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TOPICS TOPICS 57 Vol.52 2011No.1 SOKEIZAI 岐阜大学 吉 田 佳 典  大阪大学 松 本  良 第11回アジア精密鍛造シンポジウム ASPF 2010 開催報告 1.はじめに 2010 年 10 月 24 ~ 27 日の 4 日間にわたり第 11 回アジ ア精密鍛造シンポジウム(11th Asian Symposium on Precision Forging、ASPF2010)が京都で開催された。 今回のシンポジウムは石川孝司名古屋大学教授を実行 委員長(写真 1)として日本塑性加工学会鍛造分科会 が主催し、日本塑性加工学会創立 50周年記念事業の 一環として開催した。シンポジウムの開催概要を報告 する。 2.シンポジウム概要 2.1 開催背景 本シンポジウムは「第 1 回日中冷間鍛造シンポジウ ム」(上海、1985年)を初めとし、第2回東京(1987年)、 第 3 回北京(1990年)、第 4 回大阪(1992年)、第 5 回 西安(1996年)、第 6 回名古屋(1998年)まで日本と中 国で交互にほぼ 2 年ごとに開催された。第 6 回の名古 屋では韓国、台湾およびインドの研究者、技術者も招 待し、第 7 回桂林(2000年)からは「アジア精密鍛造 シンポジウム」として発展・継続し、第 8回韓国(2003 年)、第 9 回台湾(2005年)、第10回インド(2007年) に続いて今回は第11回目となる。本会議の目的はア ジアにおける産学からの研究者・技術者による最新の 精密鍛造技術およびその関連技術についての研究・開 発成果発表を通して、情報交換ならびに国際的な技術 交流を行うことにある。なお、今回のシンポジウムは 鍛造分科会第 90 回研究集会も兼ねた。 2.2 開催場所および参加者 シンポジウムは参加受付(10月24、 25日)、講演会(10 月25、26日)、懇親会(10月26日)を京都テルサ、工 場見学(10月27日)は㈱コタニ、川崎油工㈱でそれ ぞれ実施した。 参加人数は 87 名であり、講演件数は 35 件であった。 その内訳は日本 46名(13件)、中国 25名(10件)、韓 国9名(9件)、台湾4名(3件)、インド3名(0件) (カッ コ内は研究発表件数)であり、所属別に見ると大学・ 公的研究機関の研究者 29名、企業の技術者 53名、学 生 5 名であった。研究発表は大学・公的研究機関の研 究者が多かったが、参加者全体では中国企業の技術者 の参加が目立った。 3.講演会 講演会では基調講演、一般口頭発表、ポスター発表、 企業展示ブースを設けた。基調講演では、表1 に示す ように小坂田宏造大阪大学名誉教授(日本)、X. Tan 北京機械電子技術研究所教授(中国)、Y.-T. Im 韓国 科学技術院教授(韓国)より各国の鍛造業界の概況を はじめ、各国の著名な研究者・技術者から合計11件 の基調講演を受けた(写真 2)。自動車産業における鍛 写真 1 実行委員長 石川孝司名古屋大学教授 写真 2 基調講演の様子

TOPICS シンポジウム 110113sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/201101yoshida.pdf · 西安(1996年)、第6回名古屋(1998年)まで日本と中 国で交互にほぼ2年ごとに開催された。第6回の名古

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57Vol.52(2011)No.1 SOKEIZAI

岐阜大学 吉 田 佳 典  大阪大学 松 本  良

第11回アジア精密鍛造シンポジウム「ASPF2010」開催報告

1.はじめに      2010年10月24~27日の 4日間にわたり第11回アジア精密鍛造シンポジウム(11th Asian Symposium on Precision Forging、ASPF2010)が京都で開催された。今回のシンポジウムは石川孝司名古屋大学教授を実行委員長(写真 1)として日本塑性加工学会鍛造分科会が主催し、日本塑性加工学会創立 50周年記念事業の一環として開催した。シンポジウムの開催概要を報告する。

2.シンポジウム概要     2.1 開催背景 本シンポジウムは「第 1回日中冷間鍛造シンポジウム」(上海、1985年)を初めとし、第 2回東京(1987年)、第 3 回北京(1990年)、第 4 回大阪(1992年)、第 5 回西安(1996年)、第 6回名古屋(1998年)まで日本と中国で交互にほぼ 2年ごとに開催された。第 6回の名古屋では韓国、台湾およびインドの研究者、技術者も招待し、第 7回桂林(2000年)からは「アジア精密鍛造シンポジウム」として発展・継続し、第 8回韓国(2003年)、第 9 回台湾(2005年)、第10回インド(2007年)に続いて今回は第11回目となる。本会議の目的はアジアにおける産学からの研究者・技術者による最新の精密鍛造技術およびその関連技術についての研究・開

