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20 シンポジウム 1  心筋症と炎症 S-1-01 抗がん剤誘発性心筋障害と炎症 田尻 和子、家田 真樹 筑波大学医学医療系 循環器内科 免疫チェックポイント阻害剤を用いたがん免疫治療は、 様々な悪性腫瘍で有効性が示されており、今後さらに使用 が拡大することが見込まれている。免疫チェックポイント 分子(CTLA-4やPD-1、PD-L1)は抑制性共シグナルを伝 達することによって免疫細胞の活性化を抑制し、免疫応答 の恒常性を維持している分子群である。免疫チェックポイ ント阻害剤より抗腫瘍免疫が活性化される一方、自己免疫 の賦活化によると考えられる全身の様々な臓器に生じる免 疫関連有害事象が問題となっている。心臓障害の頻度は 1%程度とされているが、診断に至っていないケースも多 く、不顕性のものも含めると実際にはもっと多いものと予 想される。臨床像は多彩で、心筋炎、たこつぼ型心筋症、 伝導ブロック、致死性不整脈、心膜炎、心タンポナーデ等 の報告がある。心筋炎症例では、心筋生検でマクロファー ジとCD8陽性T細胞を主体とした炎症細胞浸潤を認める例 が多い。今後、がん免疫療法はますます発展していくこと が予想され、それに伴い未知の心臓合併症の発症が危惧さ れる。腫瘍医との綿密な連携のもと、がん診療チームの一 員として循環器内科医が果たすべき役割も増していくこと が予想される。 S-1-02 リンパ管増生と心筋リモデリング 清水 優樹 名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学 リンパ管は血管と同様に全身に広く存在する脈管であり、 その役割は、蛋白質や免疫細胞等を含む“リンパ液”を組織 間質からドレナージし、リンパ節を経由しながら静脈循環 に戻す回路として、組織間隙のホメオスターシスの維持や、 免疫の監視機構としての重要な働きを担う器官である。し かしながら、脆弱な脈管であり、同定困難であったことな どにから、従来より「血管研究」に比して「リンパ管研究」 はこれまで大きく遅れをとってきた。 2000年代初頭のLYVE1、Podoplanin、Prox1などの特異的 マーカーの発見や遺伝子改変マウスの解析研究が、リンパ 管研究のブレークスルーとなったが、以降も研究面では主 に「腫瘍分野」あるいは「免疫分野」において盛んであり「心 臓リンパ管の意義」は長年、注目されてこなかった。また、 臨床においても、心臓リンパ管システムを標的とした心臓 病治療は皆無である。 未だ、心臓リンパ管の生理的意義についての全容は未解明 であるが、近年、心臓病進展と心臓リンパ管の連関に関し ての知見が集まりつつある。本シンポジウムでは、我々の グループからのエビデンスを中心に、最近の「心臓リンパ 管研究」について報告したい。 S-1-03 心臓サルコイドーシスにおける免疫 応答機構と病理組織診断への応用 永井 利幸、安斉 俊久 北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学教室 心臓サルコイドーシス(心サ症)診断における心筋生検の 感度は30%以下である。近年、免疫担当細胞である樹状細 胞(DC)やマクロファージ(MΦ)などがサ症の肉芽腫 形成に関与していることが報告されている。我々は、心サ 症における免疫応答機構に着目し、心筋組織に浸潤する免 疫応答細胞を詳細に検討することで心サ症組織診断精度を 改善しうるか検討した。心サ症確診連続95例と心サ症以外 の心筋症50例で比較検討した。まず、組織診断群おいて、 CD68陽性全MΦは、肉芽腫コアに集簇しており、周囲に CD3陽性Tリンパ球の浸潤を認めた。一方、CD209陽性DC はTリンパ球層の周囲に多数浸潤を認めたが、CD163陽性 M2MΦの浸潤は軽度であった。さらに、肉芽腫の有無や 各種診断基準にかかわらず、心サ症確診例の非肉芽腫組織 におけるDCと全MΦの浸潤は対照群と比較して有意に多 く、M2MΦの浸潤は少なかった。対照群との比較におい て、非肉芽腫組織に浸潤するM2/全MΦ比の減少かつDC 数の増加による心サ症の診断感度は46.2 ~ 65.4%、特異度 は100%であった。 【結論】非肉芽腫組織に浸潤するDCとMΦフェノタイプは 心サ症診断における新たな病理組織学的マーカーになりう ることが示唆された。 S-1-04 血中エクソソーム内包マイクロRNA の発現解析による心サルコイドーシ スの新規バイオマーカーの探索 渡邉 亮 1 、前嶋 康浩 2 、中岡 隆志 3 、磯部 光章 2,4 田中 敏博 1 1 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 疾患多様性遺伝学、 2 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 循環制御内科学、 3 東京女子医科大学 東医療センター 内科、 4 榊原記念病院 心臓でのサルコイドーシスの発症(心サルコイドーシス) は予後不良であり、その診断は困難である。細胞より血中 に分泌される細胞外小胞エクソソームには多種多様なマイ クロRNA(miRNA)が含まれており、疾患のバイオマーカー としての有用性が期待されている。本研究では心サルコイ ドーシスのバイオマーカーの同定を目的として、患者の血 中エクソソームにおいて特異的に内包されているmiRNA の探索を行った。心サルコイドーシスの診断を受けた患者 (n=12)および非罹患者(n=10)の血清からエクソソーム を単離した。単離したエクソソームからRNAを抽出し、次 世代シークエンサーを用いて抽出したエクソソームRNA の塩基配列を解読した。解読された塩基配列の断片データ (リード)をヒトゲノムの参照配列と照合させることでその 由来であるmiRNAを識別した。患者群において検出された リード数が多かったmiRNAについて、エクソソーム中での 発現量をリアルタイム定量PCR法にて確認した。結果、3種 類のmiRNAの発現が患者群の血中エクソソームで有意に増 加していた。本研究により、特定のエクソソームmiRNAが 心サルコイドーシスのバイオマーカーとして有用である可 能性が示された。

