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医師・コメディカルのための 慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル 一般社団法人 日本腎臓学会 腎疾患重症化予防実践事業 生活・食事指導マニュアル改訂委員会

医師・コメディカル 慢性腎臓病 - jsn.or.jp · 2019. 2. 4. · G3 A2 G3 A3 専門医と協力して治療 (一般医>専門医) 腎機能低下の原因精査 腎機能低下を抑制するため

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医師・コメディカルのための

慢性腎臓病生活・食事指導マニュアル

一般社団法人 日本腎臓学会腎疾患重症化予防実践事業

生活・食事指導マニュアル改訂委員会

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CKD生活・食事指導マニュアル̶指導のまとめ 一覧

*1 エネルギー必要量は健常人と同程度(25~35 kcal/kg 体重/日).*2 メトグルコ® に関しては慎重投与.*3 鉄欠乏があれば鉄剤投与を検討.

特に ESA を使用していれば,フェリチン≧100 ng/mL,鉄飽和度≧20%.

*4 ESA 使用は腎臓専門医に相談.*5 活性型ビタミン D の投与量に注意.*6 陽イオン交換樹脂は便秘を起こしやすいので注意.*7 球形吸着炭はほかの薬剤と同時に服用しない.便秘や食思不振などの消化器系合併症に注意.

注意事項

CKD 診療ガイド 2012 より引用改変

CKD病期 方針 生活習慣改善 食事指導 血圧管理 血糖値管理 脂質管理 貧血管理 骨・ミネラル対策 K・アシドーシス対策 尿毒素対策 そのほか

ハイリスク群 生活習慣によるリスク因子の軽減

禁煙BMI<25

高血圧があれば減塩 6 g/日未満,3 g/日以上

高血圧治療ガイドライン2014に従う糖尿病(+)および糖尿病(−)蛋白尿ありでは,130/80 mmHg未満,RA系阻害薬を選択;糖尿病も蛋白尿も(−)では,140 /90 mmHg 未満,RA系阻害薬,Ca拮抗薬,利尿薬を選択

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満

ステージ G1A2     G1A3

専門医と協力して治療(一般医>専門医)腎障害の原因精査腎障害を軽減させるための積極的治療

禁煙BMI<25

高血圧があれば減塩 6 g/日未満,3 g/日以上

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満

腎性貧血以外の原因検索(腎機能的に腎性貧血は考えにくい)

ステロイド薬治療中や原発性副甲状腺機能亢進症では通常治療

ステージ G2A2     G2A3

専門医と協力して治療(一般医>専門医)腎障害の原因精査腎障害を軽減させるための積極的治療

禁煙BMI<25

高血圧があれば減塩 6 g/日未満,3 g/日以上

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満

腎性貧血以外の原因検索(腎機能的に腎性貧血は考えにくい)

ステロイド薬治療中や原発性副甲状腺機能亢進症では通常治療

ステージ G3aA1     G3aA2     G3aA3

専門医と協力して治療(一般医>専門医)腎機能低下の原因精査腎機能低下を抑制するために集学的治療

禁煙BMI<25

減塩 6 g/日未満,3 g/日以上たんぱく質制限食*1

(0.8~1.0 g/kg体重/日)

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満インスリンおよびSU 薬による低血糖の危険性

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満薬物による横紋筋融解症への注意

腎性貧血以外の原因検索鉄欠乏対策*3

腎性貧血は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)*4 で Hb 10~12 g/dL

P,Ca,PTH:基準値内低アルブミン血症では補正 Ca で評価リン制限食

高 K 血症,アシドーシスの原因検索ループ利尿薬・陽イオン交換樹脂*6 で体外へ排泄重炭酸 Na によるアシドーシス補正

腎排泄性薬剤の投与量・間隔の調整

ステージ G3bA1     G3bA2     G3bA3

専門医と協力して治療(専門医>一般医)腎機能低下の原因精査腎機能低下を抑制するために集学的治療

禁煙BMI<25

減塩 6 g/日未満,3 g/日以上たんぱく質制限食*1

(0.6~0.8 g/kg体重/日)

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満インスリンおよびSU 薬による低血糖の危険性ビグアナイド薬*2

は禁忌

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満薬物による横紋筋融解症への注意

腎性貧血以外の原因検索鉄欠乏対策*3

腎性貧血は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)*

4 で Hb 10~12 g/dL

P,Ca,PTH:基準値内低アルブミン血症では補正 Ca で評価リン制限食

高 K 血症,アシドーシスの原因検索K 制限(2,000 mg/日)ループ利尿薬・陽イオン交換樹脂*6 で体外へ排泄重炭酸 Na によるアシドーシス補正

腎排泄性薬剤の投与量・間隔の調整

ステージ G4A1     G4A2     G4A3

原則として専門医での治療腎機能低下の原因精査腎機能低下を抑制するために集学的治療透析などの腎代替療法の準備腎不全合併症の検査と治療

(CVD 対策を含む)

禁煙BMI<25

減塩 6 g/日未満,3 g/日以上たんぱく質制限食*1

(0.6~0.8 g/kg体重/日)高 K 血症があれば摂取制限

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満インスリンによる低血糖の危険性ビグアナイド薬,チアゾリジン薬,SU 薬は禁忌

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満薬物による横紋筋融解症への注意フィブラート系はクリノフィブラート以外は禁忌

腎性貧血以外の原因検索鉄欠乏対策*3

腎性貧血は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)*

4 で Hb 10~12 g/dL

P,Ca,PTH:基準値内低アルブミン血症では補正 Ca で評価高 P 血症では CaCO3

などのリン吸着薬PTHが基準値を超える際は活性型ビタミンD*5

高 K 血症,アシドーシスの原因検索K 制限(1,500 mg/日)ループ利尿薬・陽イオン交換樹脂*6 で体外へ排泄重炭酸 Na によるアシドーシス補正

球形吸着炭*7 腎排泄性薬剤の投与量・間隔の調整

ステージ G5A1     G5A2     G5A3

専門医による治療腎機能低下の原因精査腎機能低下を抑制するために集学的治療透析などの腎代替療法の準備腎不全合併症の検査と治療

(CVD 対策を含む)

禁煙BMI<25

減塩 6 g/日未満,3 g/日以上たんぱく質制限食*1

(0.6~0.8 g/kg体重/日)高 K 血症があれば摂取制限

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満インスリンによる低血糖の危険性ビグアナイド薬,チアゾリジン薬,SU 薬は禁忌

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満薬物による横紋筋融解症への注意フィブラート系はクリノフィブラート以外は禁忌

腎性貧血以外の原因検索鉄欠乏対策*3

腎性貧血は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)*

4 で Hb 10~12 g/dL

P,Ca,PTH:基準値内低アルブミン血症では補正 Ca で評価高 P 血症では CaCO3

などのリン吸着薬PTHが基準値を超える際は活性型ビタミンD*5

高 K 血症,アシドーシスの原因検索K 制限(1,500 mg/日)ループ利尿薬・陽イオン交換樹脂*6 で体外へ排泄重炭酸 Na によるアシドーシス補正

球形吸着炭*7 腎排泄性薬剤の投与量・間隔の調整

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CKD生活・食事指導マニュアル̶指導のまとめ 一覧

*1 エネルギー必要量は健常人と同程度(25~35 kcal/kg 体重/日).*2 メトグルコ® に関しては慎重投与.*3 鉄欠乏があれば鉄剤投与を検討.

特に ESA を使用していれば,フェリチン≧100 ng/mL,鉄飽和度≧20%.

*4 ESA 使用は腎臓専門医に相談.*5 活性型ビタミン D の投与量に注意.*6 陽イオン交換樹脂は便秘を起こしやすいので注意.*7 球形吸着炭はほかの薬剤と同時に服用しない.便秘や食思不振などの消化器系合併症に注意.

注意事項

CKD 診療ガイド 2012 より引用改変

CKD病期 方針 生活習慣改善 食事指導 血圧管理 血糖値管理 脂質管理 貧血管理 骨・ミネラル対策 K・アシドーシス対策 尿毒素対策 そのほか

ハイリスク群 生活習慣によるリスク因子の軽減

禁煙BMI<25

高血圧があれば減塩 6 g/日未満,3 g/日以上

高血圧治療ガイドライン2014に従う糖尿病(+)および糖尿病(−)蛋白尿ありでは,130/80 mmHg未満,RA系阻害薬を選択;糖尿病も蛋白尿も(−)では,140 /90 mmHg 未満,RA系阻害薬,Ca拮抗薬,利尿薬を選択

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満

ステージ G1A2     G1A3

専門医と協力して治療(一般医>専門医)腎障害の原因精査腎障害を軽減させるための積極的治療

禁煙BMI<25

高血圧があれば減塩 6 g/日未満,3 g/日以上

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満

腎性貧血以外の原因検索(腎機能的に腎性貧血は考えにくい)

ステロイド薬治療中や原発性副甲状腺機能亢進症では通常治療

ステージ G2A2     G2A3

専門医と協力して治療(一般医>専門医)腎障害の原因精査腎障害を軽減させるための積極的治療

禁煙BMI<25

高血圧があれば減塩 6 g/日未満,3 g/日以上

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満

腎性貧血以外の原因検索(腎機能的に腎性貧血は考えにくい)

ステロイド薬治療中や原発性副甲状腺機能亢進症では通常治療

ステージ G3aA1     G3aA2     G3aA3

専門医と協力して治療(一般医>専門医)腎機能低下の原因精査腎機能低下を抑制するために集学的治療

禁煙BMI<25

減塩 6 g/日未満,3 g/日以上たんぱく質制限食*1

(0.8~1.0 g/kg体重/日)

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満インスリンおよびSU 薬による低血糖の危険性

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満薬物による横紋筋融解症への注意

腎性貧血以外の原因検索鉄欠乏対策*3

腎性貧血は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)*4 で Hb 10~12 g/dL

P,Ca,PTH:基準値内低アルブミン血症では補正 Ca で評価リン制限食

高 K 血症,アシドーシスの原因検索ループ利尿薬・陽イオン交換樹脂*6 で体外へ排泄重炭酸 Na によるアシドーシス補正

腎排泄性薬剤の投与量・間隔の調整

ステージ G3bA1     G3bA2     G3bA3

専門医と協力して治療(専門医>一般医)腎機能低下の原因精査腎機能低下を抑制するために集学的治療

禁煙BMI<25

減塩 6 g/日未満,3 g/日以上たんぱく質制限食*1

(0.6~0.8 g/kg体重/日)

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満インスリンおよびSU 薬による低血糖の危険性ビグアナイド薬*2

は禁忌

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満薬物による横紋筋融解症への注意

腎性貧血以外の原因検索鉄欠乏対策*3

腎性貧血は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)*

4 で Hb 10~12 g/dL

P,Ca,PTH:基準値内低アルブミン血症では補正 Ca で評価リン制限食

高 K 血症,アシドーシスの原因検索K 制限(2,000 mg/日)ループ利尿薬・陽イオン交換樹脂*6 で体外へ排泄重炭酸 Na によるアシドーシス補正

腎排泄性薬剤の投与量・間隔の調整

ステージ G4A1     G4A2     G4A3

原則として専門医での治療腎機能低下の原因精査腎機能低下を抑制するために集学的治療透析などの腎代替療法の準備腎不全合併症の検査と治療

(CVD 対策を含む)

禁煙BMI<25

減塩 6 g/日未満,3 g/日以上たんぱく質制限食*1

(0.6~0.8 g/kg体重/日)高 K 血症があれば摂取制限

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満インスリンによる低血糖の危険性ビグアナイド薬,チアゾリジン薬,SU 薬は禁忌

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満薬物による横紋筋融解症への注意フィブラート系はクリノフィブラート以外は禁忌

腎性貧血以外の原因検索鉄欠乏対策*3

腎性貧血は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)*

4 で Hb 10~12 g/dL

P,Ca,PTH:基準値内低アルブミン血症では補正 Ca で評価高 P 血症では CaCO3

などのリン吸着薬PTHが基準値を超える際は活性型ビタミンD*5

高 K 血症,アシドーシスの原因検索K 制限(1,500 mg/日)ループ利尿薬・陽イオン交換樹脂*6 で体外へ排泄重炭酸 Na によるアシドーシス補正

球形吸着炭*7 腎排泄性薬剤の投与量・間隔の調整

ステージ G5A1     G5A2     G5A3

専門医による治療腎機能低下の原因精査腎機能低下を抑制するために集学的治療透析などの腎代替療法の準備腎不全合併症の検査と治療

(CVD 対策を含む)

禁煙BMI<25

減塩 6 g/日未満,3 g/日以上たんぱく質制限食*1

(0.6~0.8 g/kg体重/日)高 K 血症があれば摂取制限

130/80 mmHg 未満原則的に ACE 阻害薬や ARBを処方

HbA1c は 7.0%(NGSP 値)未満インスリンによる低血糖の危険性ビグアナイド薬,チアゾリジン薬,SU 薬は禁忌

食 事 療 法・ 運 動 療 法LDL―C120 mg/dL未満薬物による横紋筋融解症への注意フィブラート系はクリノフィブラート以外は禁忌

腎性貧血以外の原因検索鉄欠乏対策*3

腎性貧血は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)*

4 で Hb 10~12 g/dL

P,Ca,PTH:基準値内低アルブミン血症では補正 Ca で評価高 P 血症では CaCO3

などのリン吸着薬PTHが基準値を超える際は活性型ビタミンD*5

高 K 血症,アシドーシスの原因検索K 制限(1,500 mg/日)ループ利尿薬・陽イオン交換樹脂*6 で体外へ排泄重炭酸 Na によるアシドーシス補正

球形吸着炭*7 腎排泄性薬剤の投与量・間隔の調整

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一般社団法人日本腎臓学会理事長 松尾清一

 わが国における血液透析患者数は 2013 年末の時点で 31 万人を超え,増加の一途をたどっています.原因疾患は糖尿病性腎症,慢性糸球体腎炎,腎硬化症をはじめとする慢性腎臓病(CKD)が多くを占めています.このCKD患者数は約 1,330 万人と推定され,これは日本人の成人の 8人に 1人に相当するといわれています.この対策として,日本腎臓学会では 2007 年に CKD診療ガイドを作成(2009 年,2012 年改訂)し,かかりつけ医がCKD患者の診療をする際の指針を示してきました.慢性腎臓病(CKD)対策の重要性が徐々に認知されるとともに,包括的かつ有効なCKD対策の実行は新規透析導入患者の有意な減少をもたらす重要な手段であることが,確実に社会,行政,医療者に認識されてきたところです.これまでは年間 1万人のペースで増加していた透析患者数も,5,000 人程度の増加と鈍化しています. 厚生労働省は平成17年度より戦略型科学研究費補助金として,行政のニーズにより計画され,その成果を国民の健康に関する課題や国民生活の安心・安全に関する課題を解決するために使用されることを前提として実施されるアウトカム研究を立ち上げ,「糖尿病」「うつ」「がん」「エイズ」に続く疾患として平成 19 年に「慢性腎臓病」への対策を課題としました. このマニュアルは,戦略研究「かかりつけ医/非腎臓専門医と腎臓専門医の協力を促進する慢性腎臓病患者の重症化予防のための診療システムの有用性を検討する研究(FROM‒J)」で,かかりつけ医のもとに管理栄養士を派遣して,生活・食事指導を行う目的で作成されたものをベースにしています.「CKD診療ガイド 2012」と併せて,かかりつけ医のもとで,生活・食事指導を行う手助けとなるべく,医師・管理栄養士・看護師などさまざまな職種が集まり,検討が重ねられ,内容をブラッシュアップしたものです.本マニュアルが,関係する多くの皆様にとって有意義なものとなるよう,心から祈っております. 最後に,今回の刊行にあたってご尽力いただいた日本腎臓学会生活・食事指導マニュアル改訂委員会のメンバーおよび戦略研究にご協力いただきました日本医師会,日本栄養士会をはじめとした関係の皆様に深くお礼申し上げます. 2015 年 1 月

CKD生活・食事指導マニュアルの刊行にあたって

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一般社団法人日本腎臓学会学術委員会委員長 柏原直樹

 慢性腎疾患重症化予防のための戦略研究(FROM‒J)研究の成果が本マニュアル刊行に結実した.慶賀の至りである.直接,本マニュアルの作成にあたった山縣邦弘教授をはじめとして委員の皆様,多くの協力者の方々のご努力に敬意を表したい. 慢性腎臓病(CKD)の患者数は成人人口の 12.9%にのぼり国民病とも言える状態である.CKDは血液透析を要する末期腎不全に至るだけでなく,脳卒中や心筋梗塞などの心血管病あるいは,認知機能障害とも関連することが判明している.国民の健康,健康寿命延伸の大きな阻害因子といえよう.CKD増加の背景には糖尿病,高血圧,肥満,脂質異常症などのいわゆる生活習慣病の増加が主因となっていることは周知の事実である.当然のこととしてCKDの予防,治療においては食事内容を含めた生活習慣の適正化が何よりも重要であり,有効である.この事実は医療者も,また指導・治療を受ける患者も理解しているところであるが,実践することは容易ではない.長年の生活史の中で習慣化した生活習慣を変えることの必要性は両者ともに理解しながら,実践できない.行動変容を促し維持,定着化することは容易ではなく,であるからこそCKDをはじめとした生活習慣病が増大しているのであろう. CKDの予防・治療の基盤は食事内容・生活習慣の適正化にあり,したがって,診察室の中だけでは到底完結しない.かかりつけ医と専門医の連携は言うに及ばず,看護師,栄養士,保健師,薬剤師などの多くの職種が緊密に連携することが求められる.本書の作成自体がその様な多職種連携の産物でもある. 指導にあたっての具体的な指導書・マニュアルがなかったことも生活習慣適正化の実現が困難であった原因と思われる.患者を生活者として包括的に理解することから始まり,コミュニケーション,コーチング,セルフモニタリングの技法,認知行動療法の考え方も導入されており奥深い.同時に食事指導,運動療法,禁煙指導の実際が具体的にまとめられており実践的である. 本マニュアルが多くの職種の方々に活用されることで,本邦のCKDの予防と,CKD患者の健康維持,健康寿命延伸に繋がることを確信している.

CKD生活・食事指導マニュアルの刊行に寄せて

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腎疾患重症化予防実践事業企画委員会委員長 横山 仁

 本「CKD生活・食事指導マニュアル」が取り扱っている内容は,これまで日本腎臓学会が取り組んできた慢性腎臓病対策の主な目的である末期腎不全(end‒stage�kidney�disease:ESKD)と心血管病(cardiovascular�disease:CVD)の発症・進展抑制に多職種で取り組むための基本となるものです.このESKDおよび CVDの発症抑制には,改めて申すべくもなく集学的な治療が必須であります. これまで厚生労働省戦略研究として,全国の医師会のご協力のもと実施された「FROM‒J 研究」,そしてこれを日本腎臓学会が引き継いだ「FROM‒J2 研究」の成果として,「CKD診療ガイド」の実践とともに管理栄養士による食事指導を始めとした生活習慣の改善を行うことにより「CKDステージ G4 への進展」あるいは「蛋白尿の増悪」の抑制が可能となる知見が得られています. この成果を踏まえて,戦略研究で作成された「CKD生活・食事指導マニュアル」を基に「より広い地域での指導の実践」とこの経験を基として患者指導に際してマニュアル自体をより使いやすく「up�to�date」されたものへの改訂が,平成 25 ~ 26 年度の「腎疾患重症化予防実践事業」として求められました.日本腎臓学会はこの事業の実施機関として「企画委員会」と「CKD生活・食事指導マニュアル改訂委員会」を組織し,この事業の達成に取り組んでまいりました. この改定された「CKD生活・食事指導マニュアル」を広く活用した多職種によるCKD対策・集学的治療により,ESKDと CVDの発症・進展が抑制され,「国民の健康」と「健全な医療経済」の維持がもたらされることを強く祈念するものです. 2014 年 12 月吉日

CKD生活・食事指導マニュアルの意義

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生活・食事指導マニュアル改訂委員会委員長 山縣 邦弘

 わが国は世界有数の長寿国であると同時に,高齢者人口の急速な増加があります.そして慢性腎臓病(chronic�kidney�disease:CKD)は,加齢とともに増加するため,わが国のCKD患者数は今後も増加を続けていくことが予想されます.加齢により増加するCKDの主な原因疾患は,糖尿病,高血圧,動脈硬化などの生活習慣病とも密接に関連した疾患が主体です.さらに CKDが重症化,進行すれば末期腎不全に進展します.この末期腎不全患者も世界中で今後の増加が予想されております.末期腎不全となることは,患者さんのQOLを大きく損なうだけでなく,医療経済上も重要な課題となっています. このような背景のなかで,非常に患者数の多いCKD患者に対し,かかりつけ医/非腎臓専門医と腎臓専門医が協力して,理想のCKD診療を実施する体制を検討することを目的に,慢性腎疾患重症化予防のための戦略研究(FROM-J)が実施されました.FROM-J 研究では,CKD診療ガイドに則った管理加療をかかりつけ医の先生単独で実施する介入A群と通常診療に加え,受診促進,診療支援,管理栄養士の定期的な生活食事指導の加わる介入 B群に,地区医師会をクラスターとするクラスターランダム化により2群に分け,3.5年間の介入が実施されました.研究結果からは,介入A群,介入B群間にて,有意に高い受診継続率(患者行動変化),有意に高い専門医への紹介率と有意に高い一般医への再紹介による共同診療率(医師行動変化),有意に遅いCKDステージ 3での eGFR低下速度(治療効果)を認めました. ここにお示しする,「医師・コメディカルのためのCKD生活・食事指導マニュアル」は,このFROM-J で行った生活食事指導をもとに,その内容の充実,最新の診療ガイドラインなどに準拠したものに再編集したものです.FROM-J 研究と同様の内容の指導をさまざまな地域の特徴に合わせ,さまざまな場面で活用可能となるように工夫を凝らしてみました.この指導が患者行動変化,医師行動変化,最も患者数の多いCKDステージ 3の患者の腎機能悪化抑制効果が期待できる指導内容になっております. 本栄養指導マニュアルを日常診療に活用し,CKD患者の腎不全への進展,合併症発症を少しでも減らせるよう願っております.

CKD生活・食事指導マニュアルの活用

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v

 近年,わが国でも腎臓疾患領域においてさまざまな診療ガイドラインの作成が行われているものの,その根拠の多くは諸外国の治療成績,他疾患での知見が主であり,わが国独自の腎臓疾患についてのエビデンスが求められている.このようななかで厚生労働省から,わが国独自のエビデンスの創出を目的とした大型臨床研究としての戦略研究が提案され,糖尿病,悪性腫瘍,うつ病,後天性免疫不全などの疾患に続き,平成 18 年度から「腎疾患重症化予防のための戦略研究」(以下 FROM-J:Frontier�of�renal�modification� in�Japan)が実施された.本マニュアルはFROM-J 研究より得られた知見を基に作成された,主にかかりつけ医で診療を受ける慢性腎臓病(以下 CKD)患者の腎障害を重症化予防するための,治療ならびに患者指導のための実践的マニュアルである.さらに近年 CKDに関係するガイドライン,ガイドとして日本腎臓学会からCKD診療ガイド 2012,CKD診療ガイドライン 2013,日本糖尿病学会より科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 2013,日本高血圧学会より高血圧治療ガイドライン 2014,日本透析学会よりCKD-MBD診療ガイドライン 2012,血液透析導入ガイドライン 2013,腹膜透析ガイドライン2009が発刊されている.本書ではFROM-J研究での知見に加え,これらの既存のガイドラインの内容に準拠した,最適なマニュアルの作成を目指した. したがって本マニュアルは,CKD診療の第一線にあたる実地医家の先生方ならびに,腎臓内科疾患を専門としない先生方,さらには患者の指導を担当するすべてのコメディカルの皆さんに役立ててもらえる実践的なマニュアルとして作成された. 対象となる患者は,成人~壮年期の CKD患者で,CKDを発症する前のハイリスクの患者から,最も患者数の多いCKDステージG3までの患者を中心に,重症化前の段階での,効率的かつ積極的な治療により,ステージの進行の抑制,合併症の発症を未然に防ぐとことを目標とした.

本マニュアルの使用法の具体例 本マニュアルは,1.�チェックリスト❶から患者の治療目標と最も解離し,優先して指導を行うべき項目を抽出(チェックリスト問題点抽出システム❷)し,2.問題点抽出システムを利用し,指導内容を決定(カテゴリ別指導マニュアル❸orカテゴリ別アルゴリズム❹)し,どちらかを使用し指導を進める.

3.指導内容は指導手順に従い,指導媒体❺などを活用し行う. また,指導する際に必要な検査データや腎臓病の病態等の説明も掲載されている.

❶チェックリスト

 チェックリストとは,患者からの情報や検査データから生活食事指導の優先度を決定するために使用する帳票である.

本マニュアルの概要

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vi

❷チェックリスト問題点抽出システム

 チェックリストの指導内容項目(以下カテゴリ)は A:BMI 管理,B:血圧管理,C:血糖管理,D:脂質管理,E:食塩摂取状況,F:禁煙,K:カリウム管理,H:たんぱく質摂取量,J:尿酸管理がある.各カテゴリにはそれぞれ達成度が表記されている. 達成度は各カテゴリで目標値が異なっており,数値によって評価している(0~5点).数値が高いほどコントロールが悪いと評価される.(第 3章 92 頁参照)

❸カテゴリ別指導マニュアル

 カテゴリ別指導マニュアルは抽出されたカテゴリが E:食塩摂取状況,H:たんぱく質摂取量の場合使用する.(栄養指導実践編参照)

2 減塩指導(チェックリストカテゴリで E:食塩摂取状況に該当,またはアルゴリズムで E2 に該当した場合)

1.減塩指導の目的

 腎疾患の食事療法において,食塩管理はもっとも基本となるところである.腎疾患では,食塩を過剰に摂取した場合,腎臓に大きな負担をもたらす(第�2�章�44�頁�図10). 一日の食塩量は,調味料などにより付加する食塩と,もともと食品中に含まれている食塩を合計した量をさす.調理されてしまった食塩は目で見えるものではなく,また患者一人ひとりの塩味の感じ方も異なるので,食塩管理が客観的に行えるよう指導する.

カテゴリ別指導マニュアル(減塩指導の例)

❶チェックリストおよび❷問題点抽出システム(例)

指導日 平成  年  月  日   参加者ID :           管理栄養士ID:

A.BMI管理

カテゴリ 達成度 備考

B.血圧管理

/

C.血糖管理

D.脂質管理

E.食塩摂取状況

F.禁煙

K. カリウム管理

H. たんぱく質摂取量

J.尿酸管理

服薬コンプライアンス □めったに飲み忘れない(服薬コンプライアンス良好)  □処方無し □週に1回程度飲み忘れる  □週に2~3回飲み忘れる  □週に4~5回程度飲み忘れる

身長体重BMI

cmkg

kg/m2

来院時

CKDステージG3以上

mmHg

← 28.0以上 ← 25.0以上 ← 18.5以上 18.5未満 →

A エネルギー制限へ

血圧指導アルゴリズムへ

血糖指導アルゴリズムへ

脂質管理アルゴリズムへ

E 減塩指導へ

禁煙指導アルゴリズムへ

カリウム管理アルゴリズムへ

H たんぱく質制限へ

尿酸管理アルゴリズムへ

□65歳以上で診察室 での収縮期血圧 110未満→1点□血圧測定値無し

□検査データ無し□糖尿病でないため 記載無し

□検査データ無し□食後採血のため 算出せず

□食事記録持参せず

□検査データ無し

□CKDステージG1~G2 のため評価せず□食事記録持参せず

□検査データ無し

28 25 18.5

←131/81以上 130/80以下→

130/80

←140/90以上

140/90

←150/100以上

150/100

←160/110以上

160/110

【BMI(kg/m2)】

【血圧(mmHg)☆】

【HbA1c(%)】

【LDL-C(mg/dL)】

【塩分摂取量(g/日)】

【一日の喫煙本数(本)】

【K(mEq/L)】

【たんぱく質摂取量(g/kg)】

【尿酸(mg/dL)】

2013. 03 版

%

mg/dL

g/日

本/日

mEq/L

g/kg

mg/dL

4 3 0 2

4 3 012

4 3

4 3

2

2

1

1 0

0

0

013

4 3 0

3 2 10

4 1 25 0

4 3 2 1

2 1← 7.1以上 7.0以下 →

7

← 0.8より上 0.8以下 →

0.8

← 3.5以上 3.5未満 →

3.5

← 120以上 120未満 →

120

← 6.9以上 6.9未満 →

6.9

← 7.4以上

7.4

← 7.9以上

7.9

← 10.5以上

10.5

← 140以上

140

← 160以上

160

← 200以上

200

← 3以上6未満 3未満 →

3

← 6以上

6

← 12以上

12

← 1以上 吸わない

1

← 10以上

10

← 20以上

20

← 30以上

30 0

← 5.0以上

5.0

← 5.5以上

5.5

← 6.0以上

6.0

← 1.2以上

1.2

← 8.0以上

8

← 9.0以上

9

← 10.0以上

10

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vii

1.本マニュアルの概要

❹カテゴリ別アルゴリズム

 カテゴリ別アルゴリズムは抽出されたカテゴリが A:BMI 管理,B:血圧管理,C:血糖管理,D:脂質管理,F:禁煙,K:カリウム管理,J:尿酸管理の場合使用する.(第 3章 93 頁参照)

❺指導媒体

 指導媒体はカテゴリ別指導マニュアル用,カテゴリ別アルゴリズム用が用意されている.(附録112 頁参照)

カテゴリ別アルゴリズム(血圧管理の例)

食塩摂取量 3g/ 日以上 6g/ 日未満?

運動はできているか?

Yes

Yes

No

No

Yes No Yes No

B5 運動指導

運動はできているか?

B2 減塩指導+

B5 運動指導

B1 指導なし(かかりつけ医の

フィードバックのみ)

B3 服薬励行+

下記アルゴリズム

B2 減塩指導

B:血圧管理の指導内容決定アルゴリズム

服薬コンプライアンスは良好か?

指導媒体(例:CKD管理ノート)

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viii

略語 欧文 語句

alb albumin アルブミン

AUDIT alcohol use disorders identification test アルコール使用障害特定テスト

brief advice 短時間支援

BMI body mass index 体格指数

CKD chronic kidney disease 慢性腎臓病

CKD-MBD chronic kidney disease related mineral and bone disorder 慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常

CVD cardiovascular disease 心血管疾患

eGFRcreat estimated glomerular filtration rate creat 血清クレアチニンによる推算糸球体濾過量

ESA erythropoiesis sitmulating agent 赤血球造血刺激因子製剤

ESKD end-stage kidney disease 末期腎不全

FTND fagerstrom Test for Nicotine Dependence ファーガストロームのニコチン依存度指数

FROM-J Frontier of Renal Outcome Modifications in Japan 腎疾患重症化予防のための戦略研究

GFR glomerular filtration rate 糸球体濾過量(値)

HDL-C high density lipoprotein cholesterol 高比重リポ蛋白コレステロール

KDIGO kidney disease:improving global outcomes

KUB kidney,ureter,bladder

LDL-C low density lipoprotein cholesterol 低比重リポ蛋白コレステロール

PEKT preemptive kidney transplantation 先行的腎移植

SAS sleep apnea syndrome 睡眠時無呼吸症候群

TC total cholesterol 総コレステロール

略 語

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ix

腎疾患重症化予防実践事業

 企画委員会

委員長

横山  仁 (金沢医科大学)委 員(五十音順)

井関 邦敏 (琉球大学)加藤 明彦 (浜松医科大学)要  伸也 (杏林大学)北川 清樹 (金沢医療センター)斎藤 知栄 (筑波大学)佐藤  博 (東北大学)下浦 佳之 (公益社団法人日本栄養士会)杉田 和代 (日本腎不全看護学会)杉山  斉 (岡山大学)高杉 敬久 (公益社団法人日本医師会)寺田 典生 (高知大学)成田 一衛 (新潟大学)西野 友哉 (長崎大学)堀野 太郎 (高知大学)前島 洋平 (岡山大学)槇野 博史 (岡山大学)松尾 清一 (名古屋大学)松本 純一 (公益社団法人日本医師会)丸山 彰一 (名古屋大学)安田日出夫 (浜松医科大学)安田 宜成 (名古屋大学)山縣 邦弘 (筑波大学)和田 隆志 (金沢大学)

慢性腎臓病生活・食事指導マニュアル改訂委員会

委員長

山縣 邦弘 (筑波大学)委 員(五十音順)

足達 淑子 (あだち健康行動学研究所)石川 祐一 (日立製作所日立総合病院)井関 邦敏 (琉球大学)甲斐 平康 (筑波大学)加藤 明彦 (浜松医科大学)菅野 義彦 (東京医科大学)北川 清樹 (金沢医療センター)斎藤 知栄 (筑波大学)佐藤  博 (東北大学)杉田 和代 (日本腎不全看護学会)杉山  斉 (岡山大学)鶴屋 和彦 (九州大学)寺田 典生 (高知大学)成田 一衛 (新潟大学)西野 友哉 (長崎大学)堀野 太郎 (高知大学)前島 洋平 (岡山大学)丸山 彰一 (名古屋大学)安田日出夫 (浜松医科大学)安田 宜成 (名古屋大学)山田 康輔 (鎌倉女子大学)横山  仁 (金沢医科大学)

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 CKD生活・食事指導マニュアル-指導のまとめ 一覧… ………………………………前見返し CKD生活・食事指導マニュアルの刊行にあたって… …………………………… 松尾…清一 ⅰ CKD生活・食事指導マニュアルの刊行に寄せて… ……………………………… 柏原…直樹 ⅱ CKD生活・食事指導マニュアルの意義… ………………………………………… 横山… 仁 ⅲ CKD生活・食事指導マニュアルの活用… ………………………………………… 山縣…邦弘 ⅳ 本マニュアルの概要…… …………………………………………………………………………… ⅴ 略語一覧…… ……………………………………………………………………………………………ⅷ 腎疾患重症化予防実践事業委員会名簿…… …………………………………………………………ⅸ

第 1章 慢性腎臓病 (CKD) の概念と管理………………………………………… 1

  1.CKDの定義,重症度分類,意義,評価法…………………………………………………… 2  2.CKDの原因疾患とアプローチ………………………………………………………………… 7  3.CKDの危険因子・合併症………………………………………………………………………11  ・コラム①:CKDの地域特性… …………………………………………………………………13  4.CKDのフォローアップ(健診,通院,紹介・逆紹介)……………………………………14  5.CKD療養指導と医療連携 ( チーム医療 ,…地域連携など)… ………………………………19

第2章 CKDの治療……………………………………………………………… 21

  1.治療の目標…………………………………………………………………………………………22  2.生活指導……………………………………………………………………………………………24  A…行動変容の支援と維持……………………………………………………………………………24  ・コラム②:コーチング…… ………………………………………………………………………26  ・コラム③:認知行動療法…… ……………………………………………………………………28  B…CKD患者のセルフケア(家庭血圧測定 ,…体重管理 ,…服薬管理 ,……感染予防など)… ………29  C…禁煙指導……………………………………………………………………………………………33  D…飲酒指導……………………………………………………………………………………………38  3.食事療法…………………………………………………………………………………………44  A…塩分制限……………………………………………………………………………………………44  B…エネルギー制限……………………………………………………………………………………46  C…たんぱく質制限……………………………………………………………………………………51  D…カリウム制限………………………………………………………………………………………54  E…尿酸管理……………………………………………………………………………………………55  ・コラム④:地域特性にあわせた食事療法の工夫…… …………………………………………56  4.運動療法……………………………………………………………………………………………57  A…運動指導……………………………………………………………………………………………57

目 次

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  B…運動療法の実際……………………………………………………………………………………60  5.薬物療法…………………………………………………………………………………………62  A…血圧管理……………………………………………………………………………………………62  B…血糖管理……………………………………………………………………………………………65  C…脂質管理……………………………………………………………………………………………67  D…尿酸管理……………………………………………………………………………………………69  E…高カリウム血症管理………………………………………………………………………………71  F…貧血管理……………………………………………………………………………………………73  G…CKD-MBD,代謝性アシドーシス,尿毒症毒素の管理…………………………………………76  H…CKDで注意すべき薬剤… ………………………………………………………………………79  6.腎代替療法とその案内……………………………………………………………………………82

第3章 CKD生活・食事指導の実践……………………………………………85     

  1.チェックリストによる課題の抽出と継続指導の流れ…………………………………………89  2.カテゴリ別指導アルゴリズム……………………………………………………………………93

附録:資料………………………………………………………………………………………… 97     

  1.eGFR男女・年齢別早見表………………………………………………………………………98  2.検査データの基準値,見方…………………………………………………………………… 100  3.CKD管理ノート……………………………………………………………………………… 104  4.問診票…………………………………………………………………………………………… 115

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1

第1章

慢性腎臓病(CKD)の概念と管理

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2

1 CKDの定義 ①�尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害が明らかであり,特に 0.15�g/gCr 以上の蛋白尿(30�mg/gCr 以上のアルブミン尿)の存在が重要である.

