概要」参照。)は、平成 16 年に試験的に実施後、平成17年以降は宮城県や仙台市の事業として行われている。 ○仙台市では、県の特定鳥獣保護管理計画を受けて、サルの追い上げ以外に、防護柵の設

置、有害鳥獣捕獲(イノシシなど)、講習会の開催、サルに対する電波発信器の装着と受

信器を農家に貸与するなど、各種の被害防止対策を進めている。

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17

3 具体的な取組内容

(1)追い上げ対策

宮城県と仙台市の追い上げ対策の流れ(図 3)、主な内容(表 2)を示した。

図 3 サルの追い上げ対策の流れ

(2)その他の対策(仙台市の事業)

1)防護柵の設置

市では、被害地域の住民が電気柵等の防護柵設置を進めるために、市内の 6つの実行組合(農

業関係組織)や町内会に対して設

置費用の補助を行った。過去 4 年

の防護柵補助金額の推移を示す

(図 4)。

2)有害鳥獣捕獲

市は、狩猟者団体の協力を得な

がら、箱わな(17 年に箱わな 1 基

を購入)を設置し、イノシシ 2 頭

を捕獲した。

3)講習会の開催・視察

平成 17 年に「イノシシ被害防止

対策」の講習会を開催した。また、

被害地の農家実行組合長を中心としたメンバーで、イノシシ被害の県内における先進地である丸

森町を視察した(イノシシの被害状況、被害防止対策、捕獲方法などについて視察)。

追い上げ実施地区への事前周知(入山禁止の注意喚起の看板を設置など)

鳥獣保護法に基づき県へサルの捕獲許可申請

サル群の行動域の事前調査

追い上げ実施地区への広報(チラシの配布や広報車による広報活動)

追い上げ(捕獲を含む)の実施

事後調査

図4 防護柵の設置状況

0

100

200

300

400

500

600

H14年 H15年 H16年 H17年

年度

防護柵の

設置面積 ha

0

200

400

600

800

1000

1200補助金額(千円)

設置面積 ha

補助金額 千円

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4)サルの被害防止対策の支援事業

市では、平成 16 年までに追い上げの対象としている群れを中心に 7頭のサルに発信器を装着

した。平成 17 年には、群れの分派(奥新川 A は 2 群に分派)に伴い形成された新たな群れの 1

頭に発信器を装着した。また、農家などへ受信器を 12 台、電動ガンを 7台貸し出している。さ

らには、仙台モンキークラブの HP と連携して、サルの位置情報の提供を行っている。

表 2 宮城県及び仙台市で実施されているサルの追い上げ対策の概要

項目 主な実施内容

追い上げの実

施体制

○追い上げは、宮城のサル調査会、狩猟者団体、県自然保護課職員、市環境管理課、農

業振興課の職員等で、20~40 人のチームを編成し実施している。

追い上げ方法 ○追い上げチームのうち 1名は、追い上げる群れの移動を見渡せる位置に配置する。そ

の他は、人数や追い上げの地点の地形に応じ数組に分け、サルの群れを 2~3 方向か

ら囲い込むように配置し、追い上げる。追い上げチーム内の連絡は、トランシーバー

を利用する。

○追い上げには、銃器、8連発ロケット花火、爆竹等を使用し、サルの群れをパニック

状態に陥れた後、連続して(数 km にわたり)奥山方面へ追い上げる。

○サル群の追跡のため犬も活用する。

*8 連発ロケット花火(名称:囚光雷):娯楽用のロケット花火より威力があり、銃砲

店のみで取り扱っている。200 円/本。

追い上げの対

象群

○宮城県と仙台市で追い上げ作業を下記のように分担して実施。

・仙台市:市街地により近い地域に分布する 4群(奥新川 A1、A2、秋保大滝 A、B)の

追い上げ対策を実施。

・宮城県:上記 4群以外の主に奥山(奥羽山脈側)や県内の郡部に分布している群れを

対象に追い上げ対策を実施。なお、平成 14 年に分裂した群れが定着している鹿島台

の群れは、追い上げる場所(後背山地)がないため捕獲中心の対策を行っている。

追い上げの実

施時期

○本格的な追い上げ対策は、サルが人に対して強い警戒心を抱く 4月上旬~6月の出産

期、及び積雪や落葉によってサルを目視で確認・追跡しやすい冬季(12~3月)の年

2回行っている。

○農作物被害が多くなる 7 月~11 月は、群れの移動をモニタリングしながら、農地に

近づく度に小規模の追い上げを行っている。

追い上げ困難

な個体に対す

る対処

○追い上げ前の事前調査によって、人馴れが進み追い上げ困難な個体を識別の上、有害

鳥獣捕獲を実施。平成 17 年度の捕獲実績は 5~6頭であった。

事前調査と事

後調査

○追い上げの対象とする群れは、事前にその行動域を把握し、対策後は事後調査を行う。

そのため、群れのサル数頭に発信器の取り付ける作業を進めている。

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19

4 対策実施による成果と問題点

(1)成果

宮城県と宮城のサル調査会が「追い上げ」モデル群として追い上げを実施してきた「定義

の群れ」について、追い上げの効果の検証結果(事後調査結果)を以下に示す。事後調査で

は、「冬季の行動域の変化」、「群れの警戒心の変化」、「農地への出没状況の変化」の 3点につ

いて確認されている。なお、「定義の群れ」については、平成 16 年 12 月~17 年 3 月にかけて

71 日間の追い上げが実施された。

○冬季の行動域の変化: 平成 16 年以前、冬季にクワやコウゾの集中採食跡が見られた里に近

い道路脇一帯で、平成 17 年の追い上げ以降は、採食跡が全く見られなくなった。また、平成

16 年以前に群れがよく観察された県道沿いの人目に付き易い地域でも、全く観察されなくな

った。一方、当該群れは、平成 16 年以前(冬季間)、ほとんど利用していなかった標高の高い

地域を利用するようになった。

○群れの警戒心の変化: 「定義の群れ」は平成 14 年以前は、県内でも人馴れしていない群れ

の一つであった。しかし、周辺のより人馴れが進んだ群れ(奥新川 A群など)から入ってきた

オスたちの影響を受け、平成 14 年頃から急速に人を恐れなくなり、道路脇での採餌したり、

農地へ出没するようになった。追い上げ後は、再び人を警戒するようになり、人と遭遇した時、

逃げる速度も以前より速くなった。また、銃器で追い上げられた場所を避けて移動するように

なった。

○農地への出没状況の変化: 2~3 頭のハナレザルを除き、群れで農地に出没することはなく

なった(追い上げ終了後、3カ月経過時点の結果)。

(2)問題点

本格的な追い上げ対策(平成 17 年)を実施してから現在(平成 18 年)まで日が浅く、一時的

に追い上げた群れが、奥山に定着するか否かについては、今後さらに追跡調査していく必要があ

る。

5 今後の方針及び課題

○宮城県としては、今後、追い上げの対象とするサルの群れを増やす方針である。そのために、

県では平成 18 年度に 20 台の発信器を購入し、主に郡部に生息するサルの群れに装着する計画

を進めている。また、仙台市は平成 18 年度に発信器 4基を購入し、サルに装着する予定であ

る(平成 18 年 10 月時点:サル 7頭に電波発信機を装着済み)。

○将来は行政主導ではなく、地元の森林組合、JA、集落などが中心となり、追い上げ対策を実行

出来るようにしたいと考えている。

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20

NO. 3-2-1 仙台市のモデル事業:カキもぎ対策 -放任果樹の管理-

地 域 宮城県 仙台市青葉区 上愛子かみあやし

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○

主な

対策 集落環境整備 対策獣種

農家の形態 主に自給的農家 主な被害作物 イネ、野菜、果樹

対策事業主体 仙台市

利用している事業

名等 電気柵の設置: 市モデル事業

1 地域の概況

(1)地域の概況

仙台市青葉区の上愛子地区は、仙台市の西部に位置し、広瀬川に沿った平坦地に水田や畑地が

点在する。

(2)サルによる被害状況

当該地区では、平成 17 年の秋頃からサルの群れが出没するようになり(サルは主に広瀬川の

河畔林の方から出現)、当初は主に放任されたカキの木に登り、未収穫果実を食べていた。平成

18 年に入ると、カキだけでなくその周辺で栽培される野菜(トマト、ナス、キュウリ、ダイコ

ン等、主に自家消費用)も、サルに食害されるようになった。

また、サルの出没域の小学校では、サルによる人身被害の予防措置として、小学生の集団下校

が行わることがある。

2 対策の概要

○近年、初冬の時期、未収穫のカキの果実を目当てにサルの群れが河川沿い(河畔林を伝い)を

移動しながら、河川周辺の集落に出没するようになった。そのため市では、カキの木の所有者

に果実の採取や不要な木の伐採を呼びかけている。

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○高齢者だけの農家世帯などでは所有者だけでは採取や伐採ができず、また収穫しても消費でき

ない。そのため、何年も放任されたカキの木は生長し、格好のサルの餌場となっていた。そこ

で、サル対策の一環と

して平成 18 年秋、仙

台市のモデル事業と

して「カキもぎ対策」

を実施した。

○当モデル事業では、市

が地域(集落)外から

ボランティアを募り、

それらの者からカキ

もぎの協力を得た。

図 1 カキもぎ対策地点(平成 18 年)

3 具体的な取組内容

(1)主な参加者

○カキもぎ対策は仙台市の環境管理課、農業振興課及びJA仙台が主催し、当該地域周辺で野外

活動(キャンプや自然観察など)を行っている市民グループに、市の方から呼びかけて、地域

外ボランティアとして参加してもらった。

○上愛子地区の町内会(赤あ

生木こう ぎ

)で、サルの餌

場となっているカキの木の中から所有者の了

解が得られた 5本をカキもぎの対象とした。

○参加者は、市・JAの職員が約 10 名、地元の

町内会長、カキの木を提供した農家及び市民

ボランティア約 20 名(総勢約 30 名)。市民ボ

ランティアは家族での参加者が多く、約半数

が小中学生であった。

(2)具体的な作業

1)準備された物品(主催者が用意)

・実の採取: 竹バサミ、高枝切りバサミ、

剪定ばさみ、脚立

・枝の剪定: のこぎり、チェーンソー

図 2 カキもぎの実施手順

カキもぎ・剪定および集果作業

事前説明

(町内会長、市職員)

収穫したカキの利用方法の説明

(市職員)

参加者にカキを配布

広瀬川

0 200mN

カキもぎの実施箇所

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・集荷用具: カゴ(収穫したカキを入れる)、ビニール袋(収穫したカキを持ち帰るため)

・その他: 参加者に配るパンフ、飲み物など

2)カキもぎ作業の実際(図 2)

○何年も放置され樹高約 10 ~12 mのカキの木(5本、2カ所)を対象とした。

○作業前に地元町内会長と市職員から当該対策の意義や作業の仕方・注意点について説明がなさ

れた。

○カキもぎ作業は、竹バサミ、高枝切バサミを使い、地上もしくは脚立から届く範囲の果実を採

取した。これらの道具では届かない高さにある果実は、市の職員が木に登り、のこぎり、チェ

ーンソーを使って枝ごと伐採(剪定も兼ねる)し、果実を採取した。

○5本のカキの木のカキもぎ、枝の剪定及び集果作業は 30 名で約 2時間を要し、その結果、2,500

~3,000 個のカキが収穫された。

○作業終了後、収穫したカキの利用法(干しガキ、さわしガキ)を紹介したパンフレットを参加

者に配布するとともに、市職員から干ガキの作り方等についての説明が行われた。

カキもぎ作業の様子 カキもぎに利用した竹バサミ

剪定前のカキの木(樹高約 10m) 剪定後のカキの木

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4 対策実施による成果と問題点

○地域外のボランティアの参加は、カキもぎ体験を通じて、非農家の一般市民にも獣害の実態や

被害防止対策について理解を深めるよい機会となる。特に、小・中学生は、環境教育も兼ねる

ことが出来る。

○ボランティアの参加によって収穫作業の人手が確保され、さらに大量の収穫物(カキ)が有効

利用された。

5 今後の方針及び課題

○平成 19 年以降も市としては農家の理解と協力を得ながら、サル出没地域におけるカキもぎの

対象範囲や対象木を広げていく。

○仙台市としては、当該事業をきっかけに、将来的には市民ボランティアと集落(農家)が直接

連絡を取り合い、カキもぎ対策が実施されることを期待している。

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NO. 3-2-2 仙台市のモデル事業: サル用電気柵の設置

地 域 宮城県 仙台市青葉区 北子ほっこ

原ばら

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○

主な

対策 防護柵の設置 対策獣種

農家の形態 兼業農家(換金作物はイネとトウモロ

コシ、野菜は自家消費用) 主な被害作物 イネ、トウモロコシ、野菜

対策事業主体 仙台市

利用している事業

名等

防護柵(ネット型電気柵)の設置: 国の補助事業及び市モデル事業(設置費用は国

1/3、市 1/3 を補助)

1 地域の概況

(1)地域の概況

仙台市の北子原は、山形県との境となる奥羽山脈から約 10 km 離れた仙台市西部に位置し、周

囲を標高 500~800 mの山に囲まれており、農地は広瀬川と新川川の河岸段丘に限られ、川に沿

って細長く分布する。

当該地は中山間地域ではあるが、仙台市の中心地から自動車で約 30 分の近距離で、JR 仙山線

や国道 48 号線が地域の中心を通りぬけており、近くには温泉などの観光施設もある。そのため

人や自動車の往来は比較的多い。

(2)サルによる被害状況

当該地では、約 20 年前(昭和 60 年代)からサルが農地に出没するようになり、昭和 63 年に

はイネなどの農作物に被害が見られるようになった。被害はイネのほか、水田周辺のクリ、トウ

モロコシ、野菜に及んでいる。また、トウモロコシはほぼ全滅するほどの食害を受けたこともあ

る。

2 対策の概要

○平成 12 年、サル用電気柵(仙台市で初めてのサル用電気柵のモデル事業)の普及を図るため、

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市内でサルによる被害が最も多かった当該地の水田(約 80 a)に、サル用ネット型電気柵を

設置した。

○電気柵を設置した農家は、ロケット花火を使った追い払いも行っている。ただし、当該地では、

地域ぐるみの追い払い体制は取られていない。

3 具体的な取組内容

(1)サル用ネット型電気柵の設置

○サル用ネット型電気柵(写真下右)は、高さ 2.5 m、支柱(絶縁素材のポール)間の幅 3.5

~4 m、ネット最上部に通電性を確保する導線 1 本が張られ、ネット下部は、ペグで固定さ

れている(支柱間に 1本も

しくは 2本のペグ)。

○電気柵の設置作業は、業者

(電柵メーカー)が行い、

農家は作業の一部に参加

した。

○電気柵の管理作業は、全て

農家が行っている。主な作

業は、電気柵周辺の除草

(春~初夏に 2回、真夏に

1 回程度)、積雪期前のネ

ットの回収、春先のネット

の設置等が挙げられる。

(2)その他の対策

モデル事業地の周辺の農

地(主に畑地)では、農家の

自作のネット柵や市販の電気柵も設置されている。

サル用ネット型電気柵を設置した水田 サル用ネット型電気柵

広瀬川

0 200mN

電気柵(サル用ネット型)で囲われた水田

電気柵(電線型)で囲われた畑地

図 1 電気柵の設置箇所

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4 対策実施による成果と問題点

(1)成果

サル用ネット型電気柵を設置した水田では、対策後、イネに目立った被害はなく、現在までそ

の効果は継続している。

(2)問題点

○サル用ネット型電気柵を設置した水田の周辺(電気柵の外側)では、耕作放棄地が増えており、

それらの管理(草刈など)が全く行われていない。

○農家が自作の防護柵で囲った農地(主に自家消費用の野菜等を栽培)では、依然としてサルに

よる被害を食い止めることが出来ていない。

○農家によってはロケット花火を使った追い払いも行っているが、徹底した追い払いを行える体

制がないため、サルが追い払いに慣れてしまった。

5 今後の方針及び課題

○電気柵設置の補助など農家に対する財政的な支援はなされているが、農家への鳥獣害対策の技

術指導が十分に行われていない。そのため、農家が設置した電気柵や自作のネット柵は、柵の

構造(サルがくぐり抜けられる 10 cm 目合いのネットやサルが容易に登れる支柱を使用)や柵

周辺環境の整備(防護柵周囲にサルの侵入逃走経路となるものが多数残された状態等)に問題

があり、サルの侵入を許している。

○当該地では、約 3年前からイノシシが出没するようになり、サル用ネット型電気柵の下から侵

入されたことがある。平成 18 年時点では、イノシシによる目立った農作物被害は発生してい

ないが、今後はイノシシ対策も考えていく必要がある。

電線型電気柵で囲われた農地

(高さ 1.5m、電線の間隔は約 20cm)

※柵のすぐ脇にサルが登れる木の電柱が

あり、サルに侵入されやすい状態である

農家自作のネット柵

※柵の支柱に鉄パイプや竹ざおを使用し

ているため、サルに侵入されやすい

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NO. 4-1 西会津町のサル対策の取組

地 域 福島県 西会津町

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・猿害パトロール

・捕獲

・生息環境整備

対策獣種

農家の形態 専業・兼業農家が約 7割、自給的農家

が約 3割 主な被害作物 イネ、野菜、果樹

対策事業主体 町、地域集落

利用している事業

名等

・防護柵(猿落君、電気柵)の設置: 有害鳥獣被害対策事業(町単:設置費用の 1

/2を町が補助)

・猿害パトロール: 有害鳥獣被害対策事業(町単:経費の一部を町負担)

・生息地の復元: 里山林回復事業(県の森林環境税を財源とする)

