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NTT技術ジャーナル 2016.2 54 OpenStack NTTコミュニケーションズ(NTT Com)では現在クラ ウドサービスとしてEnterprise Cloud (1) や,Cloud n(2) を提 供していますが,これらの基盤としてOpenStackを利用 しています.OpenStackはクラウドサービスの基盤を構築 するオープンソースソフトウェア(OSS)としてソース コードが公開され,無償で利用することができます. OpenStackは仮想マシンやコンテナを管理する機能や, ネットワークを制御する機能など,コンポーネントと呼ば れるさまざまな機能から構成されており,利用者は自分の サービスに合わせて必要なコンポーネントを組み合わせる ことで,目的に合ったクラウドサービスを構築することが できます.OpenStackの利用者にはCERNやWalmartな どさまざまな企業・団体が名を連ねており,世界中で OpenStackを活用 ・ 運用した事例が報告されています. また,OpenStackの開発には世界中の開発者が参加して おり,日々,新規機能の開発や既存機能の改善が行われて います. エンタープライズへのOpenStackの 採用 NTT Comでは,お客さまのICT環境を最適化し,経営 改革に貢献することを目的とした事業ビジョン「Global Cloud Vision(GCV)」のもと,革新的なサービスの創出 に取り組んでおり,近年のサービス開発では,積極的に OSSの活用を進めています.OSSではイノベーションが 起こりやすく,革新的なサービスの創出が期待できると考 えているためです.中でも,OpenStackはNTT Comの クラウド戦略の中で重要なOSSであると位置付け,後述 するとおり,開発コミュニティにも積極的にかかわってい ます. NTT ComのOpenStackの取り組みは,約3年前,VPN (Virtual Private Network)接続が可能なVPC(Virtual Private Cloud)によるセキュアなクラウド環境を提供す るところから始まりました.当時,OpenStackは商用化 に必要な機能が十分備わっていたとはいえず,OpenStack を使ったパブリッククラウドサービスを提供する事業者は 少なかったのですが,「OpenStackコミュニティの盛り 上がりによる将来性の期待」「OSSはコンポーネント単位 (コンピュート,ストレージ,ネットワーク等の機能単位) であり,自由に組み合わせ可能なフレームワークで柔軟な 設 計 が 可 能 」「 各 コ ン ポ ー ネ ン ト はAPI(Application Programming Interface)で連携可能」という点を大き く評価し,さらにNTTソフトウェアイノベーションセン タと連携する中で,作成リソースの制限,HA機能(ホス ト故障時に他ホストで自動復旧し,高可用性を実現する仕 組み)など商用化に必要な機能を実装できる見通しが立っ たため,OpenStackの採用に至りました.なお,NTT研 究所との詳細な取り組みについては,本誌2016年1月号 42頁「挑戦する研究者たち」をご覧ください. これにより,2013年10月,日本で初めてパブリック クラウドサービスのコアソフトウェアとしてOpenStack を採用したクラウドサービスの提供を開始しました.その 後,本サービスはお客さまのシステム基盤としても安定し て稼働しており,竹中工務店様の「次世代建物管理シス テムプラットフォーム」にも活用されています (3) 図1 ). さらに企業の基幹システムに適したクラウドサービス 「Enterprise Cloud」 の 次 世 代 ク ラ ウ ド 基 盤 で あ る 「Enterprise Cloud 2.0(ECL2.0)」においてもOpenStack を 採 用 し て い ま す.ECL2.0で はOpenStack,SDN (Software Defined Networking),高品質を求めるお客 さまに対応した独自技術を組み合わせることで,「専用物 理 サ ー バ(ベ ア メ タ ル)」「専 有 型 ク ラ ウ ド(Hosted Private Cloud)」「共有型クラウド(Public Cloud)」サー f rom NTTコミュニケーションズ NTTコミュニケーションズにおける OpenStackへの取り組み NTTコミュニケーションズではクラウドサービスの基盤としてOpenStackを活用しています.また,OpenStackへのコン トリビュートや,OpenStack Foundationへのコーポレートスポンサー加盟,2015年に東京で開催されたOpenStack Summitにおけるプラチナスポンサー,ネットワーク回線提供,発表など,OpenStackコミュニティに対して積極的な働きか けを行っています.

