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土木技術者のための CIM 教育プログラム 及び素材の開発について 建設情報研究所 首席研究員 杉原 直樹

土木技術者のためのCIM教育プログラム 及び素材の …・土木技術者(施工・設計・調査会社、発注者等)が3次元CADソフトをエンジニア活動の一環と

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土木技術者のための CIM 教育プログラム

及び素材の開発について

建設情報研究所 首席研究員 杉原 直樹

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1. 研究の背景

CIM(Construction Information Modeling/Management)は、平成 24 年度から試行として、適用可能な

プロセス・範囲で CIM モデルの作成や活用の検証が行われてきていたが、平成 29 年 3 月に CIM 導

入ガイドライン(案)が作成され、これからは、計画、調査、設計、施工、維持管理とプロセス間で

CIM モデルを連携し、建設生産システムの効率化を目指すこととされた。CIM導入ガイドライン(案)

では CIM の導入効果として以下の 6 項目が挙げられている。

① 情報の利活用(設計の可視化)

② 設計の最適化(整合性の確保)

③ 施工の高度化(情報化施工)、判断の迅速化

④ 維持管理の効率化、高度化

⑤ 構造物情報の一元化、統合化

⑥ 環境性能評価、構造解析等を目指す

これらの効果は、CIM が発注者と受注者、関係者間の相互のより円滑な意思疎通の手段として期

待されるだけでなく、計画、調査、設計、施工、維持管理のそれぞれを実施する組織内部での効率的

で高度な業務の遂行にも活用できるものと考えられていることを示している。さらに CIM 導入ガイ

ドライン(案)では、これらの効果を実現するためには、CIM を活用する十分なスキルを持った発

注者(管理者)と受注者の双方が、それぞれの役割分担を明確にした上で、共有したモデルを通じた

円滑な情報の交換が可能となる環境を構築していくことが不可欠とされている。すなわち、建設生産

システムの効率化が避けて通れないこれからの時代の土木技術者は、発注者(管理者)であろうが、

受注者であろうが、CIM を活用する十分なスキルを持つ事が求められている。

一方で、土木学会土木情報学委員会が全国の建設従事者に幅広く CIM について周知することを目

的として開催している「CIM 講演会 2015」(参加者 1,965 名)の参加者に対して行ったアンケート

の結果を見ると、CIM を導入するにあたっての課題は、「人材育成・教育」、「CIM 知識・技術」、「導

入コスト(ソフト・ハード)」がほぼ同率で上位を占めている。また、CIM を導入するにあたり希望

する情報は、「3 次元モデリングの手法」が最も多く、特に、建設コンサルタントからの回答が多か

った。なお、発注者が希望する情報で最も多かったのは、「導入事例紹介」であった。

以上のことから、CIM 普及の推進のためには、「3 次元モデリングの手法」を中心とした「CIM

知識・技術」を効果的に学習できる教育プログラム及び素材の開発が必要であると考えた。

図 1-1 CIM を導入するにあたっての課題と要望

(出典)「CIM 技術検討会 平成 27 年度報告 平成 28 年 6 月 CIM 技術検討会

p.11 『CIM に関する講演会(全 15 会場】アンケート結果』」

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2. CIM 人材育成の全体イメージ案

CIM 人材育成全体を CIM の活用レベルに応じて、4段階に分類した。最も基礎的な段階は、「CIM

に触れ」て CIM を知識として知る段階である。例えば、土木学会土木情報学委員会が主催する CIM 講

演会に参加するなどである。その次の段階から CIM を利用する段階となり、CIM を「使う」エントリ

ーレベル、「活用」するミドルレベル、「可能性を追求」するエキスパートレベルと応用の程度に応じ

て分類している。現状で、エントリーレベルと考えられるものは、ベンダー等が行っている 3 次元

CAD トレーニングがあるが、これらは 3次元 CAD ソフトの操作・機能を中心に習得するものとなって

いる。土木技術者の CIM 教育を進めるためには、まずはこの段階で土木技術者が 3次元 CAD ソフトの

効果を実感してもらい、実務で活用しようという意識をもって貰える研修を用意する事が必要と考

え、そのための研修として CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)を設定し、その教育プログラム、素

