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1 冬に咲く花 ふゆ はな 多くの植物は、春から秋にかけて花を咲かせる。だが、冬に花を咲 おお しょくぶつ はる あき はな ふゆ はな かせる 植 物もある。 しょくぶつ たとえばツバキ【写真①】は10月から4月、サザンカは10月 しゃしん から12月、アロエ【写真②】は11月から3月、ウメ【写真③】 しゃしん しゃしん は1月から2月にかけて花が咲く。 はな これは不思議ではないだろうか。植 物がきれいな花を咲かせるの しょくぶつ はな は、昆虫を呼び寄せて花粉を運んでもらい、受粉するためだ。昆虫 こんちゅう か ふん はこ じゅふん こんちゅう のいない冬に花を咲かせて、どうやって受粉するのだろう。 ふゆ はな じゅふん 実は、昆 虫 以外にも花粉を運ぶ生き物がいる。鳥たちだ。ツバキ じつ こんちゅう い がい か ふん はこ もの とり やサザンカやウメは、メジロやヒヨドリなど、冬も活動する小鳥が蜜 ふゆ かつどう こ とり みつ を吸うためにやってきて、花粉を運ぶ。昔から日本には「梅に 鶯 」 か ふん はこ むかし に ほん うめ うぐいす という言葉があり、絵も描かれてきたが、あのウグイスはウメの蜜 こと ば えが みつ を吸いに来ていたのだろう。 冬に咲く花はが受粉させる ふゆ はな とり じゅふん 冬になる実 ふゆ 冬に実をつける 植 物もある。お 正 月に飾るマンリョウ【写真①】 ふゆ しょくぶつ しょうがつ かざ しゃしん やセンリョウ、実や葉が薬 になるナンテン【写真②】、クリスマス くすり しゃしん に飾るセイヨウヒイラギのように、真っ赤なものが多い。また、昔 かざ おお むかし から日本にあるモクセイ科のヒイラギ【写真③】のように、黒みが に ほん しゃしん くろ かった 紫 色の実をつけるものも多い。 むらさきいろ おお 冬の実は、おもに鳥たちが食べる。植 物の立場から言うと、鳥た ふゆ とり しょくぶつ たち ば とり ちに食べてもらって、種を遠くまで運んでもらう。だから、鳥たち たね とお はこ とり に見つけてもらいやすい色をしている。 いろ 赤は、人間の目にも目立つ色だが、鳥の目にも目立つ。一方、黒 あか にんげん いろ とり いっぽう くろ 執筆/柳田理科雄 制作/空想科学研究所 提供/栄光ゼミナール 1 テーマ テキスト版 2 今日の11科学 写真①マンリョウ 写真①ツバキ 写真②アロエ 写真③ウメ 冬の植物 冬 は、生き 物 たちがじっと 寒 さに耐える季 節 だ。 ふゆ もの さむ き せつ だが、そんな季 節 に 花 を咲かせたり、実をつけたり き せつ はな する 植 物 がある。 植 物 が 冬 のあいだをどう過ご しょくぶつ しょくぶつ ふゆ しているのか、いろいろな 例 を見てみよう。 れい

Taro-20160115 1日1科学 冬の植物 05 · 冬の実は、おもに鳥たちが食べる。植物の立場から言うと、鳥た ふゆ み とり た しょくぶつ たちば

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Page 1: Taro-20160115 1日1科学 冬の植物 05 · 冬の実は、おもに鳥たちが食べる。植物の立場から言うと、鳥た ふゆ み とり た しょくぶつ たちば