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NTT技術ジャーナル 2016.254

OpenStack

NTTコミュニケーションズ(NTT Com)では現在クラウドサービスとしてEnterprise Cloud(1)や,Cloudn(2)を提供していますが,これらの基盤としてOpenStackを利用しています.OpenStackはクラウドサービスの基盤を構築するオープンソースソフトウェア(OSS)としてソースコードが公開され,無償で利用することができます.OpenStackは仮想マシンやコンテナを管理する機能や,ネットワークを制御する機能など,コンポーネントと呼ばれるさまざまな機能から構成されており,利用者は自分のサービスに合わせて必要なコンポーネントを組み合わせることで,目的に合ったクラウドサービスを構築することができます.OpenStackの利用者にはCERNやWalmartなどさまざまな企業 ・ 団体が名を連ねており,世界中でOpenStackを活用 ・ 運用した事例が報告されています.また,OpenStackの開発には世界中の開発者が参加しており,日々,新規機能の開発や既存機能の改善が行われています.

エンタープライズへのOpenStackの採用

NTT Comでは,お客さまのICT環境を最適化し,経営改革に貢献することを目的とした事業ビジョン「Global Cloud Vision(GCV)」のもと,革新的なサービスの創出に取り組んでおり,近年のサービス開発では,積極的にOSSの活用を進めています.OSSではイノベーションが起こりやすく,革新的なサービスの創出が期待できると考えているためです.中でも,OpenStackはNTT Comのクラウド戦略の中で重要なOSSであると位置付け,後述するとおり,開発コミュニティにも積極的にかかわっています.

NTT ComのOpenStackの取り組みは,約3年前,VPN(Virtual Private Network)接続が可能なVPC(Virtual Private Cloud)によるセキュアなクラウド環境を提供するところから始まりました.当時,OpenStackは商用化に必要な機能が十分備わっていたとはいえず,OpenStackを使ったパブリッククラウドサービスを提供する事業者は少なかったのですが,「OpenStackコミュニティの盛り上がりによる将来性の期待」「OSSはコンポーネント単位

(コンピュート,ストレージ,ネットワーク等の機能単位)であり,自由に組み合わせ可能なフレームワークで柔軟な設 計 が 可 能 」「 各 コ ン ポ ー ネ ン ト はAPI(Application Programming Interface)で連携可能」という点を大きく評価し,さらにNTTソフトウェアイノベーションセンタと連携する中で,作成リソースの制限,HA機能(ホスト故障時に他ホストで自動復旧し,高可用性を実現する仕組み)など商用化に必要な機能を実装できる見通しが立ったため,OpenStackの採用に至りました.なお,NTT研究所との詳細な取り組みについては,本誌2016年1月号42頁「挑戦する研究者たち」をご覧ください.

これにより,2013年10月,日本で初めてパブリッククラウドサービスのコアソフトウェアとしてOpenStackを採用したクラウドサービスの提供を開始しました.その後,本サービスはお客さまのシステム基盤としても安定して稼働しており,竹中工務店様の「次世代建物管理システムプラットフォーム」にも活用されています(3)(図 1).

さらに企業の基幹システムに適したクラウドサービス「Enterprise Cloud」 の 次 世 代 ク ラ ウ ド 基 盤 で あ る「Enterprise Cloud 2.0(ECL2.0)」においてもOpenStackを 採 用 し て い ま す.ECL2.0で はOpenStack,SDN

(Software Defined Networking),高品質を求めるお客さまに対応した独自技術を組み合わせることで,「専用物理 サ ー バ( ベ ア メ タ ル )」「 専 有 型 ク ラ ウ ド(Hosted Private Cloud)」「共有型クラウド(Public Cloud)」サー

from NTTコミュニケーションズ

NTTコミュニケーションズにおけるOpenStackへの取り組み

NTTコミュニケーションズではクラウドサービスの基盤としてOpenStackを活用しています.また,OpenStackへのコントリビュートや,OpenStack Foundationへのコーポレートスポンサー加盟,2015年に東京で開催されたOpenStack Summitにおけるプラチナスポンサー,ネットワーク回線提供,発表など,OpenStackコミュニティに対して積極的な働きかけを行っています.

