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中国上海市におけるPCLNGタンクの エンジニアリング
広谷亮1・阿久津富弘2・永井秀樹2
1東京ガス・エンジニアリング㈱ 海外事業本部海外プロジェクト部
(〒144-8721 東京都大田区蒲田5丁目37-1) 2正会員 ㈱大林組 土木本部生産技術本部生産施設技術部(〒108-8502 東京都港区港南2丁目15-2)
本プロジェクトは,経済発展によりガス需要が急増している中華人民共和国上海市において長江の河口
である長江口に位置する液化天然ガス(LNG)ピークシェービング基地にLNGタンクを含むLNG設備
を増設するものである.このうち,LNGタンクは中国側が施工を担当し,設計を含むエンジニアリング
とコンストラクションマネジメントを日本側が実施した.
本報文は,プレストレストコンクリート製(PC)LNGタンク2基のエンジニアリング(構造設計およ
び工事管理)について報告するものである.
キーワード : 海外工事 , PCLNGタンク , エンジニアリング
1.はじめに
液化天然ガス(LNG)は,石油など他の化石燃料
に比べて CO2や大気汚染物質の排出量が少なく,地球環
境に優しいクリーンなエネルギーとして,世界で注目を
集めている.本プロジェクトは,「上海EXPO2010
年」が開催されるなど,上海市の経済活動が一層活発に
なっていることを背景に,長江の河口域に位置するLN
Gピークシェービング基地にLNGタンク(50,000m3×2
基)を含む設備を増設するものである.(図-1,写真-1)
冬場の需要期に備えるピークシェービング用として,海
外から供給したLNGを貯蔵することを目的とする.
本報文では,LNGタンクのエンジニアリング,特
に日本で採用されているタンク形式との比較,構造設計
および工事管理について報告する.
2.プロジェクト概要
プロジェクトの事業者は,上海市450万世帯に都市ガ
スを供給するガス事業を統括する上海燃気(集団)有限
公司である.
LNG基地の建設は,中国側が施工を担当し,基地
全体の設計を含むエンジニアリング(Engineering),
LNG主要機器の調達(Procurement),コンストラク
ションマネジメント(Construction Management)のEP
CMを東京ガス・エンジニアリング(株)が実施した.
工事名:上海LNGピークシェービング基地拡張プ
ロジェクト
事業者:上海燃気(集団)有限公司
EPCM:東京ガス・エンジニアリング㈱,ACRE
施工者:上海電力建築工程公司(土木)
上海安装工程公司(機械)
LNGタンク技術協力:㈱大林組,トーヨーカネツ㈱
図-1 位置図
上海
上海LNG基地
中華人民共和国
北京
香港
写真-1 タンク完成
-9-
3.PCLNGタンクの設計
(1) 構造の概要
本タンクの構造仕様を以下に示す.
PC壁:プレストレストコンクリート製
内径 54.8m 外径 56.1m
壁厚 0.65m
基礎版:鉄筋コンクリート製
高床式(自然換気式) 基礎版外径 59.1m
版厚 一般部 0.9m, 周辺部 1.2m
RC屋根:鉄筋コンクリート製
厚さ 一般部 0.4~0.8m
基礎杭:PHC杭
杭径 800mm 杭長 55m
杭本数 328本(タンク1基分)
(2) タンク形式の特徴
本タンクの形状を,図-2に示す.LNGタンクの形式
は英国規格BS77771)の’Full Containment Tank’を基準とし,
海外において一般的に採用されている方式を採用する.
なお,BS7777は2006年にBS EN 146202)に移行している.
本タンクの形式は,日本で建設されている「LNG
地上式貯槽指針」3)(日本ガス協会)に基づくタンクと
異なる(表-1).特に,漏液時に9%ニッケル鋼製コーナ
図-2 5万m3PCLNGタンク構造図
ープロテクション(PC壁下端部の高さ5mの範囲)が設
置された部分を除き,PC壁のコンクリート内面にLN
G(設計温度:-168℃)が直接接触する点が特徴的である.
