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11 がん化学療法白血病やリンパなどに有効であるが正常造血 抑制するため、骨髄機能一時的低下する また、強化学療法ほど 骨髄機能きく 低下 させある 程度 強度えると 回復機能うため、化学療法強度には 限界があるしかし、造血幹細胞移植(Hematopoietic Stem Cell Transplantation:HSCT) えば、移植 した 造血幹細胞により 骨髄機能回復するため、強力化学療 可能 となる 造血幹細胞 、自己複製・増殖能力があり 、白血球・赤血球・ 血小板など ての血液細胞分化する 。以前造血幹細胞 骨髄中にのみ存在すると えられていたが、化学療法後G-CSF製剤等投与後末梢血動員 されること また臍帯 血中 にも 豊富まれることがらかにされている したがって造血幹細胞移植には骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯 血移植3つの選択肢がある またドナーから 移植ける ものを同種移植(allogeneic transplantation)、患者本人 から 採取 した造血幹細胞凍結保存 、化学療法後ものを 自家移植(autologous transplantation) という 。今回同種造血幹細胞移植(allo-HSCT) について解説する allo-HSCTでは、大量がん放射線照射による 移植前処置(腫瘍細胞撲滅およびドナー造血細胞生着 のための免疫抑制) 後、 ドナーの造血幹細胞点滴移植 する すると 2~3週後にドナー細胞生着 骨髄機能回復 してくる 。通常臓器移植では拒絶反応(患者免疫移植 したドナーの臓器攻撃する 問題 となるが、HSCTでは 患者免疫抑制 されているため拒絶反応はほとんどこらずドナーの造血細胞生着する ドナー細胞生着すると 拒絶反応 とは反対にドナーのリンパ患者臓器攻撃 する移植片対宿主病(Graft-Versus-Host Disease: GVHD) 問題 となる 。拒絶反応GVHD発症には組織 適合性、 つまり ヒト 白血球型抗原(HLA) 適合性重要ある ただし 、HLA適合 していても 一定頻度GVHDじるため、免疫抑制剤によるコントロールが必要 となる 移植後発症する 感染症時期によってなる 図1)。 移植後約30日間大量がん全身放射線照射により 白血球減少するとともに 粘膜障害じる 。粘膜障害部から 病原体侵入するため 、消化管等感染症きやすくなる また、同時期単純ヘルペスウイルス (Herpes Simplex Virus:HSV) による 口腔あるいは中枢神経領域感染症しばしばこるため、移植7日前から 移植後35日 までアシクロ ビルの予防投与標準的われている さらに、移植後 30~90日間はサイトメガロウイルス (CMV)感染症増加する これは、急性GVHDしてステロイドが投与され、細胞性 免疫 低下するためである。移植後90日 ぎると 慢性 GVHD最大問題 となる そしてこの時期から 水痘・帯状 疱疹 ウイルス (Varicella-Zoster Virus:VZV) 再活性化 がしばしばめられるようになる HSCT後帯状疱疹発症率allo-HSCT では17~50%、 auto-HSCTでは20~30%程度 報告 されており 、HSCT後帯状疱疹発症 リスクがまた、allo-HSCT後発症する 帯状疱疹、播種性病変、特内臓病変問題 となる 。突然腹痛発症すること もあり 、場合によっては劇症肝炎合併 して短期間致死的 経過をたどる 。皮膚病変のみの場合でも 細菌感染合併ることが、帯状疱疹後神経痛移行する 症例 造血幹細胞移植後の帯状疱疹 造血幹細胞移植後の 水痘・帯状疱疹ウイルス再活性化の予防 神田 善伸 先生 自治医科大学附属さいたま医療センター 血液科 教授 治療と予防 Session 4 造血幹細胞移植の意義 1 移植後の各感染症の発症時期 移植後 危険因子 細菌 真菌 ウイルス 0501001 2Gram (+) Gram (-) Encapsulated organisms Candida Aspergillus 好中球減少 粘膜障害 慢性GVHD HSV VZV CMV adenovirus 急性GVHD (ステロイド投与)

Session 4 造血幹細胞移植後の 水痘・帯状疱疹ウイ …...Session 4 治療と予防 造血幹細胞移植の意義 図1 移植後の各感染症の発症時期 移植後

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Page 1: Session 4 造血幹細胞移植後の 水痘・帯状疱疹ウイ …...Session 4 治療と予防 造血幹細胞移植の意義 図1 移植後の各感染症の発症時期 移植後

