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Title 作文の評価項目に関する検討 : 意見文の評価は何に影響 を受けるのか Author(s) 吉川, 愛弓; 岸, 学 Citation 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系, 57: 93-102 Issue Date 2006-02-00 URL http://hdl.handle.net/2309/1421 Publisher 東京学芸大学紀要出版委員会 Rights

作文の評価項目に関する検討 : 意見文の評価は何に影響 · 「よい作文とは何か」の基準 が設定できなければ指導の方向や順序を見いだすこと

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Page 1: 作文の評価項目に関する検討 : 意見文の評価は何に影響 · 「よい作文とは何か」の基準 が設定できなければ指導の方向や順序を見いだすこと

Title 作文の評価項目に関する検討 : 意見文の評価は何に影響を受けるのか

Author(s) 吉川, 愛弓; 岸, 学

Citation 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系, 57: 93-102

Issue Date 2006-02-00

URL http://hdl.handle.net/2309/1421

Publisher 東京学芸大学紀要出版委員会

Rights

Page 2: 作文の評価項目に関する検討 : 意見文の評価は何に影響 · 「よい作文とは何か」の基準 が設定できなければ指導の方向や順序を見いだすこと

* An examination of items for evaluating compositions. -What is the factor that affects evaluation of opinion texts -/

Ayumi YOSHIKAWA, Manabu KISHI** 東京学芸大学大学院教育学研究科*** 東京学芸大学(184-8501 小金井市貫井北町4-1-1)

東京学芸大学紀要 総合教育科学系 57 pp.93~102,2006

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1.はじめに

1.1 「伝え合う力」を育成する意見文

現行の学習指導要領では,国語科の目標を「国語を適

切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を

高めるとともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,

国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる。」

と定めている。そこには,平成元年度版の学習指導要領

の目標には見られなかった「伝え合う力」という表現が

新たに加えられており,それと対応して,平成元年度版

では「A表現」「B理解」〔言語事項〕の2領域1事項の

領域構成であったものが,現行の学習指導要領では「A

話すこと・聞くこと」「B 書くこと」「C 読むこと」〔言

語事項〕の3領域1事項に改められている。以前は「表

現」という領域でひとくくりにされていた内容が,「A話

すこと・聞くこと」「B書くこと」と分けられ,それぞれ

に細かく指導内容が記載されるようになってきている。

小学校国語科でこの「伝え合う力」の指導として中核

をなすのが,自分の思いや意見を書く作文や手順ややり

方を説明する説明文の作文(岸,2003)であろう。両者

に共通するのは,読み手の存在を明確に意識し,読み手

に対して説得や共感を促す意見や正確な情報を伝えるこ

とを目的としている点である。特に,意見文は,自分の

思いや考えが伝わらなければ意見文としての意味はな

い。ただ単に意見を列挙すればよいだけでなく,それを

効果的に伝えるにはどうするかという,より高度な技能

が必要となるのである。また,読み手側も,当然ながら

書き手の意見を分かろうとしながら読みすすめるはずで

あり,意見文は「伝え合う力」の育成に非常に適した指

導材料であるといえる。

1.2 作文の評価項目の検討

作文の評価に関しては,評価基準の曖昧さ(国立国

語研究所,1978;井上・大熊,1985など),評価基準

の量の多さ(青木,2002)など,問題点とともにその

難しさが指摘されている。「よい作文とは何か」の基準

が設定できなければ指導の方向や順序を見いだすこと

はできないはずだが,よい作文を評価するための項目

作り,ものさし作りの段階で多数の困難さが示されて

おり,評価方法の設定が隘路になって作文指導や作文

指導研究が十分進まないのが現状である。

梶井(2001)は,小学校教員を対象に,生活文を評

価するための項目の信頼性・妥当性を検討し,どのよ

うな評価項目が「使える」のかを研究している。

研究では,学習指導要領に基づいて,表1に示した

18の作文評価項目を作成している。

それに加えて,2つの総合評価項目を設定している。

一つは「うまさ」であり,「どのくらいうまい作文だと

感じたか」,もう一つは「好み」であり「どのくらいそ

の作文が好きか」である。

これら計20の評価項目によって,小学1年生から6

年生まで各学年3文章ずつ計18の生活文を評定しても

らっている。評定は学習指導要領からの18項目は5件

法,総合評価項目は7件法である。

生活文評価に使用可能な項目として,「作文の直感的

作文の評価項目に関する検討

──意見文の評価は何に影響を受けるのか*──

吉 川 愛 弓**・岸     学***

教育心理学

(2005年9月30日受理)

