11
富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車 139 富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車 ※中 なか ひろ ひと ※※久 かつ ひろ ※※大 おお いし まさ ふみ 写真 1 外観 要旨 富山地方鉄道株式会社(富山地方鉄道)では、富山市内軌道線の車齢の長いデ 7000 形電車の代替車両として、 富山県内では初めてとなる三車体連接の超低床路面電車、T100 形“サントラム”を国、富山県及び富山市の補 助を受けて、2010 年春に 1 編成を導入した。T100 形は、アルナ車両株式会社のリトルダンサー Ua タイプを採 用し、純国産の LRV としては唯一 100%全面低床化を実現した狭軌道用超低床車両である。実績のある既存技 術をベースに構成することで、従来の車両と変わらない運行、メンテナンス環境を維持し、使い勝手の向上も図 った画期的な車両である。 1 はじめに 富山市内軌道線の歴史は、1913(大正 2)年 9 月に富山 電気軌道株式会社が開業したことに始まる。富山県内の交 通網の統合のため、1943(昭和 18)年 1 月からは富山地 方鉄道株式会社が運行を行い、2010 年で97 周年を迎えた。 その間、多くの市民に親しまれ大切な足として利用されて いる。富山市内軌道線の路線は、南富山駅前から富山駅前 を経由して大学前までの 6.4 キロと富山市の環状線化事業 によって 2009 年 12 月に開業した富山都心線(丸ノ内~西 町)の約 0.9 キロを加えた約 7.3 キロとなっている。(図 8 参照) また、富山地方鉄道では、T100形の導入を行うとともに、 IC カードシステムの導入、停留場のバリアフリー化を進 めており、輸送サービスの向上を図っている。 T100 形は、国産技術のみを使って作られた狭軌道(軌 間 1 067 ㎜)の路面電車としては、唯一の 100%全面超低 床車両である。また、国内外の狭軌道(含むメータゲージ) へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も 800 ㎜未満であったが、本車両では、820 ㎜の最小通路幅を確保することで、2006 年 12 月に施行さ れた“移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の ※  富山地方鉄道㈱ 鉄軌道部 技術管理課 ※※ アルナ車両㈱ 営業・技術部 写真 2 室内

富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

  • Upload
    others

  • View
    35

  • Download
    2

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車 139

富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車※中なか

 野の

 裕ひろ

 人ひと

  ※※久く

 保ぼ

 勝かつ

 裕ひろ

  ※※大おお

 石いし

 正まさ

 史ふみ

 

写真 1 外観

要旨富山地方鉄道株式会社(富山地方鉄道)では、富山市内軌道線の車齢の長いデ 7000 形電車の代替車両として、

富山県内では初めてとなる三車体連接の超低床路面電車、T100 形“サントラム”を国、富山県及び富山市の補助を受けて、2010 年春に 1編成を導入した。T100 形は、アルナ車両株式会社のリトルダンサーUa タイプを採用し、純国産の LRVとしては唯一 100%全面低床化を実現した狭軌道用超低床車両である。実績のある既存技術をベースに構成することで、従来の車両と変わらない運行、メンテナンス環境を維持し、使い勝手の向上も図った画期的な車両である。

1 はじめに富山市内軌道線の歴史は、1913(大正 2)年 9月に富山

電気軌道株式会社が開業したことに始まる。富山県内の交通網の統合のため、1943(昭和 18)年 1月からは富山地方鉄道株式会社が運行を行い、2010 年で 97 周年を迎えた。その間、多くの市民に親しまれ大切な足として利用されている。富山市内軌道線の路線は、南富山駅前から富山駅前を経由して大学前までの 6.4 キロと富山市の環状線化事業によって 2009 年 12 月に開業した富山都心線(丸ノ内~西町)の約 0.9 キロを加えた約 7.3 キロとなっている。(図 8参照)また、富山地方鉄道では、T100 形の導入を行うとともに、