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

西会津町は福島県の西北部に位置し、北及び西は新潟県に隣接する。町の面積 298.13 k ㎡の

約 86%は山林である。気候は日本海型に属し、夏は高温多湿だが朝晩は涼しい。冬季の平均降

雪期間は 128 日、平均最深積雪量が 142 cm の多雪地である。

西会津町は、奥川、新郷、野沢、尾野本、群岡の 5 地区 90 集落からなる。農家数は約 1,250

戸で、そのうち約 30%が自給的農家である(グラフと統計でみる農林水産業・

http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。伝統的に稲作中心(農業産出額の 8

割)の農業を行ってきたが、米価下落や生産調整などの影響で町の農業生産が低迷、現在、町で

は健康な土づくりによる「ミネラル野菜」作りを推進している。

(2)サルによる被害状況

福島県におけるサルの群れは主に県の北部~西部にかけて分布し、県全体で約 52 群確認され、

そのうち少なくとも 7群が西会津町とその周辺に生息する(平成 16・17 年の県の調査結果)。

西会津町とその周辺に生息するサルの群れ(7群)は、群れによって程度の差はあるが、いず

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れも農作物に被害を及ぼしている。西会津町のサルによる農作物被害金額は、平成 17 年に約 400

万円で、近年やや被害は増加傾向にある。また、サル以外にも西会津町では、ツキノワグマによ

る農作物被害が発生している。

2 対策の概要

○西会津町では、有効な防護柵を農家に紹介し設置費用の一部を補助するほか、住民による猿害

パトロールを支援(経費の一部を町負担)している。

○地域住民に対する広報活動や獣害対策の講習会を開催している。

○有害鳥獣捕獲を行っている。

3 具体的な取組内容

(1)防護柵の設置

サルの被害防止対策として、以前はもっぱら有害鳥獣捕獲に頼っていたが、7 年前(平成 12

年)、町職員が奈良県に視察へ行き、その後、防護柵として猿落えんらく

君くん

を農家に紹介・導入した。ま

た、電気柵も数年前から設置し始めた(防護柵の設置費用の 1/2を町が補助)。

(2)猿害パトロール

西会津町で最もサルによる被害が多い奥川地区では、農繁期となる 6 月~10 月の間、猿害パ

トロール(サルの追い払い、出没状況の把握等のため)を実施している。猿害パトロールは、農

家と地元猟友会員が共同で行い(月に 8~9日間)、その経費の一部は町が支払う。また、パトロ

ール隊は町に日報を提出する。

(3)地域住民に対する広報活動や講習会の開催

町の全戸に、サルやクマ被害防止対策に関するパンフレットを配布している。パンフレットで

は、「サルが簡単に食べ物を口にすることができない集落づくり」、「クマに人里を餌場として認

識させないためには」といった、集落環境の整備の重要性を中心に解説し、鳥獣害に対する住民

意識の向上を図っている。また、平成 17 年には、専門家を招いたサル被害防止対策の講習会を

開き、住民の意識改革を図った。

(4)捕獲

平成 17 年度は、西会津町全体で 24 頭のサルが有害鳥獣捕獲された。そのほとんどは奥川地区

で実施された。サルとクマの有害鳥獣捕獲に年間 200~300 万円が費やされている。

(5)里山林の整備

平成 18 年度以降、奥川地区出戸の山林約 4 ha を対象に、ナラ枯れの木の除去、下草刈り、広

葉樹の林床整備などを進めていく予定である。この事業費の財源としては、福島県の森林環境税

を活用する。

注)福島県の森林環境税: 森林環境税は、森林環境の保全等に関する施策の財源に充てる目的

で、平成 18 年 4 月から導入され、県内に住所、家屋敷等を有する個人(年額 1,000 円)及び

県内に事務所を有する法人(年額:法人県民税均等割額の 10%相当額)に課税される。

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4 対策実施による成果と問題点

(1)成果

サルに対する被害防止対策については、住民の意識改革が進み始めた。そのため、サルによる

被害歴が長く(10 年以上)、被害が最も多い奥川地区では、有害鳥獣捕獲の要請(申請)ととも

に、防護柵の設置や追い払いなど住民自らが対策に取り組む体制が出来つつある。

(2)問題点

ここ数年、サルの被害が発生し始めた地区では有害鳥獣捕獲の要請(申請)が多く、地域ぐる

みで被害防止対策に取り組む体制には至っていない。

5 今後の方針及び課題

○関係機関(県や農協など)との協力関係をさらに深め、被害防止対策の支援体制を整備してゆ

くこと(現在までは、町単独で行っている対策が多い)。

○行政と地域住民が連携して、里山林回復事業などにより、サルなど野生獣の生息環境の整備を

実施してゆくこと。

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NO. 4-2-1 地域ぐるみの総合的なサル対策-まとまりがよい例

地 域 福島県 西会津町 奥川地区 出戸いでと

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・追い払い

・集落環境整備

対策獣種

農家の形態 兼業農家もしくは自給的農家(主な換

金作物はイネ) 主な被害作物 野菜、果樹、シイタケ

対策事業主体 出戸集落

利用している事業

名等

・追い払い: 中山間地域等直接支払制度(交付金の一部を対策に活用)

・防護柵(猿落えんらく

君くん

など)の設置: 有害鳥獣被害対策事業(町単:資材費の 5 割(個

人で設置)か7割(共同で設置)を補助)

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

奥川地区出戸には、23 世帯、52 名が住み、その大半は 60 歳以上と高齢化が進んだ集落である

(平成 18 年)。農地は約 20 ha(1~2 ha/戸)、そのうち約 1/5(20 a/戸)は畑地である。出

戸は西会津町の中で最も山奥に位置し、西会津町で最初にサルによる農作物被害が発生した集落

である。

(2)サルによる被害状況

平成 2~3 年までは、西会津町にサルの群れは生息していなかったが(西隣となる新潟県側で

はサルの群れが確認されていた)、約 10 年前、出戸にサルが出没するようになった。当初、サル

はまだ珍しく、近隣の集落から見物に訪れる人がいたほどであった。しかし、サルの初出没から

2~3 年後(7~8年前)、最初は秋にカキが食害され、次に夏にカボチャに被害が出るようになり、

サルによる農作物被害が拡大していった。

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2 対策の概要

○集落の高齢化が進行する中で、長期的な視点をもった農業経営プランを立て、将来は集落営農

を目指している。猿害対策はそのプランの中に位置づけている。

○中山間地域等直接支払制度を活用し、猿害対策(追い払いのための見張り等)に取り組む。

○被害防止対策としては追い払いと防護柵の設置、サルの被害を受けにくい作物栽培、耕作放棄

地の草刈など集落環境整備を平行して実施している。

3 具体的な取組内容

(1)追い払い

○集落の高台にサルの見張り小屋を設置し、5月末~7 月を中心に交代で見張る。サルが農地に

出没した場合、笛を鳴らし集落にいる人全員で追い払いを行う。見張り当番は、2人 1 組(計

6班)で、集落(中山間地域等直接支払制度)から手当を出す。

○追い払いには、ロケット花火(集落で購入)を使用し、場合によっては山の奥くまでサルを追

っていく。

○2年前から県と町の事業で、当該集落周辺に分布するサルの群れに発信器を装着した。集落で

は町から受信器 1台を借り、サルの群れの接近を知るために活用している。

(2)防護柵

○当該集落では、町役場から紹介されたサル用の簡易防護柵である「猿落えんらく

君くん

」を使い、自家消費

用の野菜を栽培する畑を囲っている。猿落君で囲った畑もサルに侵入されることはあるが、電

気柵に比べて管理に手間がかからず有効に利用されている。なお、猿落君の設置以前に、電線

型電気柵を設置したが、十分に管理することが出来なかった(草刈などが十分に出来なった)。

○猿落君の整備費については、町単独事業を活用している(個人で設置する場合は 5割、共同で

設置する場合は 7割)。ただし、猿落君の維持費(破れたり、老朽化したネットの交換など)

については、個人負担となる。

(3)サルの被害を受けにくい作物栽培

加工販売業者からの委託を受けてトウガラシを栽培するほか(委託栽培)、平成 18 年よりJA

の指導によって、7 戸共同で 20 a の畑でニラの栽培を始めた。いずれの農地も防護柵を設置し

ていないが、サルによる被害は発生していない。

(4)その他の対策

○耕作放棄地の草刈り管理を集落共同で実施している。

○平成 17 年に有識者によるサル対策講習会を開催している(町主催)。

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出戸集落の様子 バスの待合所を兼ねた見張り小屋

(集落の高台にある)

畑を囲む猿落君 集落のニラ畑(サルによる被害を受けに

くい農作物として導入)

4 対策実施による成果

○この 10 年間、サルの個体数(出没頻度)に大きな変化はないが、地域ぐるみの継続した追い

払い対策などによって、当該集落に関しては、農作物被害は軽減された。

○長年にわたり見張りを続けた結果、サルの群れの動きが住民自身である程度予想がつくように

なった。また、サルに発信器を装着したことで、効率的に追い払いが出来るようになり、追い

払いの負担が減少した。

5 今後の方針及び課題

○平成 18 年度に、「里山林回復事業」を実施予定である。里山林回復事業では集落周辺の里山林

約 4 ha を対象として、広葉樹の林床整備、林地の下草刈り、ナラの枯れ木を伐採して炭にす

ることなどが予定されている。

○放任果樹(カキ)が多く、環境整備を行う人材が不足している。

○ダイコン、ニンジンなど冬季の貯蔵作物への被害に対して、有効な対処方法が普及していない。

○クマによる防護柵の破損に対して、有効な対策が立てられていない。

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放任されたカキの木に登ったサル クマに破られた猿落君のネット

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NO. 4-2-2 地域ぐるみの総合的なサル対策-まとまりに苦労している例

地 域 福島県 西会津町 奥川地区 小山こや ま

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・追い払い

・集落環境整備

対策獣種

農家の形態 兼業農家もしくは自給的農家(主な換

金作物はイネ) 主な被害作物 イネ、野菜、果樹、ソバ

対策事業主体 小山集落

利用している事業

名等

・防護柵(猿落えんらく

君くん

など)の設置: 有害鳥獣被害対策事業(町単:資材費の 5 割(個

人で設置)か7割(共同で設置)を補助)

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

奥川地区小山は西会津町の北部に位置し 17 戸からなる集落である。畑地の面積は、15 a/戸

程度で、ほとんどの農家は自家消費用の野菜の栽培が中心で、主な農作物としてイネ、インゲン

等が栽培されている。昭和 55 年から約 20 年間、集落共有地の山林 100 ha のうち約 8割が伐採

(チップの原料として売却)されたため、現在、集落の後背山地はかなり荒れた状態にある。

(2)サルによる被害状況

出戸へのサル出没から 1~2 年後に、当該集落でもサルの農作物被害が発生し始めた。

サルは、春先にネギ、ニンニクの芽、次にジャガイモを食害し(種イモが被害にあうこともあ

る)、最近ではイネにも被害が出るようになり、人を見ても逃げず、逆に人を威嚇するサルも現

われてきた。一方、サトイモ、トウガラシ、ダイコンのほか、キャベツ、白菜など葉もの野菜は

被害が少ない。

集落住民は、サルによる被害の減少を目指しているが、自家用野菜の栽培が主であるため、防

止対策に費用をかけることは出来ない状況にある。

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2 対策の概要

○西会津町の対策事業として、小山を含む奥川地区では猿害パトロールを実施している。

○地域住民が個々で防護柵の設置、追い払い、放任果樹の管理などを実施している。

3 具体的な取組内容

(1)防護柵

集落の一部の農地では、猿落君や電気柵(電線型)で農地を囲っている(柵の設置費用の 5

割~7割は町単独事業を活用)。また、3年前(平成 15 年)に共同(7戸)でネット柵を購入し、

農地(野菜を栽培)を囲った事例もある。

(2)放任果樹の管理

所有者によっては、サルなどに食害されやすいカキ、クリ、クワ、スモモなどの放任果樹の伐

採やカキの早期収穫を実施している。

(3)その他の対策

○爆竹、ロケット花火、パチンコなどを個人で購入し、サルの追い払いに取り組んでいる。また、

1軒の農家では、柴犬を自宅の庭に放し、庭先に来るサルの追い払いに活用している(この犬

は特に訓練はしていない。現在、本格的な訓練の方法について町役場と相談中)。

○町役場や奥川地区の区長が中心となって、仙台市のサル被害防止対策(電波発信器を装着した

サルの追い払い事例)の現地視察を行った。

4 対策実施による成果と問題点

(1)成果

電気柵やネット柵で囲った農地では、サルによる被害は概ね防止されている。

(2)問題点

○当該集落でサルによる被害が目立ち始めた頃(4~5 年前)、サルが 50~60 頭の群れで畑に出

没したため、その出没を察知することが容易であった。しかし最近は、4~5 頭(少ない時は 2

~3頭)で出没するため、サルの気配を察知できず、追い払いも出来ないことがある。

○追い払い方によっては、サルの群れを近隣の集落に追いやる結果となり、集落間の関係が悪化

してしまうことがある。

5 今後の方針及び課題

○被害防止対策に関して集落住民の意識を統一するために、今後はさらに集落内での意見交換

を行っていくことが必要である。

○被害の大きい畑(山林に近い)の所有者と、被害の少ない畑(集落の中心地)の所有者とのサ

ルに対する意識や被害防止対策についての姿勢に温度差が出ているため、両者の意識の違いを

埋めていく取り組みが必要である。

○奥川地区全体で狩猟者の減少と高齢化が進み、平成 18 年現在、当該地区の狩猟者は 13 名で、

一番の若手でも 50 歳代である。狩猟者の育成も課題である。

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36

6 その他

○平成 18 年はクマによる農作物被害が多発した。

○カモシカは、昔に比べて目にする機会が増えたが、カモシカによる農作物被害は発生していな

い。

サルを追い払うために自宅の庭に放した

柴犬(庭は柵で囲われている)

パチンコを使った追い払い

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NO. 5-1 桐生市が中心となった官民学の協働で進めるイノシシ被害防止対策

地 域 群馬県 桐生市

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○

主な

対策 捕獲 対策獣種

農家の形態 主に兼業農家(約 5割)と自給的農家

(約 4割) 主な被害作物

イネ

※農作物被害以外に道路のり

面、空き地、ゴルフ場グリー

ンなどの掘り返し有

対策事業主体 桐生市

利用している事業

名等 有害鳥獣捕獲: 有害鳥獣捕獲事業補助事業(県が 1/2の補助)

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

桐生市は、群馬県の東部に位置し、赤城山、日光連山に囲まれ、市の中央部を渡良瀬川、東部

を桐生川が流れる。

桐生市の農家数は 1,731 戸、そのうち専業農家 290 戸、兼業農家 840 戸、自給的農家 660 戸で

ある(グラフと統計でみる農林水産業・http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

耕地面積 1,780 ha の約 70%に当たる 1,250 ha が畑である。作付面積は、イネ 314 ha、青刈り

トウモロコシ(飼料作物)151 ha、牧草 66 ha の割合が高く、果樹ではクリ、ウメ、カキの栽培

が盛んである。

(2)イノシシによる被害状況

約 20 年前(昭和 61 年頃)に市中央部の山間に位置する金沢地区で、最初のイノシシによる被

害が発生した。その後 10 年ほど前(平成 8 年頃)から目立ってイノシシ捕獲数が増え始め、6

年前(平成 12 年)には約 300 頭が有害鳥獣捕獲(以下、捕獲という)された。

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2 対策の概要

桐生市では、林業振興課が中心となり、社団法人桐生猟友会や大学(日本獣医生命科学大

学)と連携・協働し、イノシシの有害鳥獣捕獲を中心とした被害防止対策を進めている。

3 具体的な取組内容

(1)市を中心とした取組体制(図 1)

○平成 10 年から桐生市では、(社)桐生猟友会と協働して7チームから成る有害鳥獣捕獲隊を編

成し(市内を 7地区に分け、地区ごとに捕獲隊を編成)、捕獲隊が各地区のイノシシの捕獲事

業を担当する形で捕獲事業を進めている。

○このほか、日本獣医生命科学大学の協力を得て、捕獲個体の外部計測、解剖(性別、妊娠の有

無など)を行い、市はそれらの情報を収集している。

図 1 桐生市におけるイノシシ被害防止対策の取組体制の概要

桐生市

(有害鳥獣捕獲事業)

有害鳥獣捕獲隊

(社団法人 桐生猟友

会内部にて編成)

県自然保護課被害地の被害防止対策

日獣大

捕獲事業実施

市の依頼に基づく

群馬県鳥獣保護事業計画に基づき

有害鳥獣捕獲隊を編成 情報提供

情報提供

調査協力

調査研究

県補助事業支援

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(2)イノシシの捕獲と使用する捕獲おりの特徴

○桐生市では保有する約 73 台の捕獲おり(大型 3台、小型 70 台)を、有害鳥獣捕獲隊の協力(年

間 50 万円を活動補助金として地元猟友会に支払う)で市内各所に設置している。利用する捕獲

おりは、地元猟友会が考案して作成したものである。

○当初、捕獲おりには、ヌカに塩を混ぜた餌を使用していた。しかし最近では塩によっておりが

腐食しやすくなる反面、塩なしでもイノシシの捕獲状況が変らないことが判明したため、現在

は、塩なしの餌を使っている。

〇イノシシの捕獲数は平成 12 年(79 頭捕獲)に一旦減少したが、平成 13 年及び平成 14 年には

280 頭前後まで増加した。平成 15 年~平成 17 年には 200 頭以下で推移し、減少傾向にあった

が、平成 18 年度には再び 585 頭(平成 19 年 3 月現在)が捕獲された(図 2)。

54 53

284

79

281 271

190157

132

585

0

100

200

300

400

500

600

700

H9年 H10年 H11年 H12年 H13年 H14年 H15年 H16年 H17年 H18年

年度

図 2 桐生市におけるイノシシの捕獲数の推移

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表 1 桐生市で使用している捕獲おりの特徴

檻の種類 特徴

大型捕獲おり

(3 台)

・広さ 5 m2、高さ約 2 mの金属製。

・制作費は 1台約 20 万円。

・檻の中に餌箱を設置し、餌箱と檻入口がワイヤーでつながれ、イノシシが餌箱の

餌を食べると扉が閉まる仕組みである。

・捕獲されたイノシシがおり内で暴れないように、おり内には間伐材を用いた高さ

50 cm 程の杭がランダムに打ち込まれている。

・おりは重量があるため移動は困難。

小型捕獲おり

(約 70 台)

