33
- 1 - 日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る- 国際学部国際学科 比較文化コース 牧田 東一ゼミ 学籍番号 20527006 安藤史絵

日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 1 -

日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

国際学部国際学科 比較文化コース 牧田 東一ゼミ

学籍番号 20527006 安藤史絵

Page 2: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 2 -

目次

はじめに ................................................................................................................................................. - 3 -

第1章 世界貿易の中でのフェアトレード ....................................................................................... - 4 - 第1節 世界貿易体制 ........................................................................................................................ - 4 - 第 2 節 貿易自由化に向けた動きの中で .......................................................................................... - 6 - 第 3 節 フェアトレードとは............................................................................................................. - 9 -

第 2 章 イギリスにおけるフェアトレード ..................................................................................... - 12 - 第 1 節 イギリス帝国時代 ........................................................................................................... - 12 - 第 2 節 イギリスのフェアトレードマーケットと普及の背景 .................................................... - 13 - 第 3 節 NGO から企業への取り組みとしてのフェアトレード .................................................. - 16 -

第 3 章 日本におけるフェアトレード ............................................................................................ - 19 - 第 1 節 日本のフェアトレード市場の現状 ................................................................................. - 20 - 第 2 節 フェアトレード団体の取り組み ..................................................................................... - 22 - 第 3 節 自治体の取り組み .............................................................................................................. - 25 - 第 4 節 企業の取り組み .................................................................................................................. - 26 -

おわりに 日本のフェアトレードのこれから ..................................................................................... - 28 -

参考文献 ............................................................................................................................................... - 31 -

参考 HP ................................................................................................................................................. - 32 -

参考資料 ............................................................................................................................................... - 32 -

インタビュー ........................................................................................................................................ - 32 -

脚注 ....................................................................................................................................................... - 32 -

Page 3: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 3 -

はじめに 筆者がフェアトレードに出会ったのは、イギリスの大学に留学中のことであった。毎週買い物に出か

けるスーパーの、コーヒー、紅茶、チョコレートやバナナコーナーに並べられたフェアトレード商品、

さらには、大学内のカフェで購入することができるコーヒー、紅茶やホットチョコレートの飲み物や食

べ物でさえも、フェアトレード商品によるものであった。今までフェアトレードに対しての知識が無か

った筆者にとっては驚きの毎日であった。 フェアトレードの良さとは、生産者の人々と私たち消費者との繋がりが濃いところにある。その商品

が誰によって、どこで、どのような方法で生産されているのかがわかるということは、私たちに安心で

安全な消費を与えてくれる。また、その商品を買うことによって、開発途上国の生産者に、支援だけで

はない、仕事を作るということによる自立を支え、生産者のエンパワメントに繋がることも、フェアト

レードの持つ特徴である。このエンパワメントが、貧困を断ち切る一つの手段になり得よう。 2007 年、日本の食糧自給率が 4 割を切ったi。現在の日本はもはや他国からの輸入に頼らなければ食

糧を調達できない状況にあり、このことからも私たちと貿易との問題は切り離せないことがわかる。し

かし、このグローバル化の恩恵を受けることができずに、貿易構造から取り残され、搾取される途上国

の生産者が多いことも現状である。フェアトレードとは、そのような現状を断ち切ろうとする動きでも

ある。フェアトレードとは、私たちがその商品を買うことにより、その商品の生産者に正当な賃金が支

払われる貿易であり、同時に、搾取のない貿易である。そして、このことを軸とし、生産者団体から商

品を輸入する多くのフェアトレード団体や NGO が世界に存在する。 日本の中においても、近年、フェアトレード団体の増加やフェアトレード商品、自然商品等を扱うフ

ェアトレードショップの増加が見られる。また、一部のコーヒーショップやスーパー、コンビニ等の私

企業でフェアトレード商品を扱うことを目にする機会が増えた。2008 年 9 月の日本経済新聞の記事に

よると、「知っているようで知らない現代キーワード」ii中、第 4 位にフェアトレードがあげられていた。

このように、言葉として人々の耳には入り、関心が高まってきているフェアトレードであるが、人々の

「理解を得る」とまでは至っていないことがわかる。また、今後フェアトレードが注目を浴びるという

ことは、認知度が上がり売り上げが伸びるという点では喜ばしいことであろうが、ブームで終わってし

まうという危険性もあり、生産者への持続的支援も打ち切られしまうことに繋がる可能性もある。 これらのことを踏まえ、本論文では、日本におけるフェアトレード事情があまり研究されていないこ

とも問題であると考えるため、まず、日本のフェアトレード事情を明らかにする。そして、欧米とは異

なる日本独自のフェアトレードをどのように日本で普及させることができるのか、また、日本なりのフ

ェアトレードを一時のブームではなく継続していくためにはどのような点が必要であるのかを論文中

で考えていきたい。 第 1 章では世界貿易の現状と、その中でフェアトレードがどのような貿易であるのかを述べる。第 2

章では、世界の中でも普及率も認知度も高いとされるイギリスの事例を研究し、その背景と活動内容を

まとめる。第 3 章で日本のマーケットを探り、各セクターでの活動や現状等を通し、日本の現状をまと

め、最後に日本独自のフェアトレード実現と普及に向けて考察する。

Page 4: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 4 -

第1章 世界貿易の中でのフェアトレード 現在私たちがモノを消費する中で、購入する商品のほとんどが日本国以外から輸入されているもので

あり、私たちはグローバル化の恩恵を受けていると言えるだろう。しかし、そのグローバル化に伴った

世界貿易の恩恵を受けることができずにいる人々も世界には存在する。 世界貿易の目指すものの中に自由貿易があげられる。しかし、世界貿易機構(以下 WTO)の推進する自

由貿易は、世界貿易の中で完全に自由という形を推進しているようには見えず、先進国により搾取され

る人々が存在する。そこで、この貿易体制に代わるもう一つの貿易の形として提案されたものが、フェ

アトレード(公正貿易)である。本章では、世界貿易のしくみや現状、WTO が推し進める自由貿易がどの

ようなものであるのか、また、それに対してフェアトレードとはどのようなものであるのか見ていく。

第1節 世界貿易体制 世界貿易とは、国同士で取引をすることで成り立つ。イギリスの経済学者であるディビッド・リカー

ドiiiによれば、比較優位の原則により、貿易では輸入側と輸出側の双方に最大限の利益が生まれる。リ

カードの云う貿易における比較優位とは、自国の特産物を生産し輸出し、他国からは得意としない物を

輸入する、という貿易である。しかし、現実にはそのような貿易は、完全には行われてはおらず、世界

的に見ると、主に先進国と途上国による分業が確立されているように見える[ブラウン 1998:24]。 なぜそのような貿易体制が始まったのであろうか。この節では、このような世界分業に至るまでの歴

史的経緯と、貿易の不平等な実態を探る。

世界貿易と分業の歴史的背景 15 世紀、コロンブスによりアメリカ大陸が発見され、スペイン政府はアメリカ大陸から金や銀を持ち

出し、その後も略奪を繰り返した。1505 年を始めに、1600 年までに年間約 6,000 人の黒人奴隷がスペ

インからアメリカ大陸に送られ、イングランド人もこれに加わった[ブラウン 1998:24-25]。 アメリカ大陸ではメイズ、じゃがいも、トマト、ココア、たばこや綿等が栽培されていたため、大プ

ランテーションでこれらの栽培が開始された。その後ヨーロッパで、砂糖やたばこ、綿の需要が高まっ

たため、その労働力として奴隷がアメリカ大陸に多く送られた。これが三角貿易の始まりである。この

貿易により、ヨーロッパからアフリカへ鉄砲などの武器、アフリカからカリブ地域へは労力としての奴

隷、そしてカリブ地域からヨーロッパへは砂糖やコーヒー等が、それぞれの地域へ送られた。アフリカ

とアメリカ南部はこの貿易により大きな影響を受けた。例えば、アフリカでは、安価な工業製品の輸入

により、手工業製品の需要低下をもたらした。中央アメリカの土地は、輸出製品生産のために、それら

の土地につき一つないし二つの製品の生産のみに特化させられた[ブラウン 1998:26-29]。 その後はイギリスの工業化に伴い、工業製品市場のため、そして工業製品の原材料の生産地として、

全世界がイギリスにより開拓され、分業関係が形成された。そして、この大英帝国との関係が最も顕著

であった国がインドである。また、大英帝国に続けと言わんばかりに、他のヨーロッパ諸国やアメリカ

もこの関係を築き上げた。このことにより、安価な工業製品が全世界に渡ることとなる。ヨーロッパ以

外の国々で世界貿易という資本主義システムに組み込まれた人々は、ヨーロッパが生産するモノのため

の一次産品生産をすることとなる。このように、ヨーロッパと、そうでない国々の分業の歴史的経緯が

見て取れる[ブラウン 1998:33-41]。 ヨーロッパの植民地の中には、アメリカのようにその関係を絶ち切り経済成長をした国もあったが、

そうでない国がほとんどであった。その結果、第一次世界大戦が起きるまでに、日本を除き、世界は巨

Page 5: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 5 -

大帝国に支配された。「北の 3 億人ほどのヨーロッパ人が、10 億人近い南の非ヨーロッパ人を直接支配

していた[ブラウン 1998:43]」のである[ブラウン 1998:42-43]。 過去 40 年間において第 3 世界とされる国々の所得が向上したことは事実であるが、その分配は平等

なものではなかった。一部地域の産業発展により、元々裕福であった人々は益々富を蓄積したが、農村

等の周辺に住む人々は低賃金労働により生計をたてていた。これらの低賃金労働とは、縫製や工場の組

み立てラインが主な仕事であり、ヨーロッパや北アメリカ、日本からの多国籍企業による分業体制の一

環でしかない。そのため、自立した経済発展へは繋がらない[ブラウン 1998:48]。 このように、未だ北と南の分業体制が続いていると言えよう。次に、この分業の問題点に焦点を当て

る。

一次産品への依存とその価格低下 このように、人工的に決められたと言わざるを得ない途上国の得意産物としての一次産品であり、今

ではその一次産品の生産と輸出に依存している状態である。しかし、その依存する唯一の一次産品の価

格は低下している。1990 年代の世界貿易の中での一次産品の伸び率は、工業製品の伸び率の 3 分の 1にも満たなかった。特に、コーヒーやココア、紅茶等の飲料品の価格下降は 1997 年から 2000 年の間

に 71%にもなった。このように価格が不安定な一次産品であるが、これらの輸出に頼っている国はサハ

ラ以南アフリカに多く、石油以外の一次産品輸出額が全体の輸出額の 75%以上を占める国が 17 カ国も

存在する[オックスファム 2006:203-207]。 一次産品の価格低下の理由はどこにあるのだろうか。一次産品、特に農産物は、工業製品とは異なり、

腐りやすいこと、付加価値を付ける技術がなく先進国がそれを賄っていること、1 国で生産される産品

の種類が少ないことが理由とされる。また、一次産品に関わる生産者の多さ、機械導入の遅れ、そして

生産のための最新技術に投資する資金がないため、先進国の工業製品と比較した際に、価格が安く設定

されてしまう、という生産する側にとっての不利な点が挙げられている[ブラウン 1998:80-85]。 また、第一次産品が世界貿易において不利な立場にあるのは、生産が需要を上回り過剰在庫に繋がる

こと、国際価格と需要の連動性が低く価格低下が需要増大に繋がらないことや、生産性向上が需要増大

にならず過剰在庫となってしまうことも挙げられている[オックスファム 2006:213-216]。 これら途上国の輸出品への依存とその価格の暴落は、途上国の輸出収入の減少と債務問題を引き起こ

す。輸出品の低価格により輸出収入が減り外貨収入が減ると、債務返済への外貨の割合が減ることにな

る。1970 年代に起きたアフリカでの債務危機は、これが原因であった。一次産品の価格の予測は難し

く、そのことが債務返済能力予測を狂わせた。そのため、実際の外貨の回収が予測を下回り、債務返済

が困難になった、というわけである[オックスファム 2006:207]。

グローバル化の裏で 債務問題の他に深刻な問題は、途上国の一次産品の生産者が、生活のための収入をきちんと得ること

ができないことである。上述のように、生産性を向上させ大量に商品を生産してもそれが収入向上に繋

がるとも限らない。また、中間業者によりさらに低価格で買い叩かれるといったことも起きている。こ

こでは、それらの実在する例を取り上げる。 ペルーのあるコーヒー生産者は、コーヒー栽培が唯一の生活手段であった。当時のニューヨークのコ

ーヒー取引所では、コーヒー豆一袋の価格はわずか 143 ドルであった。ランサムによれば、瓶詰めのコ

ーヒーであれば、小売業者が 25 パーセント、荷主および焙煎業者が 55 パーセント、輸出業者(中間業

者)が 10 パーセント、そして生産者に 10 パーセントの利益が入るとされている。しかし、生産者はそ

Page 6: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 6 -

の収入の中から日雇い労働者への賃金、コーヒー豆の輸送費等を支払わねばならない。さらに、このま

まの賃金の割合では、もしこの生産者の家族の中で病気になる者が出ても、治療費も薬代さえも払うこ

とができなくなる。子どもにも満足に教育を受けさせる費用も賄えないのである [ランサム

2004:56-74]。 さらに、このコーヒー栽培によりアマゾン地域にある土壌は森を失いつつあり、土地の栄養価もコー

ヒーの栽培によって奪われ、土壌浸食が進行している。しかし、コーヒー栽培によってしか生活の手段

のない生産者は、そのような環境劣化に気を配ってはいられないのである。生きる手段を得るのに精一

杯であるため、環境の負荷を考える余裕も無いのである。このように、低賃金でコーヒー栽培をしてい

る生産者にとって、彼らが環境破壊の中心にいることを知りながらもそれを止めることができないのは、

彼らもコーヒー栽培によって生計を立てていかなければならないからであると、ランサムは述べている

[ランサム 2004:74-76]。 また、グローバル化の裏では輸出加工品の生産過程での劣悪な労働環境により、労働者が死に至るケ

ースも見られる。フィリピンのカビテにある、有名ブランドファッション服の生産工場では、人々が長

時間劣悪な環境で働かされていた。その1人がカルメリータという女性である。ある時期にこの工場に

大量の注文が入ったため、彼女は1週間毎日深夜まで残り、2 時間かかる道のりをかけて帰宅していた。

そのため彼女は肺炎にかかったが、休みを取ることも許されず、最後には病院に運ばれた。過労死であ

ったという。この工場ではこのようなことが日常茶飯事であった。その理由として、工場ではコストが

掛かるために労働者を多くは雇っておらず、少人数の労働者が長時間働かなければいない、といった状

況が生まれてくるのである[クライン 2001:210-212]。 低価格な一次産品に悩まされる生産者や劣悪な労働環境の中で働く者の他に、児童労働者を使うケー

スや、農業においては過激な農薬や肥料の使用により健康を害するといったケースも見られる。私たち

が貿易により安くて良いモノを手に入れることができるその裏側では、決して良いとは言えない労働環

境の中で働く人々がいるのである。

第 2 節 貿易自由化に向けた動きの中で このような不平等な世界貿易の自由化を図るため、現在では WTO が貿易の自由化を進めている。

WTO は 1995 年に、関税および貿易に関する一般協定(GATT)を引き継ぐ形で発足した。GATT と WTOが異なる点とは、GATT が加盟国に交渉の場を提供するに留まっていたものに対して、WTO は、全加