IC カードシステムの導入、停留場のバリアフリー化を進めており、輸送サービスの向上を図っている。T100 形は、国産技術のみを使って作られた狭軌道(軌

間 1 067 ㎜)の路面電車としては、唯一の 100%全面超低床車両である。また、国内外の狭軌道(含むメータゲージ)へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅

は、どの車両も 800 ㎜未満であったが、本車両では、820㎜の最小通路幅を確保することで、2006 年 12 月に施行された“移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の

※  富山地方鉄道㈱ 鉄軌道部 技術管理課※※ アルナ車両㈱ 営業・技術部

写真 2 室内

Page 2: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

2011- 3「車両技術 241 号」140

表 1 富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車 車両諸元

会社・車両形式 富山地方鉄道㈱ T100 形使用線区 富山地方鉄道 富山軌道線 軌間(㎜) 1 067基本編成 A車-C車-B車 使用線区の最急勾配 29 ‰用途 都市内交通 電気方式 直流 600 V車体製作会社 アルナ車両㈱ 製造初年 2010 年台車製作会社 住友金属工業㈱ 1次製作両数 1編成主回路装置製作会社 ㈱東芝 車両技術の掲載号 241

凡例  ●;駆動軸 ○;付随軸 C-PCU;VVVF+補助電源装置 BT;蓄電池<;パンタグラフ ◎;車いすスペース

個別の車種形式 T100 T100 T100車種記号(略号) A C B空車質量(t) 23.0t/ 編成定員(人) 20 34 20うち座席定員(人) 8 13 8

特記事項

車両性能

最高運転速度(㎞/h) 40加速度(m/s2) 0.69(2.5 ㎞/h/s)減速度(m/s2)

常用 1.22(4.4 ㎞/h/s)非常 1.39(5.0 ㎞/h/s)

ユニット当りの定格(ユニットの構成)

出力(kW) 170/ 編成速度(㎞/h)引張力(kN)

動力伝達方式 直角カルダン

ブレーキ制御方式回生 /発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ

制御回路電圧(V) DC 24抑速制御 -運転保安装置 デッドマンブレーキ列車無線 空間波無線

非常時運転条件

その他

電気駆動系主要設備

集電装置

形式/質量(㎏) PT7120-B方式 シングルアーム式

制御装置

形式/質量(㎏) C-PCU

制御方式2レベルVVVFインバータ制御方式

仕様 補助電源一体形

主電動機

形式/質量(㎏) TDK6408-B方式 三相かご形誘導電動機1時間定格(kW) 85回転数(min -1) 1 760特記事項 車体懸架

主回路標準限流値

力行(A)ブレーキ(A)

電気ブレーキの方式 回生ブレーキ・発電ブレーキブレーキ抵抗器

形式/質量(㎏) あり

補助電源設備

補助電源装置

形式/質量(㎏) C-PCU内蔵方式 2レベルインバータ方式出力 30 kVA

蓄電池種類/質量(㎏) 鉛蓄電池容量(Ah) 50(5 時間率)主な用途

Page 3: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車 141

車体の構造・主要寸法

構体材料/構造 鋼製車両の前面形状 非貫通運転室 全室解放

長さ(㎜)先頭車 16 300(5 450+5 400+5 450)中間車 -

連接面間距離(㎜)

先頭車 400中間車 -

台車間距離(㎜) 9 200車体幅(㎜) 2 400

高さ(㎜)屋根高さ 3 265屋根取付品上面 3 905(パンタ折りたたみ)

床面高さ(㎜) 380(乗降口 350)

車体特性・構造及び主要設備

相当曲げ剛性(MNm2)相当ねじり剛性(MNm2/rad)曲げ固有振動数(㎐)ねじり固有振動数(㎐)内装材 ミラミン化粧板、FRP側窓構造 上部引違い式妻引戸 -

