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電 子 材 料 68 レジスト開発変遷 当社では,第1世代基板サイズから液晶パネル製 造用フォトレジストの開発を積極的に行っている。 図1に TOK フォトレジストのロードマップを示す。 基板サイズの大型化に伴い,高感度化,基板面内の 寸法均一性の向上を要求され,第3,4世代基板サ イズに「TFR 2500」,「TFR 1000H」を上市 した。 また,配線に Mo Al,Cu などのメタル膜が使用 されることが多く,ウェットエッチング時のメタル 膜との高密着性を要求されるようになった。これは 回路線幅の微細化に伴い,ウェットエッチング後の 面内寸法均一性が必要とされたためである。その高 密着性を実現した製品が「TFR 1070」である。 さらに,ポリシリコン液晶パネルの製造工程にお いては,高イオンドーピングを行う工程もある。高 イオンドーピング工程においては,高温な熱が掛か るため,耐熱性の高いフォトレジストが必要とされ る。その要望を実現させた製品が「TFR 1250」 舘   俊 聡 TFT アレイ用フォトレジストは,液晶パネルにおけるトラン ジスタを作成するために用いられている。近年では,ガラスサ イズの大型化が進み,フォトレジストに対する要求も多様化し てきている。本稿では,市場要求に対する東京応化工業 (TOK)の開発状況について概説する。 *Tachi Toshiaki 東京応化工業(株)先端材料開発2部技師 40 60 70 50 30 80 G1G2 G3G4 G5G7 G8電光感度(mJTFRH PL TFR790 PL TFR860 PM TFR4050 PM TFR2500 PM TFR1250 PM TFR2550 PM TFR1000H PM TFR1070 PM TFR4000 PM TFR4500 PM TFR1070S4 PM TFR6000 PM Slit&Spin Type Resist Spinless Type Resist Spin Type Resist Higher thermal resistance Good adhesion on metal HT process TFPTrial Higher Gantry speed type Wide HT Process margin 図1 TOK フォトレジストのロードマップ

TFTアレイ用フォトレジストは,液晶パネルにおけ …tok-pr.com/201103_lcd_WEB_exhibition/common/articles/...電 子 材 料 68 レジスト開発変遷 当社では,第1世代基板サイズから液晶パネル製

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電 子 材 料68

レジスト開発変遷

当社では,第1世代基板サイズから液晶パネル製

造用フォトレジストの開発を積極的に行っている。

図1にTOKフォトレジストのロードマップを示す。

基板サイズの大型化に伴い,高感度化,基板面内の

寸法均一性の向上を要求され,第3,4世代基板サ

イズに「TFR―2500」,「TFR―1000H」を上市

した。

また,配線にMo/Al,Cuなどのメタル膜が使用

されることが多く,ウェットエッチング時のメタル

膜との高密着性を要求されるようになった。これは

回路線幅の微細化に伴い,ウェットエッチング後の

面内寸法均一性が必要とされたためである。その高

密着性を実現した製品が「TFR―1070」である。

さらに,ポリシリコン液晶パネルの製造工程にお

いては,高イオンドーピングを行う工程もある。高

イオンドーピング工程においては,高温な熱が掛か

るため,耐熱性の高いフォトレジストが必要とされ

る。その要望を実現させた製品が「TFR―1250」

舘   俊 聡*TFTアレイ用フォトレジストは,液晶パネルにおけるトラン

ジスタを作成するために用いられている。近年では,ガラスサ

イズの大型化が進み,フォトレジストに対する要求も多様化し

てきている。本稿では,市場要求に対する東京応化工業

(TOK)の開発状況について概説する。

*Tachi Toshiaki

東京応化工業(株)先端材料開発2部 技師

40

60

70

50

30

80

G1~G2 G3~G4 G5~G7 G8~

電光感度(

mJ)

