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建設労務安全 22・318
88 (最終回)くい打ち機等の災害
ヒューマンエラーヒューマンエラーと災害事例災害事例災害事例
くい打ち機が転倒し民家を直撃部屋にいた大学生2人が死亡
基礎工事用機械(くい打ち機・くい抜き機、アース・ドリル)の転倒は、第三者災害を伴うおそれがあり、マスコミ報道を賑わし、建設業の信頼を大きく損なう。
労働安全コンサルタント
笠原 秀樹
基礎工事用機械とは、車両系建設機械
の一つに区分され、不特定場所に自走す
るくい打ち機やアースドリル等のことで
す(安衛法施行令第13条第3項第9号、
同別表第7)。
安衛則第172条で定める「動力を用い、
自走しないくい打機等」は車両系建設機
械ではありません。
くい打ち機等の種類別死亡災害発生状
況は、過去5年間(平15~19年)に9件
(平均年1.8件)です(建設業安全衛生年
鑑)。
ただし、くい打ち機の転倒でも、人身
災害を伴わない場合は労働災害の死傷者
にはカウントされず、労働災害の死傷病
データには現れません。現実には、全国
でこの数倍の転倒災害が発生しているも
のと思われます。
労働災害発生時には安衛法第100条に
基づき、事故報告書(安衛則第96条)、
または労働者死傷病報告書(安衛則第97
条)を、遅滞なく所轄労働基準監督署長
に提出する必要があります。
基礎工事は、時には現場事務所や休憩
施設等ができる前から工事が始まること
があります。工事の多くは専門工事業者
に委ねられ、元請も十分工事内容を理解
せず、施工計画も不十分のまま作業が始
められています。
元請は、専門工事業者に敷地状況の詳
細を見積時に提示し、地盤改良や敷鉄板
が必要な場合の措置の区分等を決め、契
約に反映させ、災害防止に努めることが
求められます(安衛法第29条)。
19 建設労務安全 22・3
災害事例とヒューマンエラー
原因は、①大型重機移動中の軟弱地盤への配慮不足、②敷鉄板(幅1.5m×長さ6m、
厚さ20㎜)の強度不足、③安全装置のスイッチOFF、④5連アースドリル着装時の安定
性の配慮不足、⑤運転席から離れた――などが挙げられます。
くい打ち機はベースマシンに取り付けたリーダーを2本のステーで支持します。一般的
にパイルドライバの安定度は左右5度で、5連のアースドリル着装時は安定度がさらに低
下します。まずはメーカーに安定度を確認します。
敷地はボーリング孔から湧水があり地盤はかなり緩んでいたようです。敷鉄板を設置し
ても地盤が不安定な場合は、地盤強化剤等で改良する必要があります。事例では、くい打
ち機の運転者は安全装置のスイッチを切っていたようです。
この事例(平成3年)以降は、地盤の安定性と重機作業の安全を重視するようになり、
敷地が軟弱地盤の場合は敷鉄板を可能な限り広く敷き込むようになりました。鉄板サイズ
も大きくなり、厚さも現在は25㎜以上が多く使用されています。
なお、安衛法第29条の2は、元方事業者の講ずべき措置として、「機械等が転倒するお
それのある場所で作業を行うときは、関係請負人に危険を防止するための措置を適正に講
ずるよう技術上の指導、必要な措置を講じなければならない」と明記しています。
昨年10月に千葉県で本事例と同様の事故が発生しました。鉄板は敷き詰められていまし
たが、前日の雷雨で地盤はぬかるんだ状態でした。幸いケガ人はありませんでした。
くい打ち機が敷鉄板ごと地面に沈み転倒、民家を直撃①くい打ち機が敷鉄板ごと地面に沈み転倒、民家を直撃
原因と対策原因と対策
※H2などの記号は、建設業の
ヒューマンエラー分類区分を
表わします。詳しくは、平成
20年10月号23頁【一口メモ】
を参照して下さい。
住宅密集地の7階建てビル新築
