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89 2015 AIRIES XAFS 法を用いた地球環境試料中のリンの化学形態分析 Phosphorus speciation in environmental samples using XAFS analysis 柏原 輝彦 1 ・高橋 嘉夫 2 Teruhiko KASHIWABARA 1 and Yoshio TAKAHASHI 2 1 国立研究開発法人 海洋研究開発機構海底資源研究開発センター 2 東京大学大学院 理学系研究科地球惑星科学専攻 1 Research and Development Center for Submarine Resources, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology(JAMSTEC) 2 Department of Earth and Planetary Science, Graduate School of Science, The University of Tokyo 摘  要 地球環境試料中のリン(P)の化学形態分析(スペシエーション)において,ここ 10 年間で急速に利用され始めている X 線吸収微細構造(XAFS)法について,その原 理・特徴・利用状況などを概観した。XAFS 法は,X 線吸収スペクトルに現れる振動 構造から,目的元素の化学状態や局所構造を調べる手法である。リンのスペシエー ションに対する応用は,まだ一部の天然試料に限られる状況であるが,その分析化学 的メリットから,XAFS 利用は今後一層拡大し,リンの地球環境科学において新しい 展開を切り開く重要なツールとなると予想される。本稿では,XAFS の原理や特徴を 簡単に述べたうえで,これまで行われてきた天然試料に対する主な実用例を三つ((i)標 準スペクトルのデータベース拡張,(ii)土壌中でのリン固定化・溶出の問題への適用 例,(iii)マイクロ・ナノビームを用いた分析)に大別し,その一部を紹介した。さら に,リンの XAFS 利用に際した問題点,及び,これまでの応用例から予想・期待され るリンのスペシエーション研究における今後の展開についても触れた。 キーワードXAFS,地球環境試料,リンのスペシエーション Key words:XAFS, environmental samples, speciation of phosphorus 1.はじめに リン(P)は,遺伝情報の伝達,エネルギー代謝, 構造維持など,生命活動を担うさまざまな分子の構 成要素として重要な元素である。しかしながら,そ の高い反応性に由来して生物に利用可能な形態での 存在量が少なく,環境中において生物生産の制限因 子としてふるまうことも多い。陸上や海洋におい て,リンによって制限される広大な範囲の生物生産 は,大気中の二酸化炭素(CO 2 )濃度を変動させるこ とで地球規模の気候変動にも影響する。一方で,土 壌への施肥や森林伐採,生活排水や工業廃水の流入 などの人為活動に由来するリンの供給過多は,富栄 養化などの環境汚染を生む。また,外洋に到達し深 海底に堆積したリンは,一部,海水中へ再溶解して 生物生産の中に取り込まれるのに対し,鉱物として 固定化・埋没する中でレアアースなどの有用金属を 濃集し海底鉱物資源の生成にも寄与する。このよう に,リンはさまざまな化学変化を伴って生体内・環 境中を循環し,その挙動は海洋,気候,土壌,環 境,資源などの広範な分野の諸問題と密接に関連す 1)- 3。したがって,リンの化学形態を明らかにす ることは,濃度やフラックスとはまた別の,地球環 境科学全体にまたがる重要項目であり,特に,安定 同位体のないリンの研究においては,その占める重 要度は大きい。 本稿では,地球環境試料中のリンの化学形態分析 (スペシエーション)において,ここ 10 年間で急速 に利用され始めている XAFS 法について,その原 理・特徴・利用状況などを概観する。従来からリン のスペシエーションに用いられてきた段階的抽出法 NMR Nuclear Magnetic Resonance,核磁気共鳴) 法などに比べると,XAFS 法の応用例はまだまだ少 なく,土壌,大気粒子,堆積物などに関する例がい くつかあるのみである。しかしながら,そのスペシ エーションにおける優位性は,今後,より一層の利 用拡大を促し,リンの地球環境科学において新しい 展開を切り開く重要なツールとなるであろう。本稿 では,XAFS に関して挙げられるいくつかのキーワー ドに基づいて,これまでの実用例を分類し,分析化 受付;2015 3 3 日,受理:2015 5 12 237-0061 神奈川県横須賀市夏島町 2-15e-mail[email protected]

