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低風速天井吹出し方式による病室の換気・空調設計に関する研究 (その7) 暖房時における換気・空調方式の提案及び設定風量の検討 Ventilation and Air Conditioning Design of Sickroom by Low Velocity Fabric Air Diffuser on Ceiling (part7) Method and Air Volume Design Ventilation and Air Conditioning of Sickroom 正会員 前田 龍紀(竹中工務店) 技術フェロー 山中 俊夫(大阪大学) 技術フェロー 甲谷 寿史(大阪大学) 正会員 桃井 良尚(大阪大学) 技術フェロー 相良 和伸(大阪大学) 学正会員 本田 雄樹(大阪大学) 正会員 上田 真也(竹中工務店) Tatsunori MAEDA* 1 Toshio YAMANAKA* 2 Hisashi KOTANI* 2 Yoshihisa MOMOI* 2 Kazunobu SAGARA* 2 Yuki HONDA* 2 Jun HANADA* 2 Shinya UEDA* 1 * 1 Takenaka Corporation * 2 Osaka University In sickroom, the demands of ventilation and air conditioning design are the saving energy, mild air conditioning for the sick, suitable air volume and effective ventilation. We focus the Low Velocity Fabric Air Diffuser on Ceiling ,and we count on the effects of both displacement ventilation and radiant air conditioning. In this study, we calculate thermal load for sickroom. And we study the better method for heating. 1.はじめに 近年の病室の換気・空調に対する課題を以下に示す。 多用途に比べ外気量が多く空調負荷が大きい 窓面積の割合が大きくペリメータ負荷処理が必 要となる場合が増えている 天井カセット型空調機などの循環式空調の風量 によるドラフトが患者に不快感を与える 多床室では循環風量が病床間での臭気や汚染空 気拡散の原因となっている 本研究では上記課題を解決した新たな病室の空調方式 を実験、数値解析、実施、実測による一連の流れで検証 していく。既報 1 では、冷房時の実大実験室を行い当初 の狙いであった置換換気効果と低風速吹出し口によるド ラフトレス環境が実現できていることを検証した。そこ で本報では暖房時の換気・空調方式を示し、簡易解析に よる検討を行う。また、その有効性を実大実験室にて比 較検証していく。 2.暖房時の換気・空調方式の考え方 暖房時の阻害要因を以下に示す。 ペリメータ窓面からのコールドドラフト 天井吹出口の暖気のための高さ方向の温度勾配 吹出空気の下降抑制による置換換気への干渉 一方、病室の窓には必ずカーテンが設置されるので、 これを利用し窓面からの冷気を室内に流れ込まないよう にする工夫と、ペリメータ内の冷気を室内空気と混合せ ずに空調機へ還気し負荷処理を行い吹出温度を室温に近 い温度に抑えることで、置換換気効果への影響を軽減さ せる方式を考えた。1 に今回の空調方式の暖房時の理 想的な考え方を示す。なお、本研究ではカーテン下端と 床面との隙間がパラメータとなるため、ロールスクリー ン(以下 RS)を用いて検討した。 3. 暖房時の換気・空調風量の検討 本研究は実物件への導入を視野に入れているため、設 備設計での空調設計条件に合わせて検証を行っていく。 2 に代表的な 4 床室の熱負荷と、1 に熱負荷計算条 件を、2 に熱負荷計算結果を示す。これは空調機を選 定するための熱負荷である。隣室と上下階のどちらかは 非空調室として貫流負荷を計算している。 RS の長さの変化に対して、ペリメータ上部の吸込み風 量をいくらにすれば RS 下部からのコールドドラフトが 抑制できるかを簡易的に検討した。解析の考え方を3 に示す。 SOA EA カーテン SA 空調機 1 暖房時の換気・空調の考え方

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低風速天井吹出し方式による病室の換気・空調設計に関する研究 (その7) 暖房時における換気・空調方式の提案及び設定風量の検討

Ventilation and Air Conditioning Design of Sickroom by Low Velocity Fabric Air Diffuser on Ceiling (part7) Method and Air Volume Design Ventilation and Air Conditioning of Sickroom

正会員 ○ 前田 龍紀(竹中工務店) 技術フェロー 山中 俊夫(大阪大学)