工事現場で、くい打ち機(パイル
ドライバ、重さ100t、高さ30m)
を用いてSMW工法(Soil Mixing
Wall)で作業中、くい打ち機の前
部が敷鉄板ごと地面に沈み、機体
が傾き始めた。慌てて運転者が乗
り込み、後退させようとしたが間
に合わず転倒。隣りの民家を直撃
し、大学生2人が死亡した。(運
転者のH1:教育不足、H2:危
険軽視・安易)
88 (最終回)くい打ち機等の災害
建設労務安全 22・320
アースドリルはくい打ち機、アースオーガーなどと共に安衛法上は車両系建設機械(動
力を用い、かつ不特定の場所に移動できるもの)の1つで、基礎工事用機械に分類されま
す。
ベースマシンはクローラクレーンで、ケリーバをつり下げ、先端に取り付けたドリリン
グバケットを回転させて泥水(安定液)中で掘削し、表層ケーシングは地表付近の土砂崩
壊を防ぐものです。
原因は用途外使用です(安衛則第164条、安衛法第20条第1項)。
車両系建設機械による用途外使用は原則禁止です。ただし、ブームに附属している補助
つり装置で、トレミー管やスタンドパイプなどのつり込み作業は限定的に認められていま
す。トラック上からの荷下ろし等は移動式クレーンを使用します。事例では、表層ケーシ
ングの引抜きに補助つり装置を使用し、制限荷重を超える負荷を掛けたため転倒しました。
この事例は、昨年4月に東京の中心部で発生したためマスコミで大きく報道され、厚生
労働省は業界団体に対し災害防止を要請しました(平21・4・21 基安発第0421001号)。
この中で、作業計画は使用機械設備の配備と作業方法、敷鉄板の敷設等地盤強度の確保や、
作業内容に適した機械の選定とメーカー等の仕様書の遵守、揚重作業は移動式クレーンの
使用――などを求めています。
アースドリルが転倒しブームが道路を遮断、歩行者ら6人が負傷②アースドリルが転倒しブームが道路を遮断、歩行者ら6人が負傷
原因と対策原因と対策
都内のビル新築工事現場(地下2階、地上9階)で、前日打設した基礎杭の表層ケーシ
ング(直径約2.4m、重さ約11tの鋼管)をアースドリルでつり上げ、土中から抜き取る
作業を行っていたところ、アースドリルが転倒。ブームが道路(片側3車線)をふさぎ、
アースドリル運転者、歩行
者2人、トラック搭乗者3
人の計6人が被災した。
(運転者のH1:
教育不足、H2:
危険軽視・安易、
H3:省略本能)
21 建設労務安全 22・3
アースオーガーによるセメントミルク工法は、杭打ち機のベースマシンにスパイラルオ
ーガーを取り付け、所定の深さまで掘削し、掘削孔に根固めのセメントミルクを注入後に
既設杭を挿入する工法です。
原因は、事例シートでは、①アースオーガーが敷鉄板からはみ出した状態で杭のつり込
みを行った、②敷鉄板上に掘削残土が被り、敷鉄板の位置が確認できなかった、③作業計
画の内容が不十分であった――などを挙げています。
PC杭の仮置き場とアースオーガーの距離が14mと離れ過ぎていて、巻き上げたときア
ースオーガーのリーダー頂部に大きな水平力が加わったものと思われます。また、つり込
み側(右側)のクローラーが敷鉄板から外れて傾いたとき、慌てた運転者が操作を誤り被
害を大きくしました。
さらに、アースオーガーから搬出された残土は、ドラグショベル等で計画的に処理し、
敷鉄板上の残土をいつもきれいにしておくことや、施工済み杭頭部の埋め戻し処理方法、
軟弱地盤への対策などの作業計画に不備がありました。
アースオーガーでPC杭のつり込み作業中、クローラーが地面に沈下し転倒③アースオーガーでPC杭のつり込み作業中、クローラーが地面に沈下し転倒
原因と対策原因と対策
災害事例とヒューマンエラー
鉄塔基礎工事現場で、セメントミルク工法杭(深さ11m)を施工中、当日は地盤が軟