 ②糸球体濾過量(glomerular�filtration�rate:GFR)が,60�mL/分/1.73�m2未満である. ③上記①,②のいずれか,または両方が 3カ月以上持続している.▶GFR推算式 推算GFR(eGFR)は以下の血清クレアチニン(Cr,mg/dL)の推算式(eGFRcreat)で算出する.るいそうまたは下肢切断者などの筋肉量の極端に少ない場合には血清シスタチンC(Cys‒C,mg/L)の推算式(eGFRcys)がより適切である. 男性  eGFRcreat(mL/分/1.73�m2)=194×Cr−1.094×年齢−0.287

  eGFRcys(mL/分/1.73�m2)=(104×Cys‒C−1.019×0.996年齢)−8 女性  eGFRcreat(mL/分/1.73�m2)=194×Cr−1.094×年齢−0.287×0.739  eGFRcys(mL/分/1.73�m2)=(104×Cys‒C−1.019×0.996年齢×0.929)−8

2 CKDの重症度分類 CKDの重症度は原因(Cause:C),腎機能(GFR:G),蛋白尿(アルブミン尿:A)によるCGA分類で評価する.腎機能区分はGFRにより定められる.蛋白尿区分は,保険適用の関係で,糖尿病で 24 時間尿アルブミン排泄量,または尿アルブミン/クレアチニン比(ACR),糖尿病以外で 24 時間尿蛋白量,または尿蛋白/クレアチニン比により定められる(表 1).糖尿病G2A3,慢性腎炎 G3bA1,腎硬化症疑い G4A1,多発性囊胞腎G3aA1,原因不明の CKD�G4A2,などのように表記する.

3 CKDの意義

1.日本と世界で増加し続ける ESKD患者数

 透析や移植を必要とするESKD患者は,世界中で増え続けている.1990~2000年の10年間で,ESKD患者数は 43 万人から 106.5 万人に増加したが,2008 年には,少なくとも 165 万人程度に増加している.2013年末には,日本の維持透析患者数は約 31.4 万人となった.人口 100万人当たりの患者数では 2,468.1 名であり,この患者数(頻度,prevalence)は台湾に次いで世界第 2位である.

1 CKDの定義,重症度分類,意義,評価法

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3

1.CKDの定義,重症度分類,意義,評価法

2.ESKDの予備軍としてのCKD

 CKDは世界中で増え続けるESKDの予備軍である.米国の 2000 年の CKD患者数は成人人口の 13.07%,2,561 万人と推定されている.わが国の 2005 年の CKD患者数は成人人口の 12.9%,1,330 万人である.CKDは国民病といえるほどに頻度が高い. 蛋白尿を有するCKD患者は少ないが,蛋白尿を有する患者では尿蛋白が陰性の患者に比して予後は悪い.CKD患者のうち,蛋白尿が陽性,あるいはGFR50�mL/分/1.73�m2未満の患者では専門医による治療方針の決定が必要になる場合が多い.

3.健康を脅かす重要な疾患としてのCKD

 CKDは心血管疾患(cardiovascular�disease:CVD)の危険因子である.欧米のCKD患者ではわが国と異なり透析導入数よりもCVDによる死亡数が多い.しかし,わが国においてもCKDはCVDのリスクである.腎機能はGFR�60�mL/分/1.73�m2未満で死亡,CVDの発症リスクとなり,GFRが低下すればするほど,相対リスクは高くなる(図 1)蛋白尿はCVDの独立した危険因子であり,蛋白尿の増加に従ってCVDのリスクは高くなる.この相対リスクは尿アルブミン/クレアチニン比で評価するが,検尿試験紙でも同等に評価できる.糖尿病や高血圧を原因とするCKD患者では,腎炎を原疾患とするCKD患者よりもCVD発症のリスクが高い.

表 1 CKDの重症度分類原疾患 蛋白尿区分 A1 A2 A3

糖尿病尿アルブミン定量

(mg/日)尿アルブミン/Cr 比

(mg/gCr)

正常 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿

30 未満 30~299 300 以上

高血圧腎炎多発性囊胞腎移植腎不明その他

尿蛋白定量(g/日)

尿蛋白/Cr 比(g/gCr)

正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿

0.15 未満 0.15~0.49 0.50 以上

GFR 区分(mL/分/1.73 m2)

G1 正常または高値 ≧90

G2 正常または軽度低下 60~89

G3a 軽度~中等度低下 45~59

G3b 中等度~高度低下 30~44

G4 高度低下 15~29

G5 末期腎不全(ESKD) <15

重症度は原疾患・GFR 区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する,CKD の重症度は死亡,末期腎不全,心血管死亡発症のリスクを緑■のステージを基準に,黄■,オレンジ■,赤■の順にステージが上昇するほどリスクは上昇する.

(KDIGO CKD guideline 2012 を日本人用に改変)

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4

第 1章 慢性腎臓病(CKD)の概念と管理

4.わが国におけるCKD対策の成果と今後の展望

 2004 年に Kidney�Disease:Improving�Global�Outcomes(KDIGO)が設立され,わが国においても日本腎臓学会を中心に,CKD対策が進められている.「世界腎臓デー」が 3月の第 2木曜日に制定され,わが国でもこの日に合わせて厚生労働省や慢性腎臓病対策協議会を中心に啓発イベントが行われている. わが国の検尿試験紙と血清Cr値を使用した健康診断のシステムはCKDの早期発見に有効である.維持透析患者は依然増加が続いているが,新規の透析導入患者数は 2009 年度に減少に転じた.また,糖尿病性腎症を原因として透析導入される患者も2010年に減少した.今後も増加を続ける糖尿病対策が重要である.高血圧や加齢が原因で起こる腎硬化症や虚血性腎症は今後増加が予想される.高血圧の早期発見と早期治療,および減塩と規則的な運動による高血圧の予防が重要である.

4 CKDの評価法 GFR測定のゴールドスタンダードはイヌリンクリアランスである.しかしイヌリンクリアランスの測定やクレアチニンクリアランス(Ccr)測定が困難な場合には eGFR(GFRの推算値)が用いられる. CKD診療ガイド 2012 には成人(18 歳以上)における血清Cr 値に基づく GFR推算式(GFR-creat)を用いた男女・年齢別早見表(eGFR)が示されている.GFRcreat 推算式は簡易法であり,75%の症例が実測GFR±30%の範囲に入る程度の正確度である.肥満者,糖尿病症例においても同様の正確度である.より正確な腎機能評価を要する場合には,イヌリンクリアランスやCcr検査を行うことが望ましい.GFRcreat推算式は四肢欠損,筋肉疾患など筋肉量の減少している症例では高く推算されうる.長期臥床により筋肉量が減少している場合も同様であり,担癌患

図 1 死亡および心血管死の相対リスクa:死亡の相対リスク b:心血管死の相対リスク

(Matsushita K, et al. Lancet 2010;375:2073. 2081. より引用,改変)

HR(

95%

Cl)

16

8

4

2

1

0.515 30 45 60 75 90 105 120

eGFR(mL/分/1.73 m2)

a b

尿蛋白2+以上尿蛋白1+尿蛋白-または±

16

8

4

2

1

0.515 30 45 60 75 90 105 120

eGFR(mL/分/1.73 m2)

死亡 心血管死H

R(95

%C

l)16

8

4

2

1

0.5

顕性アルブミン尿微量アルブミン尿正常アルブミン尿

16

8

4

2

1

0.5

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1.CKDの定義,重症度分類,意義,評価法

者,MRSA感染などで腎排泄性の抗癌薬・抗菌薬を投与する場合,過量投与とならないように注意が必要である.必要に応じて,Ccr,イヌリンクリアランスの実測を行う.血清Cr 値は肉類の摂取後(肉類に含まれるクレアチニンが吸収される)や尿細管分泌を抑制する薬剤(シメチジンなど)の使用時は高くなるので,eGFRcreat は低く推算されうる.GFR 推算式では体表面積(BSA)が 1.73�m2の標準的な体型(170�cm,63�kg)に補正した場合のGFR(mL/分/1.73�m2)が算出される.薬物投薬量の設定では患者個々の GFR(mL/分)を用いる.体格の小さな症例でeGFR(mL/分/1.73�m2)をそのまま用いると過剰投与の危険がある.標準的な体型(1.73�m2)と大きく異なる場合はBSA補正をしない値に変換する シスタチンC(Cys‒C)は新たなGFRマーカーとして保険適用となっており,3カ月に 1回の測定が可能である.18 歳以上では血清Cys‒C に基づく GFR推算式によりGFRが推定できる.(堀尾 勝,他:CKD早期発見に必要な腎機能推算式の開発.平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(腎疾患対策研究事業)CKDの早期発見・予防・治療標準化進展阻止に関する調査研究班報告書,2012 年).小児(18 歳未満)の腎機能評価には小児の評価法を用いる.GFRcys 推算式に基づく eGFR男女・年齢別早見表についてもCKD診療ガイド 2012 の後見返しに出ている.血清Cys‒Cに基づくGFR推算式の正確度は血清Crに基づく推算式と同程度である.血清シスタチンC値は筋肉量や食事,運動の影響を受けにくいため,血清Cr 値による GFR推算式では評価が困難な場合に有用と思われる.・筋肉量が少ない症例(四肢切断,長期臥床例,るいそうなど)・筋肉量が多い症例(アスリート,運動習慣のある高齢者など) 血清Cys‒C 値は妊娠,HIV感染,甲状腺機能障害などで影響されるため注意する.また薬剤による影響など十分にわかっていない点もある.Cys‒C は腎外での代謝・排泄が推測され,末期腎不全(ESKD)であっても血清シスタチンC値の増加が 5~6�m/L で頭打ちとなるため注意が必要である.推算式中の−8�mL/分/1.73�m2は腎外での代謝・排泄を想定した定数である.血清Cys‒C値が 7�mg/L以上では eGFRがマイナス値に算出される場合もあり,この場合は eGFR<5�mL/分/1.73�m2の ESKDと評価する.一般的には血清Cr値による eGFRcreat と血清Cys‒C値によるeGFRcys の平均値を用いると,推算GFRの正確度はよくなるので,eGFR60�mL/分/1.73�m2付近での CKD評価など,より正確な推算GFRが必要な場合に両者を算出することは有用である.

加齢と腎機能

 健常人の腎機能は加齢とともに低下するとされ,諸外国,日本で腎移植ドナー候補者の実測GFRが報告されている.腎移植ドナーは合併症のない,腎機能の良い集団が選択されており,一般住民とは異なる点に注意が必要である.米国では,45 歳までは 10 年で 4�mL/分/1.73�m2の低下,45歳以上では8�mL/分/1.73�m2と 2倍の速度でGFRは低下するとしている.日本の腎移植ドナー候補者の実測 GFRを米国の報告と比較すると年齢と腎機能の関係は両国間で大きな相違はない. 高齢者でもドナー候補者など腎機能正常者が存在し,腎機能は加齢に伴い一律に低下するわけではないが,住民健診などを対象とすると加齢に伴いCKD頻度は増加する.高齢化の進んでいる日本では高齢者の割合が多いことから全人口を対象とするとCKD頻度が他国より高くなっていると考えられる.

蛋白尿および蛋白尿・血尿の評価法

 CKDの定義における腎障害マーカーのなかでは検尿異常,特に蛋白尿の存在が最も重要であ

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第 1章 慢性腎臓病(CKD)の概念と管理

る.特に臨床症状の乏しい早期のCKD(慢性糸球体腎炎など)では,検尿だけが早期発見の手段となる.しかも検尿は簡便で安価で正確性も高い.糖尿病性腎症の早期の診断マーカーは微量アルブミン尿である. 尿比重が<1.010 では希釈尿,>1.020 では濃縮尿の可能性があり,尿試験紙法での判定に注意が必要である.随時尿を用いて蛋白尿を評価する場合,採尿時間,食事,飲水の影響があるため,尿蛋白定量と尿中クレアチニンの測定により尿蛋白/クレアチニン比を算出するなどの補正が必要である.試験紙法による定性評価とアルブミン(蛋白)尿定量は,同一の評価ができない.尿の濃縮・希釈状態により,試験紙法にて(−)~(2+)まで微量アルブミン尿の可能性がある.CKD疑い例では試験紙法による蛋白尿定性を繰り返す.蛋白尿,血尿ともに偽陽性・偽陰性があることに注意する.

血尿単独の評価法

 初めて血尿を指摘された時点で,画像検査を含めた精密検査により尿路異常の有無を検索する.尿路異常がなければ,その後は原則的に健診での経過観察でよい.しかし,初回の画像のみでは泌尿器科的疾患の初期徴候であることを否定できない.したがって,経過中に尿路刺激症状や肉眼的血尿などが出現したときには必ず医療機関を受診するよう指導する.40歳以上の無症候性血尿では尿路悪性腫瘍の可能性が高くなるため注意する.血尿単独例では,経過中約 10%の患者で蛋白尿陽性となることが知られている.蛋白尿が陽性となった場合には,血尿+蛋白尿としての対応が必要である.

蓄尿評価について

 尿蛋白の排泄量は時間,体位,運動,血圧などによって変動し,特に日内変動として夜間に少なく,日中に多いとされる.尿蛋白排泄量の正確な評価には24時間蓄尿が望ましい.入院では全尿を貯めるが,外来では携帯型の蓄尿器を用いることが多い.しかし,蓄尿法の指導をきちんとしないと採尿が不正確になることがあるため,蓄尿の方法をよく説明したうえで行うべきである.同時に尿中クレアチニン排泄量を測定すれば蓄尿が十分に実行されたかどうか,また腎機能(クレアチニンクリアランス)の推定が可能となる.

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1 成人のCKDで注意すべき点

1.問診・身体所見での注意点

 腎臓病の発見や鑑別診断のうえでは,検尿が最も基本的な検査になる.通常診療における検尿異常を見逃さないようにし,さらに健診などにおける検尿歴をもれなく聴取することが大切である.現在の尿所見が軽微であっても過去に肉眼的(コーラ様)血尿の既往を有する症例や,蛋白尿・血尿が持続する症例,あるいは腎機能の悪化傾向が認められる場合などでは,腎臓専門医による精密検査が必要となる.なお,多くの腎疾患は何らかの尿異常を有するが,囊胞腎,腎硬化症,尿細管間質性腎炎などでは尿所見に乏しい症例もあるので,それらの疾患の可能性に対しても注意を払わなければならない. 病歴聴取では,生活習慣病に関連した高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往や治療歴とともに,腎不全を含めた腎疾患の家族歴を確認することが重要である.また,非ステロイド抗炎症薬,ビタミンD製剤,カルシウム製剤,抗菌薬など腎障害の原因となりうる薬剤の服薬歴や,腎毒性物質への曝露歴を初診時に把握しておくことも大切である. 身体所見のうえでは,血圧測定や浮腫の有無・程度をチェックするほかに,皮疹(紫斑,紅斑など),関節所見,肝脾腫の有無,血管雑音など二次性疾患の所見を見逃さないようにする.

2.成人CKDの原因診断

 確定診断には腎生検による病理組織診断が行われる.CKDにおける腎生検の適応としては,持続する蛋白尿・血尿,尿蛋白 0.5�g�/日以上,急速な腎機能低下,外科的要因を除く肉眼的血尿などがあげられる.1)成人に多い一次性腎疾患 若年成人では糸球体腎炎,特に IgA腎症の頻度が高い.その一方,中年以降になると膜性腎症の頻度が増加する.膜性腎症では悪性腫瘍の合併に注意する. また,ESKDに至る頻度の高い多発性囊胞腎に対しては,スクリーニングとしての腎超音波検査が有用である.�2)成人に多い二次性腎疾患 二次性腎疾患では糖尿病性腎症が最も多く,透析導入原疾患の第 1位にもなっている.5年以上の糖尿病罹患,微量アルブミン尿~顕性蛋白尿の持続,糖尿病性網膜症の存在などが糖尿病性腎症を疑う根拠となる.そのほか,肥満に高血圧,脂質異常,耐糖能障害などを伴うメタボリックシンドロームもCKDの原因となる. 若年女性では,膠原病,特に全身性エリテマトーデスに注意する.皮膚,関節症状などの身体所見とともに,抗核抗体,補体(C3,C4,CH50),各種自己抗体の測定が診断に役立つ.

2 CKDの原因疾患とアプローチ

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第 1章 慢性腎臓病(CKD)の概念と管理

3)成人における血尿の意義 蛋白尿を伴わない無症候性顕微鏡的血尿であっても,平均 22 年の観察においてESKD発症の危険因子となることが報告されている(正常者と比較したハザード比 32.4)1).また,蛋白尿を伴う血尿は,それぞれが軽微であっても IgA 腎症をはじめとした糸球体疾患の可能性があり,ESKDの有意なリスクとなる.

2 高齢者のCKDで注意すべき点

1.診療全般での注意点

 加齢に伴って腎機能(GFR)が低下することが知られており,特にGFR�50�mL/分/1.73�m2 未満になると,GFR�60�mL/分/1.73�m2�以上 70�mL/分/1.73�m2 未満に比べて 2倍以上のスピードで腎機能が低下し,ESKDに陥る危険性が高まるとされる.CKD診療ガイド 2012 では,腎臓専門医への一般的な紹介基準(=eGFR�50�mL/分/1.73�m2 未満)に対して,「70 歳以上の高齢者の場合は,かかりつけ医の判断により eGFR�40�mL/分/1.73�m2 未満を紹介基準としてもよい」とされているが,加齢に伴う腎機能低下の特性を十分に理解しておく必要がある.eGFR�40�mL/分/1.73�m2 以上であっても,2~3カ月以内の経過で 30%以上の腎機能低下が認められるようであれば直ちに専門医に紹介することが望ましい. 高齢者においても若年者と同様に原疾患の診断と管理が基本であるが,加えて血圧管理,食事療法が重要であり,とりわけ高度の動脈硬化を有する症例では,起立性低血圧(たちくらみ)や一過性の脳虚血を極力避けるために,できるだけ緩徐な降圧を心がけなければならない.また,脱水や心不全により腎機能が低下しやすいため,体液管理に細心の注意が必要である. さらに,若年者に比べて薬剤(非ステロイド抗炎症薬,カルシウム製剤,ビタミンD製剤,抗菌薬など)により腎機能の増悪をきたしやすい点にも注意を要する.

2.高齢者CKDの原因診断

 CKDの原因となっている基礎疾患を明らかにするとともに,合併症の診断とその重症度評価が重要である. 近年,透析導入例の高齢化が顕著となっているが,その要因として透析導入の主な原因疾患である糖尿病性腎症や腎硬化症の高齢化が進んでいることがあげられる.また,高齢者における急速な腎機能低下例(血清クレアチニン値が数週間~数カ月で上昇し,腎不全へと至る)では,急速進行性糸球体腎炎,ANCA�関連血管炎,急性尿細管間質性腎炎などの頻度が高いことが知られている. 高齢者の腎疾患のなかで,腎硬化症,痛風腎,薬剤性腎障害や泌尿器科疾患では,検尿で異常所見が認められないことがあり,腎障害の発見や治療開始が遅れる原因になっている.そのようなことから,高齢者におけるCKDの診断では,検尿のみならず,eGFRによる評価が必須事項になる.また,高齢者に比較的多く認められる骨髄腫では,その診断契機となる尿中Bence-Jones蛋白が試験紙法では検出されにくいことに注意が必要である. そのほか,腎・尿路悪性腫瘍の頻度が年齢とともに高まることから,それらの見落としがないよう注意する.尿所見では血尿が主体(肉眼的血尿,顕微鏡的血尿)であり,蛋白尿を伴わない症例が多い.超音波検査,CTなどの画像診断や尿細胞診が診断上有用である. また,前立腺肥大や悪性腫瘍による尿管閉塞などに伴って発症する腎後性腎不全にも注意を払う必要がある.

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2.CKDの原因疾患とアプローチ

3 成人・高齢者CKDの画像診断

1.腎臓の形態的変化

1)腎萎縮 腎萎縮の有無は,腎障害が慢性か急性かの鑑別に役立つ.しかし萎縮の程度は疾患や病態で異なり,腎機能障害の程度とは必ずしも相関しない.例えば,糖尿病性腎症や腎アミロイドーシスでは腎萎縮が目立たない場合が多い.2)腎形態の変化 腎形態の変化をきたす主な原因として,以下のものがあげられる. ①先天的な奇形や変異:馬蹄腎や重複腎盂,分葉,欠損など. ②��後天的原因による変形:腎梗塞による変形や,慢性腎実質障害に伴う萎縮,尿路閉塞による水腎症(腎盂拡張)など.

 ③腫瘤性病変:腎癌,腎血管筋脂肪腫,囊胞(囊胞癌)など.3)石灰化 腎臓には結石や石灰化がよく認められる.無症状の結石は問題となることが少ないが,血尿の原因として重要である.4)血管病変と関連する変化 CKDでは,加齢や高血圧・糖尿病などの合併によりさまざまな程度の動脈硬化をきたしていることが多い.粥状動脈硬化に伴う腎血管性高血圧あるいは両側腎動脈狭窄による虚血性腎症,コレステロール塞栓症など多彩な病態をとる場合がある.腹部血管雑音や腎サイズの左右差を認める症例では,腎動脈狭窄(腎血管性高血圧)に対する評価が重要である.

2.診断方法

1)超音波検査 腎超音波検査が CKDの画像スクリーニング検査として第一選択となる.腎臓のサイズや形態・性状を確認するとともに,腫瘍,囊胞,結石や石灰化の有無などをチェックする.また,腎血流ドプラの併用により腎動脈狭窄のスクリーニングおよび経過観察が可能である.2)単純 X線(KUB) KUB(kidney,ureter,bladder)では,後腹膜において脂肪組織が臓器の輪郭を形成し,腎臓,腸腰筋が描出される.以下の a. ~ e.を確認することができる.  a.腎陰影:腫大,萎縮,位置異常,輪郭の変形 b.異常石灰化像:尿路結石,腎石灰化  c.骨:骨折,変形,骨転移(造骨性,溶骨性) d.腸腰筋陰影:腸腰筋陰影の消失は,腹水や膿瘍などの存在を示唆  e.腸管ガス像:圧排,変位,小腸ガス像の出現など3)排泄性尿路造影 ヨード造影剤を静脈投与して尿路系(腎,尿管,膀胱)を陽性に描出する方法であり,以下のa. ~ c.を確認することができる.ただし,造影剤を血管内に投与する検査であるため,副作用に十分に注意しなければならない.ヨード過敏症を有する患者に対しては禁忌となる.  a.��腎陰影:KUBの情報がより明瞭に得られる.左右のネフログラムの濃度差,内部の透亮像

の有無,立位では腎の下垂を確認する.

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第 1章 慢性腎臓病(CKD)の概念と管理

 b.腎盂・腎杯:拡張,変位,圧排などの有無・程度を確認する.  c.尿管:拡張,変位,圧排など.4)CT 術者の技量によらず腎形態を正確に評価できる利点があるとともに,腹腔内の他臓器も同時に検索することができる.腫瘍性病変,炎症性病変,尿路結石などの形態学的な評価だけでなく,造影剤使用により,腎臓への血流や尿管の描出も可能である.なお,膀胱の描出では,排尿せずに膀胱内に fluid がある状態で撮影することが望ましい.5)MRI 良好なコントラスト分解能を活かした画像評価が可能である.腫瘍の浸潤範囲やリンパ節転移などの評価に利用されるほか,腎血管の描出や血流の状態を評価することもできる.腎機能低下例では,ガドリニウム製剤の使用に注意が必要である. 6)血管造影 カテーテルを用いて,大動脈より分岐する腎動脈の描出,および血管の評価を行う.

3.主な形態異常と疾患

1)腎血管性変化 主な血管性変化としては,腎動脈狭窄,腎動脈瘤,動静脈奇形,左腎静脈が圧排されるナットクラッカー現象などがあげられる.2)腎実質性変化 腎実質の形態変化は,以下の 4種類の大きく区分される.  a.��腎腫大:急性糸球体腎炎,ネフローゼ症候群,糖尿病性腎症,腎アミロイドーシス,急性

尿細管間質性腎炎など b.腎萎縮:慢性腎不全,腎硬化症,慢性腎盂腎炎,腎梗塞など  c.腎囊胞:多発性囊胞腎,単純性腎囊胞など d.腫瘤性病変:腎癌,腎血管筋脂肪腫,囊胞癌など3)腎後性変化 尿路結石,前立腺肥大,後腹膜線維症や,骨盤内腫瘍などが原因になって起こる水腎症・水尿管症があげられる.

4 成人・高齢者におけるCVD(心血管疾患)のスクリーニング CKDでは,心筋梗塞,心不全,脳卒中などのCVD(心血管疾患)の発症率および死亡率が高くなることが知られている.これは,CKDが CVDと共通する危険因子を基盤に有していることが大きな要因であるが,CKDの存在自体もCVDのリスクファクターになる.そのようなことから,CKDステージ G3b~G5 では,心症状を示さない場合でも,虚血性心疾患の有無を負荷心電図によりチェックしておくことが望ましい.異常が認められるようであれば,循環器専門医と連携して心臓超音波検査,心筋シンチグラフィあるいは心臓カテーテル検査などにより診断・治療を進める.

参考文献1)JAMA�2011;306:729−36.

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1 CKD発症に関わる危険因子 CKDはいわゆる生活習慣病と密接に関わりがあることが知られている.例えば,健診受診者の10 年間経過観察中にCKD発症(ステージ 1~2:尿蛋白陽性)の危険因子を検討したところ,年齢,血尿,高血圧,耐糖能異常,糖尿病,脂質異常症,肥満,喫煙があげられた.また,CKDステージ 3~5となる危険因子は,年齢,蛋白尿,血尿・蛋白尿,高血圧,耐糖能異常,糖尿病,脂質異常症,喫煙であった(図 2).これらのことからCKDを発症させない,あるいは重症化させないためには危険因子を取り除いていく(あるいは適切なコントロールを行っていく)ことが肝要と考えられる.また,男性は女性に比し蛋白尿が陽性になる割合が高いことが示されており,より厳格な生活習慣の改善・治療が重要となる.

2 CKDと高血圧・心血管病(CVD) 高血圧は CKDの原因となり,CKDの病態を悪化させる一方で,CKDが高血圧の原因ともなり,両者の間には悪循環が存在している.降圧が不十分な患者では腎機能障害が進行し,コント

3 CKDの危険因子・合併症

図2 10年間の経過観察中にCKDステージG3~G5となる危険因子(Yamagata K, et al. Kidney Int 2007;71:159‒166. より引用,改変)

年齢蛋白尿≧2+血尿+蛋白尿≧1+血尿≧2+血圧 140~150/90~95mmHg血圧 150~160/95~100mmHg血圧 160mmHg~/100mmHg~高血圧(治療中)糖尿病糖尿病(治療中)低HDL-C喫煙飲酒(エタノール<20g/日)飲酒(エタノール≧20 g/日)

1.0 2.01.50.5 3.02.5

男性女性

相対危険

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第 1章 慢性腎臓病(CKD)の概念と管理

ロールが不良であればあるほど末期腎不全の危険が高まる.したがって適切な血圧コントロールを行うことはCKDを進展させないためにも重要である(第 2章 5参照). CKDは心血管病(CVD)の危険因子であり,GFRの低下と尿アルブミン(尿蛋白)排泄量の増加はともにCVDの独立した危険因子である.軽度の腎機能低下や蛋白尿が心筋梗塞や脳卒中の大きな危険因子であることが,欧米のみならず,日本でも明らかにされている.そのため,わが国のCKD患者においても,ESKDのため導入されるよりも,経過中にCVDにより死亡するリスクが高い.したがって,CKD患者においては CVD合併の有無を把握するこが重要である.CKDステージが高くなるに従って,冠動脈組織の粥状硬化病変の程度が強くなり,冠動脈の狭窄病変が高度になる.一方でCVD合併患者ではCKDを合併する頻度が高いことも知られている.日本における大規模研究によると,55 歳以上の血行再建術を受けた冠動脈疾患患者では 40%以上,心不全により入院した患者の 70%以上がステージG3~G5 の CKDを合併していた.さらには CVD患者の予後は CKDのステージが進むほど悪くなる.CKDと CVDの危険因子の多くは共通しており,病態が進行するにつれ体液調節障害と血管内皮障害が生じている.動脈硬化が促進され,細胞外液過剰は心血管への負荷につながる.ステージG3~G5のCKD�患者では高血圧,脂質異常症,睡眠時無呼吸症候群などのCVDリスクを有することが多い.介入可能な危険因子の治療を行い,CVDの発症・進展を予防し,CKDの増悪を防ぐようにすることが重要である.

3 CKDと生活習慣に関わる因子 わが国ではメタボリックシンドロームに該当する人口が増加している.生活習慣と密接に関わるメタボリックシンドロームと,その構成因子である腹部肥満,血圧高値,血糖高値,脂質異常は,それぞれにCKDの発症・進展と関与する.したがって,CKDの発症・進展の抑制には,生活習慣を改善することが重要である.生活習慣病の概念は「病気の発症に遺伝的要因のほかに,個人個人の生活習慣が大きく関与する疾患」であり,メタボリックシンドロームは,「過食と運動不足により内臓に脂肪が蓄積した結果,高血圧,糖尿病や脂質代謝異常が起こる」とする概念である.その基盤にはインスリン抵抗性があると考えられている.生活習慣病やメタボリックシンドロームはCKDの発症とも深く関係しており,メタボリックシンドローム患者では,CKDの累積発症率,相対危険が高まることが報告されている.さらには内臓脂肪が蓄積する腹部肥満では蛋白尿や腎機能低下をきたしやすい.微量アルブミン尿との関連についても,メタボリックシンドローム,特に腹部肥満と血圧に関わる食塩感受性と関連が深いことが知られている.肥満による腎障害にもインスリン抵抗性などが関与しており,インスリン抵抗性が強くなればなるほど蛋白尿が出やすくなる.また,腎機能が低下すると,インスリン抵抗性も強くなり,悪循環が生じる.一方,食事および運動療法により肥満を改善すると蛋白尿が減少することが報告されている. 糖尿病はCKD,ESKDの発症リスクであり,血糖コントロールが不良であるほどそのリスクは高まる.特に早期腎症における厳格な血糖コントロールは,糖尿病におけるCKD発症・進展を抑制する.したがって適切な血糖コントロールを行うことはCKDを進展させないためにも重要である(第 2章 5参照).一方で,顕性腎症以降では,腎症進展に対する厳格な血糖コントロールの効果は十分に明らかでない. 脂質代謝異常はCKD発症・進展の危険因子であり,薬物を用いた脂質管理によりCKDの進展抑制が期待される(第 2章 5参照). 喫煙はCKD発症・進展の危険因子であり,CKD患者は禁煙すべきである(第 2章 2参照).飲酒に関しては中等量までの飲酒はCKDのリスクにはならないが,大量飲酒は身体に有害である.

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4.CKDのフォローアップ(健診,通院,紹介・逆紹介)

 CKD発症,重症化にはさまざまな因子が関与しており,特に生活習慣と密接にリンクしていることからこれらに対する対策は必須と考えられる.多くのCKD患者はかかりつけ医に通院していると考えられることから,かかりつけ医でのフォローアップ,さらにはかかりつけ医と腎臓専門医との連携が重要である(第 1章 4参照).腎炎が疑われる症例,例えば血尿・蛋白尿を呈している場合や蛋白尿が多い症例,急速に腎機能が低下する場合などはより早期からの腎臓専門医の介入が必要となる.

Column ❶CKDの地域特性 ~FROM-J 研究おける地域特性を中心に CKDの発症や重症化には高血圧,糖尿病,メタボリック症候群,喫煙などいわゆる生活習慣に関わる因子が深く関わっていることが知られている.生活習慣は地域による差が存在しており,例えば平成24年の厚生労働省の調査によれば,成人男性の食塩摂取量が最も多い岩手県では1日平均12.9 g,最も少ない沖縄県では 1日平均 9.5 g である.沖縄県は男女とも塩分摂取量は少ないが,Body mass index(BMI)は全国でも上位に位置しており,メタボリック症候群の頻度が高いことが示唆される.そのほか喫煙率や運動習慣なども地域によって差異が存在している.また,CKDの重症化予防にはかかりつけ医,腎臓専門医,管理栄養士,看護師,保健師,薬剤師などのそれぞれの役割や連携が必要不可欠であるが,これらに関しても地域による差があることが想定される.このような背景を考えると,CKDの背景因子,診療体制,腎予後,生命予後などにどのような地域特性があるか興味深い点である. CKD患者の多くはかかりつけ医に通院されていると推測され,地域差を検討するうえではかかりつけ医におけるCKD診療の実態を明らかにする必要がある.かかりつけ医/非腎臓専門医と腎臓専門医の協力を促進する慢性腎臓病患者の重症化予防のための診療システムの有用性を検討する研究(FROM-J)はかかりつけ医通院中のCKD患者を対象とした大型の臨床介入研究であり,かかりつけ医/非腎臓専門医の連携や診療ガイドの遵守,さらには管理栄養士による生活・食事指導などによる介入がCKD進展や心血管疾患発症の抑制効果が期待される研究である.FROM-J においては,医師会単位のクラスターが形成され,CKD診療ガイドに則った診療を行う介入A群とCKD診療ガイドに則った診療を行うことに加えて受診促進支援,管理栄養士による生活・食事指導,診療支援 IT システムなどの診療支援を行う介入B群にランダムに割り付けされた.これまでに過去の報告(Usami et al. JAMA 2000)で①透析導入患者の増加率が高い地域(九州・沖縄地区,北海道),②透析導入患者の増加率が低い地域(東北,北陸),③透析導入患者の増加率が標準的な地域(その他の地域)があるとされていたことから,FROM-J においてはこれらを考慮して介入A群,介入 B群の割り付けが行われた.FROM-Jにおける各ブロックの特性を検証したところ,各ブロック間での腎機能悪化速度に差は認められなかったものの,介入A群,介入B群の腎機能悪化速度に関して透析導入率が高いとされた地域,標準的な地域で有意差がみられた一方で,透析導入率が低いとされた地域では介入A群,介入B群の腎機能悪化速度に有意差を認めなかった.原因として,透析導入率が低いとされた地域では紹介率が低かったことや,糖尿病合併が腎機能悪化に与える影響が両群に差がなかったことなどが考えられた.わが国のCKD地域特性を明らかにしていくうえでも,今後さらなる詳細な解析が待たれるところである.

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 CKD患者を早期に発見し,フォローアップを行い,必要に応じて専門医へ紹介することは,疾患の進行を予防あるいは遅延させる可能性がある.早期発見および専門医への紹介の目的を以下に示す. 1)診断に基づいた適正な治療法の提供 2)CKD進行の遅延ないし阻止 3)合併症の評価と管理 4)心血管疾患(CVD)の予防と管理 5)�CKDに特有の合併症(例えば,栄養失調,貧血,骨病変,アシドーシスなど)の評価,予

防と管理 6)�腎代替療法(例えば,治療法の選択,アクセス作成とケア,先行的腎移植など)のための計

画と準備 7)必要に応じて,心理社会的支援と保存的ケア・緩和ケアの選択肢の提供� (慢性腎臓病の評価と管理のためのKDIGO診療ガイドラインより引用)

1 健診にて発見されたCKD患者に対する対応

1.CKD患者に対する対応

 健診はCKDの早期発見に重要である.健診などで検尿や eGFRに異常があれば,速やかにかかりつけ医へ紹介する.かかりつけ医では検尿(蛋白尿,血尿)を行い,尿蛋白が陽性の際は尿蛋白濃度,尿クレアチニン(Cr)濃度を測定し,尿蛋白を g/gCr で評価することが望ましい.同時に血清Cr 濃度を測定し,腎機能を eGFRで評価する. 1)~3)のいずれかに該当するCKD患者は腎臓専門医に紹介し,連携して診療する(表 2). 腎臓専門医は日本腎臓学会ホームページに記載されている(www.jsn.or.jp).1)高度の蛋白尿(尿蛋白/Cr 比 0.50g/gCr 以上,または 2+以上) 尿蛋白/尿Cr比が0.50�g/gCr以上または尿アルブミン/尿Cr比が300�mg/gCr以上の場合は腎機能が悪化する可能性があるので,腎生検を含めた精査を腎臓専門医で行う必要がある.日常臨床では 2+以上の蛋白尿は,腎臓専門医に紹介することが望ましい.2)蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上) 尿試験紙法で尿蛋白 1+以上と血尿 1+以上が合併していると腎予後が不良となる.したがって,両者が 1+以上同時にある場合も腎臓専門医に紹介する.3)GFR50mL/分/1.73m2未満 20 歳以上の日本人で,eGFRが 50�mL/分/1.73�m2未満の一般住民は約 317 万人(3.07%)と推定されている.このCKD群は腎機能悪化が予想されるために,腎臓専門医に紹介する. 70 歳以上ではCKDが多く存在し,eGFR�40�mL/分/1.73�m2未満から腎機能低下のリスクが高くなる.70 歳以上の安定したCKD患者では,かかりつけ医の判断により腎臓専門医への紹介基

4 CKDのフォローアップ(健診,通院,紹介・逆紹介)

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4.CKDのフォローアップ(健診,通院,紹介・逆紹介)

準をGFR�40�mL/分/1.73�m2未満としてもよい. 一方,若年者(40 歳未満)では,GFR�60�mL/分/1.73�m2未満であれば,長期の腎予後も考慮し,腎臓専門医への紹介を考慮すべきである.また,上記基準を満たさなくとも各指標が悪化を示すときは,診察の頻度を上げるなど十分に注意する.