盟国がルールに従う義務があることである。また、扱う問題も、サービスや知的財産、そして GATT が

取り扱わなかった農業や繊維に関してなど、広範囲に及ぶ内容となった[オックスファム 2006:349]。 GATT での交渉では、貿易の大半が自由化に成功したとされているが、WTO 発足後は、成果は顕著

に見られない。そこで、この節では主に自由貿易化について見ていきたい。 途上国の貿易シェアの拡大による影響と市場開放 「援助よりも貿易を」と言われるように、途上国に対して開発援助を行うよりも、貿易のシェアの拡

大が貧困削減により寄与することは共通の認識になりつつある。ある調査では、途上国が貿易のシェア

を 5%ポイント増やすだけで、3,500 億ドルもの収入を輸出から得ることができ、これは政府援助総額の

7 倍にもなると言われる。また、地域的に見てみると、途上国が輸出市場シェアをたった 1%ポイント

増やしただけでもかなりの利益を得ることができるだろう。例えば、サハラ以南アフリカ諸国は平均約

20%、南アジア諸国は 1 人当たり平均 12%、中南米および東アジア諸国は 1 人当たり約 4%もの所得を

Page 7: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 7 -

増やすことができる[オックスファム 2006:60-61]。 このように、貿易が貧困層に与える影響は大きく、貿易がより自由化され、各国の市場開放がされる

ことがより重要であるように思える。しかし、急激に途上国の市場を開放することが上記のような所得

向上に直接繋がる訳ではない。先進国や、現在までに発展した東アジア諸国のほとんどは、最初に保護

主義的な政策を打ちたてていた。それら先進国は、国内産業の成熟後に輸入の自由化を図ったのであり、

当初から完全な「自由貿易」をしていたわけではないため、市場をすぐに開放することが発展への近道

ではないことがわかる。しかし、先進国は未だ自国への保護を行っているにも関わらず、途上国へ市場

開放を強く求めている。そのため、途上国は急速に自由化を進めてきた。例えば、1990 年代は、数年

の内に、ほとんどの途上国の平均関税率は半減かそれ以下に削減された。これらは途上国自らが自由化

を行う場合もあるが、IMF による構造調整融資を受けるため、輸出自由化が義務であったということも

大きく影響している [オックスファム 2006:65-66, 167-169]。 このように、途上国は急スピードで市場を開放してきているが、先進国の現在の市場は解放されてい

るのだろうか。一見先進国の市場は解放されているように見え、自由貿易を推進しているように見える

が、一部は過剰に保護されている分野が残っている。次に、その先進国の保護されている分野について

焦点を当てたい。 先進国による、自国産業への保護政策 ここでは特に、農産物、繊維産業、知的財産権への保護政策に焦点を当てる。 <農産物> 途上国にとって、貿易自由化の重要であるものの一つに、先進国による農産物への関税削減および撤

廃がある。上述のように、途上国は農産物の生産に依存している部分があるため、この市場が開放され

ることは途上国の輸出部門に大きく影響するであろう。しかし、先進国は、途上国からの輸入品に対し

ての関税率を高く設定している。オックスファムによれば、この関税は、途上国が他の国に輸出するこ

とに比べると約 4 倍の関税がかかるとのことである。WTO はこの関税を取り払うべく議論をしている

が、進展は見られない[オックスファム 2006:127]。 また、先進国が自国の農業製品を過剰に保護しているものとして、先進国が行う農業生産者への農業

補助金がある。2000 年に先進国が農業補助金として援助した金額は 2,450 億ドルに上り、これは先進

国が途上国に与えた援助額の約 5 倍にもなるという。特にアメリカは、補助金の定義を変えることによ

って、新たな形で農業生産者に補助金を与えている。「青の政策」という、「農家が生産調整を受け入れ

るのを条件に農家に対する無制限の直接所得補償を認めるもの[オックスファム 2006:152]」や、「緑の

政策」という、「環境保護や保険など、農産物の生産・輸出に直接関係しない分野への補助金[オックス

ファム 2006:152]」を新たに打ち出した。そのため、アメリカと欧州の農家が受け取る補助金は、そ

れぞれ年平均 21,000 ドル、1,6000 ドルにもなるのだという[オックスファム 2006;151-152]。 また、ダンピング輸出も途上国の農産物への低迷を促す問題である。先進国の農家によって過剰に生

産された農産物を、途上国の市場に低価格で輸出するダンピングも、WTO 内で禁止されるべきことで

ある。例えば、フィリピンでとうもろこしの輸入が自由化された際、アメリカの低価格なとうもろこし

がフィリピンの市場に入ってきたことにより、フィリピンのとうもろこし生産者たちのとうもろこしの

価格が急低下した。それに伴い、生産者の収入も減り、彼らの生活費や教育、医療にかける資金までも

減ってしまった。しかし、アメリカの農業者は補助金を受けていることや、アメリカに輸入されるとう

もろこしには高い関税がかかっているため、彼らには打撃もなく他国の市場に入り利益を生むことがで

きる[オックスファム 2006:153-158]。

Page 8: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 8 -

<繊維産業> 繊維産業も途上国にとって重要な産業であり、農業とともに国内の大きな産業として見なされている。

繊維縫製品は、1974 年以来、多国間繊維取極(以下 MFA)という、アメリカ・カナダ・EU・ノルウ

ェー市場への繊維縫製品の輸出を制限する輸入割当システムにより管理されていきた。しかし、WTO内で結ばれた繊維協定(以下 ATC)内で MFA を 2005 年までに段階的に撤廃し自由化することを決め

たはずが、その自由化は先送りされてきた。また、アメリカ・カナダ・EU が自由化に踏み切った製品

は、付加価値の高い製品(衣料品)ではなく、付加価値の低い繊維(糸)であった。そのため、MFA撤廃後の 2005 年に、80%以上の繊維縫製品が一度に割当を解除されるという、急速な自由化が行われ

るという事態になった。その後 2004 年末に MFA は撤廃されたが、急速な市場開放により、今まで輸

入割当により市場を固定して確保してきた国々が、世界の競争の中で市場を奪われるかもしれないとい

う不安もあり、ここでも、急速な市場開放への疑問が持たれる[オックスファム 2006:144-149]。 <知的財産権の貿易関連側面に関する協定(TRIPs)> 知的財産権の保護も、先進国による一方的な保護政策と言える。この協定は、特許権を最低 20 年認

めることや、工業意匠、商標、著作権やその他の知的財産権を保護するといった内容のものである。そ

うでなければ、技術は模倣され、それにより研究開発に投資することが避けられ、技術革新が行われな

くなるという理由からである。しかし、その特許という恩恵を得ることができるのは 97%が先進国であ

り、アフリカ企業等からの申請は 0.02%、南米のメキシコからでも 1%程度というように、世界の研究

開発のほとんどが、先進国によるものなのである[オックスファム 2006:285-291]。 この TRIPs が特に問題であるのが、薬の分野である。この薬への特許の効力があるうちは、後発医

薬が市場に出回ることが防がれ、薬の価格が高く保たれるのである。この後発薬は、ブランド品や特許

の切れた薬の模造品であり、そのため、低価格で提供されるものだ。つまり、これらの薬の価格も上が

るということは、途上国での薬へのアクセスが途絶えてしまう危険性があるということになる[オックス

ファム 2006293-303]。 現在までに WTO 内で達成され点と課題 これらの不平等な貿易関係について、WTO 内ではどのような措置を取っているのだろうか。GATTならびに WTO 内では、ラウンドという多角的貿易交渉により、多国間での貿易自由化に対する議論が

行われる。ここでは、WTO 加盟国により、ある分野の関税の撤廃の合意に向けて協議がされる。 しかし、GATT から WTO に移行してから大きな進展は見られていない。1986 年から 7 年に亘って

行われたウルグアイ・ラウンドは貿易交渉の歴史的転換点と言われているが、そこで達成されたことは

少なかった。このラウンドでは、先進国の優先事項や利益の優先が先行したと考えられている。例えば、

上述の通り ATC の自由化も先送られた。また、農産物関税の削減や補助金の削減に対してもほぼ進展

はなく、工業製品の分野の自由化も、途上国の輸出が多い品への高関税率の見直しが図られることはな

かった[スティグリッツ 2007:52-64]。 2001 年から現在まで続くドーハ・ラウンドでは、交渉課題に「開発」が加わり、世界的に貧困削減

に取り組み始めたようではあるが、進展は見られないだろうと言われている。農業交渉枠組み合意期限

を 2003 年に定めたのにも関らず、合意に至らなかった点や、先進国内での農業補助金削減目標が具体

的に示されないことがその理由として挙げられる。その中で、アメリカの「青の政策」に見られる新た

な補助金の動きが広がりつつあることなど、事態はより深刻になっているものもある [スティグリッツ 2007:65-72]。

他に途上国と開発問題に大きく関係があるものは、TRIPs 協定である。前述のように、TRIPs 協定は、

Page 9: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 9 -

後発医薬品の貿易の制限をしている。この協定のルール修正への検討を拒絶したアメリカと、WTO 内

でその議論が発展しないため、多くの批判が集まった。そこで、2003 年に後発途上国のみに対し、特

許を持たない途上国の低コストメーカーより後発医薬品を輸入することをアメリカが認め、この件は合

意されるに至った[スティグリッツ 2007:72-74]。 その後の 2003 年 9 月から 4 日間に渡るカンクン閣僚会議では、農業交渉やシンガポール・イシューiv

に対する開発途上国と先進国の意向が合わず、失敗に終わった。しかし、この交渉決裂を悲観的に見る

のではなく、途上国政府が自分たちに不利があるものであればそれを主張する権利があるのだというこ

とを見ることのできた、転換の会議であったと考える者も少なくない。2004 年に再び交渉に戻った際

には、途上国に不利とされるシンガポール・イシューは、貿易円滑化以外は、全て排除された形のアジ

ェンダが示された[スティグリッツ 2007:75-78]。 ドーハ・ラウンドは目標であった 2007 年内の合意も見送られ、2008 年 12 月内合意が次の目標とされ

たが、これもまた交渉決裂に至った。この理由として、2008 年後半に起きた金融危機が上げられる。

この金融危機のため、各国において保護政策が強まったようだ。そのため、各国の利害が合わず、今回

も交渉失敗となった。この交渉の長期化は、今回の金融危機やアメリカの大統領交代に伴い、今後も避

けられないだろうと考えられており、このままでは WTO 内での交渉は限界が見られるのではないだろ

うか[読売新聞 2008]。

第 3 節 フェアトレードとは フェアトレードとは、今まで述べてきたような世界貿易の中にある不平等な関係に疑問を抱き、生産

者と対等であり搾取のない関係を目指す貿易であり、貧困解決を掲げる国際協力でもあり、消費者運動

でもある。では、世界ではどのようにして「フェアトレード」という概念が生まれたのであろうか、ま

ずはフェアトレードの歴史から見ていく。

フェアトレードの歴史 フェアトレード運動の起源は、1940 年代のアメリカのテン・サウザンド・ビレッジという団体がプ

エルトリコの女性が作ったモノを、アメリカの教会で販売し始めたことから始まる。この運動が 1960年代に始まる、イギリスの NGO、Oxfam によるフェアトレードの組織的取り組みや、オランダの Fair Trade Organisatie の設立に繋がったとされている。これらの活動により、欧州全体にその運動が広が

った。この欧州での取り組みは、チャリティ的要素が強く、国際協力の一つとして捉えられることが多

かった。1970 年代からは、フェアトレードの理念に、女性の自立支援の目的や、自由貿易体制への批

判などの考えが盛り込まれた。さらに、その時代は、生産者と消費者の顔の見える繋がりも重要視され

た時期であった。1980 年代後半からは、続々とフェアトレード団体が設立され、Fairtrade Labelling Organisation(FLO)vの前身となるマックスハベラーがオランダで活動を始めた。1989 年には、国際

