レーザー顕微鏡(LSM)は広い視野の 3D 形状観察と測定 が簡便にできることから,薄膜の厚み計測や形状評価に利用 されています。しかし,透明薄膜の場合,LSMでは観察と 測定が “ 正しくできない ” と従来は思われてきました。次世 代太陽電池や低消費電力デバイスなどで注目されている有機 系の導電性薄膜などは透明である場合が多く,LSM でも透 明膜の観察を可能にする方法が望まれています。 今回,透明膜でも LSM 観察を可能にする 3D 測定レーザー 顕微鏡 OLS4000 とそのマルチレイヤー機能,および専用の 透明膜測定フィルターを走査型プローブ顕微鏡(SPM)での 検証とともにご紹介します。 T. Fujii Fig. 4 にマルチレイヤー機能の原理図を示します。このマ ルチレイヤー機能は複数の反射光のピークを認識してそれぞ れを焦点位置として採用します。これにより透明膜のレイ ヤー(層)ごとの観察と 3D 測定や面膜厚測定が可能です。 マルチレイヤー機能を用いたときの,Fig. 2 と同じ透明レ ジスト膜の形状観察結果を Fig. 5 に示します。基板からの反 射よりも弱いレジスト膜表面からの反射ピークをマルチレイ ヤー機能が捉えることで透明薄膜の SPM の結果と合致した 段差形状が得られています。 基板上の透明膜におけるレーザー反射の概念図を Fig. 1 に 示します。通常の LSM は試料から正反射した①と③を捉え る手法です。反射率は表面(界面)の粗さと屈折率に密接に 関連しますが,一般的にガラス基板やウェハ基板などの上の 透明膜では平滑な基板からの正反射成分が大きくなります。 一方,透明膜表面から正反射する成分は小さくなります。  このような場合,LSM は試料の反射光量が最も大きい位置 を焦点位置とするために透明膜表面が捉えられない場合が多 く発生します。 Fig. 2に,試料としたガラス基板上の透明レジスト膜の SPM による視野 10 µm の 3D 像を示します。SPM の場合は 透明体の性質に関わらずに形状観察ができ,このレジスト膜 の厚さが 160 nm であることがわかります。 Fig. 3 に同じ試料のレジスト膜部での LSM での正反射ピー クと深さ方向の強度分布を示します。LSM では透明レジス ト表面よりも基板からの反射が強いことがわかります。この ため,この透明膜は通常の LSM では基板をとらえてしまい, 正しい形状を得ることが困難です。 透明膜試料の LSM 観察の問題点 Problems in LSM Observation of The Transparent Film はじめに Introduction マルチチレイヤー機能 The Multi-Layer Function Fig. 1 基板上の透明膜試料のレーザー反射の概念図 Diagram of The Laser Reflection from The Transparent Film Fig. 2 透明なレジスト膜試料の SPM 3D 像 □ 128 µm 3D SPM Image of The Resist Film Fig. 3 透明なレジスト膜のレーザー反射強度 Laser Reflection Intensity in The Depth Direction of The Resist Film 基板 入射レーザー ①透明膜表面からの正反射 ②透明膜表面からの散乱光 基板からの正反射③ 透明膜 基板からの散乱光④ 膜厚160 nm 0.00 181.52 200.00 [nm] [nm] 0.00 2.00 4.00 6.00 8.00 0.00 2.00 4.00 6.00 8.00 0.00 8.87 [µm] 深さ方向 表面 基板 裏面形状 最表面形状 レーザー光 従来 マルチレイヤーモード Z位置 Z位置 反射光量 反射光量 Fig. 4 マルチレイヤー機能の原理図 The Multi-Layer Function Application News No. S05 透明な有機薄膜のレーザー顕微鏡観察は可能か? -マルチレイヤー機能と透明膜測定フィルターを用いた有機薄膜の形状観察- Is It Possible to Observe The Transparent Organic Thin Film by LSM? Observation of The Shape of The Transparent Organic Film Using The Multi-Layer Function and The Optical Filter with LSM 表面観察 Surface Observation LAAN-A-OL003