中国ではこの形式のLNGタンクが数多く計画されてお
り中国における主流の形式となっている.
LNGタンクの外槽であるPC壁には,漏液時の要
求性能として,内槽からLNGが漏洩した場合に,その
漏液圧を二次バリヤーとして受け止める耐荷性能と液密
性能が要求される.
表-1 PCLNGタンク形式の違い
本タンクの構造形式
英国規格BS7777
日本のタンクの構造形式
LNG地上式貯槽指針(日本ガス協会)
基礎版
高床式,自然換気により地盤凍結を防止 基礎版内部のヒーターにより地盤凍結を防止
セカンダリーバリア(9%ニッケル鋼)によりL
NGを貯液
底部冷熱抵抗緩和部により保冷性能を保持,基
礎版に貯液性能を確保
PC壁
コーナープロテクション(9%ニッケル鋼)によ
りLNGを貯液,その他の範囲ではLNGがP
C壁に直接接触,PC壁に貯液性能を確保
側部冷熱抵抗緩和部(PUF)により保冷性能
を保持,PC壁に貯液性能を確保
ドーム屋根 RC屋根,サスペンションデッキによる頂部保
冷
2重の鋼製屋根,頂部保冷
一般図
-10-
(3) PCLNGタンクの設計
a) 設計手法
コンクリートの構造は英国規格BS7777に準じ限界状態設
計法により行う.荷重の種類は,コンクリートおよびタン
ク本体の自重,活荷重,ガス圧,液荷重,風荷重,温度荷
重,試験荷重,地震荷重,プレストレス力,乾燥収縮およ
びクリープなどを考慮する.
表-2に示す各荷重条件に対して限界状態を設定し,使用
限界状態(SLS:Serviceability Limit State)として,運転時,
施工時,試験時には曲げひび割れ幅を,漏液時には貯液限
界を設定する.また,終局限界状態(ULS:Ultimate Limit
State)として断面破壊の限界状態を設定する.耐久性確保
のための外面塗装を前提にPC壁の使用限界状態として通
常時にひび割れ幅(Wa≦0.2mm)が規定される.また,基礎
版とRC屋根には使用限界状態として通常時にひび割れ幅
(Wa≦0.3mm)が規定される.
一方で,日本のタンクではPC壁の使用限界状態として
通常時に曲げひび割れ発生限界が設定される.一般的に日
本のPCLNGタンクではコンクリート外面に塗装は実施
されない.
b) 基礎版の設計
基礎版は鉄筋コンクリート製高床式基礎である.基礎版
下の空気槽の断熱により,地盤凍結防止管理に底部ヒータ
ーを必要としない構造である.基礎版において内槽からの
漏液後,LNGは9%ニッケル鋼製セカンダリーバリヤー
て貯液されることから基礎版には貯液性能が要求されない.
c) PC壁の設計
本タンクは,PC壁下端部において内槽からの漏洩後,
LNGは9%ニッケル鋼製セカンダリーバリヤーて貯液さ
れることから基礎版外周部およびPC壁下端へのプレスト
レス力導入の必要がない.PC壁と基礎版は剛結合とし,
基礎版は一体打設,またPC壁構築完了後にPC壁の鉛
直・円周方向テンドンのプレストレッシングを実施する計
画とした.
構造解析は基礎版とPC壁およびRC屋根を一体構造と
して実施した.また,耐震性能に関しては,米国基準NFPA
59Aに規定されているOBE(Operating Basis Earthquqke),
SSE(Safe Shutdown Earthquake)の2つの地震動に対して,中
国側が設定した応答スペクトルに基づき設計震度を設定し,
修正震度法ベースの耐震設計を実施した.また,有限要素
法による内槽-内容液-PC壁-基礎および周辺地盤の連成
を考慮した三次元モデルを用いて動的応答解析を実施し,
タンク本体とPC壁の応答性状を確認した.
d) RC屋根の設計
日本のタンクは2重の鋼製屋根として設計されるが,本
タンクはRC屋根およびサスペンションデッキを吊るした
設計が行われる.RC屋根は2層に分けて施工する計画と
し,1層目コンクリートはエアーサポートされた鋼製屋根
を,2層目はエアーサポート無しで1層目コンクリートを型
枠支保工として打設する計画とした.構造解析では,コン
クリート打設時の構造照査を実施した.