TFR―H PL

TFR―790 PL

TFR―860 PM

TFR―4050 PM

TFR―2500 PM TFR―1250 PM TFR―2550 PM

TFR―1000H PM TFR―1070 PM

TFR―4000 PM TFR―4500 PM

TFR―1070S4 PMTFR―6000 PM

Slit&Spin Type Resist

Spinless Type Resist

Spin Type Resist

Higher thermal�resistance

Good adhesion on�metal

H/T process

TFP―Trial

Higher Gantry�speed type�Wide HT Process�margin

図1 TOKフォトレジストのロードマップ

692008年5月号別冊

である。

第5世代サイズ以降では,塗布方式がスピン方式

から,非スピン方式へ変更され,フォトレジストの

リソグラフィ特性だけでなく,塗布特性が重要視さ

れるようになり,それに対応した開発が急務となっ

た。当社においては塗布装置の開発も行っており,

“M&E(Material&Equipment)”の協業を生か

し,非スピン方式の開発にも成功しており,TFP―

2500の非スピン対応フォトレジストとして

「TFR―2550」,TFR―1000Hの非スピン対応フ

ォトレジストとして「TFR―6000」の製品化を行

っている。

このように,第1世代基板サイズから第3世代基

板サイズまでの開発では,高感度化を目的とし開発

を進めてきたが,第4世代基板サイズ以降は,高感

度化および塗布方式を考慮した材料設計とすること

が必要とされている。

非スピン塗布用フォトレジストの開発

第6/第7世代基板サイズ以降においては,高感

度かつ非スピン塗布装置における高速なノズル移動

速度での膜厚均一性の優れたフォトレジストとして

「TFR―4000」を上市した。図2にTFR―4000

の非スピン塗布での塗布均一性データを紹介する。

塗布装置に関しては,当社の「TR115220SCP―

CLT」,基板サイズは1,870×2,200×0.7mm,

ノズル移動速度は150mm/sの条件にて,基板端

部10mmカットにて±2.08%の達成を実現して

いる。

近年においては,ノズル移動速度250mm/sの

高速化の要望を実現するための開発も行っている。

ノズル移動速度の高速化に伴い,塗布時の液切れの

発生が問題となる。液切れ対策としては,フォトレ

ジストを低粘度化することで改善できるが,ノズル

移動時のフォトレジストの塗出量が大きくなり,塗

布時のフォトレジストの膜内に溶剤が多く存在し,

塗布斑の発生リスクが高くなる。その対策を行った

試作品「TFP―391」の非スピン塗布データを図

3に紹介する。ノズル移動速度250mm/sの塗布

条件にて,基板端部20mmカットで±1.78%の

膜厚面内均一性を達成している。

コーティング装置:TR115220SCP―CLT ガラスサイズ:1,870×2,200×0.7t(mm) コーティング面積:1,865×2,196(mm) コーティング速度:150mm/s�真空度:66Pa(Slow―5sec) プリベーク:110℃,proxy―30sec,Direct―170sec�測定器:MCPD

膜厚

膜厚

図2 「TFR―4000」の塗布均一性データ

コーティング装置:TR115220SCP―CLT ガラスサイズ:1,870×2,200×0.7t(mm) コーティング面積:1,865×2,196(mm) コーティング速度:250mm/s�真空度:66Pa(Slow―5sec) プリベーク:110℃,proxy―30sec,Direct―170sec�測定器:MCPD

膜厚

膜厚

図3 「TFP―391」(試作品)の塗布均一性データ

電 子 材 料70

ハーフトーンマスク(HT Mask)プロセス

対応フォトレジストの開発

近年の基板サイズの大型化に伴い,スループット

向上を目的とする,製造工程削減が検討されている。

その1つとしてハーフトーンマスク(HT Mask)