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冬に咲く花ふ ゆ さ は な

多くの植物は、春から秋にかけて花を咲かせる。だが、冬に花を咲おお しょくぶつ はる あき はな さ ふゆ はな さ

かせる植物もある。しょくぶつ

たとえばツバキ【写真①】は10月から4月、サザンカは10月しゃしん

から12月、アロエ【写真②】は11月から3月、ウメ【写真③】しゃしん しゃしん

は1月から2月にかけて花が咲く。はな さ

これは不思議ではないだろうか。植物がきれいな花を咲かせるのふ し ぎ しょくぶつ はな さ

は、昆虫を呼び寄せて花粉を運んでもらい、受粉するためだ。昆虫こんちゅう よ よ か ふん はこ じゅふん こんちゅう

のいない冬に花を咲かせて、どうやって受粉するのだろう。ふゆ はな さ じゅふん

実は、昆虫以外にも花粉を運ぶ生き物がいる。鳥たちだ。ツバキじつ こんちゅう い がい か ふん はこ い もの とり

やサザンカやウメは、メジロやヒヨドリなど、冬も活動する小鳥が蜜ふゆ かつどう こ とり みつ

を吸うためにやってきて、花粉を運ぶ。昔から日本には「梅に 鶯 」す か ふん はこ むかし に ほん うめ うぐいす

という言葉があり、絵も描かれてきたが、あのウグイスはウメの蜜こと ば え えが みつ

を吸いに来ていたのだろう。す き

冬に咲く花は鳥が受粉させるふゆ さ はな とり じゅふん

冬になる実ふ ゆ み

冬に実をつける植物もある。お正月に飾るマンリョウ【写真①】ふゆ み しょくぶつ しょうがつ かざ しゃしん

やセンリョウ、実や葉が薬になるナンテン【写真②】、クリスマスみ は くすり しゃしん

に飾るセイヨウヒイラギのように、真っ赤なものが多い。また、昔かざ ま か おお むかし

から日本にあるモクセイ科のヒイラギ【写真③】のように、黒みがに ほん か しゃしん くろ

かった 紫 色の実をつけるものも多い。むらさきいろ み おお

冬の実は、おもに鳥たちが食べる。植物の立場から言うと、鳥たふゆ み とり た しょくぶつ たち ば い とり

ちに食べてもらって、種を遠くまで運んでもらう。だから、鳥たちた たね とお はこ とり

に見つけてもらいやすい色をしている。み いろ

赤は、人間の目にも目立つ色だが、鳥の目にも目立つ。一方、黒あか にんげん め め だ いろ とり め め だ いっぽう くろ

執筆/柳田理科雄 制作/空想科学研究所 提供/栄光ゼミナール

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テーマ

テキスト版

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今日の1日1科学

写真①マンリョウ

写真①ツバキ

写真②アロエ

写真③ウメ

冬の植物冬は、生き物たちがじっと寒さに耐える季節だ。ふゆ い もの さむ た きせつ

だが、そんな季節に花を咲かせたり、実をつけたりきせつ はな さ み

する 植 物がある。植 物が冬のあいだをどう過ごしょくぶつ しょくぶつ ふゆ す

しているのか、いろいろな例を見てみよう。れい み

Page 2: Taro-20160115 1日1科学 冬の植物 05 · 冬の実は、おもに鳥たちが食べる。植物の立場から言うと、鳥た ふゆ み とり た しょくぶつ たちば

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みがかった 紫 は、人間の目には目立たないが、鳥の目にはどう見むらさき にんげん め め だ とり め み

えるのだろう?