Page 3: 作文の評価項目に関する検討 : 意見文の評価は何に影響 · 「よい作文とは何か」の基準 が設定できなければ指導の方向や順序を見いだすこと

よしあしを判断でき,評定者間で評定結果が一致する

こと」「総合評価と関係が深いこと」の2つの条件を満

たすものを分散分析と重回帰分析により探っている。

そして,2つの条件のうち,両方を満たすものを「使

用できる項目」,どちらか片方のみを満たすものを「要

検討の項目」,どちらも満たさないものを「使用の難し

い項目」とした。

結果は,多くの項目が「要検討の項目」となってお

り,学習指導要領を反映させた項目のみでは生活文の

評価は難しいと結論づけている。

では,作文の評価はどのような要因に影響を受ける

のだろうか。椿本(2002)は,説得的文章の主観的評

価が,文章のどのような側面に影響を受けるかについ

て,調査している。研究では,説得的文章のキーワー

ドの数と文の長さを変化させた文章(表層変化文章)

と,段落数,結論位置,主張位置を変化させた文章

(構成変化文章)によって,文章の評価がどのように変

わるのかを検討している。

その結果,表層変化文章・構成変化文章それぞれで,

いくつかの項目に平均差(主効果)が見られたが,表

層変化文章と構成変化文章とでは,平均差が見られる

項目が全く異なっていたのである。つまり,同じテー

マでかかれた文章でも,その書かれ方によって評価が

変動するという主観的評価の問題が指摘されている。

さらに,中村・椿本・岸(2003)では,主観的評価に影響

を与えているのは,文章の書かれ方も大きいが,評価者

の文章能力の方が影響が大きいことを見いだしている。

また,別の要因も考えられる。淘江(1999)は,意

見文や評論文のような文章を理解しようとする際に,

読み手の共感性の能力は影響するのかについて調査を

行っている。共感性の程度は共感性尺度改訂版(EESR)

(角田,1994)によって測定し,「国旗・国家法」に対

する意見文,その意見文についての理解度テストを材

料にして検討している。

結果は,高共感性群と低共感性群との間には,理解

度テストの正答率に有意差が見られた。ここから,共

感性の高い人は共感性の低い人に比べて,意見文や評

論文などの文章をより深く理解できるのではないかと

述べている。

1.3 本研究の目的

以上の研究を基に,本研究では,意見文を評価項目

によって的確に評価するための基礎的な知見を明らか

にする。そのため,次の3つの目的について調査研究

東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第57集(2006)

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表1 児童の作文評価項目一覧表(梶井,2001)

