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NTT技術ジャーナル 2014.1054
100G-PTS開発のねらいNTTネットワークサービスシステム研
究所は,今後急激な増加が見込まれる中継ネットワークのトラフィックを効率良く伝送するため,100Gデジタルコヒーレント技術*とパケットトランスポート技術を使った「100Gパケットトランスポートシステム(100G-PTS)」を開発しました.本システムでは,大容量化に加えて,低消費電力化や運用性 ・ 信頼性の向上をねらっており,今後の中継ネットワークの中核システムと位置付け
て開発を進めてきました.
100G-PTSの技術的特長とメリット
100G-PTSの主な特長は,①100Gデジタルコヒーレント技術による大容量化,②高機能光スイッチによる運用性 ・ 信頼性の向上,③MPLS-TP(Multi Pro to-col Label Switching-Transport Profile)による柔軟な帯域のパス設定と保守運用性の両立,④光波長スイッチ(L0機能部)とパケットスイッチ(L2機能部)の統合による低コスト化です(図 1 ).
■100Gデジタルコヒーレント技術による大容量化従来の波長分割多重伝送システムの
最 大 帯 域は10 Gbit/sや40 Gbit/sですが,今後の急増するトラフィック量に対応するためには,装置増設による対応では限界があり,伝送システムのさらなる高速 ・ 大容量化が求められています.100G-PTSでは,100Gデジタルコヒーレント技術によって 1 波長当り100 Gbit/s
*デジタルコヒーレント技術:超高速デジタル信号処理により,光ファイバにおける波形歪が原因で生じる伝送距離制限を大幅に緩和する技術.
図 1 100G-PTSの特長とメリット
③MPLS-TPによる柔軟な帯域のパス設定と保守運用性の両立
①100Gデジタルコヒーレント技術による大容量化
④光波長スイッチとパケットスイッチの統合による低コスト化
②高機能光スイッチによる運用性・信頼性の向上
高速専用線網・法人向けIP系サービス網
…
……
… …
…
リンクアグリゲーション リンクアグリゲーション
パケットスイッチ(MPLS-TP)
パケットスイッチ(MPLS-TP)
波長クロスコネクト
波長クロスコネクト
波長クロスコネクト
L2機能部
10GbE/100GbE
NMSなどEMS
L0機能部
L2機能部大容量ルータ
100G波長
NMS: Network Management SystemEMS: Element Management System
MPLS-TPラベルパス
L0機能部
GbE/10GbE/100GbE
100GbE
10G×10(SDH/Ether)
最大 8方路 100G×80λ
ラインカード
ラインカード
ラインカードラインカードラインカードラインカード
ラインカードラインカードラインカード
トランスポンダ
トランスポンダ
トランスポンダ
トランスポンダ
トランスポンダ
インターネット中継網・法人向けIP系サービス網
100Gパケットトランスポートシステム(100G-PTS)の実用化NTTネットワークサービスシステム研究所
堀ほりぐち
口 真まこと
/島しまざき
崎 大だいさく
作 /笹ささくら
倉 芳よしあき
明 /井い な み
波 政まさあき
朗 /山やまもと
本 秀しゅうと
人
NTTネットワークサービスシステム研究所では,モバイルサービス,クラウドサービスの拡大などに伴い,急激なトラフィックの増加が見込まれるNTTグループの中継ネットワークを経済的に構築するとともに,運用性,信頼性の向上にも資する「100Gパケットトランスポートシステム(100G-PTS)」を開発しました.ここでは,本システムの概要および特長を紹介します.
R&D
中継ネットワーク大容量化 100Gデジタルコヒーレント パケットトランスポート
NTT技術ジャーナル 2014.10 55
R&Dホットコーナー
の高速伝送レートで,80波長の信号を高密度多重することにより, 1 本の光ファイバで 8 Tbit/sの大容量化を実現しています.
伝送容量の拡大のためには,周波数利用効率を向上することが必要であり,無線通信分野で用いられる多値符号化技術を光伝送に取り入れています.しかし,多値符号化を行うと光ファイバ内部で生じる雑音の影響を受けやすくなり,伝送可能距離が短くなるという課題が生じます.また,光ファイバの偏波モード分散や波長分散による遅延特性も伝送距離制限の要因となります.デジタルコヒーレント技術では,これらの距離制限の原因となる課題を,超高 速 な デ ジ タ ル 処 理(DSP: Digital Signal Processing)による強力な信号補正により,飛躍的に改善しています.
