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「家庭・地域・学校が連携・協働して子どもを育てる環境づくり」 ~地域全体の教育力の再構築について~ 平成24年2月 第31次宮城県社会教育委員の会議

「家庭・地域・学校が連携・協働して子どもを育て …子どもたちの「生きる力」を育てるためには,学校・家庭・地域がそれぞれの現状を踏ま

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「家庭・地域・学校が連携・協働して子どもを育てる環境づくり」

~ 地 域 全 体 の 教 育 力 の 再 構 築 に つ い て ~

( 意 見 書 )

平成24年2月

第31次宮城県社会教育委員の会議

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目 次

はじめに ‥‥‥ 1

Ⅰ 地域全体の教育力の現状について

1 地域全体の教育力について ‥‥‥ 2

2 協働教育の現状について ‥‥‥ 3

3 協働教育のさらなる展開の必要性 ‥‥‥ 4

Ⅱ 協働という視点から地域の教育力が生かされた事例

1 事例一覧表 ‥‥‥ 6

2 事例

事例1 社会教育施設がコーディネートした事例

仙台市鶴ヶ谷市民センター事業「君もプチレスキュー」 ‥‥‥ 7

事例2 市民主導で学校教育支援を実施した事例

栗原市瀬峰地区の協働教育「せみねっ子を育てる会」 ‥‥‥ 9

事例3 サロン型交流により家庭教育推進事業を展開した事例

名取市家庭教育推進事業 家庭教育支援チーム「ぽっぽはうす」 ‥‥‥ 11

事例4 協働教育プラットフォーム事業による事例

川崎町における「みんなで育てようおらほの子どもかわさきっ子」

‥‥‥ 13

事例5 これまでの地域活動推進事業の取組が生かされた事例

山元町における「子どもも大人もみんなで遊び隊」「やまもと楽校」

‥‥‥ 15

3 事例からの考察について ‥‥‥ 17

Ⅲ 協働の視点から見た地域全体の教育力の再構築に向けた課題と今後の方策 ‥‥‥ 19

1 協働のあり方 2 協働の組織の確立 3 コーディネーターの発掘・養成・配置

4 情報交換の場・機会 5 多様な主体を巻き込む協働の推進

6 行政による支えの継続と県民運動の展開

むすびに ‥‥‥ 22

◇ 審議の経過 ‥‥‥ 23

◇ 第31次宮城県社会教育委員名簿 ‥‥‥ 24

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はじめに

宮城県は,平成 17 年度から「みやぎらしい協働教育」として,学校教育を地域の教育力で支援

していく「学校教育支援」を中心に進めてきた。

平成 18年 12 月に教育基本法が改正され地方公共団体で教育の振興のための施策に関する本計

画を策定することが求められたことを受け,宮城県では,平成 22 年 3 月に宮城県教育振興基本

計画を策定し,本県の教育の目指すべき姿を明確にした。

第31次宮城県社会教育委員の会議は,1年目の平成 22 年度,この宮城県教育振興基本計画の

基本方向5「家庭・地域・学校が協働して子どもを育てる環境づくり」を基に,協働教育の推進

に向けて審議していく方向性を確認して話し合いを進めてきた。

審議をする中で,協働教育におけるコーディネートの重要さを認識するところとなり,家庭教

育支援,学校教育支援について地域の教育力を生かして取り組みを活性化するコーディネート機

能について意見書のテーマにすることにした。

平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は,M9という大規模地震と沿岸部を襲った大津

波により,壊滅的な被害を及ぼし,市町村の社会教育施設も大きな影響を受けた。震災後は,仮

設住宅や親戚の家等で新たな生活をしている県民も多く,地域コミュニティや家庭が崩壊した地

域もあり,社会教育推進を取り巻く状況が大きく変わった。そこで,第31次宮城県社会教育委

員の会議では,審議内容に大震災が社会教育に及ぼした影響について取り入れていくこととした。

宮城県震災復興基本計画においても,教育の分野では地域全体で子どもを育てる体制の整備や

地域コミュニティづくりに向けた生涯学習活動の促進をあげている。

また,8 月にまとめられた宮城県教育復興懇話会の提言でも,地域コミュニティを基盤とした

地域の教育力が重要なことから,教育委員会及び学校が地域コミュニティの再生に積極的に関わ

っていくことの必要性をうたっている。

本会議では,以上の経過を踏まえ,テーマを再確認し「家庭・地域・学校が連携・協働して子

どもを育てる環境づくり」,サブテーマを「地域全体の教育力の再構築について」とし,協働によ

る教育活動について研修を行うとともに,県内各地の協働による教育の実践の聴き取りを行い,

地域全体の教育力の再構築について本意見書にまとめた。

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Ⅰ 地域全体の教育力の現状について

1 地域全体の教育力について

地域全体の教育力は,地域における学習活動に関わっている学校・家庭・地域住民や地域

にある企業・団体がもつ教育力と,それらが連携・協力することによって生まれる教育力の

総和である。

家庭教育は,全ての教育の原点であり,子どもの基本的生活習慣,倫理観,自立心等を身

に付ける基盤となるものである。少子化,核家族化,一人親家庭の増加等の家族形態の変化

は,子どもが家族と生活を営む中で自然に身につけることができた社会性や自立心などを育

みにくくしている。また,雇用状況などの社会的要因による親の生活状況の悪化,それに伴

う親の多忙化・孤立化の進展は,しつけが十分にできない親や育児に不安を抱える親を増加

させている。このようなことを踏まえ,家庭の教育力の低下が指摘されている。

地域社会は,子どもの社会性や規範意識,豊かな心等を育む役割を担ってきたが,都市化・

過疎化,価値観やライフスタイルの多様化が進む中で人間関係が希薄になり,子どもと大人

の交流の機会などが減少したことなどを踏まえ,地域の教育力についても低下が指摘されて

いる。

図1 家庭でのしつけや人格形成の教育が以前よりも不足していると思いますか

〔出展:宮城県教育庁教育企画室「教育に関する県民意識調査」(平成20年)〕

図2 自分の子どもの時と比べて地域の教育力を比較するとどう思いますか。(n=2888人)

〔出展:文部科学省「地域の教育力に関する調査」(平成 18 年 3 月)〕

①32.6%

①46.4%

⑥0.9%

④0.6% ⑤4.3% ③5.7%

②55.8%

②47.6%

③2.5% ⑤2.6%

④0.3%

⑥0.6%

②5.1%

⑤1.5%

④22.7%

③15.1% ①32.6%

地域の教育力が低下している理由

①個人主義が浸透し他人の関与を歓

迎しない〈56.1%〉

②地域が安全でなくなり子どもと他

人を交流させることに抵抗感が増

している(33.7%)

③近所の人々が親交を深める機会が

不足している(33.2%)

④居住地に対する親近感が希薄化

(33.1)

⑤母親の就労が増加している(30.1%)

〈※上位5位まで掲載〉

(n=1293 人)

(n=1034 人)

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学校はその役割や期待が大きくなり,負担や責任が増加している。学力向上を求められる