S-1-01 抗がん剤誘発性心筋障害と炎症 S-1-02 リン …...シンポジウム 1 心筋症と炎症 S-1-01 抗がん剤誘発性心筋障害と炎症 田尻 和子、家田

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20

プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

シンポジウム

シンポジウム 1  心筋症と炎症

S-1-01 抗がん剤誘発性心筋障害と炎症田尻 和子、家田 真樹筑波大学医学医療系 循環器内科

免疫チェックポイント阻害剤を用いたがん免疫治療は、様々な悪性腫瘍で有効性が示されており、今後さらに使用が拡大することが見込まれている。免疫チェックポイント分子(CTLA-4やPD-1、PD-L1)は抑制性共シグナルを伝達することによって免疫細胞の活性化を抑制し、免疫応答の恒常性を維持している分子群である。免疫チェックポイント阻害剤より抗腫瘍免疫が活性化される一方、自己免疫の賦活化によると考えられる全身の様々な臓器に生じる免疫関連有害事象が問題となっている。心臓障害の頻度は1%程度とされているが、診断に至っていないケースも多く、不顕性のものも含めると実際にはもっと多いものと予想される。臨床像は多彩で、心筋炎、たこつぼ型心筋症、伝導ブロック、致死性不整脈、心膜炎、心タンポナーデ等の報告がある。心筋炎症例では、心筋生検でマクロファージとCD8陽性T細胞を主体とした炎症細胞浸潤を認める例が多い。今後、がん免疫療法はますます発展していくことが予想され、それに伴い未知の心臓合併症の発症が危惧される。腫瘍医との綿密な連携のもと、がん診療チームの一員として循環器内科医が果たすべき役割も増していくことが予想される。

S-1-02 リンパ管増生と心筋リモデリング清水 優樹名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学

リンパ管は血管と同様に全身に広く存在する脈管であり、その役割は、蛋白質や免疫細胞等を含む“リンパ液”を組織間質からドレナージし、リンパ節を経由しながら静脈循環に戻す回路として、組織間隙のホメオスターシスの維持や、免疫の監視機構としての重要な働きを担う器官である。しかしながら、脆弱な脈管であり、同定困難であったことなどにから、従来より「血管研究」に比して「リンパ管研究」はこれまで大きく遅れをとってきた。2000年代初頭のLYVE1、Podoplanin、Prox1などの特異的マーカーの発見や遺伝子改変マウスの解析研究が、リンパ管研究のブレークスルーとなったが、以降も研究面では主に「腫瘍分野」あるいは「免疫分野」において盛んであり「心臓リンパ管の意義」は長年、注目されてこなかった。また、臨床においても、心臓リンパ管システムを標的とした心臓病治療は皆無である。未だ、心臓リンパ管の生理的意義についての全容は未解明であるが、近年、心臓病進展と心臓リンパ管の連関に関しての知見が集まりつつある。本シンポジウムでは、我々のグループからのエビデンスを中心に、最近の「心臓リンパ管研究」について報告したい。