デジタルコヒーレント技術の適用は,ネットワークの構築作業や運用面においても大きなメリットがあります.従来の技術では,伝送装置の導入前に,高機能な測定器を用いた光ファイバの測定を行い,中継ビルの間隔に適した波形劣化を補正する用品を選定する必要が
ありましたが,デジタルコヒーレント技術を適用した100G-PTSでは,こうした波形補正のための測定や設計,補正用品コストの削減が可能となります(図 2 ).■高機能光スイッチ技術による運用性 ・信頼性の向上波長分割多重システムでは,サービ
スノードなどの外部接続装置から受信した信号を波長多重するために適正な信号フォーマット,信号レベル,信号光波長に変換するトランスポンダと呼ばれる用品が必要となります.従来のシステムでは,トランスポンダの搭載位置によって光の方路や波長が固定的に決まっていたため,災害などにより方路や波長を変更する必要が発生した場合は,現地作業でトランスポンダの搭載位置を変更し,光パスを再設定する必要がありました.これに対して100G-PTSでは,高機能光スイッチをオペレーションシステムから遠隔操作することにより,方路や波長の変更が可能であり,現地への作業員派遣なしに障害対応が可能となります(図 3 ).
こうした機能の利用シーンとしては,冗長化された伝送路が二重障害となる
ような大規模災害において,別に確保された 3 ルート目を使って,トラフィックを救済する場合などが想定されます.■MPLS-TPによる柔軟な帯域のパス設定と保守運用性の両立従来,固定電話や専用線等のレガシー
系サービスのトラフィックを多重伝送する場合,主に国際標準規格であるSDH
(Synchronous Digital Hierarchy)技 術を適用してきました.SDHでは,回線やパスを束ねる際に固定的な帯域を割り当てるため,伝達する情報がない状態でも帯域を占有する必要がありました.
今回100G-PTSが採用したMPLS-TP技術では,パケット多重によってきめ細かいパス帯域の設定ができ,かつ,従来技術と同様にエンド~エンドを指定した仮想パスであるLSP(Label Switched Path)の設定 ・ 管理が可能です.
100G-PTSでは,複数のLSPを波長パスに多重する際,帯域保証型の高品質なLSPや帯域非保証型の低コストなLSPを混在収容し,帯域の有効利用を図ることもできます.また,LSPは設定区間ごとに冗長構成をとることができ,障害発生時に50 ms以下の高速で切替が
図 2 デジタルコヒーレント技術の特長
・大容量化: 周波数利用効率の向上による大容量化・長距離化: 光コヒーレント検波の受信感度向上・分散補償: デジタル信号処理による受信端でのみの分散補償が可能
(a) 従来技術 ②設計・管理
①事前測定
③支障移転対応
Aビル用用品
光ケーブル
高機能測定器類
Aビル Bビル
伝送装置
伝送装置
伝送装置
CビルAビル Bビル Cビル
Aビル~ Bビル間でファイバ測定
光ケーブル 10/40 Gbit/s信号 100 Gbit/s
信号
Bビル用用品 Cビル用用品(用品不要) (用品不要)
(支障移転)
(高機能測定器不要)
(高機能測定器不要)
(高機能測定器不要)
(用品不要)
(b) デジタルコヒーレント技術
①導入前に,種々のファイバの測定が必要(高機能な測定器の配備,全ビルでの測定稼動が必要)
②中継ビル間隔に適した波形劣化を補正する用品の選定が必要(高度な設計スキル要).各ビル(装置)ごとの用品の管理が必要( 1装置当り60用品程度)
③支障移転(道路工事等に伴うケーブル変更工事)でファイバ種別が変更になった場合には①~②の作業を再度実施する場合あり
左記の①~③に対して,
デジタル信号処理技術により,高度な測定,設計,用品の管理が不要(波形劣化の補正用品が不要)
さらに,補正用品が不要になることにより伝送遅延が削減
NTT技術ジャーナル 2014.1056
可能な瞬断プロテクション機能,パケットロスなく切替が可能な無瞬断プロテクション機能を具備しており,用途に応じて異なる信頼性グレードのパスを提供
可能です.保守運用面では,LSPの接続性を定
期的に確認するCC(Continuity Check)や折り返し試験を実現するLB(Loop
Back)など,豊 富なOAM(Operation Administration and Maintenance)機能により,高い保守運用性を実現しています(図 4 ).
