Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
NTT技術ジャーナル 2003.174
防災壁の概要
多くの通信ケーブルを収容する地下幹線ルートの通信土木設備であるとう道には,万一の火災による延焼や洪水による浸水などがNTTビルへ広がるのを防ぐために,ビルとの境界に防火防水機能を備えた防災壁(図1の上)を設置しています.この防災壁は通常60~120条の通信ケーブルを収容することができ,構造や設置環境,建設年度の違いから,鋼製防災壁(防水防火壁)とRC( Reinfoced Concrete) 製 防 災 壁(防水壁)に分類されます.鋼製防災壁は防水壁と防火壁の2枚
の鋼構造体が接するかたちで配置されており,ケーブルが貫通するダクト部はゴムパッキンを内包したダクトブロックで構成されています(図1の左下).RC製防災壁は壁本体が鉄筋コンクリート構造になっており,ケーブルが貫通するダクト部はNTTの一般管路区間で使用されている硬質ビニル管(φ75 mm)で構成されています(図1の右下).
現状の問題点
現在,東京都心部におけるNTTビル前の多くのとう道ではケーブル収容率が80%を超えており,ケーブル輻輳や行き詰まりが多く発生しています(図2).
FTTH・ADSLサービスへの対応や他事業者への相互接続約款による義務的提供*1といったNTT事業会社のサービス動向,周囲状況から,今後もとう道内に布設されるケーブルは増加していくものとみられ,さらにケーブル輻輳と行き詰まりが進展することが予想されます.とう道内に設置される防災壁は,十
分な止水機能を果たすために1ダクトに対してケーブル1条の収容を原則としており,今後のケーブル需要拡大に対してボトルネック化が懸念されます.光化によりケーブル外径が細径化されていることから,1つのダクトにケーブルを複数本貫通させることは物理的に可能ですが,これにより止水機能を失うことが問題となっていました.
要求性能と既存止水技術
既設とう道の設置環境を調査した結果,台風や高潮などの災害により路面が冠水してとう道内が浸水した場合,防災壁にかかる水圧は,最大98 kPaと想定されました.そこで防災壁ダクト部に対する水圧の要求性能を98 kPaに設定しました.既存技術には,マンホールのダクト止
水技術である水発泡材やウレタン発泡材などを用いる充填方式,ビルアクセス管路用止水栓やU-Line*2止水栓など
を用いるメカニカル方式などがあります.しかしながら,いずれの方式も耐水圧が49 kPa以下であることに加え,発泡材の場合は追加布設が発生したときに撤去作業性が悪いことから,防災壁の多条止水技術に適用することは困難です.防災壁ダクトで多条布設がすでに行
われている個所では,現在のところ一時的に耐熱コーキング材による充填方式(図3)をとっていますが,冠水状態で発生する水圧を与える水密試験により耐水圧が98 kPaに達しないことが判明しています.このような状況を踏まえ,NTTアクセスサービスシステム研究所では,本来の防災壁の機能を損なうことなく多条布設を可能とする,多条収容止水装置の開発を行いました.
多条収容止水装置の概要
開発した多条収容止水装置では,既存のNTT技術であるお客さまビルへの引き込み管路で使用されるビルアクセス管路用止水栓をベースに,①とう道に
NTTでは災害などから通信設備を守ることを目的にとう道内に防災壁を設置して
います.この防災壁において,通信ケーブルの多条収容を可能としたダクト止水装
置を開発しました.本装置はサービス需要の大きい都心部の収容率の高いとう道に
対して特に効果的で,防災機能を確保しながら通信ケーブルを高密度に収容するこ
とを可能としました.
とう道防災壁部の収容能率向上技術NTTアクセスサービスシステム研究所
R&D
た ま い よしゆき せ が わ のぶひろ いではら か つ や
玉井 賀行 /瀬川 信博 /出原 克也
地下基盤設備 防災壁 多条収容止水装置
*1 相互接続約款による義務的提供:NTTビルから他通信事業者が工事可能な一番近いNTTマンホールまでのとう道・管路区間について,要請があれば義務的に他通信事業者に提供する任務を負うこと.
*2 U-Line:縦断線形が中だるみ形状の地下管路設備のこと.
NTT技術ジャーナル 2003.1 75
R&Dホットコーナー
図1 とう道防災壁設備の概要�
ダクトブロック(左)�1条用ゴムパッキン(右)�
鋼製防災壁(防水防火壁)� RC製防災壁(防水壁)�
硬質ビニル管(φ75mm)�
NTTビル内�マンホール�
NTTビル�
防災壁�
NTTビル前とう道�(開削とう道)�
立坑�一般管路�
全 景�
ダクト部�
東京都心�277方面�ケーブル�収容率�
50%未満�
50~60%�
60~70%�
70~80%�
80%以上�
図2 都心部NTTビル前� とう道の状況� 図3 ケーブル多条布設時の現在の止水方法�
鋼製防災壁(防水防火壁)�
<拡大図>�
ゴムパッキン�なし�
耐熱コーキング材�による充填�
<拡大図>�
RC製防災壁(防水壁)�
ダクトブロック�
対応した耐水圧,②施工環境や状況に影響されない均一な止水品質,③設置・撤去が容易な作業性,④既設ダクトへの適用,を実現しました.また多様な外径のケーブルを収容するため,同心円状の多層構造を持つケーブルアダプタを用意しました.止水装置の概要および主要諸元を図4に示します.