的団体認証組織である IFAT、1990 年に入ると EFTA という欧州フェアトレード連盟など、続々と大き

な組織が設立される[池上 2007:5-12、長坂 2008:66]。 その後 1997 年にはマックスハベラーやドイツのトランスフェア等、各国独自で商品に認証を行って

いた団体が、基準やマークを統一し、FLO を設立した。この動きは、フェアトレード商品と一般の商品

とが区別されることが必要とされたからである。そこで FLO の認証ラベルによる、一般商品との差別

化が図られたことにより、フェアトレード市場の拡大が始まった。多国籍企業であるスターバックスコ

ーヒーやネスレも、FLO 認証商品の買い取りにより、市場参入を見せている[池上 2007:12-13]。

Page 10: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 10 -

日本でのフェアトレードの動きは第 3 章で述べることとする。

フェアトレードの定義 池上によれば、「フェアトレードとはいわゆる途上国(南の国々)に住む『貧しい』人々の生産物に

対して、消費者(たいていは北の国々に住む)が公正な価格を支払い、そのような取引を通じて彼らの

経済的自立と社会的発展を実現しようとする取組[池上 2004:8]」である、とされている。しかし、フェ

アトレードの理念は近年多様化しており、現在存在しているフェアトレードを進める各団体が掲げるフ

ェアトレードの意義は、共通するものが多いが、多少の違いも存在する。そこで、本論文では、フェア

トレード団体に認証を行っている The International Fair Trade Association(IFAT)の基準をフェアト

レードの基準とする。IFAT は世界的組織であり、各団体が IFAT の提唱するフェアトレードの基準を

満たしているか判断し、基準を満たしている団体には以下のロゴ(FTO マーク)を与えている。ちなみに

このマークは商品にではなく、団体の店舗やカタログ等に張られるマークである。

<IFAT HP より>

IFAT の提唱する基準とは、 ① 貿易によって貧困を減らすことを目指し、経済的に立場の弱い生産者が収入を得て自立できる

よう支援します。 ② 生産者、消費者などすべての関係者に対して公正に接し、必要な情報を提供します。 ③ 生産者が技術を向上させ商品を流通させられるよう支援します。また、そのために継続的なパ

ートナーシップを築きます。 ④ フェアトレードの目標と活動について広報や啓発を行ないます。また、消費者に対して商品の

生産の背景について情報を提供します。 ⑤ 生産者に対し、生産者自身が望ましいと考える水準の生活を保てるだけの公正な対価を支払い

ます。また、必要な場合は代金を前払いして生産者を支援します。 ⑥ 女性にも男性にも平等な賃金を支払い、技術向上やリーダーシップ訓練の機会を提供します。

また、その土地の文化や伝統を尊重し、宗教や階層、年齢などによる差別をなくすよう努力し

ます。 ⑦ 生産者が安全で健康的な環境で働くことができるよう、生産地の法律や ILO(世界労働期間)

で定められた条件を守ります。 ⑧ 子どもが生産に参加することがある場合、それが子どもの健全な成長や安全、教育を妨げない

ように生産者と話し合い、また、国連の「子どもの権利条約」および、現地の法律や社会的慣

習を尊重します。

Page 11: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 11 -

⑨ 入手可能である限り、持続可能な生産が確保された資源を原材料に用います。生産工程では環

境にやさしい適正技術を使い、包装や輸送にも環境負荷の低い素材や手段を用います。 ⑩ 疎外された零細な生産者の社会・経済・環境面の福祉に配慮します。連帯・信頼・相互尊重に

基づいた長期的支援を維持します[長坂 2008:45] の 10 点である。これらの定義を基に、次にフェアトレードの仕組みを見ていく。

自立支援のためのビジネスモデル フェアトレードで貿易された商品と、一般に貿易された商品とはどのように違うのであろうか。ここ

で、長坂の紹介するフェアトレードというビジネスモデルをまとめてみた。 まず、フェアトレードとは、フェアな価格、つまり、「適正」で「公正」な価格で商品取引をすると

いうことである。この「適正」であり「公正」である価格とは、生産者が人間的な生活を続けることが

でき、かつ、搾取を受けることなく決められた価格という意味である。例えば、コーヒー豆の国際価格

は変動しやすく、価格が低迷した際に一番被害を受けるのは生産者である。そこで FLO や他のフェア

トレード団体では、コーヒー豆の最低取引価格を設定している。この価格により、生産者の最低ライン

の生活は保障されることとなる。また、これを実現するために、賃金の前払い制というものがある。途

上国の生産者の中には、例えばコーヒーを生産者であれば、頭金が無い場合が多い。さらに、賃金が支

払われるのは、コーヒーであれば収穫後半年はかかるため、生産しようとしてもできないという状況が

見受けられる。そのような生産者は、地元の仲買人から高利で借金をし、その借金返済に苦しむケース

も少なくない。そこで賃金の前払い制が考え出され、その前金で苗木や肥料を購入することができるよ

うになっている[長坂 2008:22-26]。 価格の面ではもう 1 つ、フェアトレード価格には、割増金(プレミアム)というものが上乗せされて

いる。この割増金は生産者団体に支払われるものであり、地域の生活向上のための活動やインフラに使

われることが多い。また、フェアトレードが環境に配慮した商品開発や労働環境の改善へ取り組んでい

るため、一般の商品と比べるとほとんどが高い価格設定になっている。環境に配慮した対応としては、

最低限の農薬や化学肥料の利用、遺伝子組み換え食物の生産禁止や廃棄物を適切に管理する等といった

ことである。労働環境の面では、児童労働や強制労働の禁止、生産者の健康と安全を考慮した生産方法

等、適切な労働環境で生産なれなければならない。これらを達成するためにも、「適正」であり「公正」

な価格や、割増金が必要になってくる[長坂 2008:26-30]。 他の特徴として、中間業者を排除し商品が不適正な価格で買い取られることを防ぐこと、技術指導に

より世界の市場で通用するものを作る力を与えること、いかなる差別も無く民主的に団体が運営される

こと、情報提供による公正な市場アクセスの確保等、全ての団体がこの全てを達成できている状況では

ないが、これらを目標としている。そして、最も大切なことは、長く安定して継続することである。一

時的に発注が多く、それがある時期を越えて少なくなり、生産者の仕事が無くなってしまうのでは意味

が無い。短期的な多い注文よりも、コンスタントに一定の注文を保つ方が、生産者のエンパワメントに

も繋がり、持続可能な社会を作る手助けになる[長坂 2008:26-33]。 これらを踏まえた上で、第 2 章では、フェアトレード商品の売り上げが多いヨーロッパ、特にイギリ

スにおけるフェアトレードの歴史や、NGO や企業のフェアトレード商品に対する取り扱いを見ていき

たい。

Page 12: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 12 -

第2章 イギリスにおけるフェアトレード この章では、フェアトレードへの取り組みが盛んに行われているヨーロッパ、特に筆者が見てきたイ

ギリスに焦点を当て、フェアトレードに対しての政策や取り組みを見ていく。まず初めに、そのような

動きが現れた理由に、歴史的背景も含まれていると考えられるため、イギリス帝国時代からの歴史を簡

単に触れ、その次にイギリスのマーケットの現状を把握し、各セクターによるフェアトレードへの取り

組みを見ていく。 第1節 イギリス帝国時代 イギリスはかつて、海外進出を果たし世界貿易や植民地を支配したことから、イギリス帝国として「七

つの大洋を支配する」国と言われた。その海外進出が顕著に現れたのは、エリザベス 1 世統治下の 16世紀からである。スペインやポルトガルによる植民地政策、新世界の財宝や東洋物産への関心がその理

由にあげられるだろう。また、このエリザベス 1 世統治下の特徴であるイギリス国内の政治経済の安定

や、産業の発展なども海外進出の始まりに影響したと考えられている[大野 1965:492-493]。

重商主義時代 このスペイン・ポルトガルの独占権に刺激を受けたことから、イギリスはインド・アメリカに目をつ

けた。1600 年にイギリス東インド会社を創立し、香料の独占的買い付けやイギリス産毛織物販売促進

を行った。その後も 1612 年にバーミューダ島を植民化して、たばこプランテーションを確立させた。

この頃から、インドは砂糖の生産量がブラジルを抜き世界第 1 位になり、大きな資金源となった。この

砂糖プランテーションを保つためには多くの労働力を必要とし、そのため 1660 年頃から西アフリカの

奴隷黒人が多くインドに輸入された。ここから、西アフリカからインドへの奴隷、インドからイギリス

に向けての砂糖やタバコ、イギリスからインドへの毛織物や火器、金属などという三角貿易が確立され

た[大野 1965:494-499]。 インドの他に、イギリスはアメリカの植民にも着手した。その初めが 1607 年のジェームズタウン建

設であった。その後ヴァージニア、20 年のプリマスやマサチュセッツ、63 年のロード・アイランド、

62 年コネティカット、79 年のニュー・ハンプシャーと、次第に数を増やした。これらはスチュアート

朝による不安定な政権に不満を持ち、新天地を求めたイギリス人がこのような植民地の建設に至ったと

されている[大野 1965:499-504]。

自由主義時代 このような重商主義時代から、産業革命を通してイギリスは自由主義時代へと突入する。産業革命が

起きると、植民地の意義は、次第に原料の供給地または工業製品の販売市場へと変化した。この頃、イ

ギリスは「世界の工場」としての地位を大きくし、植民地の数はこの頃大きく増えた[大野 1965:512-514]。 この頃獲得した植民地は、1814 年のナポレオン戦争での勝利による、ヘリゴランド、マルタ、トバ

ゴ、セントルーシア、モーリシアス、トリニダード、ギアナ、喜望岬などである。1814 年には、ケー

プ植民地もまた、この戦争勝利により手に入れた。その後、軍事、商業上目的による 1819 年のシンガ

ポールの占領、1824 年マラッカ獲得、1833 年フォークランド占領、1839 年アデン占領、1842 年香港

取得など、植民化が続けられた[大野 1965:512-516]。 また、東インド会社の領土拡大も行われた。1849 年パンジャーブ地方の征服、1856 年のアウド王国

の征服、そしてセポイの乱を契機とするインド・ビルマの直接統治に見られる。このようにして、イン

Page 13: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 13 -

ドは「イギリス帝国中最大の原料産地・商品販売市場・資本投下地」となったのである[大野 1965:516-520]。

帝国主義時代

このように「世界の工場」として強力な帝国として多くの植民地を持ったイギリスも、1870 年代か

らはアメリカやドイツに経済を追い抜かれ、帝国主義政策に転換するようになった。植民地はもはや原

料産地としてだけではなく、資本投下地としての役割も担うことになった。そのため、イギリスの植民

地政策は拡大する一方であった。その大きな政策として、ディズレーリによるエジプトのスエズ運河の

株買収があげられる。彼はその後もキプロス島の割譲、さらにはトルコ財政の決定権までも奪い、半植

民地化に成功する。他にイラン国境のバルチスタン、アフガニスタンを保護国とした [大野 1965:533-541]。

1880 年代には、アメリカ・ドイツ・フランスの太平洋進出により、イギリスは 1884 年にニューギニ

アの東南部占領、その後ソロモン諸島、ギルバート諸島、エリス諸島、トンガ諸島を保護国とした。そ

の後もドイツの東アフリカ征服に刺激され、1886 年にケニア地方をイギリスの勢力圏とし、1890 年に

ウガンダの支配権の獲得、そこからスーダン国境、西方へも進出した。1899 年にはスーダンもイギリ

ス支配下に置かれた。南アフリカもダイヤモンド・金などの目的により支配化が進んでいった。ここで、

典型的な植民地政策を行ったのがセシル・ローズである。彼はド・ベールス合同会社を創立し、ダイヤ

モンド発掘に力を入れた。そのため、アフリカ奥地まで征服をし、自身の名を取りその土地をローデシ

アとまでした。また、1892 年から、3C 政策と呼ばれるカルカッタ・カイロ・ケープタウンを結ぶ貿易

を行った。その後、1895 年に植民大臣に就任したジョセフ・チェンバレンは、失敗続きであったトラ

ンスヴァール共和国とオレンジ自由国を、最終的に民族絶滅政策によりイギリスの支配下とした[大野

1965:543-558]。

イギリス連邦時代 前述のように、19 世紀末から第 1 次世界大戦前までが、最も盛んに帝国主義政策が行われた時代で

あった。その後のイギリスは経済・軍事力の低下が見られ、植民地におけるナショナリズムの台頭が見

られた。1919 年のヴェルサイユ条約によるカナダ・オーストラリア・ニュージーランド・南アフリカ

連邦の自治化も行われた。他にも 1917 年にニューファンドランド、1922 年にはアイルランドがアイル

ランド自由国として自治領を認められた[大野 1965:559-575]。 こうして、イギリス帝国は第 1次世界大戦後、イギリス連邦として 6つの自治領を持つことになった。

しかし、第 2 次世界大戦後、植民地の維持の存続が不可能となり、それらほとんどの国の独立化が進む

こととなった。しかし、21 世紀になる現在でもイギリスは、アンギーラ、バーミューダ、英領バージン

諸島、フォークランド諸島など 11 の海外領土を持っている[英国大使館 HP 2007]。 このような海外に領土を多く持ち、自由貿易という名目の下で、植民地を経済的に搾取してきたとい