S-1-03 心臓サルコイドーシスにおける免疫応答機構と病理組織診断への応用

永井 利幸、安斉 俊久北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学教室

心臓サルコイドーシス(心サ症)診断における心筋生検の感度は30%以下である。近年、免疫担当細胞である樹状細胞(DC)やマクロファージ(MΦ)などがサ症の肉芽腫形成に関与していることが報告されている。我々は、心サ症における免疫応答機構に着目し、心筋組織に浸潤する免疫応答細胞を詳細に検討することで心サ症組織診断精度を改善しうるか検討した。心サ症確診連続95例と心サ症以外の心筋症50例で比較検討した。まず、組織診断群おいて、CD68陽性全MΦは、肉芽腫コアに集簇しており、周囲にCD3陽性Tリンパ球の浸潤を認めた。一方、CD209陽性DCはTリンパ球層の周囲に多数浸潤を認めたが、CD163陽性M2MΦの浸潤は軽度であった。さらに、肉芽腫の有無や各種診断基準にかかわらず、心サ症確診例の非肉芽腫組織におけるDCと全MΦの浸潤は対照群と比較して有意に多く、M2MΦの浸潤は少なかった。対照群との比較において、非肉芽腫組織に浸潤するM2/全MΦ比の減少かつDC数の増加による心サ症の診断感度は46.2 ~ 65.4%、特異度は100%であった。

【結論】非肉芽腫組織に浸潤するDCとMΦフェノタイプは心サ症診断における新たな病理組織学的マーカーになりうることが示唆された。

S-1-04 血中エクソソーム内包マイクロRNAの発現解析による心サルコイドーシスの新規バイオマーカーの探索

渡邉 亮1、前嶋 康浩2、中岡 隆志3、磯部 光章2,4、田中 敏博1

1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 疾患多様性遺伝学、 2東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 循環制御内科学、3東京女子医科大学 東医療センター 内科、4榊原記念病院

心臓でのサルコイドーシスの発症(心サルコイドーシス)は予後不良であり、その診断は困難である。細胞より血中に分泌される細胞外小胞エクソソームには多種多様なマイクロRNA(miRNA)が含まれており、疾患のバイオマーカーとしての有用性が期待されている。本研究では心サルコイドーシスのバイオマーカーの同定を目的として、患者の血中エクソソームにおいて特異的に内包されているmiRNAの探索を行った。心サルコイドーシスの診断を受けた患者

(n=12)および非罹患者(n=10)の血清からエクソソームを単離した。単離したエクソソームからRNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いて抽出したエクソソームRNAの塩基配列を解読した。解読された塩基配列の断片データ

(リード)をヒトゲノムの参照配列と照合させることでその由来であるmiRNAを識別した。患者群において検出されたリード数が多かったmiRNAについて、エクソソーム中での発現量をリアルタイム定量PCR法にて確認した。結果、3種類のmiRNAの発現が患者群の血中エクソソームで有意に増加していた。本研究により、特定のエクソソームmiRNAが心サルコイドーシスのバイオマーカーとして有用である可能性が示された。

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プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