Phosphorus speciation in environmental samples using XAFS ......Key words:XAFS, environmental samples, speciation of phosphorus 1.はじめに リン(P)は,遺伝情報の伝達,エネルギー代謝,構造維持など,生命活動を担うさまざまな分子の構

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2015 AIRIES

XAFS 法を用いた地球環境試料中のリンの化学形態分析Phosphorus speciation in environmental samples using XAFS analysis

柏原 輝彦 1 *・高橋 嘉夫 2

Teruhiko KASHIWABARA 1 * and Yoshio TAKAHASHI 2

1 国立研究開発法人 海洋研究開発機構海底資源研究開発センター2 東京大学大学院 理学系研究科地球惑星科学専攻

1 Research and Development Center for Submarine Resources, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology(JAMSTEC)

2 Department of Earth and Planetary Science, Graduate School of Science, The University of Tokyo

摘  要 地球環境試料中のリン(P)の化学形態分析(スペシエーション)において,ここ 10 年間で急速に利用され始めている X 線吸収微細構造(XAFS)法について,その原理・特徴・利用状況などを概観した。XAFS 法は,X 線吸収スペクトルに現れる振動構造から,目的元素の化学状態や局所構造を調べる手法である。リンのスペシエーションに対する応用は,まだ一部の天然試料に限られる状況であるが,その分析化学的メリットから,XAFS 利用は今後一層拡大し,リンの地球環境科学において新しい展開を切り開く重要なツールとなると予想される。本稿では,XAFS の原理や特徴を簡単に述べたうえで,これまで行われてきた天然試料に対する主な実用例を三つ((i)標準スペクトルのデータベース拡張,(ii)土壌中でのリン固定化・溶出の問題への適用例,(iii)マイクロ・ナノビームを用いた分析)に大別し,その一部を紹介した。さらに,リンの XAFS 利用に際した問題点,及び,これまでの応用例から予想・期待されるリンのスペシエーション研究における今後の展開についても触れた。

キーワード:XAFS,地球環境試料,リンのスペシエーションKey words:XAFS, environmental samples, speciation of phosphorus

1.はじめに

 リン(P)は,遺伝情報の伝達,エネルギー代謝,構造維持など,生命活動を担うさまざまな分子の構成要素として重要な元素である。しかしながら,その高い反応性に由来して生物に利用可能な形態での存在量が少なく,環境中において生物生産の制限因子としてふるまうことも多い。陸上や海洋において,リンによって制限される広大な範囲の生物生産は,大気中の二酸化炭素(CO2)濃度を変動させることで地球規模の気候変動にも影響する。一方で,土壌への施肥や森林伐採,生活排水や工業廃水の流入などの人為活動に由来するリンの供給過多は,富栄養化などの環境汚染を生む。また,外洋に到達し深海底に堆積したリンは,一部,海水中へ再溶解して生物生産の中に取り込まれるのに対し,鉱物として固定化・埋没する中でレアアースなどの有用金属を濃集し海底鉱物資源の生成にも寄与する。このように,リンはさまざまな化学変化を伴って生体内・環境中を循環し,その挙動は海洋,気候,土壌,環

境,資源などの広範な分野の諸問題と密接に関連する 1)- 3)。したがって,リンの化学形態を明らかにすることは,濃度やフラックスとはまた別の,地球環境科学全体にまたがる重要項目であり,特に,安定同位体のないリンの研究においては,その占める重要度は大きい。 本稿では,地球環境試料中のリンの化学形態分析

