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宇宙測地学講義ノート 参考 URL http://www.sci.hokudai.ac.jp/~furuya/lecture 連絡先:furuya[at]mail.sci.hokudai.ac.jp 内線: 2759 0. 宇宙測地学とは 測地学(Geodesy)とは、 (昔)地球の形大きさ重さを求める学問 (今)地球の形大きさ重さの時間変化を求めてその原因を探る (惑星、月も含む) 技術革新(昔)地上測量(辺長、三角、水準、重力、光学的な天体観測 (今)宇宙測地技術 (Space Geodesy) 宇宙から地球を測る、人工衛星を利用する 参考文献: 日本測地学会 HP(「測地学テキスト」) 地球が丸いってほんとうですか? Satellite Geodesy -2 nd edition-, Seeber (de Gryter, 2003) A Student’s Guide to the Geophysical Equation, Lowrie, W (Cambridge Univ. Press, 2011) 地球科学における諸問題,竹内均(裳華房, 1972, 最近復刊された)

宇宙測地学講義ノートfuruya/lecture/Chapter1.pdfdW=0=g・dx ←内積ゼロ gはdxと直交.つまり,W=一定の面に直交する (一般に二つのベクトルの内積が0とは,

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宇宙測地学講義ノート 参考 URL :http://www.sci.hokudai.ac.jp/~furuya/lecture 連絡先:furuya[at]mail.sci.hokudai.ac.jp 内線: 2759

0. 宇宙測地学とは 測地学(Geodesy)とは、

(昔)地球の形大きさ重さを求める学問 (今)地球の形大きさ重さの時間変化を求めてその原因を探る (惑星、月も含む)

技術革新(昔)地上測量(辺長、三角、水準、重力、光学的な天体観測 (今)宇宙測地技術 (Space Geodesy) 宇宙から地球を測る、人工衛星を利用する 参考文献: 日本測地学会 HP(「測地学テキスト」) 地球が丸いってほんとうですか? Satellite Geodesy -2nd edition-, Seeber (de Gryter, 2003) A Student’s Guide to the Geophysical Equation, Lowrie, W (Cambridge Univ. Press, 2011) 地球科学における諸問題,竹内均(裳華房, 1972, 最近復刊された)

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「測地学」で分かることの事例 -東北太平洋沖地震の後の地殻変動(左:水平変位,右:上下変位)- 1200 点以上の GPS(最近は GNSS とよぶ)観測点(GEONET);www.gsi.go.jp

-東北太平洋沖地震に前後する電離層の全電子数 TEC の変化(Heki,2011)- GEONET の 5 点で

得られた地震前後

の全電子数変化.放

物線状の変化は衛

星軌道の変化で説

明できる見かけの

変化で,そこからの

ず れ が 「 異 常

(Anomaly)」.地震

前に増加している.

国土地理院

138° 139° 140° 141° 142° 143° 144°

35°

36°

37°

38°

39°

40°

41°

42°

100 km

白抜き矢印:保守等によるオフセット補正

2011/03/11 M9.0

48.0cm(銚子)

73.3cm(相馬1)

33.7cm(八戸)

76.8cm(岩泉2)

95.8cm(山田)

44.4cm(北茨城)

84.1cm(矢本)

14.2cm(東通2)

94.4cm(岩手川崎A)

75.8cm(M牡鹿)

50cm

東北地方太平洋沖地震(M9.0)後の地殻変動(水平)ー累積ー

基準期間 : 2011/03/12 ‑‑ 2011/03/12 [F3:最終解]

比較期間 : 2013/02/17 ‑‑ 2013/02/23 [R3:速報解]

固定局:福江(長崎県)

国土地理院

138° 139° 140° 141° 142° 143° 144°

35°

36°

37°

38°

39°

40°

41°

42°

100 km

白抜き矢印:保守等によるオフセット補正

2011/03/11 M9.0

+10.6cm(銚子)

+10.2cm(相馬1)

+1.8cm(八戸)

‑11.5cm(岩泉1)

‑7.7cm(岩泉2)

‑6.0cm(山田)

+6.6cm(北茨城)

+20.4cm(矢本)

+4.1cm(東通2)

+11.9cm(岩手川崎A)

+24.5cm(M牡鹿)