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NTT技術ジャーナル 2016.2 55

ビ ス を 一 元 的 に 提 供 可 能 と な り ま し た. こ の 結 果,ECL2.0は,安定稼働,統合システム,高セキュリティ,ITガバナンスを求める“Traditional IT” と,技術イノベーション,素早い機能拡充を求める “Cloud-Native IT” の両 方 の ニ ー ズ に 対 応 可 能 で す. さ ら に,「Cloud Management Platform」により,NTT Comのクラウドサービスだけでなく,他社クラウドを含め一元的な管理を実現し,お客さまのICT環境のさらなる最適化に貢献します(図 ₂).これにより,今までクラウド移行が困難であった既存運用のサーバ環境をクラウドへ移行しやすくし,かつAPI連携などによる高い拡張性を実現します.このECL2.0を世界12カ国(米国,英国,シンガポールなど)に展開し,それぞれの拠点をNTT Comの高品質かつセキュアな回線で接続し,SDNによる柔軟な設計を可能とすることで,「キャリアクラウド」ならではのグローバルシームレスなクラウドサービスを提供していきます.

コミュニティへの貢献

NTT ComではOpenStackを使う利用者の立場だけでなく,OpenStackへの新機能提案やバグフィックス,

コ ー ドレビュー,日本OpenStackユーザ会への加盟,OpenStack Foundation*1へのコーポレートスポンサー加盟など,OpenStackとそのコミュニティに対する積極的な貢献も行っています.また,OpenStack Summit*2

やOperators Meetupなどのイベントにも参加し,これらのイベントで得た知見をNTTグループ内に共有する取り組みも行っており,NTTグループ内のOpenStack関係者との連携も行っています.こうした弊社を含むNTTグループのOpenStackに対する取り組みがコミュニティで評価され,2015年10月に東京で開催されたOpenStack Summitでは,OpenStackを利用してコミュニティに貢献しながら事業を推進しているユーザとしてNTTグループが “OpenStack Superuser Awards” の受賞に至りました(写真).また,同イベントにおいてNTT Comは会場のトランジット提供や,プラチナスポンサーとしての

*1 OpenStack Foundation:OpenStackの開発,管理,普及を促進するための非営利団体.

*2 OpenStack Summit:OpenStackのリリースに合わせて,半年に 1 度開催されるイベントで,Keynoteやユーザ事例紹介などが発表されるカンファレンスと,次のリリースに向けた開発について開発者たちが話し合うデザインサミット,パートナ企業の出展展示であるエキスポが行われます.

NTTコミュニケーションズ

・リアルタイムエネルギー モニタリング・デマンドコントロール・異常アラート通知 など次世代

建物管理システム

プラットフォーム

クラウド上で提供する各種サービス

クラウドプラットフォーム

VPNネットワーク

ゲートウェイ(ren.Gateway)

ビル設備

MQTT,IEEE1888など

A社

・最適設備制御 など

MQTTなど

B社

・エンタテインメント系  アプリ など

MQTTなど

C社

・遠隔監視 など

MQTTなど

D社

・デマンド予測 など

MQTTなど

クラウドプラットフォーム

VPNネットワーク

図 1 竹中工務店様「次世代建物管理システムプラットフォーム」による導入事例

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NTT技術ジャーナル 2016.256

ブース出展,スポンサー発表,公募枠発表を行いました.

OpenStack Summitでの 発表内容紹介

■スポンサーセッションス ポ ン サ ー セ ッ シ ョ ン で はNFV, SDN, Enterprise

Cloudなど4つの発表が行われました.その中の1つである『Automated Deployment & Benchmarking with Chef, Cobbler and Rally for OpenStack』というタイ

トルでOpenStackのデプロイとベンチマークの自動化について発表した内容を紹介します.OpenStackは各コンポーネントが複数のサービスで構築されているため,手作業でOpenStackをデプロイするには時間やコストがかかってしまいます.そのため,OpenStackの運用者たちはChefやPuppet,Ansibleといった構成管理ソフトウェアを用いて,自動的にOpenStack環境がデプロイできるようにすることで,デプロイに時間やコストがかからないようにしています.本発表では,そうした構成管理ソフトウェアを用いて構築したOpenStack環境に対して,サービス提供を行ううえで十分な機能や性能が担保されているかを確認するため,“Rally” というOpenStackのベンチマークを行うツールと,“Tempest” というOpenStackのAPIを試験するツールを用いて,性能試験とAPI機能試験を行いました.デプロイした環境に問題がないかを確認し,問題があった際は修正を行ったうえで再度デプロイを行うといった,デプロイから試験,修正,再デプロイまでの一連のサイクル(図 3)を自動化した取り組みについて発表を行いました.■公募セッション