太陽の光には、人間の目には見えない紫外線という光が含まれたいよう ひかり にんげん め み し がいせん ひかり ふく

ている。鳥たちには、この紫外線が見える。黒みがかった 紫 の実とり し がいせん み くろ むらさき み

は、紫外線をよくはね返すので、鳥たちにはよく見えるのだ。し がいせん かえ とり み

黒い実は紫外線をはね返すくろ み し がいせん かえ

冬のくだもの・ミカンふ ゆ

冬、暖かい部屋で食べる果物といえばミカンだね。食べやすくて、ふゆ あたた へ や た くだもの た

とてもおいしいが、謎も多い。なぞ おお

なぜ、袋に分かれているのだろう? 袋の中身は、なぜ小さなふくろ わ ふくろ なか み ちい

粒々に分かれているのだろう? 袋 についた白い筋はいったいつぶつぶ わ ふくろ しろ すじ

何?なに

植物の果実は、めしべの根元の「子房」に、養分と水分がたまっしょくぶつ か じつ ね もと し ぼう ようぶん すいぶん

てできる。ミカンの子房は、初めから10ぐらいの部屋に分かれてし ぼう はじ へ や わ

いる。これがミカンの果実の袋になる。か じつ ふくろ

また、ミカンの子房の内側には、細かい毛がたくさん生えている。し ぼう うちがわ こま け は

これに養分と水分がたまって、袋のなかの粒になる。ようぶん すいぶん ふくろ つぶ

袋についた筋は、袋のなかの粒々に養分と水分を運ぶための管ふくろ すじ ふくろ つぶつぶ ようぶん すいぶん はこ くだ

だ。葉っぱには、水分と養分を運ぶための葉脈があるが、あれと同は すいぶん ようぶん はこ ようみゃく おな

じものだ。

ミカンの果実の姿は、子房からどのようにして果実になったかをか じつ すがた し ぼう か じつ

よく表している。あらわ

ミカンの白い筋は、葉の葉脈と同じものしろ すじ は ようみゃく おな

リンゴは果実ではない!?か じ つ

冬の果物には、リンゴやイチゴもある。実は、これらの実は、果実ふゆ くだもの じつ み か じつ

ではない!

果実とは、科学的な定義では「めしべの根元の子房に養分と水分か じつ か がくてき てい ぎ ね もと し ぼう ようぶん すいぶん

がたまってふくらんだもの」のことだ。ミカンやウメの果実は、こか じつ

うやってできる。

ところが、リンゴやイチゴは、花を支える茎の先端の「花托」と呼はな ささ くき せんたん か たく よ

今日の1日1科学

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袋 に分かれているし、 袋 には白ふくろ わ ふくろ しろ

い筋がついている。みかんには謎すじ なぞ

がいっぱいあるね

今日の1日1科学

写真②ナンテン

写真③ヒイラギ

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ばれる部分に、養分と水分がたまって、実になる。つまり、科学の考ぶ ぶん ようぶん すいぶん み か がく かんが