中,いじめや非行,不登校などの教育課題が山積している。

一方,地区子ども会育成会やPTAなどの従来からある社会教育団体の他に,子育て支援

チームや総合型地域スポーツクラブ・各種NPOなどの新たに地域の教育力を担う組織が立

ち上がり,それぞれが精力的に活動を展開しているところがある。

地域の中には,地域の教育力を担うことができる組織や個人は多数存在する。また,地域

の住民の中には学習の成果や過去の経験を,子どもの放課後の活動や各種の体験活動などの

支援に生かしたいと考えている人が多くいるものの,それらが協働して活動することができ

ず,全体として十分な力が発揮されていないところがある。

子どもたちの「生きる力」を育てるためには,学校・家庭・地域がそれぞれの現状を踏ま

え,役割の重要性を認識し,相互に連携協力しながら社会全体で取り組むことが必要であり,

地域全体の教育力を高めていかなければならない。

また,地域の子どもたちを育むための様々な活動に参加することは,地域の大人にとって

生涯学習の機会になり,参加者との結びつきや成果を生かして地域課題を解決することにつ

ながる。

2 協働教育の現状について

宮城県では,学校・家庭・地域のそれぞれの教育力を充実させるとともに,相互連携の仕

組みづくりを進めるために,平成17年度より,国の動きに先駆けて「みやぎらしい協働教

育推進事業」を実施している。

学校と地域が,子どもの健全育成という目的を共有して各々の特性・能力を生かしながら,

互いを尊重しつつ,対等な立場で協力し合い一緒に行う教育を協働教育と定義し,関連する

モデル事業である「コラボスクール推進事業(35小学校)」(※注1)「起業教育推進事業(7

中学校)」(※注2)を県内25市町で実施した。

平成20年度からは,「地域全体で学校教育を支援する体制づくりを推進することにより,

教員や地域の大人が子どもと向き合う時間が増加し,さらに地域住民等の学習成果の活用機

会の拡充及び地域の教育力の活性化を図る」ことをねらいとした,文部科学省の「学校支援

地域本部事業」を受託した。これを協働教育推進の取り組みの一つの形態として位置付け,

県内14市町18本部(平成22年度)で実践した。

この事業を実施している市町では,公の方針や施策に協働教育の推進を掲げ,各小・中学

図3 生涯学習で身に付けた知識等を活用する必要性について(n=1837 人)

〔出展:内閣府「生涯学習に関する世論調査」(平成20年5月)〕

①44.5%

32.6 ②39.7%

32.6

③10.1% ④5.7%

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校では,教育目標や教育計画に協働教育を位置づけて実践活動を展開した。この事業を通し

て,県内の協働教育は着実に広がりを見せた。

平成23年3月に刊行された本事業の報告書では,以下のような成果と課題が指摘されて

いる。

【成果について】

○学習支援ボランティアによる学習活動の広がり

○子どものコミュニケーション能力の高まり

○開かれた学校づくりの推進

○地域住民にとっての生きがいづくり,自己実現の場の提供

○地域教育力の活性化

【課題について】

○学校教育の充実につながる学校支援ボランティアの在り方

○学校を支援し地域を活性化するネットワークの構築

平成 21~22 年度には,学識経験者,市町村教育委員会の担当者,地域コーディネーターな

どによる協働教育運営委員会が設置され,今後の協働教育の継続的安定的な推進に向けての

協議が行われ,委員による具体的な提案がなされた。

平成23年度からはこれまでの「みやぎらしい協働教育」の成果と課題を踏まえ,「宮城県

協働教育推進総合事業」が開始され,11市町村が「協働教育プラットフォーム事業」(※注

3)に取り組んでいる。これは,従来からの「学校教育支援」に,「家庭教育支援」と「地域

活動支援」を加えた3つの柱のもとに,学校,家庭,地域の協働によって各種の事業を実施

しようとするもので,子どもを育てる協働の仕組みづくりを進め,地域全体の教育力の向上

と活性化を図る事業である。平成22年3月に策定された「宮城県教育振興基本計画」の基

本方向5「家庭・地域・学校が協働して子どもを育てる環境づくり」を具現化するための事

業として推進されている。

3 協働教育のさらなる展開の必要性

本県の学校・家庭・地域の協働の取組は着実にすすめられ,地域全体の教育力の向上と活

性化などに一定の成果を収めてきた。今後も協働の取組のさらなる拡大と深化を図ることが

期待されており,次のステップにむけての課題の抽出と具体的な方策の検討が必要になって

きていた。

3月に発生した東日本大震災では,学校と地域の協働を進めてきた地域で避難所運営が円

滑に進められるなど,絆の大切さが多くの人々の間で再認識され,地域住民の人間関係や家

族の関係が見直されるようになった。

一方,今回の震災によって,地域教育力の一端を担う社会教育施設が被災し,その機能が

著しく低下した。集団移転や,仮設住宅の地域では,新たな人間関係を構築しながら,地域

住民一人一人,あるいは住民と住民の関係による教育力を充実させることが課題となってい

る。

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また,震災を契機に「人と人との関係」がもつ地域全体の教育力が復活しつつあるものの,

時間の経過とともに関係が希薄化し,教育力が低下することが懸念される。このような課題

や懸念を解消・改善させるための対応をとることが求められる。さらに,今回の震災によっ

て崩壊した地域コミュニティの構築や再構築の担い手を育成していく必要がある。

今後の復旧・復興の方向性や施策を示した「宮城県震災復興計画」でも,教育分野の柱の

一つに「家庭・地域の教育力の再構築」を掲げ,家庭・地域・学校が協働し,それぞれの教

育力を発揮しながら,地域全体で子どもを育てる体制を整備することを挙げている。

東日本大震災を契機に,人と人とを結び,子どもの豊かな学習機会と地域住民に新たな学

習活動を生み出す協働教育の必要性がこれまで以上に高まっている。

図4 避難所となった学校において避難所を運営するための組織が立ち上がるまで過程は順調だったか。

〔出展:宮城県内の学校長への聞き取り結果(平成23年度文部科学省資料)〕

※注1「コラボスクール」とは(小学校対象)

地域で子どもを育てるという視点で,家庭・地域と学校が手を携えながら,様々な教育活動に取組

んだモデル実践校。

市町村に協働を支援する組織と学校区に協働を推進する組織を位置づけ,学校の教育活動に地域の

人材をはじめとした地域の教育資源「ひと・もの・こと」を活用して学校の様々な教育活動を支援し

ていく取組。協働教育を通して「人」を育てる,「人」が生きがいをもつ,「人」と「人」をつなぐ,

という効果が学校教育はもとより,生涯学習の立場からの効果も期待して実施した。

※注2「起業教育」とは(中学校対象)