発成果発表を通して、情報交換ならびに国際的な技術交流を行うことにある。なお、今回のシンポジウムは鍛造分科会第90回研究集会も兼ねた。 2.2 開催場所および参加者 シンポジウムは参加受付(10月24、25日)、講演会(10月25、26日)、懇親会(10月26日)を京都テルサ、工場見学(10月27日)は㈱コタニ、川崎油工㈱でそれぞれ実施した。 参加人数は 87名であり、講演件数は 35件であった。その内訳は日本 46名(13件)、中国 25名(10件)、韓国9名(9件)、台湾4名(3件)、インド3名(0件)(カッコ内は研究発表件数)であり、所属別に見ると大学・公的研究機関の研究者 29名、企業の技術者 53名、学生 5名であった。研究発表は大学・公的研究機関の研究者が多かったが、参加者全体では中国企業の技術者の参加が目立った。

3.講演会      講演会では基調講演、一般口頭発表、ポスター発表、企業展示ブースを設けた。基調講演では、表 1に示すように小坂田宏造大阪大学名誉教授(日本)、X. Tan北京機械電子技術研究所教授(中国)、Y.-T. Im 韓国科学技術院教授(韓国)より各国の鍛造業界の概況をはじめ、各国の著名な研究者・技術者から合計11件の基調講演を受けた(写真 2)。自動車産業における鍛

写真 1 実行委員長 石川孝司名古屋大学教授

写真 2 基調講演の様子

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58 SOKEIZAI Vol.52(2011)No.1

造技術動向、冷間プレスの最新動向および制御鍛造の現状と将来展望について講演された。またCAEの適用事例として、熱処理における寸法変化予測、チタン合金の鍛造組織予測、工具寿命予測に関する研究例が紹介された。 一方、一般口頭発表およびポスター発表では若手研究者、学生の発表が多く見られた(表 2、3)。サーボプレス関連の研究発表が散見され、スライドモーションが後方押出し製品寸法精度に及ぼす影響、アルミ合金熱間鍛造への適用事例、超硬工具を用いたダイクエンチ鍛造プロセスについて発表があった。また、アルミ合金の半凝固鍛造法の開発事例、厚板の複合押出しおよび穴あけプロセス、低環境負荷潤滑剤の評価、チタン粉末焼結による薄肉円管製造プロセス、ロータリーシャフト内部の材料流動制御に関する研究報告が

なされた。また、金型割れ対策、温熱間鍛造における金型摩耗予測技術の開発など金型寿命予測関連の研究事例も見受けられた。材料試験関連では、リング圧縮式摩擦試験を応用した塑性異方性評価法、後方押出しティップ試験による摩擦係数測定、引張試験による大ひずみ領域における変形抵抗測定法が提案された。また、純アルミの再結晶挙動に関する新しい数理モデリングの試み、損傷異方性を考慮した超硬合金の弾塑性構成式の提案等が見受けられ、今後の理論解析の発展に寄与するものと思われる。 またポスター発表会場で企業展示ブース(写真 3)を併設し、鍛造分科会企業委員から 5社が技術紹介を行い、各国の企業技術者の注目度が高かった印象を受けた。

表 1 基調講演一覧(敬称略)

講演題目 講演者

日本における精密鍛造の現状

小坂田宏造(大阪大学、日本)

中国における精密鍛造の現状

Xie Tan(北京機械電子技術研究所、中国)

韓国における鍛造産業の現状

Yong-Taek Im(韓国科学技術院、韓国)

トヨタにおける鍛造技術開発

森下弘一(トヨタ自動車㈱、日本)

高精密鍛造のための冷間鍛造プレス

井村隆昭(㈱アイダエンジニアリング、日本)

制御鍛造の現状と将来展望

五十川幸宏(大同特殊鋼㈱、日本)

クリンチ接合におけるクリンチナット性能の評価システム

Rong Shean Lee(国立成功大学、台湾)

ヘリカルギアの冷間鍛造と熱処理における寸法変化予測のための有限要素解析

Young-Seon Lee(Korea Institute Material Science、 韓国)

チタン合金の精密鍛造における結晶組織の有限要素シミュレーション

Miao-Quan Li(美國西北理工大学、中国)

精密鍛造プロセスにおける工程設計と工具寿命の改善に対する CAE 技術の有効活用

山中雅仁(㈱ヤマナカゴーキン、日本)

精密鍛造用工具の寿命と工程に関する先導的研究

Zhen Zhao(上海交通大学、中国)

表 2 一般講演一覧(敬称略)

講演題目 講演者

AA1050 焼鈍における再結晶挙動のセルオートマトンモデリング

Dong-Kyu Kim(韓国科学技術院、韓国)

軸対称塑性異方性のリング圧縮試験による摩擦係数の評価

寺野元規(名古屋工業大学、日本)

冷間鍛造における摩擦測定ティップテスト

Yong-Taek Im(韓国科学技術院、韓国)

