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PI(パブリックインボルブメント)の 意義と課題 2006128羽鳥剛史 京都大学 本日の発表内容 (1)PIの意義と課題について (2)公共プロジェクトを対象とした 討論過程のプロトコル分析

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PI(パブリックインボルブメント)の意義と課題

2006年1月28日

羽鳥剛史

京都大学

本日の発表内容

(1)PIの意義と課題について

(2)公共プロジェクトを対象とした討論過程のプロトコル分析

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(1)PIの意義と課題について

PI(パブリックインボルブメント)

「公共プロジェクトに関わる関係主体に、計画や施設整備について関心をもたせ、コミュニケーションを図り、その結果を計画づくりに反映させる」しくみ。

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参画のレベル

市民の手で意思決定を行うこと

計画立案から意思決定までの過程に、市民がパートナーとして関わること

プロセスを通じて直接市民に働きかけ、課題への一貫した理解と配慮を担保すること

市民からの反応を得て、それを分析や解決法及び意思決定に活かすこと

解決法や課題の理解を助ける情報を市民に提供すること

Empower

権限付与

Collaborate協働

Involve関与

Consult協議

Inform情報提供

弱い <<< 参画のレベル <<< 強い

(IAP2)

コミュニケーションツール(1)

⑥イベント(シンポジウム、現地、フェア)

参加促進手法 ⑦ メーリングリスト

⑧ コーポレートアイデンティティ

⑪ ホームページ

⑩ FAX、ホットライン、コメントカード⑨広報資料

情報提供・意見把握手法

③アンケート調査

意見調査手法 ④グループインタビュー

⑤ フォーカスグループ

⑬ インフォメーションセンター

⑫ メディア

②関係者分析調査

①キーパーソンインタビュー事前の状況把握手法

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コミュニケーションツール(2)

⑰ワークショップ

⑯ オープンハウス

非公式の対話方式⑱ タスクフォース

⑲ ブリーフィング

⑮公聴会

⑭説明会公式の対話方式

対話型

PIの対象範囲

�小規模プロジェクト

�大規模プロジェクト

私益に及ぼす影響>公益に及ぼす影響

公益に及ぼす影響>私益に及ぼす影響

利害の調整

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「PI=コミュニケーションの場(舞台)」

コミュニケーション

国民・地域住民

議会

行政団体

�舞台に登場する人物=反対者(?)

行政(最終決定者)の判断に反対する人

�合意形成が目的ではない

「PI=コミュニケーションの場(舞台)」

合意形成が出来ない場

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PIの意義問題の定式化

-当然性; 議論の成熟度

-理解可能性; 専門的知見に対する理解

当該地域に存在する社会問題とプロジェクトの実施による影響の抽出

�計画条件

�認識的正統性

-課題と目的

-代替案

-評価項目

コミュニケーションの困難性

1) 利害の不一致

2) 事柄の複雑性

3) 認識の不一致

公共プロジェクトによって負の影響を受ける人はプロジェクトに反対する

プロジェクトに関する意思決定には専門的知識を要する

各利害関係者はプロジェクトを異なった方法、異なった言葉、異なったフレームで認識する

公共プロジェクトをめぐる解釈のズレ

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公共プロジェクトをめぐる異なる認識体系

�言語の違い

「技術的水準」と「サービス水準」

�厳密性と適切性のジレンマ

-精密なデータや確固たる証拠

-日常的な理解、常識

PIに対する評価�結果に至るまでの手続き

�議論の内容・中身

–参加者の選定–透明性–成果

–論点の網羅性–専門的判断の妥当性–認識、言語のズレ

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PIの課題PIを含んだ社会システムの課題

� PIに対する評価機関

�要素技術としてのファシリテーション

- PIプロセス-議論の内容

-論点の網羅性- ミスコミュニケーション

(2)公共プロジェクトを対象とした討論過程のプロトコル分析

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研究の目的

公共プロジェクトをめぐる公的討論過程のプロトコル分析を通じて、討論参加者間の認識の不一致を検証する方法論を提案する。

� プロトコル分析

• プロトコル・・・「発話行為によって得られた言語データ」• プロトコル分析の焦点は発話者の認知過程

� ファセット理論

• ファセット・・・「言語空間上の概念カテゴリー」• 参加者発言の3つのファセット「A」・「B」・「C」

ファセット理論に基づくプロトコル分析

�参加者発言の3つのファセット

「ファセットA (方向)」

「ファセットB (関係)」

「ファセットC (対象)」

「どのような対象に関して、どのような方法により、どのような方向に働きかけているのか」

発言が働きかける方向

発言において適用される対象に関する解釈の方法

発言が指し示す対象

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事例の概要

� ある公共プロジェクトの特定の議題に関する討論会議の速記録(テープ起こしによって作成)

