4
2019年度 技術交流助成 成果報告(海外派遣) 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻 氏名 清水 あずさ 会議等名称 The 33rd International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (IEEE MEMS 2020) カナダ、バンクーバー 2020/01/18 - 2020/01/22 1) 会議(研究会)の概要 私が口頭発表を行った国際学会 The 33rd International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (IEEE MEMS 2020)は,1 年に一度開催される,MEMS センサ・ア クチュエータ・マイクロマシン分野で最も権威のある学会の一つであり,機械,電気分 野にとどまらず,化学,生命科学,材料科学,再生医療などの様々な分野での第一線の 研究者が集う異分野横断型の国際会議であります. 近年,マイクロデバイス技術の応 用先が急速に異分野へ発展してきており,特に医工計測への技術の利用は学会の一 つの大きな領域として目覚ましく発展してきています.そして本会議には,これら のマイクロ工学と生命科学・医工計測技術に関する最新の研究結果が毎年報告され ており,全発表の 2 割以上がライフサイエンスやメディカルデバイスに関連してい ます.また会議に採択される論文のクオリティーが非常に高く維持されているのも 大きな特徴であり, MEMS 2020 では 1000 件以上のアブストラクトが投稿され,そ のうち約 400 件(口頭発表:100 件,ポスター発表:300 件)が採択されている状 況であり,本会議が最高峰の学会と言われる所以になっています.以上より,本会 議は多岐にわたる研究分野の参加者同士の交流・ディスカッションの機会も多く, 医工計測分野を基盤とした異分野へ工学技術を発展させるために大きく寄与して います.

The 33rd International Conference on Micro Electro ......on Micro Electro Mechanical Systems (IEEE MEMS 2020) 開 催 地 カナダ、バンクーバー 期 日 2020/01/18 - 2020/01/22

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

2019年度 技術交流助成 成果報告(海外派遣)

慶應義塾大学大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻

氏名 清水 あずさ

会議等名称 The 33rd International Conference

on Micro Electro Mechanical Systems

(IEEE MEMS 2020)

開 催 地 カナダ、バンクーバー

期 日 2020/01/18 - 2020/01/22

1) 会議(研究会)の概要

私が口頭発表を行った国際学会 The 33rd International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (IEEE MEMS 2020)は,1 年に一度開催される,MEMS センサ・ア

クチュエータ・マイクロマシン分野で最も権威のある学会の一つであり,機械,電気分

野にとどまらず,化学,生命科学,材料科学,再生医療などの様々な分野での第一線の

研究者が集う異分野横断型の国際会議であります.近年,マイクロデバイス技術の応

用先が急速に異分野へ発展してきており,特に医工計測への技術の利用は学会の一

つの大きな領域として目覚ましく発展してきています.そして本会議には,これら

のマイクロ工学と生命科学・医工計測技術に関する最新の研究結果が毎年報告され

ており,全発表の 2 割以上がライフサイエンスやメディカルデバイスに関連してい

ます.また会議に採択される論文のクオリティーが非常に高く維持されているのも

大きな特徴であり,MEMS 2020 では 1000 件以上のアブストラクトが投稿され,そ

のうち約 400 件(口頭発表:100 件,ポスター発表:300 件)が採択されている状

況であり,本会議が最高峰の学会と言われる所以になっています.以上より,本会

議は多岐にわたる研究分野の参加者同士の交流・ディスカッションの機会も多く,

医工計測分野を基盤とした異分野へ工学技術を発展させるために大きく寄与して

います.

2) 会議(研究会)で発表した研究テーマとその討論内容 私は,この MEMS 2020 において“ECM-BASED GRADIENT GENERATOR FOR TUNABLE SURFACE ENVIRONMENT BY INTERSTITIAL FLOW”と題して口頭