側扉構造 片引戸(A車 B車)、両引戸(C車)片側数 2

戸閉め装置形式 PSED-02-1方式 電動プラグ式

腰掛方式 縦形+横形(セミクロスシート)車体連結装置

先頭車 連結棒中間車 上下連接装置

空調換気システム

冷房方式 屋根上集中式空調装置暖房方式 腰掛下シーズ線ヒータ換気方式 自然換気送風方式 天井ダクト

車内主要設備

照明方式 蛍光灯、ダウンライト

移動制約者設備車いすスペース、車いす固定ベルト、乗降用スロープ、専用降車押ボタン

便所 なし汚物処理 なし

その他

その他の主要設備

主幹制御器形式/質量(㎏) ES9217-D-M方式 右手操作ワンハンドル

速度計装置 直動式指示計車両情報制御システム

モニタ装置 -モニタ表示器 -

非常通報装置 あり

行先表示器前面 LED式側面 LED式

車内案内表示 液晶式、LED式

放送車内向け あり 音声合成式車外向け あり

車両間連結電気系 両せんケーブル空気管系 空気ホース

その他の主要設備

空調装置形式/質量(㎏) RPU4021方式 ON/OFF制御方式容量(kW) 14.5×2 台

暖房装置容量(kW) 3形式/質量(㎏) HF223、HF254、HF319

標識灯前灯 ハロゲンランプ尾灯 赤色 LEDその他 -

その他

空気ブレーキ設備

電動空気圧縮機

形式/質量(㎏) D3360-HS5圧縮機容量 600 ㍑ /min圧縮機方式 往復形単動 2段圧縮

空気タンク元空気タンク 72.5 ㍑供給空気タンク 72.5 ㍑

ブレーキ装置 形式/質量(㎏)

台   

形式M台車 SS09T 台車 -

支持装置車体

金属ばねダイレクトマウント式

軸箱 シェブロンゴムばね式けん引装置 ボルスタアンカばね方式 コイルばね軸距(㎜) 1 650

ばね定数

(N/㎜)

まくらばね 530

軸ばね

コイルばね 1 618総合防振ゴム

リンクばね 1 618台車最大長さ(㎜) 2 583.9(排障器付き)車輪径(㎜) 610基礎ブレーキ

M台車 てこ式踏面ブレーキT台車 -

ブレーキ倍率 8.3

制輪子M台車 鋳鉄制輪子T台車 -

ブレーキシリンダ×個数

M台車 2T台車 -

駆動方式 直角カルダン方式歯数比(減速比) 5.82継手 ユニバーサル継手軸受 円筒ころ軸受

質量(㎏)M台車 2 980T 台車 -

その他

Page 4: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

2011- 3「車両技術 241 号」142

折りたたみ高さ)

図1 形式図

Page 5: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車 143

構造及び設備に関する基準を定める省令(公共交通移動等円滑化基準)”で規定されている 800 ㎜以上を満足しているほか、国土交通省の“公共交通機関の車両等に関する移動円滑化整備ガイドライン[(バリアフリー整備ガイドライン)2007 年 7 月]”についてもすべて満たした新しい車両である。

2 編成及び主要諸元全長 16 300 ㎜、全幅 2 400 ㎜、A車-C車-B車で構成

された 3車体連接 2台車方式の 100%低床車両である。両先頭となるA、B車は、駆動台車に低床車体がダイレ

クトにマウントされている構造で、車体に対して台車は回転しない。C車には台車がなく、前後のA車及び B車の上下に設置された連接装置で支えることによって、フローティング支持された低床の客室のみの構造である。機器、部品類は、実績のあるものを用いた極力シンプル

な構成とすることで、操作性、保守性及び経済性を高めるとともに不具合発生の可能性をも低減している。

3 外観外観は、正面ガラスに 3次曲線ガラスを採用するだけで

なく、先頭構体にも曲線形状を取り入れ、全体的に柔らかなラウンドフォルムとしている。また、前部標識灯の周囲は、LRVの存在感をアピールするエッジの効いたボリュームのある造形としている。ボディーカラーは、ホワイトを基調とし、富山の豊かな自然を表す 4つの色を使用している。