・幅 1 m、長さ 2 m、高さ 1 mの金属製(ワイヤーメッシュと鉄板を利用)。

・制作費は 1台 8万 5,000 円。

・仕掛けは踏み板式、重量は約 80 kg で、軽トラックで運ぶことが出来る。

・耐用年数は 10 年未満(金属の腐食、イノシシよる破壊などが原因)

大型捕獲おり 小型捕獲おり

(3)その他

桐生市中央部の山間に位置する金沢地区ではトタン板、金網柵、一部電気柵が設置されている。

いずれも個々の農家単位で農地を囲っている状況で、地域ぐるみの取組体制には至っていない。

山間の耕地に設置された金網柵 個人で設置した電気柵(3段張り)

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4 対策実施における成果と問題点

(1)成果

○地域住民へ被害防止対策の指導によって、農地周辺でのイノシシの餌場環境が減少し、その結

果、イノシシが捕獲おりの餌に誘引されやすい状況となり、捕獲数の増加につながったと思わ

れる。

○有害鳥獣捕獲隊が、地域に密着して捕獲(見回りを含む)を進めたことによって、地域住民と

の繋がりが深くなった。そのため、捕獲隊のメンバーが農家に直接、集落環境の整備(野菜く

ずの放置の中止など)などについてもアドバイスする機会が増えた。

○桐生市が中心となり 7チームの有害鳥獣捕獲隊を編成したことで、各チーム間で捕獲に関する

技術交流が図られるようになった。チーム編成以前は、各狩猟者の長年の経験や技術が他の狩

猟者に伝わる機会が少なかった。

(2)問題点

○桐生市では小型捕獲おりを約 70 台保有しているが、市町村合併によって市域が広がったこと

により、現在(平成 18 年)捕獲おりが足りない状況である。

○イノシシが住宅地まで出没するようになり、住宅地周辺でも捕獲おりの設置をせざる得ない地

域がある。

5 今後の方針及び課題

○被害防止対策について町内会などでの話し合いをもち、被害防止対策に関してさらに住民の理

解を進める必要がある(被害住民と被害のない住民との間の温度差の解消等が課題)。

○桐生市では、住民からの獣害に関する電話相談を受け付けている。今後、住民に適切な情報を

提供するためには、被害防止対策に関する知識を有した職員の育成が課題である。

○イノシシの生息地となる山林等が隣接する市町との協力体制を作り、被害防止対策(特に捕獲

について)を進める必要である。

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NO. 6-1-1 隣接集落の先例に学び被害防止対策の初動を早めた事例

地 域 滋賀県 近江八幡市 南津田町

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○

主な

対策 防護柵の設置 対策獣種

農家の形態 主に兼業農家による集落営農 主な被害作物 イネ、ムギ、ダイズ

対策事業主体 南津田町農事改良組合

利用している事業

名等 防護柵の設置・有害鳥獣捕獲: 市町振興総合補助事業(県単)

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

南津田町は、県下一の水田面積を誇る近江米の産地である近江八幡市の北西部にあたり、八幡

山の西側に位置する。

(2)イノシシによる被害状況

イノシシは平成 10 年頃まで当該地周辺には生息していなかったと考えられるが、平成 16 年に

初めて生息が確認され、平成 17 年に南津田町の水田でイネの被害が多く発生した。これらのイ

ノシシは隣接している奥島山から移動、侵入したのではないかと考えられる。

奥島山一帯では、平成 9年~18 年(8年間)にかけて約 400 頭が有害鳥獣捕獲されているが、

農作物被害を大きく減らすには至っていない。なお、奥島山一帯は鳥獣保護区に指定されている。

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2 対策の概要

○集落からの要望により、県普及指

導センターが具体的な被害防止対

策を指導する体制を取った。

○当該町では、イノシシによる被害

に対する住民の理解が早く、被害

発生後、わずか 1 年で地域が共同

して防護柵を設置した。

3 具体的な取組内容

○イノシシの生息地に接する山裾の

水田沿いに延長 500 mのワイヤ

ーメッシュ柵(高さ 1 m×幅 2 m、

鉄筋の径 6 mm、10×10 cm 格子)

を設置した。市道部分はワイヤーメッシュで塞ぐことができないため、市道の路肩に沿って柵

を折り返すように設置した(折り返し区間は約 10 m)。

○ワイヤーメッシュを支える支柱は集落の鉄工所の廃材(異型鉄柱)を利用することで柵の材料

費を削減した。また、柵の設置は、普及指導員の指導のもとで、地域住民で行った(500 mの

設置作業に、約 20 人で約 3時間を要した)。

○ワイヤーメッシュを水路より圃場側に

設置することで、水路が濠の役割も果

たし、イノシシに対する有効な障壁と

なった(図 2)。ただし、設置した防護

柵が畦畔の草刈の支障となる場合は、

水路より山側に設置せざるを得ない。

図 1 イノシシの分布拡大と南津田町の防護柵(ワイヤーメッ

シュ)設置箇所

図 2 ワイヤーメッシュ設置位置の断面模式図

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ワイヤーメッシュ柵

(水路の圃場側に柵を設置)

市道とワイヤーメッシュ柵が交差する箇所

(市道の路肩に沿って柵を折り返すように設置)

4 対策実施における成果と問題点

(1)成果

○南津田町に隣接する島町しまちょう

、白しら

王おう

町ちょう

では、地域ぐるみで鳥獣害対策に取り組み、被害を減らす

といった成功事例があった。そのため南津田町の住民も、地域ぐるみの取り組みの重要性に対

して理解が早く、被害発生から地域ぐるみの対策の実行まで 1年という短期間で実現された。

被害初期の対策が重要である。

○ワイヤーメッシュ柵の設置作業を集落の住民自らの手で行ったことで、工事費の削減効果とと

もに、集落の結束が高まり、柵の維持管理を自主的に行う効果が出ている。

(2)問題点

ワイヤーメッシュ柵が設置された水田では、イノシシによる被害が全くなくなった。ただし、

隣接する防護柵の未設置区間からイノシシに侵入されることはあった。

5 今後の方針及び課題

隣接するワイヤーメッシュ柵の未整備区間(約 500 m)にも同様の柵を設置し(平成 19 年に

設置予定)、地域全体でイノシシがより侵入しにくい環境を作り上げる予定である。

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NO. 6-1-2 個別から地域全体の取組に進展し成果を上げた事例

地 域 滋賀県 近江八幡市 島 町しまちょう

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・緩衝地帯の設置、放

牧ゾーニング

対策獣種

農家の形態 兼業農家による集落営農、専業農家、

自給的農家 主な被害作物 イネ、ムギ、ダイズ、野菜

対策事業主体 島町農事改良組合

利用している事業

名等

・防護柵の設置、有害鳥獣捕獲:市町村振興総合補助事業(県単)

・緬羊放牧による緩衝地帯の設置:H16~18 年農林水産研究高度化事業、H19 年圏域

事業「獣害のない元気な里づくり推進事業」

1 地域の概況

島町は長命寺山(奥島山)の南側に位置する集落である。奥島山では、平成 3年頃からイノシ

シが見られるようになり、平成 6年に初めてノシシによる農作物被害が発生し、平成 14 年には

農作物被害が激増した。奥島山は鳥獣保護区となっているため狩猟が禁止されているが、平成 9

年から被害軽減に向けて有害鳥獣捕獲を始め、平成 18 年までに約 400 頭のイノシシが捕獲され

た。

2 対策の概要

〇島町では、イノシシによる被害激増後の平成 15 年から普及指導員の技術指導や獣害対策研修

会を数回開き、トタン板、ネット、ワイヤーメッシュ等を用いた防護柵を設置した。

○雑木林を伐採し、山際の耕作放棄地などを囲み、緬羊放牧による緩衝地帯づくりを行った。

〇これらの被害防止対策と平行して、イノシシに GPS などの発信器を装着し、対策前後のイノシ

シの行動域を追跡し、その変化を把握した。

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3 具体的な取組内容

平成 15 年より、県普及指導センターを中心に市、県立大学、狩猟者団体などが連携し、農家

等の集落全体をまとめて対策を講じる体制を整備し、以下のような対策を進めた。

(1)獣害対策研修会の開催

地域の農家や住民を対象に平成 15 年に 3回、平成 16 年に 4回、島町公民会などで獣害対策研

修会を開催し、延べ 128 名が参加した。これらの研修会の開催により住民に地域ぐるみでの総合

的な対策の重要性について理解を深めた。

(2)防護柵の設置

○平成 15 年、普及指導員の指導のもと、農地周辺にトタン板(1,500 m)、古漁網(1,000 m)

の防護柵を設置した。

○平成 16 年、ワイヤーメッシュ(500 m)、猪ドメネット(100 m)、古漁網(2,000 m)を用

いた防護柵を設置した。なお、猪ドメネットとは、イノシシなどに噛み切られにくい特殊繊維

で作られたネットである。

○平成 17 年には、さらにワイヤーメッシュ柵(2,000 m)の設置拡大を行った。

(3)雑木林の伐採管理と放牧による緩衝地帯づくり

平成 16 年、林縁部の雑木林を伐採し、翌平成 17 年、伐採範囲を拡大し、その跡地を柵で囲い、

緬羊による放牧緩衝地帯を設けた(緬羊は県畜産技術振興センターから貸し出された)。平成 18

年には、放牧地をさらに約 2倍に拡大した。平成 19 年には圏域事業(県単)も組み込んで緩衝

地帯を拡大し、緬羊はリースから地元で買い上げて飼育を予定している。

(4)イノシシの追跡調査

平成 15 年、イノシシの行動の変化を把握し、今後の対策に活用を図るため、地元猟友会の協

力のもとイノシシ 3頭を捕獲し、GPS などの発信器をつけて行動域調査を開始した。

竹林の伐採作業 伐採後にできた緩衝地帯

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47

雑木林の一部を伐採して設けた緬羊の放牧区

(緩衝地帯)

緬羊 3頭を放牧

注:上図は「これならできるサル・イノシシ対策、寺本憲之、技術と普及、第 42 巻第 6 号、2005 年 6

月号」を基に作図。

図 1 近江八幡市島学区におけるイノシシ総合対策プロジェクトの体制

コーディネーター

県普及指導センター

スペシャリスト

・滋賀県農業試験場湖北分場

・滋賀県立大学

アドバイザー

・近江八幡市役所

・滋賀県猟友会

集落

・島町農事改良組合

・島町自治会

集落

・白王町農事改良組合

・白王町自治会

集落

・その他農事改良組合

・その他自治会等

県行政機関

東近江地域農業振興課

連携 連携

技術指導

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4 対策実施における成果

島町では当初、農家個々が被害防止対策を行っていたが、普及指導員の指導のもとで、集落内

の農業事業改良組合、さらには非農家を含む自治会全体へと対策の取り組みを広げ、総合的な被

害防止対策を取り入れることで、被害を大幅に軽減することが出来た。地域ぐるみ(自治会レベ

ル)で被害防止対策に取り組みことの重要性を示唆する事例である。

5 今後の方針及び課題

○今後は、まだ被害が発生している周辺地域に総合的な対策を広げてゆくこと。

○雑木林伐採後の跡地利用(山菜栽培、グランドゴルフ場、山羊などの放牧など)を促進し、人

が頻繁に立ち入る里山環境を維持すること。

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NO. 6-1-3 NPO法人等の参加による被害防止対策(普及段階の放牧ゾーニング)

地 域 滋賀県 近江八幡市 白しら

王おう

町ちょう

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・集落環境整備

・緩衝地帯の設置、放

牧ゾーニング

対策獣種

農家の形態 兼業農家による集落営農、自給的農家 主な被害作物 イネ、ムギ、ダイズ、野菜

対策事業主体 白王町自治会、白王町農事改良組合、白王町営農組合

利用している事業

名等

・イノシシフェンスの設置、有害鳥獣捕獲: 市町振興総合補助事業(県単)

・ワイヤーメッシュの設置・緩衝地帯の設置: 農林水産研究高度化事業(国)

・緩衝地帯の設置・放牧ゾーニング: 緑の募金事業

1 地域の概況

白王町は、近江八幡市の島学区に含まれる(島町、白王町、円山町、中之庄町、北津田町)。

島学区では、平成 3年頃からイノシシによる農作物被害が目立ち始め、平成 15 年頃には、さら

に被害が増加した。

白王町でも被害防止に向けた取り組みは、個々の農家が自己流で取り組んでいたが、地域全体

としては問題を解決するには至っていなかった。

2 対策の概要

○平成 15 年、白王町ではイノシシによる農作物被害が増え、イノシシ対策研修会を実施した。

○平成 16 年から普及指導員が鳥獣害対策の指導に入り、平成 17 年には、防護柵の設置、グラン

ドカバープランツ(地面を覆うことによって雑草の発生をおさえ、草刈りをする手間をはぶく

こ植物)の植栽、マルチングによる林縁部の草地管理、野菜クズの放棄を徹底してなくす等の

対策を実施した。

○平成 18 年から、里山管理による緩衝地帯づくりと繁殖和牛の放牧が新たに開始された。

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50

3 具体的な取組内容

(1)防護柵の設置と集落環境の整備

平成 17 年からワイヤーメッシュなどの防護柵の設置と同時に、グランドカバープランツの植

栽やマルチングによって林縁部の草地管理を行ってイノシシの隠れ家をなくし、さらに、集落内

で野菜クズの放棄を徹底してなくすなどの総合的な対策を実施した。

防護柵の設置作業 林縁部にシートを張りマルチングして

雑草の生育を抑制

(2)里山再生プロジェクト

〇平成 18 年より、白王町自治会と営農組合、NPO法人「おうみ木質バイオマス利用研究会」、

ボランティア及び行政関係機関の協力のもとで、農地沿いの山林を伐採、間伐し、耕作放棄地

を含む区域に、畜産農家の繁殖和牛 2頭を放牧した。イノシシの被害軽減、景観づくりやNP

O法人による間伐材の有効利用、畜産農家のコスト軽減などの効果を目指している。

〇ササの刈り取り、雑木林の間伐作業には月 1回、白王町住民に加え地域外のNPO法人やボラ

ンティア 30 名ほどが参加し実施した。また、伐採木はNPO法人で木質バイオマスとして利

用されている。

白王町の対策会議 緩衝地帯の設置作業

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51

緩衝地帯の管理作業 緩衝地帯に放牧された畜産農家の繁殖和牛

4 対策実施における成果

○白王町も当初は、個々の農家で自己流の被害防止対策を行っていたため鳥獣害を十分に防ぐこ

とが出来なかった。しかし、対策研修会で住民自らの被害防止対策への理解と共通認識を深め、

地域ぐるみで防護柵を設置し、集落環境整備や山林と農地の間に緩衝地帯を設けるなど総合的

な獣害対策に取り組んだ結果、被害を軽減することが出来た。

○また、白王町は滋賀県内で初めての牛の放牧による緩衝地帯づくりが、試験段階(県畜産技術

振興センターの牛による放牧)から普及段階(畜産農家の牛による放牧)へ進んだ事例でもあ

る。

5 今後の方針及び課題

今後、家畜放牧による緩衝地帯づくりを普及させるためには、放牧する牛などの家畜を貸し出

す畜産農家の理解を得ることが必要になる。現時点では林内放牧に対して、畜産農家は放牧中の

牛の事故などを心配する傾向が強い。したがって、放牧中の安全管理や畜産農家にとっての放牧

の利点(餌代の削減、牛の健康促進など)などを理解してもらうことが課題である。

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52

NO. 6-2-1 サーカステント(おうみ...

猿落えんらく

・猪しし

ドメ君)で囲う畑地

地 域 滋賀県 大津市 栗原

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・集落環境整備

・追い払い

対策獣種

農家の形態 兼業農家、自給的農家 主な被害作物 野菜

対策事業主体 栗原地区

利用している事業

名等

・防護柵の設置: 農業試験研究事業(県単)

・有害鳥獣捕獲: 市町村振興総合補助事業(県単)

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

大津市は滋賀県南部に位置し、市域は琵琶湖の南西岸から南岸にかけて南北に細長く広がる。

市の農家数は 4,132 戸、そのうち専業農家 174 戸、兼業農家 2,528 戸、自給的農家 1,430 戸であ

る。耕地面積は 2,560 ha、水田が 2,430 ha を占める(グラフと統計でみる農林水産業・

http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

大津市栗原の調査対象地は、湖西道路に面した約 1 ha の畑で、ゴボウの他、サトイモ、ダイ

コン、タマネギ、ナス、トマトなど野菜が栽培されている。

(2)イノシシとサルによる被害状況

栗原地区は、三方を山林に囲まれた集落で、ゴボウの産地であった。しかし、サルとイノシシ

による獣害被害が拡大したため、ゴボウの生産が難しくなっていた。

Page 62: 地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - …...地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - 平成19年3月 農林水産省生産局 i

53

2 対策の概要

ゴボウの産地としての復活をめざすため、平成 15 年、約1ha の農地(畑地)に県内最大級の

おうみ...

猿落えんらく

・猪しし

ドメ君(通称:サーカステント)を設置した。「おうみ...

猿落・猪ドメ君」は、滋

賀県農業技術振興センターが開発した簡易防護柵である。

3 具体的な取組内容

当該地では、おうみ...

猿落・猪ドメ君の設置によって、イノシシやサルの侵入を防止し、防護柵

の具体的効果を実感してもらうことで農家の意識を喚起し、本格的取り組み(追い払い、農地周

辺の改善)に結びつけようと推進している。

○おうみ...

