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人工知能 で医療は変わるのか ──加速する医療分野の AI 開発の現在と未来 今月号は 2017 年 7 月号に続き,医療分野における人工知能(AI)の動向を特集します。メディアに登場しない日はな いほど加熱する一方の AI ブーム。医療分野においても研究開発が加速し,海外ではすでに AI を用いた医療機器が認可 されるなど,実用段階に入りつつあります。RSNA 2017 では,AI 関連の講演が大幅に増加し,機器展示では専用エリ アが設けられ 50 社に及ぶ AI 関連展示が行われるなど,あっという間に最もホットなテーマになりました。一方,わが 国でも産官学あげて AI 研究開発に取り組んでおり,2017 年 6 月の厚生労働省「保健医療分野における AI 活用推進懇 談会」報告書では,AI 開発を進めるべき 6 つの重点領域が示されています。本特集では,このような国内外の情勢を踏 まえて,行政の動向や研究開発のトピックス,そして臨床応用の展望など,医療分野における AI の近未来を探ります。 企画協力:藤田広志 岐阜大学特任教授 / 名誉教授 シリーズ新潮流 Vol. 9 The Next Step of Imaging Technology 特集 2 INNERVISION ( 33・7 ) 2018 第三次 AI ブームの中にあって,医療分 野での活用にも注目が集まっている。こ れまでの人工知能(AI)の研究開発は, 1950 年代以降“ブーム”として大きな盛 り上がりを見せた後に沈静化し,その後 冬の時代を迎えるということを繰り返して きた。現在の第三次 AI ブームをブームで 終わらせないために,どうすればよいの か。医療分野での AI 普及の方策や展望も 含めて,前・人工知能学会会長で国立情 報学研究所教授,総合研究大学院大学 教授,東京工業大学特定教授の山田誠二 氏にインタビューした。 コンピュータパワー,ビッグ データ,ディープラーニングが もたらした第三次 AI ブーム 1956 年にダートマス会議において AI の名称や概念が定義され,本格的な AI の研究開発が始まり,翌 57 年にはパー セプトロンが提唱されて,第一次 AI ブー ムが到来しました。この第一次 AI ブー ムには,ほとんど日本は関与しておらず, 本格的な研究開発が行われるのは,80 年 代に入ってからのエキスパートシステム を中心とした第二次 AI ブームからです。 当時,通商産業省(現・経済産業省) 主導で新世代コンピュータ開発機構 (ICOT:Institute for New Generation Computer Technology)による第五世 代コンピュータの開発プロジェクトが立 ち上げられました。このプロジェクトに おいて,ルールベースで推論するエキス パートシステムの開発が行われましたが, その後再び冬の時代を迎えてしまいます。 ブームが去った理由はいくつかありま すが,一つにはエキスパートシステムで は処理できない“暗黙知”の存在が明ら かになったことです。現在も,暗黙知を AI で処理することはできていないのです が,79 年に福島邦彦氏が開発したネオ 〈0913-8919/18/¥300/ 論文 /JCOPY〉 人工知能で医療は変わるのか 加速する医療分野の AI 開発の現在と未来 総 論 シリーズ 新潮流 Vol.9 The Next Step of Imaging Technology 特集 インタビュー AI研究者と医療従事者のコラボレーションが 医療分野での AI 普及のカギを握る AI 研究者・山田誠二氏(前・人工知能学会会長)に聞く

The Next Step of Imaging Technology 人工知能 で医療は ......特集 シリーズ新潮流Vol.9 The Next Step of Imaging Technology 2 INNERVISION (33・7) 2018 第三次AIブームの中にあって,医療分

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  • 人工知能で医療は変わるのか ──加速する医療分野のAI開発の現在と未来

    今月号は2017年7月号に続き,医療分野における人工知能(AI)の動向を特集します。メディアに登場しない日はないほど加熱する一方のAIブーム。医療分野においても研究開発が加速し,海外ではすでにAIを用いた医療機器が認可されるなど,実用段階に入りつつあります。RSNA 2017では,AI関連の講演が大幅に増加し,機器展示では専用エリアが設けられ50社に及ぶAI関連展示が行われるなど,あっという間に最もホットなテーマになりました。一方,わが国でも産官学あげてAI研究開発に取り組んでおり,2017年6月の厚生労働省「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」報告書では,AI開発を進めるべき6つの重点領域が示されています。本特集では,このような国内外の情勢を踏まえて,行政の動向や研究開発のトピックス,そして臨床応用の展望など,医療分野におけるAIの近未来を探ります。

    企画協力:藤田広志 岐阜大学特任教授/名誉教授

    シリーズ新潮流Vol.9─The Next Step of Imaging Technology特 集

    2  INNERVISION (33・7) 2018

     第三次AIブームの中にあって,医療分野での活用にも注目が集まっている。これまでの人工知能(AI)の研究開発は,1950年代以降“ブーム”として大きな盛り上がりを見せた後に沈静化し,その後冬の時代を迎えるということを繰り返してきた。現在の第三次AIブームをブームで終わらせないために,どうすればよいの か。医療分野でのAI普及の方策や展望も含めて,前・人工知能学会会長で国立情報学研究所教授,総合研究大学院大学教授,東京工業大学特定教授の山田誠二氏にインタビューした。

    ■ コンピュータパワー,ビッグデータ,ディープラーニングがもたらした第三次AIブーム

     1956年にダートマス会議においてAIの名称や概念が定義され,本格的なAIの研究開発が始まり,翌57年にはパーセプトロンが提唱されて,第一次AIブームが到来しました。この第一次AIブームには,ほとんど日本は関与しておらず,本格的な研究開発が行われるのは,80年代に入ってからのエキスパートシステムを中心とした第二次AIブームからです。当時,通商産業省(現・経済産業省)

    主導で新世代コンピュータ開発機構(ICOT:Institute for New Generation Computer Technology)による第五世代コンピュータの開発プロジェクトが立ち上げられました。このプロジェクトにおいて,ルールベースで推論するエキスパートシステムの開発が行われましたが,その後再び冬の時代を迎えてしまいます。 ブームが去った理由はいくつかありますが,一つにはエキスパートシステムでは処理できない“暗黙知”の存在が明らかになったことです。現在も,暗黙知をAIで処理することはできていないのですが,79年に福島邦彦氏が開発したネオ

    〈0913-8919/18/¥300/ 論文 /JCOPY〉

    人工知能で医療は変わるのか─ 加速する医療分野のAI開発の現在と未来

    Ⅰ 総 論

    シリーズ 新潮流 Vol.9─The Next Step of Imaging Technology

    特集

    ●インタビュー AI研究者と医療従事者のコラボレーションが医療分野でのAI普及のカギを握るAI研究者・山田誠二氏(前・人工知能学会会長)に聞く