�討論参加者(発言数298)

1)座長 2名 (発言数90)

2)有識者 2名 (発言数34)

3)賛成派市民グループ 1名 (発言数18)

4)反対派市民グループ 5名 (発言数118)

5)行政グループ 3名 (発言数38)

分析の手順

(1) 討論速記録のファセット分類

(2) 討論速記録のプロトコル分析

Ⅰ)討論参加者の空間的配置

Ⅱ)会話パターンの同定

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参加者発言のファセット分類

A3 中庸

A4 その他

質問等

A2 抑制

否定・反論

A1 強化

報告・説明・確認・提案・要求・合意・賛成

A: 方向 (どうする)

B4 過去の契約的事実過去の約束事・行政活動

B3 経験的事実体験・聞き伝え

B5 将来の契約的事実将来の取り決め・意図・将来計画

B6 個人的・心理的なこと不安・信頼

B2 統計的事実統計データ・記録・歴史的変遷

B1 科学的考察予測・安全性

B: 関係 (何を)

C44 災害復旧・補償 (4)

C43 ミティゲーション (6)

C3 主対象施設 (2)

C23 自然災害・被害 (8)

C22 自然現象 (11)

C21 自然状態 (2)C2自然

C42 数値計算 (9)

C41 調査 (11)

C4関連事業

C13 有権者 (1)

C12 地域・自治 (1)

C11 行政 (4)

C1社会

C5 その他 (2)

C14 マスメディア (1)

C: 対象 (何について)

参加者発言のファセット分類例(1)

○参加者A:「…(自然災害Xについて)そして、橋梁施設Yが第一

番目の障害物であったわけです。高波が上がってくるときの妨害物であった。そしてその妨害物がどういうことを作用したかということを、町Zの町民が1人経験しております。…」

<自然災害Xの被害に関する聞き伝えを主張する>

要約

ファセット分類

[ A1・B3・C23(3) ]

「自然災害X」C23(3)

「経験的事実(橋梁施設Yの高潮障害)」:障害有(+)/障害無(-)B3「強化・賛成」A1

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○参加者B:「地震Pをもし立証するには、格好のデータが出てくるというふうに解釈してよろしいんでしょうか。」

<地震Pの立証可能性について質問する>

要約

ファセット分類

[ A4・B1・C22(3) ]

「地震Pの立証可能性」C22(3)「科学的考察」:立証可能(+)/立証不可能(-)B1

「質問」A4

参加者発言のファセット分類例(2)

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

B1 (科学的考察) B2 (統計的事実)

B3 (経験的事実) B4 (過去の契約的事実)

B5 (将来の契約的事実) B6 (個人的・心理的なこと)

ファセットBの発言頻度

グループ2有識者

グループ3賛成派市民

グループ4反対派市民

グループ5行政

発言頻度

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

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0 20 40 60 80 100 120 140

ファセットC1(社会)

ファセットC2(自然)

ファセットC3(主対象施設)

ファセットC4(関連事業)

ファセットC5(その他)

C41 C42 C43 C44

C21 C22C23

発言回数

C11 C12

C14

C13

ファセットCの発言回数

討論速記録のプロトコル分析

1)討論参加者間の発言の類似度を導出

2)MDSCALによって討論参加者を空間配置

1)発言間の類似度を導出する

2)MDSCALによって各発言を空間配置

3)各発言を述べた討論参加者の同定

4)討論参加者間の発言ファセットのズレを同定

ファセット分類された討論参加者の発言データ

Ⅰ)討論参加者の空間的配置

(討論会議全体を対象)

Ⅱ)会話パターンの同定

(個別の議事を対象)

認識の不一致意見の対立

会話パターン

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Ⅰ) 参加者の空間的配置

MDS(MDSCAL)を活用し、参加者の発言のファセット分類に基づいて、各参加者を空間上に配置

参加者間の意見の一致・対立、認識のズレ

�参加者間の類似度 (1)-(2)