猿落・猪しし

ドメ君を使い、1 ha の農地(周囲約 500 m)を囲った。

○設置作業は、県農業試験場職員が設置作業の技術指導を行い、地域の農家 30~50 戸が共同で

作業を行った。

○支柱にはビニールハウスの廃パイプを使い、経済性を高めている。

○防護柵の設置に加えて、花火による追い払いも行った。また、対象農地の南西の樹林・

竹林は、サルの侵入を防ぐため、低く刈り込まれている(図 1)。

※サーカステントの資材一式は、平成 16 年度から県内のJAにて一式で市販されるようになり、

設置マニュアルビデオも製作

されている。

湖西道路

樹林

樹林

対象農地

おうみ猿落君・猪ドメ君

集落

農家自作の猿落君イノシシの主な侵入経路

竹林や樹林の一部を伐採

出入口

・・・

図 1 対象農地周辺の概況模式

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54

サーカステントの全景 猿落君の下部に猪ドメ君を設置し

イノシシの侵入を防ぐ

注)上図は寺本憲之、山中成元:滋賀県農業総合センター農業試験場研究報告、平成 17 年 3月より引用)

図 2 サーカステント側面図

Page 64: 地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - …...地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - 平成19年3月 農林水産省生産局 i

55

図 3 サーカステント側断面図 (出典は図 2と同じ)

4 対策実施における成果と問題点

(1)成果

サーカステントの設置後、入口などから 2、3回の侵入は見られたが、3、4カ月後にはサルの

群れは来なくなり、イノシシによる被害もなくなった。設置後 4年を経た平成 18 年時点では、

柵の管理の不備やネットの老朽化に伴い、サルの接近やイノシシによるネットの噛み切りも見ら

れるようなったが、概ね野生獣の侵入を防止出来ている。

(2)問題点

○農家は、柵内で柵のひさしを支えるパイプの一部を農作業中に抜き、柵外周に挿したまま、パ

イプを本来の位置に戻してい

ないことがある(図 4)。この

パイプは、「おうみ...

猿落君」の

特徴であるひさしを支える構

造上重要な支柱であり、柵外周

に挿した状態では、サルの侵入

を許す原因となる。

○サーカステントの設置よって、

当該地では一定期間(約 4 年

間)、サルやイノシシによる大

きな被害が出なかった。そのた

め、対策施設の維持管理(破れ

柵内でひさしを支えるパイプが農作業時に外され、

柵外周に挿されたままの場合がある。

ひさし

図ア 正しい設置状態 図イ 間違った設置状態

図 4 農作業に伴い発生しがちな柵管理上の問題点

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56

たネットの交換、出入り口の隙間の補修など)に関して、農家に油断が生じている可能性があ

る。

5 今後の方針及び課題

○サーカステントの構造や機能について、農家の理解をさらに進める必要がある。

○防護柵の資材は次第に劣化し、交換や補修が必要となる。その一方で、防護柵によって被害が

抑えられているため、農家には油断が生じやすい。そのため、対策について助言すべき普及指

導員は、維持管理の重要性を今以上に農家に対して伝えていく必要がある。現在、サーカステ

ントの更新について検討している。

○サーカステント周辺の農地では、自己流で作られた防護柵(ネット)も設置されているが、十

分にイノシシやサルを防ぐ構造になっていない。このような農家に対しても、今後、技術的指

導を行ってゆく必要がある。

柵の出入口の隙間を補修

(柵の可動部は隙間が出来やすい)

悪いネットの張り方:横方向に強く張られている

(強く張られたネットは、むしろサルにとって登り

やすくなる)

農家が自作したサル侵入防止網

(サルは竹の支柱を伝って容易に侵入可能)

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NO. 6-2-2 防護柵の設置と農作物の残さ処理の徹底

地 域 滋賀県 竜王町 薬師くずし

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・農地周辺の環境整備対策獣種

農家の形態 希望が丘観光ブドウ園 主な被害作物 果樹(ブドウ)

対策事業主体 農業組合(観光ブドウ園を所有する 3戸の農家)

利用している事業

名等 ・防護柵の設置、有害鳥獣捕獲: 市町振興総合補助事業(県単)

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

竜王町は滋賀県の中央部に位置し、西側の鏡山と東側の雪野山に挟まれた平地部を、日野川と

その支流である善光寺川、祖父川、惣四郎川が貫流する。また町南部の大字山之上付近では隣接

する東近江市、甲賀市、湖南市とまたがる形で丘陵地が形成されている。

竜王町は、農業(イネ、野菜、果樹などの栽培)と畜産(近江牛、鶏など)を基幹産業として

発展してきた町である。

(2)イノシシによる被害状況

薬師の観光ブドウ園では、平成 14 年からイノシシによるブドウ被害が激増した。平成 15 年頃

から観光ブドウ園を営む農家 3戸は、イノシシによるブドウ園への被害を抑えるために、廃棄す

るブドウの皮などのブドウくずを隣接する裏山や河原に捨て、ブドウ園内へのイノシシの侵入を

防ごうと試みた。しかし、この行為が結果的にはイノシシの餌付けとなり、その後、さまざまな

防護柵(廃パレット、トタン板、金網)でブドウ園を囲ったが、柵を毎晩突破され、ブドウの被

害を食い止めることが出来なかった。

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2 対策の概要

平成 15 年から普及指導員によるイノシシ対策研修会を開き、イノシシの生態や効果的なイノ

シシ対策について農家の理解を進め、主に次の 3つの対策を実施した。

○ブドウくずをブドウ園の隣接地(裏山や河原)に廃棄しないようにした。

○イノシシに効果的な防護柵(電気柵、イノシシ用ネットなど)を設置した。

○園内に緬羊を放牧した。

3 具体的な取組内容

(1)ブドウ廃棄の中止

○県の調査により捕獲したイノシ

シの胃内容物を分析し、イノシ

シがブドウの季節には、ほとん

どブドウのみを餌としているこ

とがわかった。また、昼間はブ

ドウ園の背後のアカマツ林で休

息し、夜間にブドウ園に侵入す

るといったイノシシの行動パタ

ーンも把握した。

○これらの分析や調査結果を基

に、ブドウくずの適正な処理(餌場価値の低下)の重要性を農家に理解してもらい、実行し

た。

(2)防護柵の設置

○ブドウ園全体を金網(川側の約 510 m)、電気柵、イノシシ用ネット(主にイノシシの侵入が

多かった山林側の約 200 m)等で囲んだ。その際、農家が既に設置していた廃パレット柵な

どを活用し、それらを補強するように設置した。

○草刈などの管理が十分に出来る箇所は電気柵を用いた。その際、電気柵の設置箇所が舗装路に

近接した箇所では、舗装路上にトタン板(通電性を高めるため)を敷くなどの工夫も指導した。

(3)捕獲

上記の被害防止対策と併行して有害鳥獣捕獲を実施し、平成 15 年に 3頭、平成 16 年に 6頭の

イノシシを捕獲した。

4 対策実施における成果と問題点

(1)成果

対策実施後 3年を経た平成 18 年まで、ブドウくずの適正な処理と効果的な防護柵の設置によ

って、イノシシによるブドウ被害は発生しなかった(平成 15 年の被害金額 167 万円 → 対策

後の平成 16 年の被害金額 0円。その後、平成 18 年まで目立った被害なし)。

図 1 イノシシの分布概要とブドウ園の防護柵

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(2)問題点

3 戸あった観光ブドウ園のうち家庭の事情で 2戸が廃業し、その一部のブドウ園が荒廃してお

り、再びイノシシを近づける可能性がある。

5 今後の方針及び課題

○ブドウ園の東側の山林では、近年サルやシカが出没するようになった。そのため、今後は当該

ブドウ園でも、イノシシ対策だけでなく、サルやシカ対策が必要となる可能性がある。

○当該事例では、被害にあった 3戸の農家のうちの 1戸がリーダーシップをとり対策に取り組ん

だことが、対策が成功した要因のひとつと考えられる。このような対策実施の上で、地域や農

家のリーダーとなれる人材を常に確保・育成することも重要である。

ブドウ園のイノシシによる被害 イノシシに突破されたトタン板(農家の自作)

廃パレットと金網を使った農家自作防護柵

(これらの防護柵では、イノシシの侵入を防ぐこ

とは出来なかった)

■被害発生~農家自作の防護柵設置

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60

普及指導員による農家への指導の様子 農家自作の柵(トタンと木製パレット)生かし、

より侵入防止効果の高いイノシシ用ネットを張る

ブドウ園内に放牧された緬羊

■普及指導員による技術指導~効果的な対策手法の導入

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NO. 6-2-3 恒久柵と新型サル用電気柵を使った地域ぐるみの対策

地 域 滋賀県 日野町 中之郷

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・集落環境整備

・追い払い

対策獣種

農家の形態 兼業農家、自給的農家 主な被害作物 イネ、野菜

対策事業主体 中之郷獣害対策委員会、中之郷猿害対策委員会

利用している事業

名等

・シカフェンスの設置、有害鳥獣捕獲: 市町振興総合補助事業(県単)

・サーカステントの設置: 日野町獣害対策モデル事業(町単)

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

日野町は、滋賀県の南東部、鈴鹿山系の西麓に位置し、東西 14.5 km、南北 12.3 km、総面積

117.63 km2で、東に綿向山を望み、弥生時代には稲作も始められていた記録がある歴史のある町

である。

日野町の耕地面積 2,170 ha のうち約 89%は水田である。イネ以外は、コムギ、ダイズ、牧草、

茶などの作付けが多い。また、日野町中之郷は 109 世帯 398 人(平成 18 年 10 月時点)の集落で、

農家数は 57 戸のうち、専業農家 2戸、第 1種専業農家 4戸、第 2種兼業農家もしくは自給的農

家 51 戸である。

(2)イノシシ、シカ、サルによる被害状況

日野町はイノシシ、シカ、サルによる農作物被害が甚大で、その影響で毎年、遊休農地が増大

している。

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2 対策の概要

平成 15 年から、東近江地域振興局農産普及課(以下、普及指導センターという)が日野町と

協力し、鳥獣害対策の支援を開始した。

○イノシシ、シカによる被害を防ぐため、山裾に沿って集落を囲むように防護柵を設置した。

○サルによる野菜等への被害を防ぐため、集落内の畑地をおうみ...

猿落・猪ドメ君「サーカステン

ト」を新型サル用電気柵(京都大学霊長類研究所が開発したサル用のネット型電気柵)で囲っ

た。

3 具体的な取組内容

(1)イノシシ・シカ用防護柵の設置

○平成 16 年、中之郷では市町振興総合補助事業による防護柵の導入が検討され、普及指導セン

ターでは、防護柵の選定に対して助言を行った。その結果、3 年計画で集落の周囲約 7 km に

イノシシ・シカ用防護柵を設置した。

○イノシシ・シカ兼用の防護柵は高さ 1.8 m、支柱の高さ 2.5 m。フェンス下部をイノシシ用

に硬線を用い、上部は工作が容易な軟線を用いた 2段張りである。

○平成 16 年に第 1 期工事で 3.7 km(土日を中心に 11 日間でのべ出役人数 180 人、集落一丸と

なった作業)を設置し、平成 18 年までには 7.0 km のフェンスを設置した。

〇道路や水路等の侵入部分では 1 mもしくは 3 mのゲートを設置した。

(2)新型サル用電気柵

○イノシシ、シカによる農作物被害は、集落を取り巻く防護柵で抑えることができたが、当該集

落ではサルに対して対策も必要であった。そこで、京都大学霊長類研究所から資材の一部の提

供を受けて、約 1.4 ha の畑

地を新型サル用電気柵で囲

った。

○このネット下部は絶縁素材

のため、プラスの電線が通る

2mの高さまで雑草が生長し

ないと漏電しない。そのため、

従来の電気柵にくらべ除草

が省力化出来るといった特

徴を持つ。

○電気柵にかかった材料費は

650,810 円、設置作業は 17

人×2日間を要した。

H16 年設置

H16 年設置H17 年設置

H16 年設置

H17 年設置

H17 年設置

H17 年設置H18 年設置

中之郷

図 1 中之郷地区の獣害フェンス設置状況

Page 72: 地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - …...地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - 平成19年3月 農林水産省生産局 i

63

畑地を囲う新型サル用電気柵 集落周囲に張り巡らされたシカ・イノシシ兼用金

網柵(上部は軟線、下部は硬線)

(3)おうみ...

猿落えんらく

・猪しし

ドメ君「サーカステント」の設置

平成 16 年に、当該地の農地 6 a(ネット柵の設置延長約 100 m)をサルとイノシシ侵入防止

ネット(おうみ...

猿落・猪ドメ君)で囲った。、設置作業に 12 名の住民が 1日を費やした。ネット

柵設置後、サルの侵入が見られた農地の山側は、サル用ネットを 2重に張り、その後の被害を防

いだ。

(4)家畜放牧による緩衝地帯づくり

平成 17 年に試験研究事業として、山裾の一部に山羊放牧による緩衝地帯を設けた。

(5)追い払い

サルに対してロケット花火による追い払いを行っている。

4 対策実施における成果

○地域ぐるみの総合対策を実施した結果、被害は激減した(被害金額の推移:平成 15 年/100

万円、16 年/30 万円、17 年/0円)。

○住宅や神社がある場所を避けて山中に防護柵を設置したため、樹木の伐採作業も必要であった。

○サル用電気柵設置後も野生獣によるネットの噛み破りなどが発生したが、ビデオカメラを用い

た自動撮影によって噛み破る野生獣の正体を把握し、またネット補修や地面固定などの改善策

をとることによって、農家にその効果を確認してもらっている。

5 今後の方針及び課題

平成 19 年度には集落内環境調査を実施して放任果樹などの位置を地図に落とし、伐採啓発し

てさらなる里のエサ場価値を下げる努力を行う。また、家庭菜園は 1カ所にまとめて面的な被害

防止対策を実施する。さらに特定鳥獣保護管理計画に基づき、日野 B群(サルの群れ)に対する

個体数調整に向けて実施計画を策定する予定である。

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NO. 6-3-1 家畜放牧による緩衝地帯づくり

地 域 滋賀県 木之本町 小山こや ま

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・緩衝地帯の設置、放

牧ゾーニング

対策獣種

家の形態 兼業農家による集落営農、自給的農家 主な被害作物 イネ、ムギ、ダイズ

対策事業主体 小山地区

利用している事業

名等

・有害鳥獣捕獲: 市町振興総合補助事業(県単)

・和牛放牧: 農林水産新技術実用化事業(国)

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

木之本町は滋賀県の北東部に位置し、北東部には海抜 500~1,000 mに及ぶ山岳地帯があり、

山林の占める割合は、町面積の 87%に達する。南西部には余呉川が流れ、この地帯は、海抜 100

m程度の平坦地となり、市街地及び集落が散在、農地の大部分もこの地域にある。湖北に位置す

る木之本町は、日本海型の気候区分に属し積雪も多い。

木之本町の農家数は 598 戸、販売農家数は 336 戸、販売農家率は約 56%である。耕地面積は

432 ha、そのうち水田が 379 ha(約 88%)である。主にイネ、ダイズ、ムギなどが栽培されて

いる。小山地区は、周囲を山林に囲まれた中山間地域で、イネやダイズ、自家用野菜を栽培する。

(2)イノシシなどによる被害状況

農家の高齢化や兼業化などにともなって鳥獣被害が拡大し、平成 13 年当時、小山の山裾の水

田 5 ha のうち 3.5 ha が、主にイノシシとサルによる被害のため耕作が放棄された。

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2 対策の概要

○平成 13 年、滋賀県農業総合センター農業試験場湖北分場が、山際の水田耕作放棄地 75 a を借

り受け、牧柵を設置した。そこに和牛 2頭(繁殖牛)、緬羊 3頭、山羊 3頭(家畜は県畜産技

術振興センターから借用)を放牧、獣害回避の試験を開始した。

〇平成 14 年、さらに放牧エリアを拡げ、山林に接する耕作放棄地を全て放牧区とした。

3 具体的な取組内容

(1)放牧区の設置

放牧区は周囲を電気柵で囲み(電気柵などの設置費用は約 72 万円)、牛の水飲み場、休み場(日

陰)、鉱塩の置き場、給餌場を設置した。

(2)放牧方法

〇4 頭の繁殖牛を約 2 ha の放牧区に 5 月~11 月の期間に放牧している(1 頭だけの放牧では牛

がストレスを感じるため)。

〇放牧期間中は、牛が「人に飼われている」感覚を忘れないように、地元の人に毎日 1回濃厚飼

料を少量与えてもらっている。そのほか牛の飼育管理に労力はかかっていない。

(3)その他

当該放牧地では、試験研究のため、県畜産技術センターのスタッフによって、牛の健康状態が

定期的に診断されている。

小山の放牧ゾーン 牛の出産を見学する集落の人々

4 対策実施における成果

○獣害で耕作放棄が進んだ農地に、放牧ゾーニングを行うことにより野生獣による農作物被害が

ほぼ皆無となり、農家の営農意欲が復活した。放牧ゾーニングによる被害防止効果は、平成

13~18 年まで 6年間継続している。

〇放牧ゾーニングより、イノシシが放牧地を迂回したため、獣道が山側へ移動した。

〇耕作放棄を中心とした水田放牧地に牧草を播種し、また放牧地に隣接した水田にダイズを播種

して、牧草とダイズとの集団転作を行ったところ、およそ 200 万円の転作奨励金が集落に入っ

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66

た。さらにダイズと集団転作地周辺に作付けしたイネに被害がなくなったため、収穫物の販売

が可能となった。

○家畜放牧を行うことによって、集落内の人や他地域から家畜を見学に来るなど農地に賑わいが

もどり、そのことも鳥獣害対策になった。また高齢者が出歩く機会、集落への貢献の機会(放

牧する家畜の餌やりなど)が増え、高齢者の健康づくりにも貢献するなど、健康や情操教育な

どの面からも多様な効果や集落の活性化が図られた。

5 今後の方針及び課題

今後の課題としては、放牧区を県内に広く普及させていくためには、放牧に利用するための牛

を、繁殖牛飼育農家から貸し出し出来る制度を創設すること、また、繁殖和牛の放牧による「近

江牛」生産基盤を確立することが挙げられる。

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67

NO. 6-3-2 牛放牧による耕作放棄地管理

地 域 滋賀県 東近江市 杠ゆず

葉り

尾お

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・緩衝地帯の設置、放

牧ゾーニング

対策獣種

農家の形態 水田作など兼業農家、自給的農家 主な被害作物 イネ、野菜、果樹

対策事業主体 杠葉尾集落村づくり委員会

利用している事業

名等

放牧ゾーニング等: 中山間地域等直接支払制度(国)、滋賀の田園景観保全支援事業

(県単)

1 地域の概況

東近江市(平成 17 年に八日市市・永源寺町・五個荘町・愛東町・湖東町の 1市 4 町が合併し

誕生)は、滋賀県の南東部に位置し、東は三重県との県境に接する。気候は、表日本型、瀬戸内

型の気候区に属し、また内陸型気候の特色も持つ。冬季に 10~20 cm の降雪もあるが、全般的に

は穏やかな気候である。

杠葉尾が位置する東近江市永源寺は、農家数 635 戸、専業農家 24 戸、第 1種専業農家 135 戸、

第 2 種 専 業 農 家 が 361 戸 で あ る ( グ ラ フ と 統 計 で み る 農 林 水 産 業 ・

http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

2 対策の概要

鳥獣害によって耕作放棄地となった山沿いの農地 1.3 ha に、牛の放牧区を設置した。

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3 具体的な取組内容

〇平成 18 年、山際の耕作放棄された棚田と隣接するスギ植林地の一部を伐採し、約 1.3 ha の放

牧地を造成した。

○支柱に農業用パイプ(高さ 1.7 m)を用い、柵線を 3 本張った自作の電気柵で放牧地を囲っ

た。

○放牧地には水のみ場(水は沢からパイプで直接引く)、鉱塩の置き場、休み場(放牧地内に残

るスギ木立の日陰)、給餌場(牛の首かせを設置)を設けた。

○県畜産技術センターの雌和牛 4頭を放牧した。1日 1 回朝、農家が牛に濃厚飼料の給餌を行っ

ている。

放牧の様子 牛の首に付けたカウベル

木陰を利用した牛の休み場

(放牧地の中に木を残した)

スタンチョン:牛の首かせ

(これを使って牛を固定し、毎日飼料を与える)

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69

風呂おけを利用した牛の水飲み場

(水は沢から直接引く)

牛用の鉱塩置き場

4 対策実施における成果

放牧区設置の後、対策地周辺では鳥獣害は減っているようだ。しかし、対策を実施して間もな

いため(1年以内)、対策の効果や課題は見出せていない。

5 今後の方針及び課題

○現在は県畜産技術振興センターの和牛をリースしているが、将来は廃牛などを購入し、集落で

管理し、周年放牧出来るような体制にもっていく必要がある。

○次期集落リーダーの育成が求められる。

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70

NO. 6-3-3 緬羊の放牧とおうみ...

