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ITUジャーナル Vol. 46 No. 11(2016, 11) 25 今回はドローン関連の技術に関して、解説する。 まずは、ドローン本体の解説となる。 1.機体構成 ドローンの本体は以下の部品によって構成される。(図1・フライトコントローラー ・バッテリー(LIPO:リチウムポリマー電池) ・電流制御ユニット ・Electronic Speed Controller(ESC)モーター回転制 御コントローラー ・ブラシレスモーター ・プロペラ ・電波受信機/電波送信機 2.飛行原理 ドローンが飛ぶ仕組みは、以下のとおりである。 ・上昇・下降(スロットル):すべてのモーターが同じ く回転する。 ・前進・後退/左右(エレベーター/エルロン):進め たい方向のモーターと逆側の回転を強くすることで、 機体の傾きにより移動する。 ・回転(ラダー):交互に回転方向が違うモーターの回 転を強くすることで右回転・左回転する。 操縦者の操作信号により、フライトコントローラーが モーター回転数を自動的に計算し、機体制御をしなが ら、飛ぶ仕組みである。(図23.ドローンとラジコンの違い 従来のラジコンは、送信機からの信号を受けて、動力や 操舵の操作信号をそのままサーボモーターやアンプに伝え ており、操縦者が直接、舵や動力(スロットル)を操作す るので難しく、修練の上の高度な技術が必要であった。 一方、ドローンは、受信機とモーターアンプの間にフラ イトコントローラーと呼ばれるマイコンが搭載されている。 受信機を介して受けた操舵やスロットルの操作信号はフラ イトコントローラーによって、各種センサーからの機体動 作状態を検出し、姿勢制御を自動に行いながら、個別のモー ターへの回転数を計算し、モーターアンプに伝える。 日本におけるドローンの現状〈後編〉 ―技術的解説 すのはら 原 久 ひさのり ドローン・ジャパン株式会社 取締役会長 スポットライト 図1.機体部品構成図(筆者作成) 図2.ドローンの飛行原理(筆者作成)

日本におけるドローンの現状〈後編〉 ―技術的解説...イトコントローラーと密接な関係にある。 フライトコントローラーに関しては、現状、大別すると

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Page 1: 日本におけるドローンの現状〈後編〉 ―技術的解説...イトコントローラーと密接な関係にある。 フライトコントローラーに関しては、現状、大別すると

ITUジャーナル Vol. 46 No. 11(2016, 11) 25

 今回はドローン関連の技術に関して、解説する。 まずは、ドローン本体の解説となる。

1.機体構成 ドローンの本体は以下の部品によって構成される。(図1)

・フライトコントローラー・バッテリー(LIPO:リチウムポリマー電池)・電流制御ユニット・Electronic Speed Controller(ESC)モーター回転制

御コントローラー・ブラシレスモーター・プロペラ・電波受信機/電波送信機

2.飛行原理 ドローンが飛ぶ仕組みは、以下のとおりである。

・上昇・下降(スロットル):すべてのモーターが同じく回転する。

・前進・後退/左右(エレベーター/エルロン):進めたい方向のモーターと逆側の回転を強くすることで、機体の傾きにより移動する。

・回転(ラダー):交互に回転方向が違うモーターの回転を強くすることで右回転・左回転する。

 操縦者の操作信号により、フライトコントローラーがモーター回転数を自動的に計算し、機体制御をしながら、飛ぶ仕組みである。(図2)

3.ドローンとラジコンの違い 従来のラジコンは、送信機からの信号を受けて、動力や操舵の操作信号をそのままサーボモーターやアンプに伝えており、操縦者が直接、舵や動力(スロットル)を操作するので難しく、修練の上の高度な技術が必要であった。 一方、ドローンは、受信機とモーターアンプの間にフライトコントローラーと呼ばれるマイコンが搭載されている。受信機を介して受けた操舵やスロットルの操作信号はフライトコントローラーによって、各種センサーからの機体動作状態を検出し、姿勢制御を自動に行いながら、個別のモーターへの回転数を計算し、モーターアンプに伝える。

日本におけるドローンの現状〈後編〉―技術的解説

春すのはら

原 久ひさのり

徳ドローン・ジャパン株式会社 取締役会長

スポットライト

■図1.機体部品構成図(筆者作成)

■図2.ドローンの飛行原理(筆者作成)

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 そのため、操縦者は繊細な操作なしに、機体の姿勢や高度を維持することができ、簡単に操縦することができるようになった。(図3)

 ドローンが業務に活用されていくに従って、既存の機体を飛行させるだけでなく、より業務に適した利用が求められており、ドローン技術全体をきちんとシステムで捉えていくことが必要となってきている。