(スペシエーション)において,ここ 10 年間で急速に利用され始めている XAFS 法について,その原理・特徴・利用状況などを概観する。従来からリンのスペシエーションに用いられてきた段階的抽出法や NMR(Nuclear Magnetic Resonance,核磁気共鳴)法などに比べると,XAFS 法の応用例はまだまだ少なく,土壌,大気粒子,堆積物などに関する例がいくつかあるのみである。しかしながら,そのスペシエーションにおける優位性は,今後,より一層の利用拡大を促し,リンの地球環境科学において新しい展開を切り開く重要なツールとなるであろう。本稿では,XAFS に関して挙げられるいくつかのキーワードに基づいて,これまでの実用例を分類し,分析化

受付;2015 年 3 月 3 日,受理:2015 年 5 月 12 日* 〒 237-0061 神奈川県横須賀市夏島町 2-15,e-mail:[email protected]

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柏原・高橋:リンの XAFS

学的観点から今後の展開についても触れてみたい。

2.XAFS の原理と特徴

 XAFS とは,X-ray Absorption Fine Structure(X 線吸収微細構造)の略であり,X 線吸収スペクトルに現れる振動構造から,目的元素の化学状態や局所構造を調べる手法である。X 線吸収スペクトルは,入射 X 線のエネルギーを連続的に変化させ,X 線吸収量の変化,又は吸収に付随して発生する蛍光 X 線やオージェ電子などの収量変化を測定することで得られる(図 1)。したがって,測定には放射光施設などのエネルギー可変の X 線を利用するのが一般的である。 図 2 は X 線吸収スペクトルの一例である。スペクトル上には,まず内殻電子の励起・放出に対応して吸収端と呼ばれる吸光度の急激な立ち上がりが見られ, そ れ に 続 く 領 域 は XANES(X-ray Absorption Near-Edge Structure,X 線吸収端近傍構造)と EXAFS

(Extended X-ray Absorption Fine Structure,広域 X 線吸収微細構造)の二つに分けられる。XANES は吸収端近傍 100~150 eV に見られる微細構造であり,吸収原子の価数や分子の対称性に敏感である。これに対し,EXAFS はそれ以降およそ 1000 eV にわたって出現する振動構造のことを指し,周囲の配位原子の

種類や配位数,結合距離などの局所構造の情報に敏感である。図 3 にいくつかの化合物に関する P K-edge XANES スペクトルの例を示す。これらは,X 線の吸収によって起こるリンの 1s 電子の非占有軌道への遷移に対応する。まずはじめに分かるのは,リン酸塩のスペクトル(図 3(b)~(d))の吸収端が,ホスホン酸(H3PO3)(図 3(a))に比べて高エネルギー側にシフトしていることである。これは,5 価であるリン酸の方が 3 価であるホスホン酸よりも 1s 電子の束縛エネルギーが大きいことに由来しており,吸収端のエネルギーがリンの酸化状態を明確に反映することを示している。また,同じリン酸カルシウムであるアパタイト同士を見比べれば,結晶構造の違いがメインピークの後ろの形状に反映されていることも分かる(図 3(b)~(d))。このように,P K-edge XANESに見られる吸収端のエネルギー位置やスペクトルの形状は,価数や周辺の局所構造などの化学状態の違いを敏感に反映し,このことがリン化学種の同定を可能にする。さらに,X 線吸収スペクトルには加成性があり,構成成分の存在比を変えて測定するとそれを反映して吸収端のエネルギー位置やスペクトル形状が連続的に変化する。したがって,試料に存在する複数の化学種の存在比を求めることも原理的に可能である。 これまで天然試料中のリンのスペシエーションは,専ら段階的抽出法か NMR 法のいずれかによって行われてきた。段階的抽出法では,異なる化学種間の反応性の違いに着目して段階的に酸の種類や濃度を変えることで,化学種ごとの抽出・定量を行う

入射 X線 透過 X線

蛍光 X線オージェ電子

試料検出器

検出器

検出器

試料

8600 8800 9000 9200 9400 9600 9800 10000

エネルギー (eV)

規格

化し

た吸

光度

XANES EXAFS

2130 2140 2150 2160 2170 2180

(a) Phosphonic Acid H3PO3

(b) Apatite TTCP Ca4(PO4)2O

(c) Apatite α-TCP Ca3(PO4)2

(d) Apatite β-TCP Ca3(PO4)2

エネルギー (eV)

規格化した吸光

図 2 Cu foil(銅はく)の XAFS スペクトル.