多条収容止水装置の特徴
■構造と止水原理
止水装置はプレス板(SUS304),高硬度弾性部材のEPDM(エチレンプロピレンゴム:硬度50),低硬度弾性部材のEPDM(硬度30),六角穴付きボルト,座金類,ケーブルアダプタ(EPDM:硬度30)で構成されています.止水の原理は,各部材の硬度差を利
用したボルト締結ゴム圧縮変形方式です.止水装置を防災壁のダクト部に装着した後,トルクレンチにより所定の締
結トルクをボルトに与えることによってプレス板が硬度の異なる2種類のゴム(EPDM)を軸方向に圧縮します.これにより,低硬度のゴムが高硬度のゴムから圧縮力を受けることでダクト内壁方向に膨張し,ダクト内壁と止水装置外周との間に摩擦力を発生させ,止水機能を発揮します.ボルト締結力と止水能力には相関関係があり,ボルト締結のトルク管理を行うことで耐水圧98 kPaを確保することができます.断面状況を図5に示します.プレス板の材質にはゴム膨張や98 kPaの水圧に耐えうる高い剛性を持ったSUS304を用いており,ゴムに均一なシール効果を作用させるだけではなく,ケーブルを追加布設した際に繰り返し使用しても均一な止水品質と信頼性を確保することができます.■収容ケーブル
防災壁の多条布設形態としては,
1000心未満の細径光ケーブルどうしの多条布設,1000心光ケーブルと細径光ケーブル,1000心光ケーブルどうしの多条布設が考えられます.最近の傾向として,とう道内に布設されるケーブルは現行最大心数である1000心光ケーブルの占める割合が増加しており,今後1000心光ケーブルを含む多条収容が進んでいくと予想されます.これに対応するため,止水装置はφ31 mmのケーブル開口部を3カ所備えており,1000心SM型光ファイバWBB-FRケーブルを3条収容可能です.この構造により,これまでの1ダクト1条収容と比較して高密度なケーブル収容構造が可能となります.また,1000心未満の細径光ケーブル
を収容する際には,開口部とケーブルの隙間に,脱着可能な多層構造(6層)のアダプタをケーブル外径に合わせて装着することにより,外径がφ31 mm未満のケーブルについても,水密性を確保
NTT技術ジャーナル 2003.176
φ31 mm
③�②�
⑤⑥�
78.7 mm
91.6 mm
①�
④�
⑦�
D5 D4 D3 D2 D1
D 6
<主要諸元>�<止水装置本体側面図>�<止水装置本体正面図>�
<ケーブルアダプタ側面図>�<ケーブルアダプタ正面図>�
各部材と構造�
耐水圧: 98 kPa以上�
単位:mm
最大ケーブル収容条数:3条(1000心SM-WBB-FR)�
ケーブルアダプタ外径 φ8.5~φ31 mmに対応�
図4 とう道防災壁多条収容止水装置の概要および主要諸元�
名 称�
①プレス板表�
②プレス板裏�
③高硬度弾性部材�
④低硬度弾性部材�
⑤六角穴付きボルト�
⑥ばね座金・平座金�
�
⑦ケーブルアダプタ�
材 料�
SUS304��
EPDM(硬度50)�
EPDM(硬度30)�
�
SUS304�
�
EPDM(硬度30)�
構 造�
3分割�
�
スリット入り��
JIS B 1176�
JIS B 1251�
JIS B 1256�
同心円状多層�
�
D
D1�
10.5
D2�
14.0
D3�
17.5
D4�
21.0
D5�
24.5
D6�
30.5
した多条収容を可能としています.これにより,現在とう道内で布設可能なすべての光ケーブルを網羅します.■適用例
止水装置の適用例を図6に示します.止水装置の外径はφ78.7 mmと設計されており,鋼製防災壁のダクトブロックとRC製防水壁の硬質ビニル管(呼び径φ75 mm,内径83 mm)の2種類に対して,無理なく設置と取り外しが可能です.止水装置のケーブルへの装着手順は
次のとおりです.①収容ケーブルの外径に合うアダプタをケーブルに装着,②展開した止水装置本体にケーブルを乗せます.止水装置には軸方向に1カ所スリットを設けているため,図6に示すように装置を外周方向に沿って展開することが可能です.次に③止水装置を円筒状のダクト形状にした後,軸方向にスライドさせてダクトに挿入します.止水装置本体とアダプタの分割構造を採用することで,新設ダクトだけでなくす
でにケーブルが布設されているダクトにも対応可能となるため,現在の収容率の高い防災壁においてもフレキシブルに対応できます.今回開発したとう道防災壁における
多条収容止水装置は,2002年度第4四半期にNTTグループ会社に導入が予定されています.
■参考文献(1) 情報流通インフラ研究会:“情報流通インフラを支える通信土木技術,”電気通信協会,初版,pp.105-107,pp.172-177,pp.198-201,2000.
(2) 吉本:“JIS使い方シリーズねじ締結体設計のポイント,”日本規格協会,第1版,pp.159-196,1997.
R&Dホットコーナー
NTT技術ジャーナル 2003.1 77
ダクト�
水圧�
ケーブル�
ゴム応力�
図5 ダクト内断面状況�
ダクト�
図6 適用例と断面状況�
<適用例2>�硬質ビニル管�
(呼び径φ75 mm,�内径83 mm)�
<適用例1>�ダクトブロック�
ケーブル装着手順�
①アダプタ装着� ②装置展開・ケーブル設置� ③ダクト形状�
(左から)瀬川 信博/ 玉井 賀行/ 出原 克也
ケーブル収容条数が限定されていたとう道防災壁部において,本来の機能を損なうことなく多条収容を可能とした止水装置を開発しました.今後も,NTT基盤設備における設備空間の創出と活用による研究開発を進め,事業会社に貢献していきます.
◆問い合わせ先NTTアクセスサービスシステム研究所シビルシステムプロジェクト基盤設備マネジメントグループTEL 0298-68-6210FAX 0298-68-6259E-mail [email protected]