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 がん化学療法は白血病やリンパ腫などに有効であるが、正常な造血も抑制するため、骨髄機能は一時的に低下する。また、強い化学療法ほど骨髄機能を大きく低下させ、ある程度の強度を超えると回復機能を失うため、化学療法の強度には限界がある。しかし、造血幹細胞移植(Hematopoietic Stem Cell Transplantation:HSCT)を行えば、移植した造血幹細胞により骨髄機能が回復するため、強力な化学療法が可能となる。 造血幹細胞は、自己複製・増殖能力があり、白血球・赤血球・血小板など全ての血液細胞に分化する。以前は造血幹細胞は骨髄中にのみ存在すると考えられていたが、化学療法後やG-CSF製剤等の投与後に末梢血に動員されること、また臍帯血中にも豊富に含まれることが明らかにされている。したがって、造血幹細胞移植には骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植の3つの選択肢がある。また、ドナーから移植を受けるものを同種移植(allogeneic transplantation)、患者本人から採取した造血幹細胞を凍結保存し、化学療法後に戻すものを自家移植(autologous transplantation)という。今回は、主に同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)について解説する。 allo-HSCTでは、大量の抗がん剤や放射線照射による移植前処置(腫瘍細胞の撲滅およびドナー造血細胞生着のための免疫抑制)の後、ドナーの造血幹細胞を点滴で移植する。すると2~3週後にドナー細胞が生着し骨髄機能が回復してくる。通常の臓器移植では拒絶反応(患者の免疫が移植したドナーの臓器を攻撃する)が問題となるが、HSCTでは患者の免疫が強く抑制されているため拒絶反応はほとんど起こらず、ドナーの造血細胞は生着する。ドナー細胞が生着すると、拒絶反応とは反対にドナーのリンパ球が患者の臓器を攻撃する移植片対宿主病(Graft-Versus-Host Disease:GVHD)が問題となる。拒絶反応やGVHDの発症には組織適合性、つまり、ヒト白血球型抗原(HLA)の適合性が重要である。ただし、HLAが適合していても一定の頻度でGVHDは生じるため、免疫抑制剤によるコントロールが必要となる。

 移植後に発症する感染症は時期によって異なる(図1)。移植後約30日間は大量の抗がん剤や全身放射線照射により白血球が減少するとともに粘膜障害が生じる。粘膜障害部から病原体が侵入するため、消化管等で感染症が起きやすくなる。また、同時期に単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus:HSV)による口腔あるいは中枢神経領域の感染症がしばしば起こるため、移植の7日前から移植後35日までアシクロビルの予防投与が標準的に行われている。さらに、移植後30~90日間はサイトメガロウイルス(CMV)感染症が増加する。これは、急性GVHDに対してステロイドが投与され、細胞性免疫が低下するためである。移植後90日を過ぎると慢性GVHDが最大の問題となる。そして、この時期から水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster Virus:VZV)の再活性化がしばしば認められるようになる。 HSCT後の帯状疱疹発症率は、allo-HSCTでは17~50%、auto-HSCTでは20~30%程度と報告されており、HSCT後は帯状疱疹の発症リスクが高い。 また、allo-HSCT後に発症する帯状疱疹は、播種性病変が多く、特に内臓病変が問題となる。突然の腹痛で発症することもあり、場合によっては劇症肝炎を合併して短期間に致死的な経過をたどる。皮膚病変のみの場合でも細菌感染を合併することが多く、帯状疱疹後神経痛へ移行する症例も多い。

造血幹細胞移植後の帯状疱疹

造血幹細胞移植後の水痘・帯状疱疹ウイルス再活性化の予防神田 善伸 先生 自治医科大学附属さいたま医療センター 血液科 教授

治療と予防Session 4

造血幹細胞移植の意義

図1 移植後の各感染症の発症時期

移植後

危険因子

細菌

真菌

ウイルス

0日 50日 100日 1~2年

Gram(+)Gram(-)

Encapsulatedorganisms

Candida Aspergillus

好中球減少粘膜障害 慢性GVHD

HSV VZVCMV,adenovirus

急性GVHD(ステロイド投与)

Page 2: Session 4 造血幹細胞移植後の 水痘・帯状疱疹ウイ …...Session 4 治療と予防 造血幹細胞移植の意義 図1 移植後の各感染症の発症時期 移植後

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抗ウイルス薬による造血幹細胞移植後の帯状疱疹の予防

 従来、HSCT後のHSVおよびVZV感染症の発症を抑制するため、抗ウイルス薬の予防投与が行われてきた。1980年代に実施された2つの無作為化比較試験では、骨髄移植後アシクロビル6ヵ月投与群とプラセボ投与群における帯状疱疹の発症頻度が1年間調査された1)。いずれの試験でも、アシクロビル6ヵ月間の投与期間中に帯状疱疹の発症は認められなかったが、投与終了後に発症が認められ、1年後の発症率はプラセボ群と差がなかった。

