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OPEN/SHORT/LOAD 補正による 高確度インピーダンス測定 アプリケーション・ノート346-3

OPEN/SHORT/LOAD補正による 高確度インピーダンス測定literature.cdn.keysight.com › litweb › pdf › 1A344.pdf定データに加え、標準dut(値付けさ れたワーキング・スタンダード)を接

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OPEN/SHORT/LOAD補正による高確度インピーダンス測定アプリケーション・ノート346-3

kani
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はじめに

一般にインピーダンス測定器ではフロントパネルのUNKNOWN端子が測定確度の基準面になっています。アジレント・テクノロジー製インピーダンス測定器の場合はさらにケーブル長補正機能を備えており、アジレント・テクノロジー製の1m(2mまたは4m)測定ケーブルの先端を基準面に設定できます。しかし実際の測定では基準面から先にテストフィクスチャ等を接続するため、その残留インピーダンスにより全体としての測定確度が劣化する場合があります。この劣化を改善するためには誤差補正を行う必要があります。最近のインピーダンス測定器が備えている最も一般的な補正方法としてはOPEN/SHORT補正が挙げられます。しかし複雑な残留インピーダンスが存在する場合(例えば自動機やスキャナを用いる場合)や、測定器のケーブル長補正機能では補正できない長さの延長ケーブルを補正したい場合などには、OPEN/SHORT補正では誤差を十分に除去できない場合があります。これらの誤 差 を 除 去 す る た め に はOPEN/SHORT/LOAD補正が非常に有効です。本アプリケーションノートでは、OPEN/SHORT/LOAD補正を用いた高確度インピーダンス測定についてご紹介します。

OPEN/SHORT補正とOPEN/SHORT/LOAD補正の違い

ここではOPEN/SHORT/LOAD補正の原理を、OPEN/SHORT補正と比較しながら示します。

1. OPEN/SHORT補正

OPEN/SHORT補正ではテストフィクスチャによる残留インピーダンスを図1のような等価回路で仮定します。浮遊アドミタンスYOは、ZS≪1/YOよりテストフィクスチャの測定端子をOPEN(開放)状態にして測定することができ、残留インピーダンスZSはSHORT(短絡)状態にして測定することができます。これらの補正データを用いてDUT(Device Under Test:被測定試料)の測定値Zmを次式の補正式で補正し、テストフィクスチャの残留成分を取り除いた真値Zdutを得ることができます。

Zdut=

Zdut : DUTの真値Zm : DUTの測定値YO : OPEN(開放)状態での

アドミタンス値ZS : SHORT(短絡)状態での

インピーダンス値(各パラメータは全て複素数)

アジレント・テクノロジー製のテストフィクスチャを測定確度の基準面(UNKNOWN端子、あるいはケーブル長補正されたアジレント・テクノロジー製延長ケーブルの先端)に直結して測 定 を 行 う よ う な 場 合 に は 、OPEN/SHORT補正によって十分に誤差を取り除くことができます。しかし次のような測定では、図1のような簡単な等価回路で表せない複雑な残留インピーダンスが存在し、OPEN/SHORT補正では十分に誤差を補正できない場合があります。・自動機、スキャナを用いる場合。・自作のテストフィクスチャを用いる場合。・測定器のケーブル長補正機能では補正できない長さの延長ケーブルを用いる場合。・測定器とDUTの間に回路(バルントランス、フィルタ、アンプ、アッテネータ、外部DCバイアス用の保護回路など)が接続されている場合。また次のような要求に対してOPEN/SHORT補正では不十分な場合があります。・異なる測定器による測定値の相関をとりたい場合(器差をなくしたい場合)・測定の再現性を向上させたい場合このような問題を解決するためには、次に示すOPEN/SHORT/LOAD補正が必要になります。