10cm

東北地方太平洋沖地震(M9.0)後の地殻変動(上下)ー累積ー

基準期間 : 2011/03/12 ‑‑ 2011/03/12 [F3:最終解]

比較期間 : 2013/02/17 ‑‑ 2013/02/23 [R3:速報解]

固定局:福江(長崎県)

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-氷河流動の観測(ペリートモレノ氷河,パタゴニア)- 「だいち」SAR(合成開口レーダー)データで得られた流速分布(左,単位 m/day)と従来型の光波測量(右)の結果の比較

-重力観測衛星 GRACE でみる重力の時空間変化-

2002 年に米独共同の重力観測ミッション Gravity Recovery And Climate Experiment(GRACE)が開始.グリーンランド,アラスカ,南極沿岸での氷河質

量減少,カナダ,スカンジナビア半島の Postglacial rebound,スマトラ地震に

伴う重力変化が見える.単位は microgal/yr (9.8m/s2=980gal).同様の双子衛星

による月の重力ミッション GRAIL は 2012 年に実施終了.

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1. 重力、ジオイド、ポテンシャル論 g =万有引力+遠心力 =∇ (万有引力ポテンシャル+遠心力ポテンシャル)

=∇ (  V+ !!  ω!S!  )

=∇ (W) W: 重力ポテンシャル W(x,y,z)=V(x,y,z) +  !!ω!S!

ある位置 (x,y,z)のスカラー関数 g と W の関係

全微分 dW =   !!!!dx+ !!

!!dy+  !!

!!dz

= ( !!!, !!!, !!!)W・(dx, dy, dz) = ∇W・dx =g・dx

いま dx が W=一定の面に沿っているとき dW=0=g・dx ←内積ゼロ g は dx と直交.つまり,W=一定の面に直交する (一般に二つのベクトルの内積が 0 とは, それぞれが直交する) ジオイド (Geoid):W=一定の面のうち、平均海水面に一致するもの(数学的に

綺麗に表現できる類いのモノではなく,空間的には凸凹している).

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標高:ジオイド面から鉛直線に沿って測った高さ (上図からも分かる通り,元々

凸凹したジオイド面が基準になっている) Geoid height ジオイド高(単位は meter):

GRS80(地球楕円体)

に対する高さで表現

する

水準測量 Leveling (Survey) ← 上下方向の測定.精度は mm 精度まで可能 比高は A→B のルートに依存する(なぜなら W=一定の面が平行でないから)

δH!"①  ≠  δH!"

しかし、δW (ポテンシャルの差)は経路によらない (位置だけの関数だから) dW=g・dx dx と g を反対向きにとると = -g dH (A)

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P 点の正標高 (Orthometric height)をどう求めるか? (A)を積分 P0から P まで積分する

dW!!

!!

=  W! −  W! = − gdH!!

!

= −  H!!!!

gdH!!!

= −  H!  g

ここで g は,ジオイド面から地表面までの重力加速度の“空間的平均”である.

万有引力ポテンシャル V をどう表現するか? 点 O に質点m、点 P で受ける力 F

F =  Gmr!  r

ただし、𝑟 =   !! (単位ベクトル:P → 0 を正)

ここでガウスの発散定理を用いる

𝑢 ∙ 𝑛  𝑑𝑠 =   ∇!

∙  𝑢  𝑑𝑉

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𝑟𝑟!!𝑑𝑠 =   ∇

!  𝑟𝑟! 𝑑𝑉

ただし、𝑟 =   !!!!!!!!!

𝚤 +   !!!!!!!!!

𝚥 +   !!!!!!!!!

𝑘

∇   !!!

= 0   (原点(質点)以外、原点では発散する)より

𝐹!

 𝑑𝜎 =   ∇𝐹  𝑑𝑉 = 0!

もし、𝐹 =  ∇𝑉 ならば ∇ ∙ ∇V = ∇!𝑉 = 0 (Laplace 方程式という.右辺が

ゼロでない場合は,Poisson 方程式とよばれる). ・球座標における Laplace 方程式の一般解 r方向と(θ、λ)方向に変数分離

V   r,𝜃, 𝜆 =  1

𝑟!!!

!

!!!