2.血尿陽性に対する対応

 血尿陽性の頻度は高い.少なくとも初回陽性時には,尿細胞診や画像診断などで尿路系の異常の有無を確認する必要がある.必要に応じ専門医への紹介も考慮すべきである.

2 かかりつけ医におけるCKD患者のフォローアップ

1.フォローアップの目的について

 CKDのフォローアップで重要なことは,CKDの進行を遅延ないし阻止し CVDの発症を予防することである.定期的に尿検査,血清Cr 値による eGFR評価を行い腎機能を把握するとともに,CVDのチェックを行う.尿蛋白の急激な増加,eGFRの急速な低下(3カ月以内に血清Cr 値が 30%上昇)が認められた場合には,直ちに腎臓専門医に紹介する. CKDの各ステージからの末期腎不全(ESKD)への移行は,ステージが進むと増加する.一方CKDの進行は,食事療法,生活指導および薬物療法で遅らせることが可能である.血糖と血圧のコントロール,ACE阻害薬やARBの使用が,CKD進行抑制に有効であるというエビデンスが

表 2 腎臓専門医への紹介基準原疾患 尿蛋白区分 A1 A2 A3

糖尿病尿アルブミン定量

(mg/日)尿アルブミン/Cr 比

(mg/gCr)

正常 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿

30 未満 30~299 300 以上

高血圧腎炎多発性囊胞腎移植腎不明その他

尿蛋白定量(g/日)

尿蛋白/Cr 比(g/gCr)

正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿

0.15 未満 0.15~0.49 0.50 以上

GFR 区分(mL/分/1.73 m2)

G1 正常または高値 >90 *1 紹介

G2 正常または軽度低下 60~89 *1 紹介

G3a 軽度~中等度低下 45~59 50~59 紹介

40~49G3b 中等度~

高度低下 30~44 紹介30~39

G4 高度低下 15~29 紹介 紹介 紹介

G5 末期腎不全 <15 紹介 紹介 紹介

3 カ月以内に 30% 以上の腎機能の悪化を認める場合は腎臓専門医へ速やかに紹介すること*1:血尿と蛋白尿の同時陽性の場合には紹介*2: 尿所見正常の場合,腎臓専門医への紹介は,安定した 70 歳以上の患者では eGFR 40 mL/分/1.73 m2と

してもよい. (KDIGO CKD guideline 2012 を日本人用に改変)

40 歳未満は紹介*2

70 歳以上も紹介*2

40~70 歳も紹介*2

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第 1章 慢性腎臓病(CKD)の概念と管理

報告されている.これらの治療効果を判断するためにも定期的なフォローアップが必要となる.

2.かかりつけ医によるCKD患者のフォローアップ

 腎臓専門医紹介の 3項目に当てはまらない CKDでは(尿蛋白/Cr 比 0.5�g/gCr 未満,尿蛋白1+のみ,尿潜血のみ,GFR�50�mL/分/1.73�m2以上の場合),CKD診療ガイドに基づいて,かかりつけ医が生活習慣の改善,血圧,血糖,脂質異常症の管理などを行う.血糖および血圧のコントロールが不良な場合には,腎臓専門医,糖尿病専門医または高血圧専門医に相談し治療方針を検討する. 診療に際しては糖尿病,高血圧,脂質異常症,肥満,喫煙および貧血などのCKD悪化因子を把握し,その治療と是正に努める.進行性のCKD患者には多職種ケアチームによる管理が推奨されている.かかりつけ医においても,管理栄養士,薬剤師,看護師などのコメディカルとの連携により,患者の生活習慣改善や管理・加療の継続が着実に実施される体制を構築することが重要である(図 2).地域医療連携を実践するには,医療従事者の意識や医療環境および患者への十分な説明と理解が重要な要素となる.

3.CKDの原疾患について

 糖尿病によるCKDでは,CVDの頻度が高く,腎機能の悪化速度が速い.血糖のコントロールをHbA1c�6.9%(NGSP 値)未満とする.CVDを評価するため,心電図や心エコーまたは心筋シンチなどを施行する.糖尿病によるCKDでは,腎機能が低下すると腎臓でのインスリン異化が低下し血糖コントロールが改善するが,低血糖に注意する必要がある. 高血圧によるCKDでは,早期ならば血圧の厳格なコントロールで改善させることができる.腎硬化症では尿所見が乏しく,見逃される可能性がある.眼底検査,脈波伝播速度,頸動脈超音波検査などで動脈硬化の程度を評価することが望ましい. 慢性糸球体腎炎によるCKDステージG1~G2 では,蛋白尿が 2+以上あるいは 0.50�g/gCr,ま

図 2 CKD患者の専門医との連携体制案(CKD 診療ガイド 2012 より引用)

生活習慣病を含めたさまざまな疾患により通院中の患者

6カ月~1年に1回は検尿,血清Cr検査を実施する

腎生検を含めたCKDの原因疾患の検索正確な腎機能の把握薬物治療方針の決定生活食事指導方針の決定

該当する

腎臓専門医 腎生検も含めた精査と治療

健 診

かかりつけ医

検尿(蛋白尿・血尿)・血清Cr

検尿異常か腎機能障害あり

併診該当しない

検尿異常,腎機能障害ともになし

1)0.50g/gCr以上または2+以上の蛋白尿2)蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上)3)GFR<50mL/分/1.73m2

管理栄養士,薬剤師,看護師と連携して生活・食事の指導を行う

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4.CKDのフォローアップ(健診,通院,紹介・逆紹介)

たは血尿と蛋白尿がともに陽性の場合には腎臓専門医に紹介し,可能ならば腎生検を行い,その結果に基づき治療を行う.ステージG3a のうち GFR�50�mL/分/1.73�m2未満で腎臓専門医に紹介した場合は,同じ治療方針に従って,かかりつけ医と腎臓専門医が連携して治療を行う.蛋白尿が多いほどCKDの進行速度が速いため,蛋白尿を減らす治療が必要となる.

4.eGFR の急速な低下が認められた場合について

 新たに出現した血尿と蛋白尿で,CRP陽性などの炎症所見を併発する場合には,3カ月を待たずに腎機能(血清Cr)を確認する必要がある.血清Cr が正常範囲内の変動であっても,GFRが30%以上悪化している場合があるので,腎機能の評価は eGFRによるべきである.3カ月以内に30%以上の腎機能の悪化を認めるなど進行が速い場合には,腎臓専門医に速やかに相談し治療方針を検討する.特に急速進行性糸球体腎炎(rapidly�progressive�glomerulonephritis:RPGN)やコレステロール塞栓症など,検尿異常を契機に発見され,急速に腎不全まで進行する疾患もあることを念頭に置き,ほかの身体所見や自覚症状などがある場合には,3カ月を待たずに精密検査を行う必要がある.

3 かかりつけ医におけるCKD患者のフォローアップ検査項目 成人CKD患者におけるフォローアップの注意点と目安を表 3に示す. 尿検査と血清Cr 以外の検査項目に関して以下に示す.

1.生化学検査

 電解質(Na,K,Cl,Ca,P),尿素窒素,尿酸,脂質(T‒Chol,TG,LDL‒C,HDL‒C),総蛋白,アルブミンの血中濃度測定を定期的に行う.ステージ G4~G5 では,高K血症,高 P血症,低Ca 血症などの電解質異常が出現する.特に,高K血症は心室性不整脈による心停止を起こす可能性があり,積極的な治療が必要である(高K血症,代謝性アシドーシスの管理参照).

2.貧血に関する検査

 定期的に末梢血液検査を行う.腎機能が低下すると腎でのエリスロポエチン産生が低下し,正球性正色素性貧血が起こる.腎性貧血以外にも,消化管出血による貧血あるいは食欲不振による鉄欠乏性貧血も鑑別する必要がある.このため貧血があれば,血清鉄,鉄飽和率(TSAT),フェリチンを評価するとともに,消化管検査の必要性を検討する.

表 3 CKD患者のフォローアップ(成人)【フォローアップでの注意点】

①eGFR の低下や蛋白尿の増加を認める場合は治療内容を再考する.②急性増悪の要因として,過労,脱水,感染や薬剤を考慮する.③ 血圧のコントロールが不良の場合は,腎臓専門医と相談のうえ,食塩過剰に注意しながら降圧薬の種類や

投与量を変更する.④糖尿病の治療では,低血糖に注意する.

【かかりつけ医フォローアップ検査項目】実施間隔:ステージ G1~G2:3~6 カ月ごと,ステージ G3~G5:1~3 カ月ごと検査項目:ステージ G1~G2: 蛋白尿定性または蛋白尿定量(g/gCr),血尿,血清Cr,eGFR

ステージ G3~G5: 蛋白尿定性または蛋白尿定量(g/gCr),血尿,血清 Cr,eGFR,BUN,UA,Alb,Na,K,Cl,Ca,P,HbFBS,HbA1c (糖尿病患者のみ),尿アルブミン(3 カ月ごと)

血圧測定:毎診察時胸部 X 線/ECG:適宜

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第 1章 慢性腎臓病(CKD)の概念と管理

3.血液ガス検査

 ステージ G3b 以降では,血液ガス検査により代謝性アシドーシスを評価する.静脈血でもHCO3濃度を測定できる.代謝性アシドーシスを合併すると,CKD進行が速くなり,高K血症をきたしやすく,骨の融解が促進される(高カリウム血症,代謝性アシドーシスの管理参照).

4.生理機能検査・画像検査

 定期的に心電図検査を行い,CVDの有無をチェックする.臨床症状があり心電図によって虚血性心疾患が疑われるときは,循環器専門医と連携し,心臓超音波検査,心筋シンチグラフィあるいは心臓カテーテル検査の必要性を検討する. CKDでは画像検査として,胸腹部X線検査,超音波検査(腎エコー),腹部CTを行い,腎の形態変化と合併症の有無をチェックする.萎縮腎の場合には,長期の腎障害が推測され,腎機能の回復は期待し難い.また,萎縮腎では腎癌の合併頻度が一般よりも高くなるため,尿細胞診や画像検査により定期的なフォローアップを要する.

4 腎代替療法に関する情報提供 ステージG3 以降では,腎代替療法(透析療法や腎移植)に関する情報提供が必要である.一般的には腎臓専門医への紹介基準にもなっている eGFR�50�mL/分/1.73�m2未満,70 歳以上ではeGFR�40�mL/分/1.73�m2未満で行う. 詳細な腎代替療法に関する情報提供は,腎障害が進行性であり,eGFR�15~29�mL/分/1.73�m2

の時期に行うことを推奨する.その際にはCKD患者への精神面のサポートも忘れずに行う. (第 2章 6 腎代替療法とその案内参照)

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1 はじめに�・腎臓病はこれまで特殊な病気と思われており,専門家のみが診療を行う病気と考えられてきた.�・日本には 1,300 万人を超える慢性腎臓病(chronic�kidney�disease:CKD)の患者が存在することが明らかとなり,もはや腎臓専門医だけでは対処しきれない状況である.�・CKD患者の大半は初期には自覚症状を欠くため,患者自身だけでなく,医療従事者においても,腎機能障害が進行し重大な合併症が出現するまで,疾患そのものを軽視する傾向がある.�・尿蛋白陽性や,軽度の腎機能低下などのCKDの初期段階の患者に対し,CKD管理の重要性,悪化予防法などを理解してもらうためには,医師だけでなく,コメディカルをも交えた患者教育や患者管理を実践していく必要がある.�・蛋白尿の持続,腎機能低下が進行した時点では,適切な時期にかかりつけ医と腎臓専門医との連携をはかることが重要である.

 慢性腎臓病CKDは,腎臓を専門としない医師やコメディカルの方達が,患者さんとともに腎疾患に対する理解を深めてもらい,腎機能の低下や心血管病などの合併症発症を着実に防ぐことを目的に提唱されたものである.

2 初期には自覚症状のないCKD 健診で尿蛋白や,腎機能異常の指摘が数年前からあったとしても,全く自覚症状がないために,医療機関の受診をすすめられても放置する人がいる.また,いったん治療を開始したものの途中で通院をやめてしまい,透析が必要不可避な状況まで進行した時期まで放置して来院される患者がいまだにみられる.そのため,あの時しっかり治療をしていれば,その後もずっと治療を続けていれば,という患者が多く存在する.

3 CKD診療連携に必要なこと このような状況を打開し,末期慢性腎不全による透析導入患者の増加を少しでも抑制し,あるいは心血管病発症を未然に防ぐことを目指すためには,主治医と患者さんの関係だけでは不十分であり,患者の家族・友人,地域の保健師,看護師,薬局の薬剤師,検査技師,病院や診療所の事務の方,医療行政に携わる方々までを含めたすべての医療従事者によるサポート体制の整備が重要となってくる. 健診などをきっかけとして,医療機関への受診をすすめられた人,あるいはすでに受診中のCKD患者の進展予防・治療を確実に行うためには,円滑な診療連携を行っていくことが極めて重要と考えられる.この目的のために市町村,地域医師会,関連学会等,地域におけるCKD対策の推進に関係する機関が中心となり,腎臓病に関して一般住民に対する積極的な啓発活動を行い,CKDに関する認識度を向上させ,疾患の重要性の理解を深めてもらうことが大切である.同

5 CKD療養指導と医療連携(チーム医療,地域連携など)

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第 1章 慢性腎臓病(CKD)の概念と管理

時に,すべてのCKD患者が一定水準以上の診療を確実に受けることができるように,われわれ医療従事者もCKDの重要性,対処法を学ぶ必要がある.そのようなCKD診療の輪を広め,さまざまな職種の方々にCKDを理解していただくことが,CKD診療連携を達成するために必要なのである.

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第2章

CKDの治療

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1 はじめに 慢性腎臓病(chronic�kidney�disease:CKD)の治療目的は,末期腎不全(end‒stage�kidney�disease:ESKD)と心血管疾患(cardiovascular�disease:CVD)の発症・進展抑制にある.このESKDおよび CVDの発症抑制には集学的な治療が必須である.

2 CKDの治療の目的 その第 1の目的は,血液透析,腹膜透析あるいは腎移植といった腎代替療法を必要とし,患者のQOLを著しく損なうESKDへの進行を阻止あるいは経過を遅らせることである. その第 2の目的は,CVDの発症危険因子であるCKD治療によりCVDの新規発症を抑制,あるいは既存のCVDの進展を阻止することである. 以上より,CKD対策・治療は国民の健康と健全な医療経済を維持するためにも必須である.

3 ESKDと CVDの発症を抑制するための集学的治療 ESKDや CVDの抑制には,病態の連鎖を断ち切る集学的治療が必要であり,生活習慣等の改善が基本となる.1)生活習慣の改善 肥満を解消すること,禁煙などは高血圧治療やCVD予防に必須である.また,生活習慣の改善は,動脈硬化の進展を抑制しCKDの進行を抑制することにもなる.2)食事指導 食塩制限は高血圧治療を容易にする.CKDのステージに応じた蛋白質摂取量の制限を指導する.(生活指導および食事指導参照)3)高血圧治療 CKDと高血圧の悪循環を断ち切るためには厳格な降圧療法が必要である.ACE阻害薬やARBを中心とした降圧療法を行うが,降圧目標達成のためにはほかの降圧薬の併用が必要な場合が多い.その降圧目標は,糖尿病(+)の場合には,アルブミン尿の有意にかかわらず 130/80�mmHg未満とする.糖尿病および蛋白尿(−)の場合は 140/90mmHg 未満とする.なお,高齢者では収縮期 110�mmHg 以下の過度の降圧は避ける.(血圧管理参照)4)尿蛋白,尿中アルブミンの減少 ACE阻害薬やARBで降圧すると,尿蛋白や尿中アルブミンが減少する.これら薬剤の CKD進行抑制効果の大部分は,尿蛋白減少に依存している.5)糖尿病の治療 糖尿病を厳格に治療することは,ESKDや CVDの発症を抑制するために極めて重要である.糖尿病性腎症での血糖コントロール目標は,HbA1c で 7.0%(NGSP)未満である.糖尿病性腎症のCKDステージG3以降では,薬物投与による重症低血糖リスクが高く,個々の症例に応じた血

1 治療の目標

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1.治療の目標

糖コントロール目標を設定する.(血糖管理参照)6)脂質異常症の治療 脂質異常症はさまざまな機序でCKDを発症,進行させる可能性がある.また,脂質異常症はCVDの重要な危険因子の 1つでもある.したがって,CVDの発症と CKDの進行を抑制するには,脂質異常症の治療は不可欠である.CKDでは CVDの予防を含めて LDL‒C�120�mg/dL 未満を管理目標とすべきと考えられる.(脂質管理参照)7)貧血に対する治療 CKDのステージが進めば,腎性貧血が発症する.貧血はCKDの進行の危険因子であると同時に,CVDの危険因子でもある.したがって,貧血の治療は,ESKDや CVDの発症を抑制するために重要である.CKD患者では貧血についての検査が必要であり,貧血があればその成因を検索する.まず,鉄欠乏の評価と適切な鉄補充が重要である.赤血球造血刺激因子製剤(erythropoie-sis�stimulating�agent:ESA)を投与するときは患者個別に合併症を考慮し,有効性と副作用を検討し,個々の患者に応じて適切に投与することが重要である.その開始時期はHb濃度 10�g/dL以下とし,治療目標Hb値を 10~12�g/dL として,13�g/dL を超えないよう配慮する.(貧血管理参照)8)骨・ミネラル代謝異常に対する治療 CKDのステージが進めば,骨ミネラル代謝異常が出現する.骨ミネラル代謝異常はCKDの進行や生命予後と関連する可能性がある.(CKD‒MBD,代謝性アシドーシス,尿毒症毒素の管理参照)9)高尿酸血症に対する治療 高尿酸血症はCKDの発症や進行,CVDの発症と関連する.血清尿酸値 7.0�mg/dL を超えるものを高尿酸血症と定義する.腎機能低下に伴って尿酸排泄低下により高尿酸血症の頻度は高まるが,痛風関節炎の発症頻度は低い.痛風関節炎を繰り返したり,痛風結石を認める症例は,薬物治療の対象となり血清尿酸値を 6.0�mg/dL 以下に維持することが望ましい.(尿酸管理参照)10)尿毒症毒素に対する治療 球形吸着炭により尿毒症症状の改善が期待できる.(CKD‒MBD,代謝性アシドーシス,尿毒症毒素の管理参照)11)CKDの原因に対する治療 CKDの原因が明らかにできれば,その治療を行う.また,原因が明らかでなくても,ステロイドや免疫抑制薬の投与が適応となることがある.これらは腎臓専門医の診断と治療の領域となる.

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 CKD療養においては患者自身のセルフ行動が鍵を握る.軽症であるほど禁煙,減量,減塩等の生活習慣改善による予防効果は大きいし,重症例でも通院・服薬はじめ生活様式がCKDの進行に大きく影響する.しかし,習慣は「学習と反復によって固定した個人の行動様式」であるため,変えること(行動変容)は誰にとっても容易ではない.そこで本項では,行動変容を促すための留意点を踏まえ,セルフケアの具体例,禁煙指導,飲酒指導を取り上げる.

A行動変容の支援と維持 CKD患者に望まれる知識・改善行動は多岐にわたり複雑・難解である.その指導には「行動変容はそもそも難しい」との前提にたち,「できそうなこと」を一緒に探し支援するという姿勢が必要となる. 行動変容に至る支援のプロセスは,信頼関係を築き,患者を理解し,望ましい行動を具体化し生じやすいように環境を整え,望ましい変化を強化することである.コーチングはそのためのひとつのスタイルである.

1 行動変容を促すコミュニケーション 信頼関係を築くには良好なコミュニケーションで,それには話すことよりも聞き取るほうが大切となる.コミュニケーションは相互反応なので自分が相手にどう映っているかを意識し,一方的にならないように注意する.行動変容支援を促す心理的アプローチでは,相手のありのままを認めて,相手の役に立ちたいという気持ちを届けることが肝要である.

1.導入までの留意点

1)最初の挨拶は相手の様子をよく見て自己紹介し,相手の名前を確認する 第一印象が重要で最初の数分で決まる.最初ほどゆっくりとわかりやすい発音を心がけたい.2)患者の語る言葉の内容(言語)だけでなく,表情や声の調子などにも注意を払う 面接では言語はコミュニケーションの一部である.五感をフル活用して患者の言語以外のメッセージもキャッチする.3)患者が緊張せずに集中できる環境を用意する 面接に集中するために,プライバシーが保たれる整理整頓された空間が理想的.机の配置は下図のようにすると真正面よりは互いにリラックスできる.

2 生活指導

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2.生活指導

2.コミュニケーションを深めるための留意点

1)目の前の相手はどんな人かに関心をもち積極的に傾聴する 「相手の全人的理解に必要な情報は何か」をあらかじめ整理しておく.話の流れに逆らわずに知りたいことを積極的に聞き取る.脱線したら「ところで」と話をもとに戻す.抽象的な表現は「例えば?」とか「具体的には?」と不明なままにしない.2)「ありのまま」を受け入れ,本人の長所や努力を認める 「太っているのは食べすぎ」などの先入観や思い込みを捨て,その人の行動,特に努力や良い面に注目する.それが患者の承認と望ましい行動の強化につながる.3)相手の気持ちや問題を納得し,共感を示す 想像力を働かせ,自分を患者のこれまでの経過や今の状況に置いてみる.患者の気持ちや問題が腑に落ちると,「それは大変でしたね」などの共感が自然に口に出せるようになる.「理解された」という感覚は,指導者への信頼感を強くする.

2 患者を生活者として理解する(包括的な理解) 喫煙 1つをとっても本人の禁煙しようとの意欲(やる気)が不可欠で,具体的な禁煙法(技術)と禁煙維持の工夫も必要である.食事はさらに複雑な行動で,職業・家庭等の社会環境と深く関係する.変えるのは本人自身なので,患者が「どんな人で,どんな気持ちでいるのか,何を考えているのか」を知らないで効果的な支援はできない.

1.身体面,行動面,心理社会面の 3つを意識すると抜けがない

 図 1のように,CKD病態の病歴,現在症,検査値などの身体面,食事,喫煙・飲酒,身体活動,睡眠・休養などの行動面,感情・意欲・病気への認識,ストレスや行動変容への準備性や自己効力などの心理社会面に分けて把握する習慣をつけるとよい.

2.質問表を工夫して,行動面と心理社会面の概略を把握する

 限られた時間内で患者を包括的に理解するために,質問表を活用したい.答えやすい質問表を用意すれば,面談ではそれを補足追加すればよく負担が減る.

図 1 患者の包括的理解気分は? 認識は? 実行力は?

身体面

行動面 心理社会面

CKD ステージBMI・血圧血糖・脂質現在症病歴

食事喫煙・飲酒身体活動睡眠・休養社会活動

感情・意欲・認知ストレス社会性(家族・職場)準備性・自己効力コントロールの座

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 例えば現在心がけていることを尋ねれば患者のCKD管理についての知識や認識や意欲をうかがい知ることができる.行動変容支援では,食事・身体活動のアセスメントも精緻・正確を追求するよりは,心理行動面との関係で柔軟に把握するほうが実際的である.

3.面談は患者がどんな人かを知る最強の手段

 「百聞は一見にしかず」というように面談は全人的で,強いコミュニケーションである.感覚を研ぎ澄まして,目の前の患者の気持ち,理解度,知識,考えなどを感じ取り,家族構成や仕事の内容も相手の思考の流れにそって聞き取る.目安はその人の暮らしぶりがイメージできるようになることである.

3 改善できそうなことを一緒に探し,実行しやすい条件を考える 患者に望む生活改善は,本人の実行いかんによる.減塩,減量の必要性と方法の説明だけで実行できる人は多くはなく,何をどうするかを具体的に取り決め(目標行動の特定),一定期間(最低 4週間程度)は意識的に繰り返す必要がある.

1.現実的で具体的な目標を立てる

 3カ月後に体重を 3%減らす,塩分摂取量を 6�g にする,など患者の課題を達成するための行動目標を具体的にする.「間食は 1日 1個まで」,「汁物は週に 3回まで」など実行の有無が明らかな行動として表す.その際,アルゴリズムによる優先順位だけでなく患者の認識や意図,実行可能性を考慮すること,段階的に進めることが大切である.

第 2章 CKDの治療

Column ❷コーチング 語源であるCoach とは馬車のことで,コーチングは人を育てることを目的とした教育訓練を意味する.一般的にはスポーツ・ビジネス界における特定のスキル獲得のための個人指導に対して用いられてきた. 従来のカウンセリングや治療は,より現場での実践的教育を重視し,具体的かつ明確な目標を限られた時間で効率よく達成しようとする点で異なる.近年,看護職の技能として注目され研究も行われているが,その概念や定義が不統一で科学的評価が今後の課題とされる. 日本でも米国の糖尿病予防プログラム(DPP)で,対象者のライフスタイル介入の個別対応をコーチングで行い薬物に勝る予防効果を達成したことを契機に取り上げられることが多くなってきたが,効果的なコーチングの共通要素(表)は行動療法の要点そのものであるということができる.

表 効果的コーチングに共通する要素①具体的で明確な行動目標②クライアントの動機づけ③スモールステップによる段階的な接近法④プロンプティング(促しの刺激)⑤結果の即時フィードバック⑥モデリング(手本をみせる)⑦強化法

図 コーチングの基本ステップ

目標の明確化 現実的で達成可能な目標具体的に患者のイメージを重視

アセスメント(強みと弱みを知る)できているところ今からの課題難しそうなこと

戦略を練る①解決法を本人に考えさせる どうしたら②手助けできることがないか (提案)

行動を促すいつから

どのように行うか結果の報告の

しかた

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2.生活指導

2.努力すれば 7~8割は実行できそうなことを,1~2項目に絞り込む

 今から新たに実行可能性の高い行動を特定することがポイントとなる.「何ができていて,何ができそうもないか,頑張ればできそうか」は,患者自身が知っている.そこで,課題別に実行できそうな行動目標を具体的に例示し,そこから自己判断させると時間の節約になる.一度に変えることのできる習慣行動は多くないので数項目に絞り,確実な実行を目指す.

3.つまづきやすい状況,誘惑場面なども想定し,危機管理の方法を検討しておく

 通常では守ることができても,旅行や外食,宴会など,改善しつつあった習慣が崩れやすい場面がある.職場や交友関係など大切な社会生活を犠牲にせずに,行動目標を守るためにどうしたらよいかを一緒に考えておく.危機状況の特定には患者の過去の体験が有用となる.

4 動機づけの実際 動機づけは本人の「やる気」に火をつけあおることである.生活習慣を変えることはストレスであり,行動変容には本人の意欲が不可欠である.やる気が起きるのは,患者がその行動を実行できると思い,実行したらよい結果が期待できるときである.

1.望ましい行動,よい変化を見逃さず,そこに注目して承認する

 本人の努力や,以前からの改善点などを認めてほめることが,その行動の強化につながる.信頼している人や専門家から認められることが,ごほうびとして作用するからである.「運動したら眠れるようになった」など行動変化に付随する結果もフィードバックすると,努力が持続しやすい.

2.ステージが何であれCKDでは習慣改善の意義が大きいことを強調する

 患者のCKD認識は個人差が大きいが,習慣改善の余地(必要性)と意義は誰にとっても大きいことを強調する.またステージによって課題が異なることを理解させる.現在のステージの位置づけと具体的課題が患者にわかればよい.「早くとりかかるほど課題は少なくて済む」といういい方が「このままだと○○になる」という脅しよりはよい.

3.習慣行動への準備性を考慮しながら実行可能な目標行動をたてる

 実行可能性の乏しい行動を「○○すべき」と押し付けないよう注意する.実行できなければ意味がないと割り切り,「何ができそうか」に主眼を置く.また減塩は実行しやすいが禁煙は難しいなど,習慣によっても患者の行動変化への準備性は異なることを踏まえ,導入時期には本人が望む行動を取り上げて成功体験を積ませるのがよい.

4.行動が起きやすいのは指導の直後,通常は 2週間以内と考えておく

 面接が効果的な場合,生活習慣の変化はその直後が最も起きやすい.時間がたつにつれ行動変化実行の確率は低くなる.面接という刺激の有効期間はほぼ 2週間程度なので,理想をいえばそれ以前に「どんな様子か」を把握したい.

5 行動の促しと維持 面接から時をおかずにすぐに実行させるために,管理ノートに取り決めた行動を明記し翌日か

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らすぐに記録させるのがよい.

1.目標行動のセルフモニタリングを促す

 行動のセルフモニタリングには,管理ノートを活用し,前項で述べた目標行動の実行の有無を記録させる.記録は自分の行動を観察・評価し,励ますための手段である.セルフモニタリングは確実な自己コントロール法であることを説明し,様式は患者の書きやすいものを採用する.

2.いつから,どのように実行するかを具体的にする

 面接後決めたことは今日からすぐに実行するように促す.まずは取りかかることが重要である.「できて当然」ではないので,うまくできなかったときはどうするかも,取り決めておくほうがよい.逆に簡単すぎて物足りなかった場合についても同様である.張り切りすぎて無理をしないよう注意が必要な人もいる.

3.わかりにくかった点,疑問・質問を確認し,要点をノートに書いて渡す

 相手がふんふんと頷いても理解したとは限らないし,誤解も多い.重要な点はサマリーとして記載し,不明点や疑問がないかを確認する.指導の目標は患者のセルフコントロール能力を高めることである.次回までに「どんなことができそうか」自分なりに考えてくるように促すとよい.

第 2章 CKDの治療

Column ❸認知行動療法 認知行動療法(以下,行動療法)は,行動科学を応用した心理(精神)療法である.人の目に見える行為,感情,思考(認知)を刺激‒反応の関係で生じる行動(Behavior)とみなし,その問題解決にあたる.治療のプロセスは,問題行動の特定,行動分析,技法の適用とその評価維持である. 患者‒治療者関係が重要な点は心理療法一般と共通するが,行動療法では患者の生活上での課題実行が治療の鍵を握るために,患者が実行できそうなことを模索し,その実践を促すという実際的な手法がとられる. 本人にとって望ましい結果が行動に伴うと行動は強められ,望ましくない結果が伴うと弱められるという「強化の原理」は,行動療法における最も重要な原理・原則の 1つである.これら刺激‒反応の考え方から,食行動をはじめ,習慣行動を改善するための具体的な技法が多数考案され,実効を上げている.

Behavior TherapyThe Practical Guide in Adults(2000)・ 態度,考え,経過(history)を考慮・パートナーシップを築く・達成可能な目標を立てる・パートナーシップを強くする・ 良い変化に焦点をあて,できないとこ

ろは問題解決法で・接触を保つ・患者が行動を変えるのを援助する・生じていることに焦点を

(認知)行動療法 1  行動(感情・思考)の特定(具体的に記述) 2  刺激と反応の関係で行動を分析 3  健康な部分に着目しできそうなことを具体化 4  結果の評価→次の課題

行 動内的刺激外的刺激

良い結果

行為

思考感情悪い結果

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2.生活指導

BCKD患者のセルフケア(家庭血圧測定,体重管理,服薬管理,感染予防など)

 前項A「行動変容の支援と維持」に基づいて,患者のセルフケア(血圧測定,体重・服薬管理,感染予防行動)を患者のペースに合わせ,以下のことを説明する.

1 家庭血圧測定 夜間高血圧や早朝高血圧などの血圧日内変動の異常は,CKDを悪化させる危険因子である.また,逆に,CKDは血圧日内変動の異常の原因となる.特にCKD患者に多くみられる夜間高血圧はCKD進行のみならずCVDのリスクを増加させる1).そのため,患者自身が行う家庭での血圧測定は,実施,継続は治療に重要である.

1.家庭血圧測定の方法

1)説明前に確認すること・降圧剤の服用の有無(種類・回数など)・自宅に血圧計があるか,ないか.・血圧計の種類(上腕式タイプ,手首式タイプなど)2)使用する血圧計 上腕カフ・オシロメトリック法に基づく血圧計を使用する(図 2) 血圧計には上腕式タイプと手首式タイプがある.患者がどのようなタイプの血圧計を使用しているか確認する.手首式タイプは簡単に測定できるが,手首を正しく右心房の位置に置いて測定しないと誤差がでることや,手首は解剖学的に動脈の圧迫が困難であることなどから正確さに欠ける.

3)測定環境 ①静かで適当な室温の環境  特に冬季,暖房のない部屋での測定は血圧を上昇させるので,室温への注意が必要 ②会話を交わさない環境 ③測定前に喫煙,飲酒,カフェインの摂取は行わない ④入浴,運動後最低 30 分以上は経過していること ⑤カフ位置は心臓の高さに維持できる環境(図 3)

図 2 家庭用血圧計

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 ⑥原則,背もたれつきの椅子に脚を組まずに座って 1~2分の安静後(図 3) 腕が心臓の位置より低くなると血圧が高く測定されるので腕と心臓の高さを合わせる.素肌または薄手の肌着などで測定する 腕帯の中心は心臓(乳頭)と同じ高さ テーブルと椅子の高さの差は,25~35�cm が最適である

4)測定条件①朝 起床後 1時間以内 排尿後,朝の服薬前,朝食前,座位 1~2分安静後に測定する.②晩(就床前) 座位 1~2分安静後に測定する.③医療者の指導により夕食前,晩の服薬前,入浴前,飲酒前など その他適時,自覚症状があるとき.5)測定回数 1機会原則 2回測定し,その平均をとる.1機会に 1回のみ測定した場合には,1回のみの血圧値をその機会の血圧値として用いる.6)測定期間 できるかぎり長期間,測定を継続する.7)記録 すべての測定値を記録し,受診時,持参するように説明する. *�医療者は,患者が持参した記録を確認し,測定を継続していること努力を認めた言葉でフィードバックする.

2 体重管理 肥満では末期腎不全(ESKD)に至るリスクが高まる1)ので,そのため,適正な体重を維持できるように,以下のことを説明する.肥満者は,体格指数(BMI:[体重(kg)]÷[身長(m)]2)で25�kg/m2未満を目指して,食事や運動で減量を行うのを勧める.1)測定方法 ①自宅に体重計があるか,ないか確認する

第 2章 CKDの治療

図 3 上腕カフ・オシロメトリック法による血圧測定(画像 http://www.wellnesslink.jp/p/hbp/basic/kjkt40002.html)

セーターなど厚手の服は脱いでから測定してください

背筋をのばす

素肌または薄手の肌着の上に巻いてください。

テーブルとイスの高さの差は、25~30cm が理想ご家庭のテーブルとイスの高さの差は一般的に 20~35cm(座卓の場合は、座面との高さの差)です。

腕帯の中心は心臓(乳頭)と同じ高さ

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2.生活指導

 ②毎回,同じ体重計を使用する.2)測定する環境 ①�体重計は水平な場所(床)に置き測定する.絨毯や畳の上などは水平にならず誤差が生じる場合がある.

 ②体重計に正しく乗る.3)測定条件 毎日同じ条件で測定する.例えば,起床後トイレにいった朝食前などに測定する. 体重は,食事や衣類,入浴後などでも異なる.4)測定回数・期間 1日 1回,できるかぎり長期間,測定を継続する.5)記録 測定した値は,血圧測定値ともに記載し,受診時,持参するように説明する. *�医療者は,患者が持参した記録を確認し,測定を継続していること努力を認めた言葉でフィードバックする.

3 服薬管理 CKD患者は多く種類の薬を服薬し疾患のコントロールを行っている.患者の服薬回数は,多い場合 9回(3食の前後,食間)になる場合もあり,外食やイベント時などは飲み忘れを生じやすい.医療者は患者が服薬している用量・用法を確認し,患者が適切な服薬を継続できるようにする.

1.飲み忘れの原因・対策

 ①量や種類が多く,飲み忘れを生じる場合  一包化や配合薬の利用を検討する. ②うっかり忘れる  服薬する時間を決め一定にする.  服薬する薬の置く場所を決める  周囲の方,家族などに声をかけ,確認してもらう.

2.お薬手帳の持参

 お薬手帳は薬の重複をチェックし,副作用や飲み合わせリスクを減らせる.また,医療機関や薬局に現在,服薬している内容(薬剤名・用量・用法など)の情報が伝えやすいことを患者に説明し,医療機関,薬局に行くときは,必ず薬手帳を持参することを説明する. なお,お薬手帳は複数にならないように 1冊で管理するよう説明する.

