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1 亜リン酸を用いて遺伝子組換え体を 封じ込める実用的手法 広島大学大学院先端物質科学研究科 廣田 隆一,黒田 章夫 平成29613

亜リン酸を用いて遺伝子組換え体を 封じ込める実用的手法 · 1 亜リン酸を用いて遺伝子組換え体を 封じ込める実用的手法 広島大学大学院先端物質科学研究科

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1

亜リン酸を用いて遺伝子組換え体を封じ込める実用的手法

広島大学大学院先端物質科学研究科

廣田 隆一,黒田 章夫

平成29年6月13日

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遺伝子組み換え技術はバイオテクノロジーの根幹技術

組換えインスリンの生産(1978年、ボイヤー)

→世界で400万人以上が使用

遺伝子組換え作物

→作付面積1億7530万ha(2013年)

安価な飼料・糖源の供給を可能に

3

遺伝子組換え生物利用の形態

第一種使用

文部科学省研究開発二種省令による

第二種使用環境中への拡散防止措置を

執らない拡散を防止しつつ使用する

圃場、飼料、野積み等 発酵培養槽、実験室

4

カルタヘナ法第二種使用等における拡散防止措置

物理的封じ込め:組換え体を逃がさない

生物学的封じ込め:組換え体が逃げても環境中では生きられなくする

もし実験室外に逃げ出しても・・・

5

Prof. J Kato

遺伝子組換え微生物の開発の現状

www.synberc.org

大腸癌を攻撃する大腸菌

レーダー搭載型環境浄化細菌

乳酸菌経口ワクチン

IL-10生産乳酸菌Nat Biotechnol 2003

高度な組換え体の利用に対応した封じ込め手法が必要

• ゲノム編集

• 合成生物学

• ゲノム合成

バイオテクノロジーの技術革新

Sahara Forest Projectジェット燃料

生産藻類

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米国エネルギー省(DOE)も生物学的封じ込めをグラントの要件に

開発する微生物には、環境漏出におけるリスクを最小限にするための生物学的封じ込めを施さねばならない

次世代バイオプロダクションのためのバイオシステムデザイン(予算規模:約1-5億円/件)

“Applications should include strategies to address biocontainment, minimizing risks of potential release of engineered organisms into the environment or other unintended outcomes.”

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従来技術とその問題点1:古典的概念による封じ込め手法

自殺遺伝子(トキシン-アンチトキシンシステム等)

→耐性変異体が出現しやすい

栄養要求性(ビタミン、アミノ酸要求性変異等)

→天然に存在したり、他の生物が作り出したりする

8

大腸菌ゲノムを書き換えて(155個のTGAコドン)、非天然アミノ酸に依存する株を作製。

改変された大腸菌ゲノム

• 合成アミノ酸が高価(¥6,000/L以上*)* 4-Azido-L-phenylalanineの場合

• 株の作製が極めて複雑課題

合成栄養要求性〜自然界に無い物質に対する要求性〜

Rovner et al, Nature 2015, 518: 89-93Mandell et al. Nature 2015, 518: 55-60

従来技術とその問題点2:最新の合成生物学的封じ込め手法

人工アミノ酸を利用できるタンパク質合成系

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亜リン酸

• 3価のリンを有する• 通常の生物は利用できない

• 環境中には有効な濃度で存在しない

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亜リン酸を利用したバイオテクノロジー(技術的背景)

リン酸亜リン酸

亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PtxD)

NAD+

+H2ONADH

+H+

Ralstonia sp. 4506

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抗生物質を使用せずに目的株の選択的な培養が可能(先行技術)

ptxD導入株

野生型

分裂酵母微細藻類

(シアノバクテリア) シロイヌナズナ

リン源:亜リン酸

ptxD導入株

野生型ptxD

導入株野生型

特許5892621

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亜リン酸を利用した封じ込めのコンセプト

環境中では生存できない

あらゆるリンを利用可能

自然環境実験室環境

リン酸,リン酸エステル

通常の微生物

亜リン酸しか利用できない株

得られるリン源

環境中で増殖する

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亜リン酸だけしか利用できない性質を作る

有機リン酸輸送体(3種)

UgpB GlpTUhpT

PitA Phn PstPitB

リン酸輸送体(4種類)

1. 亜リン酸の利用能力 → PtxD遺伝子の導入2. リン酸利用能力の喪失 → リン酸輸送体遺伝子の破壊

3. リン酸を取り込まず、亜リン酸だけを取り込む輸送体→存在が知られていなかった

亜リン酸を利用した封じ込めに必要な要件

亜リン酸 リン酸PtxD亜リン酸

リン酸は取り込まない輸送体“X”

大腸菌の例リン酸

リン酸

有機リン酸

14

0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

亜リン酸だけを取り込む輸送体の発見

0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

リン酸輸送体(PstSCAB)

輸送体無し

時間(時)

菌体

増殖

(OD

600)

リン酸

亜リン酸

リン輸送能力検定株

100 0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

作製した封じ込め株(RN1008)次亜リン酸輸送体

(HtxBCDE)

0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0 20 40 60 80 1000.0

0.5

1.0

1.5

2.0

亜リン酸輸送体(PtxABC)