表-2 PCLNGタンクのコンクリート構造の限界状態設計法
荷重条件
運転時 施工時 試験時 地震時
OBE,SSE 漏液時
使用
限界
状態
(SLS)
RC屋根 ひび割れ幅(Wa≦0.3mm) - -
PC壁 ひび割れ幅(Wa≦0.2mm) -
・一般部
圧縮ゾーン
(≧65mm:厚さの1/10)
平均導入圧縮応力
(≧1.0Mpa)
・コー ナー プ ロテクション部
ひび割れ幅(Wa≦0.3mm)
基礎版 ひび割れ幅( Wa≦0.3mm) - -
終局
限界
状態
(ULS)
RC屋根 - 〇 〇 〇 〇
PC壁 - 〇 〇 〇 〇
基礎版 - 〇 〇 〇 〇
-11-
(4) PC壁の液密性能の照査
a) 構造解析の結果
内槽からLNGが漏洩した場合,基礎版天端から高さ
5mのコーナープロテクションの範囲を除くPC壁の内
面にはLNGが直接接触し,PC壁のコンクリート内表
面は-168℃まで冷却される.漏液時の熱伝導解析は,軸
対象ソリッドモデル(解析コード:ABAQUS)により実施
した.定常状態においてPC壁の外面が-20℃以下とな
る一方,コーナープロテクションの範囲では,PC壁の
内面でも-10℃以上の温度が維持される.基礎版,RC
屋根については,漏液後も保冷性能が維持されるため,
通常時からの温度変化は小さい(図-3).
本タンクの液密性能の評価は,コンクリート部材の温
度降下が大きいことからひび割れが発生し,部材に発生
する応力は部材剛性に依存する.したがって,線形解析
の適用が難しい.そこで,漏液時の構造解析として,ひ
び割れによる応力分散,材料の非線形性が考慮できるコ
ンクリート非線形有限要素解析(解析コード:FINAL)
を適用した.解析モデルは,部材をコンクリートについ
ては直交異方性の板要素,鉄筋およびPC鋼材は一方向
剛性の膜要素を用いて四角形平面シェル要素集合体とし
た.低温時の実挙動を適切に表現できるように温度依存
の影響を考慮してコンクリート,鉄筋,PC鋼材の材料
特性を設定した.
PC壁の漏液時の液密性は,英国規格 BS7777 に準じ
PC壁の壁厚の 1/10 以上の圧縮領域を確保することに
より担保される.漏液時の非線形有限要素解析結果(P
C壁の圧縮領域の幅とその圧縮領域の平均コンクリート
応力)を図-4 に示す. もクリティカルとなる位置は,
コーナープロテクションの上方(基礎版天端から高さ約
5m付近の位置)の円周方向応力であり,図-5 に断面方
向の応力分布を示す.PC壁外面から約 13cm の圧縮領
域が確保されており,壁厚の 1/10 である 6.5cm 以上を
満足する結果となった.
b) PC壁の材料仕様
PC壁のコンクリートは C40(日本の円柱供試体強度
の場合 32N/mm2相当)とした.PCテンドンは,LNGの
漏液圧とガス圧の合計と同等のプレストレスを導入する
ため,12S15.2(ASTM A416 Grade270)のケーブルを円周方
向に 52 段配置し,長さが 1/2 周のケーブルを外周に設
けた4箇所の定着柱に定着させた.鉛直方向には同じサ
イズのテンドンにより約 2.0N/mm2の圧縮応力を導入し,
高さ約 29mのU字形でPC壁頂部に定着させた.定着
具はLNGタンクで採用実績があり,低温下での定着性
能が確認されているVSL工法のGC6-12タイプ を採用した.