❶ アシクロビル400 mg/日 少量長期投与の予防効果 過去の報告では抗ウイルス薬の投与は6ヵ月で終了しているものが多いが、我々は、allo-HSCT後6ヵ月を過ぎてからも免疫抑制療法中はアシクロビルの予防投与を継続することによって、予防投与終了後の帯状疱疹の発症を抑制できるのではないかと考えた。国立がんセンターで1999年から4年間にallo-HSCTを受けた患者を対象に、抗ウイルス薬の予防投与期間と帯状疱疹の発症率について後方視的に調査した2)。移植後のHSV感染症抑制の目的で約1ヵ月間アシクロビル1,000 mg/日を投与後、さらにアシクロビル400 mg/日を半年間あるいは免疫抑制療法終了時まで投与した45名を長期投与群、移植後の約1ヵ月間のみアシクロビルを投与した41名を短期投与群とし、2群間の帯状疱疹発症率を比較した。その結果、1年後の発症率は、長期投与群では10%であり、短期投与群の33%と比べ有意に低かった(logrank test,p=0.025)(図2 A)。しかしながら、長期投与群でもアシクロビル投与終了後にシクロスポリンまたはプレドニゾロンを再開した患者が帯状疱疹を発症し、半年後の発症率は約30%であった(図2 B)。

❷ アシクロビル200 mg/日 極少量長期投与の予防効果 次に、我々はアシクロビルを200 mg/日に減量して免疫抑制療法終了時まで、またはallo-HSCT後1年間予防投与した137名を長期投与群、長期投与されなかった105名を短期投与群として、それぞれの発症率を検討した。その結果、長期

投与群では短期投与群と比べ移植後約3年の追跡期間中の発症が有意に抑制された(Fine and Gray proportional hazard regression test,p<0.0001)3)。ただし、この場合も投与終了後には発症率が上昇し、1年後の発症率は約30%であった。 しかしながら、長期投与群で帯状疱疹を発症した16名のうち14名は局所病変であり、播種性病変の2名はいずれも皮膚病変のみで、内臓病変は認められなかった。一方、短期投与群では50名が発症し、播種性病変の11名のうち4名に内臓病変を認めた。このように、長期の予防投与により投与中の発症抑制と、投与終了後に発症した症状を軽減できることが示唆された。

 auto-HSCT予定の悪性リンパ腫患者を、移植前30日以内と移植後30日、60日、90日に加熱処理で不活化した弱毒化水痘生ワクチンを接種するワクチン接種群(53名)と非接種群(58名)に分けて、帯状疱疹の発症とVZVに対するCD4陽性T細胞の反応性について12ヵ月モニタリングした報告がある4)。接種群の帯状疱疹発症率は有意に低く(logrank test,p=0.01)、CD4陽性T細胞の反応性も有意に上昇していた(t-test,p=0.04)。これらの結果から、帯状疱疹発症を予防するためには、患者がワクチンに反応できる程度の免疫力を回復するまでは抗ウイルス薬を投与し、免疫が回復した時点で不活化ワクチンを接種することが望ましいと考えられる。

ワクチンによる移植後帯状疱疹の予防

1) Selby PJ et al. Br J Cancer. 59(3)434(1989)2) Kanda Y et al. Bone Marrow Transplant. 28(7)689(2001)3) Asano-Mori Y et al. Am J Hematol. 83(6)472(2008)4) Hata A et al. N Engl J Med. 347(1)26(2002)

図2 アシクロビルによる移植後帯状疱疹の予防効果

アシクロビルの効能・効果(成人)は「単純疱疹」「造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制」「帯状疱疹」です。また、造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制の用法・用量は「通常、成人には1回アシクロビルとして200 mgを1日5回造血幹細胞移植施行7日前より施行後35日まで経口投与する」です。

乾燥弱毒生水痘ワクチンの効能・効果は「水痘の予防に使用する」です。また、その際の用法・用量は「添付の溶剤(日本薬局方注射用水)0.7 mLで溶解し、通常、その0.5 mLを1回皮下に注射する」です。

アシクロビル投与期間別の帯状疱疹発症率 アシクロビルの長期投与終了後の帯状疱疹発症率

Kanda Y et al. Bone Marrow Transplant. 28(7)689(2001)

1

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0

1

0.8

0.6

0.4

0.2

0.00 0 50 100 150 200 250 300 350 400100 200 300 400 500

短期投与群(41名)

長期投与群(45名)

帯状疱疹の発症率

帯状疱疹の発症率

移植後の日数 アシクロビル投与終了後の日数

A B