シンポジウム 2  二次性心筋症アップデート

S-2-01 心臓サルコイドーシス診療の現状と課題矢崎 善一1、能見 英智1、土屋 ひろみ1、木村 光1、市川 聡裕2

1佐久総合病院佐久医療センター 循環器内科、2佐久総合病院佐久医療センター 放射線診断科

心臓サルコイドーシスに関する診療ガイドラインが発表されて2年あまりがたつ。このガイドラインの特徴は18F-FDGの心臓への異常集積が主徴候として採用されたことと心臓限局性サルコイドーシスの診断指針が明示されたことにある。本邦と欧米での診断基準に関しては考え方が異なっていることに注意が必要である。組織所見を必須とする欧米と臨床診断も許容される本邦では心臓限局性サルコイドーシスに対する考え方も異なっている。本症に対する18F-FDG PET検査の手引きも改訂されたが心臓限局性サルコイドーシスの臨床診断には18F-FDGの集積を慎重に検討する必要がある。最近、カナダから新たなステロイド治療と経過観察のプロトコールが提唱されており、現在本邦も参加して国際共同前向き試験が計画されている。本症の病因としてPropionibacterium acnesが注目を集めてきた。様々なバイオマーカーとともに診断や治療に対する応用が考えられているが確立されたとはいえない。一方、デバイス治療、僧帽弁手術、心臓移植などの非薬物治療に関するまとまった報告は少なく今後多数例で検討する必要がある。今回、心臓サルコイドーシス診療の現状と課題について報告する。

シンポジウム

S-2-02 心アミロイドーシスの最新治療小山 潤丸子中央病院 内科

心アミロイドーシスは幾つかの全身性アミロイドーシスにおける心臓合併症である。心臓に病変を来す主要なアミロイドーシスは以下の通りである。1)ALアミロイドーシス 2)トランスサイレチン関連アミロイドーシス 2)-a)変異トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTRv) 2)-b)野生型トランスサイレチンアミロイドーシス (ATTRwt) 3) 二次性アミロイドーシス。心病変は主な合併症で、アミロイドーシスのタイプにより重症度は異なる。ALアミロイドーシスは自己末梢血幹細胞移植を併用したメルファラン大量投与療法が米国では主に用いられる。心病変がある患者や複数臓器が侵されている例ではリスクが高い。希少疾患であるためにrandomized control trialによるエビデンスがない。近年、プロテアゾーム阻害薬や免疫調整薬が出現し、高い寛解率を得られるようになった。重合アミロイドを標的とした抗体療法が開発中である。ATTRvに関しては、肝移植や、Diflunisal、Tafamidisと言ったトランスサイレチン4量体を安定化させる薬剤の有効性が確認されている。Gene silencing 療法も治験が進行している。ATTRwtに対するTafamidisの有効性が報告されており、臨床応用が期待される。

S-2-03 ファブリー病をめぐる最近の話題肥後 太基、筒井 裕之九州大学大学院医学研究院 循環器内科学

ファブリー病はαガラクトシダーゼの活性低下や欠損により、ceramide trihexoside(Gb3)の蓄積により臓器障害を生じるX染色体連鎖性遺伝疾患である。進行性疾患であること、酵素補充療法という確立された治療が可能であることから早期の診断と治療開始が重要である。心病変に関しては著明な心肥大をきたすことが多く、肥大型心筋症との鑑別が重要である。診断のためにはまずファブリー病の可能性を疑うことが肝要である。そのうえで詳細な病歴聴取、心電図や心臓超音波検査所見、心臓MRIによるガドリニウム遅延造影像やT1マッピングによる評価、酵素活性の測定、遺伝子解析などを系統的に行う必要がある。女性のヘテロ保因者では血漿lysoGb3の測定や尿中のマルベリ小体の検索なども重要な手がかりになる。最近では新生児マススクリーニングによる早期診断例も増加しつつある。ファブリー病の治療は酵素補充療法が広く行われているが、最近薬理学的シャペロン療法が可能となり、一部の患者における新たな治療選択肢として注目されている。ファブリー病は生涯にわたって治療が必要な疾患であり、診療科横断的かつ多職種連携に基づく切れ目のない治療体制の構築が重要である。

S-2-04 周産期心筋症アップデート神谷 千津子国立循環器病研究センター 周産期・婦人科部

周産期心筋症は、心筋疾患既往のない女性が、妊娠から産後に心機能低下に伴い心不全を発症する、未だ原因不明の心筋症である。わが国の全国調査における推定発症率は、1/15,553分娩と決して多くはないが、約1割の患者が最重症化(死亡もしくは心移植待機)しており、主な母体死亡原因の一つである。しかしながら、半数以上の患者は、比較的短期間に心機能が正常範囲まで回復しており、類似の病態である拡張型心筋症とは異なる点である。周産期心筋症は、他に心機能低下を惹起する原因を認めないときに診断される「除外診断病名」である。そのため