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により解明する。

①目的1:意見文評価に適した評価項目を検討する

梶井(2001)が学習指導要領の内容を反映させて作

成した18の作文評価項目に,新たに独自の評価項目を

加えた評価項目群を作成し,意見文評価に適した評価

項目を検討する。

新たに付け加える評価項目は,現行学習指導要領に

設けられている観点では述べられておらず,且つ意見

文を評価する上で重要であると判断したものを設定し

た。具体的には「わかりやすさ」「伝わりやすさ」「説

得性」「賛同」「個性重視」である。

本研究では,それらの評価項目を使って意見文を評

価し,その結果から,意見文評価に適した評価項目は

どのような項目なのかを検討する。

②目的2:意見文はどのような書かれ方をしたとき,

評価が高くなるのかを検討する

椿本(2002)の研究から,文章の書かれ方が評価に

大きく影響することが分かった。そこで本研究では,

どのような書かれ方をした意見文が「よい意見文」と

して高い評価を得るのかを調査・検討する。書かれ方

の違いとして,本研究では,「文末表現の曖昧・断定の

違い」「文章内に用いる例示の肯定・否定の違い」の2

つを取り上げる。

「文末表現の曖昧・断定」に関しては,意見文が自分

の思い・意見を他人に伝えるために書かれる文章である

ので,主張の強さが評価に影響することが考えられる。

文章内で主張の強さを反映させるときには表現が曖昧か

断定かが大きく関与すると思われ,本研究で取り上げる

要因とした。「例示の肯定・否定」は,意見文の指導に

おいて「自分の意見・考えを述べる際には事実や理由を

挙げるとよい」示されていることによる。その述べ方と

して,例が肯定的か否定的かに着目することにした。

③目的3:評価の高低は個人要因としての個人の共感

性の程度と関連するかを検討する

淘江(1999)の調査から,共感性の高低が文章理解

の程度に影響を及ぼすことが分かった。そこで本研究

では,文章の評価の高低と共感性との間に関係がある

かを検討する。さらに,個人要因として文章のテーマ

や内容に対する興味の影響も検討する。

2.方 法

2.1 調査協力者

国立大学教育学部学生75名。

2.2 調査の構成

調査は次の3つから構成されている。

1)共感経験尺度による調査(詳細は2.3参照)

2)文章評価事前調査(詳細は2.4参照)

3)文章評価課題(詳細は2.5参照)

2.3 共感経験尺度による調査

目的3の個人要因として,個人の共感性レベルを測

定した。共感性は共感経験尺度改訂版(EESR)(角田,

1994)を使用した。尺度は,「他人と同じ気持ちになっ

たことがあるか」を尋ねる共感経験尺度10項目と「他

人と同じ気持ちにならなかったことがあるか」を尋ね

る共感不全経験尺度 10項目の計2因子 20項目からな

る。回答は,「まったく当てはまらない」から「とても

当てはまる」までの5件法で行った。

2.4 文章評価事前調査

目的3の個人要因として,文章のテーマ・内容への

興味の程度を測定した。測定は,文章評価課題実施前

に行った。内容は,各文章ごとにその文章の主題及び

主題ではないが関連する内容ついて計 10項目を作成

し,各項目について「全くそう思わない」から「とて

もそう思う」の5件法で回答してもらった。

2.5 文章評価課題

2.5.1 評価文章の選択

小学校の教科書に記載されているものから5種類を

使用した。文章の選択の基準は,1)意見文であること,

2)例示表現が使われていること,3)文章の長さが

400字~600字程度であること,である。

2.5.2 評価文章の作成方法

目的2の文章要因調査のため,5種類中4種類の文

章(文章テーマ「ふろしき」「まんが」「ジョギング」

「言葉」)について,教科書に記載されていた文章(以

下,原文と記す)の他に,「文末表現の曖昧・断定」

「文章内に用いる例示の肯定・否定」の2つの条件を設

定し,それに基づいて文章を書き替えた。

1)「文末表現の曖昧・断定」条件は,文章の末尾を

曖昧な言い方(例:~なような気がします。~か

もしれません。)か,断定的な言い方(例:~であ

る。~に決まっている。~に違いない。)にした。

2)「肯定例示・否定例示」条件は,文章中に用いる

例示を肯定的な例示(ここでは,最終結論に対し

て肯定的なという意味のほかに,楽しくなるよう

なことなどプラスの感情をつづった例示も含め

る)のみを使用するか,否定的な例示(ここでは,

最終結論に対して否定的なという意味のほかに,

悲しくあるいは不快になるなどマイナスの感情を

つづった例示も含める)のみを使用するかである

(表2)。

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吉川・岸:作文の評価項目に関する検討

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つまり,この4種類の文章については「原文」の他

に4通り,計5通りの文章が作成された(表3)。

原文については,語尾は曖昧もしくは断定に著しく

偏っているということはなかった。また,原文の例示

に関しては,肯定例示と否定例示が1つずつ使用され

ているものを選出した。

なお,5種類の文章の残り1種類(文章テーマ「夢」)