4 感染予防 CKD患者は免疫力が低下しており,感染症罹患リスクが高い.そのため,以下の感染予防行動が,日々,実行できるように説明する.

1.感染予防方法

1)手洗い(図 4) 接触感染予防にために食事前や帰宅時などは手洗いを行う.

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2)うがい 飛沫感染,空気感染予防のため外出後帰宅時などはうがいを行う.3)マスク 咳やくしゃみが出っている場合,他の人に移さないようにマスクを着用する4)予防接種 インフルエンザワクチン,肺炎球菌ワクチンの接種が勧められる.CKD患者ではワクチン接種による抗体獲得能と抗体維持能が低下しており,健常人に比べて早期に免疫力を失う可能性があるため,肺炎球菌の抗体価を定期的に確認することも考慮する3).5)その他 日ごろから体調管理と十分な休養をとるように心がける.

■引用・参考文献� 1)�日本腎臓学会編.CKD診療ガイド 2012 東京医学社,p63,p54,p55� 2)�日本高血圧学会編.高血圧治療ガイドライン 2014 ライフサイエンス出版,p42,p18.� 3)�厚生労働省 政府広報オンライン� � http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku‒kansenshou01/keihatu.html

第 2章 CKDの治療

図 4 正しい手の洗い方3)

石けんで洗い終わったら、十分に水で流し、清潔なタオルやペーパータオルでよく拭き取って乾かします。

・爪は短く切っておきましょう・時計や指輪は外しておきましょう

流水でよく手をぬらした後、石けんをつけ、手のひらをよくこすります。

手の甲をのばようにこすります。

指の間を洗います。 親指と手のひらをねじり洗いします。 手首も忘れずに洗います。

指先・爪の間を念入りにこすります。

手洗いの前に

1 2 3

4 5 6

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2.生活指導

C禁煙指導

1 禁煙指導(F1) 喫煙はCKD進行の明らかなリスク要因であり,生活指導では喫煙者全員に禁煙を促すべきである.しかしニコチンは依存性物質であり,依存が禁煙を難しくするため,禁煙指導では身体的依存と心理・行動的依存の両面を考慮する必要がある.身体的依存に対してはニコチン代替療法が,心理・行動的依存には認知行動療法が有効である. 本項では厚生労働省の「禁煙支援マニュアル」(初版および第 2版,HPよりダウンロード可)に準拠した指導法を解説する.なお本マニュアルは検診や保健指導での使用を前提としているので,禁煙外来がある医療機関への紹介は,かかりつけ医が判断する.禁煙外来の一覧は日本禁煙学会のホームページで確認できる.

2 指導の実際 CKD患者の生活指導は禁煙以外にも多岐にわたるため,臨床では時間をかけずに実施できる方法が望まれる.図 5は使える時間によって,短時間支援(1回限りで 1~3 分)と標準的支援(初回面接に 10 分程度,追跡に 5分程度)に分けている.表 1は短時間支援の要点である.

図 5 短時間支援と標準的支援『禁煙支援マニュアル第 2 版』より改変作成

健診当日

A B R

A B C

健診後(6 ヵ月)

(1)初回個別面接

(2)電話によるフォローアップ5分

A:Ask

B:Brief advice

C:Cessation support

R:Refer

喫煙状況の把握

短時間の禁煙アドバイス

医療機関等の紹介

禁煙実行・継続の支援

2W 1M 2M 6M

電話

電話

電話

電話

①禁煙開始日の設定②問題解決カウンセリング③禁煙外来の紹介 ①禁煙状況とその後の経過の確認

②禁煙継続のための 問題解決カウンセリング

診療や健診時1~3分で

特定保健指導や事後指導など10分程度で

禁煙外来の紹介

全喫煙者を対象

準備期の場合

準備期の場合

禁煙開始日を設定

した人

短時間支援

標準的支援

喫煙状況の把握(問診票)

②喫煙のための解決策の提案

①禁煙の重要性を高めるアドバイス

表 1 禁煙の効果的な声かけ Briefadvice(短時間支援) 1.禁煙の重要性を伝える 2.禁煙のための解決策を提案する

*禁煙すべきであることを「はっきり」と伝える*禁煙が「重要で優先順位が高い健康課題である」ことを強調する*喫煙の害,禁煙の効果について「個別的に」情報提供する

*禁煙補助剤や禁煙外来を利用すると「楽に」「より確実に」 「費用もさほどかからず」禁煙できることを伝える

☆準備性にかかわらず,禁煙補助剤の情報提供が重要!☆関心のない人には 「今後の禁煙のために覚えておかれるといいですよ」と.

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 資料 1は,喫煙者向けの質問票と情報提供で,ニコチン依存度と禁煙への準備性を評価する.喫煙者全員に配布して記入させれば,効率よくアルゴリズム(図 6)に沿った禁煙指導が可能となる.以下に,特記すべき留意点を簡単に紹介する.

第 2章 CKDの治療

資料 1 タバコについての質問票

a .1 日に吸う本数は平均すると 1日(    )本b.習慣的に吸うようになってから  (    )年間c.ニコチン依存のチェック(TDS)

d.禁煙について①�すぐにでも禁煙したい ②�そのうち禁煙したい ③�禁煙できないと思う☆喫煙は慢性腎臓病(CKD)の明らかなリスク要因です.☆CKDを悪化させないためにも、まず禁煙を.禁煙で得られることがたくさんあります.☆禁煙補助薬はニコチン依存を減らします.「楽に」「より確実に」「比較的安価に」禁煙を!

*禁煙補助薬の種類と特徴名称 入手場所 特徴 ニコチン依存症

ニコチンガム 薬局,薬店 短時間で禁断症状を抑える 胃の不快感 低~中依存の人向き市販ニコチンパッチ 薬局,薬店 簡単,突然の欲求に対応不可 皮膚のかぶれ 低~中依存の人向き医療用ニコチンパッチ 医療機関 高用量で 24 時間 起床時の禁断症状なし 中~高依存の人向き内服薬 医療機関 ニコチン含まず 禁煙の満足感が減る 中~高依存の人向き

「あり」を 1 点 あった ない①自分が吸うつもりよりずっと多くタバコを吸ってしまうことが②禁煙や減塩を試みて,できなかったことが③禁煙や減煙を試みて,タバコがほしくてたまらなくなったことが④禁煙や減煙を試みて次のような症状がでたことが (イライラ,不安,落ち着かない,集中困難,ゆううつ,頭痛,眠気,胃のむかつき,脈が遅

い,手のふるえ,体重増加)

⑤ ④の症状を消すために,またタバコを吸い始めることが⑥重い病気にかかったときに,タバコが良くないとわかっているのに吸うことが⑦喫煙のために健康問題が起きているとわかっていても吸うことが⑧喫煙のために精神的問題*が起きているとわかっていて吸うことが *離脱(禁断)症状ではなく,喫煙による神経質,不安や抑うつのこと

⑨自分がタバコに依存していると感じることが⑩タバコ吸えないような仕事やつきあいを避けることが

☆下記に全て当てはまる人は保険診療を使って禁煙治療ができます.①�1 日の本数×喫煙年数が 200 以上.②ニコチン依存度(TDS)5点以上.③すぐにでも禁煙したい.

禁煙するとすぐに得られること

●味覚が改善し食べ物がおいしくなる�●咳や痰が減り呼吸が楽に�●胃の調子がよくなる�●目覚めがさわやかに�●家族が喜ぶ�●美容によい�●においが消える�●お金の節約�●体力がつく●自信がつく

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2.生活指導

1.禁煙への準備性を示すステージ別の指導の原則(アルゴリズム)

 ステージモデルは禁煙準備性を無関心期,関心期,準備期,実行期,維持期の 5段階に分類している.実行期(禁煙 6カ月以内)と維持期(禁煙 6カ月以降)では,禁煙していることを評価・賞賛しておく.資料 1の dへの回答から a「無関心期;禁煙しようとは思わない」か,b「関心期;関心はあるが直ちに禁煙しようとは思わない」か,c「準備期;1カ月以内に禁煙しようと考えている」かが判断できる.やる気のある準備期であれば,ニコチン依存度の評価とニコチン代替療法の紹介や,禁煙開始日の設定,具体的な工夫の提示などを行う.グレーゾーンの関心期には「禁煙により得られる利益」を強調し,禁煙をためらう理由を探り,気持ちが禁煙に傾くよう導く.やる気のない無関心期には「抵抗」を生じないように,特にCKDとの関連からリスクを説明し自覚を促す.本人の気持ちを受容しつつも禁煙が「重要かつ優先順位が高い健康課題である」こと,禁煙治療の方法や利点を明確に伝える.準備性は流動的で面接でも変化するので,質問票の回答に固執しないよう注意する.資料 2に準備期の人向けの禁煙に必要な行動科学的プロセスをまとめた.

2.ニコチン依存度の評価と対応

 ニコチン依存度が高いほど,禁煙による衝動的な喫煙欲求,焦燥感,集中困難などのニコチン離脱症状が強くなる.喫煙すると離脱症状がやわらぐことで「喫煙はストレス解消」と誤解しやすい.ニコチン代替療法は,離脱症状の緩和により禁煙を容易にすること.OTCでは軽~中等症向けにニコチンガムやニコチンパッチが入手できるし,禁煙外来ではより強力なパッチや,喫煙の満足感を抑制する内服薬(バレニクリン)を用いることができる. ニコチン依存度の判定には,FTND(Fagerstrom�Test�for�Nicotine�Dependence)指数(資料2の Step�3)や,ニコチン依存度診断テスト(TDS)(資料 1の C)が用いられる.FTND指数によるニコチン依存度の判定基準は,合計点 0~3 点が「軽度」,4~6 点が「中等度」,7~10 点が

図 6 喫煙者の準備性に応じた禁煙指導のアルゴリズム

喫煙中であることを確認後過去の禁煙歴、喫煙状況(本数/年数)、ニコチン依存を確認

禁煙への準備性(意欲)を確認(資料1のd参照)

準備期(やる気あり)

① ② ③

関心期(グレーゾーン)

積極的になれない理由(自信・障害)の確認

禁煙の効果をCKDに関連させて強調

禁煙の重要性を伝えるニコチン依存と禁煙治療の説明

無関心期(やる気なし)

今の状況では無理

・やる気のない理由・今やっていること・やりたいこと   を確認

自信・バリアの確認と対策

禁煙治療の説明行動技法の説明

ニコチン代替療法の説明

禁煙開始日の設定具体法の紹介(資料2)

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「重度」である.保険診療の適用にはTDSの 5点以上,喫煙指数(本数×年数)が 200 以上,禁煙の意思が明確であることが条件である.患者向けの資料 1と資料 2はそれらの情報を含んでいる.

3.禁煙を支援する(認知)行動技法

 行動技法は禁煙をしやすくするための工夫である(表 2).資料 2が,禁煙のための認知行動療法のプロセスである.禁煙の必要性をよく認識したうえで(Step�1~4),いつから実行するか禁煙宣言(Step�5 目標設定と行動契約)を行い,禁煙を実行する(Step�6).資料 2の Step�6 の①②は喫煙に条件づけられた刺激を避けるための方法(刺激統制法),③は喫煙衝動を別な行動で抑制する方法(反応妨害,習慣拮抗)の一部,Step�7 は再発予防訓練である.体重増加が禁煙の阻害要因になることもあるので,CKDで体重コントロールが必要な人では要注意である.他に上手な断り方(自己主張訓練)や,「うまくいったら○○」などのオペラント強化が用いられる.

第 2章 CKDの治療

表 2 禁煙のための行動技法の例目標決定 ・禁煙の意思を行動につなげるために,禁煙開始日を決める行動契約 ・禁煙宣言をする ・禁煙宣言書にサインする ・禁煙理由を確認する(特に重要な事項を 2 つ)セルフモニタリング ・禁煙行動を CKD 管理ノートに記録する ・禁煙前の喫煙行動や禁煙達成状況を記録する刺激統制法 ・タバコを吸いたくなる場所や状況を避ける   (例)食後すぐに離席,節酒,灰皿廃棄,喫煙できる飲食店を避ける など反応妨害法 ・喫煙したくなったら,喫煙に変わる別の行動を取る   (例)水を飲む,深呼吸,低エネルギーガムをかむ,軽い運動 などオペラント強化法 ・うまくできたら自分をほめる,自分にご褒美を与える ・禁煙達成者に周囲から称賛を与える自己主張訓練 ・タバコを勧められた時の上手な断り方を身につける再発防止訓練 ・再喫煙しそうな状況を事前に考え,対処法を検討しておく   (例)飲酒の席,仕事のストレス,対人関係のストレス,気分の落ち込み認知再構成法 ・失敗した時,「失敗はつきもので,次回に役立つ」とポジティブな思いに変えるソーシャルサポート ・家族や友人,同僚などの協力が得られるようにしておく

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2.生活指導

資料 2 禁煙への7つのステップ(やめたい人へ)

Step1.自分の喫煙をふりかえる□ いつ,どんな時に吸っているかを記録する  □ 喫煙で得られる   良いこと(            )  悪いこと(             )Step2.タバコの害を理解する□健康面 □生活面 □仕事面 あなたの場合は何が当てはまりますか?Step3.ニコチン依存をチェックする(FTND)

0 点 1 点 2 点 3 点① 朝目覚めて何分後にタバコを吸いますか 1時間以降 31~60分 6~30分 5 分以内② 喫煙できない場所で我慢するのが難しいと感じますか いいえ はい③ どちらのほうが,タバコをやめる事により未練を感じ

ますか目覚めの一本以外

目覚めの一本

④一日,何本のタバコを吸いますか 10本以下 11~20本 21~30本 ≧31本⑤ 目覚めて 2~3 時間で吸う本数が,それ以降よりも多

いですか いいえ はい

⑥ 病気で一日寝ているような時でも吸いますか いいえ はい

点数 0~3 点 4~6 点 7~10 点ニコチン依存度 低:ライトスモーカー 中:ミドルスモーカー 高:ヘビースモーカー

Step4.禁煙治療について知るニコチン依存が強ければ禁煙外来がおすすめ(パッチ,内服薬など)1)禁煙治療が受けられる医療機関(日本禁煙学会HPhttp://www.nonsmoke55jp/nicotine/clinic)

2)受診回数は 5回/12 週3)費用(保険診療の自己負担分)の目安:ニコチンパッチ(貼り薬)13,000 円,バレニクリン(飲み薬)20,000 円Step5.禁煙宣言をする1)禁煙開始日を決める ・・・ 禁煙宣言書2)禁煙理由を確認する (特に重要と思うもの 2つ)・・・禁煙する理由①(              ) 禁煙する理由②(              )Step6.禁煙を始める1)��よく見られる禁断症状 ・・・ イライラ 頭痛 元気がでない 夜中に目覚める 落ち着かない 便秘 

集中できない 口内炎 口の潰瘍 食欲が増す タバコが吸いたい2)禁断症状を乗り切る ・・・ ①喫煙と結びついた行動パターンを変える 例:食後すぐに離席する/節酒

②喫煙のきっかけになる環境を変える 例:灰皿を捨てる/居酒屋を避ける③吸いたくなったら別な行動     例:歯磨き,深呼吸,ガム

Step7.禁煙を続ける 1)��再喫煙を予防する ・・・ 再喫煙のきっかけになりやすい状況を予測して,自分なりに対策を考えておく�例:お酒を飲みにいった時  �⇒ 飲む前に禁煙宣言をする,非喫煙者の隣に座る

仕事や人間関係でイライラ�⇒ 深呼吸する �外で大声を出す吸いたくなる状況①⇒対処法(         )吸いたくなる状況②⇒対処法(         )2)過度な体重増加を予防する禁煙で約 8割の人が平均 2~ 3kg 太ります.禁煙のメリットは大きく,4~ 5kg の体重増加は埋め合わせます.でも太りたくない人は禁煙直後から身体活動を増やしましょう.速歩,自転車など.食生活の改善には禁煙が安定してからとりくみましょう.

わたしは,   年 �月 �日より禁煙することを誓います.  氏名         

0w開始

2 4 8 12

初診 通院 通院 通院 最終診察

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D飲酒指導

1 飲酒指導(F1) 飲酒とCKDの発症・進展との関係については介入研究を欠き不明な点が多い.CKD診療ガイドライン 2013 では,少量~中等量摂取は予防的に作用する可能性,中等量以上(20~30�g 以上)は蛋白尿を発症させる可能性があるとしている.しかしCKDの有無にかかわらず,男性で 40�g(日本酒 2合,ビール 1000�mL 女性では半量)以上が生活習慣病のリスクで指導対象となる.当然,CKD患者にも節度ある適度な飲酒(適正飲酒)の指導が必要である.体重や血圧管理上も節酒が望ましい者は多く,節酒を希望している飲酒者も少なくない.節酒については欧米の研究から比較的簡単な教育介入でも効果があることが明らかとなっている.それは短期(簡易)介入と呼ばれ,飲酒問題のスクリーニング後に,本人の状態に応じて 10 分程度の相談・助言を行うものである.これは喫煙で述べた行動変容の方法論とほぼ同じで,国立病院機構久里浜医療センターHPに詳細が掲載されている(教材もダウンロード可). 本項では,その基本構成要素である,AUDIT(Alcohol�Use�Disorders�Identification�Test)を用いたスクリーニング法と,WHOや米国国立衛生研究所(NIH)で推奨される指導のアルゴリズム,そして行動変容技法を述べる.資料はそれらの情報を盛り込んで作成した飲酒問題の自己チェックである.日本ではこれらの情報や知識が十分に普及していないので,指導で心理的抵抗を強めることのないように,患者自身が自分で問題に気づくように配慮したい.

2 指導の実際 飲酒でも,①現状の把握,②アルコール使用問題のスクリーニング,③問題の重篤度と本人の節酒への準備性に応じた介入,④結果の把握が,基本となる.これは禁煙指導と同じである.

1.飲酒関連問題のスクリーニング

 飲酒関連問題は,専門治療を要するアルコール症(乱用・依存)と,危険の少ない飲酒,その中間の危険な飲酒に大別される(図 7).AUDITは国際的に用いられている簡易スクリーニングであり,図 8(過去 1年間のチェック)は日本人向けに改変したものである.カットオフ値は研究者により若干異なるが,本項では予防の視点からNIHが危険な飲酒(At�risk�drinking)とする男性 8点,女性 4点以上を「リスク」とした.生活習慣病のリスクも節酒支援対象である.特定保健指導では 15 点以上は依存症疑いとして専門機関を紹介することになっている.

第 2章 CKDの治療

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2.生活指導

2.節酒準備性に応じた短期介入

 資料 3の 6.により節酒意向がある者(①と②)には,具体的な節酒支援を行い,④の節酒意向のない者にはアルコール症の有無を判定する.図9にアルコール症がない場合の短期介入を示した.スクリーニングの結果を明快にフィードバックし,節酒への準備性によって助言の内容を変える.無関心の人には節酒を無理強いせず,飲酒の利害を自分で考えるよう促す.節酒意向がある場合は,行動技法の説明や教材の紹介などにより具体的な計画を立てる.時間が限られる場合は,スクリーニング結果のフィードバックだけでも効果があるとされるので,資料 1の 4で「はい」に該当した人に「節酒の必要があること」「適正飲酒の量は男性で 20�g,女性は 10�g まで」であることを端的に伝える. 動機づけ面接法(表 3)は,アルコール症や過食・依存などで有効な方法で「やめなくては,

図 7 飲酒関連問題NIH「Helping Patients Who Drink Too Much 2005」と健康日本 21(第 2 次)より作成

酒量多量

乱用・依存

危険な飲酒

危険の少ない飲酒

Alcohol Use Disorders

At-Risk Drinking

節酒

断酒

生活習慣病のリスク成人男性:≧40g/日 女性≧20g/日

適性飲酒の定義成人男性は20g(日本酒1合 ビール500ml)

女性はその半量

ひとつでもあれば乱用□身体的な危害(飲酒と運転、機械の操作、水泳など)□対人関係のトラブル(家族や友人)□役割上の失敗(家庭、仕事、学校でうまくいかない)□法律違反(逮捕や他の法的問題)

危険な飲酒(At-risk drinking)① 過去1年で1度に3合以上飲んだ経験がある。②1週間の平均飲酒量が男性(65歳未満)で10合、 65歳以上と女性では5合を超える。③AUDITの点数が男性は8点、女性は4点以上。④アルコール症ではない。の全て満たす場合 飲酒の自己チェック(資料1)は    ①②③までを判定する。

図 8 飲酒指導の流れNIH「Helping Patients Who Drink Too Much 2005」より作成

ステップ1スクリーニング

追跡(支援を続ける)

終了

NO YES

情報提供

情報提供毎年健診

飲酒

飲酒関連問題

短期介入(助言と支援)

短期介入(助言と支援)

過去1年の多量飲酒日数≧1日(資料1,1)

・ 週の平均摂取量を決定(資料1‒4)男性≧10合   女性>5合

男性3合以上  女性 2.4合以上あるいは AUDIT (資料1,5)

男性≧8   女性≧4点

YES

NO

NO

NO

ステップ2飲酒関連問題の評価

ステップ3短期介入

ステップ4追跡

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でもやめられない」という患者の矛盾や葛藤に沿って自己決定を促す.「できない」「その必要はない」など否定的言動や抵抗を引き出さないように注意し,変化の願望や自信などを示すチェンジトークに注目・強化することが要点である.

第 2章 CKDの治療

資料 3 飲酒の自己チェック

「できればなんとかしたい」と思っている人もいない人も,今のありのままを評価してみましょう1 .この 1年で 3合以上飲んだことは?①ある       ②ない    後は自由:ぜひリーフレットを見てください

2.アルコール類を飲む頻度は ①月に 1回以下 ②月に 2~4回 ③週に 2~3回  ④週に 4回以上

3.1日に飲む量は?(日本酒にして) ①1合以下 ②2合以下 ③3合以下 ④3~5合 ⑤5合以上

4.1週間あたりの飲酒量は合計するとどれくらいになりますか(    )合くらい/週それは男性(<64 歳)では 10 合以上,女性あるいは 65歳以上の男性では 5合以上になりますか①はい       ②いいえ    後は自由:ぜひリーフレットを見てください

5.過去 1年間のチェック*1毎月とは月に 1回はあるが毎週より少ない,*2毎週とは週に 1回はあるが毎日よりは少ない

点 0 1 2 3 4アルコールを飲む頻度は ない ≦1 回/月 2~4 回/月 2~3 回/週 ≧4 回/週1 回に飲む量は(日本酒にして) ≦1 合 ≦2 合 ≦3 合 3~5 合 ≧5 合1回に日本酒換算で 3 合以上飲むことが ない ≦1 回/月 毎月*1 毎週*2 (ほぼ)毎日飲み始めて途中でやめることができなかったことが ない ≦1 回/月 毎月 毎週 (ほぼ)毎日

飲酒のせいで普通ならできることができなかったことが ない ≦1 回/月 毎月 毎週 (ほぼ)毎日

深酒をして朝迎え酒が必要だったことが ない ≦1 回/月 毎月 毎週 (ほぼ)毎日飲酒後に罪悪感や後悔したことが ない ≦1 回/月 毎月 毎週 (ほぼ)毎日前夜のことを思い出せなかったことが ない ≦1 回/月 毎月 毎週 (ほぼ)毎日飲酒のせいであなたか誰かが怪我をしたことが ない ない

(この1年で)ある

(この1年で)家族や友人,専門家から減酒するよう言われたことが ない ない

(この1年で)ある

(この1年で)合計(      )点

合計 12 点以上は「問題飲酒」,男で≧8点,女で≧4点は「リスク」とされています.

6 .お酒を減らしたいと思いますか① いつも思う  ② ときどき思う  ③ どちらともいえない  ④ 思わない健康を害さず,いつまでもお酒をおいしく楽しめるように,「できそうなこと」にとりかかりませんか.

足達淑子編 ライフスタイル療法 4版より転載 直接指導以外の無断転載・引用を禁じます.

飲酒による健康障害:�肝臓病,心臓病,うつ病,脳卒中,胃出血,糖尿病,高血圧,がん(口腔,咽頭,喉頭,食道,肝臓,大腸,乳房),脳の委縮,人格変化,認知症(60歳以上のアルコール依存症の20%)

<参考> 日本酒 1合(180ml)に相当するお酒の種類と量•ビール(発泡酒)→中ビン1本(500ml) • 焼酎→20度(135ml)/35度(80ml)• 缶チューハイ→7度(1缶=350ml) • ウイスキー→ダブル(1杯=60ml) • ワイン→グラス2杯(240ml)

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2.生活指導

図 9 危険な飲酒(乱用や依存はない)への助言と支援(短期介入)

■ 結論と助言を明快に述べる ・「医学的な安全域を超えています」 ・「飲酒(断酒)を強く勧めます。私が援助しましょう」■ 飲酒習慣を変えることへの準備性を判断(評価)する  「節酒してみる気持ちは?」

■健康への心配を再度述べる

■飲酒の利点と節酒の理由を秤にか

けるよう励ます。何がバリアか探る

■いつでも援助することを再強調

■最大限節酒するか一時期断酒するか決める■患者の計画に同意する ・方法(仕事後にバーに行かない    家での飲酒量測定、    アルコールの代替など) ・飲酒の記録法(日記、台所のカレンダー) ・危険な状況への対処法 ・サポーターは誰か■教材の提供  「節酒のための戦略」など

変化することに準備がありますか

NO YES

表 3 動機づけ面接法(MotivationalInterviewing)*患者中心のカウンセリング(ミラーとロルニック)  アルコール中毒,薬物依存,嗜癖行動,喫煙,過食など*目標志向性  変化の方向に向けて積極的に働きかける  ①両価性⇒②自己決定の促し⇒③動機の増強*抵抗や否定的言動を引き出さないように  開かれた質問/是認/聞き返し/要約で内的動機を引き出す*チェンジトーク(変化の兆しとなる言葉)に注目  変化の願望,自信,理由,必要性,コミットメント(約束)

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3.節酒を促す(認知)行動療法

 選択肢とした項目は表 4に示した行動技法を,日常的な用語で具体化したものである.資料 4は,節酒意向のある人に対する簡素な行動変容法(目標設定とセルフモニタリング)を構造化したものである.Step�1 の行動目標に挙げた各項目を,「できている」「がんばればできそう」「できそうもない」のいずれかに分類し,「がんばればできそう」の中から実行する行動を 3~4項目選ぶ.Step�2 としてその項目が実行できたかどうかを 4週間記録する.

第 2章 CKDの治療

表 4 節酒のための行動技法の例セルフモニタリング…行動の自己観察・自己強化 ・飲酒の状況と飲酒量を記録する(気分も)目標決定…ゴールを決める,実行すべき行動を決める ・1 回に飲む量の上限を決める   ・飲まない日数(休肝日)を決める ・節酒につながる行動を実行目標とする刺激統制法…飲酒の引き金となる刺激(誘惑場面)を遠ざける ・飲みたくなる状況を避ける ・アルコール類を見えないところにしまう ・どうしても飲みたいとき,飲まないといけないときだけ飲む ・いつもの飲酒パターンを変えてみる(寝酒,晩酌など,酒の種類)飲酒スタイルの修正…飲酒速度を遅くして,全体量を減らす ・食事をしながら飲む,ゆっくりと飲む ・水を飲みながら飲む,薄い酒にする反応妨害,習慣拮抗法…衝動が起きたときに別な行動で飲酒をしない ・飲みたくなったらウォーキングをする ・冷たい水やお茶を飲む,シャワーや入浴,歯磨きなどするストレス対処法 ・憂うつや不安,孤独に対処する ・リラックス法や他の楽しみを取り入れる ・飲まないで楽しめること(食事,ゲーム,友人との会話)を増やすオペラント強化…節酒に対する報酬(ごほうび) ・飲まずに済んだ分を貯金(計算)する ・進歩を点数にして評価する社会技術訓練…断り方など,自己主張を上手に行うためのスキルを向上させる ・医者から止められていると断る(肝臓が悪いことにする) ・人との会話に集中する ・ウーロン茶や薄い水割りを手にしておく ・上手に言い訳できたときの達成感を思い出す ・1 時間でパーティーを切り上げる認知再構成法 ・少しのつまづきは破綻ではないないと割り切る ・疲労回復,ストレス緩和は勘違いであることを知る

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2.生活指導

資料 4 飲酒コントロール用ワークシート

4週間だけ,できそうなことにチャレンジしてみましょう.この方法で半減した人たちがいます.

Step1.できそうなことを具体的に決める下記の行動が「できている」か「できそう」か「できない」かを考えて,当てはまる欄に○を.「頑張れば7~8割できそう」に○がついた項目から,実行すること(3~4つ)を決めます.

目標行動の具体例 できている 頑張れば7 ~ 8 割できそう できそうもない

飲酒の機会を減らす飲酒量を減らす1 回に飲む量を決める本当に飲みたい日だけ飲む休肝日を決める自分から誘わないなるべく自宅で飲む誘われたときに上手に断るつがれるお酒は避けて,つぎ上手に飲まなかった日の酒代を貯める飲まない日に行うことを決める適度に食べながら,ゆっくり飲む水を飲みながら飲む先に水や発泡水でのどの乾きを癒す一部を,ノーアルコール飲料に置き換える

Step2.決めた行動を目標欄に記入して,4週間,記録しながら実行する記入日  年  月  日

日にち⇒ 1 週目 2 週目曜日⇒ 達成率 達成率

気がついたこと気持ちや体調の変化

日にち⇒ 3 週目 4 週目曜日⇒ 達成率 達成率

気がついたこと気持ちや体調の変化

[ 記録のしかた ] 実行できた日は○,半分できた日は△,できなかった日は×を記入.達成率は○を1点,△を0.5点,×を0点として合計得点を7点で割る.1週間の実行度の評価.

足達淑子編 ライフスタイル療法 4版より転載 直接指導以外の無断転載・引用を禁じます.

ここに目標を記入

ここに目標を記入

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A塩分制限1.減塩指導の目的

 腎疾患の食事療法において,食塩管理はもっとも基本となるところである.腎疾患では,食塩を過剰に摂取した場合,腎臓に大きな負担をもたらす(図 10). 1日の食塩量は,調味料などにより付加する食塩と,もともと食品中に含まれている食塩を合計した量をさす.調理されてしまった食塩は目で見えるものではなく,また患者一人ひとりの塩味の感じ方も異なるので,食塩管理が客観的に行えるよう指導する.

2.具体的指導法(指導媒体含む)

1)調味料に含まれる食塩量の確認(附録―111頁) 調味料は必ず計量スプーンを使用して測る方法を指導する.食塩・ソース・みそなど日常よく使用する調味料の食塩量は,小さじ 1杯で何 gというように指導する. 減塩調味料や減塩食品の使用方法を指導するのも 1つの方法である.減塩であっても使用量が多くなりすぎないよう注意する.減塩を連想させるような紛らわしい食品,いわゆる「食塩控え

3 食事療法

図10 腎機能低下時における食塩過剰摂取と各種症状の関係模式図

体の細胞の浸透圧を保つ体内水分 60%

ナトリウム(Na)は 0.8%

塩は水を引き寄せる性質がある食塩をとりすぎると Na 濃度を0.8% にするために水を引き寄せる

Na10g が引き寄せる水の量 1,250mL

血液量の増加により血圧上昇

血管内皮細胞が傷つく

食塩摂取量が過剰

血液量の増加

食塩摂取量が適正

血管

血液量(水)の増加むくみ(浮腫)体重(水による)増加血圧の上昇

腎臓は血流量が多い臓器血管の壁も薄く圧がかかりやすくなっている

腎臓による水電解質調節不足

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3.食事療法

め」「薄味食品」などとの違いも指導する.2)加工食品に含まれている食塩(附録―111頁) 加工食品に含まれる食塩はあいまいになりがちである.食品に表示されている栄養成分値から食塩量を調べるよう指導する.また,ナトリウム(mg)で表示されている場合もあるので,ナトリウムから食塩量を換算する方法を指導する.▶ナトリウムから食塩の換算式  Na(mg)×2.54/1,000=食塩(g)3)減塩の工夫(附録―112頁~) 減塩は「味のないもの・味の薄いものを食べる」という誤解を与えがちである.減塩を継続するためには,食塩を含まない調味料で味付けをするなどの心遣いが大切である.また,減塩には慣れが必要なので時間がかかることを説明する.▶減塩の注意点と具体的工夫例 ・しょうゆやソースなどは計量して小皿に分けて入れ,直接つけて食べる. ・うま味のある食品を使う(しいたけ・昆布・かつおだし など). ・�香辛料・薬味を利用する(しょうが・にんにく・こしょう・七味・カレー粉・わさび・青しそ・ごま など)

 ・酸味を利用する(レモン汁・酢の物 など).塩味をつける料理は 1,2品に集中させる. ・新鮮な食材を用いて食材の持ち味をいかす(旬のもの).加工食品はなるべく使わない. ・�煮物や炒め物には食塩を無駄なく利用するために,片栗粉,くず粉を使ってとろみをつけると食べやすい(あんかけ料理風に).

4)外食・中食での食塩管理(附録―112頁) 一般的に外食は食塩含有量が多い.外食はその料理内容に地域差や店による差もある.患者が利用する外食内容を十分に聞き,食塩管理を調整させる.また,中食(コンビニ弁当など)の利用がある場合には,栄養表示を確認する習慣を身につけさせる.▶外食での注意点と食塩摂取量を抑える工夫例 ・メニューに記載された栄養表示を参考にすることが望ましい. ・注文時,「薄味にしてください」と頼む. ・麺類は汁を飲まないようにする.(外食での麺類はすすめない) ・�丼ぶりものはすでに調味されており,食塩管理ができない.食塩管理のしやすい定食ものを選ぶようにする.定食の場合,漬物やみそ汁を残すなどの対応ができる.

 ・�サラダのようにドレッシングやマヨネーズが付く場合,注文するときに別の器に入れてもらうよう頼む.

 ・�鍋もの(すきやき,おでん,水炊き,ちゃんこ鍋など)は食塩摂取量が多くなるので注意する.

 ・�使われている材料がわからない料理や,味の加減がわからない料理は避ける. ・�外食をするときは,その日の家庭での食事で一切食塩を使わないようにするなど,計画的に行う.

5)食塩摂取量が 3g/日を下回らないように注意する 安全性の観点から,食塩摂取量が 3�g/日を下回らないように注意する.食事量が少ない場合は適正な量を食べるように指導する.十分な経口摂取ができない場合など,必要に応じて栄養アセスメントを行って栄養ケアプランを提案する. 食塩を含む調味料を全く使わないなどの極端な例については適正な減塩指導を行う.

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第 2章 CKDの治療

Bエネルギー制限

1 エネルギー制限ステップ 1(アルゴリズムA2.C2.D2に該当した場合)

1.エネルギー制限(ステップ 1)指導の目的

1)生活習慣の見直し 生活習慣の乱れは肥満を助長する一因となり,これがCKDの進行を早める要因の 1つとなるため,生活習慣の見直しが必要となってくる.肥満がある場合は,3カ月間で現体重の 5%減を目標に体重調整を行い,最終的には標準体重(BMI)が 25 未満を目標とする.

2.具体的指導法

1)夕食のまとめ食いをやめる 朝食を抜き,夜たっぷりとまとめ食いをするパターンの人に肥満者が多く,夜食症候群(night�eating�syndrome)と呼ばれる.空腹時間が長いと,摂取したエネルギーを貯蔵にまわそうとする体の適応反応が起こるためである.また,まとめ食いは血糖値の急激な上昇を招き,インスリンの過剰分泌を招きやすい.1日の摂取エネルギーが同じであれば,3回よりも5回に分けて食べるほうが肥満になりにくく,また血糖の上昇も緩やかになるため,インスリンを分泌する膵臓のβ細胞への負担も軽くなる.2)毎食,野菜・海藻類を摂取する 食物繊維は,中性脂肪など肥満の原因になる栄養素の吸収を妨げる.また食物繊維を多く含む食べ物は一般に硬めで,よく噛まなくてはならないため,満腹感も得られやすく,食べ過ぎを防ぐことができる.さらに食物繊維は糖質の吸収を遅らせて食後の血糖値の上昇を抑えるため,インスリンの分泌を節約することにもなり,糖尿病の予防に役立つ.野菜類の摂取目安量は,1日350�g 以上であるが,計量が困難な場合は,手ばかりを活用するのも一案である.毎食,生の状態で両手 1杯もしくは火を通した状態で片手 1杯分が摂取量の目安である. *�ただし,血清カリウム値が高い場合には,カリウム処理(54 頁図 14)を行うことを説明する.