材の開発を行うこととした。

図 2-1 CIM 人材育成全体イメージ案

3. JACIC における CIM 人材育成の取り組み

JACIC は、CIM 人材育成の取り組みとして、CIM 活用事例の紹介と CIM 教育プログラム及び素

材の開発を行っている。

3.1 CIM 活用事例の紹介(「CIM を学ぶ」の出版)

熊本大学大学院自然科学研究科(小林一郎教授)と共同研究を実施し、CIM 活用事例を「CIM を

学ぶ」としてまとめている。これまで以下のとおり、「CIM を学ぶ」から「CIM を学ぶⅢ」までを出

版している。

「CIM を学ぶ ~河川激特事業における CIM の活用記録より~」 平成 27 年 6 月 1日

「CIM を学ぶⅡ ~見える化の技法と実務での応用~」 平成 28 年 7 月 14 日

「CIM を学ぶⅢ ~モデル空間の活用に向けて~」 平成 29 年 7 月 14 日

3.2 CIM 教育プログラム及び素材の開発(「CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)」の実施)

CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)は、平成 27 年度から開講し、平成 29 年 11 月までに 6回

開催し、121 名の方が受講している。この研修の実施を通じて、CIM 教育プログラム及び素材の開発

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を行っている。

以下に、研修を通した CIM 教育

プログラム及び素材の開発の状況

について報告する。

4. CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)を通じた CIM 教育プログラム及び素材の開発

4.1 CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)の目的と役割

CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)の目的は、以下の 2 点である。

・土木技術者(施工・設計・調査会社、発注者等)が3次元 CAD ソフトをエンジニア活動の一環と

して高度に使いこなせるようになるために、土木技術者のための講義・演習等の教育プログラムの

構築及び素材の開発

・3次元 CAD ソフトに対するニーズ、課題等の情報収集機会の提供による、最適な3次元 CAD ソフ

トを提供できる業界支援(ベンダー等)

すなわち、CIM の普及促進のためには、人材育成が重要なことはいうまでもないが、併せて、3次

元 CAD ソフトが土木事業に適用するに当たって使い易い操作・機能を提供することが望まれる。

CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)は、これを実現するために、ソフトを利用する土木技術者とソ

フトを提供するベン

ダー等が意見交換を

行う場を提供する。

すなわち、土木技術

者はベンダー等から

講習を受けてスキル

の向上を図り、ベン

ダー等は講習を通じ

てソフトの課題を把

握して改良する。こ

のような形で研修を

行うことにより、CIM

ソフトを高度に使い

こなせる人材育成と

最適な CIM ソフトを

提供できるような業

界支援を同時に実現していくことを考えている。

4.2 CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)の内容

(1)CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)の構成

CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)は、2つのクラスで構成している。入門クラス(初級者向

け)と実務クラス(実務者向け)である。実務クラスは、入門クラス受講者のより実践的な研修の

開催を要望する意見も踏まえて平成 29 年度より設定したものである。

図 4-1 CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)の目的と役割

表-3.1 CIMSoluthon®(CIMチャレンジ研修)入門クラスの実施状況

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(2)入門クラス(初級者向け研修)の教育プログラム及び素材の開発

CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)は、土木技術者が3次元 CAD ソフトの代表的な操作や機能

を理解して、日常業務等の様々な場面において、CIM を活用したエンジニア活動ができるようにな

ることを目指し

ている。そのた

め、3次元 CAD

ソフトの操作講

習と、3次元 CAD

ソフトを活用し

た課題演習とい

う 3次元 CAD ソ

フトを使うこと

に主眼をおいた

プログラムとし

ている。研修期間は、現場の技術者も参加しやすいように3日間としている。入門クラスでは、3

日目に日常業務や現場を想定した課題演習を行うこととし、初日、2日目は、課題演習を行うため

に必要な操作・機能を中心に講義・演習を行うこととしている。初心者の方でも、3日間の研修後

には設定された課題に対する回答を3次元 CAD ソフトで作成することができるようになり、土木の

現場で3次元 CAD ソフトが活用できる場面を実感できることを狙いとしている。

研修素材は、初日、2日目の講義・演習用のテキストと3日目に行う課題演習の課題から構成され

る。研修の中心を課題演習に置いていることもあり、特に演習課題の設定が重要と認識している。入

門クラスの課題は、公募で選定された協力企業(ベンダー等)の協力を得て、現場で発生する課題を

単純化し、3次元 CAD ソフトの効果が分かりやすいようなものを設定した。CIMSoluthon®(CIM チャ

図 4-2 CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)入門クラスのプログラム

表-4.1 CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)の構成

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レンジ研修)は、土木技術者とベンダー等の意見交換の場としても重要な役割を持たせていることか