図 3 高機能光スイッチ技術の特長
・波長パスの波長変更,経路変更を遠隔操作で実施可能 →迂回波長パスの設定を行う状況で,従来は必要であった現地作業が不要
(a) 既存システム(DWDMの場合) (b) 100Gパケットトランスポートシステム
EMS EMS
方路 1
方路 3方路 2 方路 1
方路 3
波長スイッチ部・光アンプ
波長多重・切替部トランスポンダ
方路 2
光アンプ
波長多重部トランスポンダ
トランスポンダは搭載位置により方路,波長が固定される.災害等により方路や波長を変更する場合には,トランスポンダの搭載位置の変更が必要
・設備登録(シェルフ,パッケージ等)・光パス削除・再設定
設計システム等と連動した自動切替・手動切替
現地作業員派遣なし現地作業員派遣・トランスポンダ搭載・新規配線接続
現地作業員派遣・トランスポンダ搭載変更・配線変更
現地作業員派遣・トランスポンダ搭載変更・配線変更
多重故障時にも遠隔にて波長切替可能
DWDM: Dense Wavelength Division Multiplexer
図 4 MPLS-TP技術の特長
・さまざまなQoSに対応・柔軟な帯域設定・豊富なOAM機能による高い運用性
パケットトランスポート網
QoS帯域保証型の高品質パスから統計多重効果をねらった帯域非保証型の低コストパスまでさまざまな品質のパスに対応可能
部品コストクロスコネクト部にパケットスイッチの部品を流用でき低コスト.SDH部品枯渇後も長期間の運用が可能
OAM機能各種OAMフレームによりSDH,ATMと同等の保守運用性を実現・Continuity Check(CC) ⇒正常性を定期的に確認・Loop Back(LB) ⇒指定したノードに対する応答確認・Delay and Loss Measurement ⇒遅延,ロス測定 など
帯域設定パス帯域はきめ細かく設定でき,SDHと比較して収容効率が向上
EMS
CC
CC
10G(帯域非保証)
10G(一部帯域保証)
波長パス(100G)
波長パス容量を超える低優先のパケットは廃棄
10G(帯域保証)
…
優先度(低)
優先度(低)
優先度(中)優先度(高)
max
min 優先度(中)優先度(高)
優先度(高)
NTT技術ジャーナル 2014.10 57
R&Dホットコーナー
■光波長スイッチ(L0機能部)とパケットスイッチ(L₂機能部)の統合による低コスト化従来は,光波長多重系の伝送装置と
電気多重系の伝送装置はそれぞれ別の装置であり,両者を接続してネットワークを構築する際は,装置間に高額なトランスポンダがインタフェースとして必要でした.100G-PTSではL0機能部とL2機能部を一体化した装置構成が可能で,装置間のトランスポンダが不要となり,従来よりも安価にネットワークの構築が可能となります.また,L0機能部とL2機能部の統合は,設置スペースや消費電力の削減にもつながります.
100G-PTSは大容量でサポートするインタフェースも多く,方路も多数設定できるため,ネットワークのさまざまな場所に適用することができます.例えば,図 ₅ に示した中継ネットワークへの適用イメージでは複数のリングネットワーク間の効率的な接続や,大規模災害などを想定した信頼性向上のための第 3 経路切替を100G-PTSで実現しています.
今後の展開100G-PTSは,今後の伝送インフラの
基盤システムとして開発を進め,現時点までに基礎となる部分は完成しました.今後は,装置をさらに機能アップさせていき,ネットワークを一層効率化していきたいと考えています.また将来的には,400Gや1Tといった大容量化を実現していきます.
図 5 100G-PTSの中継ネットワーク適用イメージ
中継ネットワークにおける多様な領域に適用し,①ネットワークの効率化,②高品質・高信頼化,③運用性の向上,に寄与する
多様なインタフェース・GE~ 100GE (論理パス多重可)
遠隔機能拡張(FWバージョンアップなど)
大容量化・レイヤ統合
激甚災害時の遠隔第 3経路切替
DCN: Data Communication NetworkFW: Firmware
PTS(L2機能部)
PTS(L0機能部)
②高品質・高信頼化ポイント
①効率化ポイント
③運用性向上ポイント
EMS
DCN
専用線
L2スイッチ
ルータ 100G×80λ
NMS
(左から) 堀口 真/ 島崎 大作/ 笹倉 芳明/ 井波 政朗/ 山本 秀人
中継ネットワーク構築 ・運用コスト削減に向けて,さらなる大容量化等の研究開発を進めていきます.
◆問い合わせ先NTTネットワークサービスシステム研究所 ネットワーク伝送基盤プロジェクト
TEL ₀₄₂₂-₅₉-₆₇₁₅FAX ₀₄₂₂-₅₉-₃₄₉₄E-mail horiguchi.makoto lab.ntt.co.jp