猿落えんらく

君の組合せ(対策導入初期段階の事例)

地 域 滋賀県 日野町 鳥居とり い

平ひら

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・緩衝地帯の設置、放

牧ゾーニング

対策獣種

農家の形態 主に兼業農家、自給的農家 主な被害作物 イネ、野菜、果樹

対策事業主体 鳥居平区

利用している事業

名等

・サーカステントの設置:H18 圏域事業「獣害のない元気な里づくり推進事業」(県

単)、H17 ため池里山人のにぎわい推進事業(県単)

・ワイヤーメッシュ柵の設置: 市町振興総合補助事業(県単)

1 地域の概況

(1)立地および農業の概況

日野町は、滋賀県の南東部、鈴鹿山系の西麓に位置し、東西 14.5 km、南北 12.3 km、総面積

117.63 km2、東に綿向山を望み、弥生時代には稲作も始められていた記録がある歴史のある町で

ある。日野町の耕地面積 2,170 ha の内、約 89%は水田である。イネ以外はコムギ、ダイズ、牧

草、茶などの作付けが多い。

なお、鳥居平は、事例 6-2-3 で紹介した中之郷に隣接する集落である。

(2)イノシシ、シカ、サルによる被害状況

日野町はイノシシ、シカ、サルによる農作物被害が甚大で、毎年遊休農地が増大し、その 3

割が鳥獣害によるものであった。そのため県普及指導センターが日野町と協力して、平成 15 年

から鳥獣害対策の支援を始めた。

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2 対策の概要

○イノシシとシカの防護柵として、集落の山裾に金網フェンスを設置し、樹林の一部を伐採し、

緬羊の放牧区を設けた。

○緬羊の放牧区とは別地点の自

家用野菜を栽培する農地 3 カ

所に、おうみ...

猿落えんらく

君「サーカ

ステント」を設置した。

3 具体的な取組内容

(1)ワイヤーメッシュ柵の設

集落を取り巻くように、ワイ

ヤーメッシュ柵(延長 6,800 m)

を設置した。

(2)緬羊の放牧区の設置

○平成 17 年から農家に隣接する樹林の一部を伐採し、柵で囲って緬羊 2頭を放牧した。ここで

は、対象地の面積が 1 ha 未満と狭かったため、放牧する家畜として牛ではなく緬羊を選択し

た。なお、放牧した緬羊は、県畜産技術振興センターより貸し出されたものである。

○緬羊放牧地の山側には、イノシシとシカの侵入防止のためにワイヤーメッシュ柵を設置した。

緬羊の放牧ゾーン 放牧区の周囲に設置されたワイヤーメッシュ柵

(イノシシの侵入防止も兼ねる)

200 m

図 1 対象地域(鳥居平)の位置

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(3)おうみ...

猿落えんらく

君「サーカステント」の設置

平成 18 年、町の要望により当該集落を圏域事業(県単事業)のモデル集落として鳥獣害対策

に取り組むことになり、山裾の自家用野菜(ダイコン、ナス、サツマイモ、タマネギなど)を栽

培する農地(広さ 1~2 a程度)に、サーカステントを 3基設置した。

正しく設置・管理されている猿落君 間違った管理状態の猿落君

(農作業時に、おうみ...

猿落君のひさしをつくる支

柱を柵外周に挿し直したまま状態)

4 対策実施における成果と問題点

(1)成果

被害防止対策を実施した農地(緬羊放牧区に隣接する農地、おうみ...

猿落君で囲った農地)では、

2~3 回サルが侵入することがあったが、目立った被害は発生していない。

(2)問題点

現在(平成 18 年)、当該地では、地域ぐるみで被害防止対策に取り組めるような十分な体制は

取られていない。

5 今後の方針及び課題

今後は、緬羊の放牧やおうみ...

猿落君の成功例を足がかりに、地域全体の取り組みへ発展させる

よう指導することと、地域リーダーを育成することが課題である。

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NO. 7-1 奈良県における取組体制

地 域 奈良県

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

主な

対策 県の取組体制 対策獣種

農家の形態 県内の農家の約 4割弱が自給的農家 主な被害作物 イネ、野菜、果樹

対策事業主体 県

利用している事業

名等

・生産振興総合対策事業(国:~平成 16 年度)

・強い農業づくり交付金(国:平成 17 年度)

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

奈良県は、四方が山地に囲まれた内陸県であり、耕地率は約 6%と低い一方、林野率が 77%に

上る。農家数は 32,255 戸、そのうち 12,206 戸が自給的農家ある(グラフと統計でみる農林水産

業・http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

奈良県ではイネのほか、果樹のカキやウメ、茶などの栽培が盛んであるほか、近郊農業でイチ

ゴやスイカの栽培も多い。また県南部の吉野川上流域は吉野杉の産地で、スギ人工林が広がる。

(2)イノシシ、シカ、サルによる被害状況

イノシシやシカは県の北西部(都市部)を除き県全域に分布する。また、サルは県南部を中心

に分布するが、近年は県の北部(京都府や三重県との県境)で出没頻度が増え、分布が拡大しつ

つある(自然環境保全基礎調査・哺乳類分布調査(平成 16 年度:環境省の結果より)。

これら 3獣種による平成 16 年度の農作物被害金額は、イノシシ 4,779 万円、シカ 4,270 万円、

サル 247 万円であった。

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2 対策の概要

奈良県では、平成 8年から県農業技術センターの病害虫防除チームが中心となり、国の補助事

業で鳥獣害の試験研究に取り組み始めた。その試験研究の過程で、サル用の簡易防護柵(猿落えんらく

君)、

サル追い払い時に使用するロケット花火発射装置(仁ひと

志し

君)を開発した。また、鳥獣害に強い作

物栽培方法や野生鳥獣を引き寄せない農地周辺の環境整備など、ハードとソフトの両面から様々

な被害防止対策を提案実行してきた。これらの具体的な被害防止対策の開発と同時に、県の取組

体制の整備を行った。

3 具体的な取組内容

(1)関係機関との連携(図 1)

○奈良県では、県内 6カ所の農林振興事務所(普及部門)が主体となり、市町村の鳥獣害担当課

と連携しながら、地域農家の現地指導や講習会を行っている。

○平成 10 年、農業技術センター内に鳥獣害防止対策プロジェクトチームを発足させた。プロジ

ェクトチームは、有害鳥獣の生態、被害状況の調査に取り組むとともに、被害防止対策の技術

開発を行っている。また、プロジェクトチームは、普及部門(農林振興事務所など)と連携し

現地の技術指導や講習会の開催等を行っている。

(2)地域との連携

県の普及部門は、市町村の鳥獣害担当者や被害地域の農家代表者と、十分な連携を図るように

努めている。連携のよい市町村や地域では、市町村や地域代表者の呼びかけで、住民が講習会等

に積極的に参加する姿勢が見られる。

図 1 奈良県における鳥獣害対策の取組体制の概要

4 対策実施における成果と問題点

県農業技術センター

(鳥獣害防止対策プロジェクトチーム)

・県農業水産振興課

・県森林保全課

農林振興事務所(県内 6カ所) 市町村鳥獣害担当課

被害地域・集落

技術指導・助言

連携

情報提供・技術支援

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県と市町村の連携がよく、住民が講習会等に積極的に参加するようになった地域では、被害発

生時に被害情報が速やかに県にも届くようになり、地域が取り組む対策に迅速に対応出来るよう

になった。その結果、被害の軽減のほか、行政に頼った取り組みから地域住民自らの取り組みへ、

住民意識の変化も見られる。

5 今後の方針及び課題

今後も引き続き、地域との連携を強め、被害防止対策を進めることが課題となる。

果樹(キウイフルーツ)の低面ネット栽培

(果樹振興センター・猿害防止展示コーナー)

サル追い払いに使うロケット花火発射装置:ひと

し君 2号の試射(猿害防止展示コーナー)

ネット裾を野生獣の侵入方向に斜めに垂らしたイ

ノシシ・シカ用ネット柵(猿害防止展示コーナー)

現地で農家や市町村担当者と情報交換を行う鳥獣

害防止対策プロジェクトチームのスタッフ

(オレンジ色のスタッフ専用ジャンバー着用)

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NO. 7-2-1 地域ぐるみの鳥獣害対策

地 域 奈良県 十津川村 高津たこつ

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・集落環境整備

・追い払い

対策獣種

農家の形態 大半が自給的農家 主な被害作物 イネ、野菜

事業主体 集落

利用している事業

名等 十津川村有害獣防除施設設置事業

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

十津川村は、和歌山・三重両県に接する奈良県の最南端、紀伊半島のほぼ中央に位置し、村の

96%が山林である。村の中央には十津川本流が深い V字渓谷をなして歪流し、四方を大峰山脈、

伯母子山脈、果無山脈などが取り囲む。村内の 92 ha が県の自然環境保全地域の指定を受ける。

十津川村の農家数257戸中207戸が自給的農家である。水田の経営耕地面積は18 haである(グ

ラフと統計でみる農林水産業・http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

高津集落の耕地面積は 1.6 ha あり、そのうち水田 0.6 ha(十津川村の集落の中では、最も広

い水田面積を持つ)、畑 1 ha である。主な作物としてイネ、野菜やビワ、ユズ、キンカンなどの

果樹(いずれも自家消費用)のほか、サカキ、ナンテン(漢方薬の原料)などを栽培している。

集落 17 戸のうち販売農家は 7戸で、農家世帯の平均年齢は 70 歳以上である。

(2)イノシシ、シカ、サルによる被害状況

20 年以上前からサルの農作物被害が発生し、約 10 年前からは、イノシシやシカによる農作物

被害も見られるようになった。現在(平成 18 年)まで、いずれの野生獣も出没頻度は増えてい

るが、被害防止対策の効果もあり、被害は横ばいで推移している。

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2 対策の概要

高津は県(果樹振興センターなど)や村が、10 年以上にわたって被害防止対策について指導

し、地域ぐるみで総合的な鳥獣害対策に取り組んでいる。

3 具体的な取組内容

(1)防護柵の設置

○山裾の水田を、トタン板を用いたイノシシ用の防護柵を囲い、柵の周囲は草刈が行なわれてい

る。

○集落内の農地をネットで囲い、その下部はイノシシの視界を遮るようにトタン板を張り巡らせ

てある。また、防護柵の資材は、地場材(間伐材)や身近で廉価なもの(バーベキュー用の金

網)を使うなどの、工夫が見られる。

○イノシシ、シカなど被害を受けていない農地(ミシマサイコの薬草畑など)も農家が予防的に

金網柵を設置するほか、シカの餌場とならないように、集落内のサカキ植栽地もネットで囲う。

ミシマサイコの薬草畑を囲う金網 農家自作のサル用ネット柵

(支柱にヒノキの間伐材を用いる)

農家自作の防護柵

(ナイロンネット柵の下部をバーベキュー用の金

網で囲い、野生獣による噛み破りを防止した)

トタン板をイノシシ用防護柵

(傾斜地はトタン 2 段に組む)

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(2)追い払い

約 10 年前(平成 8年頃)から、サルの追い払いを地域ぐるみで行うようになった(見張りな

どはなし)。追い払いに使う爆竹やロケット花火は、村役場がをまとめて購入することで、安く

住民に提供している。また、花火より一発の単価が安いスターターピストル(運動会のピストル)

なども活用している。

(3)集落環境改善

○墓地では水と花だけを供え、地域の慣習である米などのお供え物はやめた。

○集落内の耕作放棄地は、草刈管理を行っている。

(4)捕獲

地元猟友会が集落の周囲に捕獲檻を 3台設置し管理している。

草刈の行き届いた耕作放棄地 水以外のお供えものがないお墓

4 対策実施における成果

この 10 年間は、防護柵の設置、追い払い、集落環境整備など総合的な被害防止対策に取り組

むことで、鳥獣被害を一定程度に抑えることが出来ている。

5 今後の方針及び課題

○高齢化の進行に伴い離農などで増大する耕作放棄地の管理が難しくなりつつある。地域ぐるみ

の取組体制を維持することが、今後の大きな課題である。

○現在(平成 18 年)は電気柵を設置していないが、今後、補助事業によって、一部の農地で設

置する予定である。

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NO. 7-2-2 急傾斜地の果樹園におけるイノシシ・シカ対策

地 域 奈良県 下市町 西山

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・林縁部の伐採 対策獣種

農家の形態 専業農家(カキ、ウメなど) 主な被害作物 果樹(ウメ)

対策事業主体 農家 1戸

利用している事業

名等 特になし(防護柵の設置は全て農家の個人負担)

1 地域の概況

(1)立地と農業の概況

奈良県吉野郡の北西に位置する下市町は、南北に広く、地形的に大きく北部の吉野川流域の平

坦地と南部の山間地域に分けられる。北部の気候は、奈良盆地と同様に夏は暑く、冬は寒い気温

差の大きい内陸性気候地帯である。山間地域は、夏は比較的涼しく、冬の寒さはかなり厳しい吉

野地方特有の気候である。下市町の農業は、カキ、ウメなどの果樹の栽培が盛んで、平野部では

イネや菊などの花卉類、ダイコン、スイカなどの栽培が盛んである。

西山地区の事例調査の対象とした農地は、周囲をスギ植林地と落葉広葉樹林に囲まれた、傾斜

地のウメ園である。

(2)イノシシ、シカによる被害状況

当該ウメ園では、平成 16 年頃から早春の時期に、ウメ園の下草を食べに来たシカによって、

ウメの花や蕾の食害が見られるようになった。また、イノシシがウメ園の作業道のり面や、ウメ

の根を掘り起こす被害も見られるようになった。

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2 対策の概要

奈良県(果樹振興センター)は、ウメの栽培農家からのイノシシ、シカの被害防止対策に関す

る相談を受け、ウメ園を取り囲む山林(林縁部)の伐採と防護柵の設置を提案し、農家自らが伐

採と防護柵の設置を行った。

3 具体的な取組内容

○ウメ園周辺の雑木を約 2 m幅で伐採した。伐採後、約 70 a のウメ園の全周をシカ用ネット(高

さ 1.8 m、目合い 15×15 cm)で囲った。ネットの支柱には、長さ 2.4 mハウスの廃パイプ

を活用し、50~60 cm 地中に打ち込んだ。

○ネットは、シカの侵入方向に対して(柵外に向かって)斜めに垂らした状態である。またネッ

トの裾は、ペグで固定している。

○ネットを林内に設置した区間では、林内の立木をネットの支柱として活用した。

○林縁部の伐採は全て農家が行った。またネットの設置作業は、当初、県職員(果樹振興センタ

ー)4名が半日ほど手伝ったほかは、全て農家が行った(農家作業は 2名×3日程度)。

○防護柵の設置後、柵の周辺は農家が定期的に草刈、点検を行っている。

ウメ園

周辺樹林

シカネット

ネットを外側に垂らす

林縁を伐採

作業道

図 1 シカ用ネットの設置の断面模式

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4 対策実施における成果と問題点

当初、農家から相談があった時点で県では、防護柵の設置の前提条件として、ウメ園周辺の雑

木の伐採が重要であることを伝え、農家の理解を求めた。その結果、伐採と防護柵の設置が実現

した。

現在(平成 18 年)、時折、イノシシによるネットの噛み切り、イノシシの幼獣の侵入、作業道

周辺の掘り返しも見られるが、ウメには被害がなく、おおむねイノシシ及びシカによる被害を防

止出来た。

5 今後の方針及び課題

これまで実施した被害防止対策は、一定の効果を上げているが、ネット柵周辺では倒木による

ネットの破損、野生獣の噛み切りも常時発生していることから、今後も継続して防護柵と周辺環

境の維持管理を続けていくことが課題である。

林縁部に設置されたシカ用ネット柵

(林縁部は約 2 m幅に伐採後されている)