技術フェロー 甲谷 寿史(大阪大学) 正会員 桃井 良尚(大阪大学)

技術フェロー 相良 和伸(大阪大学) 学正会員 本田 雄樹(大阪大学)

正会員 上田 真也(竹中工務店)

Tatsunori MAEDA*1 Toshio YAMANAKA*2 Hisashi KOTANI*2 Yoshihisa MOMOI*2

Kazunobu SAGARA*2 Yuki HONDA*2 Jun HANADA*2 Shinya UEDA*1

*1Takenaka Corporation *2Osaka University

In sickroom, the demands of ventilation and air conditioning design are the saving energy, mild air conditioning for the

sick, suitable air volume and effective ventilation. We focus the Low Velocity Fabric Air Diffuser on Ceiling ,and we count

on the effects of both displacement ventilation and radiant air conditioning. In this study, we calculate thermal load for

sickroom. And we study the better method for heating. 1.はじめに

近年の病室の換気・空調に対する課題を以下に示す。

① 多用途に比べ外気量が多く空調負荷が大きい

② 窓面積の割合が大きくペリメータ負荷処理が必

要となる場合が増えている

③ 天井カセット型空調機などの循環式空調の風量

によるドラフトが患者に不快感を与える

④ 多床室では循環風量が病床間での臭気や汚染空

気拡散の原因となっている

本研究では上記課題を解決した新たな病室の空調方式

を実験、数値解析、実施、実測による一連の流れで検証

していく。既報 1)では、冷房時の実大実験室を行い当初

の狙いであった置換換気効果と低風速吹出し口によるド

ラフトレス環境が実現できていることを検証した。そこ

で本報では暖房時の換気・空調方式を示し、簡易解析に

よる検討を行う。また、その有効性を実大実験室にて比

較検証していく。 2.暖房時の換気・空調方式の考え方

暖房時の阻害要因を以下に示す。

① ペリメータ窓面からのコールドドラフト

② 天井吹出口の暖気のための高さ方向の温度勾配

③ 吹出空気の下降抑制による置換換気への干渉

一方、病室の窓には必ずカーテンが設置されるので、

これを利用し窓面からの冷気を室内に流れ込まないよう

にする工夫と、ペリメータ内の冷気を室内空気と混合せ

ずに空調機へ還気し負荷処理を行い吹出温度を室温に近

い温度に抑えることで、置換換気効果への影響を軽減さ

せる方式を考えた。図 1に今回の空調方式の暖房時の理

想的な考え方を示す。なお、本研究ではカーテン下端と

床面との隙間がパラメータとなるため、ロールスクリー

ン(以下 RS)を用いて検討した。

3. 暖房時の換気・空調風量の検討

本研究は実物件への導入を視野に入れているため、設

備設計での空調設計条件に合わせて検証を行っていく。

図 2に代表的な 4床室の熱負荷と、表 1に熱負荷計算条

件を、表 2に熱負荷計算結果を示す。これは空調機を選

定するための熱負荷である。隣室と上下階のどちらかは

非空調室として貫流負荷を計算している。

RSの長さの変化に対して、ペリメータ上部の吸込み風

量をいくらにすれば RS 下部からのコールドドラフトが

抑制できるかを簡易的に検討した。解析の考え方を図 3

に示す。

SOAEA

カーテン

SA

空調機

図 1 暖房時の換気・空調の考え方

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まず、窓及び RSの熱貫流率、外気温、室温より定常計

算を行い窓と RS間の温度を算出する。(式 1)

:窓とカーテン間の湿度 ( ) (ペリメーター空気):外気温度 ( ):室温 ( ):窓面積 ( ):ロールスクリーン面積 ( ):窓貫流率 ( ):ロールスクリーン貫流率 ( )

ここで、室温は 23℃、RSは幅 6m、熱貫流率は 5.6

W/m2・℃として計算している。

次に室温との中性帯が RS 下端高さとなる場合の流入

風量を算出し、これをペリメータ吸込み必要風量とした。

(式 2)

・・・式(2)

:ペリメータの吸込風量:ペリメータ空気密度:室内空気密度:重力加速度:RS下端からの床面の高さ:流量計数:ロールスクリーン幅

さらに表 2における熱負荷から、吹出温度を求める。

(式 3)