うイギリスの歴史的背景も、フェアトレードが広く普及している1つの理由であると考えられる。

第2節 イギリスのフェアトレードマーケットと普及の背景 イギリスとは、イギリス本国と北アイルランドを含めた連合国である。イギリス大使館によると、国

土総面積は約 241 万平方キロメートル、2003 年半ばの人口総数は 5960 万人であり日本の約半分の人口

である。2001 年の調査によれば、イギリス人の 72%がキリスト教を信仰しているとされている。これ

Page 14: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 14 -

は、イギリスにおける慈善団体が 1998 年の時点で約 16 万の団体あることからも、フェアトレード普及

には、歴史的背景の他に慈善活動等チャリティ精神が基盤となっていると筆者は考える[英国大使館 HP 2007]。 この節ではイギリスにおけるフェアトレードのマーケットの規模と、その普及の背景を探る。 イギリスのフェアトレードマーケット規模 イギリスにおける年間のフェアトレード商品(FLO 認証商品)の売り上げは約 920 億円と言われる。

この売り上げは、小売額ではヨーロッパ内で第 1 位であり、1 人当たりの売上額で見るとスイス、ルク

センブルクに次ぐ第 3 位である。また、フェアトレード商品を扱うスーパーマーケットの数が 2005 年

においては 3,100 店舗あるように、イギリスは世界で最も大きなフェアトレードマーケットであると言

われることがわかる。ある調査によれば、国民の 50%が、FLO のフェアトレードマークを認知できる

という[Fair Trade Advocacy Office 2005]。 イギリスの消費者に関する調査で、興味深いものがある。イギリス政府の国際開発局による調査によ

れば、イギリス人消費者の内 73%が開発途上国の貧困問題に関心を表しており、69%がその問題は自分

自身にも関係があるものと感じているという結果が出ている。その内の 46%はフェアトレード商品を購

入することが、貧困を削減できる一つの方法として考えている。また、他の調査では、84%の消費者が

倫理的な商品を積極的に購入したいと考えており、その内の 3 分の 2 以上はフェアトレード製品の購入

を考えているそうだ[Nicholls and Opal 2006:58,152]。 これらのフェアトレードにおける関心の高さはどこにあるのだろうか。単に、キリスト教信者の多さ

や帝国主義時代への償いの気持ち故ではないだろう。Nicholls と Opal によれば、政治、学問、文化、

情報の 4 つの分野による影響が大きいのだという。これら 4 つが相互に影響することにより、消費者へ

高い関心をもたらすことができたそうだ。以下より、その 4 つの観点について詳しく述べていく

[Nicholls and Opal 2006:19-20]。 <政治、国際開発局による影響> 第 1 に、政治、つまり政府による支援からの影響があげられている。イギリスの政府内には、

DFID(Department for International Development)という国際開発局が設置されており、これは開発途

上国への支援を行う政府機関である。イギリスのフェアトレードにおいて、この機関が果たす役割は大

きい。大きい活動として、イギリス国内のフェアトレード団体や、フェアトレード企業への融資である。

また、DFID は、国連の Millennium Development Goals の達成方法の一つとして、フェアトレードの

促進を打ち出している[DFID HP 2008; Nicholls and Opal 2005:58]。 DFID によれば、2002 年から 2007 年の間に、Fairtrade Foundation に融資した額は 100 万ポンド

(約 2 億 2300 万円)に達すると言われている。Fairtrade Foundation とは、6 つの NGO などにより

立ち上げられたフェアトレード財団である。この財団は、FLO マークのライセンス発行、フェアトレー

ド製品普及のためのコマーシャル活動など行っている。他の NGO への活動としては、国際的 NGO の

Christian Aid へ 1360 万ポンドの融資を 2001 年から 4 年に渡って行っていた。2005 年には、同団体

に毎年 503 万ポンドの融資を行うことも決定された[DFID HP 2008]。 また、目立った活動として取り上げられるものが、DFID がフェアトレードチョコレートを扱うイギ

リスのチョコレート会社 The Day Chocolate Company(以下 Day 社)設立の際に、40 万ポンド(約

9,000 万円)を融資したことであり、企業への支援はこれが最も大きい融資であるとされる。この Day社への融資の経緯は、第 3 節の企業の取り組みの部分で詳しく述べることとする [DFID HP 2008]。

Page 15: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 15 -

他にも、1990 年に設立された Ethical Trading Initiative(以下 ETI)の財源の約 40%は DFID から

の融資によるものである。この ETI は、企業、NGO、労働組合と DFID とが手を組み、貿易の全てに

関わる人々の労働環境を改善していこうという組織である。特に、開発途上国にある先進国企業の下請

会社における劣悪環境での労働が見逃されてきたため、それらも含め、改善に向けて取り組んでいる。

ETI は国際労働基準に準じる独自の労働に関する規約を設けている。2005 年までには、イギリス国内

の 31 の企業、特に小売業界、が ETI の規約に同意している。フェアトレードに関しては、ETI により

イギリス国内での倫理観が高まりや、企業への倫理観意識の向上を促しているため、フェアトレードへ

の関心も同時に高めていると考えられている[ETI HP 2008; Nicholls and Opal 2005:22, 71-72]。 このように、イギリスにおいて政府によるフェアトレード団体や企業への融資がどれほど大きいもの

であるのかわかる。資金面でのやりくりの苦労が絶えないフェアトレードであるため、DFID は融資と

いう点で重要な役割を果たしていると言える。 <学問、学校教育による影響> 第 2 に、教育の分野において、近年フェアトレードの関心を高める教育がなされているという。例え

ば、倫理的ビジネスや環境問題を含めた履修科目が増えているという。フェアトレードもこれらの科目

と結びつきやすく、倫理的消費主義の台頭や、倫理的ビジネスの観点を持つ会社の起業等に繋がるのだ

という[Nicholls and Opal 2006:22-23]。 上記は高等教育以上の中のことであると推測されるが、筆者は他にも初等教育の中にもそのような傾

向が見られるのではないかと考える。例えば、イギリスでは、学校教育の中に開発教育の要素が盛り込

まれている。イギリスにおける開発教育とは、以前は各学校によって行われていたものであった。その

後、2002 年度から National Curriculum という、学校教育のプログラム内の市民教育(Citizenship Education)と言われる教科に開発教育の要素が盛り込まれるようになった。ここでの市民教育とは、

社会的・道徳的責任、社会への参加、政治的な知識・能力の 3 つのテーマから、「積極的な市民」とし

ての意識を育てようとするものである。これらは市民教育単独で学ばれる場合もあるが、歴史や地理、

宗教学と共に学ばれる場合もあり、それは各学校により様々である[DfES 2007:78-86]。 イギリスのバーミンガム地方にある小学校は、市民教育の取り入れが評価された学校の一つである。

この学校の生徒のほとんどはイスラム教徒であり、そのため、グローバルな視点での市民教育の取り入

れが可能であったと言われている。この市民教育のプログラムの 1 つに、毎年各生徒がそれぞれのテー

マについて書いたものを廊下に貼るというものがある。そのテーマというのは、開発教育の視点に立っ

てテーマ選択をさせている。それらの毎年のテーマ例として、テロとその影響、フェアトレード、途上

国における清潔な水と世界における石油の影響、などが挙げられている[DfES 2007:81]。 このように、イギリスでは、市民教育の中に開発教育を取り入れ、幼い頃から開発問題に触れること

により、開発問題をより身近なものとして考えることのできる環境があると言える。

<文化、情報による影響> 最後に、文化の変容と手軽な情報入手により、フェアトレードへの関心が集まった、ということであ

る。この 30 年間で消費者の考え方に変化が見られたのだという。1970 年代や 1980 年代は物欲の激し

い消費者が多かったことに対し、現在の消費者は、商品に本当の価値を求める傾向があるそうだ。これ

を裏付けるかのように、1999 年に行われた調査では、対象者にフェアトレードの考え方を説明すると、

その内の 68%が、フェアトレード商品をぜひ買いたい、という結果が出た[Nicholls and Opal 2006:23]。 これらの結果を後押ししているのが、消費者への情報である。この情報というは、メディアから得ら

Page 16: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 16 -

れるものや、インターネットの普及により、その商品や商品を扱う企業の情報が手軽に検索できること

にある。そのため、商品の詳細に関心のある消費者は、メディアやインターネットより、より多くの情

報を入手することができるようになったのだ。また、このような消費者は、今ではサプライチェーン全

体に関心を持っている。自分たちの購入するものが、どこで、どのように、どうやって自分たちの手に

届くのか、ということに興味を持っている。その厳しい目が、企業による、下請け会社等での劣悪環境

での労働や児童労働の発覚に繋がったのであろう。このようにして情報を得た消費者は、強いプレッシ

ャーグループになることは間違いない。そのため、商品を作る側も、これらに配慮すべく取組を行わな

ければいけない、という状況になっている[Nicholls and Opal 2006:23-24]。 これら 4 点、そしてもちろんチャリティ精神や歴史的経緯が備わっているということも相互作用し、

イギリスにおいて高い認知度と高購買力が培われたのだということがわかる。また、フェアトレード団

体や NGO による普及活動もこれらに貢献したことも大きな要因である。次節では、その NGO や近年

フェアトレード商品の売上を伸ばす企業の取り組みを述べる。

第3節 NGO から企業への取り組みとしてのフェアトレード この節では、NGO が始めたフェアトレード製品の販売が企業等社会全体へ影響し、今日のイギリス

での大きな活動となっている。まず初めに、フェアトレードのキャンペーン活動、企業や政府へのアド

ボカシー活動を多く行うイギリス巨大の NGO、Oxfam の活動に焦点を当てる。 Oxfam の取り組みとしてのフェアトレード Oxfam は第 2 次世界大戦中、ナチス軍による攻撃を受けたギリシャ市民に、オックスフォードの人々

が食糧支援などをしたことから始まったイギリスの慈善団体である。当初あった Oxford Famine Relief Committee を短縮した名前が、今のものに繋がると言われている[オックスファム・ジャパン HP 2008]。 フェアトレードに関しても 1964 年からと、早い段階から取り組み始めている。1965 年には Bridgeというプログラムとして、災害地の人々から工芸品や食品を買うことにより、途上国の人々の生活を助

けようというプログラムを打ち出した。そこでは、それら商品のための市場を作り、そこで適切な値段

で売り、消費者が購入できるような場を提供することを考え出した。この Bridge プログラムのなかで、

Oxfam の中古品販売の店の一角にそのような場を作ることとなった。 Bridge が商品販売を進めていく

中、1989 年 5 月に、Bridge を含む、「もう 1 つの貿易手段」を広めようと活動している 13 団体が集ま

り、IFAT を設立した。この組織を作ることにより、互いの情報・意見交換ができるようにした。また、

この設立が翌年の EFTA(European Fair Trade Association)の設立を促したとされている[Coote 1992:166-177]。 Oxfam のフェアトレードに関する活動は、前述のように、中古品を売るセカンドハンズショップ内で

フェアトレード商品を販売することであり、今ではイギリス国内に 830 店舗、ボランティアスタッフ

22000 人が働いている。また、今ではロンドンに 2 店舗を持つフェアトレードコーヒーショップの運営

にも及ぶ。大きな活動としては、キャンペーン活動が挙げられる。「Make Trade Fair」という、政府、

国内企業や多国籍企業に対して貿易をフェアにするよう促すキャンペーン活動を行っている[Make Trade Fair 2008, Progreso Café 2008]。

キャンペーン活動が成功した例として、エチオピアのコーヒー豆の商標登録に向けてのキャンペーン

が挙げられる。このキャンペーンは、エチオピアが自国のコーヒー豆を商標登録しようとしたところ、

大手コーヒー会社のスターバックスがそれに反対をしたことに始まる。この商標登録が認められれば、

Page 17: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 17 -

コーヒー生産者はその売上額以上に収入が入ることが見込まれる。これはエチオピアのコーヒー生産者

にとっては助かる話であるが、スターバックスがその登録を阻んだ、ということであった。そこで、学

生グループ、NGO、エチオピアのコミュニティグループなど 9,600 人以上の人々と、イギリスの Oxfamがキャンペーンを行ったことによって、スターバックスは最終的にその商標登録を 2007 年に認めた。

これは Oxfam の大きなキャンペーンの力故と言えるだろう[Make Trade Fair HP 2008]。 このように企業や政府に大きな力を持つ NGO は、これらもフェアトレードが進められていく上で重

要な役割を担うと考えられよう。 企業の取り組みとしてのフェアトレード NGO の取り組みが企業まで発展した例として、Café direct の創立がある。これはイギリスの 4 つの

NGO によって 1991 年に設立され、イギリス国内では大手企業である。この会社は、名前の通り、生産

者から直接コーヒー、紅茶やチョコレートの製品を買い、国内のスーパーなどに販売している。また、

Tradecraft という企業もイギリス内では大きな会社である。この会社もフェアトレード商品を扱い、そ

れらはコーヒーから工芸品まで広く着手している。支援している国も 30 国、100 以上の生産者グルー

プに渡る。これらの企業の商品はいずれも FLO のマークを取得し、また、創立した当初からフェアト

レード商品を扱っている企業である[Café Direct HP 2008; Tradecraft HP 2008]。

<イギリスのスーパー、Waitrose のコーヒーコーナーにて(Café direct の商品)>

その中でも、1998 年に立ち上げられたイギリスの大手チョコレート会社 The Day Chocolate Company のイギリスチョコレート市場参入は大きいものであった。この市場参入は、ガーナの小規模

カカオ生産者組合の決定によるものであったが、それをイギリスの Body Shop と Twin Trading、Christian Aid という NGO からの支援、そしてイギリス政府の DFID による融資によって、この Day社の設立に至った[Doherty and Tranchell 2005]。

イギリスのチョコレート市場は大手 3 社(Cadbury, Nestle, Mards)が 80%を占めている。その市場

に新規参入、ましてフェアトレードチョコレートを扱う中小企業として Day 社が参入することは難しい

と見られていた。しかし、それが消費者の手に渡るようになった理由には、その価格設定と、Christian Aid が行ったハガキキャンペーンによるスーパーへの促進などが考えられる。また、子どもにターゲッ