図 1 XAFS 測定の概略図.

図 3 P K-edge XANES スペクトル.(a)ホスホン酸(亜リン酸),(b)TTCP(Tetracalcium Phosphate,リン酸 4 カルシウム),(c)α-TCP(α-Tricalcium Phosphate,α型第 3 リン酸カルシウム),(d)㌼-TCP(㌼-Tricalcium Phosphate,㌼型第 3 リン酸カルシウム).

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柏原・高橋:リンの XAFS 地球環境 Vol.20 No.1 89-96(2015)

一方,操作ごとに得られる結果と真の化学種との対応関係はあくまで個別のケースごとに仮定されたものであるため,予期せぬ化学種の把握は難しく,化学形態や結晶構造に関しても間接的な情報しか得られない。さらには不完全な反応や再吸着などのアーティファクトによって再現性・信頼性が乏しいことも指摘されている 4),5)。一方,NMR 法は非破壊分析であり,しばしばリンを含む有機化合物の構造解析に威力を発揮するが,天然試料に同時に含まれる複数の有機化合物の存在や,環境中に豊富な鉄(Fe)やマンガン(Mn)など常磁性イオンの存在によってスペクトルの解析が難しくなり,また,本質的に感度が低いという問題点もある 6),7)。 これらに対し,XAFS 法を適用する大きな利点としては,(i)吸収端のエネルギーが元素に固有であることから,複数の元素が混在する天然試料においても特定元素の情報が選択的に得られること,(ii)X 線と電子の相互作用を扱うため,元素の化学状態に関する直接的な情報が得られること,(iii)測定において,試料は X 線の光路に保持されていればよく,煩雑な前処理がいらない非破壊分析であること,などが挙げられる。同じく X 線を用いた物質の同定法の一つとして X 線回折法があるが,この場合は原子が規則正しく並んだ結晶全体からの散乱 X 線同士の干渉効果を利用するのに対して,XAFS の場合は物質中で注目する元素とその周辺原子との間で起こる光電子波の干渉効果を利用して特定原子周辺の局所構

造を調べる手法ともいえる。したがって,気体・液体・固体等の物質の状態を問わずに幅広い試料が測定でき,天然環境においてしばしば重要となる非晶質物質に適用できる点も大きな利点である。

3.XAFS を用いたリンの研究例

3.1 標準スペクトルのデータベース拡張 前述のとおり,XAFS スペクトルの形状はリンの化学状態を反映するため,組成・価数・結晶構造などが既知の標準試料と未知試料との間で得られたスペクトルを比較すれば,未知試料中のリンの化学状態が解析できる。とりわけ,XAFS によるリンの化学種同定は,XANES 領域を指紋的に比較する例がほどんどである。そこで,環境中で存在しうるさまざまなリン含有鉱物や有機化合物の XANES スペクトルを収集し,リンの XANES によってどの程度の化学状態の違いが実際に識別可能であるかを調べる研究が精力的に行われている 8)- 15)。 Ingall ら 11)及び Brandes ら 8)は,数十種類のリン酸塩鉱物を化学組成や結晶構造ごとに分類し,P K-edge XANES スペクトルに現れる特徴との対応関係を議論している(図 4)。それらによると,リン酸塩鉱物の主要なカチオン種の違いはスペクトル上に強く反映され,例えば,リン酸カルシウムは全般的にメインピークの後ろに特徴的な「肩」があるのに対し,リン酸鉄はメインピークの前に特徴的な形状(プリエッ

Fluorapatite Ca5(PO4)3F

Hydroxyapatite Ca10(PO4)6(OH)2

Lazulite (Mg, Fe)Al2(PO4)2(OH)2

Vivianite Fe3(PO4)2-(H2O)8

Vivianite (oxidized) O-Phosphoryl ethanolamine

Adenosine 5’ -Triphosphate

Potassium Phosphate

Phosphatidylethanolamine

Phytic Acid

Tripolyphosphate Pentasodium

エネルギー (eV) エネルギー (eV)

