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h concept ●[アッシュコンセプト] SINCE2002 ~ VOL.129 KONCENT Photo/Tomoaki Tsuruda(WPP) h concept Text/Teruhiko Doi (WPP) +d(プラスディー)ブランドのヒット作 「Kaze guru ma」は、目に見えない 風をデザインしたマグネット。 同社のデザインコンペティション2017で 最優秀賞に輝いた。デザインは阿津侑三。 85 84

VOL.129 h conceptHahaha から始まっていることで、会社名をといったポジティブな言葉が〝h〞 「 h concept /アッシュコンセプト」 とした。

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Page 1: VOL.129 h conceptHahaha から始まっていることで、会社名をといったポジティブな言葉が〝h〞 「 h concept /アッシュコンセプト」 とした。

h concept●[アッシュコンセプト]SINCE2002~

VOL.129

デザインは人のために機能する

ものでなければならない。

芸術作品のように孤高ではなく、

敷居も高くはない。ただ、この

〝人に寄り添う〞デザインの難しさは、

意匠の形だけではないという点。

デザインされたものと同様に、

そのコンセプトワークもまた

人に寄り添った視点で

なければならないのだ。

東京・蔵前のデザイン発信基地

「KONCENT

」には、

人をポジティブな気持ちにさせる

アイテムが溢れている。

そのデザインとコンセプトワークを

手掛ける『アッシュコンセプト』とは

いったいどんな会社なのか?

彼らの手掛けるブランドと製品、

見え隠れするコンセプトワークの

世界をちょっと覗いてみよう。

Photo/Tomoaki Tsuruda(WPP)    h conceptText/Teruhiko Doi(WPP)

+d(プラスディー)ブランドのヒット作

「Kaze guru ma」は、目に見えない

風をデザインしたマグネット。

同社のデザインコンペティション2017で

最優秀賞に輝いた。デザインは阿津侑三。

85 84

Page 2: VOL.129 h conceptHahaha から始まっていることで、会社名をといったポジティブな言葉が〝h〞 「 h concept /アッシュコンセプト」 とした。

全世界に2000万匹以上放たれている

シリコーン製の動物がこの

「アニマルラバーバンド」。

日常の中で常に使い捨てられている輪ゴムに、

〝繰り返し使用〞という動機をデザインした。

+d(プラスディー)の第1号商品であり、

MoMAミュージアムショップにおける大ヒット商品。

多くの似たような追随製品を生んだ。

切れるまで使いたくなる輪ゴムは世界中探しても、

一筆書きしたような動物シルエットの

このラバーバンドしかないし、

鮮やかな発色を可能にした素材選び、デザイン、

そしてコンセプトワークまで完璧な

デザイン・グッズと呼べる名品である。

輪ゴムが

ラバーバンドになった日

 2002年に「アッシュコンセプト」を

立ち上げた名児耶秀美が最初に手掛けた

のがアニマルラバーバンド。デザイナーは

パスキーデザイン(passkey design

)。

元々はデザインコンペの受賞作だったが、

形状的な強度に不安があり、製品化には至

らなかった。その存在を知った名児耶は

「輪ゴムってまだデザインできるんだ!」

と感激し、動物園をテーマに決め、素材は

生ゴムから子供が口に入れても安全で発

色のいいシリコーンに変更。その製品デ

ビューも、ニューヨークの知人デザイン

事務所が持つスタンドに置いてもらう

ことからスタート。やがてそれがMoMA

の目に留まり、同ミュージアムショップを

通じて世界に発信されていった。

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Page 3: VOL.129 h conceptHahaha から始まっていることで、会社名をといったポジティブな言葉が〝h〞 「 h concept /アッシュコンセプト」 とした。

ポジティブな言葉の多くは〝h〞から始まっている。

ハロー、ハッピー、ハハハ……アッシュコンセプト

 