トを向けた商品、イギリスの生協との共同ブランド開発や、スターバックスとの共同ブランド開発によ

りスターバックスのチョコレートがすべて Day 社になったこと、これらも成功の鍵となったであろう

[FTRC HP 2008]。

Page 18: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 18 -

この Day 社が何故大きく取り上げられるのかというと、ガーナの生産農家が約 3 割の株を所有して

いるからであろう。他 5 割を Twin Trading、残りを Body Shop 等が所有する。また、この困難であっ

ただろうイギリスのチョコレート市場に参入を決定したのも生産者農民であった。Day 社の幹部の構成

も特徴的であり、生産者団体から 2 名、Twin Trading から 2 名、そして Body Shop、Christian Aid、Comic Relief から各 1 名が選出されたことも、この Day 社の特徴として挙げられる[Doherty and Tranchell 2005]。 この Day 社の市場参入への成功が、農民に与える影響は大きいと考えられている。Doherty と

Tranchell によれば、第 1 に、農民が会社の運営に関わることができるということから、女性にも決定

権が与えられるようになった。第 2 に、フェアトレードの特徴である、割増金により、医療の無料化、

学校の建設、安全な水へのアクセスが可能になった。第 3 に、女性への収入向上のプロジェクトにより

女性が起業を目指すようになった等、女性の意識改革をも成したということである。この結果から、教

育や医療等の生活基準の向上だけでなく、生産者、特に女性のエンパワメントにも繋がったことがわか

る。また、このような小規模生産者にも、イギリスの市場に参入し、その市場で生き残ることができる

のだということが証明され、今後同様な企業の市場参入にも希望を与えることができただろう[Doherty and Tranchell 2005]。 フェアトレードタウン フェアトレードタウンとは、2000年にイングランド北部のガースタンが指定されたことから始まり、

2007 年 10 月までにイギリス内で 300 以上の都市がフェアトレードタウンに指定された。このフェアト

レードタウンとは、地方議会により決定されるものであり、その町全体がフェアトレードを推進するこ

とを約束するものである。このフェアトレードタウンの認定は Fairtrade Foundation が行っている。

この認定を受けるには5つの条件をクリアしなければならない[小吹 2007:40-41; 森 2004:62-63; 長坂 2008:74-43h]。 その 5 つの条件とは、

① 地方議会のフェアトレード推進の決議を通すこと、議会でフェアトレードコーヒーや紅茶を使

用すること ② フェアトレード商品がその地方スーパーやカフェで販売されること ③ フェアトレード商品がその土地の不動産屋や美容室などの店、教会や学校などでも販売される

こと ④ キャンペーンなどを通して、フェアトレードをメディアなどに促進すること ⑤ フェアトレードタウン推進団体は、その意義を保つために話し合いの場を持つこと である[Fairtrade Foundation HP]。

そのフェアトレードタウンに初めて指定されたのが、ガースタンという町である。ガースタンは人口

5,000 人の小さな町であり、2000 年に行われた町の住民投票でのほぼ全員一致により決定した。このフ

ェアトレードタウン指定に向けて運動を始めたのは、この町の獣医たちで、当初は 3 人であった。しか

し、彼らが店にフェアトレード商品を置いてもらえるよう頼んだこと、学校の生協と組んで生徒に途上

国の生産者への関心を煽ったことや、地元農民への積極的なアプローチにより、地方議会の中で全員一

致の投票を得ることができた。その後は生協、スーパーからカフェ、新聞販売店やガソリンスタンドな

ど約 15 店舗でフェアトレード商品が扱われるようになり、さらには、fairtrade church として教会が

フェアトレードを支持しているということも見られる[小吹 2007:40-41; 森 2004:62-63]。

Page 19: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 19 -

学校へ広がるフェアトレード フェアトレードタウンのように、大学においてもフェアトレード大学(Fairtrade Universities and Colleges)の認定を受け活動する生徒も多く出てきている。イギリス内で最初にフェアトレード大学と

して認定された大学は、2003 年のイングランドにある Oxford Brookes University であり、現在では

70 以上の大学が認定されている。フェアトレードタウンと同様に、フェアトレード製品を大学の至る場

所で扱うことにより、フェアトレードへの関心を上げていこうとする動きが見られる[Fairtrade Foundation 2008]。 このフェアトレード大学内では、1 年に 1 度フェアトレード議会というイベントを行い、各大学の代

表者により話し合いが行われる。そこでは、各大学での活動内容の共有や、学内キャンペーンの報告、

他大学の学生や企業との交流が目的である。他にもゲストスピーカーによる講演やワークショップ、フ

ェアトレード商品の展示等が行われる大きなイベントである[Fairtrade Foundation 2008]。 このフェアトレード大学に認定されるには、フェアトレードタウンと同様に、5 つの項目をクリアす

る必要があり、それらは、 ① 学生会館(Student Union)及び大学機関はフェアトレードに関する政策を作成すること。 ② フェアトレード商品(食品)がキャンパス内の全てのショップとカフェ、レストラン、バーで

手に入れられるようにすること。また、まだ可能でない所では、すぐに導入すること。 ③ 大学側が主催する会議において、必ずフェアトレードコーヒーや紅茶を提供すること。また、

大学オフィスでも提供されること。 ④ フェアトレード商品販売増加のため、キャンパス内でキャンペーンをすること。 ⑤ フェアトレード団体が大学内で設立されること[Fairtrade Foundation 2008]。 の 5 点である。

ちなみに、筆者が通っていたイングランドの Bath Spa University(Fairtrade University ではない)

内でも、Student Union と呼ばれる学生会館内のカフェにおいて、全てのコーヒー、紅茶、ホットチョ

コレートがフェアトレード商品であった。また、スナックバーやチョコレート、飲み物が販売される場

所においてもフェアトレード商品が見られた。しかし、全てのものがそうというわけではなかった。 これらの動きは、イギリス内でのフェアトレードへの関心の高さと、それを行動に移し、より活動を

活発化させていることが伺える。最も特徴的だと言えるのは、市民社会の強さではないだろうか。市民

社会の声とその活動により、政府や企業も動かされているようだ。Day 社はその象徴であり、また、そ

のような企業もマーケットに参入し消費者を獲得できるのだということを示すことができたのだろう。

今後、どのような活動が拡大していくのか、興味深い国、イギリスである。

第3章 日本におけるフェアトレード この章では、イギリスとは土台や背景も違う日本におけるフェアトレードの取り組みを見ていきたい。

第 1 節では、日本でのフェアトレードの現状を、そして、第 2 節から第 4 節では、フェアトレード団体

と横須賀市役所、そして企業からのインタビューを基に、日本におけるフェアトレードへの取り組みへ

の成果や展望、これからの課題を取り上げたい。

Page 20: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 20 -

第1節 日本のフェアトレード市場の現状 1960 年代に欧米で「フェアトレード」が叫ばれていた中、日本における本格的な取り組みは 1980 年

代と、少し遅い始まりであった。この節では、その日本におけるフェアトレード運動の歴史や動き、そ

して現在のマーケットの状況や規模を把握しておく。また、ここ近年活発な動きが見られる企業や学生

の動きにも焦点を当てる。 日本のフェアトレードの歴史 日本がフェアトレードに取り組み始めたと言えるのは、1974 年の、シャプラニール=市民による海

外協力の会(以下シャプラニール)による女性対象のジュート製品生産組合プロジェクトであった。こ

のプロジェクトは、当時 HBC(Help Bangladesh Committee)という団体名であったシャプラニー

ルが、バングラデシュで行う農村開発プログラムの一部であった。当時、この活動がフェアトレードで

あるという認識はなく、本格的に始まったのは 1985 年であった。また、1985 年に教育 NGO であるシ

ャンティ国際ボランティア会が、タイの難民キャンプ支援の一環として、クラフトエイドによる民族品

の販売を始めたのもこの頃であった[長坂 2008:74-75]。 日本で初めてフェアトレード NGO が立ち上げられたのは 1986 年の第 3 世界ショップである。第 3世界ショップは、フェアトレードだけでなく、地域の問題改善のためのコミュニティトレードへの取り

組みも行っている。その後も 1989 年には、「民衆交易」という貿易を軸とした ATJ(オルタートレード

ジャパン)が設立される。また、1991 年設立のグローバル・ヴィレッジ(95 年フェアトレードカンパ

ニー株式会社設立)、1992 年設立のネパリ・バザーロと 1995 年設立のぐらするーつは、日本の中で IFATに加盟している団体である。前者 2 団体は、今までの NGO や団体とは違い、食品や工芸品だけでなく、

ファッションに最も力を入れていることでよく知られている。この 2 つの団体が発行するカタログは情

報量も多く、ファッションに力を入れていることが見てわかる。ネパリ・バザーロに関しては、ネパー

ルのみに特化し、今では対ネパール輸入のほぼ 5%が同団体によるものであり、その活動の影響が大き

いことがわかる。他にも、フェアトレードが主ではないが、NGO 内の活動の一環としてフェアトレー

ドを扱う団体が姿を現している[長坂 2008:75-76; IFAT HP]。 フェアトレードへの取り組みはこのような団体だけではなく、企業の市場参入も見られるようになっ

てきた。例えば、コーヒーショップであるスターバックスは 2002 年にフェアトレードコーヒーを、2003年には小売業界のイオンもフェアトレードコーヒーを導入し、その後はチョコレート、バラやオーガニ

ックコットンの T シャツ(フェアトレードカンパニーの商品)の販売も行っている。また、外食産業の

ゼンショーグループが、同グループである牛丼チェーン店のすきやにおいて、フェアトレードコーヒー

の販売を 2007 年から始めた。これらの企業は、FLJ の認証を受けて活動をしているので、FLJ のホー

ムページを見ればどれ程の企業が参入しているかが一目瞭然である。2008 年 11 月の時点では、コーヒ

ーだけでも 23 の企業が取り扱っていることになる[長坂 2008:89-91; FLJ HP]。

日本のフェアトレードマーケット規模 欧米に比べ、日本の市場は小さいと言われるが、その市場とはどれ程なのだろうか。日本市場の正確

な統計はないため、長坂による推計をここでは用いる。統計によると、2004 年から 2005 年の伸びは

50 億から 53 億円と 1 年で 3 億円であったが、2006 年にはそれが 61 億に、そして 2007 年には 71 億

円が見込まれるそうだ。推計ではあるが、ここ近年では 1 年に 10 億円ずつの伸びが日本でも見られる。

また、認証を行う FLJ(Fairtrade Label Japan)での売り上げによると、1993 年の設立後は売り上げ

が伸び悩んだが、今では年率 30%伸びの勢いを見せている。これは近年企業の取り扱う数が増えたこと

Page 21: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 21 -

によると考えられる。ちなみに、世界のフェアトレードマーケット内での日本のシェアは 2%程とされ、

やはり小さいことがわかる[長坂 2008:77-79]。 フェアトレードマーケットの規模が把握しづらい理由として、フェアトレード団体がフェアトレード

ショップへ商品を卸している、ということもあげられる。フェアトレードショップとは、フェアトレー

ド商品のみを販売するところもあれば、自然食品や健康食品、環境に配慮した商品などと一緒にフェア

トレード商品を販売している場合も多い。そのため、その中でフェアトレード商品の売り上げだけを把

握するのは難しいとされる。ちなみに、日本でフェアトレードショップとされる店舗の数は、(財)国

際貿易投資研究所でのフェアトレード研究会が調査した結果、インターネット上では約 1000 店舗上が

ってきたという。しかし、この中には閉店した店や取り扱いを辞めた店舗もあると考えられ、単純には

推計はできないとされる。また、このようなフェアトレードショップは個人経営であることが多いため、

年間平均売り上げは 1 店舗 50 万~2000 万円と、各店舗によって差があるようだ。これは店舗の場所や

消費者の認知度などによっても偏りはでてくるであろう[長坂 2008:114-121]。 では、マーケットに大きく影響を与えるフェアトレードに対する日本での普及率や認知度はどれほど

なのか。日本では、欧米のようにフェアトレードマーケットは広く調査はされていないようだが、いく

つかの小さな集団内での調査はされている。例えば、普及率で言うと、日本貿易振興機構が 2005 年に、

日本内の一般消費者 2,859 名に対して調査を行った。これらの回答によれば、フェアトレードの飲食料

品の購入経験のある人が 7.7%、手工芸品の購入経験のある人は 3.9%に留まった[清水 2008:9-10]。ま

た、チョコレボ実行委員会によるインターネット調査会社を利用した認知度調査結果では、「フェアト

レード」を認知している人々は 2.9%であるとされた。しかし、この調査結果では、認知度とは至らな

いため、出現率とされている[長坂 2008:288]。 学生によるフェアトレード運動 消費者グループとして積極的な行動を見せているのが、大学生である。大学のキャンパス内で団体を

立ち上げ、イベント等での普及活動を主としている。そして、それら団体や学生をまとめているのが

FTSN(Fair Trade Students Network)である。FTSN は、個々で活動している学生や団体とのネッ

トワークを持ち、情報交換、イベント開催、勉強会等を行っている。地域は 4 つに分かれており、2008年の 11 月現在では、東京地区は 21 団体、関西地区は 6 団体[FTSN HP 2008]、中国地方は 2 団体、九

州地区は 7 団体、他に北海道 2 団体と東北 2 団体、そして沖縄に 1 団体で構成されている[長坂 2008:304-305]。また、FTSN は、大学生協にフェアトレード商品を販売してほしいと考えている学生