「heterogeneousな疾患群」であり、心機能予後の差異は、疾患背景が異なるためとも考えられる。日本の全国調査では、妊娠高血圧症候群などの産科的危険因子を背景にもつ患者では、心機能正常化率が高い一方、国際的遺伝子解析研究では、患者の15%に拡張型心筋症関連遺伝子変異を認め、変異陽性患者の慢性期心機能は、変異陰性患者に比較して有意に低いことが判明している。「Heterogeneousな疾患群」における、診断、治療、次回妊娠リスク評価についての最新知見を報告する。

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プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

シンポジウム

シンポジウム 3  心筋症と不整脈 -基礎的および臨床的観点から-

S-3-01 心筋症における自己免疫と不整脈長友 祐司1,2、馬場 彰泰3、吉川 勉2

1防衛医科大学校 循環器内科、2榊原記念病院 循環器内科、3東京歯科大学市川総合病院 循環器内科

拡張型心筋症ではあらゆる種類の不整脈を合併し、心不全の増悪因子となるとともに致死性不整脈を合併すると突然死の原因となりうる。一方で拡張型心筋症では様々な抗心筋自己抗体が検出される。そのうち一部は生理的作用を有し心筋症、心不全の病態との関連が示唆されている一方、各種不整脈の発生と関連することがこれまでの基礎研究、臨床研究で示されている。β1アドレナリン受容体に対する自己抗体は拡張型心筋症患者において心室頻拍、心臓突然死の発生と関連する。また実験動物に本自己抗体を誘導すると遅延整流 K電流のうちIKsを抑制することで活動電位持続時間の延長をもたらし、結果として心室頻拍などの心室性不整脈をもたらす。M2ムスカリン受容体に対する自己抗体は拡張型心筋症患者において心房細動と関連しており、抽出した抗体を鶏胚に添加することで上室性不整脈が誘発される。Na-K-ATPaseに対する自己抗体の存在は拡張型心筋症において心室頻拍と関連し、突然死発生と関連 する。以上のように自己免疫と不整脈との関連を示すこれまでの知見をアップデートするとともに、自己免疫の治療ターゲットとしての可能性について考察したい。

S-3-02 左室緻密化障害と進行性心臓伝導障害におけるTRPM4遺伝子変異の解析

中村 一文、斎藤 幸弘、伊藤 浩岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学

【目的】左室緻密化障害(LVNC)と進行性心臓伝導障害(PCCD)を合併した家系において、遺伝子異常を同定すること。

【方法と結果】ゲノムDNAにおいてtarget exome sequencingを行い、transient receptor potential cation channel subfamily M member 4 (TRPM4)遺伝子にheterozygous変異(c.858G >A、同義置換)を認めた。この変異はexon7の3' 末端のスプライス領域に存在し、患者の心筋生検組織をRT-PCRにて調べたところexon 7-skippingを認め、中途終止コドンを産出した。従ってこの変異はTRPM4遺伝子の機能喪失を起こすと考えられた。次に健常成人から得たヒトiPS細胞由来心筋細胞において、9-phenanthrolでTRPM4活性を抑制したところ、Notch signaling targetに関与するHEY2遺伝子と心臓発生に関与するTBX5及びNKX2-5遺伝子の発現に低下を認めた。

【結語】LVNCとPCCDの家系にておいて、スプライシング異常から中途終止コドンとなるTRPM4遺伝子変異を認 めた。

S-3-03 致死的不整脈発症におけるリアノジン受容体結合カルモジュリンの重要性

山本 健1、中村 吉秀2、小林 茂樹2、矢野 雅文2

1山口大学大学院医学系研究科 病態検査学講座、2山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学

【背景と目的】心筋細胞内Ca2+ホメオスタ-シスの破綻は、心機能低下や致死的不整脈を介して心不全の予後著明に悪化させる。我々は最近、心筋細胞の筋小胞体(SR)に存在する心筋型Ca2+放出チャネル(リアノジン受容体:RyR2)の機能異常、特にRyR2-カルモジュリン(CaM)連関障害が致死的不整脈の発症に深く関与することを報告した。本研究の目的はCaM結合のキーとなるRyR2内のカルモジュリン結合ドメインに(CaMBD)着目し、その重要性について検討することである。