職場体験をはじめ商品開発や販売体験活動など,社会における経済活動を教材とし,地域社会と学

校が協働して進める体験活動。地域の方々と交流をしながら,社会や経済の仕組みを学ぶと同時に,

地域の産業や歴史について理解を深めることができる。また,子どもたち自らが課題に挑戦し,成功

や失敗体験を通じて,チャレンジ精神や積極性,判断力やコミュニケーション能力等の資質・能力を

育むことができる教育活動。キャリア教育・職業教育の一環としても社会人・職業人としての自立の

素地を身に付けさせることも目的としている。

※注3「協働教育プラットフォーム事業」とは

子どもを地域全体で育むために,家庭・地域・学校をつなぐ仕組みをつくり,協働による教育活動

を通じて,家庭・地域の教育力の向上を図り,協働教育を一層充実させることを目的とする事業。

コーディネーターが学校とボランティア,地域とボランティアなど地域の教育資源をつなぐ役目を

果たし,家庭教育サポートチームや親の学び塾等による「家庭教育支援」,学校支援ボランティアに

よる教育活動支援等による「学校教育支援」,地域の教育資源を活用した体験活動の実施による「地

域活動支援」の3つの事業を地域の協働で実施していく取組。

地域の方々は,ボランティアとして参画し,学習成果の発表・地域貢献の場として活動する。

混乱がみられた40%

順調だった 35%

どちらともいえない25%

混乱がみられた0%

どちらともいえない5%

順調だった 95%

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Ⅱ 協働という視点から地域の教育力が生かされた事例

1 事例一覧表

ここで紹介する事例は,協働という視点から見て地域の教育力が生かされている事例であ

る。

事例

実施市町村

施設名

事 例 名

取 組 の 概 要

仙台市

鶴ヶ谷市民セ

ンター

社会教育施設がコーディ

ネートした事例

「君もプチレスキュー」

○災害発生時の地域の中学生のボランティア活動

への意識づけのための体験活動

・避難所運営

・DIG(ディグ)体験

・救急救命講習

・仮設トイレ組み立て訓練

・災害弱者疑似体験

・緊急連絡体験

栗原市

瀬峰地区

市民主導で学校教育支援

を実施した事例

「せみねっ子を育てる

会」

○市民会議が組織され学校への支援活動

・「せみねっ子を育てる会」の活動組織

・学校支援事業へのかかわり

・行政側の支援

名取市

サロン型交流により家庭

教育推進事業を展開した

事例

「家庭教育支援チーム

ぽっぽはうす」

○家庭教育支援チームの活動

・子育てサロンの開催

・地域と学校の連携

・家庭教育講座の実施による地域交流や親の不

安解消

川崎町

協働教育プラットフォー

ム事業による事例

「みんなで育てようおら

ほの子どもかわさきっ子

○協働して地域全体で子どもを育てる体制づくり

の推進

・様々な事業活動の実施

・地域との結びつきの強いコーディネーター

・ボランティア「かわさきっ子応援団」

山元町

これまでの地域活動推進

事業の取組が生かされた

事例

「子どもも大人もみんな

で遊び隊」

「やまもと楽校」

○家庭・地域・学校が一体となってイベントを開

・地域に定着したイベントの開催

・実行委員会を組織し「子どもも大人もみんな

で遊び隊」

・地域住民に学習機会の提供「やまもと楽校」

・柔軟性のあるネットワーク

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2 事例

事例1

社会教育施設がコーディネートした事例

仙台市鶴ヶ谷市民センター事業 「君もプチレスキュー」

1 地域の実態・事業の背景

仙台市宮城野区鶴ヶ谷地域の開発は昭和42年に東北最大のモデル団地造成工事として始まった

仙台市の事業であり,昭和43年には分譲入居を開始した。以降40数年が経過している。それに

つれて団地の高齢化が進行し,高齢化率は 36.0%(平成23年9月現在)と他地域に比べ非常に高

くなっている。

町内会は,鶴ヶ谷地区連合町内会に23,西山学区町内連合会の10,燕沢学区町内会連合会に

6の単位町内会があり,地域づくり意識が高く,町内会,老人クラブ,福祉団体などの諸団体の地

域活動の盛んな所である。

2 事業の概要

⑴ 趣旨

昼間人口が少ない現状から,災害発生時に誰が高齢者を助

けるのかという地域の課題から本事業の構想が生まれた。平

成16年度から中学3年生を対象にし,避難所運営の知識・

技能を習得し,ボランティア活動が行えるようになることを

目的に開始した。

災害の発生時,避難所運営を含めて様々な混乱が予想され

る。高齢化が進んでいるという地域の実態を踏まえ,ボラン

ティアとしての若い層の柱として中学3年生の存在に着目し,

地域の鶴ヶ谷中学校・西山中学校に市民センターが働きかけ,

事業への協力団体も要請しコーディネートした。

⑵ 内容

事業を開始した平成16年度当初は,当市民センター館長が消防署OBという経歴があったこと

もあり,消防署の協力も得やすく,その後館長が変わっても現在まで消防署の協力は引き継がれて

いる。平成23年度鶴ケ谷中学校で行われた「君もプチレスキュー」講座の主な内容は次のとおり

である。

① 総合学習(宮城野消防署協力)・・・避難所生活での実体験の中でいろいろな問題,分からな

いことなど,消防署員と一緒にQ&A.

② DIG(ディグ Disaster Imagination Game)体験(宮城野消防署予防係協力)・・・

災害図上訓練(地震編)。災害が発生する事態を想定し,各中学校の周辺地図に危険が予測さ

れる地帯を書き込み,発表,討論を行うことにより避難準備や避難経路を共有した。

仮設トイレ設置体験

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救急救命講習会

③ 救急救命講習(宮城野消防署救急係,仙台市防災安全協会救急サポートセンター協力)・・・

救急救命講習(AED,心肺蘇生法)

④ 仮設トイレ組み立て訓練(鶴ケ谷市民センター養成インストラクター,鶴ケ谷地区民生委員

協力)・・・組み立て訓練(身障者用1基,和式1基,排泄物等の処理方法)

⑤ 災害弱者疑似体験(東北福祉大学ボランティアセンター協力)・・・高齢者疑似体験(老人性

白内障体験,盲人体験,視野狭窄体験),車椅子体験,聴覚障害体験

⑥ 緊急連絡体験(ドコモショップ泉店協力)・・・災害伝言ダイヤル操作(携帯電話操作訓練,

使用上の留意点)