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図1 OPEN/SHORT補正のモデル

Zm - ZS1-(Zm - ZS) YO

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2. OPEN/SHORT/LOAD補正

OPEN/SHORT/LOAD補正では測定端子を開放状態、短絡状態にしたときの測定データに加え、標準DUT(値付けされたワーキング・スタンダード)を接続したときのデータを用います。テストフィクスチャ等の残留インピーダンスを図2のようにA、B、C、Dパラメータ(F行列)で表される2端子対回路と仮定します。測定端子にインピーダンスZ2のDUTを接続したとき、測定値がZ1になると考えるとZ1=V1/I1、Z2=V2/I2より次式が成り立ちます。

Z1=      =

測定端子を開放状態にしたときの測定値をZO、短絡状態にしたきの測定値をZS、真値Zstdの標準DUTを接続したときの測定値をZSm、そして真値ZdutのDUTの測定値をZXmとすると、上式のパラメータA、B、C、Dが消去され次のような補正式が求められます。

Zdut=

ZO :OPEN(開放)状態の測定値ZS : SHORT(短絡)状態の測定値Zstd :標準DUTの真値、ZSm: 標準DUTの

測定値ZXm :DUTの測定値、ZDUT: DUTの真値OPEN/SHORT/LOAD補正機能は4263A(GPIBによって可能)、4278A、4279A、4284A、4285A等のインピーダンス測定器に装備されています。

OPEN/SHORT/LOAD補正の注意点

OPEN/SHORT/LOAD補正を実行するにあたり、以下の注意点を考慮する必要があります。

1. OPEN補正の注意点

OPEN補正ではテストフィクスチャ等の浮遊アドミタンスを正確に測定することが大切です。そのためにはOPEN補正データ取得時に、測定端子間の距離をDUTを保持するときの距離と等しくする必要があります。

2. SHORT補正の注意点

SHORT補正ではテストフィクスチャ等の残留インピーダンスを正確に測定することが大事です。SHORT補正データを取得する際には、測定端子を直接接続するか、あるいは測定端子に短絡板を接続します。短絡板を用いる場合には、残留インピーダンスがDUTのインピーダンスよりも十分に小さいものを用います。

3. LOAD補正の注意点

LOAD補正では標準DUTの選び方、および値付け方法に注意する必要があります。

(1) 標準DUTの種類標準DUTを選ぶ場合に、インダクタ測定にはインダクタを用いなければならない、あるいはコンデンサ測定にはコンデンサを用いなければならない-という制約はなく、既知の値を持つデバイスならば何でも用いることができます。ただ温度、磁界等の測定環境の影響を受けにくい安定したDUTを用いなければなりません。その点では測定環境の影響を受け易いインダクタより、コンデンサまたは抵抗の方が適しています。特に低損失(低D、高Q、低ESR)のDUTを測る場合には、なるべく損失の小さい標準DUTを用いる必要があります。損失の小さなインダクタを入手するのは難しく、コンデンサの方が入手しやすいので、低損失コンデンサを用いることをお奨めします。

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図2 OPEN/SHORT/LOAD補正のモデル

AV2+BI2 AZ2+B

CV2+DI2 CZ2+D

Zstd (ZO-ZSm) (ZXm-ZS)

(ZSm-ZS) (ZO-ZXm)

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(2) 標準DUTのインピーダンス値様々なインピーダンス値のDUTを測定する場合には、インピーダンス測定器が確度良く測れ、テストフィクスチャの接触抵抗や残留インピーダンスの影響を受けにくい100~1kΩ程度の標準DUTを選ぶことをお奨めします。一つの決まったインピーダンス値のDUTを測定する場合には、DUTのインピーダンス値に近い標準DUTを用いることをお奨めします。これによって、その値付近の非線形誤差を減らすことができます。ただしDUTがあまり低インピーダンスや高インピーダンスの場合に、それに近いインピーダンスを持つ標準DUTを用いると、測定器やテストフィクスチャの誤差によって標準DUTの値付け確度が悪くなってしまいます。このような場合にはやはり、100~1kΩ程度の標準DUTを用いることをお奨めします。

(3) 標準DUTの値付けOPEN/SHORT/LOAD補正を行うためには、標準DUTに値付けする必要があります。値付けの際には高確度インピーダンス測定器を用意し積分時間、アベレージング回数等の測定条件をできる限り高確度に測れるように設定します。また誤差を最小限にするために、直結型テストフィクスチャを用い、OPEN/SHORT補正を実行した後に値付けを行います。

