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NTT技術ジャーナル 2016.8 48 IoT Platformの特長 さ ま ざ ま な 業 界 か ら 注 目 を 集 め るIoT(Internet of Things)ですが,例えば日本の製造業で導入しようとす るとセキュリティの課題が大きく立ちはだかることが分 かっています.製造業では生産性や品質向上の技術が競争 力そのものであり,もっとも守らなければならない資源の 1つです.また,サイバー攻撃による産業機器の誤った動 作や停止は社会的リスクにつながります.こういった状況 の中,製造業で利用されている工場内LANなどの通信方 式 はCC-Link,MECHATROLINK,FL-net,PROFIBUS など多岐にわたっているのが現状で,ドイツIndustrie4.0 でのOPC UA(OLE for Process Control Unified Archi- tecture)推進などの動きがあるもののセキュリティを確 保する標準的な方式がありません.とはいえ,標準化を待っ てそれに追従しようと立ち止まっていてはIoTという産業 界の大きな潮流に取り残され事業機会の損失につながりか ねません.このような企業を取り巻く事業環境をかんが み,NTTコ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ズ(NTT Com) で は, 2016年5月より企業のスピーディなIoT導入をエンド ・ ツー ・ エンドで対応する「IoT Platform」の提供を行っ ています. ラインアップ第1弾である「Factoryパッケージ」はプラ イベートクラウド「Enterprise Cloud」とセキュアネットワー クサービス「Arcstar Universal One」をベースにすること で,セキュリティとして求められる機密性,真正性,完全性, 信頼性,可用性といった要件の大部分をカバーしながらも, 移行 ・ 運用コストを抑えたかたちで早期に導入することがで きる点を特長としています(図1 ).Factoryパッケージは Enterprise Cloud,Arcstar Universal Oneに加え通信デバ イス装置をベーシックプランとし,製造業向けアプリケー ションソフトウェアもライセンス提供しています. 「Productパッケージ」は,機器の稼動状況監視やリモー トメンテナンスなどの目的でIoTに取り組もうというお客さ まに向けて,アプリケーションプラットフォーム(AP-PF), Arcstar Universal Oneおよび通信デバイス装置など,必 要な構成要素をSaaS(Software as a Service)型でパッ ケージングし,簡易にかつスピーディにIoTを始められる サービスとして提供しています.Productパッケージはお 客さまがお持ちのさまざまな製品から取得できるセンサ データを通信デバイス装置経由でAP-PFに一元集約するこ とによって,データの一覧化やグラフ描画,位置情報など の可視化を行うものです.また,外部連携機能としてNTT ComのAPIゲートウェイ(Application Programming Inter- face Gateway)からREST APIを提供しており,AP-PF で収集した情報を今後提供していく解析 ・ 分析基盤と連携 させることで,製品の故障予兆把握や製造ラインの生産性 向上への展開につながります. 新たなサービス開発アプローチの取り組み Software Definedな 時 代 に 向 け,IoT推 進 室 に お け る IoT Platformの開発では,APIファーストの考え方に基づ き,プラットフォームを構成するネットワークサービスや クラウド基盤に備わったAPIを活用しアジャイル的なサー ビス開発を進めています.さらに,IoT Platformの本格 サービス提供の前にお客さまのPoC(Proof of Concept: 概念実証)に限定した小規模スペックのトライアルパック を市場に投入し,お客さまからのフィードバックを吸収し て本格サービスに反映する営みを行ってきました. 一方,お客さま側はIoTの本格導入前に,会社の経営課題 などの解決に向けてIoT導入が本当に正しいのか,効果があ るのか,PoCを実施することが一般的です.通常は,セン サを生産現場や機械に取り付けてさまざまなデータを吸い 上げクラウド上で可視化して仮説が正しいかを検証します. IoT推進室では,IoT導入ハードルを下げてニーズの顕在化 f rom NTTコミュニケーションズ お客さまのデジタルトランスフォーメーション をサポートするIoT Platformと今後の展望 NTTコミュニケーションズはグローバルに展開するネットワークサービスやクラウド・データセンタなどを基盤としたセキュ アなIoT(Internet of Things)ソリューションの提供を推進するため,2015年8月に「IoT推進室」を新設しました.ここ ではその取り組みの中で実証実験や「IoTトライアルパック」提供を通じて得た知見を基に開発した「IoT Platform」の特長, および先進的なIoT技術検証について紹介します.