4.システムとしてのドローン ドローンシステムは主に(1)機体上のフライトコントローラー、(2)機体上のコンパニオンコンピューティング、(3)地上側のPC、タブレット、スマートフォン、(4)クラウド、の4つのリソースによって成り立っている。(図4)

(1)機体上のフライトコントローラー

 フライトコントローラーがまさにドローンを“自律”たらしめるもので、人間の機能でいうと筋肉や“反射”に近いようなある種の肉体性というものを感じさせるものである。(図5)

 フライトコントローラーに以下のようなセンサーが内蔵

もしくは接続されることで、“自律”を行っている。・ジャイロセンサー:回転する変化(加速度)を検知・加速度センサー:移動により生じる加速度を検知しど

の方向にどれくらい動いたかを計算・気圧センサー:気圧差を計測し、高度変化や高度位

置を計算・磁気センサー:方位や場所に起因する磁気の変化を

捉える・超音波センサー:対象物からの距離を監視する・ポジショニングカメラ:対象物の形状や色などを認識

してデータ化して位置情報などに利用・GPSユニット:衛星からの信号を拾って位置を特定する

 このフライトコントローラーに対して、今後、新しい機体制御用のセンサーが付加されていくことで、“自律”の精緻さが向上していくことになる。

(2)機体上のコンパニオンコンピューティング

 このコンパニオンコンピューティングは、昨年あたりか

スポットライト

■図3.ドローンとラジコンの違い(筆者作成)

■図4.ドローンの技術フレームワーク(筆者作成)

■図5.各種フライトコントローラー

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ら急速に動き出している部分である。 フライトコントローラーのCPUが主にARM系のレスポンシビリティ性が高いものが使われるのに対し、コンパニオンコンピューティングのほうのCPUはより処理能力が高いNVIDIAやINTEL系のCPUが使われる傾向にある。 これはフライトコントローラーが筋肉や反射といった肉体系の機能だったことに対し、いわば、人間の脳にあたる機能になっている。 現在、このコンパニオンコンピューティング上で、画像解析による衝突回避や他ドローンとの群制御といったものが開発され始めている。この開発が進み、人工知能(AI)が活用されていくことで、ドローンは自らが判断し目的に応じて航行するようになるであろう。現在、一番ホットな開発領域と言えよう。

(3)地上側のPC、タブレット、スマートフォン

 このリソースにおいては、現在、操作用のアプリケーションやテレメトリーと呼ばれる機体からの情報収集用アプリ、また、自動航行用のソフトウェアなどが開発されている。また、空から収集したデータを解析したり、クラウドにアップロードするためのツールなども作られている。 今後、飛行ログの解析といったものも、非常に重要なツールとなっていくであろう。

(4)クラウド

 クラウドでのソリューションに関しては、現在、日本では機体から直接クラウドに上げるための手段がなく(現状、SIMはドローンに搭載して使用することが認められていない等)、地上側のPCやタブレット、スマートフォン等を経由して送られている。 そのクラウド上で主にドローンで取得したデータの処理や解析を行うサービス(ドローンの空撮映像を3Dマッピング化する等のデータ加工サービス、ドローンで撮った画像・動画を共有するサービス等)が海外では展開され始めている。 また、ドローンの機体や運用、データを管理するサービスも始まりつつある。SIMのドローンへの搭載が可能になれば、よりリアルタイムに機体を管理したり、遠隔地の画像や映像をリアルタイムで送るようなサービスも生まれてくるであろう。

5.ドローンのプログラミング システムとしてのドローンを実現させていく中で、システムを構築するための重要な要素がプログラミングである。

(1)DJIとDronecode

 ドローンのプログラミングにおいて、使われているフライトコントローラーと密接な関係にある。 フライトコントローラーに関しては、現状、大別するとDJI系とDronecode系の二種類に分かれる。 DJI系は機体側がOnboard SDK(Software Development Kit)となっており、アプリケーション側はMobile SDKとなっている。また、Dronecodeは機体側がPX4というオープンソースになっており、アプリケーション側はDroneKitとなっている。