3 成果と課題

⑴ 成果

① 今回の震災は昼間の助け手がいない状態で発生したが,中学生に講座でのスキルが身につい

ており,発生初期段階で中学生が避難所で果たした役割は大きかった。

・ 避難所での炊き出し手伝い ・ 乳幼児がいる家庭への紙おむつ配り

・ 生活用水としてのプールの水汲み ・ 給水所での作業

・ 物資の仕分け作業 ・ 避難所閉鎖時の清掃・毛布たたみ

② 今回の震災では,西山中学校が避難所となった際,中

学生が地域の人たちと接する機会が必然的に多くなり,

中学生が進んで高齢者に声をかける姿が至るところで見

られた。

③ 本講座について,これまで地域の中での認知度は低か

ったが,今回の震災に関わり実際の現場で住民が中学生

の活動を見たことにより,広く認知してもらう機会とな

った。

⑵ 課題

学校からの要望として,中学3年生だけに限らず全校生徒に本講座を実施してほしい依頼が

あるが,施設自体や協力団体の対応の問題がある。

4 事例から学ぶこと

⑴ 市民センターが,地域の住民や機関・団体とのネットワークを生かしてコーディネートしてい

るため,適切な事業内容になっている。

⑵ 市民センターが把握している地域課題に対応したプログラムであることが,地域の理解や学校

の理解を得やすくしている。

学校も,市民センターからの呼びかけに応じ,学校の授業として取り入れ,参加体制を整えて

積極的に参加している。

⑶ 社会教育としての学校を含め,住民すべてを対象とする防災教育の可能性を示すものである。

⑷ 事業の対象である中学生を地域住民として位置付けた取組は,今後の協働教育の在り方の指針

となる。

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事例2

市民主導で学校教育支援を実施した事例

栗原市瀬峰地区の協働教育「せみねっ子を育てる会」

1 地域の概要・活動促進の経緯

栗原市は,平成17年4月に10ヶ町村が合併して新しく誕生した市である。瀬峰地区(旧瀬峰

町,人口約4,900人)は,もともと学校を支援しようという意識が高い地域である。しかし,

合併当初,瀬峰地区には青尐年育成のための住民組織がなかったことから,約半年の議論を経て「他

地区のような行政主導ではなく,市民主導で,地区内の青尐年健全育成のために活動できる組織に

する」ことを目標に,平成18年3月28日に,市民主導の「青尐年のための栗原市民会議瀬峰地

区会」(以下,市民会議瀬峰地区会)が設立された。

そして,この市民会議瀬峰地区会は,平成19年2月に「瀬峰地区子ども会育成会」との合同三

役会を開催し,構成メンバーの半分以上が同じであることや統合することで会議や活動を一本化す

るということで話し合った。平成21年6月に,市民会議瀬峰地区会は,瀬峰地区の子ども会組織

等を継承し,通称を「せみねっ子を育てる会」とした。

平成20年度より3年間,瀬峰地区が文科省の「学校支援地域本部事業」の指定を受けたことに

より,「せみねっ子を育てる会」は,学校支援本部地域協議会の開催などに積極的に関わり,学校

支援事業を支えた。

2 事業の概要

⑴ 趣旨

「せみねっ子を育てる会」では,学校,家庭だ

けでなく地域が中心となって子どもたちを育てて

いくという考えのもとに,子ども会や地域団体な

ど,地域の多くの方々の協力を得て,地域の子ど

もたちのために,様々な取組を行なっている。

学校への支援についても,文科省の指定が終了

した後も,「せみねっ子を育てる会」の中に学校支

援委員会を設置し,コーディネーターが中心とな

って地域内各種団体やボランティアを巻き込んだ

支援活動を展開している。

一方,行政は,市単独で栗原市協働教育推進事

業を設け,「子どもたちを地域みんなで育む活動=

協働教育」への助成を行っている。

⑵ 内容

① 青尐年のための栗原市民会議瀬峰地区会(せみねっ子を育てる会)の組織概要

・総会→役員会→専門委員会(学校支援委員会,広報委員会,環境委員会,育成委員会)

・学校支援委員会→学校コーディネーター,地域コーディネーター→学校支援ボランティア

② 「せみねっ子を育てる会」の活動(会の中に委員会を組織し,多くの方が運営に関わるよう

に配慮)

○ 学校支援事業(小中学校) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・学校支援委員会

○ 会報「ゆずり葉」の発行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・広報委員会

○ 屋外有害広告物除去作業

・・・・・・・・・・・・・・・・・環境委員会

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高齢者の指導でわらじ作り

○ 110番の家拡大充実活動

○ 瀬峰ちびっ子相撲大会

○ 夏まつりリサイクルみこしパレード

○ せみね合宿通学

○ せみねふれあいクリスマス

○ せみねっ子スポーツフェスティバル ジュニアリーダー活動

○ せみねっ子ハロウィンパーティ

③ 学校支援事業(内容)