rom NTTコミュニケーションズ · アなIoT(Internet of Things)ソリューションの提供を推進するため,2015年8月に「IoT推進室」を新設しました.ここ

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NTT技術ジャーナル 2016.848

IoT Platformの特長

さ ま ざ ま な 業 界 か ら 注 目 を 集 め るIoT(Internet of Things)ですが,例えば日本の製造業で導入しようとするとセキュリティの課題が大きく立ちはだかることが分かっています.製造業では生産性や品質向上の技術が競争力そのものであり,もっとも守らなければならない資源の1つです.また,サイバー攻撃による産業機器の誤った動作や停止は社会的リスクにつながります.こういった状況の中,製造業で利用されている工場内LANなどの通信方式 はCC-Link, MECHATROLINK, FL-net, PROFIBUSなど多岐にわたっているのが現状で,ドイツIndustrie4.0でのOPC UA(OLE for Process Control Unified Archi-tecture)推進などの動きがあるもののセキュリティを確保する標準的な方式がありません.とはいえ,標準化を待ってそれに追従しようと立ち止まっていてはIoTという産業界の大きな潮流に取り残され事業機会の損失につながりかねません.このような企業を取り巻く事業環境をかんがみ,NTTコ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ズ(NTT Com) で は,2016年5月より企業のスピーディなIoT導入をエンド ・ツー ・ エンドで対応する「IoT Platform」の提供を行っています.

ラインアップ第1弾である「Factoryパッケージ」はプライベートクラウド「Enterprise Cloud」とセキュアネットワークサービス「Arcstar Universal One」をベースにすることで,セキュリティとして求められる機密性,真正性,完全性,信頼性,可用性といった要件の大部分をカバーしながらも,移行 ・ 運用コストを抑えたかたちで早期に導入することができる点を特長としています(図 1).FactoryパッケージはEnterprise Cloud,Arcstar Universal Oneに加え通信デバイス装置をベーシックプランとし,製造業向けアプリケーションソフトウェアもライセンス提供しています.「Productパッケージ」は,機器の稼動状況監視やリモー

トメンテナンスなどの目的でIoTに取り組もうというお客さまに向けて,アプリケーションプラットフォーム(AP-PF),Arcstar Universal Oneおよび通信デバイス装置など,必要な構成要素をSaaS(Software as a Service)型でパッケージングし,簡易にかつスピーディにIoTを始められるサービスとして提供しています.Productパッケージはお客さまがお持ちのさまざまな製品から取得できるセンサデータを通信デバイス装置経由でAP-PFに一元集約することによって,データの一覧化やグラフ描画,位置情報などの可視化を行うものです.また,外部連携機能としてNTT ComのAPIゲートウェイ(Application Programming In ter- face Gateway)からREST APIを提供しており,AP-PFで収集した情報を今後提供していく解析 ・ 分析基盤と連携させることで,製品の故障予兆把握や製造ラインの生産性向上への展開につながります.

新たなサービス開発アプローチの取り組み

Software Definedな時代に向け,IoT推進室におけるIoT Platformの開発では,APIファーストの考え方に基づき,プラットフォームを構成するネットワークサービスやクラウド基盤に備わったAPIを活用しアジャイル的なサービス開発を進めています.さらに,IoT Platformの本格サービス提供の前にお客さまのPoC(Proof of Concept:概念実証)に限定した小規模スペックのトライアルパックを市場に投入し,お客さまからのフィードバックを吸収して本格サービスに反映する営みを行ってきました.

一方,お客さま側はIoTの本格導入前に,会社の経営課題などの解決に向けてIoT導入が本当に正しいのか,効果があるのか,PoCを実施することが一般的です.通常は,センサを生産現場や機械に取り付けてさまざまなデータを吸い上げクラウド上で可視化して仮説が正しいかを検証します.IoT推進室では,IoT導入ハードルを下げてニーズの顕在化

from NTTコミュニケーションズ

お客さまのデジタルトランスフォーメーションをサポートするIoT Platformと今後の展望

NTTコミュニケーションズはグローバルに展開するネットワークサービスやクラウド・データセンタなどを基盤としたセキュアなIoT(Internet of Things)ソリューションの提供を推進するため,2015年8月に「IoT推進室」を新設しました.ここではその取り組みの中で実証実験や「IoTトライアルパック」提供を通じて得た知見を基に開発した「IoT Platform」の特長,および先進的なIoT技術検証について紹介します.