 𝑌!(𝜃, 𝜆)

ここで𝑌!(𝜃, 𝜆)は球面調和関数である。

𝑌! 𝜃, 𝜆 =   (𝐶!"

!

!!!

𝑃!! cosθ cosm𝜆 +  𝑆!"𝑃!! cosθ sinm𝜆)

したがって、

V   r,𝜃, 𝜆 =𝐺𝑀𝑟    

𝑅𝑛

!!

!!!

!

!!!

 (𝐶!"cosm𝜆 +  𝑆!"sinm𝜆)𝑃!"(𝑠𝑖𝑛∅)

ここで Cnmと Snmがいわゆる展開係数であり,重力ポテンシャルに対しては特に

「ストークス係数(Stokes coefficient)」とよぶ.地磁気ポテンシャルでも同様の表

現が用いられ,その場合にはガウス係数とよばれている.

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𝑃!" 𝑠𝑖𝑛𝜑 の n = 2までの具体形

m=0 m=1 m=2

n=0 1 n=1 sin𝜑 cos𝜑 n=2 3

2 𝑠𝑖𝑛!𝜑 +

12

3 sin𝜑 cos𝜑 3𝑐𝑜𝑠!𝜑

n=2 の場合の球面調和関数のパターン ここで

𝐶!"𝑆!"

=  1

𝑀𝑅! (2− 𝛿!!)𝑛 −𝑚 !𝑛 +𝑚 ! 𝑟! !  𝑃!"(𝑠𝑖𝑛𝜑)

𝑐𝑜𝑠  (𝑚𝜆′)𝑠𝑖𝑛  (𝑚𝜆′) 𝑑𝑚

、Cnm, Snm:Stokes Coefficent

𝛿!! =   1  (𝑚 = 0)0  (𝑚 ≠ 0) クロネッカーのデルタ

ストークス係数の低次面(n=2)までは物理的な意味がある

n=0 の場合 𝐶!! =!!

𝑑𝑚 = 1 S00=0

n=1 の場合 𝐶!" =  !!"   2− 1 !!

!!𝑟!𝑃!"(𝑠𝑖𝑛𝜑)𝑑𝑚

=1𝑀𝑅 𝑟`𝑠𝑖𝑛𝜑`𝑑𝑚

1𝑀𝑅 𝑧`𝑑𝑚 =

1𝑅  (重心の z座標)

𝐶!! =1𝑀𝑅 (2− 𝛿!")

1!2! 𝑟`𝑐𝑜𝑠𝜑`𝑐𝑜𝑠𝜆`𝑑𝑚 =

1𝑀𝑅 𝑟`𝑐𝑜𝑠𝜑`𝑐𝑜𝑠𝜆`𝑑𝑚

=1𝑅 (重心の x座標)

𝑆!! =1𝑀𝑅 (2− 𝛿!")

1!2! 𝑟`𝑐𝑜𝑠𝜑`𝑠𝑖𝑛𝜆`𝑑𝑚 =

1𝑅 (重心の y座標)

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n=2 の場合 𝐶!",𝐶!", 𝑆!", 𝑆!",𝐶!!, 𝑆!!→慣性モーメント、慣性乗積と関連する

𝐶!" =1

𝑀𝑅! (2− 1)2!2!

32 𝑠𝑖𝑛

!𝜑 −12 𝑑𝑚

=1

2𝑀𝑅! 𝑟`" 3𝑠𝑖𝑛!𝜑 − 1 𝑑𝑚 =1

2𝑀𝑅! 3𝑧`" − 𝑥`" + 𝑦`" + 𝑧`" dm

=1

2𝑀𝑅! 2𝑧`" − 𝑥`" + 𝑦`" =1

2𝑀𝑅! (𝐴 + 𝐵 − 2𝐶)

=1

2𝑀𝑅! 2𝐴 − 2𝐶 =−1𝑀𝑅! (𝐶 − 𝐴)

ここで、A,B,C はそれぞれ x,y,z のまわりの慣性モーメントである。

A = 𝑦`" + 𝑧`" 𝑑𝑚

B = 𝑥`" + 𝑧`" 𝑑𝑚

C = 𝑥`" + 𝑦`" 𝑑𝑚

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球面調和関数の一例

P(cosθ)とある時のθは余緯度(= 90°— 緯度)