冷間後方押出し寸法精度に及ぼすサーボプレスモーションの影響

石黒太浩(名古屋大学、日本)

ユニバーサルジョイントの二方向冷間押出しにおける型面に沿って発生するき裂の原因と対策に関する研究

Bai-Xuan Liu(Zhengzhou Research Institute、中国)

冷間鍛造用低環境負荷潤滑剤の評価

石橋格(住鉱潤滑剤㈱、日本)

水素化 TC4 チタン合金ブレードの等温精密鍛造に関する研究

Ying-Ying Zong(ハルピン工業大学、中国)

ポートホールダイ押出しを用いたAL7050 合金の角管成形に関する研究

Quang-Cherng Hsu(国立高雄大学、台湾)

マグネシウム合金の熱間鍛造における微小組織改善

Yong-Nam Kwon( Korea Institute Material Science、 韓国)

Ti 粉末における直流パルス電気抵抗焼結を用いた薄肉円管の新成形法

久保田義弘(静岡大学、日本)

中空バルジ構造を有する厚板の複合押出しおよび穴明けの変形解析

Dan Liu(広東工業大学、中国)

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Page 3: TOPICS シンポジウム 110113sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/201101yoshida.pdf · 西安(1996年)、第6回名古屋(1998年)まで日本と中 国で交互にほぼ2年ごとに開催された。第6回の名古

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59Vol.52(2011)No.1 SOKEIZAI

4.工場見学      工場見学では㈱コタニ加西南工場、川崎油工㈱本社工場を訪問した。㈱コタニでは自動車部品の熱間鍛造ラインと熱間ロール成形を、川崎油工㈱では 1 万tonf プレスの製作現場、サーボプレス、バイク部品のハイドロフォームラインをそれぞれ見学させていただいた(写真 4)。

5.おわりに      ビザ取得の遅延による開催直前のキャンセルや当日欠席等いくつか問題があったが、これらは想定範囲内であり全体を通しておおむね盛会であった。またシンポジウム開催を通じて鍛造研究・開発の中心はまだまだ日本であることを再認識した。日本の研究者・技術者がアジアのみならず世界をリードする意識を持って、今後の研究活動に努めたい。一方、前回のシンポジウムで受けた筆者らの印象から今回のシンポジウムでは基調講演を中心に実務的な内容を重視し、企業展示ブースも設定したが、まだまだ不十分であり、引き続き今後の課題としたい。 最後に本シンポジウムは塑性加工技術振興事業基金および日本塑性加工学会創立50周年記念事業基金からの助成を受けたことを付記し、感謝の意を表します。また工場見学実施を快諾いただきました㈱コタニ、川崎油工㈱に深く感謝の意を表します。なお、本シンポジウムの詳細内容は鍛造分科会ホームページ内(http://www.jstp.or.jp/commit/forging/ASPF2010/)に設けているので、こちらもあわせて参照いただき、次回以降のシンポジウム(次回は 2012年秋に中国にて開催予定)への参加を検討いただきたい。

表 3 ポスター講演一覧(敬称略)

講演題目 講演者

側壁穴を有する円筒カップの限界絞り比に関する研究

Xia-Ting Xiao(広東工業大学、中国)

円弧状絞りビードを用いた SPCCの深絞り

Jae-Hyun Kong(東義大学校、韓国)

中国自動車産業におけるファインブランキング技術トレンドと実際

Peng Qun( 北京機械電子技術研究所、中国)

固体分率制御を用いたアルミ合金鍛造材の直接・関節半凝固鍛造法の開発

Chung-Gil Kang(釜山国立大学、韓国)

スピードスリーブの冷間押出しにおける加工因子の最適化

Chairongxia(西安交通大学、中国)

小型ロータリーシャフトにおける塑性流動制御の有限要素解析

S. C. Lee(東義大学校、韓国)

サーボプレスを用いたAl-Si 合金ビレットの熱間型鍛造におけるスライドモーション制御

前野智美(豊橋技術科学大学、日本)

サーボプレスを用いた熱間鍛造における超硬工具を用いた鋼鍛造品のダイクエンチ

松本 良(大阪大学、日本)

有限要素法による温熱間後方押出し工具の摩耗予測

吉田佳典(岐阜大学、日本)

損傷異方性を考慮したWC-Co 超硬合金の弾塑性構成式

早川邦夫(静岡大学、日本)

平歯車粉末鍛造における最大鍛造荷重および最終面幅の予測

Tung-Shen Yang(国立虎尾科技大学、台湾)

引張試験による大塑性ひずみ下における変形抵抗および破壊限界の評価

Seong-Hoon Kang(韓国科学技術院、韓国)

メッシュコンベアテンパ―炉の非鉄金属鍛造への応用

Chun-chen Yao( Jiangnan Machinery Co. Ltd.、中国)

写真 3 ポスター発表の様子

写真 4 工場見学会の様子(川崎油工㈱)

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