に関しては全員共通課題として原文のみを使用した。

表4に共通課題の文章を示した。

2.5.3 文章評価項目の構成

1つの文章につき,評価項目は3タイプ24項目であ

った。以下にその構成を説明する。

①総合評価項目(1項目)

「どのくらいうまい作文だと思いましたか」という教

示のもと,その文章のうまさを「非常にうまくない」

から「非常にうまい」までの7件法で回答してもらっ

た。

②教員使用項目(10項目)

梶井(2001)が学習指導要領に基づき作成した18の

文章評価項目の中から,高学年用のもの6項目(表5の

項目1~6)(以下,【学習指導要領項目】)を使用した。

また,梶井の調査では,現役小学校教員を対象に,

指定された項目以外に作文を評価する時に重要視する

項目があれば回答してもらうという自由記述の質問が

設定されていた。その結果を基に,新たに4項目を付

け加え(表5の項目 7~ 10)(以下,【その子らしさに

関する項目】),合計10項目を,教員が作文評価の際に

使用している項目だと設定し,教員使用項目とした。

回答は「非常に当てはまらない」から「非常に当ては

まる」までの5件法で行った。

東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第57集(2006)

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表2 例示書き替えの例

表3 文章要因調査に使用する5つの文章パターン

表4 全員共通文章 テーマ「夢」 原文

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③印象項目(本人用印象項目8項目,小学生用印象項

目5項目,計13項目)