林内では立木も支柱代わりに利用した

倒木により一部が押し下げられたネット柵

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NO. 7-2-3 忍び返し柵を使ったイノシシ対策

地 域 奈良県 桜井市 笠

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・集落環境整備 対策獣種

農家の形態 兼業農家が約 5 割、自給的農家が約 4

割 主な被害作物 イネ、野菜、ソバ

対策事業主体 笠地区

利用している事業

名等 平成 17 年強い農業づくり交付金

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

桜井市は県の中央東南部に位置し、寺川や初瀬川が流れる比較的平坦な田園地帯で南部から東

部にかけては竜門山地がそびえ立ち、イネと野菜・花卉栽培等の複合経営形態が多い。また、丘

陵地ではミカン・そばなど、平地では園芸野菜の栽培が盛んである。市内の農家数は 1,688 戸で、

専業農家 115 戸、兼業農家 857 戸、自給的農家 716 戸である。(グラフと統計でみる農林水産業・

http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

笠集落は、天理市と境を接する標高 400~500 mの中山間地域に位置し、国営総合農地開発事

業によるほ場整備によって 30 ha の農地がつくられた。主にイネ(水田)、サツマイモが栽培さ

れ、その他、平成 4年から転換畑等でソバの栽培に取り組んでいる。なお、笠地区に隣接する三

輪山は鳥獣保護区に指定され、狩猟が制限されている。

(2)イノシシによる被害状況

笠集落では約 10 年前までイノシシによる被害はほとんどなかった。しかし、平成 13 年頃から

イノシシによる農作物被害が目立つようになり、個々の農家がトタン板や電気柵(一部の農家)

の設置によって自主的に被害対策に取り組んできたが、被害はなかなか減らなかった。

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2 対策の概要

○平成 17 年 2 月、笠集落からの要望に基づき、県はイノシシ被害実態調査(土地利用と農作物

被害に着目)を実施し、県果樹振興センターの指導により、笠集落でモデル対策(忍び返し柵

の設置)を実施した。

○モデル対策実施後、集落の多くの農地においてワイヤーメッシュ柵が設置され、耕作放棄地の

管理等にも取り組み始めた。

3 具体的な取組内容

(1)県による実態調査と講習会

○平成 17 年 2 月、県によるイノシシの被害実態調

査が行われた。調査では農地だけでなく周辺の竹

林も対象とした。

○平成 17 年 5 月、実態調査結果とこれまでの取り

組み経緯について、集落で検討会を開いた。検討

会の目的は、①農家にイノシシの生態や特性を理

解してもらう、②集落の餌場価値を下げることの

重要性を理解してもらう、この 2点である。

(2)モデル対策の実施

○平成 17 年 5 月、集落内のサツマイモ畑(約 1 ha)

に、忍び返し柵を設置した。

○忍び返し柵は 10 cm 目合いのワイヤーメッシュ(農家が購入)を用い、支柱となる直管パイプ

(ハウスの廃材を県が提供)を 1.7~1.8 m間隔に打ち込んだ。忍び返し部分は幅 30 cm、角

度は 20~30°とした。また、イノシシの押し

倒しや持ち上げに対する補強のため、水平方

向にパイプを渡すと同時に、支柱とは別に 1

柵おきに柵の内側からワイヤーメッシュの支

えとなるパイプを設置した。

○今後シカによる被害が発生した場合の改良を

想定して、支柱の高さを 1.6 mとした。

○設置作業は、集落住民約 30 名(非農家を含む)

が参加して、県職員による忍び返し柵の設置

の実演、住民自らの設置実習を行った。

補強パイプを組み込んだ忍び返し柵

(モデル対策を実施したサツマイモ畑)

被害実態調査 + 集落での検討会

モデル対策の実施(忍び返し柵)

各農家の自主的な取組み

(大半がワイヤーメッシュ柵の設置)

図 1 笠地区における対策の流れ

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シカに備え高めの支柱 1.6m

1 柵おきに補強のパイプを斜めに設置

水平方向にパイプで補強

図 2 モデル対策で設置した忍び返し柵の立面模式

農家自作のワイヤーメッシュ柵

(忍び返しを施していない)

草刈管理ができない耕作放棄地の周囲をワイヤー

メッシュ柵で囲い、イノシシなどの侵入を防ぐ

4 対策実施における成果と問題点 (1)成果

モデル地区を含め、ワイヤーメッシュ柵を設置した農地では、イノシシの侵入が防止されて

いる。

(2)問題点

被害対策を行っていない農地(主にサツマイモ、ダイズ)では、依然としてイノシシによる大

きな被害が発生している。

5 今後の方針及び課題

被害対策を行っていない農地への防護柵の設置、周辺の放置された竹林の管理などが課題であ

る。

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NO. 8-1 サルの早期発見システムと地元住民による追い払い

地 域 三重県 亀山市

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○

主な

対策

・追い払い

・サル早期発見システム 対策獣種

農家の形態 兼業農家が約 6割、自給的農家が約 3割

4分 主な被害作物

野菜、シイタケ、タケノコ

※養鶏場の被害あり(サルが

養鶏場の屋根で騒ぎ、鶏がパ

ニックを起し圧死する)

事業主体 市及び民間団体(NPO法人など)

利用している事

業名等

・サル対策モデル実証圃場の設置(300 頭分): 鳥獣害対策事業(県単)

・サルの追跡: 市単独事業の委託事業

1 地域の概況

(1)地域の概況

亀山市は三重県の中北部に位置し、北西部には鈴鹿山脈が走り、そこから東方面にかけては丘

陵地や台地が形成され伊勢平野へと続く。市の中央部には、鈴鹿川と中ノ川が東西に流れ、伊勢

湾へと注いでいる。亀山市は高度経済成長とともに、高速交通網の整備によって大規模な工場や

工業団地が整備され、平成 14 年には液晶産業や関連企業が立地した。

亀山市の農家数は 2,442 戸、専業農家 186 戸、兼業農家 1,426 戸、自給的農家 830 戸である。

主な農作物はイネ、その他茶の栽培も盛んである(グラフと統計でみる農林水産業・

http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

(2)サルによる被害状況

平成 14 年頃からサルの群れ 1群が、東名阪自動車道より東側(市街地側)へ出没するように

なった(それ以前、群れが自動車道より東側へ出没することは稀であった)。

平成 18 年、亀山市周辺では約 10 群(約 700 頭)のサルが確認された。サルの出没域は拡大傾

向にあり、最近ではハナレザルが市中心部の住宅地まで出没し、庭先のカキやクリ、家庭菜園の

野菜、さらには八百屋の店先の野菜までも食害することがある。

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注)上図は「亀山サル巡視員及び山田彩氏の調査結果を元に戸田春華氏が作成した図」を引用

図 1 亀山市周辺におけるサル群の分布状況

2 対策の概要

○民間団体(サルどこネット、亀山サルの会)が主体となり、サルの追跡、サル情報の発信と追

い払いなどを実施している。

○市は、これらの民間団体と連携・協力し、サル巡視業務の委託、サルへの電波発信器の装着、

サル巡視員等への受信器の貸与、防護柵設置の補助、地域におけるサル対策講習会の開催など

を行っている(表 1)。

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表 1 亀山市周辺地域における主なサル対策の経緯

年 対策にかかわる主な動き 備考

平成 13 年 ・県内のサルの群れ 300 匹に電波発信器を装着(県の事

業)

平成 14 年 ・調査員を雇用し、受信器によりサル追跡調査を開始(県

の事業)

・市職員によるパトロール開始(9月~)

8 月:サルの群れが自動車道を

越えて出没し始める

平成 15 年 ・「サルどこネット」の HP が開設され、サルの位置情報

を電子メールで配信開始。

平成 16 年 ・市委託のサル巡視員 3名による調査開始(4月)

・サル 5頭に発信器を装着(7月:市の事業)

平成 17 年 ・サル巡視員 4名に増員(4月~)

・市内 4地区でサル対策講習会を開催

平成 18 年 ・サル巡視員 5名に増員(4月~)

・市内の 2地区(加太、太田)で講習会を開催

・市内太田地区では追い払い隊を結成し、サル監視員と

共同で追い払いを実施

注)「サルどこネット」: 猿害対策、野生獣と共存する地域社会づくりを目的とし三重県下を中心に活

動するNPO法人。

3 具体的な取組内容

(1)サルの早期発見システムの構築

○市委託のサル巡視員(主に亀山サルの会の会員)が、受信器を使い確認したサルの情報(群れ

名、出没日時、場所、出没状況など)を携帯電話でホスト PC へ発信する(図 2)。ホスト PC

はサル情報を解析し、市役所やメーリングリストの加入者(平成 18 年、40~50 名程度。鳥獣

保護員、農家など)にサル情報を送信する。ホスト PC はNPO法人サルどこネットによって

運営されている。

○平成 18 年現在、5名のサル巡視員で亀山市全域の約 1/4 の地域を調査範囲としている。

○サルの巡視は市の委託事業として行われ、巡視員は市から受信器を貸与され、諸経費として

18,000 円/人月が支払われる。

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注)サル情報:サルの群れ名、出没場所、出没日時、出没状況

図 2 サルどこネットの仕組み(情報の流れ)

(2)追い払い

市は、住民によるサルの追い払いを支援するために、ロケット花火とその発射装置(奈良県開

発のひとし君 2号)を随時、購入し、各自治会に無料で配布している。その結果、追い払い隊を

結成し、サル巡視員と共同で地域ぐるみの追い払い体制を整備した自治会(太田地区等)も現れ

た。

(3)防護柵の設置

亀山サルの会では市内 2カ所の農地にサル用の簡易防護柵(猿落えんらく

君)を設置した。

(4)サル対策講習会の開催

市では平成 17 年から、サルに対する理解を深め、住民自らが対応出来るように自治会単位で

サル対策の講習会を開催している。講師として大学の研究者などを招いている。

サル巡視員による受信機を使った

サルの追跡の様子

道路中央に座り込むサル

サル巡視員

(電波受信器を携帯・サル

を追跡)

携帯電話などでサルの

位置情報を発信

ホスト

コンピューター

(データ解析)

携帯電話(サル情報を

即時受信)

パソコン

(サル情報検索・地図表示)

サル情報

市役所

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猿落君で囲われた農地

(集落から離れ、サルによる被害が多かった農地

を対象とした)

電波発信器装着個体を捕獲するために設

置されたサル捕獲おり

(餌はサツマイモとカボチャ)

4 対策実施の成果と問題点

(1)成果

○サルの早期発見システムの構築と運用によって、市周辺に生息するサルの群れの動向がかなり

把握されてきた。

○「サルどこネット」では、サルだけでなくイノシシ、シカの出没情報も発信している。イノシ

シ、シカによる被害は、防護柵の設置で防止している。

(2)問題点

○同じ亀山市内でも地域(自治会)によってサル対策への理解度に差が見られ、追い払いが徹底

している地域では、サルの出没が減少した。一方、行政まかせの傾向が強い地域では、あまり

対策の効果が上がっていない。

○サルどこネットは、サル情報の発信者(GPS 機能付き携帯電話や電波受信器などハードを携帯

する必要がある)や調査日数が限られること、情報の受け手側には三重県内の全てのサル情報

(他地域の情報は不要な場合が多い)が配信されることなど、改善点が挙げられる。

○猿落君を設置した農地は、設置後に何度かサルの侵入を許したが、設置前に比べて被害は減少

した。また、その周辺農地では猿落君をまねた様々なネット柵が設置されているが、自己流の

ネット柵のため、柵の構造や配置に問題点が見られる(サルが容易に登れる支柱の使用など)。

○ハナレザルは捕獲が難しく、発信器を装着できない。また、群れと異なり市街地に長時間滞在

することが多いことから、対応に苦慮している。

5 今後の方針及び課題

○サル対策講習会の実施、広報誌やパンフレットの配布などを今後も継続し、一般市民に、サル

の生態や被害防止対策へ理解をさらに深めてもらう必要がある。

○今後、県の単独事業として、サルドコテレホン(住民参加型ネットワークシステム)を開始す

る予定である(平成 18 年~平成 19 年)。

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○電波発信器が未装着な群れ(隣接する関町に分布するサルの群れなど)に、発信器の装着を進

めてゆく。

■サルドコテレホンの概要

前述したサルどこネットの問題点を改善するために、今後、次のような住民によって発信され

たサル情報が、情報を必要としている住民に伝わりやすいサル情報の伝達システム(サルドコテ

レホン)を検討している。

1.一般電話、携帯電話所有者の電話番

号とよくサルを見る場所を登録

例)住民 S氏:畑①、②で群れ、団地③

でハナレザルをよく目撃する

2.サル情報が欲しい人の受信範囲キロ数

を登録

例)住民 S氏の隣集落の T氏の受信範囲キ

ロ数を登録

3.サルどこネットのサーバーに 3回線の

電話 A、B、C を接続。

例)電話 A:群れ情報・畑①、電話 B:群れ

情報・畑②、電話 C:ハナレザル情報団地③

4.S 氏が畑①でサルの群れ発見 →

電話 Aに電話をかける

5.サーバーのコンピューターが自動的に

メール作成

例)メールー内容「○月○日 △時△分に S

氏の畑①、サルの群れ」

6.S 氏の畑①から指定キロ数内の人にメ

ールが配信 例)T氏もサル情報のメールを受信

7.サルどこネット調査員が随時、群れの

名前等の情報の信頼性をチェック

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NO. 9-1 イヌを使った野生獣の追い払い体制の構築(サル追い犬の育成)

地 域 兵庫県 香美町 小代

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○ ○

主な

対策

・サル追い犬の育成

・追い払い 対策獣種

農家の形態 兼業農家が約 5割、自給的農家が約 4割 主な被害作物 イネ、野菜

事業主体 県、市

利用している事

業名等

サル追い犬の訓練: 農林水産研究高度化事業(平成 19 年度以降は、訓練費の 1/2 を

県費より補助予定)

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

兵庫県北部の香美町小代地区は中国山地の東端に位置し、周囲を標高 500~1,000 m前後の山

に囲まれた内陸部である。気候は日本海型の気候区分に属し、積雪深が 2 mを越える年もあり、

兵庫県の中で最も積雪が多い。

香美町の大半は山林のため、田畑の占める割合は町面積の 5%足らずである。町の農家数は

2,053 戸あり、専業農家 139 戸、兼業農家 1,046 戸、自給的農家 868 戸となっている(グラフと

統計でみる農林水産業・http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。小代地区はイ

ネのほか、主に自家消費用の野菜を栽培している農家が多い。

(2)サルなど野生鳥獣による被害状況

昭和 50 年頃、サル約 150 頭が確認され農作物への被害も見られたが、昭和 50~51 年に 50~

60 頭を有害鳥獣捕獲した結果、被害は一旦落ち着いた。その後、平成 4 年頃から再びサルによ

る農作物被害が顕在化し、現在(平成 18 年)に至る。特に、ここ 2~3 年はサルの行動がエスカ

レートし、イネの被害や人家に侵入するなどの行動が目立つようになった。現在、小代地区には

サル 1群約 50 頭が周年生息し、隣接する群れは確認されていない。

サルのほか、イノシシによる農作物被害(イネ、野菜)も見られる。また、シカは主に林業被

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害(木の皮はぎ)に止まる。さらに近年はクマの出没も多くなった。

2 対策の概要

○平成 18 年よりサル追い犬の訓練を開始(試験段階)、約 1年かけてサル追い犬を育成する。

〇サル接近警報システムを活用したサル追い払い、畑地を中心に防護柵(猿落えんらく

君、イノシシ用電

気柵など)の設置も進めている。

3 具体的な取組内容

(1)サル追い犬の育成

○サル追い犬訓練では、サルなど野生獣の追い払い時に、飼い主の命令によって犬の行動を制御

出来るレベルを目指す。したがって、飼い主に対する服従訓練が主となる。

○具体的な服従訓練としては、飼い主の歩調に合わせて歩く、指示で座る、呼ばれたら飼い主の

元に来る、命令によって物を取りに行くなどが挙げられる。

○犬と飼い主の訓練は、阪神警察犬訓育所の訓練士を現地に招く形で実施した(4 カ月間で 12

回の訓練)。

(2)サル追い犬の

活用

訓練後、実際のサ

ル追い犬の活用方

法について小代地

区では、犬を常に放

し飼いをするので

はなく、サル発見時

に飼い主が繋留を

離し、サルを追わせ

る方法を取る。

(3)追い払い等

町では 3名(シル

バー人材派遣より)