学校支援地域本部事業を引き継ぎ,『地域ではぐくむせみねっ子』をスローガンに掲げ,地

域コーディネーターをサポートしたり,学校支援について情報交換ができる場を設けたりし

ている。

130名以上の市民ボランティアが登録して,授業での補助や読み聞かせ,校外学習やふ

るさと学習等での支援を行っている。

④ 栗原市の助成内容

○ 地域コーディネーター年間活動謝金

○ 推進指定校年間活動報償費

○ ボランティア保険

○ 公民館事務室を拠点に提供

3 成果と課題

⑴ 成果

① これまで様々あった団体を市民会議瀬峰地区会に統合し,組織を明確にして活動に取り組む

ことができた。各種団体やボランティアとも連携が取りやすくなり,地域が中心になって子ど

もを育てるという考えで様々な取り組みを行うことができた。

② 小・中学校での学校支援により,子どもたちと地域住民のつながりが強化された。また,子

どもたちと地域住民が顔見知りになったことで,地域での子どもたちの安全が確保されるよう

になった。

③ 学齢期の子どものいない家庭も学校の様子を知る機会ができ,地域の人々の子どもに対する

関心が高まり,地域と学校がより近いものになった。

④ 組織を一本化し,組織内部に部会を作ったことで,従来よりも多くの人が,様々な形で事業

運営に携わるようになった。

⑤ 学校側に,コーディネーターやボランティアを積極的に受け入れる体制が整っている。

⑵ 課題

現在多くのボランティアが登録しているが,今後も継続的なボランティアの確保,新たな人

材の育成をしていかなければならない。

4 事例から学ぶこと

⑴ 市民会議瀬峰地区会(「せみねっ子を育てる会」)の設立により,地区の様々な組織や団体が再

編された。これまでの事業や会議がスリム化され,情報交換も可能になり,「地域の子どもは地域

で育てる」という目的が共有できた。「せみねっ子を育てる会」の中に学校支援委員会を設置する

ことで,学校支援の目的が明確になった。市民組織を生かしながら協働教育を推進してきたモデ

ルケースとなる取組である。

⑵ 青尐年育成組織やそこに属するコーディネーターが,学校の理解を得て地域へ積極的に働きか

け学校支援をコーディネートすることでより多くの住民が子どもとの関わりをもつことができた。

⑶ 行政の積極的な支援が,活動を支えている。

育成委員会

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「ぽっぽはうす」の活動の様子

事例3

サロン型交流により家庭教育推進事業を展開した事例

名取市家庭教育推進事業 家庭教育支援チーム「ぽっぽはうす」

1 地域の概要・事業の背景

名取市は県南部に位置し,北西に仙台市,南は岩沼市に隣接している。人口約7万人,近年は仙

台市のベッドタウンとしても機能している。市内には高校2校,中学校5校,小学校11校及び市

立図書館が1館ある。公民館はそれぞれの小学校区に1館ある。

市は東日本大震災の津波により甚大な被害を受けた海岸地区から,里山・丘陵地帯の団地まで広

がり,震災の影響により公民館は使えない状況にある。被災地域の復興とコミュニティの再構築・

深化を同時に行っていくという地域的課題の中で,家庭教育支援チーム「ぽっぽはうす」や学校と

の連携を中心としながら家庭教育を推進している。

2 事業の概要

⑴ 趣旨

地域や学校と連携しながら家庭教育を支援すること,また次の世代の支援者育成を視野に入れ

た活動も行われていることが特徴である。10年ほど前に立ち上げられた保育サークル(託児グル

ープ)が基になり家庭教育支援チーム「ぽっぽはうす」ができた。組織を継続的に支援してきた結

果,創造的な提案や自律的な活動ができるまでに成長し,地域課題に取り組む主体としての活動を

展開している。メンバー自身が取り組みたいことを尊重し互いに知恵を出し合いつつ,行政側から

の取り組んでほしいこととの間で折り合いをつけながら活動を推進している。

⑵ 内容

「ぽっぽはうす」は,地域の子育て状況や問題点を収集

し,家庭教育力の向上を図る活動を3年前から行ってい

た。

① 子育てサロン・・・「ぽっぽはうす」を母体に子育

てサロンが形成され,親子が気軽に集まり,母親同士

の交流の場となっている。

震災後,好きな時間に気軽に立ち寄れる場として

大型商業施設内に,月に3日ほど不定期に「子育てサロンぽっぽはうす」(市教委生涯学習課

主催)を開催している。参加した親から子育ての悩みや不安を聞いて,15人程度のサポータ

ーらが子育てのアドバイスや,子育てに関する情報交換や仲間づくり,講座など学習機会の提

供をしている。

② 地域と学校との連携・・・地域の人たちに協力をいただき擬似妊婦体験など中学生の命と心

の授業や親を育てる講座の開講,「子育て心のマップ」「新入学こころの準備マップ」の発行

をしている。

③ 講座開講などによる地域交流・・・地域連携の家庭教育講座や新入学家庭教育講座では,子

どもたちとの手遊びや合唱・芋煮会・紙芝居などを行っている。

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「ぽっぽはうす」の活動の様子

④ 子をもつ親の不安解消・・・新入学家庭教育講座では市内小学校の新入学児童の保護者を対

象に,新しい生活環境へのソフトランディングを支援する講座を開講している。

3 成果と課題

⑴ 成果

比較的長いスパンでの子育て支援に関わる地域の人材団体を行政が支援し,参加者にとって自

由度の高い子育てサロンの開設は,他の地域に対してもモデルとなり得る。

① 子育てサロンで行われている各種イベントによって,参加した親だけでなく,地域住民との

交流やつながりが図られ,「子育て」が核となって地域のつながりが深まっている。

② サロン出身の子育て経験者が絵本の読み聞かせなど

のボランティアをやるようになって,循環型の子育て支

援人材育成が始まっている。

③ 子育てサロンの拠点が地域の大型商業施設になった

ことで,企業,行政の連携による子育て支緩の取組の試

みが図られ,より幅広い視野での地域の活性化が期待さ

れ,今後より有効な支援活動が行えるようになった。

④ 参加の自由度が高いサロン形式が,不特定多

数の目に触れることになり,これまで学習の機会に無関心だった親の足を運ばせることが期待

できる。

⑤ 子どもの新入学を迎える親に対して心構えのための資料を配布し,親の悩みにきめ細やかに

応えている。

⑵ 課題

① 地域の活動に興味をもたない親たちと,家庭教育で取り上げる地域の課題との結びつきを考

えていく必要がある。

② サロンの新たな展開,広報活動も含めて,親の側の多様性,家庭教育に対する無関心層にど

う対応していくのか。

③ 父親をどう外に引き出すかが課題であり,企業・行政の連携による子育て支援の取組や新た

なイベントにより担い手を考えていくことも期待される。

4 事例から学ぶこと

⑴ 行政による長期的な支援の継続が自律的,創造的な提案や活動を生み出す住民組織を育ててい

る。

⑵ 子育てサロンは,大型の商業施設のように様々な住民が自由に出入りできるスペースを活用す

ることにより,家庭教育の支援に結びつく多様な交流や学習機会の提供の場となっている。これ

までの社会教育施設中心で事業を実施してきたことから考えると画期的であり,今後家庭教育を

進めていく一つの有効な手段となるものと思われる。

⑶ サロンを設置するという行政と企業の双方にメリットがあることが,協働による事業の継続を

可能にしている。このような行政と企業・団体などとのパートナーシップが今後の事業の多様な

展開を可能とする。

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読み聞かせ

読み聞かせ

事例4

協働教育プラットフォーム事業による事例

川崎町における「みんなで育てようおらほの子どもかわさきっ子」

1 地域の概要・事業の背景

川崎町は宮城県南西部の山間地帯にあり,人口約

1万人。近年は仙台市のベッドタウンとも位置づけられ

ている。町内には中学校2校,小学校8校(分校含む)が

ある。地域の自然環境が豊かであり,その特徴を生かし

て事業を展開している。子どもたちが,町の産業に従事

する方々など,地域の人びとの生活と接する機会も多く,

地域として協働教育への参加もまとまりやすい傾向にあ

る。

2 事業の概要

⑴ 趣旨

平成21,22年度の学校支援地域本部事業を受け継ぎ,家庭・学校・地域が協働して子ども

を育てる環境づくりを推進し,地域の教育カの活性化を図りながら,地域全体で子どもを育てる

体制の整備を図る事業を進める。

⑵ 内容

学校支援地域本部事業では,お話し会・絵本の読み聞かせ,農業体験など81の支援が得られ

た。さらに学校への支援という方向だけでなく,学校から地域(保護者・子ども)への支援,教員

が地域へボランティアに行くなどの活動が行われた。また,子どもたちが地域ヘボランティアに

行くなどの活動も行われた。協働教育プラットフォーム事業(平成23年)でもその“人財”の登

録,活動が継続されている。

① 事業活動は広範囲にわたり,読み聞かせ,ミシン操作,箸の使い方,わらべ歌講座などのほ

か,スポーツ活動,東日本大震災で川崎町に避難している石巻市の人たちから津波体験談など

を聞く活動もしている。

② 学校・公民館にボランティアルームも設置,ボランティアはベストを着用し,名札や腕章を

つけ,一目で分かるようにしているなど,ボランティア活動へのきめ細かなツールを用意して

いる。

③ "かわさきっ子"応援団という名のボランティアへの参加を呼びかけ,個人登録151名,団

体では2団体登録35名,計186名の登録数を得た。その体制が本事業にも活かされている。

④ 事業のコーディネーターは学校毎に,昔から地域にいて交流の広い方と学校出身者(元教員)