学習指導要領を反映した項目では生活文を評価するこ

とは難しいという梶井(2001)の結論から,作文の評価

には学習指導要領を反映しない評価の観点が存在すると

考える。そこで,現行学習指導要領に設けられている観

点では述べられておらず,且つ意見文を評価する上で重

要であると考えられる「わかりやすさ」「伝わりやすさ」

「説得性」などの観点(以下,「伝わりやすさ」などの観

点)に基づき,新たに5項目を調査者が作成した(表6

及び7の項目1~5)。

「本人用印象項目」(表6)では「伝わりやすさ」な

どの観点から調査者が作成した5項目に加え,「賛同・

理解」という観点から新たに2項目(表6の項目6と

7),「個性重視」という観点から1項目(表6の項目

8)の3項目を加え,計8項目とした。そして,これ

らの項目内容について,自分はどう感じたかを「非常

に当てはまらない」から「非常に当てはまる」までの

5件法で回答してもらった。

「小学生用印象項目」(表7)では「伝わりやすさ」

などの観点から調査者が作成した5項目について,評

価者に,小学生がこの作文を読んだときどう感じると

思うかを予想してもらい,同じく5件法で回答しても

らった。

なお,これらの項目は「伝わりやすさ」を始め,共感

するかや個性的だと思うかなど,文章に対する印象を尋

ねる項目であることから,「印象項目」と名付けた。

2.5.4 文章の評価順序

評価してもらう文章は,一人につき,各テーマ1

編ずつ,計5編であった。文章書き替えパターンの

組み合わせの違いにより5タイプの文章評価課題を

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吉川・岸:作文の評価項目に関する検討

表5 教員使用項目

表6 本人用印象項目

表7 小学生用印象項目

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作成した。文章提示順序は,全員が評価する共通課

題を1番目とし,それ以外の 4つはランダムに並べ変

えた。

2.6 手続き

1)学生には授業などを通じて質問紙を配布した。質

問紙は各調査協力者に任意の時間・場所で行って

もらった。

2)質問紙は「共感性尺度」「文章評価事前調査」「文

章評価課題」の順に行ってもらうようにした。そ

れぞれの調査用紙の最初には,回答方法の教示を

記載した。

3)各調査協力者が,質問紙回答に要した時間は 15

~30分程度であった。

3.結果と考察

3.1 評定の結果

共通課題(テーマ:「夢」)に対する 24の項目につ

いて,その評定平均とSDの結果を表8に示した。なお,

総合評価項目は7件法(1~7点),それ以外は5件法

(1~5点)である。

3.2 目的1:意見文評価に適した評価項目の検討に

ついて

意見文を評価する際に,総合評価に大きく影響を及

ぼす項目は何かを検討するため,「うまさ」について評

価した総合評価の評点を従属変数,教員使用項目と印

象項目の評点を独立変数として重回帰分析(stepwise

法)を行った。

まず,教員使用項目・印象項目合わせて23項目を独

立変数として分析を行い,その後,独立変数を教員使

用項目のみ,自分用印象項目のみ,小学生用印象項目

のみとし,それぞれ同様に分析を行った。結果を表9

に示す。なお,表内には,stepwise法の結果,選択さ

れた標準偏回帰係数のみを記載した。

なお,分析のデータは,共通課題文章に対する結果

を対象とした。分析にはSPSSを使用した。

表9より,意見文を評価するのに有効な項目である

可能性が高いと考えられる9項目(負の係数を除く)

について詳しく見ていくと,【学習指導要領項目】は6

項目中2項目だけであり,残りは【その子らしさに関

する項目】が2項目,【伝わりやすさに関する項目】が

自分用・小学生用合わせて5項目となっている。ここ

から,意見文を適切に評価するためには,構造や論理

性を評価するような【学習指導要領項目】だけでは足

りず,学習指導要領に基づいた項目以外の項目,具体

的には個性を評価する【その子らしさに関する項目】

や文章を読んだときの印象を評価する【伝わりやすさ

に関する項目】が必要であると考えられる。

3.3 目的2:意見文はどのような書かれ方をしたと

き,評価が高くなるのか?

意見文はどのような書かれ方をしたとき,評価が高

くなるのかを検討するため,文章の書かれ方の違いに

よって評価に差があるのかを検討した。

3.3.1 文末表現の曖昧・断定の違いによる影響

文末表現条件には,曖昧・断定に加え,文末が曖昧

にも断定にも偏っていない原文の3つを設定した。そ

こで,作文のテーマ別に,文末表現条件(3水準)を

要因とする1要因分散分析を行った。従属変数は各項

目の評定点である。結果を表10に示す。なお,表には,

主効果が見られたものについて多重比較を行った結果

のみを記載した。

3.3.2 肯定例示・否定例示の違いによる影響

例示条件には肯定例示・否定例示に加え,肯定例示

と否定例示が1つずつ含まれている原文の3つがある。

東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第57集(2006)

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表8 共通課題(テーマ「夢」)の項目別評価得点平均と標準偏差

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吉川・岸:作文の評価項目に関する検討

表9 総合評価「うまさ」を従属変数とした場合の各項目の重み

表10 文末表現条件を従属変数とした場合の項目ごとの差

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そこで,作文のテーマ別に,例示のタイプ(3水準)

を要因とする1要因分散分析を行った。従属変数は各

項目の評定点である。結果を表11に示す。なお,表に

は,主効果が見られたものについて多重比較を行った

結果のみを記載した。

3.3.3 文末条件・例示条件の違いの総合結果

文末の違いによる分析結果と例示の違いによる分析

結果とを合わせて見てみると,どちらの場合でも差が

見られなかった項目は6項目であり,【学習指導要領項

目】は1項目も含まれていなかった。

ここから,【学習指導要領項目】は文章の書かれ方に

大きく影響を受ける項目である,つまり,内容が同じ

であっても文章の表面的な書かれ方の違いによって評

価が変わってくる項目であると考えられる。言いかえ

ると,【学習指導要領項目】は,内容の良し悪しに関わ

らず,その文章の書かれ方のみを評価できる項目であ

ると考えることができる。

3.4 目的3:評価傾向によって共感性に差はあるのか?