3)間食・夜食・アルコール類の摂取を控える 頻回食は,夜のまとめ食いを防止するが,菓子類などの取りすぎは,逆にエネルギーの過剰摂取となるため,注意が必要である.またアルコール類は,1日の適正量を守り(pⅤ‒3,Ⅷ‒1 参照),つまみによるエネルギー過剰摂取にも注意する.つまみは,野菜類・きのこ類・海藻類を用

①1日 1~2回の欠食がある(朝食・昼食は,少量または欠食で夕食にまとめ食いをする)②食物繊維・ビタミン・ミネラルの摂取が不足している③菓子類・清涼飲料水・アルコール類の摂取が過剰である④同じような調理法のメニューが多い⑤噛む回数が少なく,早食い⑥運動習慣がない

生活習慣のチェックポイント

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3.食事療法

いた低エネルギーの食品を用いるよう説明を行う.しかし,菓子類,アルコール類などの嗜好食品・嗜好飲料の摂取量が減らない場合は,ストレスなど精神的な要因を解消するために摂取している可能性があるため,他のストレス解消法を本人とともに考えていくことも大切である.4)調理法を工夫する 「揚げる」,「炒める」の調理法に偏っている場合は,「煮る」,「焼く」,「蒸す」などの調理法を取り入れ,脂質の摂取エネルギーを減らす工夫をする.5)噛む回数を増やし,早食いをやめる 血糖が上昇して脳の満腹中枢が刺激され,満腹感が生ずるまでには,食事開始から 20 分ほどかかる.早食いをすると,食べ過ぎてしまうのはこのためで,家族や友人と食卓を囲み,噛む回数を増やし,食事をゆっくり 30 分以上かけて味わうことで,腹八分目でも満足感が得られるようになる.6)運動習慣を身につける 体を動かすことで,エネルギーを消費して肥満を予防するだけでなく,インスリン感受性を高めることにもつながる.定期的に運動をすることも大切であるが,生活のなかでできる運動(階段を使用する,少しだけ早めに歩くなど)を取り入れていくことも大切である. *�ただし,心疾患,整形での治療中,高血圧,たんぱく尿がある場合は,運動制限が伴う場合があるため,注意が必要であり,運動の有無については,必ずかかりつけ医の指示を仰ぐようにする.

2 エネルギー制限ステップ 2(チェックリストカテゴリでA:BMI 管理に該当,またはアルゴリズムC2.D1に該当した場合)

1.エネルギー制限(ステップ 2)指導の目的

1)適正なエネルギー量の食事とは… 適正な体重を保ちながら日常の生活に必要な食事をし,余分に食べないことである.また,健康を保つために必要な栄養素(炭水化物,たんぱく質,脂質,ビタミン,ミネラル)や食物繊維などの過不足がないように栄養のバランスの良い食事をとることである.その結果として,肥満症,糖代謝異常,脂質代謝異常,高血圧 などの改善が期待できる.

2.具体的指導法

1)適正な体重を維持するポイント▶BMI について BMI(Body�Mass�Index)は肥満の基準となる値を定めたもので,体格指数とも呼ばれる. BMI が 25≦の人は耐糖能障害・2型糖尿病・高血圧・脂質異常症などのリスクが高くなる.

BMI=体 重(kg)÷身 長(m)÷身 長(m)   (   )kg÷(   )m÷(   )m  =(   )

低体重 標 準 肥 満22:標準

18.5 25

BMI を求めましょう!

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第 2章 CKDの治療

2)治療法について 食事療法・運動療法などがある. ただし,運動療法については医師の指示に従う.3)食事療法について

4)食事療法の注意点 ・「バランスのとれた食事にしましょう!」 ・「塩分を控えた食事にしましょう!」 ・「コレステロールや飽和脂肪酸を多く含む食品を控えめにしましょう」 ・「食物繊維をしっかりとりましょう(食物繊維 20~25�g)」

▶肥満症の人は…体重を減らすための食事の工夫をしましょう! ・体重減量の目安を現体重の 5%(3~6カ月間)にするには…

・まず標準体重を求めましょう! 標準体重 kg=(身長)m×(身長)m×22      (   )m×(   )m×22     =(    )kg・適正エネルギー量 kcal=(標準体重)kg×身体活動量※

            =(    )kg×(    )            =(    )kcal

 あなたの指示エネルギーは     kcal です

適正エネルギー量の求め方

※身体活動量低い身体活動量 :25~30 kcal適度の身体活動量:30~35 kcal高い身体活動量 :35 kcal~

注: 糖尿病がある場合は基本的に25~30 kcal とする.

(献立例)

(90日間の減量目標) 現在の体重(    )kg×0.05=( A )kgが目標   ↓(1日あたりの減量目標)( A )kg×1,000 g÷90日=(    )g

あなたの目標体重は?

(90日間のカロリー減目標)( A )kg×7,000 kcal=( B )kcal    ↓(1日あたりのカロリー減目標)( B )kcal÷90日=(    )kcal

どれだけカロリーを減らせばよいでしょうか?

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3.食事療法

 ・まずは最初の 1カ月で 1�kg の減量を目指しましょう!▶血糖コントロールが必要な人は… ・「1日の食事量の目安を参考にしましょう」

□油っこい食べ物が好き□魚より肉が好き□ファーストフードをよく食べる

□ほぼ毎日お酒を飲む□食後に甘いものは欠かせない□ジュースや缶コーヒーをよく飲む□小腹が空いたらすぐおやつ

□おなかいっぱいでもつい食べてしまう□ドカ食いをしてしまう□満腹でないと物足りない□あまり噛まずに飲み込む癖がある

□ 階段はなるべく避けてエスカレーターを利用する□同世代の中でも歩くのが遅い□仕事は座ったままの業務が多い□電車・バスで席が空けば必ず座る

(A)・(B)・(C)にあてはまる人は,食生活の問題点に対する改善にトライしましょう!!

あなたの 1日あたりのカロリー減目標は          kcal です.

(      )kcal を減らすために行うことは・・・(100 kcal の食事の目安量 50頁参照)

*ただし!最初の 1カ月が肝心.1カ月で 1 kg の減量を目指しましょう.

*体重を毎日計りCKD管理ノートに記録をつけましょう.

あなたの食事内容に問題あり(A)

あなたの間食・飲酒に問題あり(B)

あなたの食事量に問題あり(C)

普段の活動量に問題あり(D)

あなたの食生活をチェックしてみましょう !!

(1,600 kcal の例)

朝食 昼食 夕食

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第 2章 CKDの治療

100 kcal の目安表名 称 目安量(カロリーの目安) 100 kcal の目安ごはん 茶碗 1 杯(160 kcal) 小盛 2/3 杯

チャーハン 1 皿(770 kcal) 1/8 皿親子丼 丼 1 杯(770 kcal) 1/8 杯かつ丼 丼 1 杯(1010 kcal) 1/10 杯天丼 丼 1 杯(720 kcal) 1/7 杯

うな丼 丼 1 杯(790 kcal) 1/8 杯カレーライス 1 皿(810 kcal) 1/8 皿

ピザ M サイズ直径 20 cm(570 kcal) 1/6 切れかけそば 丼 1 杯(340 kcal) 1/3 杯焼きそば 1 皿(596 kcal) 1/6 杯ラーメン 1 杯(460 kcal) 1/5 杯

チャーシュー麺 1 杯(550 kcal) 1/5 杯スパゲティミートソース 1 皿(630 kcal) 1/6 皿

から揚げ 1 個(110 kcal) 1 個とんかつ(ロース) 1 枚(590 kcal) 1/6 枚

焼き餃子 1 個(70 kcal) 1.5 個バナナ 1 本(80 kcal) 1.5 本ぶどう 1/2 房(60 kcal) 1 房肉まん 1 個(310 kcal) 1/3 個

あんパン 1 個(250 kcal) 1/3 個メロンパン 1 個(340 kcal) 1/3 個

ハンバーガー 1 個(266 kcal) 1/3 個ショートケーキ 1 切れ(340 kcal) 1/3 切れシュークリーム 1 個(220 kcal) 1/2 個フライドポテト M サイズ 130 g(320 kcal) 1/3 袋アイスクリーム 1 カップ 120 mL(254 kcal) 1/3 個

板チョコ 1 枚 70 g(390 kcal) 1/4 枚せんべい 1 枚 16 g(60 kcal) 1.5 枚クッキー 1 枚(35 kcal) 3 枚

ポテトチップス 1 袋 85 g(470 kcal) 1/5 袋コーラ ペットボトル 1 本 500 mL(220 kcal) 1/2 本

缶コーヒー 1 缶(70 kcal) 1.5 缶オレンジジュース 200 mL(80 kcal) 1.5 杯

缶ビール 350 mL(140 kcal) 2/3 杯日本酒 1 合 180 mL(190 kcal) 0.5 合焼酎 1 合 180 mL(260 kcal) 0.4 合

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3.食事療法

Cたんぱく質制限

(チェックリストカテゴリでH:たんぱく質摂取量に該当した場合)

1.たんぱく質制限栄養食事指導の目的

1)たんぱく質の制限 たんぱく質は体内でエネルギーとして燃やされた場合,水と炭酸ガス以外に窒素化合物などのたんぱく終末産物を生じる(図 11).腎臓が正常な場合,それらは腎から排泄されるため問題ない.しかし,何らかの腎機能障害がある場合,たんぱく質のとりすぎは糸球体過剰濾過をもたらして糸球体障害を促進し,窒素化合物蓄積は尿毒症などの症状を引き起こす(図 12).また,腎機能が低下した場合,電解質平衡が崩れ高カリウム血症や高リン血症などを引き起こし,酸塩基平衡も崩れる(たんぱく質終末産物の 1つである酸の排泄障害によるアシドーシス). 尿毒症期の食事療法は,窒素化合物の蓄積を予防することを目的として,残腎機能に応じたたんぱく質の制限が必要となる.

2)たんぱく質の質 われわれの体を構成しているたんぱく質(エラスチン,コラーゲン,ヘモグロビン,各種酵素,各種ホルモンなど)は必須アミノ酸(ロイシン,イソロイシン,バリン,リジン,トリプトファン,フェニルアラニン,スレオニン,メチオニン,ヒスチジン)を中心に成り立っている.必須アミノ酸はわれわれの体のなかで作ることができないため,食品から摂取する必要がある.食品中に含まれるたんぱく質はさまざまなアミノ酸でできているが,必須アミノ酸の割合が高い(ア

図 11 三大栄養素の代謝模式図

たんぱく質 脂質 炭水化物

燃焼⬇

水と二酸化炭素窒素化合物

⬇尿

燃焼⬇

水と二酸化炭素⬇

不感蒸泄,尿

図 12 たんぱく質摂取量の違いによる糸球体過剰濾過模式図

高たんぱく質食

輸入細動脈輸出細動脈

窒素化合物

糸球体

尿 尿

低たんぱく質食

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第 2章 CKDの治療

ミノ酸スコアが高い)食品を良質なたんぱく質食品と呼ぶ.一般的に,動物性の食品はアミノ酸スコアが高く,植物性の食品(大豆製品を含む)は低い傾向がある(表 5). 通常,たんぱく質摂取量が 60�g 以上であれば,必須アミノ酸の摂取不足が起こることはあまりない.しかし,低たんぱく質食事療法の場合,良質なたんぱく質食品の使用量が足りないと必須アミノ酸不足に陥り,患者は体蛋白異化が亢進して栄養障害を起こすおそれがある(図 13).たんぱく質摂取量 40�g 以下の食事療法では,動物性たんぱく質比を 60%以上(40�g ならば 24�g 以上)とする必要がある.

3)たんぱく質制限における脂質の適正な摂取 脂質摂取量は,全エネルギー比の 20~25%が望ましい.動脈硬化予防の観点から,n‒3 系多価不飽和脂肪酸を積極的に取り入れるようにする.

表 5 1973年 FAO/WHOパタンによるアミノ酸スコア(抜粋)食   品 アミノ酸スコア 食 品 アミノ酸スコア精 白 米 飯 65 牛 肉 100そ   ば 65 鶏 卵 100さ つ ま い も 88 牛 乳 100じ ゃ が い も 68 大 豆 86

鮭 100 納 豆 84鯖 100 さやいんげん 68

さ ん ま 100 オ ク ラ 57鶏 も も 肉 100 か ぶ 45豚 肉 ロ ー ス 100 ア ス パ ラ 68

図 13 食品のアミノ酸組成の違いによるたんぱく質の利用効率の違い 模式図アミノ酸スコアの低いたんぱく質中心の食事では,体蛋白合成に回されるアミノ酸が減ると同時に,エネルギー源として燃やされる分が多くなる.この状態が続くと栄養状態の低下と尿毒症の増悪を招くおそれがある.

100

50

0

150%

アミノ酸スコア 100

イソロイシン

ロイシン

リジン

含流アミノ酸

芳香族アミノ酸

スレオニン

トリプトファン

バリン

体蛋白合成に回される

100

50

0

150%

精白米飯 65

体蛋白合成に回される

必須アミノ酸不足

体蛋白異化亢進のおそれ

窒素化合物や酸などの代謝物発生

燃やされるイ

ソロイシン

ロイシン

リジン

含流アミノ酸

芳香族アミノ酸 ス

レオニン

トリプトファン

バリン

100

50

0

150%

鶏卵 100

体蛋白合成に回される

燃やされる

イソロイシン

ロイシン

リジン

含流アミノ酸

芳香族アミノ酸

スレオニン

トリプトファン

バリン

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3.食事療法

4)たんぱく質制限におけるエネルギーの適正な摂取 CKDの食事療法では適切なエネルギー摂取が重要である.糖尿病を合併している患者で,血糖コントロール不良が続いている場合や肥満の患者など,栄養食事指導の主体はエネルギー制限となる場合がある(主にCKDステージ G1~G3).一方,過度の低たんぱく質食ではエネルギー摂取不足となる危険性があり,十分な注意が必要である(主にCKDステージ G4~G5).摂取エネルギー量が不足すると,良質なたんぱく質食品を十分摂取していたとしても必須アミノ酸は体蛋白合成にまわされず,エネルギー源として体内で燃やされてしまう.正しいたんぱく質制限とエネルギーの適正な摂取は同時に達成される必要があることから,CKDステージG4~G5でのたんぱく質制限(0.8�g/kg 体重/日未満)は経験豊富な専門医療機関で実施されるべきである.

2.具体的指導法

1)食品構成表の利用 たんぱく質制限を伴う栄養食事指導を行う場合には,「食品構成表」(表 6)を用いる.食品構成表は各患者に応じて管理栄養士が適宜変えて用いることも可とする.食事療法を行うにあたり,卓上はかり(アナログまたはデジタル),計量カップ,計量スプーンを準備させる.食品成分表,食品交換表などは,各患者に応じて適宜栄養食事指導に使用する.

表 6 食品構成例(食品単位 g)身長 174 cm 157 cm 152 cm 148 cm

エネルギー 2000 kcal 1800 kcal 1600 kcal 1400 kcalたんぱく質 55 g 45 g 40 g 35 g

食 品 量ごはん(3 食分) 540 g 480 g 390 g 330 g

卵 50 g 25 g 25 g 25 g肉類 60 g 60 g 50 g 45 g

魚介類 60 g 60 g 50 g 45 g大豆製品 20 g 20 g 20 g 0 g乳製品 120 g 90 g 90 g 90 g野菜類 300 g 300 g 300 g 300 gいも類 100 g 100 g 100 g 100 g果物 120 g 120 g 120 g 120 g

砂糖・甘味料 20 g 20 g 20 g 20 gはるさめ・

片栗粉(でんぷん) 25 g 25 g 25 g 25 g

油脂類 25 g 20 g 20 g 15 gエネルギー補給

食品*100 kcal相当の量

100 kcal相当の量

100 kcal相当の量

100 kcal相当の量

*飲料等により炭水化物によるエネルギー補給を行う. 例えば,炭酸飲料 250�mL がおおむね 100�kcal に相当する.

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第 2章 CKDの治療

Dカリウム制限1.カリウム制限の目的

 CKDのステージが進行し,低たんぱく質食事療法が実施されるようになると,たんぱく質制限により,肉類・魚介類などからのカリウム摂取量も減るため,とくにカリウム制限に注意を払わなくてもよいことが多い. しかし,不適切な食事やさらなる腎機能の低下により,電解質調整が障害され血清カリウム値が高値となる場合がある.その場合は,カリウム摂取量の制限方法を指導する.

2.具体的指導法

 カリウム制限の方法は,カリウム含有量の多い食品の摂取を控えたり(表 7),野菜・いも類などは大量の水でゆでたり,水にさらすことが一般的に推奨されている.このような操作により,食品中のカリウム量を約 2割程度減らすことができるといわれている(図 14).

(アルゴリズム K2に該当した場合)

表7 カリウムを多く含む食品(可食部 100g あたり)いも類 じゃがいも 410 mg さつまいも 470 mg さといも 640 mg ながいも 430 mg やまといも 590 mg野菜類 ほうれん草 690 mg 小松菜 500 mg セロリー 410 mg かぼちゃ 450 mg カリフラワー 410 mg ブロッコリー 360 mg ゆでたけのこ 470 mg豆類・種実類 ゆであずき 460 mg ゆで大豆 570 mg 納豆 660 mg ピーナッツ(落花生) 770 mg ゆで栗 460 mg

果物類 バナナ 360 mg メロン 350 mg キウイ 290 mg魚・肉類 あじ 370 mg かつお 430 mg かれい 330 mg まだい 440 mg ぶり 380 mg 牛かた肉(皮下脂肪なし) 310 mg 牛モモ肉(皮下脂肪なし) 340 mg 豚ロース肉(皮下脂肪なし) 340 mg 豚ヒレ肉 410 mg 鶏ムネ肉(皮なし) 350 mg 鶏モモ肉(皮なし) 340 mg

可食部 100�g あたりに含まれるカリウム量.「ゆで」と記載のない場合は生の食品の含有量.五訂増補日本食品標準成分表に準拠.

図 14 一般的に推奨されているカリウム抜きの方法

* いわゆる「ゆでこぼし」.いもなどを小さく切ってからゆでこぼす方法.

* 生で食べる野菜などを小さく切ってから水に20 分程度さらす方法.

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3.食事療法

E尿酸管理1.尿酸管理の目的

 尿酸管理では,まず尿酸のもとになるプリン体をとりすぎないようにすることが大切である.プリン体は細胞の遺伝子である核酸の構成成分で,ほとんどの食品に含まれている.したがって,プリン体をとりすぎないためには,普段から食べすぎないようにすることが大切である.また尿酸の排泄も重要である.尿を増やし,尿酸の排泄を促すために,水やお茶を十分補給する.ただし,お酒は尿酸の排泄を妨げるうえ,高カロリーなので控える.

2.具体的指導法

1)尿酸値が高いときの食事療法 ①プリン体の制限:尿酸の原料となるプリン体の摂取量を制限する(下表参照). 1日に摂取するプリン体の量は「400�mg 程度」が推奨されている.プリン体は“旨みのもと”といわれ,肉や魚など美味しいものほどプリン体が多く含まれている.魚や肉は全般的にプリン体が多めだが,良質のたんぱく質を含むので,全く食べないというより適量を食べるよう指導する.

食品 100 g あたりのプリン体含有量

プリン体のきわめて多い食品(300 mg ~) 鶏レバー,いわし干物,白子(いさき),あんこう肝(酒蒸し)

プリン体の多い食品(200~ 300 mg) 豚レバー,牛レバー,かつお,いわし,大正えび,さんま干物,アジ干物

 プリン体は,水に溶けやすい性質があるため,ゆでたり水にさらすなどの調理方法で含有量を減らすことができる. ②十分な水分量を補給する 尿酸の排泄を促すため,水分は十分にとる.また,水分補給をする際はジュースなどのエネルギーがあるものは避け,水,緑茶,ウーロン茶などがよい. ③アルコールの制限 アルコールは尿酸の排泄を妨げる作用があるため,多量に飲んだあとは痛風発作を起こしやすくなる.プリン体だけに限らずアルコールを控えることにも十分注意する. ④野菜や海藻類を多く摂取する 尿の pHをアルカリ性にして尿酸を溶けやすくするため,カリウムを多く含む野菜や海藻類を多く摂取する(ただしカリウム制限がある場合は除く). ⑤食事からのエネルギー摂取量を適正にする 食べすぎが結果的にプリン体を多く摂る原因になるので,適正な食事量にする.(エネルギー制限ステップ 1.2参照 46.47 頁).

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Column ❹地域特性にあわせた食事療法の工夫 食生活や生活習慣は全国一律ではなく,その地域の特徴が存在する.例えば平成 24年国民健康栄養調査報告書から読み取ると生活習慣,食習慣に次のような特徴がみられる.◆ 体格指数 BMI(Body Mass Index):高値上位 3県は男性:長崎県(24.4)青森県(24.3)沖縄県(24.3)の順(全国平均 23.6),女性:沖縄県(23.9)長崎県(23.6)高知県(23.4)の順(全国平均 22.5)である.◆ 歩数について:歩数が少ない県は男性:宮城県(6439歩),和歌山県(6675歩),鳥取県(6785歩)の順(全国平均 7791歩),女性は秋田県(6028歩)北海道(6095歩)宮崎県(6113歩)の順(全国平均 6894歩)である.◆ 食塩摂取量:食塩摂取量の多い順に男性:岩手県(12.9 g)長野県(12.6 g)山形県(12.4 g)(全国平均 11.3 g),女性:岩手県 11.1 g 長野県 11.1 g 埼玉県 10.5 g(全国平均 9.6 g)という結果で関東以北で食塩摂取量が多いことがわかる.◆ 野菜の摂取量:少ない県は男性:愛知県 243 g北海道 260 g 徳島県 262 g(全国平均 297 g)の順であり,女性:滋賀県 244 g 奈良県 242 g 愛知県 240 g(全国平均 280 g)であった. このように食習慣,生活習慣は都道府県ごとに特徴があり,生活食事指導を行う上では,画一的な指導ではなく地域特性を考慮した指導に心がける必要がある.

加工食品からの食塩摂取量チェック表(長崎県:加工食品の摂取量が多い)

地域特性にあわせた指導媒体例

地域特産品を取り入れた食塩量一覧表(茨城県:食塩摂取量が多い)

カリウム摂取制限注意喚起のための媒体(静岡県:お茶を飲む機会が多い)

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A運動指導1.運動指導の目的

 身体活動量低下はCKD患者の予後と関連があるとされている一方で,運動が腎機能や尿蛋白に与える影響は明らかではない.しかし運動を実施することは,CKDの進行に関与する,高血圧,耐糖能異常,脂質異常症,肥満などを改善する効果があることから,重要といえる.また運動の実施はCKD患者における健康関連QOLの改善効果を期待できる.

4 運動療法

(アルゴリズムでA5.B5.C5.D5に該当した場合)

対象者は「身体活動のリスクに関するスクリーニングシート」に回答する

手順 2

手順 1

対象者への運動指導の実施を決定する

保健指導の一環として運動指導実施を検討

保健指導判定値

既に何らかの診療がなされている場合

対象者がセルフチェックリストの内容を十分に理解し,体調の自己管理ができることを確認する

手順 4

保健指導実施者は対象者に「運動開始前のセルフチェックリスト」

について説明する        

医療機関において診療の一環として

運動療法を指導(運動処方)

健康づくりのため積極的に身体活動に取り組むことを推奨

(「運動開始前のセルフチェックリスト」を各自で活用する) かかりつけの

医師に相談

スクリーニング項目が1 つでもあてはまる場合

血糖,血圧及び脂質が基準範囲内の対象者

血糖高値,血圧高値,脂質異常のいずれかを認めるが受診勧奨を要しない対象者

(生活習慣病予備群)

血糖・血圧・脂質のうち 2 つ以上の危険因子が重複しているか,糖尿病,高血圧症又は脂質異常症に対する医療機関での検査や治療がすぐ必要であると判断(受診勧奨)された対象者

手順 3

運動による代謝効果のメリットよりも身体活動に伴うリスクが上回る可能性があるため,身体活動に積極的に取り組む前に,かかりつけの医師に相談するよう促す

生活習慣病予備軍(保健指導レベル)の対象者に対して保健指導の一環としての運動指導の可否を判断する際の考え方

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第 2章 CKDの治療

1)BMI 管理のための運動指導 メタボリック症候群はCKDのリスクファクターである.したがって,適切な体重にコントロールすることはCKDを進展させないためにも重要である.特に脂肪組織体積の変化は,炎症マーカーや代謝異常マーカーなどと相関することが報告されており,脂肪組織由来の炎症は肥満に伴う腎障害の主たる原因と想定されている. 身体活動量の増加や習慣的な有酸素性運動により,エネルギー消費量が増加し,内臓脂肪と皮下脂肪がエネルギー源として利用され,腹囲や体重が減少する.

2)血圧管理のための運動指導 高血圧はCKDの原因なり,CKDの病態を悪化させる.逆にCKDが高血圧の原因ともなり,高血圧の重症化の要因となるため,適切な血圧管理が必要である.一般的に身体活動は,血管内皮機能,血流調節,動脈伸展性などを改善し,降圧効果があると考えられている.3)血糖管理のための運動指導 薬剤を使用した糖尿病性腎症患者の血糖管理については,血糖コントロールを強化することで,微量アルブミン尿あるいは顕性アルブミン尿への進展リスクを軽減する.身体活動は,骨格筋のインスリン抵抗性を改善し,血糖値を低下させる効果があることが期待される.4)脂質管理のための運動指導 CKD患者では心血管疾患発症の高リスク群であり,脂質異常症はCKDにおいても動脈硬化性心血管疾患の危険因子である.脂質低下治療は心血管疾患のリスクを低下させる.身体活動を行うことにより,トリグリセライドの分解が促進し,HDLコレステロールが増加することが知られている.

身体活動のリスクに関するスクリーニングシート保健指導の一環として身体活動(生活活動・運動)に積極的に取り組むことを検討する際には,このスクリーニングシートを活用してください.

チェック項目 回答

1 医師から心臓に問題があると言われたことがありますか?(心電図検査で「異常がある」と言われたことがある場合も含みます) はい いいえ

2 運動をすると息切れしたり,胸部に痛みを感じたりしますか? はい いいえ

3 体を動かしていない時に胸部の痛みを感じたり,脈の不整を感じたりすることがありますか? はい いいえ

4 「たちくらみ」や「めまい」がしたり,意識を失ったことがありますか? はい いいえ

5 家族に原因不明で突然亡くなった人がいますか? はい いいえ

6 医師から足腰に障害があると言われたことがありますか?(脊柱管狭窄症や変形性膝関節症などと診断されたことがある場合も含みます) はい いいえ

7 運動をすると足腰の痛みが悪化しますか? はい いいえ

【参考】Physical Activity Readiness Questionaire(PAR‒Q)

「はい」と答えた項目が 1 つでもあった場合は,身体活動による代謝効果のメリットよりも身体活動に伴うリスクが上回る可能性があります.身体活動に積極的に取り組む前に,医師に相談してください.

すべて「いいえ」であった場合は,参考資料 5 に例示する「運動開始前のセルフチェックリスト」を確認した上で,健康づくりのための身体活動(特に運動)に取り組みましょう.

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4.運動療法

5)運動指導の可否 運動は致死的なイベント(不整脈や虚血性心疾患,突然死)に関与する可能性があり,運動を指導する場合には十分な注意を要するため,個々の患者の活動性,運動対応能,循環器系のリスクなどを定期的に評価したうえで運動計画を立てるのが望ましい.下記に保健指導の一環としての運動指導の可否を判断する際の考え方を示す.また,身体活動の可否を判定する際に参考となるスクリーニングシート,さらには運動開始前のセルフチェックリストを示す.これらを参考として,運動療法が勧められない患者には運動指導を行わないよう十分な配慮を要する.

運動開始前のセルフチェックリスト健康づくりのための運動に取り組むときには,体調の確認が大切です.

自分でチェックする習慣をつけましょう.チェック項目 回答

1 足腰の痛みが強い はい いいえ2 熱がある はい いいえ3 体がだるい はい いいえ4 吐き気がある,気分が悪い はい いいえ5 頭痛やめまいがする はい いいえ6 耳鳴りがする はい いいえ7 過労気味で体調が悪い はい いいえ8 睡眠不足で体調が悪い はい いいえ9 食欲がない はい いいえ

10 二日酔いで体調が悪い はい いいえ11 下痢や便秘をして腹痛がある はい いいえ12 少し動いただけで息切れや動悸がする はい いいえ13 咳やたんが出て,風邪気味である はい いいえ14 胸が痛い はい いいえ15 (夏季)熱中症警報が出ている はい いいえ

昭和 63 年度 日本体育協会「スポーツ行事の安全管理に関する研究」より引用改変

運動を始める前に一つでも「はい」があったら,

今日の運動は中止してください.

すべて「いいえ」であれば,無理のない範囲で※運動に取り組みましょう.

(注)このセルフチェックリストでは,分かりやすくするために「運動」としていますが,生活活動(運動以外の身体活動)の場合も,強度が強い場合は同様の注意が必要になります.

※ 運動中に「きつい」と感じる場合は,運動強度が強すぎるかもしれません.適切な運動強度を知るためにも,自分で脈拍数を確認する習慣をつけましょう.

(例) あなたが 40 ~ 50 歳代で脈拍数が 145 拍/分以上になるようなら,その運動は強すぎる可能性があります.

※ 無理は禁物です.運動中に「異常かな」と感じたら,運動を中止し,周囲に助けを求めましょう.

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第 2章 CKDの治療

B運動療法の実際 運動が CKDの発症・進展に影響を与えるかについては十分に明らかになっていない点が多く,原疾患(C),腎機能(G),蛋白尿量(A),血圧・血糖値などの合併症のコントロール状況を参考とする必要がある.極度に激しい運動は腎機能の悪化を招く可能性があり,特に腎機能が重度低下している患者やネフローゼ症候群などの蛋白尿が多い患者には不適当であるとされている.CKDの Gステージごとの運動強度について,日本腎臓学会から示されたガイドラインを参考とした対応メッツ表を示す.CKD患者の運動能力は個人差が大きいため,具体的な運動の実施は個々の身体機能を考慮したうえで設定すべきである.1)運動の種類 有酸素性運動を行うことで,循環器系指標(血圧,心拍数など)の改善が見込まれる.しかし,筋力向上の観点において有酸素性運動の効果は明らかではなく,レジスタンストレーニングがより効果的と考えられている.特に生活動作が困難な患者などにおいては,レジスタンストレーニングを実施することで動作を安全に行えるような能力を獲得することが重要である.また,有酸素性運動とレジスタンストレーニングを組み合わせて行うことも効果的である.2)身体活動量 身体活動量の低下は生命予後の悪化を招くため,1日の身体活動量を増加させることが重要である.身体活動量の測定は,歩数計や活動量計を用いることで客観的な評価が可能となり,活動量計を身に付けるだけで身体活動量の増加が期待できる場合もある.身体活動量の増加にあたっては,少量から行うことで導入が容易となるため,「1日のうち 10 分(1,000 歩)だけよけいに歩く」など実現可能な設定から実施していく. また,意識的に運動を実施している場合でも,日中のほとんどを座位や臥位で過ごしている場合,体力低下が起こりやすい.そのため,トレーニングとしての運動指導だけでなく,趣味や余暇活動などを通じて活動時間を増やしていくことが重要である.

CKD ステージ 運動強度G1

5‒6 メッツ以下G2G3a

4‒5 メッツ以下G3bG4

3‒4 メッツ以下G5

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4.運動療法

運動のメッツ表メッツ 3 メッツ以上の運動の例

3.0 ボウリング,バレーボール,社交ダンス(ワルツ,サンバ,タンゴ),ピラティス,太極拳

3.5 自転車エルゴメーター(30 ~ 50 ワット),自体重を使った軽い筋力トレーニング(軽・中等度),体操(家で,軽・中等度),ゴルフ(手引きカートを使って),カヌー

3.8 全身を使ったテレビゲーム(スポーツ・ダンス)4.0 卓球,パワーヨガ,ラジオ体操第 14.3 やや速歩(平地,やや速めに= 93 m/分),ゴルフ(クラブを担いで運ぶ)4.5 テニス(ダブルス)*,水中歩行(中等度),ラジオ体操第 24.8 水泳(ゆっくりとした背泳)5.0 かなり速歩(平地,速く= 107 m/分),野球,ソフトボール,サーフィン,バレエ(モダン,ジャズ)5.3 水泳(ゆっくりとした平泳ぎ),スキー,アクアビクス5.5 バドミントン

6.0 ゆっくりとしたジョギング,ウェイトトレーニング(高強度,パワーリフティング,ボディビル),バスケットボール,水泳(のんびり泳ぐ)

6.5 山を登る(0 ~ 4.1 kg の荷物を持って)6.8 自転車エルゴメーター(90 ~ 100 ワット)7.0 ジョギング,サッカー,スキー,スケート,ハンドボール*

7.3 エアロビクス,テニス(シングルス)*,山を登る(約 4.5 ~ 9.0 kg の荷物を持って)8.0 サイクリング(約 20 km/時)8.3 ランニング(134 m/分),水泳(クロール,ふつうの速さ,46 m/分未満),ラグビー*

9.0 ランニング(139 m/分)9.8 ランニング(161 m/分)

10.0 水泳(クロール,速い,69 m/分)10.3 武道・武術(柔道,柔術,空手,キックボクシング,テコンドー)11.0 ランニング(188 m/分),自転車エルゴメーター(161 ~ 200 ワット)

メッツ 3 メッツ未満の運動の例2.3 ストレッチング,全身を使ったテレビゲーム(バランス運動,ヨガ)2.5 ヨガ,ビリヤード2.8 座って行うラジオ体操

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A血圧管理1.降圧目標を達成するための降圧療法と降圧薬の選択(図 15)

・�蛋白尿(アルブミン尿)陽性あるいは糖尿病合併した場合の降圧目標は 130/80mmHg 未満,蛋白尿陰性で糖尿病も無い場合には 140/90mmHg 未満とする.・�まず第一選択薬を使用し,降圧目標が達成できないときには併用療法が必要である.例えばRA系阻害薬を第一選択薬として降圧目標が達成できないときには,第二選択薬として長時間作用型 Ca 拮抗薬,サイアザイド系利尿薬(CKDステージ G1~G3),長時間作用型ループ利尿薬(CKDステージG4~G5)による併用療法を考慮する.・厳格な降圧を達成するために 3~5剤の降圧薬の併用が必要な場合がある.・�季節性血圧変動が高血圧やCKDの病態を悪化させる可能性が懸念されている.血圧の季節による変動にも注意し,夏季の過剰降圧,冬季の降圧不良がないように,降圧薬の調整を行うことも必要である.

2.尿蛋白減少と eGFR 維持によるCKD進行抑制とCVD発症予防の効果

・�一般住民や CKD患者を対象としたコホート研究のメタ解析の結果では,尿蛋白量と eGFRの両者が CKD進行や CVD発症と死亡に関連していることが示されている.・�CKDにおける降圧療法においては,持続的に蛋白尿・アルブミン尿を減少させるとともに,eGFR低下を最小限にとどめることが,CKD進行抑制とCVD発症予防のために重要であると考えられる.・�尿蛋白量の評価にあたっては,糖尿病患者に対しては,アルブミン定量精密測定(尿中アルブミン/尿中クレアチニン比,mg/gCr)を行うが,糖尿病合併CKDでの糖尿病性腎症第 3期A(顕性腎症前期)以降および糖尿病非合併CKDでは,尿蛋白定量(尿蛋白/Cr 比,g/gCr)を行う.・�RA系阻害薬は他のクラスの降圧薬に比較して尿蛋白減少効果に優れており,RA系阻害薬による腎保護効果は糸球体高血圧の程度が強いほど,つまり尿蛋白・アルブミン排泄量が多いほど期待できる.・�高齢者では虚血性腎障害や動脈硬化性腎動脈狭窄症を合併する可能性が高く,RA系阻害薬の初期量は少量から開始し,必要に応じて時間をかけて増量する.特に高齢のCKDステージG3a以降の糖尿病合併CKD患者では,RA系阻害薬投与により腎機能障害が増悪することがあるので注意する.・�就寝前の降圧薬の服用は,CVD発症を約 70%抑制するという報告がある.これには,特に夜間血圧の降圧による血圧日内変動の改善とそれに伴う尿蛋白減少の関与が考えられる.

3.降圧薬投与時の注意事項(図 16)

・�CKD患者にRA系阻害薬,利尿薬を投与すると,過剰降圧,eGFRの低下,あるいは血清Kの上

5 薬物療法

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5.薬物療法

第一選択薬

第二選択薬

利尿薬第三選択薬

正常蛋白尿の糖尿病非合併CKD糖尿病合併CKD,軽度以上の蛋白尿を呈する糖尿病非合併CKD

これまでのステップで,降圧目標が達成できなければ専門医へ紹介

RA系阻害薬(ARB, ACE阻害薬 )● すべてのCKDステージにおいて投与可能● ただし,CKDステージG4, G5,高齢者CKD では,まれに投与開始時に急速に腎機能が悪 化したり,高K血症に陥る危険性があるので, 初期量は少量から開始する.● 降圧が認められ,副作用がない限り使い続ける.