···式(3):吹出温度:熱負荷

表 3に、上記計算式による解析結果を示す。窓は熱負

荷計算と同様にLow-Eガラス(熱貫流率 2.0W/m2・

K)で計算している。条件①では吸込み風量が小さく、

吹出し温度が高くなり、天井付近に熱だまりが発生し、

置換換気効果が得られないと推定できる。逆に、条件③

では吸込み風量が過剰に大きくなり、一般的な室内機の

風量を逸脱してしまい現実的ではない。条件②では吹出

し温度が室温より約 1℃高くなる。置換換気効果にどの

ような影響があるかは詳細シミュレーションにて確認が

必要である。

表1 熱負荷計算条件

地域 大阪

夏期 26℃、50%

冬期 23℃、40%

中間期 24℃、45%

室面積 36m2 (6m×6m)

天井高 2.5m

階高 3.35m

空調運転スケジュール 24時間100%で運転

隣室条件 左右1面・上下1面非空調、廊下は空調あり

窓 明色ブラインド (9.5m2:1.9m×2.5m×2枚)

外気 外調機で外気処理を行う

照明 10W/m2 (7-21時:100%、その他の時間:20%)

人体 5人 (9-19時:100%、その他の時間:80%、事務所作業)

機器 10W/m2 (7-21時:100%、その他の時間:20%)

照明(冷房のみ)

人体(冷房のみ)

機器(冷房のみ)

図2 病室の暖房負荷

ペリメータ負荷ペリメータ負荷

外気負荷(外調機で外気処理)OW

隣室からの熱負荷

隣室からの熱負荷

隣室からの熱負荷

上階からの熱負荷

人体負荷

照明負荷

外気:-1.9℃ 67.5%

機器負荷

廊下(空調あり)

0W※

※隣室および上下階からの熱負荷は、便宜上1面からのみとしている

外気負荷W0

Wi3 = 0

Wi1 = 0 Wi2 = 0

Wi4Wi = Wi1+Wi2+Wi3+Wi4

h Aw ARs Kw Tpa ρa ρpa QRA TSA

m m2 m2 W/m2・k ℃ kg/m3 kg/m3 CMH ℃① 0.10 9.50 14.40 2.00 18.25 1.19 1.21 270.20 35.15② 0.20 9.50 13.80 2.00 18.09 1.19 1.21 777.70 23.96③ 0.30 9.50 13.20 2.00 17.91 1.19 1.21 1,454.77 21.05

条件

表3 簡易解析結果

表2 病院の暖房負荷内訳

負荷種別 熱負荷(W)