また,PC壁の内面は漏液時に極低温域に入ることか
ら,内側鉄筋には海外のLNGタンクで採用実績がある
低温鉄筋(KRYBAR-165,降伏強度 460MPa)を使用した.コ
ーナープロテクションの範囲と漏液時に圧縮領域に入る
外側鉄筋には中国国内で流通している普通鉄筋(HRB400,
中国国家標準GB1499-98製品,降伏強度400MPa)を使用し
た.
4.00m4.00m
14.1
-168.0
5.1
13.8
-27.1
15.2
-13.6 7.57.5
-9.9 2.6
図-3 漏液時の温度分布
圧縮域
0
5
10
15
20
25
30
0 10 20 30 40 50 60PC壁厚 (cm)
(m)
円周方向.鉛直方向
Tmin
=6.5
cm平均コンクリート応力
0
5
10
15
20
25
30
0 5 10 15
圧縮応力 (N/mm2)
(m)
円周方向
鉛直方向
σm
in=-
1N/m
m2
PC壁
基礎版
RC屋根
図-4 漏液時のPC壁応力分布
-4
-2
0
2
4
6
8
10
0.0 6.5 13.0 19.5 26.0 32.5 39.0 45.5 52.0 58.5 65.0PC壁厚(cm)
コン
クリ
ート
応力
(Mpa
)
圧縮域 = 13.5cm
許容圧縮域=6.5cm
平均圧縮応力 = 3.9Mpa 圧縮域
引張域
図-5 漏液時のPC壁コンクリート応力分布
-12-
(5) 基礎杭の設計
本タンクの地盤は,地表面下70mまで長江河口域の細
かい土粒子が堆積した軟弱な沖積粘土層(図-6)が続いて
いる.本タンクの杭長は55mとし,せん断弾性波速度Vs
が200~280m/sである更新世に堆積した砂質シルト層を
支持層とした.杭の支持力を確認するに動的載荷試験を
実施した.また,FEM解析(図-7)により水張試験お
よび通常運転時の基礎版の不等沈下量が英国規格BS7777
に規定されているタンク基礎版半径の1/300以下である
ことを確認した.杭間隔は,上海規格に従って3.0D(=
2.4m)以上とし,杭配置は,外周部2列を円周状,中央部
を格子状とした.
PHC杭は,日本同様にA~C種までプレストレス量に
よって種別されており,杭打設時の杭体に発生する応力
を考慮してB種を選定した.
図-6 地盤構成
図-7 沈下解析結果
4.PCLNGタンクの施工
(1) 工事概要
本プロジェクトは2006年6月に契約調印,8月に着工し,
2008年10月にLNGタンクのクールダウンを完了した.
LNGタンクの基礎杭打設から完成まで約27ヶ月である.
LNGタンクの施工手順は,①基礎杭打設,②支柱およ
び基礎版構築,④PC壁構築および基礎版上で鋼製屋根
組立,⑤PC壁構築後,基礎版上で組み立てた鋼製屋根
を空気圧により浮上,⑥PC壁の頂部の円周方向PCテ
ンドン緊張,⑦RC屋根,⑧コンクリート容器の内部で
外槽側板,底部保冷,内槽底板・側板の機械工事,⑨内
槽の水張試験,⑩PC壁に設けている工事用開口部の閉
塞,⑪PC壁の鉛直・円周方向テンドン緊張,⑫内外槽
間の保冷およびPC壁外面の塗装となる.
(2) 基礎杭の打設
杭の施工はタンク中心から外周部への打撃を行い,杭
の打設による地盤の締固め効果により,打設が困難にな
ることを防いだ.杭の施工管理は,杭全長を打撃するこ
とを基本とし,杭が打ち込めなくなることによる打止管
理値を2mm以下とした.杭頭高さは,高床式基礎版を支
持する支柱の内部にも杭を配置するため,地表より
1.3m高とした.