や学生団体の支援もしている。この動きもあってか、全国 45 の大学生協でのフェアトレード商品の販

売が行われている[長坂 2008:304]。 FTSN の活動で動いた企業もある。2008年の 5月 10日は、世界的なフェアトレードディの日であり、

タリーズコーヒーはフェアトレードコーヒーの販売を全店で実施した。この、全店での販売を促進させ

たのが、FTSN であった。FTSN は全国 22 大学、27 団体の 1,099 人からの署名を集めこの販売を実施

させるに至った。また、2008 年の 10 月には FTSN の学生らによる「フェアトレードウォーク」が行わ

れた。このイベントは、参加者全員が同じ T シャツを着用し、代々木公園から渋谷、表参道を歩きなが

ら、フェアトレードを一般市民にも知ってもらおうというものであった。参加者が歩きながらフェアト

レードについての説明や情報を載せたチラシも配り、積極的にフェアトレードを広める活動を行ってい

る [FTSN HP]。このように、学生でありながら、認知度への貢献や、企業への働きかけ等積極的な動

きも見られ、学生の力は非常に大きく影響力のあるものと考えられる。 また、高校生の動きも少しながら見られる。神奈川県立神奈川総合高等学校は毎年 1 回、ワンコイン

Page 22: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 22 -

コンサートという、生徒の有志団体によるチャリティコンサートを開催している。このイベントでは、

コンサートだけでなく、世界における問題を学ぶためのワークショップを行っている。2002 年からは、

ネパールのカンチャンチャンガ紅茶農園で働く子どもたちが学校に行けるようにと、チャリティコンサ

ートで得た募金を、奨学金として送っている。この紅茶農園は、フェアトレード団体であるネパリ・バ

ザーロが提携する生産者団体の一つである[One Coin Concert HP]。 第 2 節では、このような草の根の活動をしている日本のフェアトレード団体、ネパリ・バザーロの活

動に焦点を当てる。 第2節 フェアトレード団体の取り組み フェアトレードにおける重要な役割を担っているのがフェアトレード団体である。そこで、この節で

は、日本のフェアトレード団体の中で特に活躍しているネパリ・バザーロ(以下ネパリ)の取り組みに

ついてまとめ、フェアトレード団体の活動内容、今後の展望や課題を述べたい。ここでの情報は、HPやカタログ、代表の土屋春代のインタビューviに基づく。 ネパリ・バザーロの活動 ネパリは 1992 年に設立され、ネパールの女性の自立と子どもの育成支援を主とする NGO が母体の

団体である。代表である土屋春代が、中学生の時にある医師から聞いたネパールの状況と、20 年後に聞

いた現状とがほとんど変わっていないということに衝撃を受け、ネパールへの支援活動を始めた。それ

が母体のベルダレルネーヨという NGO である。土屋は活動当初からネパールへ頻繁に足を運び、子ど

もたちへの教育支援をしている内に、貧困から抜け出すにはまず人々が経済的に自立する必要があるの

ではないかと気づく。いくら教育への支援をしていても、やはり貧困が原因で学校に通うことが難しく

なる子どもたちも出てくる。また、現地の女性からも「支援よりも貿易を」という声を聞き、それが今

のフェアトレード部門を立ち上げるに至った経緯である[長坂 2008:202-203]。 ネパールに一番初めにフェアトレードとして貿易をした団体がネパリということもあり、当初はとて

も大変であったという。それが今では、約 40 の現地の団体と取引をし、大きな団体では約 50 人の女性

が手に職を持ち、働いているという。ネパリが扱う商品は、コーヒーや紅茶、スパイスなどの食品から、

アクセサリーや小物入れ等のクラフト製品、そして最も力を入れている衣服である。これらの商品の開

発企画から輸入、卸、販売まで行い、そして頻繁に現地に赴き、調査や社会開発等を行っている。また、

紅茶農園の子どもたち 170 人全員に学校へ行けるよう奨学金を与えたり、ある団体ではセービングファ

ンドという将来に備えて積み立てる預金が設立された。この預金は、給与の少額を毎月そこに割り当て、

いざという時のためにその資金を使えるようにするというシステムである。このような生産者支援活動

も積極的に行っている[ネパリ・バザーロ 2008:54]。 また、ネパリの特徴として、ネパールへの自立支援活動だけではなく、地域の福祉政策所へ仕事の機

会を与えている点があげられる。ネパリで販売されているクッキーが、その福祉政策所で作られたもの

である。このように、ネパールの女性や子どもたちだけではなく、地域に住む人への自立支援にも取り

組んでいる。 日本のフェアトレードマーケット、団体の特徴 では、日本のフェアトレード団体として活動するネパリが感じる日本のフェアトレード市場の特徴と

はどのようなものなのか。土屋のインタビューの中から伺うことができた。

Page 23: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 23 -

フェアトレードが普及している欧米では、クラフト製品や食品が多いのが特徴である。これは、第 2章で述べた通り、欧米ではキリスト教的考え方が強く、そのチャリティ的要素がフェアトレード商品へ

の購買力に繋がっていると考えられている。チャリティ要素が強い故、消費者が本当に欲しい、という

ような物や高い品質でなくても売れるということも特徴であると言えるようだ。 反対に、キリスト教的な考え方のない日本の市場の大きな特徴として、消費者の目が厳しいというこ

とが挙げられる。衣料品であれ食品であれ、品質の高いものを消費者は求めている。衣料であれば、少

しでも糸が解れていればクレームになってしまう、食品も質が高くないものであれば手にとってもらえ

ない、そんな厳しい市場である。 また、日本のフェアトレード団体の特徴として挙げられるのが、ファッションに力を入れている団体

が多いということである。その代表がネパリであり、People Tree や第 3 世界ショップ等、カタログや

ネットカタログを持つ団体である。食品やクラフト製品も扱う傍ら、一番に力を入れているのはファッ

ションである。やはり日本でのファッションへの需要や関心は非常に高いということがわかる。そのた

め、ネパリでは、アパレル業界の第一線で活躍していた青木いみ子さんをパタナーにし、日本の消費者

に合う服作りを日々行っている[ネパリ・バザーロ 2008a:42-47]。 ちなみに、このような日本の動きがあってか、欧米でもファッションに取り組む団体が除々に出てき

ている。例えば、Oxfam が 2008 年に、イギリスのノッティンガムにファッションを中心とする店を開

いた。他にも、People Tree ブランドの洋服が、イギリスのハイストリートショップと言われる高級洋

服店に並ぶようになり、そのフェアトレード衣料の品質は、世界に認められるようになったと考えられ

る。そのファッションの第一発信国が日本であるということである[People Tree HP]。 日本における、現状までの成果 欧米のマーケットや認知度には届かなくとも、日本におけるフェアトレードに対する取り組みや認知

度は近年激増している。土屋によれば、日本のフェアトレードマーケットの伸び率はここ 2,3 年で 20%にも上るそうだ。また、マスコミが取り上げる機会、学生が取り組む数も増え、書籍もここ最近で多く

出版され、2008 年は特に多かったと筆者も感じている。 こうした急増の要因はどこにあるのだろうか。土屋によれば、これには様々な要因があるのだという。

第 1 に、消費者が環境問題に真剣に取り組み始めたというところである。今までは地球温暖化などの環

境問題は、日本人にとっては関係のないことと捉えられがちであったが、近年の異常気象等、日本に及

ぶ影響も多くなったことから、関心が高くなったと考えられる。その中でフェアトレードの役割の 1 つ

として、環境に優しい有機栽培によるコットン、コーヒーや紅茶を生産していることから、フェアトレ

ード商品を購入することが環境問題への 1 つのアプローチであると考えられているのだろう。 第 2 に、フェアトレード商品を「買う」という、普段の生活の中の一部である手軽な方法によって国

際協力ができる、というところにもメリットを感じている人が多いからだという。今までは国際協力と

いうと、現地でボランティアをすることや、国際機関や NGO に寄付や募金をすることのような、お金

が随分とかかり難しいと思われがちであった。しかし、フェアトレードは、私たちの生活の一部である

買い物という、モノを買う際に何を選ぶかということにより途上国の人々の自立支援ができる、という

ところが人々に受け入れられる要因になっていると考えられる。 第 3 に、フェアトレード商品は品質が高く、安全で安心であるため、と考えられているためである。

上記でも述べたが、製品がオーガニックのものであるということが、環境にも人間にも安全で安心であ

るという考え方を与えているのだろう。また、フェアトレードの特徴として、生産者との顔が見える貿

易、というものが消費者に安心を与えていると考えられる。生産者の顔が見えるということは、誰が、

Page 24: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 24 -

どこで、どのように製品を作っているのかが分かるということである。 第 4 に、人から人へ、口コミで広まったことも大きな要因になっているのだという。自分が良いと思

ったものを、贈り物として友人知人に紹介する。紹介された人が、その商品を気に入り、自ら購入する

ことに繋がる、という流れでフェアトレードが浸透しているのも確かであり、ネパリへもそのような声

が届くことが多いという。口コミとは、テレビや雑誌によるものよりも、実際に自分の近くの人から声

を聞くことにより、信頼できる情報になり得るのである。 企業による取り組みに対して 最近、フェアトレード商品を扱う企業が多く出てきたことに対し、フェアトレード団体としてネパリ

はこの動きをどのように考えているのか。「継続性」というフェアトレードの一つの側面を失わせるこ

とのないよう、企業による取り組みも重要になってくると考えられる。 このことに対して、土屋はまず、企業はやはりイメージを先行してのフェアトレードへの取り組みで

あるのではないかと考えているようだ。日本でも近年、企業が社会的責任を果たさなければならないと

いうことが言われている。その中で、フェアトレード商品を取り入れることが CSR に繋がると考えら

れているのではないか。ということは、やはり真のフェアトレードの理念を理解しての取り組みは難し

いと考えられるのかもしれない。 また、企業は利益を出さなければならず、そのことが最優先になっている可能性がある。そのため、

無理難題な一時的な発注や、利益が出なければその商品が打ち切られる、ということもあるのだという。

そうなれば、生産者たちは、最初は受注があったはいいものの、継続性が失われ、のちには生産を続け

ることも困難になってしまうだろう。 このように、企業による取り組みは、生産者のことを優先的に考えているとは考えにくく、また、消

費者に与える情報も不十分であると筆者は考える。フェアトレードの特徴である「顔が見える貿易」と

して、生産者との繋がりが薄くなってしまうのではないか疑問である。企業側がどのように取り組んで

いるのかは、4 節で詳しく述べることとする。以上は、団体としての一意見である。

今後の課題 土屋によれば、今後もこの日本におけるフェアトレードの取り組みは活発化するだろうと考えられる

という。課題としては、日本における人材が足りないことだそうだ。今活発に活動している団体の方は

日本では一代目であり、その次の世代があまり出てきていないのだという。確かに、学生など若者によ

る取り組みは見られるが、それが長期的なものであるのかは不確かであり、大学卒業後は全く違う職種

につくこともしばしばである。土屋の話の中では、これからは小さな団体がたくさん作られ、小規模で

継続的に続けていくことが理想であるとしていた。そのためにも、これから若者がどれだけ進出してい

くか、というのが重要であるように筆者には思えた。 また、ネパリとしては、ネパールでの生産者側の課題もある。生産者の中には、言われたことだけを

こなす生産者もいるため、そのような人々の生産へのモチベーションを上げることが課題だという。こ

れらの人々のモチベーションを上げるためのネパリの工夫が見られる。例えば、一定の成果を上げた生

産者には、昇給やボーナス等を与えるという方法である。そのためには、スタッフの査定を入れ、生産

者の技術をチェックする必要があるのだという。 この節では主にネパリへ焦点を当て、フェアトレード団体がどのようなものか、また、団体としてど

のような考えを持っているのか聞くことができた。商品を扱うものという意味では、企業と同じ役割も

持っているが、生産者や消費者との近さでは、団体はより近い距離感を持つ。フェアトレードが日本に

Page 25: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 25 -

これからさらに広がるためには、このような団体の活動の活発化、そして私たち消費者がそれを支える

ことが必須ではないかと筆者は考える。次節では、このような団体に共感し活動を支える自治体の取り

組みについて述べる。 第 3 節 自治体の取り組み 前章で述べたように、イギリスでは自治体が一団となりフェアトレードを支持している、という例を

挙げた。日本では認知度や普及率も低いため、そのような動きはまだ見られないが、自治体の中にもフ

ェアトレードへの理解を表し活動するところが出てきている。この節では、そのような自治体、横須賀

市の取り組みを具体的に取り上げる。ここでの情報は、横須賀市企画調整部国際交流課長の松本義弘へ

のインタビューviiを行ったものによる。 横須賀市の活動 横須賀市がフェアトレードに取り組み始めたのは、2008 年の 4 月に行われた式典からであった。こ

の式典で行われたことは、フェアトレードコーヒーを参加者に提供するものであった。横須賀市がフェ

アトレードを導入したきっかけのひとつが、2008 年 1 月に行われた「かながわ自治体の国際政策研究

会」主催の研修会であった。その中で、前節でも述べたネパリ・バザーロ副代表の丑久保完二の講演を

松本が聞き、その話に共感し、早速 3 ヵ月後の同年 4 月の式典導入を目指し、実行した。また、横須賀

市がそのほとんどの委託金を支払う NPO 法人横須賀市国際交流協会が、イベント等でフェアトレード

コーヒーの販売をしていたということも、この導入のきっかけであり、松本がフェアトレードを知った

きっかけであった。横須賀市は国際交流協会に委託金を支払っているため、その財政状況を確認する必

要がある。横須賀市としては、当初フェアトレードコーヒーの販売が収益事業として成り立つのか等の

不安があったが、まずは実験的に試みた、という経緯である[ネパリ・バザーロ 2008c:110]。 横須賀市の活動としては、市の 4 大式典へのフェアトレードコーヒーの導入がすでに決まっている。