ら、講師はベンダー等に勤めてもらうこととしている。さらに、より多くのベンダー等に参加しても

らえるように、3次元 CAD ソフトの開発または販売を行っており、講師派遣、教材手配等ができると

いう条件で公募し、演習課題等に関する技術提案をしてもらった上で、協力企業(ベンダー等)とし

て選定している。

平成 27 年度は 3 課題、3 コース(橋梁コース、トンネルコース、交通コース)を設定した。平成

28 年度は、2 課題、3 コース(道路計画:立体交差設計(BOX)コース、道路計画:ルート選定コー

ス)を設定したが、2つの 3

次元 CAD ソフトで同じ課

題に取り組み、その違い

を意見交換してもらうと

いう取り組みを行った。

また、作成した 3 次元モ

デルの条件変更が発生し

設計変更を行うという課

題を設定した。3次元 CAD

ソフトを使えば、設計変

更が比較的簡単に行うこ

とが出来ることを体験し

てもらうことを狙いとし

ている。

図 4-3 演習課題事例(平成 29 年度研修 Bコース:道路計画ルート選定)

表-4.2 CIMSoluthon(CIMチャレンジ研修)入門クラスの課題一覧

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(3)実務クラス(実務者向け研修)の教育プログラムと素材の開発

実務クラスの研修内容の設定に当たっては、JACIC 内に実務に携わっている方を含めた CIM チャレ

ンジ研修課題作成委員会を設置した。

CIM チャレンジ研修課題作成委員会には、演習課題、研修プログラム、受講者に求める条件につい

て議論していただいた。演習課題については、実務の現場で役に立つ操作・機能を習得することがで

きるものであること、研修プログラムについては、3日間という期間で効果的な研修とするために講

義・演習と課題演習のバランスの良い時間配分であること、受講者に求める条件については、設定し

た 3 日間のプログラムで研修内容を効果的に習得できるために必要な最低限の受講者の技術レベル

という観点から議論していただいた。その結果、演習課題は実際の業務で設計された施設を3次元モ

デル化したものを演習のベースとして使い、実務の現場で直面する課題を対象とすることとした。

研修プログラムは、

課題演習の時間を入門

コースより多くし、1日

半とした。また、入門コ

ースでも行っている受

講生同士の意見交換

(グループディスカッ

ション)の時間を多く

し、受講生それぞれが

経験や工夫の意見交換

を通じてお互いの技術

向上につなげてもらう

ことを考えた。受講者

に求める条件は、それ

ぞれの課題に応じて設

定した。なお、これら

の検討過程において、

協力企業(ベンダー等)

には、課題の回答例を

作成するなど実務クラ

スの研修として適当か

どうかの検証を行って

もらった。

4.3 CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)の評価

(1)入門クラス(初級者向け研修)の教育プログラムと素材の評価

①受講生の属性

受講者の職種を見ると、7割強がコンサルで建設会社が 2割弱、発注機関は 4%となっている。職

種構成は、演習課題が設計に関する内容であったことが影響しているのではないかと考えられる。

受講者の 3次元 CAD 経験の有無を見ると半数を超える方が未経験者である。

表-4.3 CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)実務クラスの課題

図 4-4 CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)実務クラスのプログラム

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②受講後のアンケート結果

受講後に行っているアンケートの結果を見ると、ソフトウェアの操作、機能を理解できたという

方がそれぞれ 9割弱、3次元 CAD ソフトの活用場面がイメージできた方が 8割弱となっている。受

講者の半数以上が 3次元 CAD ソフトの初心者であったことと併せて考えると、これまで実施してき

た入門クラスの教育プログラム及び素材は、所期の目的を達成していると評価できる。

5. まとめ

本稿においては、CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)を通した CIM 教育プログラム及び素材の

開発の状況について中間報告を行った。

研修は、入門クラス(初級者向け)と実務クラス(実務者向け)の 2つの技術レベルに対応した

クラスを設けている。これまで作成した入門クラスの教育プログラム及び素材は、所期の目的を達

するものであったと考えている。CIM に関するスキルを持った多くの土木技術者の育成が

CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)という教育プログラム及び素材を開発した目的であることか

ら、今後は全国の民間を含めた研修機関、あるいは業界団体・企業内の研修会、さらには教育機関

などできるだけ多くの組織で、CIMSoluthon®(CIM チャレンジ研修)を実施していただけるよう

に、教材の提供の仕組みや要件の整理を行っていく必要があると考えている。実務クラスに関して

は、研修を進めながら教育プログラム及び素材の内容を詰めていくことが必要と考えている。

<参考文献>

1.国土交通省CIM導入推進委員会、CIM導入ガイドライン(案)、第1編共通編、9ページ、平成29年3月

2.CIM 技術検討会、CIM 技術検討会平成 27 年度報告、10~11 ページ、平成 28 年 6 月

図 4-5 入門クラスの受講生の属性と開発した教育プログラム及び素材の評価