の2名であり,この組み合わせが有効に機能している。

3 成果と課題

⑴ 成果

① 日頃の活動が周知され,学校や地域からも理解,協力が得られ,支援数も増加している。地

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竹とんぼ

域総がかりで子どもたちを育てる意識ができはじめている。

② 講座や活動に参加することで,大人同士の交流が広がっている。

③ ボランティア自身が子どもに関わることに喜びをもって取り組んでおり,大人の活動機会の

増加となっている。

④ ボランティア活動が話題となりさらに加入を促す方向へと広がっている。

⑤ 学校活動とボランティアが関わる事業については,ボランティア研修会を開催し,ボランテ

ィアとしての関わり方等について話し合いを行っている。

⑥ 学校とボランティアの関わりにはコーディネーターの力が大きく働いており,コーディネー

ターが大事な位置を占めている。

⑦ 学校に協働教育担当教員がおり,コーディネーターとのつながりを持ち学期毎に1回話し合

いを持つことが相互の理解と活発な活動へつながっている。

⑵ 課題

① 個人だけでなく,企業や NPOなど地域内外

の団体を活動にどう巻き込むか。

② ボランティアの活動の場を学校だけに限ら

ず,地域に広げていく活動を推進していく必要

がある。

③ 地域貢献に生きがいを感じられるような研修

会や講座の場を増やす。

④ 地域活動が学校の教科とどう結びついてい

くのか,そこに中間のプログラムを用意してい

く必要がある。

⑤ 事業終了後も本活動を継続していくために,人的措置や予算,ボランティアの自立的な活動

への支援のあり方を検討していく必要もある。

4 事例から学ぶこと

⑴ 学校教育支援ボランティアの活動が周知されることにより,地域全体で子どもたちを育てる意

識ができはじめ,学校教育支援の活動が家庭教育支援,地域活動支援へとスムーズに広がってき

ている。宮城県が進める協働教育プラットフォーム事業のモデルと言える。

⑵ 地域住民による学校教育支援と学校教員による課外活動・ボランティア活動とが連動し,地域

と学校との互恵的な関係が活動を広げている。

⑶ 学校と地域を結ぶコーディネーターとして,地区を熟知している方と元教員の計2名が学校と

地域のつなぎ役を担っている。コーディネーターの人選や構成によって良い効果が生まれる。

⑷ 行政の職員,社会教育委員が自ら研修会での指導やボランティアとして出向き,これまで参加

経験のない人間や知り合いを巻き込み,運動を高めている。特に協働教育を推進するための派遣

社会教育主事は,学校の情報や分掌・しくみを把握しており,事業の企画・調整・啓発等に力を

発揮している。

(5) 行政職員・学校の担当教員・各地域のコーディネータ・ボランティアを機能的に連携すること

によって,きめ細かな活動を可能にしている。

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子どもも大人もみんなで遊び隊

事例5

これまでの地域活動推進事業の取組が生かされた事例

山元町における「子どもも大人もみんなで遊び隊」「やまもと楽校」

1 地域の概要・事業の背景

福島県に隣接する山元町は,人口 14,692 人,世帯数 4,968(平成23年9月30日現在)の第一次産

業中心の町である。温暖な気候を利用してのイチゴやリンゴ栽培が盛んで,県内でもトップクラスの質と

量を誇っている。教育施設としては,小学校5校,中学校2校,公民館2館が置かれている。尐年を対象

とした事業では,指導者養成等が6事業,主催事業が5事業実施されたほか,2つの小学校で放課後子ど

も教室が開催された(平成22年度)。また,東日本大震災により,死者614名,住民の45%が住む地域

が津波浸水の被害を受け,おおよそ1,000戸の仮設住宅が建設され,3,000人ほどが生活している。

2 事業の概要

⑴ 趣旨

家庭・地域・学校が一体となって青尐年のためのイベントを開催することにより,青尐年の規範意

識,社会性,自立性を育むことを目指している。また,町内の教職員がボランティア講師となって授

業を行うことにより,地域と学校が相互理解を深め連帯感を培っている。

⑵ 内容

① 「子どもも大人もみんなで遊び隊」(平成15

年度より)

地域住民による持ち回りの実行委員会及び助っ人

衆が中心となり,中学校を会場に開催する地域イベン

トであり,会場にはステージでの発表と体験コーナー,

屋台などが数十ブース並ぶ(今年度はミニライブや屋

台,体験コーナーのほか,復興支援に関わる全国の

NGO・市民団体40団体ほどが参加)。

② 学校開放「やまもと楽校」(平成21年度より)

地域の拠点施設である学校を地域住民に開放し,町内の教職員がボランティア講師としてその専

門的な知識や技能を生かした特別授業を行い,地域住民に学習の機会を提供するもの。

平成22年度の実施状況は講師15名(教職員10名,一般1名,生涯学習課職員3名,その他

1名)による特別授業(各講座30分×5コマ)を実施し,参加者数は64名(小中学生32名,

高校生以上(高齢者含む)32名)。

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やまもと楽校

3 成果と課題

⑴ 成果

① 「子どもも大人もみんなで遊び隊」は,10年近く継続して実施されてきており参加者やスタッ

フの数も多く,地域に定着したイベントになっている。また,教員の参加やイベントの PR などで

学校が一定の役割を担っており,このことが参加者を増やす要因にもなっている。

② 「やまもと楽校」は,参加者にとっては一定の

満足度が得られる活動になっている。学校が主体

のイベントであり,地域と学校の協働という段階

には達していないものの,協働への下地づくりと

しての相互理解を図る機会になっていると思われ

る。

⑵ 課題

① これまで地域の中で形成され,積み上げられて

きた“顔の見える信頼関係”が,震災により崩壊

してしまった地域が多く,ゆるやかにつながりながら現実的な接点の場として機能していた企画の

主体者を失ってしまう恐れがある。今年度に関しては,有志が立ち上がり実施に至ったが,次年度

以降,主体性をどのように地域に持たせていくかが課題である。

4 事例から学ぶこと

⑴ 地域活動が継続・発展するには,柔軟性のあるネットワーク構築が必要になる。「子どもも大人もみ

んなで遊び隊」は,そのようなネットワークに支えられた活動である。中でも,世代の中間層にも視

点をあて適度に生涯学習に関わる接点を持ち続けてきたことが,すべての世代を巻き込み,地域の祭

りとしての定着につながっているのではないか。

⑵ コーディネーターが固定化されない形でイベントが運営されている。事業が継続・発展する中で,

スタッフの中からコーディネーターが発掘され,育成されてきたのではないか。これらが,今回の震

災に際し,必要とされる役割として明確になり,当事者としての参画につながったことは大きな意味

がある。

⑶ 学校開放「やまもと楽校」は,校長のリーダーシップがなければ実現しなかった取組であり,校長の

社会教育主事としての経験が生かされた事例といえる。

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3 事例からの考察について

(1)地域で子どもが果たす役割

仙台市鶴ヶ谷市民センターの防災に関する事例では,中学生の地域での役割を前提とし

たプログラムとなっており,子どもも地域の住民であることを協働教育の実践の中で意識できる

ものであった。実際に震災発生後の避難所等でのその成果は大きなものだった。

川崎町でも子どもたちが地域でボランティア活動を行う事例があり,協働教育において

子どもは支援を受ける側という考え方を見直す機会となろう。

(2)組織の役割

栗原市瀬峰地区の事例では,これまで様々あった団体を統合して一本化したことが協働教育の

推進に結びついている。組織の中に各種委員会を設置し,多くの方が運営に関わるように配慮し

ており,学校教育支援については,学校支援委員会が担当しコーディネーターが中心となり,組

織的に支援活動が展開できている。

山元町の事例のように緩やかなネットワークの継続が地域における事業の継続や人材の

発掘に結びつき,協働教育の素地を作ることにつながっていく。

また,川崎町では学校・地域・ボランティア・各地のコーディネーターの構成をきめ細かく

行うことによって,支援活動の活発な展開を可能としている。

(3)事業実施におけるコーディネーターの役割の重要性

うまく協働できている事例には必ず良いコーディネーターがいるといわれている。川崎町では

学校と地域の方々とのつながり,公民館と学校のつながり,学校と各種団体とのつながりなどの

役割をコーディネーターが担い,支援活動を展開し相互の理解と活発な活動へつなげている。

栗原市瀬峰地区でもコーディネーターが地域に積極的に働きかけたり,団体やボランティアを

巻き込んだりして,支援活動を展開している。

協働教育の窓口となるコーディネーターは,事業実施上中心になって活動するところが大きく,

コーディネーターが果たす役割を考慮し,人選での配慮や資質の向上とその養成が重要であるこ

とが分かる。

(4)社会教育施設の果たす役割

仙台市鶴ヶ谷市民センターの事例に見るように,社会教育施設(公民館等)は地域の様々な機

関・団体とのネットワークをもっており,それらを十分に活用することで協働教育を推進する大

きな役割を担うことができる。また,地域の課題を把握しており,地域・学校の両方に必要な学

習内容に関するプログラムを提供できる。公の施設がコーディネートすることで学校も安心して

地域との協働に取り組むことができる。

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活動拠点としてのスペースがあることも家庭教育支援や地域活動を支援していくうえで

有効である。

(5)情報交換を行う場,活動支援を行う団体等の交流

川崎町では,ボランティアの研修会を開催し,支援に関わっている方々が情報交換を行いボラ

ンティアとしての関わり方等について話し合いを行い活動につなげている。また,学校・公民館

にボランティアルームを設置しボランティアの活動の拠点とすることで協働教育の広がりにつ

ながっている。

栗原市瀬峰地区でも「せみねっ子を育てる会」に公民館事務室を活動拠点として提供しており,

協働の事業展開がスムーズに行われている。

(6)多様な主体が関わることの効果

協働教育を推進する場合,地域内の多くの関係機関や企業・団体と組織的に関わることでより

実践的な効果が期待できるほか,地域全体で子どもの育成に関わろうという機運の醸成にも効果

がある。

鶴ヶ谷市民センターがコーディネートした防災教育事業でも消防署や防災安全協会と関

わり効果を発揮した。また,名取市では地域の商業施設を借りて事業を実施することで,

企業・行政の連携による子育て支援の取組が図られた。

(7)行政の関わり

協働教育が盛んな地域では,市町村教育委員会が積極的に協働教育の推進を教育方針等

に掲げている。また県教委が行っている協働教育プラットフォームや派遣社会教育主事の

制度が協働の推進に一定の効果を及ぼしている。

名取市の事例では,行政が支援を続けることによって,活動が自律的になり新たな住民組織を

育てることや事業の自己拡張に結びついている。

企業や団体などとのパートナーシップが多様な支援事業の展開を可能としている。

仙台市鶴ヶ谷市民センター

「君もプチレスキュー」での「緊急連絡体験」

川崎町 「お茶体験」

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Ⅲ 協働の視点から見た地域全体の教育力の再構築に向けた課題と 今後の方策