杭打機:ディ-ゼルハンマー (写真-2)
+3点式杭打機×3台
杭継手:CO2溶接(浸透探傷試験による検査)
写真-2 基礎杭の打設状況
杭施工後の検査として杭体のインテグリティ(PI)
試験を杭全数より任意に選んだ30%に対して実施した.
躯体施工中,基礎版外周部に計測点を16点設定し,沈
下量計測を施工ステップごとに実施した.基礎版の施工
後から屋根構築後までの沈下量は,全計測点で10mm以下
であり,不同沈下は発生しなかった.
杭の沈下性能および内槽の液密性能を確認するために,
水張試験(設計液荷重×1.25倍)が実施された.タンク
中央部の 大沈下量は,約23mmであり,支持性能に問題
がないことを確認した.
⑨
④
③
②
①
⑤
⑤
⑤
175
150
125
100
75
50
25
0
地盤鉛直応力(kN/m2)
-13-
(3) コンクリートの材料および配合
本プロジェクトのコンクリートの躯体工事には,コン
クリートの品質を確保する観点から,現地で も流通量
の多い C40 のコンクリートを適用した(表-3). セメン
トは,28 日強度が 42.5MPa 以上で,混合材料を 6~15%
含む普通ポルトランドセメントを使用し,細骨材は長江
の上流から下流域の上海市まで船舶で運搬した良質な川
砂中砂を使用した.
コンクリートの配合は,中国国家標準規格 JGJ55
(「普通コンクリート配合設計規範」)に従った.
また,PC壁に設けた工事用開口部閉塞用として高流
動コンクリートを適用した.製造実績があり,品質面で
の問題はなかった.生コンプラントは,現場までの所要
運搬時間が40分程度の上海市郊外にある24時間稼動の
大規模プラント( 大出荷量 300m3/h(2.0m3×4 基),生
コン車 40 台(6m3,8m3,10m3積)を有する)を選定した.
(4) コンクリートの品質管理
コンクリートの品質管理は,中国国家標準GB50204-
2002(「コンクリート構造工事施工品質検収規範」)に従っ
て,オーナーが選定した第三者検査機関によって実施さ
れた.日常の品質検査は圧縮強度試験のみで,その他の
管理項目については設計者からの要求事項となる.
コンクリート圧縮強度試験の供試体は 10cm 角の立方
体で,呼び強度 C5~C40(日本の円柱供試体強度に換算
すると 32N/mm2)のコンクリートが標準配合として流通
している.また,超高層ビルの建設などで高強度コンク
リートも実績が多く一般的に調達可能な状況である.
コンクリート圧縮強度の管理には,中国国家建築標準
GBJ107-1987(「コンクリート強度試験標定標準」)に
ある「統計的手法を適用しない管理手法」が一般的に用
いられている.この管理手法では,3本の供試体に対し
て,mfcu(強度平均値)≧1.15fcu,k (設計強度), fcu,min(強
度 低値)≧0.95fcu,kを満足する必要がある(図-8).
表-3 コンクリートの配合
部位 種別 Gmax
(mm)
スランプ
(cm)
W/C
(%)
基礎版 C40 25 150+/-50 49
PC壁 C40 25 150+/-50 47
RC屋根 C40 25 120+/-30 46
開口部 C50 25 55+/-10 46
単位量(kg)
W C S G フライアッシュ 減水剤
170 345 736 1024 80 4.49
180 380 700 1010 80 4.73
170 370 720 1010 80 4.44
170 370 800 844 120+
37(膨張材) 6.30
図-8 C40コンクリートの圧縮強度発現特性
(5) 基礎版コンクリートの打設
基礎版(外径50m,厚さ0.9~1.2m)のコンクリートは
施工目地を設けずポンプ車4台で一括打設した(写真-3).