(1) 両者の発言ファセットが一致する回数

(2) 両者の発言ファセットが対立する回数

例)「A1・B2・C42(1)」と「A2・B2・C42(1)」

�MDS(多次元尺度構成法)

対象間の(非)類似度データが与えられた時、各対象を多次元空間内の点として表し、点間の距離が観測された(非)類似性と最もよく合致するように点の布置を定める方法

11

10

9

8

76

5

4

3

2

1有1

有2

反1

反2

反3

反4

反5賛1

行1

行3

行2

(ストレスS=2.653948e-001)

行 :行政の発言 反 :反対派市民の発言有 :有識者の発言 賛 :賛成派市民の発言

Ⅰ) 参加者の空間的配置

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Ⅱ) 会話パターンの視覚化

MDS(MDSCAL)を活用し、ファセットで表現される話し合い参加者の発言を空間上に配置

会話パターン

�異なる発言間の類似度

連帯出現頻度:2つの異なる発言をともに述べた参加者の頻度

�会話パターンへの分類

空間上に配置した発言を、発言者とファセットに基づいて識別することによって、会話パターンを視覚的に表現

�討論会議における22個の議事ごとに分析

ファセット分類に基づく会話パターン

会話パターン

パターン1

パターン2

パターン3

パターン4

ファセット分類

ファセットB(C)の推移→合意

ファセットB(C)のズレ→対立

ファセットBとCが一致→対立

その他

ファセットB(C)の項目が推移した結果、合意に至るケース

参加者間でファセットB(C)が異なったまま会話が行われた結果、意見が対立するケース

参加者の間でファセットは一致しているものの、意見が対立するケース

上記のいずれにも該当しないケース

内容

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5

4

3

2

1

-0.881

-0.331

:有識者の発言 :反対派市民の発言 :両者の発言

「ファセットC13(有識者)」

「ファセットC14(マスメディア)」 ファセットCが「C13」から「C14」に推移し意見が一致

(S=1.018558e-312)

5

1

4

2

3

会話パターン1ファセットB(C)の推移→合意

会話パターン2

1

2

34

5

-0.881

-0.331

「ファセットB2(科学的考察)」

「ファセットB3(経験的事実)」

「ファセットB6(心理的なこと)」

(S=2.800950e-308)

認識のズレ

5

34

1

2

:行政の発言 :反対派市民の発言

ファセットB(C)のズレ→対立

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会話パターン3ファセットBとCが一致→対立

1

2

34

5

6

-0.881

-0.331

12

6

34

5

(S=5.613467e-002)

意見対立

「ファセットB4 (過去の契約的事実)」の「ファセットA1 (強化)」

「ファセットB4 (過去の契約的事実)」の「ファセットA2 (抑制)」

:行政の発言 :反対派市民の発言

会話パターンの内容分析

※括弧内の数字は各ケースが生起した回数

利害対立の顕在化ファセットCのズレ(1)

科学的判断の厳密性と適切性の

ジレンマ問題ファセットBのズレ(4)パターン2

(5)

• 「ファセットA3(中庸的意見)」の発言• より詳細な事項へと議論が深化する展開ケース(5)

過去の経緯に関する情報の曖昧性

が原因

「ファセットB4」の真偽をめぐる対立

科学論争「ファセットB1」・「B2」の真偽をめぐる対立(7)パターン3

(10)

行政や有識者が反対派市民のファセット項目に自分の発言を適合させる

譲歩ケース(2)パターン1

(7)

特徴会話パターン

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プロトコル分析手法の適用可能性(1)

PI評価として

• 協議過程においてどのようなパターンが生起したのか

• 認識の不一致が解消されたか• 網羅的に議論がなされたか

プロトコル分析手法の適用可能性(2)

ファシリテーター養成教材として

討論過程において、瞬時にファセットの分類や会話パターンの同定を行い、討論の円滑な進行を促す人材を育成

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プロトコル分析手法の適用可能性(3)

速記録の確認・意見収束のためのツールとして

• 討論の状況をファセット分類を基に視覚的に明示化することによって、議事の確認を図る

• 以後の討論過程において議論すべき論点を明確化する

PIにおけるプロトコル分析の意義

プロジェクトをめぐる問題の定式化

�利害の対立

�厳密性と適切性のジレンマ

�科学論争 �関連学会

�利害調整

� アンケート

行政の意思決定