4 車両性能最高速度(設定値)は 40 ㎞/h、加減速度は運転操作性

を考慮して、既存のVVVF制御車両と同等の性能に合わせている。また、曲線通過性能、登坂性能については、使用線区の最小曲線及び最急勾配に対し、十分余裕を持った設計としている。

5 車体5.1 車体構造車体は鋼製溶接組立構造で、前頭部のライトカバー、バンパ及び屋根おおいは FRP 製である。A車-C車、C車-B車間の連接部は、上下の連接装置によってヨーイング方向のみ回転する構造となっている。また、車体の動揺を抑制するために車体間ヨーダンパを取り付けている。5.2 乗降口及び床高さレール面上からの乗降口高さは 350 ㎜、客室の一般部の床高さは 380 ㎜、客室の台車部分の床面高さは 480 ㎜である。客室の一般部と乗降口部及び台車部分との間は、緩やかなスロープでつながれているため、客室のすべて床面は段差のない 100%低床構造となっている。乗降口は片側 2箇所で、先頭の降車口の有効開口幅は 900 ㎜、後方の乗車口の有効開口幅は 1 200 ㎜とした。5.3 通路通路幅は、公共交通移動等円滑化基準及びバリアフリー整備ガイドラインに記載されている“800 ㎜以上”の寸法に従って、車両の構造上、最も狭くなる台車上部付近の通路で 820 ㎜を確保している。また、この部分の座席レイアウトを工夫することで、車いすだけでなく、全ての乗客が中間車の入口から先頭車の出口までスムーズに移動できる

318.2

381.8

2190

2290

1100

380

247

2623

2400

480

図 2 車体断面

Page 6: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

2011- 3「車両技術 241 号」144

まき

こう

のみ

いす

のみ

のみ

のみ

のみ

のみ

のみ

のみ

のみ

のみ

のみ

のみ

A B

A B

CC

視A - A

断面C - C

視B - B

図3 運転室機器配置

写真3 運転台

Page 7: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車 145

a)屋根上機器配置

ちりこし

b)床下機器配置

図4 屋根上・床下機器配置

Page 8: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

2011- 3「車両技術 241 号」146

図5 動台車(SS09)

写真4 動台車及び主電動機

Page 9: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車 147

図6 主回路つなぎ

Page 10: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

2011- 3「車両技術 241 号」148

ようにしている。

6 台車台車は、従来通りの輪軸構造を用いた低床台車で、車体

荷重をコイルばねを用いたまくらばねで直接支持するボルスタレス台車である。軸ばねには山形緩衝ゴムを使用し、車輪は一体圧延車輪で車輪径は 610 ㎜である。

7 走行装置7.1 駆動装置駆動装置は、スパイラルベベルギアによる一段減速式を

用いている。客室内の通路幅を確保するため、駆動装置は、台車枠の外側に配置し、スプライン加工された車軸ボスに取り付けることで、台車が車体に装架された状態での脱着を可能にしている。また、駆動軸の特徴として、駆動装置がない側の軸端部には、輪重バランス調整のためにカウンターウェイトを装備している。7.2 主電動機主電動機は、運転台床下に装架しており、ユニバーサル

ジョイントを仲介して、直角カルダン方式で駆動している。

8 主要機器8.1 C-PCU装置C-PCU 装置は、駆動用のVVVFインバータ方式の主回

路制御装置、空調装置などに使用するAC 200 V 電源装置(APS)、制御用途などに使用する DC 24 V 電源装置(LVPS)及びブレーキチョッパ制御装置(BCH)が一体となった装置である。VVVFインバータユニットは、IGBTを使用した 2レベ

ル方式で 85 kWの主電動機 2台を制御している。電気ブレーキは回生・発電方式を採用し、軽負荷時も車両搭載してある抵抗器が負荷となるため、回生失効することはない。APS 部は、2レベル三相電圧型 PWMインバータ方式で定格容量は 30 kVAである。LVPS 部は、単相インバータ全波整流併用方式で定格容量 6 kWである。低床化構造のため、C-PCU 装置は、C車の屋根上に設