規格化した吸

光度

図 4 無機態・有機態を含むさまざまなリン酸化合物の P K-edge XANES スペクトルの例.(Brandes ら 8)を改変)

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柏原・高橋:リンの XAFS

ジピーク)を示す。さらに,このプリエッジピークはFe の酸化還元状態とも関連し,vivianite(Fe(PO4)2・8H2O)などの Fe(II)を含む還元的な鉱物では見られない。また,リン酸アルミニウムには,こういった肩やプリエッジピークなどは見られないものの,メインピークがより鋭い。これに対し,構造中の同じサイトに元素が部分的に置換してわずかに化学組成が変化した場合にはスペクトル形状にはあまり影響が見られず,一方で,結晶構造そのものに違いがあれば XANES の後ろの領域(ポストエッジ)に強く反映される。さらに,Hesterberg ら 10)や Khare ら 13),14)

は,これらのスペクトルの特徴によって,鉱物種だけでなく,固相表面の存在状態(吸着か表面沈殿か)の識別も可能であることを報告している。このように,P K-edge XANES スペクトルのピーク位置や形,プリエッジピークの有無などによって,同じ 5 価のリン酸であっても四面体構造の先にあるカチオンとの相互作用や周辺の局所構造に由来する電子状態の違いが識別でき,特に,Ca,Al,Fe といったリンの挙動に大きく影響する元素との化学結合の仕方や,固液界面での存在状態などが直接識別できることは,XAFS の大きな強みである。 一方,無機態リン化合物に比べるとまだ数は少ないものの,有機物中のリンについても複数の XANESスペクトルが測定・検討されている 8),16),17)。3 価の有機態リン化合物については,メインピークのエネルギー位置やスペクトル形状にさまざまなバリエーションが見いだされており識別は容易であるものの,これらは天然にほぼ実在しない。これに対し,豊富に存在しうる 5 価の有機態リン化合物の場合,リン酸に結合している有機分子の違いが,メインピークより高エネルギー側のポストエッジ領域の形状にわずかに反映される。特に興味深いのは,ポストエッジにある第二ピークのエネルギー位置が,モノリン酸に比べてポリリン酸の方でおよそ 2 eV ほど高くなる傾向が見られる点であり,同様の傾向は無機態リン化合物の場合にも見いだされている。ポリリン酸は,熱水環境などの特殊な条件下において無機的に合成される可能性も指摘されているものの,表層環境においては,その生成に生物が関与すると考えられるため,もし本当にモノリン酸化合物とポリリン酸化合物を識別できるとすれば,リンの挙動と生物活動との関連性を調べるうえで重要な手がかりとなる。 以上のように,無機態,有機態を問わず,リンの化合物の XAFS スペクトルにはバリエーションが豊富に見いだされ,これが天然系へのさまざまな応用を支える土台となる。この類いの研究は今後も行われ,より広範な応用を想定して標準スペクトルのデータベースが拡張されると予想される。その一方で,標準スペクトルを単に指紋的に用いるだけでなく,スペクトルに見られる特徴と電子状態との対応

関係を解釈し,より信頼性の高い議論を行うことが求められるようになるであろう 13),18)。したがって,今後はより高いエネルギー分解能での測定や EXAFS解析の併用,スペクトルの理論計算なども行われるはずである。3.2 土壌中でのリンの固定化・溶出の問題への