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Page 1: SHIMADZU APPLICATION NEWSThe Multi-Layer Function Application News No.S05 透明な有機薄膜のレーザー顕微鏡観察は可能か?-マルチレイヤー機能と透明膜測定フィルターを用いた有機薄膜の形状観察-

レーザー顕微鏡(LSM)は広い視野の 3D 形状観察と測定が簡便にできることから,薄膜の厚み計測や形状評価に利用されています。しかし,透明薄膜の場合,LSM では観察と測定が “ 正しくできない ” と従来は思われてきました。次世代太陽電池や低消費電力デバイスなどで注目されている有機系の導電性薄膜などは透明である場合が多く,LSM でも透明膜の観察を可能にする方法が望まれています。

今回,透明膜でも LSM 観察を可能にする 3D 測定レーザー顕微鏡 OLS4000 とそのマルチレイヤー機能,および専用の透明膜測定フィルターを走査型プローブ顕微鏡(SPM)での検証とともにご紹介します。

T. Fujii

Fig. 4 にマルチレイヤー機能の原理図を示します。このマルチレイヤー機能は複数の反射光のピークを認識してそれぞれを焦点位置として採用します。これにより透明膜のレイヤー(層)ごとの観察と 3D 測定や面膜厚測定が可能です。

マルチレイヤー機能を用いたときの,Fig. 2 と同じ透明レジスト膜の形状観察結果を Fig. 5 に示します。基板からの反射よりも弱いレジスト膜表面からの反射ピークをマルチレイヤー機能が捉えることで透明薄膜の SPM の結果と合致した段差形状が得られています。

基板上の透明膜におけるレーザー反射の概念図を Fig. 1 に示します。通常の LSM は試料から正反射した①と③を捉える手法です。反射率は表面(界面)の粗さと屈折率に密接に関連しますが,一般的にガラス基板やウェハ基板などの上の透明膜では平滑な基板からの正反射成分が大きくなります。一方,透明膜表面から正反射する成分は小さくなります。 このような場合,LSM は試料の反射光量が最も大きい位置を焦点位置とするために透明膜表面が捉えられない場合が多く発生します。

Fig. 2 に,試料としたガラス基板上の透明レジスト膜のSPM による視野 10 µm の 3D 像を示します。SPM の場合は透明体の性質に関わらずに形状観察ができ,このレジスト膜の厚さが 160 nm であることがわかります。

Fig. 3 に同じ試料のレジスト膜部での LSM での正反射ピークと深さ方向の強度分布を示します。LSM では透明レジスト表面よりも基板からの反射が強いことがわかります。このため,この透明膜は通常の LSM では基板をとらえてしまい,正しい形状を得ることが困難です。

■透明膜試料の LSM 観察の問題点Problems in LSM Observation of The Transparent Film

■はじめにIntroduction

■マルチチレイヤー機能The Multi-Layer Function

Fig. 1 基板上の透明膜試料のレーザー反射の概念図Diagram of The Laser Reflection from The Transparent Film

Fig. 2 透明なレジスト膜試料の SPM 3D 像 □ 128 µm3D SPM Image of The Resist Film

Fig. 3 透明なレジスト膜のレーザー反射強度Laser Reflection Intensity in The Depth Direction of The Resist Film

基板

入射レーザー

①透明膜表面からの正反射

②透明膜表面からの散乱光

基板からの正反射③

透明膜基板からの散乱光④

膜厚160 nm

0.00

181.52

200.00

[nm]

[nm]

0.00 2.004.00 6.00

8.00 0.00

2.00

4.00

6.00

8.00

0.00 8.87 [µm]

深さ方向

表面

基板

裏面形状

最表面形状レーザー光 従来 マルチレイヤーモード

Z位置 Z位置

反射光量 反射光量

Fig. 4 マルチレイヤー機能の原理図The Multi-Layer Function

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No.S05透明な有機薄膜のレーザー顕微鏡観察は可能か?-マルチレイヤー機能と透明膜測定フィルターを用いた有機薄膜の形状観察-Is It Possible to Observe The Transparent Organic Thin Film by LSM? Observation of The Shape of The Transparent Organic Film Using The Multi-Layer Function and The Optical Filter with LSM

表面観察Surface Observation

LAAN-A-OL003

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No.