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NTT技術ジャーナル 2016.8 49

を行うべく,パッケージ化された「IoTトライアルパック」を提供しています.さらに,自分たち自身でも社内のカイゼン案件を事例とし「仮説→センサを付けた可視化→仮説検証」といったPoCを実際に行っています.

PoCでは社内のカイゼン案件としてIoTの社内導入を進めています.2016年2月にはインターンの取り組みテーマとして「IoTトライアルパック」にRaspberryPi(小型コンピュータ)と各種センサ(温度センサ,照度センサ,赤外線アレイセンサ)を組み合わせ,オフィスの会議室利用状況の可視化を実施しました.さらに,AP-PFのデータ 取 得APIと, コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ツ ー ル(SlackやTwitter)のAPIとをマッシュアップさせたアプリを内製し,会議室の利用状況をいつでもどこでも確認できるようにしました(図 ₂).

本システムについてはお客さまからも利用要望をいただき,社内導入にとどまらず実案件まで発展させることができました.このお客さまの事例ではRaspberry Piおよびセンサ,内製アプリを試験的に導入し,センサ設置個所や判定ロジックの微調整を行うことで,会議室の利用状況を5分間隔でTwitter上に表示させることができました.内製アプリについては,現在もIoT推進室にて継続的な改良を進めています.

先進的なIoT技術検証

一方でNTT Comでは,通信キャリアの強みを活かした,新たなIoTサービスの創出をめざし検証 ・ 研究開発を進めています.この取り組みの一部として,IoT関連各社との

稼動状況データ

①製造業A社 :本社からリアルタイムで各工場の稼動状況を把握.これにより各工場へのモニタリング要員派遣や,データ抽出・送付の業務を不要に.各工場に対するガバナンスと支援体制も強化.

②機器メーカB社 :A社の工場に納品した産業用ロボットの状況を,自社にいながらモニタリング.リモートメンテナンスを可能にすることで,サポートの速度と質を革新.

迅速な・計画変更指示・トラブル対応支援・予防保全  など

製造業A社

機器メーカB社

リモートによる・故障対応・ファームウェア更新・予防保全  など

リアルタイムモニタリング

IoT Platform

A社 各地の工場

稼動状況データB社製ロボットアーム

② ①

図 ₁  IoTPlatformFactoryパッケージの活用例

(a) Slack (b) Twitter

図 ₂  会議室利用状況見える化システム

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共同検証「グローバルクラウドIoTテストベッド」(IoTテストベッド)および「AI(人工知能)を用いたデータ活用」を進めています.■グローバルクラウドIoTテストベッド

IoTの活用には世界中に散らばる膨大なデータを確実に収集し,効率良く解析することが必要です.そのためには,ネットワークにつながる各種デバイス,データをやり取りする通信機器,データを運ぶネットワークとクラウド基盤,データを蓄積するデータベース,情報分析などを行う

アプリケーションソフトウェアのそれぞれに,より高度な先進技術を搭載し,それらを組み合わせて活用していくことが求められます.

本IoTテストベッドでは,各社の最新の技術 ・ 製品 ・ サービスを組み合わせて実装に取り組み,相互接続性,動作安定性,処理性能,データ解析精度,運用性などを評価検証し,より使いやすく安心 ・ 安全なIoTサービスの実現に向けた技術開発,サービス開発を加速していきます(図 ₃).

SDN

市中製品各社が提供する製品・技術※NTT Comが無料提供するサービス

センサデバイス等

oneM2M準拠基盤

「NTT未来ねっと研究所」

取り組み⑤

PLC

Kepware社製サーバアプリケーション

「NTT Com」

取り組み③

センサデバイス等

イノテック社製ゲートウェイ装置(インテル社製IoT Gateway soft搭載)

「インテル」

取り組み③

センサデバイス等

株式会社たけびし社製OPC UA変換ゲートウェイ

「たけびし」

取り組み①

光回線接続設置場所:NTT Com

センサデバイス等

ロギングWebコンポーネント+リモートI/O(無線,少配線)

「MSYSTEM」

取り組み⑥

光回線接続設置場所:エム・システム技研

光回線接続設置場所:NTT Com

光回線接続設置場所:インテル

光回線接続設置場所:たけびし

Arcstar Universal One※

HTTP(REST)MOTT

oneM2M準拠基盤

取り組み⑤「NTT未来ねっと研究所」

ネットワーク制御基盤

enebular(API制御基盤)