これは無料で参加者に提供するものであり、後々は他のイベントでの有料化での販売を考えている。ま

た、前回の「かながわ自治体の国際政策研究会」では、横須賀市のフェアトレードへの取り組みを発表

する場が設けられた。このことからも、横須賀市のこのような活動が、神奈川県の中でも注目され、評

価されていることは確かである。また、この研究会の中での発表を聞き、神奈川県の藤沢市と大和市が

導入を検討し始め、横須賀市から他の市への影響がうかがえる。 「市民平和のつどい―参加しやすい平和学―」 横須賀市企画調整部国際交流課が開催するものとして、市民とともに平和を考える「市民平和のつど

い」というイベントがある。2008 年の 8 月は、「参加しやすい平和学 フェアトレードで途上国の貧困

をなくし、紛争のない世界へ」と題し、ネパリ・バザーロ副代表の丑久保を招き、映画の上映と講演会、

そしてフェアトレードコーヒーやその他の商品の販売を行った。映画はネパールでボランティア活動を

行っていた若者のドキュメンタリー、そして講演会はフェアトレードの具体的説明、そして大学生や高

校生の活動紹介というものであった。筆者もボランティアとして参加し、また、参加者のアンケート集

計viiiを担当した。 集計したアンケートは、筆者自身が作ったものではないため、フェアトレードについての質問事項は

無いが、コメントの欄を見るとフェアトレードへの理解が現れていると考えられる。また、開催時期が

8 月のお盆に重なり、集約人数も多くはなかったが、このような時期だからこそ、関心が強い人が参加

Page 26: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 26 -

したものと考えられる。そのアンケートの中で、「今回のイベントをどこで知ったか」という質問に対

し、21 人中 15 人が友人や知人に聞いた、というものがある。この回答を見ると、人と人との繋がりが

強く、今回の講演会の内容もまた、友人知人に広まるのではないかという可能性が多く含まれていると

考えられる。自治体や草の根の活動では、人から人へ、ということは非常に重要なことではないだろう

か。 さらなる拡大に向けて 横須賀市の今後の活動ビジョンはどのようなものであるのか。短い目標として、横須賀市の全てのイ

ベントにフェアトレードコーヒー販売を導入したいということである。これには、国際交流課のみでな

く、他の課からの協力も必要であるため、彼らへの綿密なアプローチが必須である。また、前述のよう

に、他の市の導入もこれからは見られるようになるため、導入プロセスの提供やイベント支援等、横須

賀市に留まらず、活動やそのサポートをしていくという。この横須賀市が発信元となり、他の市が導入

するということは、横須賀市内部へのさらなるアプローチにも使うことができる。横須賀市内部、つま

り他の課に理解や協力を得ることも重要なのである。このように、市民だけへのアプローチではなく、

横須賀市や他の自治体の内部への啓発活動にも力を入れている。 また、中期的ビジョンとして、環境整備を整えたいということで、政府広報にフェアトレードが取り

入れられることを目標としている。また、政府へのアプローチの他、横須賀市の取り組みが今後発達し

ていくことにより、それがまた政府へのアプローチに繋がるため、市内の取り組みもまた重要である。

これが実現すると、日本でのフェアトレードへの理解は一気に深まるものと考えられる。 政府を動かすのも市民である。市民が変われば、フェアトレードの市場拡大は進むはずである。「行

動に移してもらうことが大事」であると、松本は言う。国際理解とは違い、国際協力は理解するだけで

なく、行動することが大事なのである。その意味で、フェアトレードコーヒーを 1 杯 100 円、ワンコイ

ンで良いので、お金を払い参加することが重要であることを強調する。お金を払うということは、理解

し、それに参加するということである。小さいがその行動するということが「フェアトレード」では求

められていることである。また、全員が幸せになることも大切なことであると話してくれた。フェアト

レード商品を提供する側も、購入し参加する側も、納得し理解したうえで初めて成り立つものである。

そこで初めて、消費者、提供者、生産者の幸せが生まれるという。 また、市民にも行動しやすいようにと、8 月の市民平和のつどいでは、市民に啓発活動をするだけで

はなく、その場「何かしたい」と思った参加者のために、ネパリ・バザーロの商品を置いていた。商品

を置くことにより、商品を購入し行動することが、「何かできること」に繋がることを、参加者に示し

ていたようだ。 これらの目標達成のためには、「汗をかくことが重要である」と松本は言った。汗をかくということ

は、イベントに自ら赴き参加することや、他の自治体の支援をすることである。そのように体を動かす

ということが、後々の事業効果に繋がるのだという。行動することが大事であるということを、自ら実

践しているという印象を受けた。 日本での自治体の動きはまだまだ見られないと言われるなか、横須賀市が自治体の発信地として動き

出している。この動きから、他の自治体、県、そして政府へと繋がれば、日本での取り組みはさらに活

発化するであろう。 第 4 節 企業の取り組み

Page 27: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 27 -

本節では、今後のフェアトレードマーケットの重要な役割の一部を果たすことができるであろう、企

業のフェアトレードへの取り組みを紹介する。そこで、日本で活動する企業として、2002 年にフェア

トレードコーヒーを導入したスターバックスコーヒージャパン株式会社の生産者支援活動などの取り

組みを取り上げる。情報や資料は、HP および、同社マーケティング本部ブランドコミュニケーション

グループ広報チームチームマネージャーの山崎政彦へのインタビューix内容によるものである。 スターバックスコーヒージャパンとフェアトレードコーヒー スターバックスコーヒージャパン株式会社(以下スターバックス社)は、アメリカを本社とするスタ

ーバックスインターナショナル社により、日本での店舗展開を目的とし 1995 年に設立された。コーヒ

ーストアの経営及びコーヒーとその関係商品販売の会社である。2008 年 3 月の時点で 90 億 741 万円を

売り上げ、11 月現在では全国に 830 店舗数を持つ。 フェアトレードコーヒーに関しては、「カフェ エスティマ ブレンド」という種類が、日本では 2002年から販売されている。FLO による認証を受けたフェアトレードコーヒーである。では、スターバック

ス社ではこのコーヒー以外は「フェア」に取引されたコーヒー豆ではないのか。スターバックス社では、

「C.A.F.E.プラクティス」というコーヒー豆生産に関する独自のガイドラインを導入している。このガ

イドラインは、社会面・経済面・環境面に配慮してコーヒー豆が生産されているのか、コーヒー生産者

へのチェックを行うガイドラインであり、そのチェックは外部に委託している。例えば、社会面では児

童労働がコーヒー生産に関わっていないか、経済面では生産者団体への支払いの確認を取り契約をする

他、環境面では生産に使われる水の汚染はないか、等のチェックポイントを満たしているかどうかであ

る。 また、価格面では、「プレミア価格」というものを取り入れている。コーヒー豆はニューヨークの Cマーケットで価格が決められるが、その価格は変動が激しく、生産者が安定して収入が得られないとい

うリスクがある。スターバックスではその変動性が激しい市場価格での取引ではなく、スターバックス

独自のプレミアム価格でコーヒー豆を取引している。例えば、2007 年はコーヒー豆 1 ポンド当たり平

均 1.43 ドルで取引をし、これは、ニューヨークの C マーケットの 25%増しの価格であった。参考まで

に、この年の FLJ のフェアトレードコーヒー豆の取引価格は、1 ポンド当たり平均 1.29 ドルであり、

FLO の最低基準価格よりも高価格であったことがわかる。ただし、この価格は全てのコーヒー豆の価格

に対してではないため、スターバックスでは 2015 年までに全てのコーヒーの種類をプレミア価格で取

引することを目標としている。 これらのコーヒー豆に対しての配慮ができる理由は、豆を生産者農園と直接契約し、直接輸入してい

るからである。契約は農園単位で、長期契約で結ぶこととなっている。このように、スターバックス社

のコーヒー豆はフェアトレード認証を受けていないものであっても、生産者支援によりつくられたコー

ヒー豆であると考えられる。 これらのスターバックス社のコーヒー豆生産者に対する支援を見ると、わざわざ FLJ からフェアトレ

ード認証コーヒーを仕入れる必要はないのではないかと筆者は思ったが、フェアトレード認証コーヒー

の位置づけとしては、消費者へのわかりやすさというものを提示しているのだという。ロゴがあること

によって、消費者にもフェアトレードコーヒーであるという印になる。また、現在フェアトレード認証

コーヒーは 1 年で 2 千万ポンドの量を FLJ から仕入れており、これは FLJ のフェアトレード認証コー

ヒー豆の 16%をスターバックスが買っているということになる。2009 年度にはこの量を倍の 4 千万ポ

ンドに増やしたいと考えているそうだ。しかし、消費者からはスターバックス社のこの活動には肯定的

なものの、要望などは聞かれないという。

Page 28: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 28 -

コーヒー生産者支援の理由 スターバックス社が、認証マークに頼らずに、このように生産者支援活動をする理由はどこにあるの

か。第1には、スターバックスのミッションがそこにあるからだという。スターバックス社として、コ

ーヒー豆はまっとうに作られたまっとうなものでなければならず、それが当たり前として社内の活動に

も組み込まれているそうだ。そのため、これらの活動は長期的に続けていくものであり、業績次第で辞

めるものでない、と山崎は話してくれた。 また、日本では近年、消費者による食に対しての安全や安心への関心が高まると同時に、このような

倫理的な活動にも注目が集まっている。今まではこのような生産者支援などにコストをかけることは少

なく、倫理的な活動に関しても日本では興味が注がれなかった。しかし、今はそこにコストを掛けるこ

とが企業にとって長期的利益に繋がるのだと山崎は言う。そうでないと企業として成り立たなくなる時

代がきているのだ。企業も今そのことを理解しつつあり、企業としても存続しなければならないため、

いずれ倫理観を持つ企業が生き残るであろうと山崎は予測しているようだ。そのためにも、私たち市民

社会が厳しく企業に目を置き、常に情報を得る必要がある。 今回企業の取り組みとして、スターバックス社を紹介し、ほとんどのコーヒー豆を生産者からプレミ

ア価格にて直接輸入している、ということがわかったが、必ずしも他の企業がこのような取り組みをし

ている訳ではないであろう。おそらく、フェアトレード認証商品を一部取り扱っているがその他の商品

は公正に取引されているかわからないものを置いている企業もあるだろう。そのような企業であれば、

業績が一度悪くなれば、コストがかかる認証商品からカットされていくだろう。そうすれば持続可能性

が消え、契約していた生産者の収入源は減る。このような企業の振る舞いに振り回されないためにも、

企業はスターバックス社の言うように、社会的責任を果たす必要があるだろう。 また、スターバックス社もミッションにあるためこのような活動をしていると言った以上、今後もそ

の活動を続ける義務がある。今回スターバックス社の HP やインタビューではコーヒー豆のことがメイ

ンであったが、他にも紅茶やココア等も取り扱っている。インタビュー内では紅茶について多く触れる

ことがなかったため多くは聞くことができなかったが、まだこちらへの取り組みが不十分であるならば、

取り掛かるべきである。また、この話の全てが真実であるかはわからないが、このような取り組みを行

う企業がこれから日本内で増えていくことを願いたい。そのイニシアティブを取るという意味でも、ス

ターバックスにはさらなる取り組みを期待したい。

おわりに 日本のフェアトレードのこれから フェアトレードとは、そもそも現在ある世界貿易の体制に疑問を持ち、その貿易が公正でないことか

ら、もう 1 つの貿易として生まれた運動である。確かに、貿易から取り残された生産者へのフェアトレ

ード団体による自立支援活動という意味で非常に意味を持つものであるが、フェアトレードを世界全体

の市場で考えると、その市場規模は全体の数パーセントにすぎないのも事実である。しかし、それを悲

観的に考えるのではなく、世界貿易自体が変わること、つまり、途上国への段階的な貿易自由化を促進

することや、先進国の矛盾した自国産業の保護を取り払うための契機という意味で、フェアトレードは

重要な役割を果たすことができるであろう。

Page 29: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 29 -

世界貿易をより公正なものへと変えていくためにも、フェアトレード運動が拡大し、フェアトレード

マーケットがより広がる必要がある。このマーケットが拡大し継続されることが、WTO や政府の政策、

企業の公正な働きを促すことに繋がるだろう。そのために、日本で要求されることは、市民社会が強く

なり、それによる政府や企業への監視である。第 2 章で述べたイギリスでは、市民社会が大きな力を持

つため、政府も企業もそれに従わざるを得ない状況にあることがわかった。しかし、日本ではどうだろ

うか。市民社会の声は社会に十分反映されているだろうか。その声を反映させるという意味でも、フェ

アトレードのマーケット拡大は必須である。フェアトレード商品の売り上げが伸びるということは、私

たち市民がそのような商品を求めている、ということを表す一つの形になるからだ。 では、日本においてフェアトレードマーケットがさらなる拡大をしていくためには、何が必要である

か。まず、フェアトレードに対する消費者の理解を深めるためのさらなるアプローチが必要であろう。

第 3 章でも見たように、日本におけるフェアトレードの認知度は、以前よりは上がってきたものの、世

界的に見て低いのが現状である。その中で、消費者に対しどのようなアプローチが有効であるのか。 <フェアトレード団体や NGO による市民へのさらなるアプローチ> ここで最も重要なのは、フェアトレード団体や NGO 等の草の根で活躍している組織による市民への