評価傾向によって共感性に差があるのかを検討する

ために,まず,個人ごとに共感性2因子の因子得点を

算出した。そして,全評価項目23項目の評点をそれぞ

れ上位群・下位群に分け,共感性因子得点との間でt

検定を行った(表 12)。なお,データは,全員共通課

題の総合評価及び評価項目である。

その結果,共有経験因子との間で,【その子らしさに

関する項目】4項目中2項目について,その項目を高

く評価した評定者ほど共有経験因子得点が高いという

共通の結果が見られた。ここから,個性を評価する

【その子らしさに関する項目】は,個人の共感性レベル

の影響を非常に受けやすい項目だと考えられる。それ

に対し,【学習指導要領項目】は個人の共感性の影響を

ほとんど受けない項目であることが分かる。

東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第57集(2006)

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表11 例示条件を従属変数とした場合の項目ごとの差

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4.作文評価への提言

意見文を適切に評価するためには,【学習指導要領項

目】のように文章の構造や論点の明確さなどを評価す

る項目だけではなく,【その子らしさに関する項目】の

ように個性を評価する項目,【伝わりやすさに関する項

目】のように文章を読んだときの印象を評価する項目

が必要ではないかと思われる。

また,評価項目は,指導・評価目的によって使い分

ける必要があると言える。本研究結果からは,以下の

ような使い分けが可能であると思われる。

①評価者の要因を反映させたいとき:物語文評価や児

童同士の作文相互評価など

評価者の共感性といった個人の要因を評価に反映さ

せても構わない場合には,「うまさ」を評価できる項目

で,さらに個人の要因の影響を受ける項目を使用する

とよい。具体的には,教員使用項目【その子らしさに

関する項目】の8「生き生きと書けている」,9「自分

の思いが素直に表現されている」,自分用印象項目【伝

わりやすさに関する項目】の5「言いたいことは分か

る,伝わる」の3項目である。

②評価者の要因を反映させたくないとき:入試問題の

意見文・小論文の評価など

評価者の共感性といった個人の要因を評価に反映さ

せたくない場合には,「うまさ」を評価できる項目で,

さらに個人の要因の影響を受けない項目を使用すると

良い。具体的には,教員使用項目【学習指導要領項目】

の2「目的に応じて,簡単に書いたり,詳しく書いた

りしている」,3「文章全体の組み立てが整っている」,

自分用印象項目【伝わりやすさに関する項目】の3

「説得力がある」の3項目である。

主として,評価者の要因を反映させたいときには

【その子らしさに関する項目】が,評価者の要因を反映

させたくないときには【学習指導要領項目】が,それ

ぞれ効果的であると考えられる。

〈文 献〉

*青木伸生 2002 <参考資料>をどう生かすか -小

学校国語- 指導と評価,48,7,12_15. 日本教

育評価研究会

*井上尚美・大熊徹 1985 授業に役立つ文章論・文

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吉川・岸:作文の評価項目に関する検討

表12 項目ごとの評点上位群・下位群と共感性との関係

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体論 教育出版

*梶井芳明 2001 児童の作文はどのように評価され

るか? 教育心理学研究,49,480_490.

*岸 学 2003 説明文理解の心理学 北大路書房

*国立国語研究所 1978 児童の表現力と作文 国立

国語研究所報告67 東京書籍

*中村光伴・椿本弥生・岸 学 2003 文章評価への

Latent Semantic Analysis(LSA)の可能性 日本教育

心理学会第45回総会論文集,Pp. 84.

*角田豊 1994 教官経験尺度改訂版(EESR)の作成

と共感性の類型化の試み 教育心理学研究,42,

193_200.

*椿本弥生 2002 説得的文章の評価は何によって影

響を受けるか _Latent Semantic Analysis(LSA)によ

る検討 東京学芸大学卒業論文

*淘江正仁 1999 共感性と視点変換能力との関係

-文章理解に他者への共感の能力は影響するか-

東京学芸大学卒業論文

東 京 学 芸 大 学 紀 要 総合教育科学系 第57集(2006)

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