長時間作用型 Ca拮抗薬● すべてのCKDステー ジにおいて投与可能● 尿蛋白減少効果のあ るCa拮抗薬を考慮

サイアザイド系利尿薬● 原則CKDステージG1 ~G3(CKDステージ G4~G5では ループ利 尿薬との併用可)長時間作用型ループ利尿薬● CKDステージG4~ G5

降圧薬の種類を問わないので, 患者の病態に合わせて降圧薬を選択

RA系阻害薬(ARB, ACE阻害薬)● すべてのCKDステージにおいて投与可能● ただし,CKDステージG4, G5,高齢者 CKDでは,まれに投与開始時に急速に腎 機能が悪化したり,高K血症に陥る危険 性があるので,初期量は少量から開始す る。 長時間作用型Ca拮抗薬● すべてのCKDステージにおいて投与可能● CVDハイリスク,Ⅲ度高血圧症例に考慮

利尿薬● 体液過剰(浮腫)症例に考慮 (サイアザイド系利尿薬)● 原則CKDステージG1~G3(CKDステージG4~G5ではループ利尿薬 との併用可) (長時間作用型ループ利尿薬)● CKDステージG4~G5

そのほかの降圧薬● β遮断薬,α遮断薬,中枢性交感神経遮 断薬など

● 降圧薬の単独療法あるいは3剤までの併 用療法にて降圧が認められ,副作用がな い限り使い続ける.長時間作用型Ca拮抗薬

CVDハイリスク,III度高血圧

体液過剰(浮腫)

図 15 CKD合併高血圧に対する降圧薬の選択

CKD 診療ガイド 2012 p67 表 34 より

No Yes

継続● 原疾患の治療 生活習慣の修正 (減塩など)

● RA系阻害薬などの続行● 降圧不十分なら長時間作用型 Ca拮抗薬,利尿薬などの併 用,用量・服薬時間の調節

目標血圧:130/80mmHg以下

RA系阻害薬あるいはほかの降圧薬*2

血圧測定,腎機能,電解質,尿の定期的検査

● eGFR30%以上の低下● 血清K 5.5mEq/L以上● 急激な血圧低下(特に高齢者では原則収縮期 血圧110mmHg未満)

降圧薬の減量あるいは中止専門医に相談原因検索*3

血圧測定,腎機能,血清電解質,尿検査,尿蛋白の測定*1,血圧日内変動の評価

図 16 慢性腎臓病 (CKD) を合併する高血圧の治療計画

CKD 診療ガイド 2012 p70 表 37 より

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第 2章 CKDの治療

昇(利尿薬単独投与時あるいは複数の利尿薬併用時には血清Kの低下)がみられることがある.・�また夜間高血圧や早朝高血圧などの血圧日内変動の異常は,CKDを悪化させる危険因子である.・�患者には起床後 1時間以内,排尿後,座位 1~2分の安静後,服薬前,朝食前と,就床前,座位1~2分の安静後とする 2回の家庭血圧を測定して記録し,来院時に持参してもらう.診察室血圧と家庭血圧,さらには可能であればABPMを参考に,血圧日内変動を把握して,降圧薬の服用時間の調整を含めた,血圧の管理および治療の計画を立てる.・�RA系阻害薬,利尿薬の開始後は診察室血圧,eGFRや血清Kを 2週間~1カ月以内に測定し,その後もモニタリングする.しかし,投与開始 3カ月後の時点までの前値の 30%未満の eGFR低下は,薬理効果としてそのまま投与を継続してよい(例:eGFR�60�mL/分/1.73m2 の患者なら,治療後 eGFR�43�mL/分/1.73m2 までの低下を許容範囲と考える).・�CKDステージG4~G5 では,RA系阻害薬の初期量は少量から慎重に開始する.また,高齢者CKDにおいても,RA系阻害薬の初期量は少量から開始し,4週間~3カ月の間隔で増量する.

・�eGFR が前値の 30%以上低下した場合,血清Kが 5.5�mEq/L 以上に上昇した場合には,薬剤を減量するか中止して,腎臓・高血圧専門医にコンサルトする.RA系阻害薬あるいは利尿薬投与中における eGFR�の過度な低下の原因には,❶動脈硬化性腎動脈狭窄症(特に両側性)❷非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やシクロスポリン投与❸心不全❹脱水(特に高齢者では夏場や下痢,食思不振時)❺尿路異常(特に水腎症)などがある.これらの可能性があるときには,慎重に投与するか投与を控える.・�降圧薬を服用中の患者で,食事摂取ができない,嘔吐している,下痢をしている,あるいは発熱など脱水になる危険があるときには,急性腎障害(acute�kidney� injury:AKI)予防の観点から,これらの降圧薬を中止して速やかに受診するように患者に指導する.特に高齢者では上記に加えて夏場の脱水に注意が必要である.また,他院で腰痛などのためにNSAIDs を投与されていることもある.そのような薬剤を投与されていないかを確認する.・�脳梗塞や狭心症・心筋梗塞などの CVDをすでに合併している患者では,過度の降圧によりCVDを増悪させ,かえって死亡率が高まることも懸念される.・�特に高齢者では急激な降圧は腎機能を悪化させる危険があり,また,動脈硬化性腎動脈狭窄症の可能性もあるために,RA系阻害薬の初期量は少量から開始し,4�週間~3カ月の間隔で時間をかけて増量する.・�睡眠時無呼吸症候群(sleep�apnea�syndrome:SAS)の患者では夜間高血圧,早朝高血圧を呈する頻度が高いことが報告されており,SASのスクリーニングと治療もCKD�における血圧日内変動改善のために重要である.・�1 日食塩摂取量を 3�g/日以上 6�g/日未満にするように指導する.減塩によりRA系阻害薬の降圧効果が増強される.高齢者における過度な塩分制限は食欲を低下させ,脱水から腎機能を悪化させることがある.食塩制限が困難なときには利尿薬を少量から併用してもよい.サイアザイド系利尿薬(CKDステージG1~G3)や長時間作用型ループ利尿薬(CKDステージG4~G5)を併用することで,食塩排泄を促進できる.しかし,腎機能低下,低K�血症や高尿酸血症,糖・脂質代謝異常,脱水に対する注意が必要である.

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5.薬物療法

B血糖管理1)糖尿病における血糖コントロールの目標 日本糖尿病学会による血糖コントロールの目標を図 17(糖尿病治療ガイド 2014−2015�p25�図7から引用)に示す.合併症予防のための血糖コントロール目標は,HbA1c で 7.0%(NGSP)未満である.糖尿病性腎症のCKDステージG3以降では,薬物投与による重症低血糖リスクが高くなるため個々の症例に応じた血糖コントロール目標を設定する. さらにHbA1c やグリコアルブミンは,それぞれ貧血や低アルブミン血症があるとき,血糖の管理状態を正確に反映しない.HbA1cは赤血球寿命の低下とエリスロポエチン製剤使用により低値を示すことがある.したがって,CKDで貧血や低アルブミン血症のある場合は,HbA1c やグリコアルブミンの評価に注意を要する. また,進行した糖尿病網膜症を合併した場合には,急激な血糖改善により網膜症が悪化することがある.このため血糖管理の十分でない症例では,糖尿病性網膜症を評価したうえで血糖コントロールの治療方針を決定する.

2)CKD合併糖尿病に対する薬物療法 CKDステージの進展に伴い慎重投与や禁忌となる薬剤があるため,CKD合併糖尿病患者に対する糖尿病治療薬の選択には注意を要する.CKDステージG4以降における糖尿病治療薬の注意点を表 8(CKD診療ガイド 2012�p74�表 28 を改変・引用)に示す. チアゾリジン薬は重篤な腎機能障害のある患者では禁忌とされており,CKD�ステージ G4 で禁忌である.すべてのビグアナイド薬は,まれではあるが乳酸アシドーシスを起こすため,過度のアルコール摂取,脱水の患者では禁忌である.メトグルコを除くビグアナイド薬は,腎機能障害者(透析者を含む)および高齢者には禁忌である.メトグルコは,血清Cr 値(酵素法)で男性1.3�mg/dL,女性 1.2�mg/dL以上の患者に対する投与が推奨されていない.高齢者では血清Cr値

図17 血糖コントロールの目標 (HbA1cはNGSP値)

糖尿病治療ガイド2014-2015 p25 図7から引用

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第 2章 CKDの治療

が正常範囲内であっても実際の腎機能は低下していることがあるので,eGFRなども考慮して腎機能の評価を行う.具体的には腎排泄性の薬剤は体表面積補正をしないGFRで判定し,GFR45~30�mL/分で使用量を減らすなど慎重投与が必要であり,GFR�30�mL/分未満では投与中止することを推奨する. インスリン非依存状態の糖尿病CKD患者では,DPP‒4 阻害薬(ビルダグリプチン,アログリプチン,アナグリプチン,サキサグリプチン)を用量調節して慎重投与可能である.リナグリプチン,テネリグリプチンは用量調節の必要はない.ただし,シタグリプチンはCKDステージG4以降では禁忌である.SGLT2阻害薬は,重度の腎機能障害のある患者では効果が期待できないため投与しない.GLP‒1 アナログであるリラグルチド,リキシセナチドは糖尿病のすべての病期のCKD�患者に慎重投与することが可能であるが,エキセナチドはCKDステージG4以降では禁忌である. CKD�患者で血糖管理が十分でないときには,積極的なインスリン治療が望ましい.一方で腎機能の低下したCKD患者ではインスリンの半減期が延長するため,低血糖のリスクが高まる.SU薬の投与や持続型のインスリン製剤の使用には注意が必要である.SU薬はCKDステージG4�以降では禁忌である.

表 8 CKDステージG4以降における糖尿病治療薬経口糖尿病治療薬αグリコシダーゼ阻害薬 用量調節不要,ただしミグリトールは慎重投与チアゾリジン誘導体 禁忌SU 薬 禁忌ビグアナイド薬 禁忌

グリニド系ナテグリニド 禁忌ミチグリニド 慎重投与レパグリニド 慎重投与

DPP-4 阻害薬

アログリプチン 慎重投与,用量調節 6.25mg に減量ビルダグリプチン 慎重投与,用量調節 50mg に減量シタグリプチン 禁忌リナグリプチン 用量調節不要

皮下注の糖尿病治療薬

GLP-1 アナログリラグルチド 慎重投与,用量 0.3 ~ 0.9mgエキセナチド 禁忌

インスリン製剤 投与量の調節CKD 診療ガイド 2012 p.74 表 28 より引用

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5.薬物療法

C脂質管理 脂質異常症は,CKD�の発症・進行およびCVD(心血管疾患)発症の危険因子であると考えられ,脂質異常症の治療により,CKDの進行抑制とCVD�の発症予防が期待される.

1)CKD患者における脂質異常症に対する薬物療法の有用性①CKD発症・進行抑制効果 CKD患者では脂質異常症を伴うことが多く,ネフローゼ症候群では高 LDL コレステロール(LDL-C)血症,腎不全では低HDLコレステロール(HDL-C)血症や高トリグリセライド(TG)血症を特徴とする脂質異常症を呈することが多い.一方,脂質異常症はCKDの発症や進展の危険因子でもある.1982 年に,脂質異常により腎障害が惹起されるという脂質腎毒性(lipid�neph-rotoxicity)の概念が提唱され,脂質異常症によってもたらされる炎症,酸化ストレス,小胞体ストレスが糸球体上皮細胞や血管内皮細胞に障害をもたらすという機序が考えられている.スタチンは,脂質異常症を改善させるとともに多面的作用(pleiotropic�effect)による抗炎症作用や抗酸化作用により,CKD患者の蛋白尿や微量アルブミン尿を軽減することが明らかにされ,腎機能障害の進展抑制効果を有することも示唆されている.また,エゼチミブの併用により,さらなる腎保護効果がもたらされることが報告されている.

②CKD患者の CVD発症抑制効果 スタチン単独療法あるいはスタチンとエゼチミブ併用療法により,CVDの発症が抑制されることが報告されている.特に,CKDステージ G3 の患者において有用とされているが,CKDステージ G4 以降や透析患者における有効性は明らかではない.ただし,透析患者においてもLDL-C 髙値例や糖尿病例では,有意にCVDを抑制することが大規模研究のサブ解析で示されている.したがって,脂質異常症を伴うCKD患者では長期的にスタチンを使用することが推奨される.③CKD患者における脂質低下療法の注意点スタチンは胆汁排泄性のため,腎機能低下時にも用量調整は必要ない.腎機能障害例ではスタチンによる横紋筋融解症の危険が高まるのではないかということが危惧されているが,メタ解析で非CKD患者と差がないことが示されており,CKD患者でも安全に使用できる.しかし,フィブラート系薬剤の併用については,CKD患者では横紋筋融解症のリスクが増大するため,原則的に併用すべきではない.

2)CKDにおける脂質管理目標値 わが国のガイドラインでは,CKDは高リスク群に位置付けられ,一次予防高リスク病態としてLDL-C�<�120�mg/dL,non-HDL-C�<�150�mg/dL(あるいは LDL-C�+�30�mg/dL),二次予防として LDL-C�<�100�mg/dL,non-HDL-C�<�130�mg/dL が管理目標値として推奨されている.LDL-C値は,空腹時TC値,TG値およびHDL-C 値を測定し,Friedewald の式 LCL-C�=�TC−HDL-C−TG/5 より算出するが,食後やTG値 400�mg/dL�以上のときには直接法を用いて測定する.non-HDL-C は,LDL-C と TG-rich リポ蛋白のもつコレステロールの総和として,LDL-C に 30�mg/dLを加えた値として近似でき,LDL-C よりも動脈硬化性CVDリスク予測能に優れるともいわれている.non-HDL-C は食事に影響されないため,外来で空腹時採血が困難な場合や,高TG血症の

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第 2章 CKDの治療

ためにFriedewaldの式が使用できない症例にも有用である.高TG血症に関しては急性膵炎発症の危険回避のために,CKDの有無にかかわらず,TG�<�500�mg/dL の管理が推奨されている.CKD�における脂質異常症治療目標については日本人のエビデンスは不十分であり,今後の検討課題である. 一方,欧州のガイドラインでは,中等度~高度(ステージG2~G4)の CKDにおいて,LDL-C�<�70�mg/dL と厳格な脂質管理が推奨されている.また,KDIGOのガイドラインでは脂質管理目標値は設定されておらず,50 歳以上の未透析CKD(ステージG3~G5)患者全例にスタチン単独あるいはスタチン+エゼチミブの併用療法が推奨されている.このような治療方式は “fire�and�forget” と呼ばれ,管理目標値を定めて達成に努めるという従来の “treat�to�target” 方式とは異なり,治療が有効と考えられる対象例に対して治療を始めたら,その後は検査値をモニターせずに治療を継続すればよいという方式である.この方式が採用された根拠としては,これまでのエビデンスが,固定用量のスタチンを用いてプラセボ群と比較する,あるいは異なる用量の 2群を比較するというデザインで実施されており,管理目標値を定めて薬剤量を調整するという treat�to�target 方式のデザインではなかったことがあげられている.

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5.薬物療法

D尿酸管理1)CKDにおける高尿酸血症 血清尿酸値 7.0�mg/dL�を超えるものを高尿酸血症と定義する. 腎機能低下に伴って尿酸排泄低下により高尿酸血症の頻度は高まるが,痛風関節炎の発症頻度は低い.高尿酸血症は動脈硬化やCKDの進展に影響を及ぼす可能性があり,わが国の成績では,女性で血清尿酸値>6.0�mg/dL�で末期腎不全のリスクが有意に高まることが知られている. 血清尿酸値を下げるために生活習慣の改善を指導することが望ましい.過食,高プリン・高脂肪・高たんぱく質食嗜好,常習飲酒,運動不足などの生活習慣は,高尿酸血症の原因となるばかりでなく,肥満,高血圧,糖・脂質代謝異常やメタボリックシンドローム合併ともかかわるため,その是正は重要である. CKD治療においてしばしば用いられる利尿薬(サイアザイド系・ループ系)は血清尿酸値を上昇させるため,高尿酸血症出現時には注意深く使用し,場合によっては減量・休薬も考慮する.

2)CKDにおける高尿酸血症の薬物治療 痛風関節炎を繰り返したり痛風結石を認める症例は,薬物治療の対象となり血清尿酸値を6.0mg/dL�以下に維持することが望ましい. CKD�ステージ G4~G5 において生活習慣改善にもかかわらず血清尿酸値が 9.0�mg/dL�を超える無症候性高尿酸血症では,エビデンスはないものの薬物治療が考慮される場合が多い. 尿酸降下薬には,尿酸生成抑制薬(キサンチンオキシダーゼ阻害薬)と尿酸排泄を促進する尿酸トランスポーター阻害薬があり,腎障害合併例,尿路結石保有例では,尿酸生成抑制薬を使用する. 海外の成績では,アロプリノールによる尿酸降下療法の結果,2年後の eGFRはコントロール群で3.3�mL/分/1.73�m2低下したのに対し,アロプリノール群では1.3�mL/分/1.73�m2上昇したとの報告もあり,CKD進展抑制を目的として,高尿酸血症の治療を考慮してもよい.ただし,腎不全例では,アロプリノールの重篤な副作用の頻度が高いことが報告されており,その原因としてアロプリノールの活性代謝物である血中オキシプリノール濃度の上昇が考えられる.血中オキシプリノール濃度を安全域とされる 20μg/mL�以下にするためには,腎機能の程度に応じてアロプリノールの使用量を減じる必要がある(表 9).

表 9 腎機能に応じたアロプリノールの使用量腎機能 アロプリノール投与量

Ccr>50mL/ 分 100 ~ 300mg/ 日30mL/ 分 <Ccr ≦ 50mL/ 分 100mg/ 日Ccr ≦ 30mL/ 分 50mg/ 日血液透析施行例 透析終了時に 100mg腹膜透析施行例 50mg/ 日Ccr:クレアチニン・クリアランス

高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第 2 版

 新たな尿酸生成抑制薬フェブキソスタット(フェブリク ®)は,中等度までの腎機能低下例では腎機能に応じた減量は不要であるが,CKDにおけるエビデンスは不十分である.

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第 2章 CKDの治療

 クレアチニン・クリアランス(Ccr)が 30�mL/分以下の腎機能低下例では,尿酸生成抑制薬と尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン:ユリノーム ®)の少量併用も有効である.尿酸排泄促進薬を処方する場合には,尿酸結石を防ぐために,尿酸の尿中濃度は可能であれば50�mg/dL�以下に,また尿 pH�は 6.0�以上,できれば 6.4�以上が望ましい.尿量を 1.5�L�程度とすることで,尿中尿酸濃度は概ね 50�mg/dL 以下となる. 尿アルカリ化剤としては,重曹もしくはクエン酸カリウム+クエン酸ナトリウム(ウラリット ®)が用いられる.後者は長時間作用型であり,より適切である.重曹の使用時にはNa�負荷に,ウラリット ®使用時にはK負荷に留意する. また,シクロスポリン治療中の腎移植患者の高血圧・高尿酸血症コントロールにはロサルタンカリウムが有用であり,また腎移植後の高尿酸血症のコントロールには尿酸生成抑制薬より尿酸排泄促進薬の有用性が高いとされている.

3)CKDにおける痛風発作時の対応 痛風発作時の対応においては,腎機能正常時に実施される NSAIDs�短期間大量投与法(NSAIDs パルス)は腎機能低下時には腎機能増悪の可能性が高いため,避けることが望ましい.痛風発作時の治療法として,NSAID が使用できない場合,NSAID 投与が無効であった場合,多発性に関節炎を生じている場合などには,経口にて副腎皮質ステロイドを投与する. 例)��プレドニゾロン 15~30�mg/日を経口投与して関節炎を沈静化させ,1週間ごとに 1/3 量ず

つ減量し,3週間で中止 例)プレドニゾロン 30 ~ 35�mg/日から開始し,10 日間で漸減中止 また,関節内への副腎皮質ステロイド注入も有効である. コルヒチンは痛風発作の頓挫薬であり,すでに痛風発作を発症している患者に対しては多くの場合無効であるが,短期間に頻回に痛風発作を繰り返す患者では,「コルヒチンカバー」と呼ばれるコルヒチンの予防投与が有効である.しかし,CKD患者ではクラリスロマイシンとの併用により致死性の相互作用を起こすとの報告もあり,注意が必要である.

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5.薬物療法

E高カリウム血症管理 通常,血清カリウム値 5.5�mEq/L 以上を高カリウム血症といい,血清カリウム値 7mEq/L 以上では心停止の危険があり,緊急治療の適応となる. CKDはステージが進行すると腎機能の低下と代謝性アシドーシスにより,血清カリウム(K)値は上昇する.さらにCKDが高度に進行すると致死的な高カリウム血症となるためカリウム摂取量の厳格な制限をしたうえで定期的に血清カリウム値の確認が必要である. CKDにおける管理目標値は 4.0~5.4mEq/L である.1)通常治療:血清カリウム値 5.5mEq/L 以上食事療法でカリウム制限(1,500mg/日)を行うのみでは管理ができない場合,薬物療法を併用する.①体外へ排泄・利尿薬:�ループ利尿薬はヘンレループの上行脚に作用し,Na+-K+-2Cl−共輸送体を阻害する.

また,サイアザイド系利尿薬は近位尿細管中に分泌され,遠位尿細管においてNa+-Cl−共輸送体を抑制する.Na+の再吸収を阻害することにより,アルドステロン依存性のNa/K交換系が亢進して血清カリウム値が低下する.高カリウム血症に高血圧,浮腫が合併している場合,ループ利尿薬を使用する.

ループ利尿薬:例)フロセミド 20~40�mg 分 1~2,朝食後あるいは昼食後       例)アゾセミド 30~60�mg 分 1,朝食後・陽イオン交換樹脂:�合成樹脂の陽イオン(ナトリウム,カルシウム)とカリウムを交換して血

清カリウム値を低下させる.ナトリウムと交換させるケイキサレート ®やカルシウムと交換させるカリメート ®などがある.便秘をきたすことがあり少量より開始し,血清カリウム値に合わせて用量調節を行う.

例)カリメート ®�5~15�g 分 1~3例)ケイキサレート ®�5~15�g�分 1~3例)アーガメイトゼリー ®�25�g 1~3�個 分 1~3②アシドーシス補正 CKDが進行すると腎臓の酸排泄量が低下して血液中の重炭酸イオンが消費され重炭酸イオン減少による代謝性アシドーシスが起こる.代謝性アシドーシスの補正目標は,血清重炭酸イオン濃度 22mEq/L 以上が推奨される.・重炭酸Na:例)重曹(炭酸水素ナトリウム)1.5~3�g,分 32)緊急治療:血清カリウム値 7mEq/L 以上 高度の高カリウム血症にて心電図異常所見(T�波増高,PQ�延長,P�波消失,QRS�拡大)や徐脈,低血圧を認めたら,高カリウム�緊急症として以下の処置を行う.①不整脈の予防・Ca�の静注:例)グルコン酸Ca�10�mL,静注②カリウムの細胞内移行の促進・アルカリ化薬の静注:例)7%炭酸水素Na�20�mL�,静注・グルコース・インスリン療法:例)10%ブドウ糖 500�mL+インスリン 10�単位,点滴静注③カリウム�の体外へ除去・ループ利尿薬の静注:例)フロセミド 20�mg,静注

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第 2章 CKDの治療

・血液透析 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬(ACE�阻害薬,ARB,DRI,スピロノラクトン,エプレレノンなど),β遮断薬,ジギタリス製剤,NSAIDs,メシル酸ナファモスタット,トリメトプリム,ペンタミジンなどの薬物により高カリウム�血症が起こることがあり,CKDでは注意が必要である.CKDでは,これらの薬剤は少量から開始し,血清カリウムとCr をモニタリングし用量調節を行い高カリウム�血症の増悪時には原因薬剤を中止する.

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5.薬物療法

F貧血管理 CKD患者では貧血についての検査が必要であり,貧血があればその成因を検索する.CKD患者の貧血治療では,鉄欠乏の評価と適切な鉄補充が重要である.CKD患者に赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis�stimulating�agent:ESA)を投与するときは患者個別に合併症を考慮し,有効性と副作用を検討し,個々の患者に応じて適切に投与することが重要である. ESAの開始時期と投与量は,腎臓専門医に相談して決定する.CKD患者へのESAの投与開始はHb濃度 10�g/dL�以下とし,治療目標Hb�値を 10~12�g/dL として,12�g/dL を超えないよう配慮することを推奨する.Hb�濃度を意図的に 13�g/dL 以上にしてはならない.

1)CKDにおける腎性貧血 CKDでは腎性貧血をきたすため,腎機能が低下したCKDステージG3a~G5 では,貧血の有無を確認する必要がある. 腎性貧血では,一般に正球性正色素性貧血となる.また,赤芽球系の造血障害に伴い,網状赤血球数の相対的減少が認められる.腎性貧血は,腎からのエリスロポエチン産生低下,尿毒症性物質による造血障害,赤血球寿命低下など多因子による.エリスロポエチン濃度は貧血の程度に対して正常~低値にとどまるが,エリスロポエチン濃度の測定は腎性貧血の診断に必須ではない.腎性貧血は緩徐に進行するため,自覚症状に乏しい.

2)CKDにおける腎性貧血以外の貧血 CKDに伴う貧血は腎性貧血である可能性が大きいが,ほかの貧血の原因疾患を見逃してはならない.GFRが 30�mL/分/1.73�m2 以上のCKD�ステージG3b までにおいて貧血を認めた場合には,消化管出血などの腎性貧血以外の原因検索が必要である.癌性貧血に対する ESA投与試験で癌死の増加がみられたことから,担癌 CKD�患者への ESA投与は,その得失を十分検討のうえ,実施するか検討する.

3)貧血の治療による心・腎保護 腎機能障害の進展に腎性貧血が関与している.遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤(エポエチン)により貧血を改善することで,腎保護作用が認められることが日本人を対象とした研究で,無治療群を対照として示されている.また,わが国で行われた薬剤比較ランダム化試験では,高Hb�目標値群(目標Hb�11~13�g/dL,薬剤はダルベポエチンアルファ)が,低Hb目標値群(目標Hb�9~11�g/dL,薬剤はエポエチンアルファ)�より,腎生存率が高い傾向にあるという結果が示されているが,欧米で行われた大規模ランダム化比較試験とそのメタ解析では,高Hb 群(Hb13�g/dL�以上の正常値をめざした治療)の腎予後,生命予後,心血管イベントに対する有効性は証明されていない.貧血は心不全の増悪因子で生命予後悪化因子である.CVD(心血管疾患)を合併したCKDでは貧血を合併することが多く,貧血の治療により予後を改善できる可能性が示唆される成績がある.しかし,糖尿病性腎症保存期腎不全の患者を対象とした二重盲検介入試験では,ESAの副作用として脳卒中が増加する可能性が報告されている.CKDでは貧血治療により生活の質(QOL)が改善すると示唆されていたが,前述の糖尿病性腎症保存期腎不全患者を対象とした二重盲検介入試験では,その改善は軽微である.

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第 2章 CKDの治療

4)CKDでの貧血治療における鉄欠乏の評価と治療 CKD患者における貧血治療では,鉄欠乏の評価とそれに基づく適切な鉄補充が重要である.貧血を伴うCKD患者では,明らかな鉄欠乏がなくとも,鉄剤投与により貧血の改善が期待できる.ESA投与により相対的な鉄欠乏となるため,ESA�使用時には鉄欠乏対策が重要である.過剰な鉄剤投与によりヘモジデローシスを引き起こす危険があるため,その投与中は鉄指標検査(血清鉄,総鉄結合能,フェリチンなど)でのモニタリングが必要である.特に慢性肝障害を合併した患者における鉄剤投与は慎重に行う.�ESA�療法における鉄補充の開始基準は以下の通りである. ①TSAT(鉄飽和度)20%以下  TSAT=Fe(血清鉄)/TIBC(総鉄結合能) ②血清フェリチン値 100�ng/mL�以下鉄剤の投与 わが国のESA�導入前の慢性透析治療における鉄過剰症の経験から,鉄欠乏の診断には厳しい基準を採用することを推奨する.・�鉄剤の投与は経口投与を推奨する.ただし,経口鉄剤の投与が困難な場合や経口鉄剤だけでは鉄欠乏状態の改善が認められない場合は,静注鉄剤への変更を検討する.

・�経口鉄剤は,鉄として 1日当たり 100(105)~200(210)mgを投与する.静脈内投与の場合は鉄状態を確認しながら,通院時に 1�日 40~120�mg をゆっくり投与する.

・�鉄の管理目標は血清フェリチン 100�ng/mL またはTSAT�20%以上である.既存の血清鉄マーカーでは鉄過剰を判断できないので,CKD�患者で生命予後の悪化を認める血清フェリチン250�ng/mL以上には,鉄剤投与により意図的に増加させない.鉄剤に対するアレルギー反応やヘモジデローシスの合併に対する注意が必要である.

5)貧血治療の目標値 CKD患者には原則的にHb�濃度 10�g/dL 以下で ESA�投与開始を考慮する.Hbの治療目標値は 10~12�g/dL として,ESAに対する反応から 12�g/dL�を超えると予想されたら減量し,12�g/dLを超えないよう配慮することを推奨する.心不全を合併した透析患者において,ヘマトクリットを正常化した介入研究でヘマトクリットを正常化した群の死亡が,しなかった群より増加し試験が中断された成績や,保存期腎不全患者への無作為化介入試験の成績などから,ヘモグロビン13�g/dL 以上に意図的に増加してはならない.

6)ESA使用の実際 透析導入前の腎性貧血(血清クレアチニン濃度で 2�mg/dL 以上,あるいはクレアチニンクリアランス(Ccr)が 30�mL/分以下)に対する添付文書でのESA製剤の投与法は,エポエチン アルファベータカッパ(遺伝子組換え)はCcr30�mL/分未満で投与し,投与初期には,1回 6,000 国際単位を週 1回皮下投与する.貧血改善効果が得られたら,維持量として 1回 6,000~12,000 国際単位を 2週に 1回皮下投与する.rHuEPOはわが国の保険診療では 12,000 国際単位/2�週の投与が上限である.ダルベポエチンアルファ(遺伝子組換え)の初回用量は通常,成人には 2週に 1�回 30μg�を皮下または静脈内投与する.貧血改善効果が得られたら,維持用量は 2�週に 1回 30~120μg を皮下または静脈内投与する.2週に 1回投与で貧血改善が維持されている場合には,その時点での 1�回の投与量の 2�倍量を開始用量として 4�週に 1�回投与に変更し,4�週に 1回 60~180μg�を皮下または静脈内投与することができる.なお,いずれの場合も貧血症状の程度,年齢などにより適宜増減するが,最高投与量は 1回 180μg�とする. エポエチンベータペゴル(遺伝子組換え)の初回用量は,1回 25μg�を 2 週に 1回皮下または

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5.薬物療法

静脈内投与する.貧血改善効果が得られたら,維持用量として 1�回 25~250μgを 4週に 1回皮下または静脈内投与する.なお,いずれの場合も貧血症状の程度,年齢などにより適宜増減するが,最高投与量は 1回 250μgとする.ESAの投与によりHbが上昇しない場合にはESA低反応性の可能性があり,このような患者に対して ESAを大量に投与することは心血管イベントを起こす可能性が示唆されている.

7)治療における腎臓専門医とかかりつけ医の役割分担 ESA投与の開始時期と投与量は,腎臓専門医に相談して決定する.ESAを必要とするのは腎機能が高度低下したCKD�患者であり,その段階では腎臓専門医による治療が好ましい.ESA�による治療方針が決定した後は,腎臓専門医とかかりつけ医は連携して治療を継続することが望ましい.

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第 2章 CKDの治療

GCKD-MBD,代謝性アシドーシス,尿毒症毒素の管理1)CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD−MBD) 腎臓は,ミネラル代謝調節に大きな役割を果たしており,その異常は,CKDの進行に伴って必発し,CKD−mineral�and�bone�disorder(CKD−MBD)と総称されている. CKD−MBD�の最も頻度の高い病態は,二次性副甲状腺機能亢進症である.リン(P)が負荷されると骨よりFGF23 が分泌され,腎臓におけるビタミンDの活性化が障害され,副甲状腺ホルモン(PTH)分泌が亢進し,骨代謝回転が高まる.この異常は,CKDステージ G3a にはすでに始まっているが,FGF23 と PTH�の作用により Pは排泄されるので,血清 P濃度が実際に上昇してくるのは,ステージG4以降である. 加齢,閉経,糖尿病,原病に対する治療などによる骨・ミネラル代謝に対する影響を合併していることも考慮する.CKD�患者の骨粗鬆症(骨量減少)の評価と治療は,注意を要する. CKD−MBD�では,生化学検査や骨の変化だけではなく,血管石灰化など全身の広範な異常を生じ,CVD発症のリスクを増加させる可能性がある.�

2)診 断 ステージG3a から,血清 P,Ca,PTH,ALPの定期的評価を行う(当初は少なくとも 6カ月ごと程度).測定頻度は,ステージの進行と,異常の有無と程度により増やす. 血清 P濃度,Ca 濃度が施設の基準値を逸脱していれば,異常と考えるべきである(P:2.5~4.5�mg/dL,Ca�8.4~10.0�mg/dL�程度). 血清アルブミン濃度が4�g/dL未満では補正Ca濃度は以下の式で計算する補正Caを目安とする. 補正Ca�濃度(mg/dL)=実測 Ca�濃度(mg/dL)+〔4−血清アルブミン濃度(g/dL)〕 尿毒物質の蓄積により骨のPTH�に対する抵抗性を生ずるので,保存期におけるPTH�の至適濃度の根拠は乏しいが,施設の基準値上限(intactPTH�で概ね 65�pg/mL)を超えていれば,二次性副甲状腺機能亢進症が発症していると考えて対処する. ALPは,肝疾患のない患者では,骨代謝回転の指標として用いる.ALPは生命予後との関連も明らかになってきている. 原因不明の骨折が生ずる場合には,腎臓内科医ないし骨代謝専門医にコンサルトする.

3)治療およびフォローアップ P,Ca の管理を PTHの管理に先行させる.いずれも施設の基準値内を目指して管理する.ステージG4以降は,必要に応じて腎臓内科医のアドバイスを受ける. 血清 P値が高値であるほどCKDの生命予後,腎機能予後は不良であるため,CKDステージにかかわらず各施設の基準値内に保つことを推奨する. 保存期CKD患者の P摂取量はたんぱく質の摂取量に大きく影響を受けるため,P摂取指導はたんぱく質の指導と関連して行う.また無機リンを多く含む食品添加物(加工食品,ファストフード,清涼飲料水など)の摂取にも注意する. 現在,保存期 CKD患者で使用可能なリン吸着薬は,高 P血症の適応のある炭酸 Ca 製剤,非Ca 性リン吸着薬,クエン酸第二鉄がある.炭酸Ca 製剤は低 Ca 血症の補正が必要な際に有用であり,非Ca性リン吸着薬,クエン酸第二鉄はCa非含有である.またクエン酸第二鉄は鉄欠乏を有する場合に鉄補給が可能である.

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5.薬物療法

 病態に応じたリン吸着薬の選択を行い,投与中のCa,鉄動態の評価を行い,投与量を調節する. 例:カルタン ®錠(500�mg)6T 分 3 食直後 例:ホスレノールチュアブル ®錠(250�mg)3T 分 3 食直後 例:リオナ ®錠(250�mg)6T 分 3 食直後 補正Ca 濃度が基準値上限を超える症例では,原発性副甲状腺機能亢進症の合併を除外する.また,他医も含めてカルシウム製剤ないし活性型ビタミンD製剤の投与歴がないか,常用する.市販薬の内容に問題はないかチェックし,もしあれば減量ないし中止する. PTHの管理は,まず,P,Ca のコントロールを優先的に考え,可能であれば正常範囲内をめざし治療を行うことが望ましい.保存期CKD患者での経口活性型ビタミンD製剤服用は総死亡リスク低下と関連することは報告されており,少量から追加してもよい.ただし,P,Ca 濃度が上昇してくる場合は,腎機能を悪化させる可能性もあり,減量ないし中止が必要となる場合がある. 例:アルファロール ®カプセル(0.25μg)1C分 1朝食後 透析導入後は,日本透析医学会のガイドラインに従って管理する.<代謝性アシドーシス> 腎機能低下により腎臓からの酸排泄量が低下すると,血液中の重炭酸イオンが消費され,重炭酸イオン減少による高Cl�性の代謝性アシドーシス(アニオンギャップ(anion�gap:AG)正常)となる. さらに腎機能低下が進行し,硫酸やリン酸など内因性の無機酸塩の排泄低下が加わると,代謝性アシドーシス(AG�開大性)は悪化する.その場合は,腎臓専門医が診療することが望ましい. 代謝性アシドーシスの診断は動脈血または静脈血の血清重炭酸イオン濃度で行うが,血清Na−血清 Cl<36(主に血清重炭酸イオン濃度減少を反映)も参考になる. 重曹などで血中重炭酸濃度を適正にすると,腎機能低下,末期腎不全や死亡リスクが低減するため,代謝性アシドーシスの補正を推奨する.少なくとも血清重炭酸イオン濃度 22�mEq/L�以上を目標として管理することを推奨するが,過剰補正とならないように注意する必要がある.� 例:重曹(炭酸水素ナトリウム)1.5~3�g 分 3 各食後<尿毒症毒素の管理> 球形吸着炭は特殊な活性炭であり,インドキシル硫酸などの尿毒症物質を含むさまざまな物質を吸着し,便として排泄する. わが国での 460�人の血清クレアチニン(Cr)5.0�mg/dL�未満の CKD�患者を対象とした多施設共同ランダム化比較試験(RCT)では,腎複合一次エンドポイント(血清Cr�2 倍化,血清Cr の6.0�mg/dL 以上への上昇,透析導入あるいは腎移植,もしくは死亡)については球形吸着炭治療群と対照治療群との間に有意差がみられなかったが,二次エンドポイントのクレアチニンクリアランスの低下率は,球形吸着炭治療群のほうが有意に低値であった(Akizawa�T,�et�al.�Am�J�Kidney�Dis�2009;54:459-467.).CKDステージ G4~G5 では,他の標準的な治療に加えて球形吸着炭内服療法を併用することにより,CKD�進行の抑制効果と全身倦怠感などの尿毒症症状の改善が得られる可能性がある. 球形吸着炭は毒素だけでなく,同時に服用したほかの薬剤も吸着する可能性があり,時間をずらして服用することが望ましい. 球形吸着炭により便秘,食思不振などの消化器系合併症を生じることがあり,十分な注意が必要である.消化管通過障害を有する患者には投与禁忌である.また,消化管潰瘍,食道静脈瘤のある患者や便秘をしやすい患者では慎重に投与する必要がある.さらに,基礎疾患に肝障害を有する便秘傾向にある患者の場合には,血中アンモニア値が上昇する場合がある.

