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32 機 械 設 計 TCG システムのメカニズム ノンバックラッシの代表的な運動伝達機構とし てはボールねじが挙げられる。しかし,高速化に は不向きであり,また長尺になると加工が難しく, 慣性増加によりさらに高速化への対応が難しくな る。長尺,高速化はラックアンドピニオンであれ ば対応も難しくはないが,バックラッシがあるた め高精度の位置決めには不向きである。 これらを解決するためにピニオンにローラを用 い,歯形にトロコイド曲線を採用したラックアン ドピニオン機構である,TCG(トロコイドカムギ ヤ)システムが開発された。 平面上を円が滑りなく転がるとき,円周上の任 意の点の描く軌跡が「サイクロイド曲線」となる。 円周上に点を等配すると,平面上には規則的な複 数のサイクロイド曲線および歯型が創成される 図1)。その各点を中心とした小径円(ローラ)に より創成された歯形が TCG の基本歯形となる(2)。 サイクロイド曲線を中心軌跡に持つピンが描く 歯形は,本来インボリュート歯形に比べて滑りの ない良好な運動伝達を行えるはずであるが,実際 TCG(トロコイドカムギヤ)の 直交型駆動機構の開発 テーマ4 加茂精工 福岡 佑介 *ふくおか ゆうすけ:技術部 技術課 設計グループ 図 1 サイクロイド曲線 図 2 歯形の創成 ローラ

TCG(トロコイドカムギヤ)の 直交型駆動機構の開 …pub.nikkan.co.jp/uploads/magazine_introduce/pdf_5c5d1240...TCGシステムのメカニズム ノンバックラッシの代表的な運動伝達機構とし

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32 機 械 設 計

TCGシステムのメカニズム

 ノンバックラッシの代表的な運動伝達機構としてはボールねじが挙げられる。しかし,高速化には不向きであり,また長尺になると加工が難しく,慣性増加によりさらに高速化への対応が難しくなる。長尺,高速化はラックアンドピニオンであれば対応も難しくはないが,バックラッシがあるため高精度の位置決めには不向きである。 これらを解決するためにピニオンにローラを用い,歯形にトロコイド曲線を採用したラックアン

ドピニオン機構である,TCG(トロコイドカムギヤ)システムが開発された。 平面上を円が滑りなく転がるとき,円周上の任意の点の描く軌跡が「サイクロイド曲線」となる。円周上に点を等配すると,平面上には規則的な複数のサイクロイド曲線および歯型が創成される(図1)。その各点を中心とした小径円(ローラ)により創成された歯形がTCGの基本歯形となる(図2)。 サイクロイド曲線を中心軌跡に持つピンが描く歯形は,本来インボリュート歯形に比べて滑りのない良好な運動伝達を行えるはずであるが,実際

TCG(トロコイドカムギヤ)の直交型駆動機構の開発

テーマ4

加茂精工 福岡 佑介*

*ふくおか ゆうすけ:技術部 技術課 設計グループ

図1 サイクロイド曲線

図2 歯形の創成

ローラ

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33第 63 巻 第 3 号(2019 年 3 月号)

カム機構活用の新たな展開 特集

には歯元部でピン半周分の全面当りを起こす。また,歯元近傍では曲率半径がピン半径よりも小さくなるため,切下げが発生してしまい正確な運動伝達ができない(図3)。 そこで,TCGの歯形では運動軌跡がトロコイド曲線になるように「転位」を行い,切下げを回避している(図4)。 また,ピニオンに使用するローラピンは両側をニードルベアリングで支持し自転する,すなわち

ラックとローラピンの接触が転がりとなるようになっており,低発塵,低騒音,低振動を実現している。 さらに,常に2個以上のローラピンを常時噛合せることによりバックラッシをなくしている。インボリュート歯車においても理論上ピッチ点ではバックラッシゼロは可能だが実際には製作・取付け誤差により適正なバックラッシが必要である。TCGにおいては,ローラピンが転がり接触である

図3 サイクロイド歯形の接触

df

ラックピッチ線

切り下げ

ピッチ円

サイクロイド曲線

df2

図4 トロコイド歯形の接触

接触ピッチ線

ローラピッチ円

トロコイド曲線

転位量

接触ピッチ円

df

図5 TCGシステムの構造

歯型/Tooth profile複数歯のかみ合いを可能にするトロコイド歯車を採用

接触部/Contact Region常時2~3カ所が接触しているので正逆方向にバックラッシが発生しない

ローラピン/Roller pins

ベアリング両支持されたローラピンが円滑に転動する

かみ合い部

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34 機 械 設 計

ため,かみ合い状態で予圧をかけても抵抗なく円滑な回転が得られ,バックラッシをなくすことが可能となる。

TCGシステムのラインナップ

 TCGシステムにおいては回転⇔直線運動で使用するローラピニオンとカムラック,回転⇔回転運動で使用するローラピニオンとカムリングの構成がある。 さらにカムリングには外歯リングと内歯リングの2種類がある。また,大径リングについてはカムリングを複数に分割して継足治具を用いてつなぐことにより無限大に大きくすることが可能である。図6は内歯リング(左)と継足治具を使用して一体化した外歯リング(右)である。継足治具はカムリングを装置本体に固定後,カムリングより取り外す。 また,昨今の設計工数削減,調達・製作・組付時間の短縮化要望により,当社はノンバックラッシボール減速機・クロスローラベアリング・ローラピニオン・カムリングを一体化したTCGリングユニットも商品化している。

TCGシステムの直交型駆動の開発

 先に述べたとおりTCGシステムのラインナップは複数あるが,どれもトロコイド曲線を用いた技術を活用しノンバックラッシを実現しており,

インボリュート曲線を用いたラックアンドピニオン,平歯車のようなバックラッシが発生する製品との差別化を図ってきた。しかし,いずれも歯車の種類としては平行軸に限定される。 そこでTCGシステムのさらなる進化のため,直交型駆動機構に着目する。交差軸歯車は,傘歯車が代表的であるがノンバックラッシのものは存在しない。 交差軸は装置の低床化や省スペース化が図れることがメリットに挙げられ,ロボットの関節などバックラッシを嫌い省スペースを求める市場は多いため,そこをターゲットに直交型駆動TCGシステムの開発を進める。

開発上の課題

1 .ノンバックラッシを実現するための最適歯形の設計

 直交型駆動TCGシステムは小歯車にローラピニオンを使用し,大歯車にトロコイドギヤを採用する。そのため円周上にトロコイド曲線で計算された歯型(図7)を設計しなければならない。歯が直線上ではないため,歯底や歯の頂点の逃がし方,ピニオンと干渉しないための歯幅,歯高さおよび実用強度の確保などさまざまな要素を検討し,最適な歯形を設計する必要がある。 また,直線系のカムラックおよび回転系のカムリングでは歯すじが軸に平行であるが,直交型ではTCGシステムのローラピニオンを使用するため,

図6 TCGカムリング(分割タイプ)