置している。8.2 ブレーキ装置多段制御方式の電気指令式電磁直通ブレーキ(HRD-1)

を採用し、シンプルで信頼性の高いシステムとしている。常用ブレーキは、ブレーキ受信装置の機能によって、電気ブレーキを優先的に作用させ、ブレーキ力の不足分を空気ブレーキで補足する電空協調制御を行う。保安ブレーキは、A車、B車で独立した回路で作用する。なお、システムの簡素化、鋳鉄制輪子の摩擦特性、操作性や運行状況なども勘案し、応荷重制御は行っていない。8.3 冷房装置屋根上集中式の 14.5 kWの冷房装置をA車及び B車の

屋根上に各 1台装備し、C車に対しては、A車及び B車の妻部に設置したルーバーから冷風が吹きこむ方式となっている。

9 運転室正面窓及び正面窓左右にある、そで窓ガラスの下端位置

を下げることで、広い前方視界を確保している。運転士が

操作する機器類は、右手ワンハンドルマスコンを操作しながら、放送などのサービス機器の操作がしやすいようにレイアウトしている。乗客の乗降状態や客室の状況は、車内外に設置した CCDカメラからの映像を運転席のモニタ画面で確認出来るようになっている。

10 客室設備A車及び B車の台車上部の腰掛は、クロスシート配置を採用することで通路幅 820 ㎜を有効に使えるようにし、C車はロングシート配置を採用することで座席定員を多く取るようにしている。インテリアは、“クール&モダン”をコンセプトに、柔らかで包み込まれるような空間デザインとしている。照明には、蛍光灯とダウンライトを用いてスタイリッシュな空間を演出した。また、腰掛表地のデザインについては、立山連峰をイメージしたものとしている。バリアフリーに対応した設備として、C車に車いすスペースを確保している。車いすスペースには、車いす乗降用スロープ、車いすの固定ベルト、車いす利用者の専用降車押しボタンを設けている。また、出入口の位置が識別しやすいように、周囲を黄色としている。車外の正面及び側面の行先表示装置は、LED方式とすることで、視認性、表示内容の多様性、メンテナンス性の向上を図っている。客室内には次駅案内表示などを行なう 20 インチ液晶表示器及び FM電波を利用した文字多重放送(見えるラジオ)のデータを表示する LEDディスプレイを運転台背面仕切部に設けてサービス向上を図っている。戸閉め装置には、国産の電動プラグ式側引戸装置を採用

図 7 主電動機特性曲線

Page 11: 富山地方鉄道 T100形超低床路面電車 · へ導入された従来の超低床車両の台車上部付近の通路幅 は、どの車両も800㎜未満であったが、本車両では、820

富山地方鉄道 T100 形超低床路面電車 149

し、保守点検を容易なものとしている。前扉(出口)は、有効開口幅 900 ㎜の片引戸、中扉(入口)は有効開口幅

1 200 ㎜の両引戸となっている。戸挟み防止制御は、扉速度変化検知+モータ電流検知方式である。

11 おわりにT100 形の愛称は、導入にあたり県内外から一般公募し

“三連接のサン”、富山市内で三番目に導入された超低床路面電車であることから、“サン”と路面電車の“トラム”を合わせた“SANTRAM(サントラム)”と命名された。富山地方鉄道は、平成 22 年 2 月に創業 80 周年の節目の年を迎えた。一方、富山市内軌道線はまもなく開業 100 周年を迎える。今回導入されたT100 形が末長く富山市内軌道線のシンボルとして、また、富山市中心市街地活性化の一役をにない市民の皆様に愛される車両となれば幸いである。最後に、本車両の開発、導入に当たり、関係各位から多大なるご協力を頂き、この場をお借りして心より感謝を申し上げる。

写真 5 車いす乗降スロープ

0.20.2

0.2

0.3

国際会議場前

大手モールグランドプラザ前

富山都心線

:複線:単線

富山地方鉄道株式会社(軌道線)

図 8 路線図