を用い,リソグラフィ1工程を削減する手法が挙げ

られる。ここで挙げるHT Mask工程は,Act,S/

D工程の2工程を,凹凸パターンを用い1工程で行

うプロセスである。このときに使用される凹凸パタ

ーンに必要とされる特性は,凹部における膜厚面内

均一性に優れていることである。その特性を得るた

めの当社の開発設計概要について述べる。

まず図4に,シミュレーションにてプロセス条件

を最適化したシミュレーション結果を示す。これは,

露光量とフォトレジスト膜厚の変化を現像時間別に

示したものである。図5は,図4

の各条件での傾きをγ値として表

したものである。γ値が小さい条

件ほど,露光量に対するHT部の

膜厚変動率が少なく,塗布膜厚に

関して,厚い条件ほど良好である

ことが分かる。また,短時間現像

ほどγ値は小さいが,現像時間に

よる変化率は大きくなる。現像時

間70秒以上であれば,γ値の変

化はほとんどなく,70秒以上の条件であれば,現

像時間による膜厚変動率が安定することが理解でき

る。これらより,HT工程を安定して製造するため

には,塗布膜厚を厚く,また長時間現像することが

好ましいと考える。

また,使用マスクにより形状も大きく異なる。

HT工程の導入当時は,スリットタイプのマスクが

使用されていたが,高解像力化が進むなかで不具合

も見受けられるようになった。高解像力化の実現に

は,高コントラストなフォトレジストが必要となる。

それに伴い,良好な凹凸形状を得ることが難しい

(図6)。高コントラストなフォトレジストを使用す

ると,HT部の平坦性を得ることが困難となる。そ

こで,現在は透過率変更型マスクへの移行が進んで

いる。図6のように透過率変更型マスクを使用する

ことで,良好な平坦性を得ることが可能となる。今

後のHT工程に求められるフォトレジストとしては,

高い解像力があり,HT部の安定した平坦を確保で

きる設計が必要となると考えられる。

i線用フォトレジストの開発

中小型液晶パネルにおいては,液晶パネル基板内

にドライバICなどを作成し,付加価値の高いパネ

ルの開発が取り組まれている。それに伴い,さらな

る線幅の微細化が要求され,従来の露光波長領域が

g/h/ i線を含むブロードバンドな露光機から,単

γ値

膜厚:1.5μm

膜厚:2.1μm

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

0 50 100 150現像時間(s)

図5 現像時間vsγ値

0.0�0.1�0.2�0.3�0.4�0.5�0.6�0.7�0.8�0.9�1.0�

0 20� 40� 60� 80�100�120�140

30�〈現像時間〉

40�50�60�70�80�90�100�110�120�

30�〈現像時間〉

40�50�60�70�80�90�100�110�120�

0.0�0.1�0.2�0.3�0.4�0.5�0.6�0.7�0.8�0.9�1.0�

0 100 200 300露光量(mJ/cm2)

〈露光量50~150〉 〈露光量100~300〉

レジスト膜厚(相対値)

露光量(mJ/cm2) レジスト膜厚(相対値)

図4 最適化条件のシミュレーション結果

2008年5月号別冊71

波長化されたi線露光機が登場し,当社においても

それに合わせたフォトレジストの開発を行った。

従来のフォトレジスト材料からの大きな変更とし

ては,感光剤のベースのベンゾフェノン骨格となる

が,i線にて吸収を持つため,解像性の大きな劣化

の原因となる。そこで当社では,半導体用のフォト

レジストのトップメーカーである利点を生かし,i

線露光機に適した非ベンゾフェノン骨格の感光剤を

選定し,この感光剤に対する樹脂の最適化を行った

結果,高解像力フォトレジスト「TDSR―Di500」

の開発に成功した(図7)。

TSDR―Di500は,優れた解像特性を実現して

おり,今後の低温ポリシリコン液晶パネルの製造に

必要な微細化用途に十分応えられるフォトレジスト

となっている。

低温ポリシリコン液晶パネルの製造においては,

さらなる微細化とガラス面内の線幅均一性が要求さ

れている。当社では,従来のNQD(ナフトキノン

ジアジド)ノボラック樹脂系のフォトレジストだけ

でなく,より微細化実現の可能性が高い化学増幅型

フォトレジストの開発も,同時に進めている。図7

には試作品「CA ―T r i a l」のデータを示した。

24mJ /cm2と高感度であり,解像力関しても,

NA=0.14の低NA露光機にて1.1μmまでの解

像を実現している。しかしながら,従来の系と像形

成システムが大きく異なるため,克服しなければな

らない技術課題はある。現在パネルメーカー,装置

メーカーと協力し合いながら開発を進めているとこ

ろである。

Cr ガラス

スリットマスク

Cr ガラス

TFR―4500 PM�55mJ/cm2

TFP―TrialPM�65mJ/cm2

TFP―Trial PM�40mJ/cm2

透過率マスク

膜厚:2.1μm/プリベーク:110℃,90s�露光装置:CANON MPA=600FA/現像条件 : TMAH 2.38%,70s

図6 マスクによる形状の違い

CA―Trial

TSDR―Di500 PM

1.1μm1.2μm

1.3μm 1.2μm1.4μm1.5μm2.0μm3.0μm

1.3μm1.4μm1.5μm2.0μm3.0μm解像度(L/S 1.5μm,Eop:44mJ/cm2)

解像度(L/S 1.5μm,Eop:65mJ/cm2)

基板:Si/膜厚:1.5μm/プリベーク:90℃―90s/露光装置:NIKON 702J�P.E.B.:120℃―90s/現像条件:TMAH 2.38%,65s

図7 i線用フォトレジスト「TSDR―Di500」と化学増幅型フォトレジスト「CA―Trial」(試作品)