発表を行いました.本研究の概要は以下のとおりです. 本研究は,間質流による空間的化学因子勾配を生成するための細胞外マトリック

ス(ECM)で構成されたマイクロ流体デバイスを提案したものです.血管や皮膚組

織などの ECM の表面にある細胞は,液体因子,基質の表面粗さや剛性,および間

質流などの様々な外部因子の影響を受けます.中でも,間質流は ECM を介して栄

養素の輸送を促し,生体の恒常性に重要な役割を果たします.細胞と外部因子との

関係を解明するために、これまで因子勾配生成プラットフォームが多数報告されて

います.しかしながら,間質流の影響を調べるための因子勾配プラットフォームは

いまだ確立されていません.そこで本研究では,ECM で構成されたデバイスの表

面で細胞を培養し,間質流によって生成された連続的な濃度因子勾配にさらすこと

ができるマイクロ流体デバイスを設計しました.3D プリンタで印刷された水溶性

の犠牲層を使用することで,ゼラチン内にマイクロミキサを組み込んだ濃度勾配生

成流路を簡単に作製することに成功しました.マイクロミキサの効果を検証するた

めに赤蛍光と緑蛍光の溶液をシリンジポンプで同時に流したところ,ミキサがある

ことで溶液の分配が促進されていることを確認しました.さらに,本デバイスは物

質透過性を有する ECM で構成されているため,流路内に生成された因子濃度勾配

を保ちながら間質流によってデバイス表面に化学因子を透過させることが可能で

す.そこで,蛍光溶液を流した時のゼラチンゲル内の蛍光強度を測定したところ,

濃度勾配を保ちながらゲル内に浸透していることが確認されました.また,デバイ

ス表面で細胞を培養しながら流路内に化学因子を流すことで,表面にいる細胞に対

して因子濃度勾配を持つ間質流が作用したことを確認しました.本研究により,血

管新生や癌細胞の遊走など,ECM の表面で発生する生体現象を解明するための生

体外モデルへの応用が期待できます. この研究発表に対して興味深い現象が得られているとして学会参加者から高い評価

をいただき,様々な意見や質問をいただきました.その中でも特筆すべきものを以下に

記します. 「間質流による細胞への間接的な因子の曝露は,直接因子を暴露するときに比べて細

胞応答に違いがみられるのか.」 この質問に対する回答は「因子を直接曝露した場合と間接的に暴露した場合の違い

はまだ検討できていないが,生体内では間質流による間接的な曝露が実際に起きてお

り,本システムを用いることでそのような生体内の状況を模倣できるため,今後 in vitro実験系での直接曝露との違いを明らかにできる」としています.この質問をいただいた

ことで,研究のさらなる応用方法の一つが明らかになり,今後研究を進めるうえで大変

参考になる貴重な意見をいただけたと考えております.

3) 出席した成果(ご自身の研究のみならず、他の研究者との交流を通じて得たものが

あれば具体的...

に報告して下さい。) 今回参加した国際学会において様々な分野の最先端の研究に触れることで新たな視

点や知識を得ることができました.特に私が注目したものは Haruka Oda らの” FABRICATION OF HAND-DRIVEN COAXSIAL LAMINAR FLOW DEVICES”と

いう研究です.この研究では,1 本のシリンジを手動で押し出すだけで同軸二層ファイ

バを作製可能とするシリンジノズルを提案しています.このノズルは 3D プリンタで印

刷されており,内部の空間にコアとなる溶液を充填しておき,ノズルを装着したシリン

ジでシェルとなる溶液を押し出すことで,圧力によりコア溶液も同時に射出される仕

組みです.これまでは,同軸二層ファイバを作製するには 2 本のシリンジを制御する

大型のシリンジポンプが必要でしたが,この研究で提案しているノズルを用いること

で大型の装置を用いずにシリンジ 1 本のみを用いて同軸二層ファイバを簡便に作製す

ることができるようになりました.同軸二層ファイバは細胞を含有することで微小環

境でのバイオアッセイに有効であり,そのようなファイバを非常に簡便に作製可能と

するこの研究は医工計測分野に大きく貢献する研究だと思いました.

4) その他 学会主催の懇親会にも積極的に参加し,様々な国の学生および研究者との交流を通

じて,研究に関する有益な情報が得られただけでなく,研究以外にも国際的な交友関係

を気づくことができ,有意義な時間を過ごすことができました.このような機会をサポ

ートしていただいた技術交流助成(海外派遣)プログラムおよび関係者の方々に心から

の感謝の意を表し,本報告書の括りとさせていただきます.

図 1 発表の様子

図 2 ポスター会場の様子