1 協働のあり方

子どもは,守られ育まれる存在であるとともに地域社会の一員であり,大人のパートナーであ

るという視点から,協働のあり方を考える。

従来,「守り,育む」という視点から子どもの教育が考えられる傾向があった。しかし,子どもは

地域社会の一員であり,大人とは異なる能力や感性を発揮して積極的にまちづくりや地域づくり等

に参画することができる。しかも,そのような社会に役立つ経験を積み重ねることは,子ども自身

にとって,自分がどれだけ大切な存在であるかを実感したり,自分をかけがえのない,価値ある存

在として肯定的にとらえたりする,いわゆる自己有用感や自尊感情が育まれるという点でも意味が

ある。したがって,学校・家庭・地域の協働の取組を推進するには,「子どもは地域社会の一員で

ある」という視点からの環境づくりが必要であり,これは,宮城県独自の取組である「志教育」と

共通するものである。

また,地域社会の一員として子どもがまちづくりや地域づくり等に参画することは,震災を受け

ての喫緊の課題である「地域ぐるみによる学校安全の確保」を図るうえでも重要である。

具体的には,以下のような取組が考えられる。

○子どもが,地域の課題とその解決方法,そして地域の中での自分の役割を見出すための学習機

会を,学校や地域に用意する。

○子どもが,まちづくり・地域づくりについての考えを表明できる機会や,子どもと大人が協働

してそれを実現させるための活動の機会を用意する。

○子どもが活動の拠点にすることができる居場所を確保する。

○子どもの参画を積極的に評価するとともに,その成果を地域の内外に発信する。

○学校の教育目標に,地域の一員として生きる子どもの姿を掲げる。

<キーワード:地域社会の一員,志教育,参画,自己有用感,自尊感情,居場所>

2 協働の組織の確立

(しっかりとした協働の組織)

協働の取組を継続・発展させるためには,多様な機関・施設・団体・個人で構成される,しっ

かりとした協働の組織(コーディネート組織)を構築し,参加する機関・団体等が,それぞれ役

割と責任を分担する必要がある。

平成17年からはじまったみやぎらしい協働教育では,協働の組織を構築することが必須とされ,

組織を学校の外に置くことが奨励された。今後,学校や地域,行政等の責任者・担当者が交代し

ても,協働による取組が中断したり停滞したりしないために,また,負担が大きくなりがちなコ

ーディネーターを支えるためにも,しっかりとした協働の組織を設けることが必要である。

(公民館の可能性)

協働の組織の設置場所については,地域の実情に応じて決定する必要がある。例えば,公民館

は,協働の取組に活用可能な学習資源(ひと・もの・こと)に関する情報や,多様な組織・個人

が参加するネットワークをもっていること,学習と地域づくりの地域拠点施設としての実績があ

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り,学校や地域,家庭にとって「安心」できる公の施設であることから,協働の組織の設置場所

として適当な施設の一つである。

なお,今回の大震災で公民館等が流失した地域においては,学校に組織を置かざるを得ない状

況がある。その際には,学校にとって過度の負担とならないように配慮しなければならない。

<キーワード:コーディネート組織,協働の取組の継続,学習資源,ネットワーク>

3 コーディネーターの発掘・養成・配置

学校や地域における多様な機関や団体等の協働による取組が成果を上げるには,協働の理念や

目的を理解し,調整等のスキルをもったコーディネーターの配置が欠かせない。このようなコー

ディネーターの発掘や養成が,今後協働の取組を推進する上での大きな課題である。

(地域人材からの発掘)

協働の取組では,地域の特性に応じて柔軟にコーディネートすることが求められる。そのため,

コーディネーターは調整に関する一般的知識や技術に加え,物事に柔軟に対処できる資質を備え

ていること,地域を熟知していることが必要である。このような要件を備えた人材を配置するに

は,まずは,地域で活躍する人々のなかからふさわしい人を発掘することが必要である。

また,ここ10年の間に,行政の各組織等で,地域のコーディネーターを養成する事業が行わ

れ,多数の人材が育成されてきた。しかしながら,養成事業の参加者の中には,学んだ成果を活

用できずに埋もれている人が少なくない。そのような人々のなかからも人材を発掘し,協働のコ

ーディネーターとして活用を図ることを検討する必要がある。

(養成・研修講座の実施)

コーディネーターに期待される資質や能力には,一般化できるものと地域性をもったものがあ

る。また,経験年数によって必要となるものに違いがある。そのため,コーディネーターに期待

される資質や能力を体系化し,県レベル・市町村レベル・地域レベルにわけた研修プログラムを

開発して,コーディネーターの養成や資質・能力の向上をはかる必要がある。

(校務分掌への位置付けと社会教育主事有資格者等の配置)

学校との協働を進めるには,学校側の窓口が明確になっていることに加え,教員間の意見を調

整する,校内のコーディネーター(担当教諭)の配置が必要である。すでに,市町村レベルで,

校務分掌にそのような担当を位置づけているところがあり,今後,このような取組を拡げる必要

がある。

また,協働のコーディネーターには社会教育の視点が必要である。教員の中には社会教育主事

の有資格者や社会教育施設に勤務した経験をもった者がいることから,そのような教員を,可能

な限り各学校に配置することが重要になる。

(コーディネーター間の連携)

今後,協働によって学校支援,地域活動支

援,そして家庭教育支援が一体的に展開され

るようになれば,領域間の支援活動や全体の

支援活動を調整することが重要になる。それ

ぞれの支援に関わるコーディネーターが連

資料 学校支援コーディネーターが避難所に

なった学校で果たした役割

○ 住民と行政の橋渡し役

○ 避難所を運営するための組織のリーダー

○ 教員のサポート など

〔出典:文部科学省「宮城県内の学校長への聞き取

り結果」(平成 23年度)〕

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携・協力するための協議の機会を設けたり,統括して全体をつないでいく調整役としてのコーディ