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第 2章 CKDの治療

 球形吸着炭は服薬量が多いこと,他の薬剤と服用時間をずらす必要があることから,服薬遵守率アドヒアランスが悪くなりやすく,注意が必要である. 例:クレメジン細粒 ®(2�g)3 包 分 3 各食間

クレメジンカプセル ®(200�mg)30 カプセル 分 3 各食間

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5.薬物療法

HCKDで注意すべき薬剤

CKDにおける薬物投与の基本

薬剤投与の際は,CKD患者においても以下の点についてあらかじめ十分把握しておく.❶腎障害,電解質異常の副作用の有無,❷�各薬剤の特性(薬物動態と薬物力学),特に腎排泄性かどうか(水溶性か脂溶性か),蛋白結合率,活性化物質の尿中排泄率,生物学的利用率など.❸患者の状態,腎機能のほか,心・肝機能,年齢,電解質異常・低蛋白血症の有無など.❹�複数の薬剤が投与されている場合は,併用薬との薬剤相互作用.

 腎臓は薬剤が蓄積しやすく,また,血行動態の異常,尿細管障害・閉塞,糸球体障害などさまざまな機序で障害を起こしうる.さらに,トランスポーターや尿細管機能に部分的に影響を与え,高カリウム血症などの電解質異常を生ずることもあり,とくに腎機能の低下したCKD患者では薬物の副作用リスクが上昇することが多い.薬物投与の際は,これらの副作用についてあらかじめ十分周知しておくことが重要である.一方,腎排泄性の薬剤の場合,CKD患者では,血中濃度上昇によってさまざまな副作用が出やすくなる. したがって,原則的には,CKD患者には腎障害性の薬物の投与を避け,治療効果との兼ね合いで代替薬の検討を行う.やむを得ず使用する場合には,慎重に腎機能などをモニタリングするとともに,腎機能の急性増悪時(AKI の出現)には薬物投与との関連も疑い,注意深く検討することが重要である. CKDで注意する薬物と腎機能障害の病態を表12にまとめる.とくに腎障害の頻度が高いものとしては,消炎鎮痛薬,抗菌薬,抗腫瘍薬,造影剤などがある.薬剤投与にあたっては,腎排泄性,薬物相互作用などの特性について各機関で発表されている情報も活用し,適宜専門の薬剤師とも相談するようにする.造影剤については,造影剤使用の際のガイドラインが発表されているので,これを参考にする.

1)CKDにおける薬物療法の注意①腎排泄性の薬剤における投与量・方法の検討 腎機能が低下している場合,腎排泄性薬物の投与により血中濃度が容易に上昇し,薬効の増強や副作用のリスク上昇が見られる.腎排泄性の薬物を使用する場合は,薬剤の特性および患者の腎機能に合わせて薬物の減量や投与間隔の延長を行い,投与後も血中濃度や効果・副作用について注意深く観察する.投与量については,CKD診療ガイド 2012「付表:腎機能低下時の薬物投与量」を参考とするが,実際の処方時には,薬剤師や腎臓専門医に相談したり,各製薬会社の添付文書など最新の情報に基づいて検討することが望ましい.

②薬物投与時に用いる腎機能評価法の注意 特殊な病態を除き,一般的に,腎障害は糸球体機能と尿細管機能の障害がほぼ並行して進行するため,薬物投与設計には糸球体濾過量(GFR)を指標とすることが推奨される.血清クレアチニン(Cr)値は簡便な腎機能の指標であるが,体格(筋肉量)の小さい患者では,低めに出ることに注意が必要である.さらに,シメチジンや ST�合剤などクレアチニンの尿細管分泌を抑制す

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第 2章 CKDの治療

る一部の薬物投与時では,見かけ上血清Cr 値が高くなり,GFRは低く評価されることにも留意する. CKD患者に対し,腎排泄性の薬物の投与設計をする場合,必ず体表面積補正をしない GFR(mL/分)を用いることも重要である.すなわち,ステージ分類に用いられる eGFR(mL/分/1.73�m2)は,標準的な体表面積におけるGFRを示すものであり,患者の体格が標準と乖離するほど個別のGFRと乖離が大きくなる.とくに,高齢で低体重など特殊な条件では,通常のeGFR(mL/分/1.73�m2)では実際の腎機能を過大評価する可能性が高い.したがって,薬物の投与設計では,必ず体表面積補正を外した GFR推算値,あるいは実測値(クレアチニンクリアランス,イヌリンクリアランス)で腎機能(mL/分)を評価する(表 10,11). 通常の eGFR から体表面積補正を外すには,その患者の体表面積を BSA(計算式,または表10から求める)として,eGFR�x�BSA/1.73 の式により計算できる.表 11は体表面積補正を外す係数(BSA/1.73)が示されているので利用するとよい.実測クレアチニンクリアランス,あるいは,血清クレアチニン値に基づいたGFR推算値(Cockcroft-Gauld の式など)を用いる場合も,体表面積補正をしない値を使用するよう注意する.一般に添付文書やCKD診療ガイド 2012「付表:腎機能低下時の薬物投与量」におけるクレアチニンクリアランス(Ccr)別投与量は個別のGFR別投与量とみなしてよい. いずれの方法・補正式を用いたとしても,個人の筋肉量や測定のばらつきによって GFRの測定や推算には誤差がつきものであることを認識しておく.したがって.腎排泄性薬物の投与量の設計を行った場合は,投与後も薬効や副作用などを注意深く観察し,適宜投与量・方法の変更,調整を行うようにする.

表 10 BSA早見表体重(kg)/身長(cm)

120 125 130 135 140 145 150 155 160 165 170 175 180 185 190

30 0.98 1.01 1.04 1.07 1.10 1.13 1.15 1.18 1.21 1.24 1.26 1.29 1.32 1.34 1.3735 1.05 1.08 1.11 1.14 1.17 1.20 1.23 1.26 1.29 1.32 1.35 1.38 1.41 1.43 1.4640 1.11 1.14 1.17 1.21 1.24 1.27 1.30 1.33 1.37 1.40 1.43 1.46 1.49 1.52 1.5545 1.17 1.20 1.24 1.27 1.30 1.34 1.37 1.40 1.44 1.47 1.50 1.53 1.56 1.60 1.6350 1.22 1.26 1.29 1.33 1.36 1.40 1.43 1.47 1.50 1.54 1.57 1.60 1.64 1.67 1.7055 1.27 1.31 1.35 1.38 1.42 1.46 1.49 1.53 1.56 1.60 1.63 1.67 1.70 1.74 1.7760 1.32 1.36 1.40 1.43 1.47 1.51 1.55 1.59 1.62 1.66 1.70 1.73 1.77 1.80 1.8465 1.36 1.40 1.44 1.48 1.52 1.56 1.60 1.64 1.68 1.72 1.75 1.79 1.83 1.86 1.9070 1.41 1.45 1.49 1.53 1.57 1.61 1.65 1.69 1.73 1.77 1.81 1.85 1.89 1.92 1.9675 1.45 1.49 1.53 1.58 1.62 1.66 1.70 1.74 1.78 1.82 1.86 1.90 1.94 1.98 2.0280 1.49 1.53 1.58 1.62 1.66 1.71 1.75 1.79 1.83 1.87 1.92 1.96 2.00 2.04 2.0885 1.53 1.57 1.62 1.66 1.71 1.75 1.80 1.84 1.88 1.92 1.97 2.01 2.05 2.09 2.1390 1.56 1.61 1.66 1.70 1.75 1.79 1.84 1.88 1.93 1.97 2.01 2.06 2.10 2.14 2.1895 1.60 1.65 1.70 1.74 1.79 1.84 1.88 1.93 1.97 2.02 2.06 2.10 2.15 2.19 2.23

100 1.64 1.69 1.73 1.78 1.83 1.88 1.92 1.97 2.02 2.06 2.11 2.15 2.20 2.24 2.28CKD 診療ガイド 2012 p95 表 35 より

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5.薬物療法

表 11 早見表:体表面積を外す係数体重(kg)/身長(cm)

120 125 130 135 140 145 150 155 160 165 170 175 180 185 190

30 0.57 0.58 0.60 0.62 0.63 0.65 0.67 0.68 0.70 0.71 0.73 0.75 0.76 0.78 0.7935 0.61 0.62 0.64 0.66 0.68 0.69 0.71 0.73 0.75 0.76 0.78 0.80 0.81 0.83 0.8440 0.64 0.66 0.68 0.70 0.72 0.74 0.75 0.77 0.79 0.81 0.82 0.84 0.86 0.88 0.8945 0.67 0.69 0.71 0.73 0.75 0.77 0.79 0.81 0.83 0.85 0.87 0.89 0.90 0.92 0.9450 0.70 0.73 0.75 0.77 0.79 0.81 0.83 0.85 0.87 0.89 0.91 0.93 0.95 0.96 0.9855 0.73 0.76 0.78 0.80 0.82 0.84 0.86 0.88 0.90 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 1.0260 0.76 0.78 0.81 0.83 0.85 0.87 0.89 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 1.04 1.0665 0.79 0.81 0.83 0.86 0.88 0.90 0.93 0.95 0.97 0.99 1.01 1.04 1.06 1.08 1.1070 0.81 0.84 0.86 0.89 0.91 0.93 0.96 0.98 1.00 1.02 1.05 1.07 1.09 1.11 1.1375 0.84 0.86 0.89 0.91 0.94 0.96 0.98 1.01 1.03 1.05 1.08 1.10 1.12 1.15 1.1780 0.86 0.89 0.91 0.94 0.96 0.99 1.01 1.04 1.06 1.08 1.11 1.13 1.15 1.18 1.2085 0.88 0.91 0.94 0.96 0.99 1.01 1.04 1.06 1.09 1.11 1.14 1.16 1.18 1.21 1.2390 0.90 0.93 0.96 0.99 1.01 1.04 1.06 1.09 1.11 1.14 1.16 1.19 1.21 1.24 1.2695 0.93 0.95 0.98 1.01 1.03 1.06 1.09 1.11 1.14 1.17 1.19 1.22 1.24 1.27 1.29

100 0.95 0.97 1.00 1.03 1.06 1.09 1.11 1.14 1.17 1.19 1.22 1.24 1.27 1.29 1.32eGFR(mL/ 分 /1.73 m2)に早見表の係数をかけることで体表面積補正をなくした eGFR(mL/ 分)を計算できる.

CKD 診療ガイド 2012 p95 表 36 より

表 12  CKDで注意が必要な薬物と病態CKD では注意して使用すべき薬物・ NSAIDs(腎血流低下,間質性腎炎,急性尿細管壊死,ネフローゼ症候群)・ アムホテリシン B(尿細管壊死,腎血流低下,尿細管アシドーシス)・シスプラチン(尿細管壊死)・ シクロスポリン(腎血流低下,慢性尿細管・間質性腎炎)・ アミノ配糖体(尿細管壊死),イホスファミド(尿細管壊死)・ヨード系造影剤(腎血流低下,急性尿細管壊死)・メトトレキサート(閉塞性腎不全,尿細管壊死)・ マイトマイシン C(糸球体障害,溶血性尿毒症症候群)・ リチウム(腎性尿崩症),D‒ ペニシラミン(糸球体障害)・フィブラート(横紋筋融解症)・ ゾレドロネート(尿細管壊死),パミドロネート(ネフローゼ症候群)

CKD 診療ガイド 2012 p96 表 37 より

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1 はじめに 腎代替療法(renal�replacement�therapy:RRT)を開始するにあたり,①腎臓専門医への紹介,②患者および家族への説明,③RRTの準備,④RRTの開始,⑤RRTを見合わせた場合の対応,などを知っておく必要がある.本章では,最近のガイドラインを中心に,RRT開始までの手順を概説する.

2 専門医への紹介 腎不全期における腎機能は,血清クレアチニン単独では評価せず,血清クレアチニンまたはシスタチンCをもとにしたGFR推算式を用いる.日本腎臓学会が提唱した血清クレアチニンを用いる推算式  eGFR=194×血清クレアチニン値‒1.094×年齢‒0.287(×0.739,女性の場合)が最も一般的である. 日本腎臓学会編の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2013」1)では,透析導入を遅延させるため,専門医に紹介する時期はCKDステージ G3 区分以降(遅くともステージG4)としている.この時期から腎専門医が診察することにより,腎機能の低下速度が緩やかになり,透析導入時期が遅延できる可能性が示されている.

3 RRT の説明 日本透析医学会の「維持血液透析ガイドライン:血液透析導入」2)では,進行性の腎機能障害がみられ,糸球体濾過量(glomerular�filtration�rate:GFR)が 15~30�mL/分/1.73�m2に到達した時点(CKDステージ G4)で,保存的治療を含めた末期腎不全治療について,患者および家族に案内することを奨めている. RRTには血液透析,腹膜透析,腎移植があるため,それぞれの治療法について十分に説明する必要がある.説明には,日本腎臓学会,日本透析医学会,日本移植学会,日本臨床腎移植学会が合同で作成した「腎不全~治療選択とその実際」のリーフレットが役立つ. 説明と同時に,末期腎不全への進展を予防するため,医学的管理と教育的介入である生活・食事指導も十分に行い,透析導入をなるべく遅らせる努力が必要である.透析導入が必要となる 6カ月以上前より,腎不全症候が出ないように診療すると,透析導入後の生命予後が改善すると報告されている1).

4 RRT の準備

1.血液透析

 透析導入後の生命予後の観点から,透析導入の少なくとも 1カ月以上前に血管アクセス(自己

6 腎代替療法とその案内

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6.腎代替療法とその案内

血管使用皮下動静脈瘻,人工血管使用皮下動静脈瘻)を作成することが望ましい1).一方で,中心静脈カテーテルからの血液透析導入は,生命予後を悪化させるため,避けることが望ましい2).

2.腹膜透析

 日本透析医学会の「腹膜透析ガイドライン」3)では,腹膜機能の有用性を生かすために,患者教育を行い,計画導入することを推奨している.

3.先行的腎移植(PEKT)

 透析導入前からの腎移植は PEKT(preemptive�transplantation)と呼ばれ,特に生体腎移植で大きく増えている.PEKTは透析導入後の腎移植に比べ,患者生存率や移植腎の生着率に優れる,良好なQOLが得られる,などの利点がある.「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」も,PEKTを推奨している. 透析開始前に献腎移植登録するためには,希望者が移植施設の医師を通じ,先行的献腎移植申請委員会へデータを提出し,審査を受ける必要がある.現在の基準は,①申請時から 1年前後でRRTが必要になると予測される進行性腎機能障害の場合で,かつ,②19歳以上では eGFR�15�mL分/1.73�m2未満,③19 歳未満または腎移植後で移植腎機能の低下が進行してきた場合は 20�mL/分/1.73�m2未満,である.

5 RRT の開始 透析導入は,十分な保存的治療を行っても進行性に腎機能の悪化を認め,GFRが 15�mL/分/1.73�m2未満(CKDステージG5)になった時点で判断する2,3).ただし,実際の透析導入は,腎不全症候,日常生活の活動性,栄養状態を総合的に判断し,それらが透析療法以外に回避できないときに決定する2).

1.血液透析

 腎不全症候がみられても,eGFR<8�mL/分/1.73�m2まで保存的治療での経過観察ができれば,血液透析導入後の生命予後は良い.しかし腎不全症候がなくても,eGFR�2�mL/分/1.73�m2までに血液透析導入しないと,生命予後が悪化する1,2).

2.腹膜透析

 残存腎機能の維持が期待される腹膜透析では,無症状であっても,残存腎機能が残された時期での開始が必要であり,現時点ではGFR�6�mL/分/1.73�m2程度とされている.

3.先行的腎移植

 PEKTでは,少なくとも安全に全身麻酔が実施できるよう,合併症の有無や原疾患による腎機能低下速度を判断し,移植すべき時期を予想する必要がある.そのため,余裕をもった早期からの移植施設との連携が不可欠である1).

6 RRT の見合わせ 日本透析医学会より,「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」4)が公表されている.本提言では,維持血液透析の見合わせを検討する状況として,①維持血液透析を安全に施行することが困難な場合,②患者の全身状態が極めて不良であり,「維持血液透

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第 2章 CKDの治療

析の見合わせ」に関して,患者自身の意思が明示されている場合,または家族が患者の意思を推定できる場合,③患者ならび家族の意思決定プロセスが適切に実施されていることが必要,④医療チームが見合わせた維持血液透析は,状況に応じて開始/再開される,などをあげている. 一方で,RRTを見合わせた後は,患者の意思を尊重したケア計画を策定し,緩和ケアを提供することが求められる.

7 おわりに 図 18に,RRT開始までの手順を示した.療法選択にあたり,開始時期が PEKT>腹膜透析>血液透析の順で早いことも考慮する必要がある.

■参考文献� 1)�日本腎臓学会.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2013.東京医学社,2013� 2)�日本透析医学会.維持血液透析ガイドライン:血液透析導入,透析会誌 2013;46:1107‒1155.� 3)�中山昌明,他.日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン」,透析会誌 2009;42:285‒315.� 4)�日本透析医学会血液透析療法ガイドライン作成ワーキンググループ 透析非導入と継続中止を検討するサブグループ.維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言,透析会誌 2014;47:269‒285.

GFR

mL/

min

/1.7

3m2

血液透析

腹膜透析 PEKT

60

30

15

G3

G4

G5

専門医への紹介

RRTの説明 RRTの準備・

開始

図 18 RRT とその案内

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1

第3章

CKD生活・食事指導の実践

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第 3章 CKD生活・食事指導の実践

CKDの治療では,食事等の生活習慣やメタボリックシンドロームなどの改善が肝腎である(図1).

CKD生活・食事指導基準 GFRによる病期ごとに内容を提示する(表 1).エネルギー量とたんぱく質量は体重当たりで表しているが,体重は標準体重(BMI)を用いる. 標準体重 kg=身長(m)2×22 食事療法の決定に関しては,CKDステージG3以降では腎臓専門医と連携して治療することが望ましい.

CKDの生活・食事指導の実践

表1 CKD生活・食事指導基準(成人)CKD

ステージCKD ステージ G1CKD ステージ G2 CKD ステージ G3a/b CKD ステージ G4 CKD ステージ G5

生活習慣の改善

食事管理

血圧管理

血糖管理(糖尿病の場合)

脂質管理

禁煙・BMI 25 未満

130/80 mmHg 未満

HbA1c 7.0%未満

LDL‒C 120 mg/dL 未満

たんぱく質制限0.6~0.8 g/kg/日

高血圧があれば減塩3 g/日以上 6 g/日未満

たんぱく質制限G3a:0.8~1.0 g/kg/日G3b:0.6~0.8 g/kg/日

食塩摂取量 3 g/日以上 6 g/日未満

高 K 血症があれば K 制限

図 1 CKDと CVDの関係(心腎連関)とそれを取り巻く因子

蛋白尿

食塩の過剰摂取

糖尿病 高血圧症

脂質異常

QOL・生命予後の悪化

肥満

CKD CVD

喫煙

メタボリックシンドローム

低栄養・炎症酸化ストレス

腎機能低下時のたんぱく質過剰摂取

CKD ステージ G5D

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❶水分

 尿の排泄障害がない場合には,水分は健常者と同様に自然の渇感にまかせて摂取する.腎機能が低下している場合の水分過剰摂取,または極端な制限は行うべきではない.

❷食塩

 CKD患者の食塩摂取量は 3�g/日以上 6�g/日未満とするのが基本である.ただし,CKDステージG1~G2で高血圧や体液過剰を伴わない場合には,食塩摂取量の制限緩和も可能である.逆に,ステージG4~G5 で,体液過剰の徴候があれば,より少ない食塩摂取量に制限しなければならない場合がある.この場合,腎臓専門医に相談することが望ましい.

❸カリウム

 高カリウム血症でカリウム制限を行う場合には,生野菜や果物,海草,豆類,いも類などカリウム含有量の多い食品を制限する.野菜,いも類などは小さく切ってゆでこぼすと,カリウム含有量を 20~30%減少させることができる.

❹たんぱく質

 腎臓への負荷を軽減する目的でステージG3a では 0.8~1.0�g/kg/体重/日,G3bでは 0.6~ 0.8�g/kg/体重/日のたんぱく質摂取を推奨する(体重は標準体重を用いる).かかりつけ医においてたんぱく質制限を行う場合は,0.8�g/kg 体重/日とする.ステージG4~G5 でたんぱく質摂取を 0.8�g/kg 体重/日未満に制限する場合は,腎臓専門医の判断と管理栄養士による継続的な指導が必要である.厳しいたんぱく質制限は,専門的な見地での経過観察が必要であり,それらが伴わない場合では予後に悪影響を及ぼす可能性がある.そのため,経験豊富な専門医療機関以外での実施は勧められない. *�厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2010 年)によると,健常日本人のたんぱく質摂取推奨量は 0.9�g/kg 体重/日(健常高齢者は 1.06�g/kg 体重/日)である.

❺エネルギー

 CKD患者のエネルギー必要量は健常人と同程度でよく,年齢,性別,身体活動度により概ね25~35�kcal/kg 体重/日が推奨される(体重は標準体重を用いる).肥満症例では 20~25�kcal/kg体重/日としてもよい.摂取エネルギー量の決定後は,患者の体重変化を観察しながら適正エネルギー量となっているかを経時的に評価しつつ調整を加える.糖尿病では運動強度により,軽労作:25~30�kcal/kg 体重/日,普通の労作:30~35�kcal/kg 体重/日,重い労作:35�kcal/kg 体重/日以上が推奨されている(日本糖尿病学会編.身体活動量の目安.糖尿病治療ガイド2012‒2013:39).

❻脂質

 動脈硬化性疾患予防の観点より,CKD患者でも健常者と同様に脂質の%エネルギー摂取比率は 20~25%とする.

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第 3章 CKD生活・食事指導の実践

 CKD管理ノートの利用(教育媒体用・記録用)〔附:資料3参照〕 患者には「CKD管理ノート」と呼ばれる自己管理ノートを配布する.患者は常に CKD管理ノートを携帯する.(図 2). CKD管理ノートは,知識啓発のために CKDの基礎知識や治療に関する記述(CKD管理ノート p5 ~ 27)と,生活・食事指導で用いる指導教材(CKD管理ノート p28 ~ 39)から成り立っている.指導に当たっては,必要に応じて指導教材を患者と一緒に参照する.

CKD管理ノートに記録される項目

 患者状況:身長,体重,腹囲,血圧,喫煙の有無,併用薬 検査データ(血液・尿検査):S-Cr,BUN,K,Hb,HDL-C,TC,TG,UA,TP,S-alb,空腹時血糖,HbA1c,eGFR,随時尿の蛋白定性・潜血定性,随時尿の蛋白定量・クレアチニン定量

図 2 CKD管理ノートの構成CKD 管理ノート資料編

患者情報

指導記録検査データ

生活記録

CKD 管理ノート

表紙

教材CKD とは・・・・・・・・

CKD 管理ノート記録編

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1 初回の生活・食事指導ではCKD診療目標の課題をみつける CKD診療目標は,CKD管理ノート p13 を参照しながら患者に説明する.その際ステージ(病期)により内容が異なるというCKD管理の概要と,当面の患者の具体的課題とを区別することが望ましい.患者の知識・理解度に合わせ必要に応じ的を絞って「明日から何をすべきか」を,患者が明確に理解できるようにする.双方向性コミュニケーションを心がけ,患者の理解や疑問点などを確認しながら進める. 課題となるCKD診療目標項目を下記にあげる.❶腎機能 ・eGFRを用いて CKDのステージ分類を行うことを説明する. ・eGFRが低くなるほど腎機能が低下していると評価されることを教える.  eGFRの早見表�→生活・食事指導マニュアル裏表紙 CKDの重症度分類→CKD管理ノート p12❷生活習慣の改善 BMI による体重管理(CKDにおける目標値:25 未満) ・体格を指数で表すBMI を用いること(適宜算出方法も)を説明する. ・肥満やメタボリックシンドロームがCKDの危険因子であることを説明する.❸禁煙 ・喫煙は動脈硬化を促進し,CKDの危険因子になることを説明する.❹食事管理 減塩(CKDにおける目標値:3g/日以上 6g/日未満),たんぱく質制限(CKDステージ G3a:0.8~1.0�g/kg/体重/日,G3b:0.6~0.8�g/kg/体重/日,ステージG4~G5:0.6~0.8�g/kg�体重/日),カリウム制限(CKDステージG3~ G5) ・CKDの患者では,食塩のとりすぎが高血圧を招いて腎機能低下に繋がることを説明する. ��・�CKDのステージが進んだ場合,必要に応じてたんぱく質の制限やカリウムの制限が行われることを説明する. ・かかりつけ医のもとでたんぱく質制限を行う場合は,0.8�g/kg�体重/日とする.❺血圧管理 血圧(CKDにおける目標値:130/80�mmHg 未満) ・CKD治療では,血圧管理が極めて重要であることを説明する. ��・来院時の血圧と家庭血圧をみることで,よりきめ細かい診断に繋がることを説明する. 降圧薬:RA系阻害薬(ACE阻害薬,ARB) ��・糖尿病合併CKD患者,および軽度以上の蛋白尿(尿蛋白量 0.15�g/gCr�以上)を呈する糖尿病非合併CKD患者では,降圧薬としてRA系阻害薬(ACE阻害薬,ARB)が投与されること

1 チェックリストによる課題の抽出と継続指導の流れ

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第 3章 CKD生活・食事指導の実践

を説明する.これらの薬剤は腎機能低下抑制にも効果があると期待されていることを説明する.❻血糖管理 HbA1c による血糖コントロール評価(6.9%未満)*説明は糖尿病の患者のみ ��・血糖コントロールを良好に保つことにより,糖尿病性腎症の発症やCKDの進行を抑えることができることを説明する.

❼脂質管理 LDL-C の管理(CKDにおける目標値:120�mg/dL 未満) ・脂質異常症は心筋梗塞や脳卒中の危険因子となることを説明する.❽貧血管理 Hbの管理(腎性貧血では 10�g/dL 以下で赤血球造血刺激因子製剤の投与開始を考慮する.Hbの治療目標値:10 ~ 12g/dL) ��・腎機能低下により,赤血球をつくるホルモンが低下して貧血を起こすことがあることを説明する.

❾蛋白尿 糸球体の異常により血液中の蛋白が糸球体でろ過されたり,尿細管異常により尿細管内に存在する蛋白が異常に尿中出てくると,尿蛋白陽性となる.このため尿蛋白陽性は現在腎尿路系に障害があることを示唆する.ただし健常人でもごく軽度の生理的な蛋白尿がみられる場合がある.中等度以上の蛋白尿は将来の腎機能低下に対する大きなリスクファクターであることが示されている(11 頁�図 2 参照).尿酸管理

 尿酸の管理(CKDにおける目標値:7.0�mg/dL 以下)過食,高プリン・高脂肪・高たんぱく質食嗜好,常習飲酒,運動不足などの生活習慣は,高尿酸血症の原因になるばかりでなく,肥満,高血圧,糖・脂質代謝異常やメタボリックシンドロームともかかわるため,その是正は重要である.

2 2回目以降の生活・食事指導 2回目以降の生活・食事指導は「第1章 本マニュアルの概要」に記載されたチェックリスト表,チェックリスト問題点抽出システム,カテゴリ別指導マニュアル,カテゴリ別アルゴリズム,指導媒体,生活食事指導フロー図を利用しながら進めていく.

1.チェックリスト問題点抽出システム CKD診療目標の各項目:A.BMI 管理,B.血圧管理,C.血糖管理,D.脂質管理,E.食塩摂取量管理,F.禁煙,K.カリウム管理,H.たんぱく質摂取量,J.尿酸管理についてチェック✓をつける.チェック✓をつける際,各項目について同一カテゴリ内の変化にも注目し,良かったのか改善が必要なのかなど,患者にコメントを与える.各項目,点数が高いほど問題点が高く,このチェックリストから,どの部分に問題があるかを最初に確認する.この確認はかかりつけ医と意見が同じかどうかについても事後でかまわないので確認する. 確認した問題点の中で最も大きな問題と思われる項目(基準と最も大きく離れている項目)について,指導を行う(図 3).

2.生活・食事指導は一つの問題点について 2回を1クールと考える 指導は 2回(step1,step2)を 1クールとする.患者の理解度や達成度に応じて進め具合や指

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1.チェックリストによる課題の抽出と継続指導の流れ

導量を変更してもかまわない.前回からの改善点や努力を承認し,困難であった点などの問題を具体的に聞き取る. チェックリストによる指導項目決定とその指導を行った次の回では,チェックリストはつけずに前回(step1)の続きもしくは step2 の指導を行う(図 4).カテゴリを抽出後,カテゴリ別指導マニュアルを使用するか,カテゴリ別アルゴリズムを使用するかが決定される カテゴリ別指導マニュアルは抽出されたカテゴリが,E:食塩摂取状況,H:たんぱく質摂取量の場合使用する. カテゴリ別アルゴリズムは抽出されたカテゴリがA:BMI 管理,B:血圧管理,C:血糖管理,D:脂質管理,F:禁煙,K:カリウム管理,J:尿酸管理の場合使用する.

E.食塩摂取量管理,H.たんぱく質制限に関しては生活・食事指導マニュアルに則った指導を行い,A.BMI 管理,B.血圧管理,C.血糖管理,D.脂質管理,F.禁煙,K.カリウム管理,J.尿酸管理に関しては,アルゴリズムに従って指導内容を決定する アルゴリズムは全部で 7種ある.●A.BMI管理指導内容決定アルゴリズム●B .血圧管理指導内容決定アルゴリズム●C .血糖管理指導内容決定アルゴリズム

図 3 チェックリスト問題点抽出システムによる指導項目決定フロー

異常値・外れ値のランク基準

A・・・B・・・C・・・・・・・

かかりつけ医の意見

チェックリスト#1 血糖値管理 HbAlc 10.0#2 肥満 BMI 27#3 ・・・ ・ ・

チェックリスト

重点指導

相 談

図 4 チェックリスト問題点抽出システムによる継続指導の流れ

4~6 月 7~9 月 10~12 月 1~3 月

指導

1 クール1 テーマ

チェックリストで指導内容決定  

(優先順位決定) 

チェックリストで指導内容決定  

1 クール1 テーマ

指導 指導 指導前回の続きもしくは step2

前回の続きもしくは step2

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第 3章 CKD生活・食事指導の実践

●D.脂質管理指導内容決定アルゴリズム●F .禁煙指導内容決定アルゴリズム●K.カリウム管理指導内容決定アルゴリズム● J .尿酸管理指導内容決定アルゴリズム

チェックリスト

指導日 平成  年  月  日   参加者ID :           管理栄養士ID:

A.BMI管理

カテゴリ 達成度 備考

B.血圧管理

/

C.血糖管理

D.脂質管理

E.食塩摂取状況

F.禁煙

K. カリウム管理

H. たんぱく質摂取量

J.尿酸管理

服薬コンプライアンス □めったに飲み忘れない(服薬コンプライアンス良好)  □処方無し □週に1回程度飲み忘れる  □週に2~3回飲み忘れる  □週に4~5回程度飲み忘れる

身長体重BMI

cmkg

kg/m2

来院時

CKDステージG3以上

mmHg

← 28.0以上 ← 25.0以上 ← 18.5以上 18.5未満 →

A エネルギー制限へ

血圧指導アルゴリズムへ

血糖指導アルゴリズムへ

脂質管理アルゴリズムへ

E 減塩指導へ

禁煙指導アルゴリズムへ

カリウム管理アルゴリズムへ

H たんぱく質制限へ

尿酸管理アルゴリズムへ

□65歳以上で診察室 での収縮期血圧 110未満→1点□血圧測定値無し

□検査データ無し□糖尿病でないため 記載無し

□検査データ無し□食後採血のため 算出せず

□食事記録持参せず

□検査データ無し

□CKDステージG1~G2 のため評価せず□食事記録持参せず

□検査データ無し

28 25 18.5

←131/81以上 130/80以下→

130/80

←140/90以上

140/90

←150/100以上

150/100

←160/110以上

160/110

【BMI(kg/m2)】

【血圧(mmHg)☆】

【HbA1c(%)】

【LDL-C(mg/dL)】

【塩分摂取量(g/日)】

【一日の喫煙本数(本)】

【K(mEq/L)】

【たんぱく質摂取量(g/kg)】

【尿酸(mg/dL)】

2014. 04 版

%

mg/dL

g/日

本/日

mEq/L

g/kg

mg/dL

4 3 0 2

4 3 012

4 3

4 3

2

2

1

1 0

0

0

013

4 3 0

3 2 10

4 25 0

4 3 2 1

2 1← 7.1以上 7.0以下 →

7

← 0.8より上 0.8以下 →

0.8

← 4.0以上 4.0未満 →

4.0

← 120以上 120未満 →

120

← 6.9以上 6.9未満 →

6.9

← 7.4以上

7.4

← 7.9以上

7.9

← 10.5以上

10.5

← 140以上

140

← 160以上

160

← 200以上

200

← 3以上6未満 3未満 →

3

← 6以上

6

← 12以上

12

← 1以上 吸わない

1

← 10以上

10

← 20以上

20

← 30以上

30 0

← 5.5以上

5.5

← 6.0以上

6.0

← 1.2以上

1.2

← 8.0以上

8

← 9.0以上

9

← 10.0以上

10

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2 カテゴリ別指導アルゴリズム

食事療法はできているか?

運動はできているか?

Yes No

Yes No Yes No

A5 運動指導A1 かかりつけ医へ

運動はできているか?

A2 エネルギー制限+

A5 運動指導A2 エネルギー制限

生活・食事指導は無し

A:BMI 管理の指導内容決定アルゴリズム

食塩摂取量 3g/ 日以上 6g/ 日未満?

運動はできているか?

Yes

Yes

No

No

Yes No Yes No

B5 運動指導

運動はできているか?

B2 減塩指導+

B5 運動指導

B1 指導なし(かかりつけ医の

フィードバックのみ)

B3 服薬励行+

下記アルゴリズム

B2 減塩指導

B:血圧管理の指導内容決定アルゴリズム

服薬コンプライアンスは良好か?

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第 3章 CKD生活・食事指導の実践

運動はできているか?

Yes

Yes

No

No

Yes No Yes No

C5 運動指導

運動はできているか?

C3 服薬励行+

下記アルゴリズム

C2 エネルギー制限

C:血糖管理の指導内容決定アルゴリズム

服薬コンプライアンスは良好か?

食事療法はできているか?

生活・食事指導は無し

C1 かかりつけ医へC2 エネルギー制限

+C5 運動指導

肥満(BMI≧25)はあるか?

運動はできているか?

Yes

Yes

No

No

Yes No Yes No

No

運動はできているか?

初回指導か? 初回指導か?D2 エネルギー制限

+D5 運動指導

D4 服薬励行+

下記アルゴリズム

D3 栄養素配分の適正化 2

+ D5 運動指導

D2 栄養素配分の適正化 1

+ D5 運動指導

D3 栄養素配分の適正化 2

D2 栄養素配分の適正化 1

D:脂質異常症の指導内容決定アルゴリズム

服薬コンプライアンスは良好か?