基礎版のコンクリートは,マスコンの温度ひび割れ対策
として,配合セメント量を減らし,材令56日管理とした.
写真-3 基礎版コンクリート打設状況
(6) PC壁の構築
PC壁のコンクリート施工は高さ 3.6m を 1 リフトと
しポンプ車にて円周方向に一体打設して,高さ方向に
10 分割する計画とした.足場は単管とH鋼で組まれた
簡易な構造とし,現場に常置されたタワークレーンにて
高さ 3.6m 毎にリフトアップさせるジャンピング工法が
採用された.型枠は木製型枠とし,高さ 3.6m の1リフ
トに対して 1日目 2.4m 打設し,2日目に下部 1.2m の型
枠を外して上部の残り 1.2m に取り付けコンクリートを
打設する方式が採用された.中国国内では人件費に対し
て仮設備のコストを抑える傾向にあり,1 回のリフトア
ップの間に型枠を組み替えてでも仮設備費用を抑えるこ
とが目的とされた.
日本では総足場工法が選択される場合があり,移動式
クレーンによる足場・型枠の揚重作業が行われる.1 回
の打設高さを 5.0m 程度と高くし,リフトアップやコン
クリート打設回数を減らしコスト縮減を試みている事例
がある.その他,スリップフォーム工法は海外プロジェ
クトで実積がある.コンクリート表面が硬化する前に型
枠をスライドして上昇するために,コンクリートを連続
打設する必要がある.1 タンク当たりの工期が短縮され
ることから,複数タンクの連続施工にメリットのある工
法である(表-4).
0
10
20
30
40
50
60
0 10 20 30 40 50 60 日数(d)
強度
(M
pa)
fcd (設計値×変動割増)
W/C=0.49 (推定ライン)
試験練り結果(バッチ1)
試験練り結果(バッチ2)
試験練り結果(バッチ3)
-14-
表-4 PC壁の足場型枠装置の比較
ジャンピングフォーム工法
(3.6~5.0m/1ロット)
総足場工法
(3.6~5.0m/1ロット)
スリップフォーム工法
(連続打設:0.8~1.2m/1回)
装置
概要
図
工
法
概
要
・1ロット分の足場と型枠を一体
化した装置を製作し,ブロックご
とにクレーンで上昇させる工法.
(ジャッキでリフトアップするク
ライミング工法もある.)
・基礎版よりPC壁天端まで足場
を立上げる工法
・ビティ枠,単管などのリース材
による足場装置であり,型枠も一
般構造物と同じ在来工法である.
・門形フレーム(ヨーク)に取り
付けた足場型枠を躯体に埋込ま
れたロッドで支持し,油圧ジャ
ッキで全周同時に上昇させる工
法.
工
法
特
徴
・リフトアップ,張出足場の変更
等の高所作業を伴う.
・専門メーカーのシステム足場型
枠の製品がある.
・施工計画・作業要領が一般建築
物と同じで慣れている.
・型枠組立では熟練工が必要.
・日本ではリース材の大量在庫が
ある.
・足場型枠上昇時の安全性が向
上する.
・連続打設でのコンクリート品
質管理が難しい.
実績 海外で多数の実績あり
(本タンクで採用) 日本で実績あり 海外で実績あり
(7) RC屋根コンクリートの打設
RC屋根は 2 層に分けてコンクリートを打設した.1
層目はエアーサポート(設計圧力 800 ㎜Aq)された鋼製
屋根(完成後は外槽ライナとして機能)を型枠支保工とし
て 250 ㎜の厚さで打設し,2層目は 1層目コンクリート
を型枠支保工として打設した.
1 層目の打設後,エアーサポートはコンクリート設計
基準強度の70%である28N/mm2(角柱強度)に達するま
で保持した.RC屋根の端部は約 30 度の傾斜があり,
バイブレーターによる締固めを行った場合に流下し易い.
したがって,締固めに伴うコンクリートの流下を防止す
るため,メッシュ鉄筋を円周状に 1m間隔で配置した.