働きかけである。近年フェアトレードに対する認知度が上がってきたことは確かであるが、まだ知らな

い、理解に至っていない人々は多くいることも確かである。これらの団体や NGO は、生産者やその生

産環境に関する情報を多く持っており、また、生産者との繋がりも非常に濃い。これらの特徴を生かし、

イベントやセミナー等、現在でも多く開催されているが、これらをより広いレベルの市民を巻き込む形

で行なうことが求められるだろう。そのためにも、イベントの際の広報はかかせないものであると考え

られる。 また、特にフェアトレード団体は各自直営ショップを持っていることから、そこでの啓発活動も重要

な活動である。ショップ店員との会話や、そこにある情報等は他では得ることのできないものである。

ここで、団体側が生産者と消費者の仲を取り持つというミクロレベルの活動も必要だ。草の根で取り組

みを行っているフェアトレードショップや学生、そして自治体の活動にも大きな役割があると言えよう。 しかし、第 1 章で述べたように、フェアトレードの意味が多様化していることも普及が中々拡大しな

い問題の一つであると考えられる。特に日本人にとって「フェア」や「公正・公平」といった価値観は

まだ馴染みの薄いものであり、聞いただけではよくわからないものであろう。また、フェアトレードの

仕組みも、特に金銭的なことは、消費者にとって伝わりにくく、そしてわかりにくいものであると考え

られる。フェアトレードが消費者にとって、簡潔に、しかし、わかりやすく説明する共通の言葉が必要

であろう。そのためにも団体同士の連携も今後さらに不可欠であろう。 <企業の取り組みによるアプローチ> 企業のフェアトレード市場参入には賛否両論あるが、筆者としてはこの取り組みは悲観すべきことで

はないと考える。なぜならば、企業側もフェアトレード商品を扱うことに少なからず意義を感じている

からこそ導入したと考えられるからだ。また、企業は現在の社会の中で大きな存在であることを忘れて

はならない。特に、多国籍企業の持つ社会への影響はさらに大きなものである。フェアトレード団体や

NGO のように、貧困地域へ赴き、仕事の機会がない人々へ一から雇用を作るというまではいかないだ

ろうが、現在ある雇用が「フェア」になるならば、その効果は絶大であると考えられる。 しかし、企業としてはイメージアップのためのフェアトレード商品導入ということも考えられる。そ

のため、今後、食品偽装の問題のように、フェアトレード偽装という問題が起こらないよう、FLO 等の

Page 30: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 30 -

第 3 者機関は企業に目を光らせる必要がある。一つでもそのような偽装が起これば、その余波はフェア

トレードマーケット全体を揺るがすことになるだろう。また、特に欧米のようにスーパーマーケットに

フェアトレード商品が並ぶ際に考えなければいけないことは、生産者との繋がりが薄れてしまう危険性

である。スーパーの一角にある商品ということとなると、フェアトレードの特徴である生産者の顔が見

えづらくなってしまうのかでないかという疑問も当然出てこよう。 このように、企業の取り組みには問題も多々あるが、スターバックス社へのインタビューからわかる

通り、今後企業は生き残りをかけ、長期的利益を目的に活動をしていく可能性もある。今までは短期的

利益を目的とし、生産者に十分な賃金を与えないことや、悪状況の中での労働により、よりコストの掛

からないような生産方法を行ってきた。しかし、近年の企業の失態とそれ故の破綻などにより、そのよ

うな雇用状態を見直すよう企業は方向転換しつつあるのではないか。企業の方向転換を促すためにも市

民社会が強くなり、正しい方向で運営されることを常に監視していかなければいけないだろう。 <何がフェアなのか>

今までは、「フェアトレード」と言えば、生産者に偏りがちな「フェア」が強調されていたように筆

者には思える。もちろん、フェアトレードの考えが生まれた背景が、生産者が搾取されている「アンフ

ェア」な現状を変える運動であったため、それは当然のように思えるし、重要であることには間違いな

い。しかし、チャリティ精神が基盤となっていない日本では、生産者視点が強いフェアトレード製品で

は、今後のマーケット拡大は困難ではないかと考えられる。第 3 章でも述べたように、日本の消費者の

目は厳しいものであり、今後商品のさらなる品質の向上は必須であると考えられる。生産者への継続的

支援ということを考えると、マーケットの維持や拡大の必要があるからである。 筆者もフェアトレード製品をよく購入するため、色々と見てまわることが多いが、中々いいものが見

つからない。やはり生産者やその環境のことを考えると、同じものであるならフェアトレードのものが

欲しいと思うのだが、質やデザインを見ると、購入に繋がるのは難しい商品も見られる。まして、フェ

アトレードを知らない者からすれば、購入まで至らない場合も多くなろう。もちろん、フェアトレード

商品の開発には相当の時間と資金がかかるため、簡単にできることではない。しかし、その中でも、最

近では目まぐるしく質やデザインは向上し、良い商品が多くマーケットに出てきていることから、まだ

改善の余地がある商品があることも事実である。 生産者への持続的な支援ということを考えると、商品が売れなければ、長期的支援も不可能になる。

もちろん、消費者の全ての要求に応える必要はない。消費者の要求を受け入れすぎるあまり生産者視点

が失われることや、反対に生産者視点が強すぎ、消費者のニーズに応えていないという状況ではなく、

互いの要求をバランスよく取り入れることが求められている、と筆者は考える。両方のバランスの取れ

た視点が必要である。 一昔前までのフェアトレード商品、特に洋服であると、生産国の民族性の強いものが多いという印象

が強く、デザインは多くの日本人に受け入れられるようなものではなかったように思えた。しかし、最

近では、デザイン力はもちろん、生産者の生産能力も向上し、とてもしっかりとしたものが作られるよ

うになっている。その先端を走っているのがネパリ・バザーロやフェアトレードカンパニーの People Tree の洋服であろう。特にこの二つの団体では、人気商品は完売することが多い。やはりその理由は、

開発に力を入れていることであろう。ネパリ・バザーロであれば、第 3 章で述べたように、アパレル業

界で活躍していたパタナーを起用したことや、People Tree では、世界の有名デザイナーがデザインを

した「デザイナーズ・コレクション」xを販売するなど、デザインに力を注いでいることがわかる。この

ように、デザインが良いとされるものは日本の中でも人気が高いことがわかる。

Page 31: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 31 -

この、「何に、誰にとってフェアなのか」ということは益々強調されるべきであると筆者は考える。

もちろん生産者にとって搾取のない「フェア」な貿易がされているということは前提ではあるが、それ

だけではやはり消費者の買い物の際に与える情報として不十分であろう。特に日本においては、生産者

にとってフェアな価格であると同時に、私たち消費者や生産者の健康、そして地球環境にもフェアであ

るということが、より主張されるべきである点ではないかと筆者は考える。 皮肉なことに、2008 年は国内外を問わず食品への不安や疑念を抱かせるような事件が多発し、日本

の消費者は、特に食品に関して強い疑心を持たざるを得ないのが現状である。そのような状況の中で、

フェアトレードが果たすことができる役割があるのではないだろうか。生産者の顔が見える、第三者を

通さない直接契約による生産物や、農薬や化学肥料をできるだけ使わないオーガニックな生産。それら

は私たちに安心と暖かさを与えてくれるものになるのではないか。 しかし、これだけをフェアトレードの側面とすると、「ブーム」という形で終わってしまう危険性が

あるだろう。そのような流れに乗ってしまうのではないかと、不安を抱くことも多い。フェアトレード

の継続性に繋がるということを考えた際にも、やはり欠かせないことが「フェアトレード」への正しい

理解である。フェアトレードの安心さや安全さ等を伝えつつ、同時にその奥にある貿易の現状というも

のも人々に伝えることができれば、日本においても、継続したマーケットの発展へと繋がるのではない

だろうか。 参考文献 ブラウン、マイケル・バラット (1998) 『フェアトレード 公正なる貿易を求めて』 新評社 Coote Belinda (1992) The Trade Trap, Oxfam Edition Department for Education and Skills (2007) Diversity & Citizenship, DfES Publication Doherty Bob and Tranchell Sophi (2005) ‘New Thinking in International Trade? A Case Study of

The Day Chocolate Company,’ Sustainable Development, Wiley InterScience, pp.166-176 Fair Trade Advocacy Office (2005) Fair Trade in Europe, The Fair Trade Advocacy Office FLO, IFAT, NEWS!, EFTA (2008) 「これでわかるフェアトレードハンドブック 世界を幸せにするし

くみ」 合同出版 池上甲一 (2007) 「フェアトレードのジレンマとその克服」『at 8 号』 太田出版 池上甲一 (2004) 「拡大するフェアトレードは農産物貿易を変えるか」『農業と経済』 昭和堂 11 クライン・ナオミ (2001) 「ブランドなんかいらない 搾取で巨大化する大企業の非情」 はまの出版 森寛敬 (2004) 「急成長するフェアトレード製品」『ジェトロセンサー』 太平社 62-63 村田武 (2005) 『コーヒーとフェアトレード』 筑波書房 長尾弥生 (2008) 『みんなの「買う」が世界を変える フェアトレードの時代』 コープ出版 長坂寿久 (2008) 『日本のフェアトレード 世界を変える希望の貿易』 明石書店 Nicholls Alex and Opal Charlotte (2005) Fair Trade: Market-Driven Ethical Consumption, Sage 小吹岳志 (2007) 「市民運動としてのフェアトレード」『NPO ジャーナル』 明石書店 40-41 大野真弓 (1965) 『イギリス史』 山川出版社 オックスファム・インターナショナル (2003) 『コーヒー危機 作られる貧困』 筑波書房 オックスファム・インターナショナル (2006) 『貧富・公正貿易・NGO』 新評社

Page 32: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 32 -

ランサム、 ディヴィット (2004) 『フェアトレードとは何か』 青土社 清水正 (2008) 『世界に広がるフェアトレード―このチョコレートが安心な理由―』 創成社 スティグリッツ・ジョセフ、 チャールトン・アンドリュー (2007) 『フェアトレード 格差を生まない

経済システム』 日本経済新聞出版社 参考 HP Café Direct (2008.01.01) www.cafedirect.co.uk/ Department for International Development (2007.12.31) www.dfid.gov.uk/ 英国大使館 (2007.12.31) www.uknow.or.jp/ Ethical Trading Initiative (2008.12.13) www.ethicaltrade.org/ Fair Trade Advocacy Office (2008.11.07) www.fairtrade-advocacy.org/ Fairtrade Label Japan (2008.11.01) www.fairtrade-jp.org/index.html フェアトレードリソースセンター (2008.01.01) www.ftrc-jp.org/link/divine/index.html Fair Trade Students Network (2008.11.01) www.ftsnjapan.org/ グローバル・ヴィレッジ (2008.06.07) www.globalvillage.or.jp/ International Federation for Alternative Trade (2007.06.07) www.ifat.org/ Make Trade Fair (2008.01.01) www.maketradefair.com/en/index.htm ネパリ・バザーロ (2008.10.03) www.verda.bz/indexj.htm One Coin Concert (2008.11.05) www.kanagawasohgoh-h.pen-kanagawa.ed.jp/onecoin/index.html Oxfam International (2008.01.01) www.oxfam.org/en/ オックスファム・ジャパン (2008.01.01) www.oxfam.jp/ Progreso Café (2008.12.14) www.progreso.org.uk/ Tradecraft (2008.01.01) www.traidcraft.co.uk/ 参考資料 ネパリ・バザーロ (2008a) 『フェアトレードの服と暮らそう』 ネパリ・バザーロ ネパリ・バザーロ (2008b) 『ネパリ・バザーロ おいしさの秘密』 ネパリ・バザーロ ネパリ・バザーロ (2008c) 『verda 2008 冬号』 ネパリ・バザーロ 読売新聞 (2008.12.13) インタビュー ネパリ・バザーロ代表 土屋春代さん(2008.06.23) スターバックスコーヒージャパン株式会社 マーケティング本部ブランドコミュニケーショングルー

プ 広報チームチームマネージャー 山崎政彦さん (2008.11.19) 横須賀市企画調整部国際交流課長 松本義弘さん (2008.10.03.07) 脚注 i 農林水産省 HP www.maff.go.jp/index.html より。 ii 2008 年 9 月 27 日の日本経済新聞の調査によるもの。20 代から 60 代の男女 416 名を対象とし、テス

トを行った。順位は正答率の低い順である。 iii 18~19 世紀にかけての、イギリスの古典派経済学者で、主著は『経済学および課税の原理』。ポルト

Page 33: 日本におけるフェアトレード - 桜美林大学...日本におけるフェアトレード -イギリスの事例を用いて日本独自の発展の可能性を探る-

- 33 -

ガルのポートワインとイギリスの毛織物を例に、その交換が相互に利益をもたらすことを示したことで

有名[ブラウン 1998:81]。 iv 1996 年のシンガポール閣僚会議において、政府調達、貿易円滑化、競争、投資の 4 つのグループを

WTO の体制に組み込むということに合意したが、これらが途上国に与える影響は大きいとされ、反発

を招いたもの。 v フェアトレード商品の認証を行う団体。日本の認証活動は、FLO の Faitrade Labelling Japan が行

う。 vi このインタビューは、2008 年 6 月 23 日にネパリ・バザーロの事務所にて行ったものである。 vii このインタビューは、2008 年 10 月 3,7 日の 2 日間で行われたものである。 viii 回収枚数は 21 枚。 ix このインタビューは、2008 年 11 月 19 日にスターバックスコーヒージャパン株式会社本社で行った

ものである。 x 最近では、イギリス人のボラ・アクス、リチャード・ニコルや、アメリカ人のサクーンとのコラボレ

ーションによる「デザイナーズ・コレクション」が販売されている。2007 年には、このようなデザイ

ナーズ・コレクションが、ファッション誌「ヴォーグ ニッポン」に掲載された[People Tree HP 2008]。