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土星衛星エンケラドス海水試料採取による アストロバイオロジー探査 矢野創 1 、関根康人 2 、高野淑識 3 、船瀬龍 2 、渋谷岳造 3,4 、高井研 3 ESR検討チーム、LIFE検討チーム 1:JAXA宇宙科学研究所, 2: 東京大学、3: 海洋研究開発機構、4: 米・ジェット推進研究所 (e-mail: [email protected] ) 概要:「海水」の研究は、それを擁する天体のハビタビリティーに関して決定的な情報を提供しうる。土星衛星エンケラドスは、南極付近から塩 化物や有機物を含む海氷粒子のプリュームを現在も噴出している。この粒子を、高質量分解能なその場質量分析や多波長分光、そして可能ならば 地球へのサンプルリターンによる詳細な物質分析に供することで、内部海の化学組成、温度条件、海の存続時間など生命存在可能性の制約情報を 計測し、さらには「現在も海水中に生きている、地球生命と別系統で発生した生命」活動の証拠、あるいは生命の残滓そのものの探索が実現でき る。筆者らは2011年より、エンケラドス海水試料採取構想を、日米の検討チームと連携して、複数検討してきている。本発表では、それらの概要 と期待される科学成果、実現に向けた諸課題について論じる。 第14回 ISAS宇宙科学シンポジウム P2-156 アストロバイオロジーとは? 海水とハビタビリティー: 火星・エウロパ・タイタンとの比較 土星衛星エンケラドス ミッション実現に向けた技術課題 エンケラドス探査の科学目標 ミッションシナリオ・オプション CDA: Schmidt et al. (2012) C H3 O O - O O - N H3 + Carboxylate Amino Hydroxyl N N N N NH2 O OH OH O P O O - O P O O - O P O O - O - Phosphate 「従来、地球でのみ検証 されてきた現在の『生物 学(バイオロジー)を、 物理・化学同様に、宇宙 (アストロ)のどこでも 通用する普遍的な知識体 系へ飛躍させるために、 既存の学問領域を統合し た学際的探求」 (例1)氷含有微粒子の非破壊捕集、揮発~再吸着捕集 エアロゲルによる超高速衝突微粒子サンプルリターンの経験 地球低軌道: EuReCa, Shuttle-Mir, MPAC-SEEC,たんぽぽ 惑星間空間: Stardust (例2)惑星保護(Planetary Protection)対応: BSL4初期分析施設と地球表層生態系からの汚染管理 深海微生物サンプルリターン・分析の実績 課題はまだ多い。しかし道筋は見えている。 RTOF INMS 現在の宇宙実 績(Cassini) におけるその 場分析能力の 限界 現在の地上 実験室での 分析技術の 革新 サンプルリターン挑戦の動機 ・米LIFE構想:米日欧の国際協力による Discoveryクラスでの土星周回フライバイSR ・日ESR構想:日本主導、ソーラー電力セイル の技術実証に立脚した土星周回フライバイSR キラリティ分 析による「地 球と共通祖先 を持たない」、 炭素ベース生 命(真の隣 人)を探すに は、氷衛星が 最有力。ただ し木星の大型 衛星での着 陸・潜水サン プルリターン は、現在の探 査技術レベル では困難。 This document is provided by jAXA.

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Page 1: 土星衛星エンケラドス海水試料採取による アストロ ...土星衛星エンケラドス海水試料採取による アストロバイオロジー探査 矢野創1、関根康人2、高野淑識3、船瀬龍2、渋谷岳造3,4、高井研3、

土星衛星エンケラドス海水試料採取によるアストロバイオロジー探査

矢野創1、関根康人2、高野淑識3、船瀬龍2、渋谷岳造3,4、高井研3、ESR検討チーム、LIFE検討チーム

1:JAXA宇宙科学研究所, 2: 東京大学、3: 海洋研究開発機構、4: 米・ジェット推進研究所(e-mail: [email protected])

概要:「海水」の研究は、それを擁する天体のハビタビリティーに関して決定的な情報を提供しうる。土星衛星エンケラドスは、南極付近から塩化物や有機物を含む海氷粒子のプリュームを現在も噴出している。この粒子を、高質量分解能なその場質量分析や多波長分光、そして可能ならば地球へのサンプルリターンによる詳細な物質分析に供することで、内部海の化学組成、温度条件、海の存続時間など生命存在可能性の制約情報を計測し、さらには「現在も海水中に生きている、地球生命と別系統で発生した生命」活動の証拠、あるいは生命の残滓そのものの探索が実現できる。筆者らは2011年より、エンケラドス海水試料採取構想を、日米の検討チームと連携して、複数検討してきている。本発表では、それらの概要と期待される科学成果、実現に向けた諸課題について論じる。

第14回 ISAS宇宙科学シンポジウム P2-156

アストロバイオロジーとは? 海水とハビタビリティー:火星・エウロパ・タイタンとの比較

土星衛星エンケラドス

ミッション実現に向けた技術課題

エンケラドス探査の科学目標

ミッションシナリオ・オプション

CDA: Schmidt et al. (2012)

CH 3

O

O -

O

O -NH 3+

Carboxylate Amino Hydroxyl

N

N

N

N

NH 2

O

OHO H

OP

O

O -OP

O

O -OP

O

O -O -

Phosphate

「従来、地球でのみ検証されてきた現在の『生物学(バイオロジー)』を、物理・化学同様に、宇宙(アストロ)のどこでも通用する普遍的な知識体系へ飛躍させるために、既存の学問領域を統合した学際的探求」

(例1)氷含有微粒子の非破壊捕集、揮発~再吸着捕集

エアロゲルによる超高速衝突微粒子サンプルリターンの経験地球低軌道: EuReCa, Shuttle-Mir, MPAC-SEEC,たんぽぽ

惑星間空間: Stardust

(例2)惑星保護(Planetary Protection)対応:BSL4初期分析施設と地球表層生態系からの汚染管理

深海微生物サンプルリターン・分析の実績

課題はまだ多い。しかし道筋は見えている。

RTOF

INMS

現在の宇宙実績(Cassini)におけるその場分析能力の限界

現在の地上実験室での分析技術の革新

サンプルリターン挑戦の動機

・米LIFE構想:米日欧の国際協力によるDiscoveryクラスでの土星周回フライバイSR・日ESR構想:日本主導、ソーラー電力セイルの技術実証に立脚した土星周回フライバイSR

キラリティ分析による「地球と共通祖先を持たない」、炭素ベース生命(真の隣人)を探すには、氷衛星が最有力。ただし木星の大型衛星での着陸・潜水サンプルリターンは、現在の探査技術レベルでは困難。

This document is provided by jAXA.