適用例 天然系への XAFS の適用は,今のところ数例を除いて専ら土壌試料に集中している 13),16),19)- 25)。窒素

(N)やカリウム(K)と並び陸上植物にとって三大栄養素の一つであるリンの挙動は,一昔前まで農作物の生産性を高めるうえで大きな問題であったが,近年では,むしろ周辺の河川や湖,地下水や沿岸環境への流出による水質汚染など,環境保護の観点からの関心が大きい。例えば,家禽の糞などの肥料を加えることで供給過多となるリンが,土壌中でどのように保持され,どのようなプロセスで溶出していくのかを知ることは,リンの溶出による周辺環境への悪影響を最小限に抑えるために必要である。しかしながら,リンの化学的挙動は,土壌や肥料の特性やその組み合わせ,及びさまざまな環境因子に大きく依存するため,その場の条件に沿った検討が必要である。 Sato ら 24)は,肥料を加えることで,土壌中のリン酸の化学形態が変化していく様子を P K-edge XANESによって調べている。酸性土壌において,Ca を豊富に含む肥料を添加すると土壌の pH が上昇し,もともと Fe 鉱物に吸着していたリン酸ではなく,Ca と結合した非晶質リン酸カルシウム(ACP; Amorphous Calcium Phosphate, Ca3(PO4)2・nH20)やリン酸二カルシウム(DCP; Dicalcium Phosphate, CaHPO4)などの結晶性の低い Ca 鉱物が主成分として検出されるようになる。さらに長い期間の肥料添加を続けると,これらはより結晶性の高いリン酸三カルシウム

(TCP; Tricalcium Phosphate, Ca3(PO4)2)などの安定相へと変化していく一方で,肥料添加を止めると,土壌の pH 低下につれてこれらは溶解していく。このように,XAFS によってリン酸カルシウムの生成とその結晶性の変化を直接検出することで,土壌中のリン酸の溶解性の変化を評価しており,リンの溶出を最小限にするには,土壌の pH を高く保ち続けることが重要であると指摘している。 一方,これらの肥料に対して硫酸アルミニウムを一旦加えると,肥料中の水溶性のリン化学種の割合を抑えられるうえに,土壌からの溶出を長期間抑える効果もあることが報告されている 26)。Peak ら 23)

は,P K-edge XANES によって一連の肥料を分析し,何も処理を施さない肥料中のリンの大部分は,DCPあるいはリン酸イオンやフィチン酸などの水溶性のリン酸で存在するのに対し,硫酸アルミニウムを加えた肥料中には,非晶質水酸化アルミニウムが沈殿し,それらに吸着する形でリン酸が保持されている

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ことを報告した。特に,吸着態と鉱物との間のスペクトルの違いに基づいて,リン酸は熱力学的に安定したアルミニウム塩を作っているわけではないとしたうえで,今後,この吸着態のリンが徐々にリン酸アルミニウムへと変化し安定化していくのか,あるいはホストである非晶質水酸化アルミニウムの結晶化に伴って表面積が減少し放出されていくのかなど,より長期的な検討課題を明示している。 ほかにも,これらのような無機態の化学種だけでなく,XANES スペクトルでの識別が必ずしも容易ではない有機態リン化学種の働きも調べるために NMR法や段階的抽出法を相補的に利用するアプローチも行われている 16),22),25)。いずれにしろ,上記の例のように,複雑系である土壌中において,リン酸の結合するカチオン種,化合物の結晶性,固液界面での存在状態などに関する直接的な情報を与えること,あるいは,非破壊分析によってその場の条件に沿った測定が可能であること等,XAFS のもつ特徴が,包括的に捉えるべき土壌系の分析に威力を発揮することが分かる 21),27)。3.3 マイクロ・ナノビームを利用した分析 XAFS は,X 線の照射された試料部位における元素の平均構造を与えるため,均質化されたサンプルに対してバルクの情報を与える。一方で,入射 X 線のビームサイズを絞ることで,マイクロ・ナノスケールでの局所分析も可能である 27),28)。天然でのリンの挙動は決して一様ではなく,さまざまな微小鉱物や微生物などが密接に関係するため,試料中の不均質性そのものが関連するプロセスを知る手がかりとなる。その際,同等の空間分解能をもった SEM/