東京・蔵前のデザインショップ

「KONCENT

」の奥の部屋、名児耶秀

美は落ち着いた語り口で「小学校から

高校までずっと私立の暁星でフラン

ス語が身近な日常だったので〝h〞を

アッシュと発音するのは特別なこと

ではありませんでした」と話し始めた。

デザインを通じたモノ作りや文化的

活動を生業とする『アッシュコンセプ

ト』は2002年に設立された会社だ。

 下町生まれの下町育ち。生粋の下町

っ子である名児耶の生家は、1872

年創業の刷毛の製造販売を行う名児

耶商店。祖父の寅松が創業し100年

以上続く会社は現在、名児耶の兄が経

営している。父清、母清子との間に生

まれた名児耶は6人兄弟の次男。戦後

の輸出で売り上げを伸ばした同社は

父の代に日本輸出ブラシ工業となり、

その後、デザイン系に憧れがあった父

は自社製品に「マーナ/MARNA」

というブランド名を付けた。昭和25年

〜45年くらいに発売した「文化のり刷

毛」はヒット商品となった。

 東京の下町で幼少期を過ごした名

児耶はやがて、持ち前の絵の才能が開

いて、高校在学時には授業が終わった

夕方から御茶の水美術学院でデッサ

ンの勉強を続けていたほど。美大へと

進んだ学生時代は髙島屋の宣伝部で

アルバイトを続け、同社にいたデンマ

ーク人デザイナーのペア・シュメルシ

ュア氏の勧めでそのまま卒業と同時

に髙島屋宣伝部に入社。神奈川県に住

んで、朝からサーフィンを楽しんだ後

に会社へ出勤する日常だったが、入社

して3年ほどで父親が倒れ、家業の手

伝いをすることになった。店舗デザイ

Tsun Tsun

PlaTawa

kcud(クード)は業務用ゴミ箱のメーカーだった積水ライフテックのコンシューマープロダクツ企画として、アッシュコンセプトがデザイン指導。ゴミ箱は売らない、というコンセプトのFrancfrancも取り扱うほど完成されたデザインとなった。kcud Slim Pedal 30 価格4860円。現在は岩谷マテリアルのブランド「I’m D(アイムディー)」として展開中。

ンや広告といった髙島屋宣伝部での

経験、上司だったペア・シュメルシュ

ア氏の薫陶を受けていた名児耶は、家

業に入るとすぐに自社製品のデザイ

ン化に着手。

 歴史ある商売の中では軋轢も多かっ

たが、製品の改良に没頭した。軽石に

ヒモを通して大ヒットさせたり、ブラ

シからイメージされる「毛屋」という

言葉を「care」に引っかけ、ボディ

ケア、キッチンケア、ハウスケアとい

った家庭用品のブランド化を推進する

中で人を集め、オシャレで斬新なカタ

ログを制作し、デザインで企業が変わ

ることを実感したという。当時日経デ

ザインの編集長だった下川一哉氏の後

押しもあって、2002年に家業を離

れて独立。Happy

、Hello

、Hahaha

といったポジティブな言葉が〝h〞

から始まっていることで、会社名を

「h concept

/アッシュコンセプト」

とした。

 会社を立ち上げて最初に手掛けた

のは、前ページで紹介したアニマルラ

バーバンド。輪ゴムがまだデザインで

きるという純粋な驚き、「いいデザイン

は命令形ではない」という製品を通し

ての気付きなど、多くの経験とヒント

を得て同社はスタートすることになる。

 その後同社は、多くのデザインプロ

ダクツを世に送り出す。才能あるデザ

イナーと製造業を結びつけることで、

新たなプロダクツを創造したり、名児

耶自身が先頭に立って企業をデザイ

ンでもう一つ上のステージに引き上

げたりすることで、その活動の幅は現

在も広がっている。2012年には幼

少期を過ごした蔵前に発信基地とな

る「KO

NCENT

」をオープン。デザ

イナーと製造者とユーザーを繋げる

プラットフォーム的役割を果たしなが

ら、蔵前という街のブランド化にも一

役買う存在に。オリジナルブランドの

+d以外にも、さまざまなデザインア

イテムが揃っていて、日本国内はもと

より海外からの観光客も足を踏み入

れるこの場所は、デザインの力、デザ

インの可能性を実感できるスペースだ。

Kaze guru ma 桜

+dブランドのシリコーン製ソープディッシュ。ツンツンと生えた100本のしなやかな突起の上に石鹸を置くと、お風呂場や洗面所で滑りやすい石鹸が扱いやすくなる。しかもこの構造なので水切れが良く、乾きも早く、高価な化粧石鹸が長持ちする。デスクトップの名刺やメモ挟みにも便利。価格1296円。カラーは5色展開。デザイナー/宮城壮太郎&高橋美礼