Wi1 機器 0

Wi2 人体 0

Wi3 照明 0

Wi4 内壁 887

887

外壁 620

1507

記号

小計

W0

Wi

合計

図3 ペリメータ吸込風量の検討

カーテン

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4.実験概要

前項の簡易解析結果を検証すべく、基礎性状の把握と

シミュレーションモデルの構築を目的とし、大空間内に

設置された実験室において 2014年 11月 10日~20日、

2015年 1月 6日の期間で実大実験行った。実験室の平面

図、断面図を図 4及び図 5に示す。実験室は温度制御で

きる緩衝空間を周囲に有し、幅 5.35m、奥行 7.18m、

高さ 2.5mである。4つのベッドとそれぞれの上部の天井

面に排気口(φ=200㎜)、ペリメータ側の天井面に排気

口(20×1640㎜)を 2つ設けている。また、吹出口とし

てソックダクト(不燃性不織布)を用いている。本実験

ではペリメータの窓面の影響を確認するため窓面からの

位置と高さが可変できるロールスクリーン(RS)を設置

した。また、ベッド間には取り外しが可能なカーテン(上

部メッシュ状)も設置している。

5.実験手法

実際の病室において、温度・汚染物濃度分布には様々

な要因が影響を及ぼす。本実験では天井吹出口配置、汚

染源発生位置、カーテンの有無、ペリメータに設置した

RSの位置と高さ、室内外温度差をパラメータとして、表

4に示す条件で実験を行った。

ペリメータでの汚染物発生は図 4 の右下ベッド位置

(PR)にて行った。RSは窓面から 0、10、20㎝の位置に

設置し、下ろす長さは天井高に対する割合で表した。床

面から RSの下端までの高さは 88%では 300㎜、72%で

は 700㎜である。内部発熱は、模擬人体の発熱量 40Wを

ベッド中央に、機器発熱を想定したブラックランプ 90W

をベッド近傍に与えた。天井吹出口は各ベッド脇の天井

部に直径 400㎜、長さ 1500㎜(ベッド上給気)の半円筒

形のソックダクトを配置している。また、室内外温度差

とは実験室と制御室との温度差を示す。

冷房時の実験と比較しやすいよう、各ベッド上の排気

口は 50CMH×4、ペリメータ排気口は 200CMHとした。

5.1温度測定

測定点を図 6に、測定条件を表 4に示す。温度は T型

熱電対を用いて 1分毎の瞬時値を測定した。実験室平面

の 11点(P1~11)について、それぞれ天井面から床面に

図 4 実験室平面図

図 6 実験室測定点

表 4 実験条件表

図 5 実験室断面図

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かけて 13点測定した。また、壁面の室内・室外でそれぞ

れ鉛直方向 4点の壁面温度(Wa~Wl)、窓面の室内・室外

でそれぞれ鉛直方向 3点の窓面温度(Wm,Wn)、給気口と

排気口で給気温度、排気温度を測定した。さらにペリメ

ータの温度分布を確認するため、RSの表面(CS1~3)に

5点、RSと窓面の間(C1,C2)に 6点それぞれ鉛直方向の

温度を測定した。なお結果は測定温度と給気温度との差

で表す。室内外温度差が条件に沿うように給気温度を調

整したため、条件により熱損失が異なるため給気温度が

異なっていることに注意されたい。

5.2汚染物濃度測定

各ベッド上の模擬人体のうち 1体から汚染物に見立て

たトレーサーガス(CO2)を 1.5L/minで発生させ、それ

を室内平面 9点(P1~9)について鉛直方向 6点での CO2

濃度の瞬時値を計測した。なお、測定濃度と給気濃度の

差を給気濃度と排気濃度の差で除することで規準化した

規準化濃度を用いる。

6.実験結果(RSの長さが温度・濃度分布に及ぼす影響)

低風速吹出のため暖房時の気流が課題であるが、本報

では、RSの高さを調整することで、窓面からの冷気が及

ぼす影響を比較検討した。図 5に模式図を示す。

図 8に CaseA-2、C、Eの室内平均温度の鉛直分布を示

す。この結果より RSが下端から 300㎜(88%-CaseC)の

場合は給気温度との差が小さい。CaseA-2 と E で差がな

いのは RS下端から 700㎜もあると、ペリメータ排気量が

200CMH 程度では RS がない状態と変わらないためと考え

られる。図 9に同条件における各測定点の鉛直濃度分布

を示す。この結果より、置換換気がくずれやすいペリメ

ータにおいても RS を下げた場合には他ベッドへの拡散

が小さい。RSを下げることで窓面からの冷気の影響が小

さくなり、汚染空気も効率的に排気出来ていることが分

かる。

7.まとめ

本報では暖房時の換気・空調方式の考え方を提案し、

簡易解析を行った。その結果、本方式の暖房時の有効性

を示すには詳細シミュレーションにて最適解を求める必

要があることがわかった。

次に基礎性状の把握とシミュレーションモデルの構築

を目的とした実大実験室を用いた実験概要、手法を示し

た。実験結果より、RSを利用することで汚染空気の他ベ

ッドへの拡散とペリメータからの冷気の影響を緩和でき

ることが分かった。次報では、詳細検討のためのシミュ

レーションについて論ずる。

参 考 文 献

1) 巽大樹、山中俊夫、甲谷寿史、桃井良尚、相良和伸、花田潤、上田真也、前田龍紀;低風速吹出し口を用いた病室の室内環境に関する研究(その 4)吹出し口配置及び換気回数が室内温度・汚染濃度分布に及ぼす影響,日本建築学会大会学術講演梗概集 2014(環境工学Ⅱ),pp.751-752

SOAEA

カーテン

SA

空調機

図 7 実験時温度分布イメージ 図 9 汚染物鉛直濃度分布結果

図 8 鉛直温度分布結果