取り組み④

Kepware社製クライアントアプリケーション

取り組み③

MQTT

リアルタイムメッセージ受信

リアルタイム1次解析

取り組み②「日本IBM」

リアルタイムメッセージ受信

リアルタイム1次解析/見える化

取り組み②「日本オラクル」

OPC UAクライアント

取り組み①

Enterprise Cloud※

①プロトコル変換ゲートウェイを用いたLANとWANの接続テスト・株式会社たけびし

②多拠点大量データの伝送およびリアルタイム処理性能テスト・日本IBM株式会社・日本オラクル株式会社

③エッジコンピューティング技術の実装テスト・イノテック株式会社・インテル株式会社・株式会社関東エルエンジニアリング・シーメンス株式会社・シスコシステムズ合同会社・ネットワンシステムズ株式会社・ネットワンパートナーズ株式会社

④IoTサービスの開発運用業務効率化に向けた各種APIを活用する開発手法の検証・株式会社ウフル

⑤国際標準「oneM2M」に準拠したIoT/M2M基盤技術の検証・ NTT未来ねっと研究所

⑥リモート管理・制御技術の実装テスト・株式会社エム・システム技研

HTTP(REST)

Cisco社製スイッチ

図 ₃  IoTテストベッドの取り組みおよび参加企業

NTTコミュニケーションズfrom

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NTT技術ジャーナル 2016.8 51

■AIを用いたデータ活用IoT機器から収集した多種多様かつ膨大なデータから,

お客さまが必要とする価値(故障予知,不審者検知,運転における危険検知など)を抽出するため,IoTデータ向けAI(「時系列データ」「多種のデータ」に対応可能なディープラーニング*)の実用化に取り組んでいます(図 4).

従来の機械学習では,適用領域ごとの専門家のノウハウを用いた事前処理を行う必要がありましたが,ディープラーニングではこの事前処理が不要であるため,従来,機械学習の適用が進んでいなかったさまざまな分野への適用が可能となります.また,画像認識や音声認識などにおいて人の能力を凌駕する結果を示していることから,他の分野においても,今後,人を超える能力を発揮することが期待されています.

今後は,さらに多くの分野の課題を解決するディープラーニングを開発し,さまざまな分野のお客さまの課題解決に取り組んでいく予定です.

NTT Comでは,今後さらにIoT関連各社 ・ 業界団体 ・ 研究機関と連携 ・ 協業を強化し,海外拠点との接続や,IoT機器の認識 ・ 認証やデータ改ざん防止などのセキュリティマネジメント技術に関する研究開発を進めていきます.

今後の展開

お客さまのIoT活用は今後ますます本格化し,グローバルレベルで拡大していきます.また,さまざまなデバイス ・製品から収集されるセンサデータは多岐にわたり,生体情報やお客さま事業にかかわる秘匿性の高い情報の扱いも始まっています.こうした背景を踏まえ,NTT Comはグローバル ・ セキュア ・ ワンストップを軸に,196拠点以上で展開するネットワークサービスや140拠点以上のデータセンタ拠点,クラウドサービス,データ収集 ・ 分析プラットフォームなど,IoT導入に必要な構成要素をエンド ・ ツー ・エンドで提供していきます.さらにはグローバルクラウドIoTテストベッドから創られた協業各社とのコラボレーションサービスや,AIなどの最新技術を活用し収集 ・ 蓄積したデータの分析や映像解析などによる付加価値も組み合わせることで,お客さまのデジタルトランスフォーメーションに貢献していきます.

◆問い合わせ先NTTコミュニケーションズ 経営企画部 IoT推進室E-mail iot-info ntt.com

* ディープラーニング:脳神経構造を模倣した,多層構造のニューラルネットワーク.抽象的なデータの表現を獲得することができ,画像認識,音声認識などの分野で,従来技術を大きく超える性能を持つことが確認されています.

Mobility向けディープラーニング

Factory向けディープラーニング

映像向けディープラーニング

IoTデバイス

IoT基盤

データ活用API分野別ディープラーニング

お客さま …

運輸業製造業警備業

IoTデータ収集・蓄積

図 4  AI実用化に向けた取り組みイメージ