公募セッションでは,『Fluentd vs. Logstash for Open-Stack Log Management』というタイトルで,運用者の立場からOpenStackのログを収集する方式についての発表を行いました.OpenStackは複数のコンポーネントから構成されており,それぞれのコンポーネントもまた数個のプロセスから構成されているので,運用者は各プロセス

SDN

Traditional ITCloud-Native IT

SDN

図 2  Enterprise Cloud 2.0のサービスイメージ

Cloud Management Platform

Public Cloud [共有型]

仮想サーバ

OpenStack

Hosted Private Cloud [専有型]EnterpriseCloud

(既存クラウド)

他事業者クラウド

VMware®vSpfere

Microsoft®Hyper-V

ベアメタル環境

ベアメタルサーバ

マルチハイパーバイザ対応仮想化環境

MicrosoftAzure

Amazon WebServicesTM

Enterprise Cloud 2.0

写真 OpenStack Superuser Awards 受賞時の様子

NTTコミュニケーションズfrom

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NTT技術ジャーナル 2016.2 57

から出力される多種多量のログを扱わなければなりません.各ホストに分散しているログの内容を集約する仕組みとしてOpenStackはsyslogをサポートしていますが,近年ではより高機能で多数の入力元と出力先をサポートするソフトウェアとしてFluentd*3やLogstash*4への注目がOpenStack運用者の間で高まりつつありました.そこでNTT ComではFluentdとLogstashを用いたOpenStack環境におけるログ収集方式の比較検討を行い,各方式のメリット ・ デメリットや可用性の高いログ収集を実現するために留意すべき点について検証を行いました.また,検証

を進める中で多種にわたるプレインテキスト形式のログから時刻やログレベルといった情報を抽出することに多大な手間が必要となることが判明したため,“oslo_log” というOpneStackの各コンポーネントでログ出力のため利用されているライブラリを拡張して,FluentdやLogstashに対して構造化されたデータを直接出力できるようにする機能追加をコミュニティに対して提案しました(図 4).

今後の展開

NTT Comは,「グローバルレベルで統一されたICT環境」を「安全 ・ 安心」に,しかも「低コスト,柔軟,オンデマンド」で提供し,お客さまの「意思決定の迅速化」「新規事業の創出」「生産性の向上」に寄与することを目標とするGCVの達成を目指しながら,OpenStackを活用することで世界中のお客さまに感動を与えられるクラウドサービスを提供していきます.

■参考文献(1) http://www.ntt.com/bhec/(2) http://www.ntt.com/cloudn/(3) http://www.ntt.com/release/monthNEWS/detail/20141106.html

◆問い合わせ先NTTコミュニケーションズ 技術開発部 クラウドコアTU

TEL 050-3813-6155FAX 03-5439-0485E-mail cloud-ia ntt.com

*3 Fluentd:Treasure Data社がOSSとして公開しているデータコレクタ.*4 Logstash:Elastic社がOSSとして公開しているログコレクタ.

図 3  自動化されたデプロイから試験,修正,再デプロイまでの一連のサイクル

デプロイ

Chef

機能試験

Tempest

ベンチマーク

Rally

出力結果

Rally

修正

GithubEnterprise

Cobbler

手作業手作業評価

自動化 自動化

InfluxdbGrafanaFluentd

図 4  構造化されたデータを直接出力できるようにする   機能

Our BP in oslo_log: FluentFormatter{“hostname”: “allinone-vivid”,“extra”: {“project”: “unknown”, “version”: “unknown”},“process_name”: “MainProcess”,“module”: “wsgi”,“message”: “(4132) wsgi starting up on http://0.0.0.0:8774/”,“filename”: “wsgi. py”,“name”: “nova.osapi_compute.wsgi.server”,“level”: “INFO”,“traceback”: null,“funcname”: “server”,“time”: “2015-10-15 10:09:12,255”}

Don’t need to parse!