TEM-EDX などの電子線を用いる局所分析と比べ,組成分析と状態分析を合わせることで試料の構造や機能に沿った別次元の情報を得られる点が,X 線を用いる大きな利点になる。また,電子線と比べて X線では照射による試料損傷・変質が少ないこと,厚みのある試料の分析が可能であることから,最小限の前処理で細胞試料などをそのまま分析するのに最適である。実際に,いくつかの植物プランクトンの細胞について,リンの細胞内分布が明瞭に可視化され,化学形態分析も一部で試みられている 29),30)。 バルクでは検出しづらいプロセスを同定できる点も,局所分析を行う大きな意義の一つであろう。Diaz ら 31)は,X 線マイクロビームを用いて海底堆積物を分析し,海洋におけるリンの一大シンクである自生アパタイトがどのように生成するのか,という古くからの問題に新たな示唆を与えている。堆積物中において,(i)リンの濃集部位が数ミクロンの粒子状に点在していること,(ii)それぞれのスポットにおいてリンはアパタイトかポリリン酸のいずれかの形で存在すること,(iii)それぞれの XANES スペクトルがアパタイトとポリリン酸の間で連続的に変化していくこと,などを見いだし,ポリリン酸が自生のアパタイト生成の核として重要な役割を果たしていると主張した(図 5)。ポリリン酸は,一部の微生物体内で生成される生物由来の物質であると考えられているが,その存在量の少なさもあって,NMR などを用いたこれまでのバルク分析では,堆積物中でほとんど検出されてこなかった。一方,X 線マイクロビームによって明らかになった,ポリリン酸を含む数ミクロンサイズの濃集スポットは,これらが微

Apatite

Apatite Polyphosphate

Polyphosphate

図 5 エフィンハムインレット(カナダ)から採取された海底堆積物の XRF マッピングとリンの蛍光 XAFS スペクトル.Al(アルミニウム):青,Mg(マグネシウム):緑,P(リン):赤.(Diaz ら 31)を改変)

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柏原・高橋:リンの XAFS

生物細胞に由来するものであることとも調和的であると主張している。この主張はまだ検討されるべきであるが,海洋全体でのリンの収支にまで及ぶ重要な問題に対し,X 線マイクロビームを用いて新たなアプローチを提示した点において,この研究は興味深い。

4.リンの XAFS の課題

 XAFS 測定は一般的に放射光施設で行われ,特に軽元素であるリンの場合は,大気による吸収が大きい低エネルギー領域の X 線(軟 X 線)を利用するため,大強度かつ高真空を兼ね備えたビームラインの利用が必須である。日本では,Photon Factory のBL-9A や SPring-8 の BL27SU などの一部のビームラインにおいて,環境試料を扱ったリンの XAFS 測定が行われており,特に,SPring-8 BL27SU においては数 10 ppm 程度のリンについてもスペクトルが得られる状況にある。しかしながら,リンの吸収端付近のエネルギー領域の測定に最適なハードウェアを備えた軟 X 線ビームラインは世界中ではそれほど多くなく,そのことが XAFS によるリンのスペシエーションの普及に対して一つの大きな障壁になっていると考えられる 17)。この点は,新たな放射光光源や実験室光源の登場といった装置開発に期待せざるを得ない側面が大きい 32)。 一方,スペクトルの解析においては,前述のとおり,標準試料のスペクトルを単に指紋的に用いるだけでなく,スペクトルの特徴と電子状態との対応関係を考慮し,より信頼性の高い有効な議論を行うことが求められる 14),18)。また,高分子有機化合物などを含めると,決して全てのリン化合物が XAFS だけで識別できるわけではないことに留意すべきである 25)。同時に,これらのことは天然試料のような混合物を扱う場合に,どの程度定量的な議論ができるかにも直結する問題である 19),33)。XAFS では,未知試料のスペクトルに対し,複数の標準スペクトルを端成分としてフィッティングをすることで,試料中の構成成分の割合を比較的簡単に出すことができる。しかしながら,その定量値の扱いには十分注意を払うべきである。例えば,高エネルギー領域のXAFS 測定に比べて,低エネルギー領域の測定は圧倒的に感度が低い。それに伴う XAFS スペクトルの質の低下はフィッティング結果を大きく変動させる。一方で,濃度が高い試料を蛍光法で測定する場合は,自己吸収によってスペクトルが歪み正しい結果が得られない,というジレンマもある。さらには,長時間測定の際の X 線照射によって,試料が受ける損傷の有無なども検討されるべきであろう 8)。