【結果】①CaMBDはリアノジン受容体内にあるCaM like domain (CaMLD)と連関しておりCaMLD内の点突然変異によるCVPTはCAMLDとCaMBDの連関を強めCaMをkick outすることにより不整脈を生じていることがわかった。②CaMBD内の①アミノ酸を変異させてCaMの結合を強めたところ、不整脈耐性をもつマウスを作成することが出来た。

【結論】リアノジン受容体結合カルモジュリンはリアノジン受容体を安定化し、致死的不整脈を防ぐための非常に重要な治療ターゲットである。

S-3-04 非弁膜症性心房細動を合併した肥大型心筋症の血栓塞栓症発症リスク

林 研至、津田 豊暢、野村 章洋、藤野 陽、高村 雅之金沢大学附属病院 循環器内科

【背景と目的】欧米では非弁膜症性心房細動(NVAF)を合併した肥大型心筋症(HCM)に対し抗凝固療法が推奨されるが、我が国ではガイドラインによりその治療方針が若干異なる。HCMがNVAFの血栓塞栓症発症に及ぼす影響について検討を行った。

【方法と結果】日本人NVAF 2374人(男性1682人、HCM 170 人)を対象とし後ろ向きに検討を行った。2.4年間の経過観察中、122人に血栓塞栓症を認めた。コックス比例ハザードモデルでは、HCMはCHADS2 あるいは CHA2DS2-VASc scoreによる調整後も血栓塞栓症発症と有意な相関を認めた。NVAFを合併したHCM症例はCHADS2 あるいは CHA2DS2-VASc scoreが低値でも血栓塞栓症の発症率が高値であった。HCMを2点としてCHA2DS2-VASc scoreの因子として加えた場合、CHA2DS2-VASc score単独の場合と比較して血栓塞栓症の予測能が有意に向上した。

【結論】HCMはNVAF症例における血栓塞栓症を予測する独立した危険因子であり、NVAFを合併したHCM症例に対しCHA2DS2-VAScスコアに関わらず抗凝固療法を推奨すべきである。

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プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

シンポジウム

シンポジウム 4  重症心不全を合併した心筋症に対する外科治療

S-4-01 非虚血性心筋症に対する左室形成術と僧帽弁関連手術

松居 喜郎1、新宮 康栄2、若狭 哲2、加藤 裕貴2、加藤 伸康2、大岡 智学2

1華岡青洲記念心臓血管クリニック、2北海道大学循環器・呼吸器外科

非虚血性心筋症では心筋障害の病態・程度が複雑で左室形成術や合併する機能性僧帽弁逆流に対する手術の効果は一定の評価を得ていない。理論上局所病変のない症例への左室縮小術のみでは駆出率改善は望めず、一回心拍出量を維持ずるには過度な心縮小は危険である。われわれの53例の左室形成術後遠隔期成績はintermacs profile 5-7は5年生存率63%と良好だが、4では29%、1-3では18%と不良である。心筋の残存収縮機能評価が必要と考え1回心拍で測定できるPreload Recruitable Stroke Work Indexの傾きが42以上では、42未満と比べて1年予後が圧倒的に良好である。このように外科手術においては術前心筋予備能評価など極めて慎重な適応評価が必要である。その反省から最近では機能性僧帽弁逆流を合併する場合のみを手術適応とし、術後LOSを避けるため、術後左室容量を維持した効率的な手術としてPapillary Muscle Tugging Approximationを開発し20例に行ったが、病院死亡は0%で遠隔期には駆出率改善、左室縮小が得られ有望な術式と考えている。