4. OPEN/SHORT/LOAD補正データ測定時のインピーダンス測定器の設定

インピーダンス測定器にOPEN/SHORT/LOAD補正機能が装備されている場合には、最高の確度で補正データを測定できるように、自動的に積分時間やアベレージング回数等が設定されます。装備されていない測定器で外部コントローラを用いて補正する場合には、できるだけ高確度に補正データを測定できるように積分時間、アベレージング回数等を設定する必要があります。

実際のOPEN/SHORT/LOAD補正例

図3に示すように4285Aから16048E(4mケーブル)を用いて測定端子を延長する場合、ケーブル長補正機能では補正できないので(4285Aは1m/2mケーブルの補正が可能)、OPEN/SHORT/LOAD補正を行う必要があります。図4にこの構成による100pFのコンデンサ測定において、OPEN/SHORT補正を行った場合とOPEN/SHORT/LOAD補正を行った場合の誤差の比較を示します。ここでは47pFのコンデンサを標準DUTとして用いています。この測定結果よりOPEN/SHORT補正では十分補正できないケーブル延長による誤差が、OPEN/SHORT/LOAD補正によって補正されていることが分かります。

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図3 16048Eによる延長

図4 OPEN/SHORT補正とOPEN/SHORT/LOAD補正での誤差の比較

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外部コントローラによるOPEN/SHORT/LOAD補正

OPEN/SHORT/LOAD補正はその機能を装備しているアジレント・テクノロジー製インピーダンス測定器であれば、簡単なキー操作で実現できます。一方、OPEN/SHORT/LOAD補正機能を装備していない測定器でも、外部コントローラを用いて補正計算を行えば、OPEN/SHORT/LOAD補正を実現することができます。ただしこの場合、測定器単体で行う場合に比べ・操作が煩雑である・データ転送時間等のため測定スピードが遅くなるなどの問題点があります。

図5は4194Aによるコンデンサ測定において、OPEN/SHORT/LOAD補正を行うためのプログラム例です。このプログラムではマニュアルトリガモードを用い、一つの周波数点で測定を行います。130-190行 測定条件を設定210-270行 R-Xモードで開放状態の

インピーダンスを測定300-330行 G-Bモードで短絡状態の

インピーダンスを測定350-610行 値付けされた標準DUT

のCS-D値あるいはCP-D値を入力した後、標準DUTのインピーダンスを測定

660-690行 DUTのモード(CS-D、CP-D)を選択

710-1010行 DUTのインピーダンスを測定した後、補正計算を行い結果を表示

おわりに

本アプリケーションノートではOPEN/SHORT/LOAD補正の原理と、いくつかの注意点を示しました。適切なOPEN/SHORT/LOAD補正を行うことにより高確度なインピーダンス測定が実現できます。

参考文献 インピーダンス測定ハンドブック(P/N 11565)

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図5 4194AでOPEN/SHORT/LOAD補正を実行するプログラム

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1A344070001303-H

付録 アジレント・テクノロジー製インピーダンス測定器の補正機能

モデル名 補正機能 ケーブル長補正

4284A OPEN/SHORT/LOAD補正 0m/1mマルチチャネル補正(OPT301) 0m/1m/2m/4m(OPT006)

4285A OPEN/SHORT/LOAD補正 0m/1m/2mマルチチャネル補正(OPT301)

4278A OPEN/SHORT/LOAD補正 0m/1m/2mマルチチャネル補正(OPT301)

4279A OPEN/SHORT/LOAD補正 0m/1m/2mマルチチャネル補正

4263A OPEN/SHORT補正 0m/1m/2m/4mOPEN/SHORT/LOAD補正(GPIB使用)

4274/75A OPEN/SHORT補正 0m/1m

4276/77A OPEN/SHORT補正 0m/1m

4192A OPEN/SHORT補正 0m/1m4194A OPEN/SHORT補正 0m/1m

4195A OPEN/SHORT補正41951A付