の監視員を配置し、

交代でサルの追跡

と追い払いを実施

中である。

監視員が得たサルの位置情報を、毎日 13 時と 19 時 30 分に町内放送、NTT 回線を利用した

オフトーク通信を使い、住民へ伝達している。

表 1 香美町小代地区におけるサル追い犬の育成までの経緯

年月 主な取組内容

平成17年 県立人と自然の博物館(以下、博物館)で、「獣害

回避のための難馴化忌避技術と生息適地への誘導

手法の開発」に取り組み始める。

4 月 香美町役場、県(森林動物共生室)、博物館、但馬

県民局により小代地区サル被害実態調査を行う。

7月~8月 当該地区の犬の飼い主に追い払い犬に関する意向

調査、飼い主への説明会、住民への犬による追い払

いプロジェクトの説明会を開く。

9 月 参加者募集説明会を開く。

平成18年

10 月~ 10 月より候補犬 7 頭で訓練開始(当初の目標は 10

~15 頭)。

平成19年 2 月 合同訓練を数回実施予定。その後、実際のサル追い

払いの実施については、飼い主各人の判断による。

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警察犬を使った訓練デモの様子 飼い犬の訓練風景

4 今後の方針及び課題

○県の動物愛護条例(放し飼い禁止条項)との対応について、一定の訓練を受けた犬をサル追い

犬として認定し、上記条例の適用除外が受けられるように、県内部で協議中である。

○認定されたサル追い犬が、第 3者に分かるような工夫について検討中である(色つきの犬用ベ

ストを着用させる、サル追い犬が飼われている家周辺に表示板を設置、GPS 付きの首輪の装着

など)。

○自動車に対する犬の行動制御は難しいため、放し飼い時に、自動車との事故が心配される。

○サル追い犬を活用したサル害対策を今後、他の地域へ普及させていくためには、それぞれの地

域住民の理解と合意が必要となる。

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NO. 9-2 捕獲獣の有効利用

地 域 兵庫県 丹波市など

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○

主な

対策 捕獲獣の有効利用 対策獣種

農家の形態 兼業農家と自給的農家が約9割(県全体) 主な被害作物

対策事業主体 NPO法人、民間会社、県立博物館

利用している事

業名等 特になし

1 地域の概況

(1)立地及び農業の概況

兵庫県の総耕地面積は 78,500 ha で、その約 92%が水田である。また、農家数 114,523 戸の

中で、専業農家が約 9%、兼業農家が約 59%、自給的農家が約 32%である(グラフと統計でみ

る農林水産業・http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

兵庫県ではイネのほか、野菜ではタマネギ(主に淡路島)、果樹ではクリ、ブドウなどの栽培

が盛んである。特に丹波篠山地方を中心に栽培されている丹波クリが有名である。

(2)イノシシ、シカによる被害状況

兵庫県におけるイノシシの農林業被害金額(大半は農作物被害)は、毎年約 2億~3億円(平

成 13 年度~17 年度)に上り、7,000 頭~10,000 頭(平成 13 年度~17 年度)が狩猟もしくは有

害鳥獣捕獲されている。

一方、シカは明治~大正時代にかけた狩猟などにより、県内では南但馬地方を除き絶滅寸前ま

で追い込まれた。しかし、約 20 年前の昭和 50 年代後半から南但馬地方を中心にシカによる林業

被害が見られるようになった。昭和 60 年以降、シカによる林業被害が顕著となり、平成 10 年~

11 年には、県全体のシカによる農作物被害金額が、林業被害金額を上回るようになった。平成

13 年~17 年度の農林業被害金額は毎年 3 億~6 億円に上り、平成 13 年度以降、毎年 10,000 頭

以上のシカが捕獲され、平成 17 年度には約 15,000 頭が捕獲された(近年の捕獲数は北海道に次

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ぐ全国 2位)。

2 対策の概要

兵庫県では丹波篠山地方を中心に、イノシシを食肉としてよく利用してきた歴史を持つ。その

一方で、近年急速に捕獲数が増加しているシカは、食肉など有効利用されることが少なかった。

そこで、兵庫県人と自然の博物館(以下、博物館という)とNPO法人、民間会社、狩猟者(猟

友会各支部)などが連携して、捕獲したシカ肉などの有効利用を図っている。

3 具体的な取組内容

(1)NPO法人(Knots)によるシカ肉の有効利用事業

〇兵庫県ではシカの捕獲個体数は年々増加傾向にあり、そのため「シカ保護管理計画」に基づき、

年間 11,000 頭~13,000 頭に及ぶシカが捕獲されているが、自家消費以外は廃棄物として処分

されている。この処分は、有害鳥獣捕獲にかかわる狩猟者にも大きな負担となっており、そこ

でNPO法人 Knots では博物館と連携して、このシカ肉の有効利用のためペットフードの開発

を行った。

〇平成 12 年春に検討を開始し、平成 13 年春に試作品を完成、同年秋に販売を開始した。

○現在、シカ肉、イノシシ肉を使った高蛋白、低脂肪な無添加ペットフードとして、個人、動物

病院、ペットショップなどと取引されている。開発された商品(シカ肉ジャーキーなど)は、

市販されている他のペットフードと比べても非常に犬の嗜好性が良いという特徴を持つ。

注)上図は「兵庫県産シカ肉の有効利用に関する製品開発 成果報告書 2004 年度」を基に作図した。

図 1 シカ肉の有効活用に関する製品開発の役割(NPO法人、博物館、狩猟者団体など)

NPO 法人

Knots

障害者小規模作業生き活

き生活しえんセンター

Patch

兵庫県人と自然の博

物館

ワイルドライフ

プロジェクトチーム

(社)

県猟友会

・シカ肉加工

・パッキング

・製品の企画、開発

・技術指導

・広報、販売

・シカ感染症リス

クの研究

・シカに関する情

報提供

・猟友会との交渉

・シカ肉の提供

・シカ捕獲個体

調査協力

業務連携

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ペット用のシカ肉ジャーキー(Knots 製品) ペット用のイノシシ肉そぼろ(Knots 製品)

(2)民間会社によるシカ肉加工施設の新設と運営(丹波市)

〇平成 17 年夏にシカ肉加工を目的に、丹波市で民間会社(S社)が設立された。この会社では、

平成 18 年 1 月に北海道のシカ肉処理施設を視察した。

〇S社では、平成 18 年 3 月にシカ肉加工処理施設を新設し、今後、年間 600 頭のシカ肉の買取

(1 頭 5,000 円を上限)、加工、保存(低温熟成)を目指している。加工処理施設の建設に要

した総費用は約 2,500 万円、光熱費(主に冷蔵庫などの電気代)が月 8万~9万円かかる。

○加工処理施設は、解体室、熟成室(-2~3℃の冷蔵室)、冷凍室(-25℃)、肉の加工室及び廃

棄物保管庫(-25℃)からなる。

○全ての肉がいつ、どこで捕獲されたシカに由来するものかを追跡出来るように、肉に固有の番

号(捕獲個体と共通した番号)が振られている。また同時に内臓の一部を 5年間に渡り冷凍保

存することで、肉のトレーサービリティを確立している。

肉の熟成室(-2~3℃の冷蔵室) 加工した肉を保存する-25℃の冷凍室

4 対策実施における成果と問題点

これらの団体の取り組みによって、利用されずに大量に廃棄されていたシカ肉やイノシシ肉の

有効利用方法が検討され、取組体制のモデルづくりが進んだ。

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5 今後の方針及び課題

(1)獣肉利用を進める団体が有する課題

○消費者に受け入れられる商品の開発を進めるため、シカ肉の様々な料理法を研究してゆく必要

がある(今後、料理法の研究や試食会を実施予定)。

○家畜の肉と異なり、野生獣の肉は季節や個体によって味が大きく変るため(シカ肉は夏~秋、

イノシシ肉は秋~冬が食肉として適する季節である)、消費者に旬の食材であることを認識し

てもらう必要がある。

(2)技術情報面を支える行政が有する課題

野生動物の保護管理(特に個体数調整)の概念や必要性および獣肉には適切な加熱調理が必要

であることに関する普及啓発が課題である。その他、適切な利用を図るために、必要な人畜共通

感染症の保有率等の疫学的な調査研究も必要である。

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NO. 10-1 農事組合を中心とした鳥獣害対策への取り組み

地 域 島根県 津和野町 堤田

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○

主な

対策 防護柵の設置 対策獣種

農家の形態 約 7割が販売農家(津和野市全体) 主な被害作物 イネ

事業主体 農業組合

利用している事

業名等 防護柵の設置:中山間地域等直接支払制度

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

津和野町(旧日原町)にある堤田地区(堤田・三渡集落)は、標高約 50 mの起伏に富んだ急

傾斜の多い地域である。農地はほ場整備が完了し、面的にまとまっている。地域の主な作物はイ

ネであり、転作として野菜を栽培するほか、10 戸の畜産農家を中心に飼料作物の栽培を行って

いる。このほかに、加工用にソバ、ダイズ、コムギなども栽培する(水田 34 ha、普通畑 3 ha、

樹園地 1 ha)。

当該地域は、歴史的にも集落活動にまとまりが見られる地域である。そのため、農業法人の立

ち上げなど、集落の農家の強い団結力が見られ、早期の地域ぐるみの被害防止対策や防護柵等の

維持管理体制が整っている。

(2)イノシシによる被害状況

島根県のイノシシ分布は、昭和 30 年代後半までは一部に限られていたが、昭和 40 年代にはい

ると石見地域を中心に、急速な分布拡大が見られ、被害が激増した。要因としては、昭和 30 年

代後半に起こったエネルギー革命により放棄された薪炭林の堅果生産量の増大(イノシシの餌の

増加)、昭和 40 年代に始まった減反政策による耕作放棄地の増加などが挙げられる。

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2 対策の概要

○平成 12 年度の「中山間地域等直接支払制度」を活用し、農地の保全・鳥獣害対策・共同利用

機械の購入などを実施した。

〇農家の強い団結力(集落の農家全戸が農事組合法人に加入)による早期の地域ぐるみの対策と

維持管理体制が確立された。

3 具体的な取組内容

(1)農業組合の設立

旧日原町堤田地区では、高齢化や後継者不足のため、個々の農家による農地の保全や地域農業

の維持が困難になってきた。そのため、平成 11 年 10 月に集落営農委員会、自治会、婦人会など

が集まり「堤田営農研究会」を発足させた。その後、平成 12 年度の「中山間地域等直接支払制

度」の導入を契機に、国、県の事業を取り入れながら集落営農の組織化を検討、平成 14 年 11

月に農事組合法人つつみだファームを設立した(組合員数 58 名)。

(2)わなの設置

〇箱わな 4台、囲いわな1台を設置(平成 10 年頃)した。

〇囲いわなを設置していた時期には、最大で約 30 頭が有害鳥獣捕獲されたことがある。近年、

イノシシの捕獲数は減少傾向にあり、平成 18 年は 6頭の捕獲であった(平成 18 年は、要因は

不明であるが、狩猟期には 1頭も獲れなかった)。

(3)防護柵の設置

○集落を取り囲むように電気柵を設置した。当該地は比較的なだらかな半円形をした地形であり、

直線部分には河川、国道、鉄道が走っている。そのため、電気柵の設置延長は比較的短くて済

んだ。また、農地が団地化(農地が一箇所に集約されている)されていたため、電気柵の設置

が効率的に行うことが出来た。

○維持管理は電気柵管理組合で行っている。また、益田市に近いことから益田市に職を持ちなが

ら堤田に暮らす農家の後継者がおり、比較的若い年齢層が集落に残っていることから、継続的

な電気柵の維持管理が可能である。

設置した箱わな 集落を取り囲むように設置した電気柵の一部

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4 対策実施における成果と問題点

(1)成果

近年、わなにより捕獲されるイノシシの数は減少しているが、依然として集落の周りにはイノ

シシの痕跡が見られ、イノシシの個体数が減少した様子はない。しかし、防護柵(電気柵)の設

置によって、イノシシによる被害は抑えられている。

(2)問題点

設置した防護柵によって、イノシシの侵入はおおむね防止出来たが、柵の構造上(電線型の電

気柵)、シカやサルの侵入防止には対応出来ない。

5 今後の方針及び課題

○一集落一農場方式の体制確立によって、さらなる自発的な取り組みを継続してゆくことが必要

である。

○法人への農地の集積を推進し、農地の集積による転作作物の団地化、転作作物の統一を図り、

耕作放棄地の発生を回避する。

○近隣の集落でサルによる農作物被害が発生し始めた。当該集落では未だ被害が発生していない

ものの、今後、サルの被害防止対策が課題である。

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101

NO.11-1 佐賀県における総合的なイノシシ被害防止対策

地 域 佐賀県

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○

主な

対策

特定鳥獣保護管理計

画と取組体制づくり対策獣種

農家の形態 兼業農家が約7割、自給的農家が約 1

割 5分 主な被害作物 イネ、果樹、タケノコ

事業主体 県

利用している事業

名等 イノシシ被害防止対策推進事業(県単)

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

佐賀県は九州北部に位置し、県南部は河岸の沖積作用と有明海の干満による泥土の供給によ

って形成された佐賀平野が広がる。県内の約 70%は標高 200 m未満の丘陵地や平地からなり、

また九州の中では比較的寒冷な気候ではあるが積雪は少なく、里山を好むイノシシの生息環境

が県内に広く存在する。佐賀県は耕地面積の約 80%が水田である。イネ、ムギ類、野菜(特

にタマネギ)、果樹(主にミカンなどの柑橘類)の栽培が盛んである(グラフと統計でみる農

林水産業・http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

(2)イノシシによる被害状況

九州北部では、明治~大正時代にかけて狩猟圧などの影響でイノシシの地域個体群は絶滅し、

佐賀県の多良山系のみに分布が限定されていた。ところが昭和 40 年代後半から、筑紫山地を

経て脊振山系へイノシシが出現するようになり、その後、県の西部へ分布が広がり、平成 18

年現在、平坦地を除く県内全域でイノシシの生息が確認されている。

このようなイノシシの生息分布域の拡大にともなって、中山間地域を中心に農作物被害が増

加した。被害金額の約 8割を水稲(被害総額の約 43%)と果樹(ミカン、ナシ等で被害総額の

約 35%)が占めている。その他、タケノコの被害(被害総額の約 8%)も多い。

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102

2 対策の概要

○イノシシによる農作物被害の軽減を目的に、平成 15 年に佐賀県はイノシシに対する特定鳥獣

保護管理計画を策定し、個体数管理、被害防除に取り組み始めた。

○被害現場における技術指導者不足を解消するために、平成 18 年から佐賀県では、県、市町等

の職員を対象として、イノシシ被害防止対策の技術指導者の育成を開始した。

3 具体的な取組内容

(1)イノシシの特定鳥獣保護管理計画(平成 15 年)

1)保護管理の目標

県内のイノシシ生息密度や個体数の推移を正確には把握する方法がないため、個体数を管理目

標とせず、計画時点(平成 13 年)の農作物被害金額(約 3.6 億円)を半減させること(1.8 億

円以下)を目標とした。

2)捕獲計画

○狩猟期間を 1 カ月延長した(11 月 15 日~2 月 15 日を 11 月 15 日~3 月 15 日へ延長)。なお、

平成 19 年 3 月に策定した「第 2期佐賀県特定鳥獣(イノシシ)保護管理計画」では、箱わな

及びとめさし....

のための銃器の使用に限り狩猟期を 11 月 1 日~3月 31 日まで延長した。

○地域の被害状況に応じ効率的な捕獲が行えるように、捕獲の許認可権を市町長に委譲した(表

1)。

○狩猟者や市町の協力を得て、捕獲実態(捕獲日、捕獲場所、頭数、性別等)を調査した。

表 1 狩猟、有害鳥獣捕獲及び自衛捕獲の区分

狩猟

免許

捕獲場所と手段 期間 狩猟者

登録

狩猟 必要 ・県内の猟区全域

・銃器及びわな

猟期中 必要

有害鳥獣

捕獲

必要 ・捕獲場所は被害状況に応じて県内各所

・銃器及びわな

年中

※原則、猟期及び猟期

の前後 15 日を除く

必要

注 1)佐賀県の特定鳥獣(イノシシ)保護管理計画において、有害鳥獣捕獲(個体数調整)につ

いては、狩猟者登録を義務付けている。

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103

3)その他の対策

○耕作放棄地や手入れ不足の果樹園の管理の必要性について、農業者に啓発を行う。また、農業

の担い手が少ない地域では、農作業受託組織を育成し、耕作放棄地の発生を防ぐ。

○補助事業などを活用し、地域ぐるみで電気柵の設置を進める(従来、電気柵が多かったが、管

理が容易なため、最近はワイヤーメッシュ柵の導入も増加している)。

○隣接する長崎、福岡の 3 県合同でイノシシ広域一斉捕獲事業を実施した(平成 18 年は 9~10

月のイネの収穫前の第 1、第 3 日曜日に実施)。実施主体は、広域駆除協議会である(県、地

元猟友会、市町村、JA、農業共済組合等)。これは単なる有害鳥獣捕獲ではなく、イネの収

穫前に一斉にイノシシを山に「追い上げる」ことを目的としている。

〇県では、平成 11 年から有害鳥獣捕獲に従事した狩猟者に対する捕獲報奨金の交付を始めた(1

頭あたり約 5,000 円。県と市町が約 1/2ずつ負担)。

○イノシシの生態や適切な被害防止対策の普及のため、被害農家等を対象とした講習会や座談会

を実施している。

4)モニタリング

イノシシの計画的な保護管理を行うため複数の指標の動向を把握する。モニタリング調査は、

毎年実施するもの(被害状況、イノシシの捕獲数や場所等)、次期計画の策定時に行うもの(生

息分布調査、生息環境調査等)、必要に応じて行うもの(捕獲個体の分析)の 3つに分けた。

(2)わな猟特区

佐賀県では、わな猟免許の取得者を増やすために、特区の活用により平成 18 年度狩猟免許試

験時に「わな猟」と「網猟」を分けて実施した。なお、平成 19 年度からは、法律の改正により、

全国で「わな猟免許」と「網猟免許」に分けて実施することとなる。

(3)技術指導者の育成

〇佐賀県では、イノシシ被害防止対策を指導出来る人材が県、市町村、JA等で不足していたた

め、技術指導者(イノシシ対策指導員)の育成を始めた。技術指導員の役割は、「農業者の意

識改革」、「現地における農業者への技術指導」である。

○研修(1日の座学+現地実習)によって、計 300 名の技術指導者を育成する予定となっている

(平 18 年度に 150 名、平成 19 年度に 150 名)。また、県では技術指導者に専門的な助言を行

う専門技術員が 1名確保されている。

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104

4 対策実施の成果と問題点

(1)成果

捕獲報奨金の交付(平成 11 年~)、狩猟期間の延長(平成 15 年:イノシシの特定鳥獣保護

管理計画の策定)、わな猟特区(平成 18 年)によるわな猟免許者の増加等によって、平成 11

年以降はイノシシの捕獲頭数は増加し、平成 14 年に 10,000 頭(佐賀県の捕獲の目標値)を越

えた。その後毎年、10,000~14,000 頭が捕獲されている。

0

100

200

300

400

500

H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17

年度

(百

0

5,000

10,000

15,000

被害金額

捕獲数

図 1 佐賀県におけるイノシシの捕獲数と農作物被害金額の推移(平成 8年~17 年)