YesNoYes

D2 エネルギー制限

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2.カテゴリ別指導アルゴリズム

無関心期・関心期 準備期

脱落

中等度~重度依存 軽度依存

準備期

実行期・維持期継続的なフォロー

F2 禁煙のためのノウハウ集一回目: ①~④二回目: ⑤~⑦三回目: ⑧~⑩

F2 禁煙のためのノウハウ集一回目: ①~④

+F3 ニコチン代替療法*

二回目: ⑤~⑦三回目: ⑧~⑩

F1 無関心期・関心期へのアプローチ

F:禁煙の指導内容決定アルゴリズム

指導マニュアル p48準備期へのアプローチ

FTND 判定によるニコチン依存症の判定

聞き取りから喫煙者をステージモデルに当てはめる

指導マニュアル p46-48

*ニコチン代替療法はニコチンパッチ をファーストチョイスとする かぶれる場合はニコチンガムを使用 する

Yes No

Yes No Yes No

K2 カリウム制限K1 かかりつけ医へK3 服薬励行

+K2 カリウム制限

K3 服薬励行

かかりつけ医へ(K1):生活・食事指導としては指導なしを意味する

K:カリウム管理の指導内容決定アルゴリズム

服薬コンプライアンスは良好か?

食事療法はできているか? 食事療法はできているか?

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第 3章 CKD生活・食事指導の実践

Yes No

Yes No Yes No

J2 プリン体制限J1 かかりつけ医へJ3 服薬励行

+J2 プリン体制限

J3 服薬励行

J:尿酸管理の指導内容決定アルゴリズム

服薬コンプライアンスは良好か?

食事療法はできているか? 食事療法はできているか?

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1

附録

資料

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1 eGFR 男女・年齢別早見表eGFR男女・年齢別早見表

G1+2 G3a G4G3b G5

男性用 血清 Cr に基づく GFR 推算式早見表(mL/分/1.73m2) eGFRcreat=194×Cr-1.094×年齢(歳)-0.287

血清 Cr(mg/dL)

年齢20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85

0.60 143.6 134.7 127.8 122.3 117.7 113.8 110.4 107.4 104.8 102.4 100.2 98.3 96.5 94.8 0.70 121.3 113.8 108.0 103.3 99.4 96.1 93.3 90.7 88.5 86.5 84.7 83.0 81.5 80.1 0.80 104.8 98.3 93.3 89.3 85.9 83.1 80.6 78.4 76.5 74.7 73.2 71.7 70.4 69.2 0.90 92.1 86.4 82.0 78.5 75.5 73.0 70.8 68.9 67.2 65.7 64.3 63.1 61.9 60.8 1.00 82.1 77.0 73.1 69.9 67.3 65.1 63.1 61.4 59.9 58.5 57.3 56.2 55.2 54.2 1.10 74.0 69.4 65.9 63.0 60.6 58.6 56.9 55.3 54.0 52.7 51.6 50.6 49.7 48.8 1.20 67.3 63.1 59.9 57.3 55.1 53.3 51.7 50.3 49.1 48.0 46.9 46.0 45.2 44.4 1.30 61.6 57.8 54.9 52.5 50.5 48.8 47.4 46.1 45.0 43.9 43.0 42.2 41.4 40.7 1.40 56.8 53.3 50.6 48.4 46.6 45.0 43.7 42.5 41.5 40.5 39.7 38.9 38.2 37.5 1.50 52.7 49.4 46.9 44.9 43.2 41.8 40.5 39.4 38.4 37.6 36.8 36.1 35.4 34.8 1.60 49.1 46.1 43.7 41.8 40.2 38.9 37.7 36.7 35.8 35.0 34.3 33.6 33.0 32.4 1.70 46.0 43.1 40.9 39.1 37.7 36.4 35.3 34.4 33.5 32.8 32.1 31.4 30.9 30.3 1.80 43.2 40.5 38.4 36.8 35.4 34.2 33.2 32.3 31.5 30.8 30.1 29.5 29.0 28.5 1.90 40.7 38.2 36.2 34.6 33.3 32.2 31.3 30.4 29.7 29.0 28.4 27.8 27.3 26.9 2.00 38.5 36.1 34.2 32.8 31.5 30.5 29.6 28.8 28.1 27.4 26.8 26.3 25.8 25.4 2.10 36.5 34.2 32.5 31.1 29.9 28.9 28.0 27.3 26.6 26.0 25.5 25.0 24.5 24.1 2.20 34.7 32.5 30.9 29.5 28.4 27.5 26.6 25.9 25.3 24.7 24.2 23.7 23.3 22.9 2.30 33.0 31.0 29.4 28.1 27.1 26.2 25.4 24.7 24.1 23.5 23.0 22.6 22.2 21.8 2.40 31.5 29.6 28.0 26.8 25.8 25.0 24.2 23.6 23.0 22.5 22.0 21.6 21.2 20.8 2.50 30.1 28.3 26.8 25.7 24.7 23.9 23.2 22.5 22.0 21.5 21.0 20.6 20.2 19.9 2.60 28.9 27.1 25.7 24.6 23.7 22.9 22.2 21.6 21.1 20.6 20.2 19.8 19.4 19.1 2.70 27.7 26.0 24.7 23.6 22.7 21.9 21.3 20.7 20.2 19.8 19.3 19.0 18.6 18.3 2.80 26.6 25.0 23.7 22.7 21.8 21.1 20.5 19.9 19.4 19.0 18.6 18.2 17.9 17.6 2.90 25.6 24.0 22.8 21.8 21.0 20.3 19.7 19.2 18.7 18.3 17.9 17.5 17.2 16.9 3.00 24.7 23.2 22.0 21.0 20.2 19.6 19.0 18.5 18.0 17.6 17.2 16.9 16.6 16.3 3.10 23.8 22.3 21.2 20.3 19.5 18.9 18.3 17.8 17.4 17.0 16.6 16.3 16.0 15.7 3.20 23.0 21.6 20.5 19.6 18.9 18.2 17.7 17.2 16.8 16.4 16.1 15.7 15.5 15.2 3.30 22.2 20.9 19.8 18.9 18.2 17.6 17.1 16.6 16.2 15.9 15.5 15.2 14.9 14.7 3.40 21.5 20.2 19.2 18.3 17.6 17.1 16.5 16.1 15.7 15.3 15.0 14.7 14.5 14.2 3.50 20.9 19.6 18.6 17.8 17.1 16.5 16.0 15.6 15.2 14.9 14.6 14.3 14.0 13.8 3.60 20.2 19.0 18.0 17.2 16.6 16.0 15.5 15.1 14.8 14.4 14.1 13.8 13.6 13.3 3.70 19.6 18.4 17.5 16.7 16.1 15.5 15.1 14.7 14.3 14.0 13.7 13.4 13.2 13.0 3.80 19.1 17.9 17.0 16.2 15.6 15.1 14.7 14.3 13.9 13.6 13.3 13.0 12.8 12.6 3.90 18.5 17.4 16.5 15.8 15.2 14.7 14.2 13.9 13.5 13.2 12.9 12.7 12.4 12.2 4.00 18.0 16.9 16.0 15.3 14.8 14.3 13.9 13.5 13.1 12.8 12.6 12.3 12.1 11.9

男性用 血清シスタチン C に基づく GFR 推算式早見表(mL/分/1.73m2) eGFRcys=(104×Cys−C-1.019×0.996年齢(歳))−8血清 Cys−C(mg/L)

年齢20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85

0.60 153.5 150.3 147.2 144.1 141.1 138.1 135.2 132.4 129.6 126.9 124.2 121.6 119.0 116.5 0.70 130.1 127.3 124.6 122.0 119.4 116.9 114.4 112.0 109.6 107.3 105.0 102.7 100.5 98.4 0.80 112.5 110.1 107.8 105.5 103.2 101.0 98.8 96.7 94.6 92.6 90.6 88.7 86.7 84.9 0.90 98.9 96.7 94.7 92.6 90.6 88.7 86.8 84.9 83.0 81.2 79.5 77.7 76.0 74.4 1.00 88.0 86.1 84.2 82.4 80.6 78.8 77.1 75.4 73.8 72.1 70.6 69.0 67.5 66.0 1.10 79.1 77.4 75.7 74.0 72.4 70.8 69.2 67.7 66.2 64.7 63.3 61.9 60.5 59.1 1.20 71.7 70.1 68.6 67.1 65.6 64.1 62.7 61.3 59.9 58.6 57.2 55.9 54.7 53.4 1.30 65.5 64.0 62.6 61.2 59.8 58.5 57.1 55.9 54.6 53.3 52.1 50.9 49.8 48.6 1.40 60.1 58.8 57.4 56.2 54.9 53.6 52.4 51.2 50.0 48.9 47.8 46.6 45.6 44.5 1.50 55.5 54.2 53.0 51.8 50.6 49.4 48.3 47.2 46.1 45.0 44.0 42.9 41.9 40.9 1.60 51.5 50.3 49.1 48.0 46.9 45.8 44.7 43.7 42.7 41.6 40.7 39.7 38.8 37.8 1.70 47.9 46.8 45.7 44.6 43.6 42.6 41.6 40.6 39.6 38.7 37.7 36.8 35.9 35.1 1.80 44.7 43.7 42.7 41.7 40.7 39.7 38.8 37.8 36.9 36.0 35.2 34.3 33.5 32.6 1.90 41.9 40.9 39.9 39.0 38.1 37.1 36.3 35.4 34.5 33.7 32.8 32.0 31.2 30.5 2.00 39.4 38.4 37.5 36.6 35.7 34.9 34.0 33.2 32.4 31.5 30.8 30.0 29.2 28.5 2.10 37.1 36.2 35.3 34.4 33.6 32.8 32.0 31.2 30.4 29.6 28.9 28.2 27.4 26.7 2.20 35.0 34.1 33.3 32.5 31.7 30.9 30.1 29.4 28.6 27.9 27.2 26.5 25.8 25.1 2.30 33.1 32.3 31.5 30.7 29.9 29.2 28.4 27.7 27.0 26.3 25.6 25.0 24.3 23.7 2.40 31.3 30.6 29.8 29.0 28.3 27.6 26.9 26.2 25.5 24.8 24.2 23.6 22.9 22.3 2.50 29.7 29.0 28.3 27.5 26.8 26.1 25.5 24.8 24.1 23.5 22.9 22.3 21.7 21.1 2.60 28.3 27.5 26.8 26.1 25.5 24.8 24.1 23.5 22.9 22.3 21.7 21.1 20.5 19.9 2.70 26.9 26.2 25.5 24.9 24.2 23.6 22.9 22.3 21.7 21.1 20.6 20.0 19.4 18.9 2.80 25.6 25.0 24.3 23.7 23.0 22.4 21.8 21.2 20.6 20.1 19.5 19.0 18.4 17.9 2.90 24.4 23.8 23.2 22.5 21.9 21.3 20.8 20.2 19.6 19.1 18.5 18.0 17.5 17.0 3.00 23.3 22.7 22.1 21.5 20.9 20.3 19.8 19.2 18.7 18.2 17.6 17.1 16.6 16.1 3.10 22.3 21.7 21.1 20.5 20.0 19.4 18.9 18.3 17.8 17.3 16.8 16.3 15.8 15.4 3.20 21.3 20.8 20.2 19.6 19.1 18.5 18.0 17.5 17.0 16.5 16.0 15.5 15.1 14.6 3.30 20.4 19.9 19.3 18.8 18.2 17.7 17.2 16.7 16.2 15.7 15.3 14.8 14.4 13.9 3.40 19.6 19.0 18.5 18.0 17.5 17.0 16.5 16.0 15.5 15.0 14.6 14.1 13.7 13.3 3.50 18.8 18.2 17.7 17.2 16.7 16.2 15.7 15.3 14.8 14.4 13.9 13.5 13.1 12.6 3.60 18.0 17.5 17.0 16.5 16.0 15.5 15.1 14.6 14.2 13.7 13.3 12.9 12.5 12.1 3.70 17.3 16.8 16.3 15.8 15.4 14.9 14.4 14.0 13.6 13.1 12.7 12.3 11.9 11.5 3.80 16.6 16.1 15.7 15.2 14.7 14.3 13.8 13.4 13.0 12.6 12.2 11.8 11.4 11.0 3.90 16.0 15.5 15.0 14.6 14.1 13.7 13.3 12.8 12.4 12.0 11.6 11.2 10.9 10.5 4.00 15.4 14.9 14.5 14.0 13.6 13.1 12.7 12.3 11.9 11.5 11.1 10.7 10.4 10.0

※酵素法で測定した Cr 値を用いてください。18 歳以上にのみ適用可能です。小児には使用できません。

※国際的標準物質に基づいた測定値を用いてください。18 歳以上にのみ適用可能です。小児には使用できません。

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Page 114: 医師・コメディカル 慢性腎臓病 - jsn.or.jp · 2019. 2. 4. · G3 A2 G3 A3 専門医と協力して治療 (一般医>専門医) 腎機能低下の原因精査 腎機能低下を抑制するため

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1.eGFR 男女・年齢別早見表

eGFR男女・年齢別早見表

G1+2 G3a G4G3b G5 注)GFR区分は小数点以下2桁で考慮していますので,30mL/ 分 /1.73m2 でもG4,15.0mL/ 分 /1.73m2 でもG5としている部分があります。

女性用 血清 Cr に基づく GFR 推算式早見表(mL/分/1.73m2) eGFRcreat=194×Cr-1.094×年齢(歳)-0.287 ×0.739血清 Cr

(mg/dL)年齢

20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 850.60 106.1 99.5 94.5 90.4 87.0 84.1 81.6 79.4 77.4 75.7 74.1 72.6 71.3 70.0 0.70 89.6 84.1 79.8 76.3 73.5 71.0 68.9 67.1 65.4 63.9 62.6 61.3 60.2 59.2 0.80 77.5 72.7 68.9 66.0 63.5 61.4 59.5 57.9 56.5 55.2 54.1 53.0 52.0 51.1 0.90 68.1 63.9 60.6 58.0 55.8 54.0 52.3 50.9 49.7 48.6 47.5 46.6 45.7 45.0 1.00 60.7 56.9 54.0 51.7 49.7 48.1 46.6 45.4 44.3 43.3 42.4 41.5 40.8 40.1 1.10 54.7 51.3 48.7 46.6 44.8 43.3 42.0 40.9 39.9 39.0 38.2 37.4 36.7 36.1 1.20 49.7 46.6 44.2 42.3 40.7 39.4 38.2 37.2 36.3 35.4 34.7 34.0 33.4 32.8 1.30 45.5 42.7 40.5 38.8 37.3 36.1 35.0 34.1 33.2 32.5 31.8 31.2 30.6 30.1 1.40 42.0 39.4 37.4 35.8 34.4 33.3 32.3 31.4 30.6 29.9 29.3 28.7 28.2 27.7 1.50 38.9 36.5 34.7 33.2 31.9 30.9 29.9 29.1 28.4 27.8 27.2 26.6 26.2 25.7 1.60 36.3 34.0 32.3 30.9 29.7 28.8 27.9 27.1 26.5 25.9 25.3 24.8 24.4 24.0 1.70 34.0 31.9 30.2 28.9 27.8 26.9 26.1 25.4 24.8 24.2 23.7 23.2 22.8 22.4 1.80 31.9 29.9 28.4 27.2 26.1 25.3 24.5 23.9 23.3 22.7 22.3 21.8 21.4 21.1 1.90 30.1 28.2 26.8 25.6 24.6 23.8 23.1 22.5 21.9 21.4 21.0 20.6 20.2 19.8 2.00 28.4 26.7 25.3 24.2 23.3 22.5 21.9 21.3 20.7 20.3 19.8 19.5 19.1 18.8 2.10 26.9 25.3 24.0 23.0 22.1 21.4 20.7 20.2 19.7 19.2 18.8 18.4 18.1 17.8 2.20 25.6 24.0 22.8 21.8 21.0 20.3 19.7 19.2 18.7 18.3 17.9 17.5 17.2 16.9 2.30 24.4 22.9 21.7 20.8 20.0 19.3 18.8 18.2 17.8 17.4 17.0 16.7 16.4 16.1 2.40 23.3 21.8 20.7 19.8 19.1 18.5 17.9 17.4 17.0 16.6 16.3 15.9 15.6 15.4 2.50 22.3 20.9 19.8 19.0 18.3 17.6 17.1 16.7 16.2 15.9 15.5 15.2 15.0 14.7 2.60 21.3 20.0 19.0 18.2 17.5 16.9 16.4 16.0 15.6 15.2 14.9 14.6 14.3 14.1 2.70 20.5 19.2 18.2 17.4 16.8 16.2 15.7 15.3 14.9 14.6 14.3 14.0 13.8 13.5 2.80 19.7 18.5 17.5 16.8 16.1 15.6 15.1 14.7 14.4 14.0 13.7 13.5 13.2 13.0 2.90 18.9 17.8 16.9 16.1 15.5 15.0 14.6 14.2 13.8 13.5 13.2 13.0 12.7 12.5 3.00 18.2 17.1 16.2 15.5 15.0 14.5 14.0 13.6 13.3 13.0 12.7 12.5 12.3 12.0 3.10 17.6 16.5 15.7 15.0 14.4 13.9 13.5 13.2 12.8 12.5 12.3 12.0 11.8 11.6 3.20 17.0 15.9 15.1 14.5 13.9 13.5 13.1 12.7 12.4 12.1 11.9 11.6 11.4 11.2 3.30 16.4 15.4 14.6 14.0 13.5 13.0 12.6 12.3 12.0 11.7 11.5 11.2 11.0 10.9 3.40 15.9 14.9 14.2 13.5 13.0 12.6 12.2 11.9 11.6 11.3 11.1 10.9 10.7 10.5 3.50 15.4 14.5 13.7 13.1 12.6 12.2 11.8 11.5 11.2 11.0 10.8 10.5 10.4 10.2 3.60 14.9 14.0 13.3 12.7 12.2 11.8 11.5 11.2 10.9 10.7 10.4 10.2 10.0 9.9 3.70 14.5 13.6 12.9 12.4 11.9 11.5 11.1 10.8 10.6 10.3 10.1 9.9 9.7 9.6 3.80 14.1 13.2 12.5 12.0 11.5 11.2 10.8 10.5 10.3 10.0 9.8 9.6 9.5 9.3 3.90 13.7 12.8 12.2 11.7 11.2 10.8 10.5 10.2 10.0 9.8 9.6 9.4 9.2 9.0 4.00 13.3 12.5 11.9 11.3 10.9 10.6 10.2 10.0 9.7 9.5 9.3 9.1 8.9 8.8

女性用 血清シスタチン C に基づく GFR 推算式早見表(mL/分/1.73m2) eGFRcys=(104×Cys−C-1.019×0.996年齢(歳)×0.929)−8血清 Cys−C(mg/L)

年齢20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85

0.60 142.1 139.1 136.2 133.3 130.5 127.8 125.1 122.4 119.8 117.3 114.8 112.4 110.0 107.7 0.70 120.3 117.7 115.2 112.8 110.4 108.0 105.7 103.5 101.3 99.1 97.0 94.9 92.8 90.8 0.80 103.9 101.7 99.5 97.4 95.3 93.3 91.3 89.3 87.4 85.5 83.6 81.8 80.0 78.3 0.90 91.3 89.3 87.4 85.5 83.6 81.8 80.0 78.3 76.6 74.9 73.3 71.6 70.1 68.5 1.00 81.2 79.4 77.7 76.0 74.3 72.7 71.1 69.5 68.0 66.5 65.0 63.5 62.1 60.7 1.10 72.9 71.3 69.7 68.2 66.7 65.2 63.8 62.3 60.9 59.6 58.2 56.9 55.6 54.4 1.20 66.1 64.6 63.1 61.7 60.3 59.0 57.7 56.4 55.1 53.8 52.6 51.4 50.2 49.1 1.30 60.3 58.9 57.6 56.3 55.0 53.7 52.5 51.3 50.1 49.0 47.9 46.8 45.7 44.6 1.40 55.3 54.0 52.8 51.6 50.4 49.3 48.1 47.0 45.9 44.8 43.8 42.8 41.8 40.8 1.50 51.0 49.8 48.7 47.6 46.4 45.4 44.3 43.3 42.3 41.3 40.3 39.3 38.4 37.5 1.60 47.2 46.1 45.1 44.0 43.0 42.0 41.0 40.0 39.1 38.1 37.2 36.3 35.4 34.6 1.70 43.9 42.9 41.9 40.9 39.9 39.0 38.0 37.1 36.2 35.4 34.5 33.7 32.8 32.0 1.80 41.0 40.0 39.1 38.1 37.2 36.3 35.4 34.6 33.7 32.9 32.1 31.3 30.5 29.8 1.90 38.4 37.4 36.5 35.7 34.8 33.9 33.1 32.3 31.5 30.7 29.9 29.2 28.5 27.7 2.00 36.0 35.1 34.3 33.4 32.6 31.8 31.0 30.2 29.5 28.7 28.0 27.3 26.6 25.9 2.10 33.9 33.0 32.2 31.4 30.6 29.9 29.1 28.4 27.7 27.0 26.3 25.6 24.9 24.3 2.20 31.9 31.1 30.4 29.6 28.9 28.1 27.4 26.7 26.0 25.3 24.7 24.0 23.4 22.8 2.30 30.2 29.4 28.7 27.9 27.2 26.5 25.8 25.2 24.5 23.9 23.2 22.6 22.0 21.4 2.40 28.5 27.8 27.1 26.4 25.7 25.1 24.4 23.8 23.1 22.5 21.9 21.3 20.7 20.2 2.50 27.1 26.4 25.7 25.0 24.4 23.7 23.1 22.5 21.9 21.3 20.7 20.1 19.6 19.0 2.60 25.7 25.0 24.4 23.7 23.1 22.5 21.9 21.3 20.7 20.1 19.6 19.0 18.5 18.0 2.70 24.4 23.8 23.1 22.5 21.9 21.3 20.7 20.2 19.6 19.1 18.5 18.0 17.5 17.0 2.80 23.2 22.6 22.0 21.4 20.8 20.3 19.7 19.1 18.6 18.1 17.6 17.1 16.6 16.1 2.90 22.1 21.5 20.9 20.4 19.8 19.3 18.7 18.2 17.7 17.2 16.7 16.2 15.7 15.2 3.00 21.1 20.5 20.0 19.4 18.9 18.3 17.8 17.3 16.8 16.3 15.8 15.4 14.9 14.4 3.10 20.2 19.6 19.0 18.5 18.0 17.5 17.0 16.5 16.0 15.5 15.0 14.6 14.1 13.7 3.20 19.3 18.7 18.2 17.7 17.2 16.7 16.2 15.7 15.2 14.8 14.3 13.9 13.4 13.0 3.30 18.4 17.9 17.4 16.9 16.4 15.9 15.4 15.0 14.5 14.1 13.6 13.2 12.8 12.4 3.40 17.6 17.1 16.6 16.1 15.7 15.2 14.7 14.3 13.8 13.4 13.0 12.6 12.1 11.7 3.50 16.9 16.4 15.9 15.4 15.0 14.5 14.1 13.6 13.2 12.8 12.4 12.0 11.6 11.2 3.60 16.2 15.7 15.2 14.8 14.3 13.9 13.4 13.0 12.6 12.2 11.8 11.4 11.0 10.6 3.70 15.5 15.0 14.6 14.1 13.7 13.3 12.8 12.4 12.0 11.6 11.2 10.9 10.5 10.1 3.80 14.9 14.4 14.0 13.5 13.1 12.7 12.3 11.9 11.5 11.1 10.7 10.4 10.0 9.6 3.90 14.3 13.8 13.4 13.0 12.6 12.2 11.8 11.4 11.0 10.6 10.2 9.9 9.5 9.2 4.00 13.7 13.3 12.9 12.4 12.0 11.6 11.3 10.9 10.5 10.1 9.8 9.4 9.1 8.7

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 検査データと食事との関連に関しても記載しているが,必ずしも食事のみが原因で検査データの異常が出るとは限らない.

BMI(Bodymassindex):目標値 25�kg/m2未満 身長と体重から求める体格指数 BMI(体重÷身長2)である.肥満学会肥満症治療ガイドラインによれば,BMI が 25 を超えると肥満と診断される.正しい食生活と適度な運動により,肥満是正を行う.

腹囲:目標値 男性 85�cm未満 女性 90�cm 未満 内臓脂肪型肥満は,糖代謝異常・脂質代謝異常・高血圧・CVDなどと関連することが知られている.正しい食生活と適度な運動により,是正を行う.

血圧:�基準値 130/80�mmHg 未満(CKD診療ガイドライン 2013,JSH2014) CKD対策において,血圧管理は極めて重要である.高血圧は腎硬化症のリスクファクターでもある.腎機能の低下した患者では食塩感受性高血圧も多くみられる.薬剤による降圧療法に先立って,食塩管理や減量などの非薬物療法は徹底させる.

尿潜血:定性(−) 尿中に潜血があるかを判定する.糸球体の障害やそのほかの腎・尿路系に異常があるときにみられる.

尿蛋白:定性(−) 随時尿で,A:尿蛋白定量(mg/dL)と B:尿中クレアチニン定量(mg/dL)の濃度を同時に測定し,A/Bを計算することにより,1�g クレアチニン(Cr)排泄当たり何 gの蛋白が含まれているかが算出できる.この値は経時的な変化を調べるには特に優れた方法である. 男性では,この gCr 当たりの蛋白尿がほぼ 1日量に相当する.女性では,その 85%がほぼ 1日量に相当する.定量的に測定した蛋白が減少すれば,腎不全のリスクのみならず,心血管事故のリスクも軽減されると考えてよい.蛋白尿にして,CKDでは 0.5�g/gCr 未満が望ましいと考えられる.

尿蛋白(g/gCr)=随時尿の蛋白定量(mg/dL)/随時尿のクレアチニン定量(mg/dL)

血清クレアチニン(Cr)濃度:基準値 男性 0.65~1.09�mg/dL 女性 0.46~0.82�mg/dL クレアチニンは筋肉中のクレアチンの終末代謝産物である.腎糸球体で濾過され,尿細管での再吸収や分泌が少ないため GFRの指標として用いられている.腎機能が低下すると尿からの排

2 検査データの基準値,見方

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2.検査データの基準値,見方

泄が減り,血中濃度が高くなる.クレアチニンは筋肉量の影響を受けるため,筋肉量の少ない高齢者・女性などでは減少傾向がある.特に高齢なCKD患者では,病期が進行していても低めの値が出るので注意する必要がある.

血中尿素窒素(BUN):基準値 8~20mg/dL 経口摂取したたんぱく質や体蛋白が分解されて生じたアンモニアが,最終的に肝臓で代謝されて尿素になる.血中に放出された尿素は腎糸球体で濾過された後,4~7割が尿細管から再吸収され,残りは尿中から排泄される.BUNの異常は主に腎からの尿素排泄障害を反映している.CKD患者では,たんぱく質の摂取量が上昇するとBUNも上昇することが知られている.たんぱく質制限量が守られていない場合では,BUN上昇とともに Pも同時に上昇する傾向が強い.簡易的なたんぱく質摂取量の目安としてBUN/Cr 比がある.BUN/Cr 比が 10 未満であれば,おおむね低たんぱく質食事療法が守られていることがうかがえる.

尿酸(UA):基準値 男性 3~7�mg/dL 女性 2~6�mg/dL   CKDにおける目標値 7.0�mg/dL 以下 尿酸は腎から排泄量される.尿酸はプリン体の最終代謝産物であるので,プリン体産生が多くなれば尿酸産生も亢進する.絶食,脱水,強い運動,大量飲酒で尿酸は高値を示す.高尿酸血症改善には,体重の適正化,乳製品の摂取,適量のワイン摂取などがあげられている.

総コレステロール濃度(TC):基準値 120~220�mg/dL

Lowdensitylipoprotein(LDL‒C):基準値 65 ~ 140�mg/dL 未満  �� CKDにおける脂質管理目標として,冠動脈疾患の一次予防でLDL‒C�120�mg/dL未満またはnon‒HDL‒C�150�mg/dL未満,二次予防でLDL‒C�100�mg/dL未満またはnon‒HDL‒C�130�mg/dL 未満を推奨する.

 高コレステロール血症は粥状動脈硬化症の危険因子である.高コレステロール血症改善,動脈硬化予防の観点から,n‒3 系多価不飽和脂肪酸を多く摂取するように指導する.

LDL‒C 算出式「Friedewald の式」 LDL‒C(mg/dL)=TC(mg/dL)-HDL‒C(mg/dL)-中性脂肪(mg/dL)*×0.2 *中性脂肪が 400 mg/dL 以上のときはこの式は使えない *食後採血では使えない

Highdensitylipoprotein(HDL‒C):基準値 40~65�mg/dL 一般的に善玉コレステロールといわれている.末梢細胞にたまったコレステロールを引き抜くことで,動脈硬化予防の役割を担っている.HDL‒C を低下させる要因として,肥満,運動不足,喫煙などが知られている.

中性脂肪(TG):基準値 50~150�mg/dL 高 TG血症は動脈硬化の危険因子である.TGは日内変動が大きく,食事・運動・アルコールなどの影響を受けやすい.高TG血症では,炭水化物の過剰摂取を避けるよう指導する.

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附録

カリウム(K):基準値 3.5~5.0�mEq/L 腎機能が低下すると尿へのK排泄が減少する.高カリウム血症では頻脈を起こしたり,重篤なときには心停止を起こしたりすることもある.食事として気をつけることは,たんぱく質をとりすぎないこと(たんぱく質の多い食品はKが多い)である.適正なたんぱく質制限が行われていれば,通常,食事が原因で高K血症を起こすことはほとんどないといえる.それでも高くなってしまう場合は,野菜・いも・くだもの(カリウム含有量が比較的多い)を食べすぎないよう指導する.まれに,低栄養の患者で消化管出血を起こして高K血症(腸管からの血液再吸収)を起こすこともあるので,患者の栄養状態は常に注意する.また,アシドーシスやRA系阻害薬の影響で上昇するケースもある.

リン(P):基準値 2.5~4.5�mg/dL(施設の基準値も参照) 腎不全が進行すると尿への P排泄が低下し,血清 P濃度が上昇する.治療には薬物療法とともに食事制限が行われる.たんぱく質の多い食品にPは多く含まれている.適正なたんぱく質制限ができていれば,Pも同時にコントロールされているといえる.たんぱく質のとりすぎで Pが高くなる場合,BUNも同時に高くなる傾向がある.P含有量が特別多い卵黄,臓物類,干し魚や乳製品を好んで食べる患者では,Pのみ高値を示すことがよくあるので注意する.

カルシウム(Ca):基準値 8.4~10.0�mg/dL(施設の基準値も参照) 腎不全が進行すると低Ca血症を呈する.またカルシウム製剤や活性型ビタミンD製剤の投与,サプリメントの過剰摂取などで高Ca血症を呈することがあるので常用する薬の内容に注意する. 血清アルブミン濃度が 4�g/dL 未満では補正Ca濃度は以下の式で計算する.

補正Ca濃度(mg/dL)=実測 Ca 濃度(mg/dL)+[4-血清アルブミン濃度(g/dL)] 例:Ca 7.8 mg/dL,アルブミンが 3.1 g/dL の場合  補正 Ca=7.8+(4-3.1)      =7.8+0.9      =8.7 mg/dL となる.

ナトリウム(Na):基準値 134~147�mEq/L 血液中のNa濃度は体内水分量の影響を受ける.水で血液全体の濃度が低くなれば低値を示し,血液全体の濃度が高くなれば高値を示す.いずれにしても,同時に測っている他項目の検査データも同様に動いていることに注意する.

血清総蛋白濃度(TP):基準値 6.5~8.2�g/dL TPの減少は,多くの場合 alb の減少を反映している.栄養状態評価指標としてみる場合,TPはグロブリンの影響も受けるため,感度はあまり高くない.

血清アルブミン濃度(Alb):基準値 3.7~5.0�g/dL CKD患者では,尿蛋白の漏出により低値を示すことが多い.栄養状態評価指標としても用いることは可能であるが,尿蛋白の影響を考慮する必要がある.低 alb 血症では浮腫を引き起こすことがよくあるので,体重測定時には浮腫の有無を注意する.

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2.検査データの基準値,見方

HbA1c:基準値 4.6~6.2%   CKDにおける目標値 7.0%未満である HbA1c は,過去 2~3カ月間の平均血糖コントロール状態を反映する比較的安定した指標である.CKD患者では腎性貧血によるHb値の低下,腎臓でのインスリン分解能の低下により,見かけ上HbA1c の値が低下することもあるので注意する.

ヘモグロビン濃度(Hb):基準値 男性 13.5~17.6�g/dL 女性 11.3~15.2�g/dL   ��CKDにおける目標値は 10 ~ 12g/dL である。 Hbは赤血球中に含まれ,全身に酸素を供給している.腎機能が低下すると造血因子であるエリスロポエチンの産生能が低下し,その結果腎性貧血を起こす.腎性貧血では 10�g/dL 以下で赤血球造血刺激因子製剤の投与開始を考慮する.Hbの治療目標値は10~12�g/dLとする.13�g/dL以上に維持することは推奨しない.

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3 CKD管理ノート

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たんぱく質制限G3a:0.8~1.0g/㎏/日G3b:0.6~0.8g/㎏/日

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❶前回の診察からどのくらい経っていますか?  □ 1カ月(4週間)以内   □ 3カ月(12 週間)以内   □ 3カ月以上

❷今日,具合の悪いところはありますか?  □ない   □ある(               )

❸薬はどのくらい余っていますか? 一番たくさん余っているものでお答えください.  □ 1週間分くらい   □ 1カ月分くらい   □それ以上

❹前回受診時から体重は?  □ 2�kg 以上減った   □かわらない(±2�kg 以内)   □ 2�kg 以上増えた

❺家庭での上の血圧はいくつくらいのことが多いですか?  朝 □ 130 未満   □ 130‒150   □ 150 以上   □わからない  夕 □ 130 未満   □ 130‒150   □ 150 以上   □わからない

❻通院している理由はご存知ですか? いくつでも ✓してください.  □血圧が高い  □腎臓が悪い  □コレステロールが高い  □糖尿病  □その他(         ) □詳しくは知らない

❼ふだんのお食事について  摂りすぎに注意するように指導されているもの  □エネルギー(カロリー)  □たんぱく質  □コレステロール  □食塩  守っていると思うのもの  □エネルギー(カロリー)  □たんぱく質  □コレステロール  □食塩

❽前回の診察以降にあったことがあれば教えてください  □健康食品をはじめた  □運動をするようになった(             )  □食事で(          )を摂り過ぎないようになった.  □他の医療機関を受診した  □その他(               )

❾他の施設から新しく出された薬はありますか?  □痛み止め,解熱薬          □コレステロールの薬  □漢方薬               □骨粗鬆症の薬  □尿酸の薬              □その他(          )

4 問診票

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附録

問診票について この問診票は慢性腎臓病(CKD)の管理に関連する項目を中心に,一般診療でも有用な項目を含めて作成いたしました.待ち時間に待合室で患者さんにお渡しになり,日常診療にお役立てください.それぞれの項目について簡単な解説を記載しましたが,判断に困る場合にはお近くの腎臓専門医にご相談ください.

❶前回受診からの間隔 eGFR�60�mL/分以上でもアルブミン尿(蛋白尿)のある場合には 3~ 6カ月毎の採血,検尿検査が推奨されています.eGFR�60�ml/分未満では 1~ 3カ月毎の採血(電解質含む),検尿検査が推奨されています.

❷本日の主訴

❸内服のコンプライアンス

❹体重の変化 2�kg以上の減少が見られた場合減量中でなければ体重減少の精査が必要です.高齢者では低栄養に留意してください.体重増加に蛋白尿・浮腫を伴っていれば腎臓専門医受診を勧めてください.伴っていなければ減量を指導してください.体重増加により血圧が上昇しますので,ご注意ください.

❺血圧のコントロール 以前に比べて変化があった際には,生活習慣に変化がないかどうかご確認ください.血圧の目標域は年齢,合併症,腎機能などによって異なりますので,ご不明の際には専門医にご相談ください.

❻病識について 一致しない場合には罹患している疾患についてもう一度わかりやすくご説明ください.

❼食事療法について 先生が指導している内容と,患者さんが指導を受けていると認識している内容に食い違いがないことを確認してください.指導を受けているのに遵守できていない場合には管理栄養士への相談を勧めてください.

❽生活習慣について 先生の診療に影響がないかどうかを確認してください.

❾薬剤の併用について 先生の診療に影響がないかどうかを確認してください.NSAIDs はなるべく頓用で内服するよう指導してください.骨粗鬆症薬による血清カルシウム値の変動に注意してください.

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本書は,厚生労働省腎疾患重症化予防実践事業による委託業務として,一般社団法人日本腎臓学会が受託した成果を取りまとめたものです。

慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル医師・コメディカルのための

生活食事指導26-奥付.pdf 1 2015/03/25 18:29

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