え方では、これらは果実ではないことになる。それでも果実に見えかた か じつ か じつ み

るので「偽果」という。ぎ か

リンゴは木になり、イチゴは草になるが、どちらもバラ科の植物き くさ か しょくぶつ

だ。バラ科の植物には、リンゴ、イチゴ、ナシ、ビワのように、偽果か しょくぶつ ぎ か

をつけるものが多い。ウメやモモは、バラ科だが果実をつける。まおお か か じつ

た、スイカやバナナも偽果だ。ぎ か

日常生活では、果実と偽果を合わせて「くだもの」と呼んでいる。にちじょうせいかつ か じつ ぎ か あ よ

リンゴの実は果実ではないみ か じつ

どう違う? 常緑樹と落葉樹ち が じょうりょくじ ゅ ら く よ う じ ゅ

右欄の【写真①】のシラカバと、【写真②】のマツを比べてみよう。みぎらん しゃしん しゃしん くら

どちらも冬に撮った写真だが、大きな違いがある。どこが違うか、ふゆ と しゃしん おお ちが ちが

わかるだろうか。

そう、シラカバには葉がついていないが、マツは葉がついている。は は

木には、シラカバのように秋になると紅葉して葉を落とす「落葉樹」き あき こうよう は お らくようじゅ

と、マツのように冬になっても葉を落とさずに緑のままの「常ふゆ は お みどり じょう

緑樹」がある。なぜ、このような違いがあるのだろう。りょくじゅ ちが

植物は、太陽の光のエネルギーで養分を作る「光合成」と、体内しょくぶつ たいよう ひかり ようぶん つく こうごうせい たいない

の養分を消費して生きるためのエネルギーを取り出す「呼吸」をようぶん しょう ひ い と だ こ きゅう

している。光合成も呼吸も、おもに葉で行われる。落葉樹も常こうごうせい こ きゅう は おこな らくようじゅ じょう

緑樹も、気温が低いと、光合成が進まなくなる。りょくじゅ き おん ひく こうごうせい すす

落葉樹は、光合成のできない冬のあいだは、呼吸で養分をむだ遣らくようじゅ こうごうせい ふゆ こ きゅう ようぶん づか

いすることを防ぐために、葉を落とす。ふせ は お

常 緑樹は、冬のあいだ少しでも気温が上がったときや、春になじょうりょくじゅ ふゆ すこ き おん あ はる

って気温が上がったときに、すぐに光合成ができるようにするためき おん あ こうごうせい

葉をつけたままにしている。つまり、いつでも光合成ができる準備は こうごうせい じゅん び

を整えていることになる。ととの

落葉樹も常 緑樹も、光合成のできない冬を、それぞれの方法で乗らくようじゅ じょうりょくじゅ こうごうせい ふゆ ほうほう の

り越えているのだ。こ

常 緑樹は光合成の準備をしているじょうりょくじゅ こうごうせい じゅん び

今日の1日1科学

5

めしべの根元の「子房」に、養分ね もと し ぼう ようぶん

と水 分がたまってできるのが果すいぶん か

実。だが、リンゴの実は、子房の下じつ み し ぼう した

にある花托が膨らんだものだか たく ふく

今日の1日1科学

写真①シラカバ

写真②マツ

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植物の冬越しテクニックしょくぶ つ ふ ゆ ご

冬は、太陽の光も弱く、気温も低く、水も寒い地方では凍ってしふゆ たいよう ひかり よわ き おん ひく みず さむ ち ほう こお

まう。植物たちは、この厳しい冬をどうやって乗り越えるのだろうしょくぶつ きび ふゆ の こ

か。

植物は、冬のあいだは、生きるための活動を最小限に抑える。しょくぶつ ふゆ い かつどう さいしょうげん おさ

動物が眠るのに似ているので「休眠」という。どうぶつ ねむ に きゅうみん

アサガオやヒマワリのように、春に芽を出して秋に枯れる植物はる め だ あき か しょくぶつ

は、種の姿で休眠して冬を越す。こうすれば、春が来たとき、いたね すがた きゅうみん ふゆ こ はる き

つでも芽が出せる。め だ

タンポポのように、春に花を咲かせる植物のなかには、葉を地面はる はな さ しょくぶつ は じ めん

にぴったりくっつけて、風が当たらないようにして冬を越すものがかぜ あ ふゆ こ

ある。そのような姿をロゼットという【写真①】。こうしておけば、春すがた しゃしん はる

が来たときに、すぐに花を咲かせられる。き はな さ

ススキやスミレのように、何年も生きる草は、地上の葉や茎を枯なんねん い くさ ち じょう は くき か

らして、地下の根や茎だけで生きている。こうして、春が来たら、ち か ね くき い はる き

すぐに茎や葉を伸ばせるようにしている。くき は の

サクラや梅、レンゲツツジ【写真②】などの木は、秋のあいだに花うめ しゃしん き あき はな

や葉になる芽を作り、そのまま眠る。これを「冬芽」という。春が来は め つく ねむ とう が はる き

たら、すぐに花を咲かせ、葉を茂らせる。はな さ は しげ

どの植物も、春になったら、すぐに活動できるように準備を整しょくぶつ はる かつどう じゅん び ととの

えてから、冬のあいだは眠り続けるのだ。ふゆ ねむ つづ

植物は春の準備を整えて冬は眠るしょくぶつ はる じゅん び ととの ふゆ ねむ

柳 田理科雄の編 集 後記やなぎ た り か お へんしゆうこう き

冬においしい野菜のなかで、僕がいちばん好きなのは大根です。もちろん、食ふゆ や さい ぼく す だいこん た

べるのも好きですが、忘れられない思い出があります。子どものころ、春のあす わす おも で こ はる

る日に家の 畑 で菜の花によく似た白い花を見つけました。祖母に「菜の花に白ひ いえ はたけ な はな に しろ はな み そ ぼ な はな しろ

いのがあるの?」聞くと「大根の花だよ」と教えてくれました。種を取るためき だいこん はな おし たね と

に、花が咲くまで育てていたのです。大根に花が咲くなんて! 野菜も 植 物はな さ そだ だいこん はな さ や さい しょくぶつ

であり、生き物なんだと実感しました。いまでも、大根おろしや、おでんの大根い もの じっかん だいこん だいこん

を食べると、あのときの目が覚めたような気持ちを思い出します。た め さ き も おも だ

今日の1日1科学

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写真②レンゲツツジ

写真①ロゼット