(2)問題点

○イノシシ捕獲数は平成 14 年に目標値を超えたが、特定鳥獣保護管理計画で目標とした農作物

被害金額を半減するには至らなかった。

〇県内にはイノシシ肉を有効利用するための施設や体制がないため、有害鳥獣捕獲の場合、人の

食用となるのは約半数で、残るイノシシは山林に埋設している。

〇農業者に対してイノシシの餌となる収穫残渣や生ゴミを放置しないよう指導しているが、十分

○県職員 1名

○鳥獣害対策の先進県や国の試験研究機関において、技術や

知識を習得。

○対象者:市町、農業協同組合、農業共済組合および県農業

改良普及機関、農林事務所の関係職員(合計 300 名)。

○育成研修:1日間の研修(座学と現地研修)。

専門技術員を確保

技術指導者の育成

指導・支援

狩猟期間の延長 捕獲報奨金交付開始

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105

に実行されていない。

5 今後の方針及び課題

農業者等を適切に指導出来る技術指導者を確保するために、平成 18 年に引き続き、19 年も技

術指導者の育成研修を行い、県内の全域を指導出来る体制をつくる。

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NO. 11-2 地域・集落全体を囲んだワイヤーメッシュ柵

地 域 佐賀県 みやき町 中なか

原ばる

山田

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

○ ○ ○

主な

対策

・防護柵の設置

・集落環境整備 対策獣種

農家の形態 地区の約 1/4 が農家世帯 主な被害作物 イネ、野菜

事業主体 山田集落

利用している事業

名等

防護柵の設置、景観作物(ヒマワリ)の植栽: 中山間地域等直接支払制度(ワイヤ

ーメッシュの購入費、ヒマワリの種子代と肥料代等)

1 地域の概況

(1)地域概況

みやき町は、北部九州の筑後平野の穀倉地帯に位置する。平成 17 年 3 月 1 日に、中原町、三

根町、北茂安町の 3町の市町村合併により誕生した。みやき町の農家数は 1,504 戸、そのうち販

売農家数は 1,317 戸(販売農家率は約 88%)となり、耕耕地面積は 2,090 ha である。イネの他、

タマネギ、トマト、ミカンなどの栽培が盛んである(グラフと統計でみる農林水産業・

http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

山田地区は、みやき町の北部、脊振山系の東部に位置し、集落の三方を山林に囲まれた中山間

地域である。当該地区の世帯数は 65 戸、そのうち農家数は 16 戸、耕地面積は 9 ha(水田 8.7 ha、

畑地 0.3 ha)である。

(2)イノシシによる被害状況

平成 8年頃からイノシシによってイネが食害されるようになり、水田を中心に被害が拡大した。

イノシシはイネのほか、イモ類(サツマイモ、バレイショ、サトイモの順に)好むほか、イネ刈

り後の 2番穂もよく食べる。一方、キャベツ等の葉もの野菜やダイコンの被害は少なかった。

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2 対策の概要

○平成 13 年に、集落全体の農地を囲むようにワイヤーメッシュを用いた防護柵を設置した。

○観光客を呼び込むため、防護柵内に観賞用ヒマワリを植栽し、地域の活性化を図った。

3 具体的な取組内容

(1)防護柵の設置

○平成 13 年 8 月、集落の農地約 5 ha をワイヤーメッシュ 1,100 枚(総延長 2,200 m)で囲ん

だ。ワイヤーメッシュの設置作業は、山田集落の住民で行った。広域に設置するため、資材置

き場、設置の手順などを事前に十分に検討した上で実施した。また、直線に設置するための工

夫として、ビニール紐を張り設置場所の目印とした。

〇防護柵に用いたワイヤーメッシュ 2

種類(目合い 10 cm と 15 cm)は、あ

らかじめ錆びにくいようにドブ漬け

(サビ止めの塗装)した。

○15 cm 目合いのワイヤーメッシュを

設置した一部区間では、イノシシの

幼獣がワイヤーメッシュの格子を潜

り抜けて侵入出来ないように、別途

用意したワイヤーメッシュを半分に

切断し、柵の下部に重ねて設置した

(図 1)。

○イノシシの視界を遮るように、ワイヤーメッシュにトタン板を併用して設置した箇所もある。

〇基本的には集落の農地全周を囲むようにワイヤーメッシュを設置したが、イノシシの侵入が難

しいと思われる箇所(写真右下:高さ約 2.5 mコンクリート護岸に沿った箇所等)には柵を

設けないなど、地形や立地条件に応じ、防護柵が設置されている。

ワイヤーメッシュ(草で覆われている)の設置箇

所(川岸に岩が堆積しイノシシが侵入可能)

ワイヤーメッシュの未設置箇所(高さ 2.5mのコン

クリート護岸でイノシシの侵入が難しい)

図 1 半分に切断したワイヤーメッシュ(赤)をずら

して設置(イノシシの幼獣の侵入防止対策)

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2)防護柵の維持管理

〇農地周囲のワイヤーメッシュ柵は、各農地の所有者が柵周辺の草刈りを行い、集落の中央を貫

く県道沿いの柵は、集落の共同作業で草刈りを行っている。

〇農道と防護柵の交差箇所にはゲートが設けられており(写真右下)、夕方に当番がゲートを閉

じる。朝は最初に通行する人が開ける。

〇イノシシの幼獣が侵入した箇所には、園芸用の棒等を利用して、ワイヤーメッシュ柵下部の目

合いを詰めるなどの改良で対応している。

園芸用棒(青)でメッシュ下部の目合い詰める

(イノシシの幼獣の潜り抜け防止)

農道部分との交差箇所に設けられたゲート

(2)ヒマワリの植栽

〇平成 13 年に防護柵で囲うと同時に、柵内の農地の一部にヒマワリを植栽した(外周道を含め

約 1 ha)。

〇ヒマワリはあえて秋咲きの品種を植え、珍しい時期に咲くヒマワリによって人を寄せて地域の

活性化も図っている。

ヒマワリ畑の景観 草刈管理が行き届いたワイヤーメッシュ柵の内側

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4 対策実施の成果と問題点

(1)成果

ワイヤーメッシュ柵を設置した平成 13 年以降、イノシシによる農作物被害はほぼなくなり、

平成 18 年のように周辺でイノシシ被害が多発(例年の約 3倍の頻度でイノシシが出没)した年

でも、山田地区ではほとんど被害が出なかった。また、ヒマワリ畑は、口コミにより訪問者が増

加の傾向にあり、地域の活性化と同時に、イノシシが近づき難い環境づくりに一役買っている。

(2)問題点

ワイヤーメッシュ柵の管理作業によって、柵の内側は十分な草刈りが行われているが、柵の外

側は、草刈りが行われていない箇所もある。

5 今後の方針及び課題

山田地区周辺の未対策集落では、現在もイノシシの被害が発生しており、有効な被害防止対策

をこれらの地域へ拡げてゆくことが今後の課題である。

6 その他の情報

最近、イノシシ防護柵用のワイヤーメッシュが開発され、市販されるようになった。イノシシ

防護柵用のワイヤーメッシュの特徴としては、幅が 1.2 mあり(通常は 1.0 m)、通常は等間隔

であるメッシュ下部の目合が詰められている(図 2)。佐賀県内でも一部の地域で、このワイヤ

ーメッシュ柵導入の予定がある。

200 cm 200 cm

100 cm

120 cm

メッシュ下部の目合いが細かい

通常のワイヤーメッシュ イノシシ防護柵用ワイヤーメッシュ

図 2 通常のワイヤーメッシュ(左)とイノシシ防護柵用に開発されたワイヤーメッシュ(右)

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NO. 12-1 全国初の総合獣肉処理センター

地 域 熊本県 多良木町

行政 地域 農協、狩猟者団体等

都道府県

普及 研究 その

市町

個別

農家

農業

組合

自 治

会 農協

狩 猟

者 団

NPO 法

人等 関係主体

主な

対策 獣肉の有効利用 対策獣種

農家の形態 兼業農家約 6割、自給的農家約 2割 主な被害作物 イネ

事業主体 猪事業利用組合

利用している事業

名等

1 地域の概況

(1)立地や農業の概況

球磨郡多良木町は、宮崎県との県境で熊本県南東部に位置し、標高 1,000 m以上の九州山地

に囲まれ、球磨川沿いに平地が広がる。気候は内陸型の気候区に属し、寒暖の差が激しく、年降

水量が 2,500 mm を越え、一年中温暖多雨な地域である。

多良木町は、町面積の約 10%が農地(うち水田 81%)、農家数は 1,213 戸で、そのうち専業農

家 191 戸、兼業農家 772 戸、自給的農家 250 戸である。イネのほか、葉タバコの栽培が盛んであ

る(グラフと統計でみる農林水産業・http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/index.html)。

(2)イノシシ、シカによる被害状況

人吉・球磨地方は昔からイノシシが多く、狩猟が盛んであった。また、約 20 年前(昭和 60

年頃)まで山間部に限定されていたシカの生息域が広がり、近年では、シカによる農作物被害も

見られるようになった。

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111

2 対策の概要

○熊本県猪事業利用組合が主体となり、関係行政機関から環境衛生面の指導を受け、平成 10 年

にイノシシ処理センター(全国初)を設立、その後、製品加工場を併設した。

○平成 18 年現在、イノシシ、シカなど野生獣を中心に処理・加工・販売を行っている。

3 具体的な取組内容

○平成 6年、熊本県猪事業利用組合を設立し、隣接する宮崎県西都市のイノシシ市場から分かれ

る形で、市場を開設した。3 月~10 月まで毎月 1 回(5 日)、猟最盛期の 11 月~2 月は毎月 2

回(5日と 20 日)市場を開く。捕獲獣の持込料はイノシシの成獣 1,000 円、幼獣(10 kg 未満)

500 円などで、落札価格の 3%を市場の手数料とする。

○平成 17 年の取引量はイノシシが最も多く 517 頭、シカ 80 頭、ヤギ 5頭、ダチョウ 133 頭など

であった。最近、イノシシの単価が下がる一方、シカは年々取引量が増加傾向にあり、需要も

増えている(図 1)。シカは補助金(約 10,000 円/頭)と肉の販売(約 20,000 円/40~50 kg・

頭)で、1頭当たり 20,000~35,000 円ほどとなる。

○最近では、インターネットなどを通じた通信販売が好調である。また燻製など加工品を作り、

肉を細部まで利用するよう工夫も行っている。

0

100

200

300

400

500

600

700

800

H14 H15 H16 H17

(頭

イノシシ

シカ

図 1 イノシシとシカの取引量の経年変化(平成 14 年~17 年)

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112

加工施設の内部 市場の内部

4 対策実施における成果

○高速道路の開通で、周辺地域からの交通アクセスが良くなったこともあり、熊本県内(取引量

の 37%)だけでなく、宮崎、鹿児島など隣接県を含む九州一円(取引量の 63%)からイノシ

シ、シカが集まるようになった(図 2)。

○以前は輸入したイノシシ肉を扱っていたこともあったが、地元産のイノシシ肉を扱うようにな

って、販売量が増えた。

○経験が豊富な狩猟者は捕獲後の処理も適切に行えるが、経験の浅い狩猟者は捕獲後の処理技術

がないため、市場の開場日に放血等の処理について講習会を行うことがある。また、シカにつ

いては現場で血抜き、内臓処理を済ませ、川に浸して体温を下げるなどの工夫を狩猟者に指導

している。

5 今後の方針及び課題

イノシシ肉やシカ肉を特産品として

定着させること、今後も消費者の需要

にあった運営(ダチョウ肉の処理など)

を続けてゆくことが課題である。

図 2 県別の取引量の割合(平成 14 年~17 年)

熊本34%

宮崎18%

鹿児島17%

佐賀13%

福岡10%

長崎4%

大分4%

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113

Ⅲ 鳥獣害被害防止対策の関係図書・資料等一覧

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114

1 鳥獣被害防止対策の関係図書

書籍名 編・著者 発行 発行年月

鳥獣害対策の手引 江口祐輔・三浦慎

吾・藤岡正博 (社)日本植物防疫協会 2002.4

山の畑をサルから守る 井上雅央 農文協 2002.1

イノシシから田畑を守る 江口祐輔 農文協 2003.3

里のサルとつきあうには 室山泰之 京都大学学術出版会 2003.5

技術と普及 特集獣害の現状

と対策 2005.6 Vol.42 寺本憲之

(社)全国農業改良普及支援

協会 2005.6

共生をめざした鳥獣害対策 (社)農林水産技術情

報協会編 全国農業会議所 2005.9

鳥害・獣害こうして防ぐ(別冊

「現代農業」2005.9 月号)

若槻義宏、江口祐輔

他 農文協 2005.9

サル対策完全マニュアル 伊沢紘生+宮城のサ

ル調査会 どうぶつ社 2005.11

山と田畑をシカから守る 井上雅央 金森弘樹 農文協 2006.2

鳥獣害対策ガイドブック - 中国四国農政局 生産経営流

通部農産課鳥獣害対策課係 2006.3

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115

2 各地域の普及啓発冊子

書名 編・著者 発行 発行年月

農山村の現状を踏まえた鳥獣被害対策の一

体的実施のための検討調査報告書 - 農水省生産局 2004.3

農林業における野生獣類の被害対策基礎知

識 -

農林水産省 農林

水産技術会議事務

2003.1

野生鳥獣被害防止マニュアル ―生態と被

害防止対策(基礎編)ー 農水省生産局 2006.3

【国】

野生動物による農林業被害を防ぐ技術 農

林水産研究開発レポート No.17(2006)

農林水産省農林

水産技術会議事

務局

農林水産省 農林

水産技術会議事務

2006.7

エゾシカ生息実態調査報告書(1997~2004

年度)

北海道環境科学

研究センター

北海道環境科学研

究センター 2006.3

【北海道】

ニホンジカ捕獲ハンドブック 梶 光一・

高橋祐史

北海道環境科学研

究センター 2006.3

【宮城県】 平成 17 年度「宮城県ニホンザル保護管理事

業委託業務・完了報告」 伊沢紘生 宮城のサル調査会 2006.3

【石川県】 南加賀のイノシシ対策 鳥獣対策チーム石川県南加賀農林

総合事務所 2006.1

【静岡県】 獣害対策マニュアル-イノシシ、ニホンザ

ル、ニホンジカ-

静岡県農林産物野

生獣被害対策連絡

2005.11

イノシシ農業被害防止対策の手引き(事例

集) -

滋賀県農政水産部

農産流通課 2004.3

ニホンザルとニホンイノシシに対する簡易

侵入防止策、おうみ猿落・猪ドメ君「サーカ

ステント」(新称)の開発研究報告 第 45

号・別冊

寺本憲之・

中山成元

滋賀県農業総合セ

ンター 農業試験

2005.3

ニホンザル農業被害防止策の手引き(事例

集) - 滋賀県 2003.3

【滋賀県】

ニホンジカ農業被害防止対策の手引き(事例

集) - 滋賀県 2006.3

【奈良県】 奈良県鳥獣害対策指導指針 - 奈良県農林部 2006.3

【佐賀県】 特定鳥獣(イノシシ)保護計画 佐賀県 2003.3

【独立行政法

人・民間団体

等】

ニホンザルによる被害を防ぐ

川本芳、斎藤千

映美、室山泰之

他 2名

独立法人森林総合

研究所関西支所 2006.2

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116

3 各地域の普及啓発パンフレット、チラシ等

資料名 編・著者 発行 発行年月

【国】 鳥獣害対策用の電気さくについて -

経済産業省原子

力安全・保安院

電力安全課

2006.3

宮城県ニホンザル保護管理計画 - 宮城県環境生活

部自然保護課 -

なぜ畑に猿が現れるのか - 宮城県産業経済

部農業振興課

平成18年度ニホンザル対策事業について -

仙台市環境局環

境部環境管理課

調整係

仙台市農政だより「特集-鳥獣害対策-」 - 仙台市経済局農

林部農業振興課 2006.8

【宮城県】

参加者用「平成 18 年度カキもぎボランテ

ィア事業」 -

仙台市(農業振

興課、環境管理

課)、JA仙台

2006.10

【福島県】 「サルのエサ場を集落からなくそう(表)

/クマにご注意(裏)」 -

西会津町経済振

興課 農林振興

野生獣による農業被害防止対策の基本 - 滋賀県農政水産

部農産流通課 2005.3

普及現地情報「耕作放棄地での和牛の放

牧が始まる」 木村 悟

滋賀県東近江市

センター 2006.5

地域ぐるみで野生獣にとって魅力のない

里を創り上げましょう -

東近江地域野生

獣被害防止対策

協議会

ヒトとサルの共存のために -

東近江地域野生

獣被害防止対策

協議会

近江八幡市島学区における総合的イノシ

シ対策 -

島町農事改良組

合・白王農事改

良組合

【滋賀県】

イノシシの行動特性に応じた防除技術の

成果紹介

(独)農業・生物系

特定産業、技術研究

機構・近畿中国四国

農業研究センター、

滋賀県農業技術振

興センター湖北分

イノシシ被害対

策技術開発グル

ープ

2006.2

【奈良県】 みんなで防ごう農林産物の猿害(その

1)(その 2)(その 3)

奈良県農業技術セ

ンター

奈良県農林部農

業振興課 -

Page 126: 地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - …...地域における鳥獣被害防止対策 - 取組事例集 - 平成19年3月 農林水産省生産局 i

117

資料名 編・著者 発行 発行年月

森林・野生動物保護管理研究センター(仮

称)整備基本方針 - 兵庫県 2004.6

【兵庫県】

平成 17 年度「森林・野生動物管理官(仮

称)養成研修実施概要」 -

兵庫県農林水産

部農林水産局森

林動物共生室

島根鳥獣情報ステーション被害防止対策

室(HP より)イノシシ対策編

島根県農林水産部

森林整備課鳥獣対

策室

島根県農林水産

部森林整備課鳥

獣対策室

【島根県】

島根のイノシシ対策(HP より)

島根県農林水産部

森林整備課鳥獣対

策室

島根県農林水産

部森林整備課鳥

獣対策室

平成18年度イノシシ対策指導員養成研究 - 佐賀県 -

平成18年度イノシシ対策指導員養成資料

電気牧柵・防護柵設置マニュアル

- 佐賀県 2006.8

佐賀県における被害防止対策について - 佐賀県生産者支

援課 2006.9

【佐賀県】

平成 18 年度九州地区鳥獣害対策研修会

事例報告 「柵で追い出せ!イノシシく

ん」

立石輝明 みやき町中山間

地組合 2006.9