(2)プログラミングでできること

 プログラミングを行うことで以下のような開発や拡張が可能になっている。 ①機体

 ・機体制御 ・VTOL ・精緻な着陸や自動航行 ・GPSに頼らない測位や航行 ・ペイロード管理 ・強風対策

 ②Companion Computing ・衝突回避 ・室内航行 ・群制御

 ③アプリケーション ・自動航行アプリケーション ・カメラ制御 ・撮影ポイントの同期 ・飛行ログ解析

 ④クラウド ・管制システム ・航行管理

 (3)DJIの戦略

 DJIは、今まで比較的クローズな戦略を敷いてきたが、産業での用途が広がるにつれ、昨年から、ソフトウェア開発者が機体の機能拡張やアプリケーションが開発できるよ

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うに、SDKという形で開発可能な環境を提示している。 機体拡張に関するSDKはOnboard SDKとなり、PCやタブレットといったデバイスでのアプリケーションを開発するためのSDKは、Mobile SDKとなっている。 (DJIの開発者向けサイト:https://developer.dji.com/) DJIはこういった形で開発者をサポートする中で、各々の産業用途でのDJIの機体が活用されるシーンを広げている。

(4)Dronecode

 一方、欧米を中心に広がっているのは、Dronecodeである。Dronecodeとは、Dronecode Foundationが提供するドローンソフトウェア開発者向けオープンソースコード体系である。 PX4(自律航行制御プログラム)及びDronekit

(アプリケーション開発用プログラム)などで構成され、ソフトウェア開発者向けのツールを提供している。 Dronecode FoundationはLinux Foundationが支援し、複数のオープンソースのドローンプロジェクトの成果を統合し、ソフトウェア開発を加速させるために共通コードベースを提供することを目的として2014年10月に設立された。 現在、3D Robotics、インテル、クアルコムをはじめ、その他多くのドローン関連企業がDronecodeのコミュニティに参加し、活用している。 日本企業では、エンルート、プロドローン、ドローン・ジャパン、CLUEの4社がSilverスポンサーとして参加している。

(5)Dronecodeの構造

 OSが搭載された各種コントローラーにFlight Codeとして、PX4が載っている。 そして、Communication LayerであるMAVLINKを通じて、管理アプリケーションであるGround Station(Mission Planner等)やDronekitというSDKによって、Companion ComputerやWebアプリケーションといった開発を行うことが可能となっている。

(6)PX4

 Dronecodeの機体での自律航行制御プログラムを担っているのはPX4で、オープンソースとして、ソースコードが開示されている。 内部のループを回すことで、自律航行を可能にしている。 また、PX4はマルチコプターだけでなく、シングルローターや固定翼、ローバーといった陸上を走行するものや水上や水中ドローンとしても、活用することが可能である。

(図6)

(7)MAVLINK

 Communication LayerにはMAVLINKが使われている。 今までMAVLINKにおいて、Signedという形でその署名を送信できるような仕組みとなっておらず、セキュリティ上の問題があった。そのため、署名の送信が可能な新しいフレームワークとしてMAVLINK2が開発された。

スポットライト

■図6.活用分野(Ardupilot.orgサイト)

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(8)Dronekit

 Dronekitは、Companion Computerといったドローンがより高度化していくための開発や、Webを通じてのドローンの管理を可能にするため、開発者用のツールとして、ライブラリーを提供している仕組みである。 AndroidやPython向けなどにライブラリーが提供されており、ダウンロードは15万を超えている。 Dronekitを活用することで、図7のように、Webを通じたクラウドコンピューティングの開発も可能になっている。 また、ドローン上のCompanion Computerでの、特別な空撮技巧のプログラミングや画像認識分野における人工知能の活用によって、ドローンの高度化が図られている。

6.フライトログの解析 ドローンの業務利用が進んでいく中で、実証実験の内容や、また、実際の運用において、事故が発生した場合のフライトログの解析が必要な企業が増えてきており、また、

入札案件などではフライトログの取得が必須になっている案件も出てきている。 現在、多くはそのフライトログの内容をメーカーに送り解析してもらうといったプロセスが必要だが、この解析作業を自社もしくは関連企業において行いたいとする企業が出てきている。そういった企業が、Dronecodeを学ぶことで、解析技術を身に付けることができるようになる。(図8)

7.今後のドローンシステム開発 ドローンの業務利用が進んでいく中で、安全性、正確な業務実行、使いやすいシステムの開発が必要となってきている。 その際に重要なのは、ユーザーのニーズに向けての改良ポイントや、自社の強みを生かしながら、システム設計を行っていくことである。 また、その際には、通信の安定性やスピードを考慮することも重要になる。これは通信技術の革新だけでなく、電波法といった各種法律の動向にもアンテナを立てて、情報収集していくことも重要である。 システムとしてのドローンは、今後、各種業務の中で、ますます浸透していくことであろう。 (2016年6月24日 情報通信研究会より)

■図7.DronekitのWebでの活用(筆者作成)

■図8.Log解析画面(筆者作成)