ポンプ車のブームでコンクリートを打設できる外周部は
コンクリートのスランプは 12±3cm とした.ブームが届
かない中央部ではタワークレーン3基によりバケットを
用いることとし,スランプの管理値の範囲内で出来るだ
け固いコンクリートを打設した(写真-4,写真-5).
長江河口域では塩分飛来の影響を考慮しなければなら
ないことから,コンクリート躯体の外面に塗装を施した.
塗装材料として,中国国内で調達可能な流通脂肪族系ア
クリル樹脂を採用した.
写真-4 RC屋根コンクリート打設状況
写真-5 RC屋根コンクリート打設状況
-15-
(8) 工事用開口部閉塞用コンクリートの打設
PC壁にはタンク本体工事の資機材の搬入・搬出のた
めに,大小2箇所の工事用開口部を設けた.工事用開口
部は幅 5mと 3m,高さ 2.6m であり,0.65m の厚さの内部
には円周および鉛直方向 PCシース管と 150~175㎜の鉄
筋が内外側に配置されている.コンクリートの打設にお
いて,バイブレーターでは十分な締固めを行うことが困
難であることから高流動コンクリートを使用した.工事
用開口部の閉塞は逆打ち施工となる.逆打ち継部につい
ては,巻込み気泡を確実に排出し打継目の一体化を図る
ために,バイブレーターを併用して施工した(写真-6).
高流動コンクリートは,生コンプラントで製造実績が
ある配合について,試験練りにより品質を確認するとと
もに,打設前に実機ミキサで練り混ぜ,トラックアジテ
ータで運搬しスランプフローの経時変化を確認した.
写真-6 工事用開口部コンクリート打設状況
(9) PC工事
本タンクは,①PC壁構築後のRC屋根コンクリート
打設前にPC壁頂部の円周方向テンドンを緊張,②工事
用開口部閉塞工事後に全体構造系に対して鉛直方向と円
周方向のテンドンを緊張する2段階に分けプレストレッ
シングを実施した.また,工事用開口部に影響を及ぼさ
ない範囲については先行緊張を実施し工期短縮を図った
(写真-7).
写真-7 鉛直方向PCテンドン緊張状況
PCグラウトとしてプレミックスタイプの VSL HPI グ
ラウトを適用した(写真-8). PCグラウトの品質管理
は,中国国家標準 GB50204-2002 (「コンクリート構造工
事施工品質検収規範」)と fib 規定のうち厳しい値を管理
基準値とした.製品カタログではブリージング率が 3%
以下と規定されノンブリージングタイプではないものの,
実施工においてはブリージングが発生しない良質の材料
であった.設計者側からの鉛直方向テンドン上部のグラ
ウト充填性に関する注意喚起に対して,鉛直方向グラウ
ト充填後,グラウト補充容器を設置しグラウト充填性を
確実にするための配慮を行った.
写真-8 PCグラウト製造プラント
5.あとがき
本プロジェクトは,2008年11月に竣工しマレーシアか
らのLNGを無事に受け入れた.中国政府は天然ガスに
ついて石油・石炭の消費抑制や大気環境改善に資する重
要なエネルギーと位置づけており,中国沿岸部を中心に
数多くのLNG基地の建設計画が進行している.
海外プロジェクトにおいて,今後もLNG基地の建設
から運転まで日本企業の協力が期待されるものと考える.
本報告が,中国をはじめとする海外におけるPCLNG
タンク建設の一助となれば幸いである.
参考文献
1) British Standard (BS7777): Flat-bottomed, Vertical,
Cylindrical Storage Tanks for Low Temperature Service,
1993.
2) British Standard (BS EN 14620): Design and manufacture of
site built, vertical , cylindrical, flat-bottomed steel
tanks for the storage of refrigerated , liquefied gases
with operating temperature between 0℃ and -165℃
3) 日本ガス協会:LNG地上式貯槽指針,2002
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