リン酸を全く取り込まない

リン酸を全く取り込まない

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封じ込め株は亜リン酸培地以外では増殖しない

亜リン酸合成培地

土壌抽出液培地LB

TerrificBroth2xYT

リン酸合成培地

106

105

104

103

102

101

106

105

104

103

102

101

スポ

ット

あた

りの

細胞

血清培地A 血清培地B

野生株 RN1008ス

ポッ

トあ

たり

の細

胞数

野生株 RN1008 野生株 RN1008 野生株 RN1008

野生株 RN1008 野生株 RN1008 野生株 RN1008 野生株 RN1008

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封じ込め株は亜リン酸が無いと死滅する

0 2 4 6 8 10 12 14100

102

104

106

108

1010

Time (day)

CFU

/mL

亜リン酸を含まない培地(2xYT)

亜リン酸を含む培地

* *

*: 検出されず

培養

液1m

Lあ

たり

の細

胞数

経過日数

亜リン酸がない条件では約2週間で完全に死滅

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新技術の特徴・従来技術との比較:1

1. 従来技術が実現できなかった、高い封じ込め効果と実用性を実現できる封じ込め技術。

2. 封じ込め効果は既存のどの方法よりも高い(約5兆匹のうち一匹も生存できない)。

3. 作製原理がシンプルなため、多くの微生物に利用できる可能性が高い。

4. 亜リン酸は安価に得られるため(リン酸とほぼ同等)、大規模の微生物培養に適用可能。

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新技術の特徴・従来技術との比較:2

5. 生命の必須元素であるリンを使った初めての封じ込め技術。

6. 栄養要求性を作ることが困難な生物(微細藻類など)にも原理的には利用可能。

7. 亜リン酸を使った培養では、抗生物質を使用せずにコンタミネーションを防止できる(先行技術)。

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新技術の特徴・従来技術との比較:まとめ

本手法従来法:

人工アミノ酸による手法Rovner et al. (Nature 2015)

選択物質 亜リン酸

合成アミノ酸(4-Azido-L-phenylalanine)

+ジアミノピメリン酸

封じ込め効果 極めて高い(検出限界値:1.9×10-13 /細胞)

極めて高い(検出限界値:6.3×10-12 /細胞)

加工が必要な遺伝子数

合計10個(大腸菌:8個遺伝子破壊

+2種類遺伝子導入)

155個以上(全TAGコドンの書き換え+tRNA+アミノアシルtRNA

synthetase)

他種バクテリアへの適用 容易 極めて困難

コスト¥0.4/L

(化学プラントから生じる副産物も利用可)

¥6,000/L

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想定される用途

1. 微生物を用いたバイオプロセス全般

2. 使用菌株のGILSP化(安全性の承認必要)

3. さらに封じ込め効果を高めることで、将来的には開放系での利用に展開できる可能性がある。

微細藻類のオープンポンド培養

プロバイオティクス・医療用途

バイオレメディエーション等

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実用化に向けた課題:1(株の作製について)

1. 現在のところ大腸菌のみで実証。現在、シアノバクテリアにおける実証を進めている(JST-ALCAプロジェクト)。

2. 亜リン酸輸送体の機能的発現が重要。Htx輸

送体はグラム陰性のバクテリア以外では、機能しない可能性がある。多くの生物に適合性を高める必要がある。

3. 遺伝子破壊系が確立している必要がある。簡便な作製原理を検討中。

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4. 現時点では二種省令における第二種使用の拡散防止措置が必要。

5. 安全評価試験をクリアし、安全性の高さが認められれば、確認申請や拡散防止措置の緩和などが適用される可能性がある。→装置、廃棄プロセスの簡素化が可能に

6. 人為起源の亜リン酸(農業資材、工業廃棄物)に留意する必要がある

実用化に向けた課題:2(株の利用について)

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企業への期待

• 実用スケールにおける有効性の実証(微細藻類を希望)。

• 封じ込め株の安全性評価の共同試験(大腸菌、微細藻類)。

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本技術に関する知的財産権発明の名称 :形質転換体、形質転換体の製造方法、 および、

当該形質転換体を用いた還元型リン化合物の有無の検出方法

出願番号 :特願2016-170317出願人 :広島大学

発明者 :廣田隆一、黒田章夫

発明の名称 :亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質の製造方法及びその利用

出願番号 :特許5892621出願人 :広島大学

発明者 :黒田章夫、廣田隆一

発明の名称 :亜リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質の製造方法及びその利用出願番号 : US特許9273290B2出願人 :広島大学

発明者 :黒田章夫、廣田隆一

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産学連携の経歴

• 2014年-2017年 発酵企業A社と共同研究

• 2016年-現在 JST先端的低炭素化技術開発(JST-ALCA): 「亜リン酸を用いたロバスト且つ封じ込めを可能とする微細藻類の培養技術開発」

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お問い合わせ先

広島大学

産学・地域連携センター 産学連携部門

産学官連携コーディネーター

奥原 啓輔(おくはら けいすけ)

E-mail : [email protected]

TEL : 082-424-4302

FAX : 082-424-6189