ネーターを配置したりすることが必要である。

<キーワード:発掘・養成・研修,プログラム開発,校務分掌への位置付け,社会教育主事有資

格者の活用>

4 情報交換の場・機会

多様な機関や団体等が協働で活動を行うようになるには,それらが日常的に顔を合わせ,情報

交換したり交流したりすることによって,相互の理解が図られる必要があり,そのための環境整

備が重要である。

具体的には,以下のような取組が考えられる。

○公民館などの社会教育施設に共同で活用できる空間と機器,情報等が置かれたプラットフォー

ムを設置し,学校教育,家庭教育,地域活動にかかわる多様な個人や団体が利用できるように

する。

○子どもの教育や活動を支援する機関・団体等が情報交換したり,一緒に活動できるネットワー

クを構築する。

○被害が甚大な地域においては学校にも情報交換の場や機会を設ける。

<キーワード:日常的な交流,プラットフォーム,ネットワーク組織>

5 多様な主体を巻き込む協働の推進

地域の教育力の向上には,地域の多様な機関や団体,住民がそれぞれの特性を活かしながら協

働して子どもの教育に携わっていくことが重要であるが,地域にはこれまであまりかかわりを作

ってこなかった機関や団体等が多数存在している。今後は,それらとも連携・協働をはかり,取

組に必要な資源を増やしたり,新たな活動をつくりだしたりすることが必要である。

具体的には,以下のような取組が考えられる。

○企業との接点を拡げ,商業施設等の活用や学校との協働によるプログラムの作成などによって,

魅力ある学習事業を展開する。このような多様な主体との連携・交流は地域づくりにも生かさ

れ,災害の際の対応に結びつくことが期待できる。

○多くの機関や団体・住民に,事業の企画やボランティア活動などに携わってもらうための広報や

啓発活動を充実させる。

<キーワード:企業等との連携,プログラム作成,広報・啓発>

6 行政による支えの継続と県民運動の展開

協働の視点からの取り組みが継続・発展するには,行政による下支えが重要である。安定的な

事業の継続のために,各市町村教育委員会が基本方針等に協働教育を位置付け,明確な方向性を

示すことが大切である。特に被害が甚大な地域においては,行政が積極的に運営面で関わったり,

予算面での支援を行ったりすることが必要である。

また,地域,学校,家庭,行政が統一したテーマを設定し協働で県民運動を展開するなど,県

全体で協働の機運を向上させることが重要である。

<キーワード:行政による下支え,県民運動の展開>

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むすびに

本次の社会教育委員の会議は,「家庭・地域・学校が連携・協働して子どもを育てる環境づく

り」を推進し,「地域全体の教育力の再構築」を目指すための課題と方策について提言した。

この中でキーワードになるのが「協働」である。宮城県教育委員会は平成 17 年度から「みや

ぎらしい協働教育」事業を開始し,その後も協働にかかわる事業を継続して実施してきた。「協

働」は,これまで宮城県教育委員会が大事に育ててきた概念ともいえる。本次の会議が発足した

平成 22 年度は,協働教育の取組がはじまってすでに 5 年が経過した年であった。すでに協働教

育に関する 5 年分の経験の蓄積があり,市町村レベルでは,本提言書で紹介した5つの市や町の

事例からも推測される通り,充実した活動が展開されていた。

このように一定の成果をあげている協働教育であるが,本会議は,成果が積み重ねられている

今だからこそ,今後のさらなる充実を図るために,これまでの蓄積の点検と課題の抽出,解決の

ための具体的な方策の検討が必要であると考えた。

一方,2 年任期のちょうど折り返しの時期に起きた東日本大震災は,本会議が取り上げた「協

働」を,今後も継続して検討していく必要性を強く感じさせた。本文にも記していることである

が,協働の取組を進めていた地域では,避難所の運営が円滑に行われ,人と人との関係が強まり,

地域全体で支え合う体制がうまく機能していたところが少なくなかった。また,地域の一員とし

て活躍する子どもや青年たちの姿に大人が勇気づけられた面もあった。

今後の復興の過程でも,地域づくりや人材育成の面で,家庭・地域・学校が連携・協働して取

り組むことが必要になる。大震災が発生し家庭・地域・学校の状況が大きく変化した現在も,協

働の重要性は変わることがなく,むしろ新しい宮城県を創造するという視点から,ますます重要

性が増してきているといえるであろう。

宮城県教育委員会では,平成 23 年度から「協働教育プラットフォーム事業」を展開している

が,これをはじめ各種の事業において,本提言が生かされることを期待したい。

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◇ 審 議 の 経 過

第1回会議 平成22年 5月25日(火) (宮城県行政庁舎)

・辞令交付

・第31次テーマの方向性について

(宮城県教育振興基本計画の基本方向5「家庭・地域・学校が協働で子ども

を育てる環境づくり」を切り口にしたテーマにしていくことを確認)

・平成22年度生涯学習課事業計画について

・社会教育関係団体事業補助金について

・平成21年度県立3自然の家外部評価委員会・所内評価について

第2回会議 平成22年 7月20日(火) (宮城県行政庁舎)

・第31次のテーマについて

「家庭・地域・学校が協働で子どもを育てる環境づくり」の現状と課題

・審議計画について

第3回会議 平成22年 9月14日(火) (宮城県行政庁舎)

・テーマについての研修と審議(テーマに関することの現状と課題の分析)

〈研修〉「若者の夢を鍛える」の取組

〈講師〉 NPO法人ハーベスト代表理事 中山聖子 氏

第4回会議 平成22年11月16日(火) (宮城県行政庁舎)

・テーマについての研修と審議(テーマに関することの現状と課題の分析②)

〈研修1〉「協働教育の実践について」

〈講師〉 富谷町教育委員会派遣社会教育主事 遠藤安孝 氏

〈研修2〉「気仙沼市家庭教育推進協議会の取組について」

〈講師〉 気仙沼市家庭教育推進協議会会長 星 美保 氏

第5回会議 平成23年 1月25日(火) (宮城県行政庁舎)

・テーマについての審議

「コーディネート機能(コーディネーター)」の現状と課題について

・意見書の方向性(骨子等)について

第6回会議 平成23年 6月 1日(水) (宮城県本町分庁舎)

・東日本大震災による社会教育への影響について

・平成23年度生涯学習課事業計画について

・平成22年度自然の家の評価について

・テーマについての審議

・意見書作成に向けて (意見書の柱立て等について)

第7回会議 平成23年 7月26日(火) (宮城県行政庁舎)

・テーマについての再確認

「家庭・地域・学校が連携・協働して子どもを育てる環境づくり」

~地域全体の教育力の再構築について~

・東日本大震災に関して地域の教育力が働いた事例について

・意見書作成に向けての審議(骨子案について)

◇第1回現地聴き取り調査 平成23年9月6日(火)(名取市,川崎町)

◇第2回現地聴き取り調査 平成23年9月7日(水)(栗原市,山元町)

第8回会議 平成23年11月29日(火) (宮城県行政庁舎)

・聴き取り調査のまとめとレポート作成について

・第31次意見書の概要について

第9回会議 平成24年12月27日(火) (宮城県自治会館)

・第31次意見書(素案)について

第 10回会議 平成24年 2月 7日(火) (宮城県自治会館)

・第31次意見書最終案について

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◇ 第31次宮城県社会教育委員名簿

(平成24年2月1日現在)

№ 氏 名 役 職 名

1 石 垣 政 裕 お父さんたちのネットワーク世話人

2 伊 藤 治 彦 宮城県青年団連絡協議会監事

3 太 田 一 江 角田市立横倉小学校長

4 亀 井 芳 光 栗原市教育委員会教育長

佐 々 木 俊 一 大崎市中央公民館長(平成 2 3年 6月 1日から)

會 澤 ゆ り み 塩竃市生涯学習センター館長(平成 2 3年 5月 3 1日まで)

6 佐々木 とし子 宮城県地域活動(母親クラブ)連絡協議会長

7 蘇 武 徳 行 宮城県岩出山高等学校長

8 中 山 聖 子 NPO法人ハーベスト代表理事

9 梨 本 雄 太 郎 宮城教育大学教授

10 奈 須 野 毅 宮城県PTA連合会会長

11 星 美 保 気仙沼市家庭教育推進協議会長

12 水 谷 修 東北学院大学教授

13 森 雅 一 郎 TBCアナウンス学院長

任期 平成22年3月1日から平成24年2月29日まで

※ 名簿は五十音順です。