3100-10201-560-IK2012.10

初版発行:2012年10月

Fig. 5 マルチレイヤー機能を用いた LSM3D 像 □ 128 µmLSM 3D Image Using The Multi-Layer Function

Fig. 7 透明膜測定フィルターを用いた LSM 3D 像 □ 128 µmLSM 3D Image Using The Optical Filter

Fig. 8 透明有機薄膜の表面形状観察 LSM 3D Image of The Transparent Organic Film

膜厚160 nm

0 32 64 96 128

32

X

Z

Y

64

96

128

0.51

Fig. 1 のレーザー反射図において,正反射①と③にかえて②と④の散乱光を取得できれば透明膜の表面と下地からの反射の比率を逆転できる可能性があります。OLS4000 では光路中に専用の透明膜測定フィルターを挿入することで散乱光の検出が支配的に行なえます。これは光学的な性質を利用した手法であるため,マルチレイヤー機能でも困難な,厚さが数 10 nm という透明超薄膜や最表面の形状観察が容易になります。

透明レジスト膜の散乱光による反射ピークを Fig. 6 に示します。透明レジスト膜表面からの反射強度が常に基板からの反射ピークよりも大きくなっていることがわかります。

Fig. 7 に透明膜測定フィルターを用いたときの LSM 3D 画像を示します。SPM およびマルチレイヤー機能を用いたときとおなじく透明薄膜の形状観察が行なえています。

レーザーの透過率が大きく,きわめて透明な有機薄膜観察に透明膜測定フィルターを適用した例を紹介します。Fig. 8

(A)にガラス上の透明有機薄膜の SPM による表面形状 3D像を示します。

3D 測定レーザー顕微鏡 OLS4000 のマルチレイヤー機能と透明膜測定フィルターは従来の LSM では困難な透明薄膜の形状観察,膜厚計測を可能にします。また, OLS4000 独自の透明膜測定フィルターは散乱光を検出し,有機薄膜の精密な形状観察と評価を可能とします。

■透明膜測定フィルター Optical Filter for Transparent Film Measurement

■精密な有機薄膜表面の形状観察Precise Shape Observation of The Organic Thin Film

■まとめConclusion

(A) SPM 3D 10 µm□ (B) LSM 3D 65 µm□ No optical filter

(C) LSM 3D 65 µm□ Optical filter

60.00[nm]

PQ10.00 um

10.00 um

10.00 [µm]0.00

0.00

0 16 32 48 64 X

16

32

48

6410.5

Z

P Q

Y

0 3 6 9 12 X

3

6

9

1210.5

Z

Y

この試料の透明膜測定フィルターを用いないときの観察結果を Fig. 8(B)に示します。この結果は SPM とは合致しません。とくに中央部の凹形状部では下地からの反射の影響から凹部中に盛り上がった形状が誤って得られています。透明体の LSM 観察の場合はこのように誤った形状を取得する場合があり注意が必要です。透明膜測定フィルターを用いたときの結果を Fig. 8(C) に示します。散乱光の取得により基板からの反射と凹形状の影響を受けずに SPM と合致した形状像が得られています。

Fig. 6 透明膜測定フィルターを用いたレジスト膜のレーザー反射強度Laser Reflection Intensity Using The Optical Filter

深さ方向

表面

基板

032

6496

128

32

X

Z

Y

64

96

1280.51

S05