S-4-02 わが国における心臓移植の現況布田 伸一1、菊池 規子2、服部 英敏2、駒ヶ嶺 正英3、市原 有起3、萩原 誠久2、新浪 博士3

1東京女子医科大学大学院 重症心不全制御学分野、2東京女子医科大学循環器内科、3東京女子医科大学心臓血管外科

1967年に始まったヒトにおける心臓移植は50年を経過し、わが国でもようやく確立された医療になってきた。この間、重症心不全に対する様々な治療法が開発されてきたが、長期の好成績を残せる治療法として心臓移植に勝るものは現時点ではない。しかし最大の問題はドナー不足である。わが国の心臓移植待機者数は700名を越え、実際の年間心臓移植数60例前後の12倍であり、Status1の上位患者は、臓器利用率向上を目的に考案されたMedical Consultantシステムのもとでも4年の待機を余儀なくされ、多くは補助人工心臓装着状態で待機する。心臓移植待機中には原疾患の管理以外に、補助人工心臓の有害事象(感染、脳梗塞、等)や、合併症である右心不全、大動脈弁逆流、消化管出血、等の管理も加わる。移植後は、開心術直後の外科的管理を過ぎれば、その後は、①除神経の影響、②移植心虚血時間を代表とするドナー心由来因子、③移植前の重症心不全状態による他臓器障害、④拒絶反応の種類と程度、⑤免疫抑制状態からくる感染症や腫瘍など、⑥腎機能障害、等の免疫抑制薬の有害事象、⑦心筋生検、等の度重なる心臓カテーテル検査による影響(三尖弁閉鎖不全)など内科的なものが中心となる。

S-4-03 わが国における植込み型補助人工心臓の成績

小野 稔東京大学大学院医学系研究科 心臓外科学

2011年4月に心臓移植への橋渡しの目的で保険償還が開始されて以来8年間が経過した。植込み型補助人工心臓

(iVAD)治療の認定実施施設数は50を超え、装着数は1000例を超えた。心臓移植の待期期間は4年に迫ろうとしている中、実施施設では心不全ハートチームが丁寧な長期iVAD患者管理を行い、世界に誇るべき優れた遠隔成績を生み出している。iVAD症例データはJ-MACSに登録することが義務付けられている。解析結果は年に2回日本胸部外科学会のホームページに公表されている。2018年6月までの症例解析結果が2019年4月に発表された。初回装着および体外設置型VADからのbridge(BTB)の790例が対象で、初回装着が80%であった。最近の年間装着数は180 ~ 190例であった。790例の内訳は、男性74%、年齢43.5歳で、原疾患は拡張型心筋症66%、拡張相肥大型心筋症11%、虚血性心疾患11%が主であった。装着前の重症度は、INTERMACS profile 1/2/3/>4が9/39/47/4%であった。1/2/3年生存率は91/87/81%であり、初回装着に比べてBTBの生存率が有意に低かった。19歳未満/以上での成績には差は見られなかった。感染症、脳合併症などの合併症や再入院が少なくなく、今後の改善が期待される。

S-4-04 重症虚血性心筋症に対する治療戦略宮川 繁大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座 心臓血管外科

内科的心不全治療が難しくなった重症心不全は、補助人工心臓か心臓移植しか治療法はなく、我々も本邦における臨床成績を報告し、その臨床的有用性を実証してきた。しかし最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生型治療法として、いろいろな自己細胞を用いた臨床応用が開始されている。我々は、重症心不全に対する再生治療の臨床応用を目指して、細胞シートによる再生治療法の開発を行ってきた。患者の足の筋肉から培養した自己筋芽細胞で温度感応性培養皿を用いて自己筋芽細胞シートを作成し、その臨床応用を開始し、第一例目の症例では心機能の回復が得られ、最終的に人工心臓からの離脱に成功し、現在日常生活に復帰した。このように臨床応用がはじまった心臓の再生治療法について、心不全に対する心臓移植や人工心臓、そしてiPS細胞の取り組みも含めて、重症心不全に対する再生医療の可能性を紹介する。

Page 5: S-1-01 抗がん剤誘発性心筋障害と炎症 S-1-02 リン …...シンポジウム 1 心筋症と炎症 S-1-01 抗がん剤誘発性心筋障害と炎症 田尻 和子、家田

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プログラム

シンポジウム

YIAセッション

一般演題(ポスター)

シンポジウム

シンポジウム 5  心筋症発症進展の分子機序

S-5-01 心筋症のプレシジョンメディスン野村 征太郎東京大学循環器内科 重症心不全治療開発講座

心筋症はゲノム要因と環境要因によりその病態は制御されており、この本質的なメカニズムを徹底的に解明することで、真の精密医療が実現すると考えられる。我々は、拡張型心筋症のゲノム要因としてTTN短縮型変異とLMNA変異を同定し、それらの臨床的表現型への強い関与を明らかにした。またシングルセルRNA-seq解析により環境要因としてDNA損傷応答の重要性を同定し、その臨床的表現型への強い関与を明らかにした。今後心筋症の精密医療を実現していくためには、(1)残るゲノム要因の徹底的な解明、