5.今後の展望

 近年,XAFS の応用は,一連の物質循環の枠組みに沿って急速に拡大しつつあり,研究が集中している土壌系でのリンの固定・溶出の問題だけでなく,今後は大陸や海底での岩石風化による供給,河川を経由した湖や海洋への流出,大気中や海水中での浮遊・沈降粒子による運搬,湖底 / 海底における水- 堆積物境界での固定化・再溶出あるいは埋没後の続成過程などのさまざまな系が扱われることになるであろう 34)- 39)。そのうえで,これまで挙げてきた先行研究は単なる個別の例ではなく,天然でのリンの挙動の理解に対して大きな前進をもたらすことを予感させる。まずリンの XAFS によって,有機態・無機態を問わず水 / 鉱物界面での存在状態や鉱物の結晶構造なども含めたリンの水溶解性の問題が詳細に扱えることは,各リザーバー・フラックスにおけるリンの易動性や生物利用性をより明確にし,地球規模の生物生産や気候変動との関連を見積る際にも有効な情報を与えるであろう。また,その場の条件を保持した測定ができることは,酸化還元と密接に関係する水 / 堆積物境界でのリンの固定化や再溶出などの問題に威力を発揮し,また,水 / 鉱物界面の吸着リンや有機態リン化合物など,前駆体となり得る一連の化学種を考慮した自生アパタイトの生成メカニズムなどの研究にも有効であろう。また,モノリン酸とポリリン酸を明確に識別できることは,生物活動とリン循環の関連性を探る際の手段となりうるとともに,熱水環境などの特殊な場における無機的なポリリン酸の生成を探ることは,生命の起源という根源的な問題を追求することにも繋がる。さらには,リン酸の酸素同位体と合わせた化学反応の詳細解析や,蛍光色素の一種である DAPI などの細胞染色と局所分析を組み合わせたリンの代謝産物の細胞レベルでの識別など,他の手法と組み合わせることも表層環境や生体内のリンの研究に新しい展開をもたらすかもしれない。以上の多くはまだまだ想像の域を超えないものの,リンの研究にとって XAFS の導入はそれだけ意義深く,好奇心を掻き立てられるのも事実であろう。

謝  辞

 本稿で紹介しているスペクトルの一部は,大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 Photon Factory BL-9A(課題番号 2013G562)で得られたものである。また,測定の際は澤木佑介博士(東京工業大学),野崎達生博士,久保さゆり氏(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)のご協力をいただいた。ここに感謝の意を示す。

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柏原・高橋:リンの XAFS 地球環境 Vol.20 No.1 89-96(2015)

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柏原 輝彦/Teruhiko KASHIWABARA

 1981 年仙台に生まれる。2011 年に広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻にて博士課程修了。博士(理学)。国立研究開発法人 海洋研究開発機構地球内部ダイナミクス領域のポスドク研究員を経て,海底資源研究開発センターの特

任研究員。現在は,深海底鉱物資源の生成に関与する化学反応の理解をベースにし,元素の個性に基づく海洋環境・資源科学研究を目指している。趣味は食べること。

高橋 嘉夫/Yoshio TAKAHASHI

 1968 年米国に生まれ,3 歳でつくば市に移住。1997 年東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了。博士(理学)。広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻助手,助教授,教授を経て,2014 年 6 月より東京大学大学院理学系研

究科地球惑星科学専攻教授。2002 年『存在状態の解明に基づく微量元素の地球表層での化学反応に関する研究』で日本地球化学会奨励賞受賞,2004 年『アクチノイドおよびランタノイドの環境中での錯生成ならびに固相吸着に関する研究』で日本放射化学会奨励賞受賞。趣味は歌うこと。

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