弱だったためアースオーガーは敷鉄板上で作業を行っていた。最後の杭をつり込むため、
14m先(段差2m)から補助つり装置のフックに杭頭の玉掛けワイヤーロープを掛け巻き
上げたところ、アースオーガーの右側クローラー前部の地盤が沈下し後部が浮き上がった。
運転者は操作を誤り、機体が
敷鉄板から外れ、施工済みで埋
め戻した杭部分にめり込み横
転。運転者が下敷きとなり死亡
した。(運転者のH1:教育不
足、H2:危険軽視・安易、H
5:パニック状況)
建設労務安全 22・322
掘削した杭の拡底作業を終え、アースドリルを移動するための障害となっていた拡底バ
ケットを、補助つり装置を使って進路外に移動した後、アースドリルのブーム起伏と左旋
回操作を同時に行い、機体を次の場所の方向に向け移動しようとしました。
原因は、①移動方向先で作業者2人が片付け作業中だったため、すぐには終わらないと
判断した運転者は、アースドリルからエンジンを切らずに降りた(安衛則第160条)、②ブ
ーム起伏レバーが「上げ」の状態になっていた、③過巻き防止の安全装置が調整不良で作
動しなかった、④始業前点検で安全装置の作動を確認していなかった――などが挙げられ
ます。
類似事例では、タワークレーンで同様な過巻きでブームを逆に倒す事例が意外に多くあ
ります。原因は作業効率を優先し、高度な操作に支障があるからと運転者が安全装置に物
を挟んで作動しないようにしていました(自己技能の過信)。
マンション新築工事現場で、アース
ドリルのエンジンをかけたまま運転者
が降りて、周辺の片付け作業中、アー
スドリルのブームの起伏ワイヤーロー
プが過巻き状態となり、機体がのけぞ
るように後方に倒れた。(運転者のH
1:教育不足、H2:危険軽視・安易、
H3:省略本能)
アースドリルのブーム起伏ワイヤーロープが過巻きとなり転倒④ アースドリルのブーム起伏ワイヤーロープが過巻きとなり転倒
原因と対策原因と対策
23 建設労務安全 22・3
特定作業(建設業で2以上の事業者の労働者が一の場所において、機械(安衛法施行令別表第7)に係る作業)
では、複数の杭打工事業者や揚重クレーン等が別途発注など、複数の事業者(協力会社)で行う場合があり
ます。その際は、事業者の一方が代表者(措置義務者)となり、運転、作業装置の操作、玉掛け、杭の建て
込み、杭頭の接続、誘導について、連絡調整(作業内容、指示系統、立入禁止区域)を行う必要があります(安
衛則第662条の7)。
杭工事の連絡調整一 口 メ モ一 口 メ モ
高校のプール新築工事現場で、くい打ち機でコンクリート杭(直径45㎝、長さ16m)
を打設していた。102本のうち前日までに70本を終了。当日は3本目を打設した後、次の
打設位置まで移動中に左側のクローラーが地面にめり込み転倒、電柱とブロック塀をなぎ
くい打ち機が軟弱地盤を敷鉄板なしで移動中に転倒⑤くい打ち機が軟弱地盤を敷鉄板なしで移動中に転倒
災害事例とヒューマンエラー
敷地は学校のグランドなので表面は硬いのですが、ボーリングデータでは地表下1.5m
はN値5以下でした。特記仕様書には、「重機移動の際は下部に敷鉄板(幅1.5m×長さ3
m、厚さ22㎜)12枚を順次移設して敷き、施工の安全を確保すること」と明記されていま
した。
敷鉄板5枚は現場内に敷かれていましたが、転倒個所には敷設されていませんでした。
前日まで7割の作業を終えていたため、敷鉄板なしでも可能と判断したかもしれません。
後日、くい打ち機の移動の際に敷鉄板を使用しなかった過失があったとして、現場責任
者と重機の経営者、オペレーターがそれぞれ書類送検されました。
原因と対策原因と対策
倒し、道路を横断して向かい側の
敷地に倒れた。なぎ倒された電柱
が車を直撃し2人が負傷した。
(運転者のH1:教育不足、H2:
危険軽視・安易、
H3:省略
本能)