(2)遺伝子レベルではなく変異レベルでの機能的意義の網羅的解明、(3)環境要因の包括的解明とその簡便な測定システムの開発、(4)ゲノム要因と環境要因に臨床情報を統合した心筋症分子病態層別化システムの開発、が重要と考える。本シンポジウムでは、心筋症の精密医療の実現に向けた当研究室のこれらへの取り組みについて紹介する。

S-5-02 ラミン異常と心筋症のフェノタイプ尾上 健児、斎藤 能彦奈良県立医科大学 循環器内科

近年の遺伝学および遺伝子解析技術の進歩により、拡張型心筋症をはじめ遺伝性循環器疾患の原因遺伝子が多数解明されてきている。遺伝性拡張型心筋症のなかで、特に房室伝導障害を伴う場合、核膜内側に位置する中間型フィラメント、ラミンA/CをコードするLMNA遺伝子の異常が多く認められることが知られている。LMNA遺伝子異常は遺伝性拡張型心筋症の約10%を、房室伝導障害を伴う拡張型心筋症では実に約1/3に関与するとされる。LMNA遺伝子異常に伴う拡張型心筋症は、また、心機能および心不全の程度に男女差が認められ、一般に男性が女性に比しより重症である。治療に関しても、β遮断薬などの心保護薬に対する反応性に乏しく、その発症機序に基づく原因療法の開発が待たれている。これまでに刺激伝導系のアポトーシスやMAP kinaseシグナル経路の亢進、アンドロゲン受容体の核内移行などが心筋症発症に関与する分子機序として報告されている。今回、これら既報のものに加え、細胞周期にも着目した我々のモデルマウス解析結果を交え、ラミン異常に伴う心筋症のフェノタイプおよび心筋症発症の分子機序について考察する。

S-5-03 心筋症の発症・進展におけるミトコンドリア機能異常の意義

松島 将士九州大学病院循環器内科

ミトコンドリア機能は酸化ストレス、エネルギー代謝、ミトコンドリア生合成と密接に関与することが知られているが、近年、オートファジー・マイトファジー、ミトコンドリアダイナミクス、ミトコンドリア-小胞体接触領域、ミトコンドリア蛋白取込機構などのミトコンドリア品質管理機構により高度に制御されることが明らかとなってきた。心筋症の発症および病態の進展にミトコンドリア機能異常が重要な役割を果たしている。我々は、トロポニンT遺伝子変異による拡張型心筋症マウスにおいて、ミトコンドリア酸化ストレスを制御するSRNX、ミトコンドリアエネルギー代謝に関連するPPARα、ミトコンドリア-小胞体接触領域形成を制御するミトコンドリアユビキチンリガーゼMITOL、ミトコンドリア蛋白取込に関連するTOM/TIM複合体蛋白の発現が変化することを見出した。心臓の機能は、エネルギー産生プラントとしてのみならず多様な細胞機能の調節を担うオルガネラであるミトコンドリアに大きく依存しており、ミトコンドリアは心筋症における重要な治療ターゲットと考えられる。

S-5-04 心不全におけるオートファジーの役割種池 学、坂田 泰史大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学

心不全は構造的もしくは機能的な要因でポンプ機能が障害される複雑な症候群であり、あらゆる心疾患の終末像である。エビデンスに基づく治療が行われているにも関わらず、決定的な治療法は未だなく、先進国において主要な死亡原因の一つとなっている。不全心における心筋細胞ではミトコンドリアなどの細胞内小器官の異常や異常タンパク質の蓄積が認められる。心筋細胞は終末分化細胞であり、これらの傷害を受けた細胞を細胞死により除去したり、分裂により置換したりすることができない。そのため、細胞内恒常性の維持は非常に重要である。オートファジーは細胞内分解機構の一つであり、細胞内タンパク質や細胞小器官を分解することで、それらの質を維持している。心筋細胞においてもオートファジーは心臓の構造や機能の維持に重要な役割を果たしている。さらにミトコンドリアを選択的に分解するマイトファジーの重要性や無菌性炎症を伴う心不全の病態形成への寄与が明らかになっている。定常状態やストレス下の心臓および心不全におけるオートファジーやマイトファジーの制御機構を明らかにすることで、心不全の予防や進展抑制をもたらす新しい治療法につながる可能性がある。