快適な生活空間を提案するブランド「tidy」のヒット商品PlaTawa(プラタワ)シリーズの「プラタワ・フォーキッチン」。シンクや排水カゴ、汚れの落ちにくいザルや根菜の泥落としなど、フレキシブルな形状なのでとても便利。材質は特殊配合ポリエチレン。耐熱温度60℃。価格378円。カラーはライトグリーン、グレー、ホワイト、イエロー。

「春のかぜ」を飾るマグネットとしてKONCENTの店内でも大きくディスプレイされているヒット商品。同社が開催する「アッシュコンセプト デザインコンペティション」の2017年最優秀賞受賞作品シリーズ。昔からある風車に桜の意匠を施し、桜のイメージを再現している。世界が注目する日本の財産である桜のオブジェは、日本人だけではなく海外へのお土産にも喜ばれそう。「Kaze guru ma 桜」価格各648円。カラーは濃桜、淡桜、白桜の3色。3個パック価格1620円。桜以外にも和柄など様々なバージョンがある。

下川一哉日経デザイン前編集長が「気になるデザインがあってブランド名を見るとMARNAなんだよね」と激賞したロングセラーが多くあった。

MARNA文化のり刷毛

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Page 4: VOL.129 h conceptHahaha から始まっていることで、会社名をといったポジティブな言葉が〝h〞 「 h concept /アッシュコンセプト」 とした。

monomono

蔵前〝K

ONCENT

でデザインを買う

tak KIDS DISH近代漆器の器たち

Sumi Nabeカーボン製万能調理鍋

hmny/エイチエヌエムワイレザープロダクツ

FACTORY ROBO下町工場発の手作りロボ

 

KONCENT

(コンセント)はアッシ

ュコンセプトがプロデュースするモ

ノ作りの発信基地。このショップが2

012年に登場して以来、蔵前はいい

具合に昔ながらの伝統とデザインが

上手く融合したような街へと変貌を

遂げていった。いまや蔵前の顔ともい

えるこのショップで、本当に思わず手

に取りたくなるようなモノばかりが

並ぶデザイン体験を楽しんでみよう。

ギフト選びにもここは最適。カフェも

充実している。都内各地にもショップ

があるのでチェックを。東京都台東

区蔵前2-

4-

5

☎03-

3862-

60

18

11:00AM〜7:00PM

都営浅

草線蔵前駅A1出口より徒歩1分

プラスチック(合成樹脂)の素地にウレタン塗装を施した、伝統の技術から生まれたまったく新しい近代漆器。一般的な樹脂とは風合いが異なり、その優しい手ざわり、口触りには品格がある。電子レンジ、食洗器、スタッキングもOKという機能性の高さにも注目。石川県加賀の漆器の21世紀プロジェクトといえる。スタンダードプレート価格1080円、マグ価格972円、プレートベア価格1188円、ボウル ベアS価格756円。子供向けだけど大人も使いたくなる魅力。

神奈川県綾瀬市の町工場を向上すべく発足した「あやせものづくり研究会」から誕生した、カーボン製で失敗知らずの万能調理鍋。カーボン(炭)の遠赤外線効果により、食材の中心まで熱を伝えて、食材のやわらかさや旨味を引き出してくれる。何でも美味しく調理できるが、特に肉料理では無敵のパフォーマンスを発揮する鍋、そしてプレートだ。Sumi Nabe価格6万4800円、Sumi Ita 15価格1万4040円、Sumi Ita 20価格2万1600円。

香川県で130年の伝統を持つ革製造技術と革職人の技を、新しいデザイン発想でブランド化。原材料から製品加工に至るまですべてを日本国内で仕上げるクオリティと、独特の風合いに仕上げられたレザーで、無駄のないシンプルで繊細なフォルムが特徴的な革製品ブランド。写真はベルトに取り付けられるカラビナ仕様のチョークバッグ「hmny 2マイルバッグ」 価格7020円。ビビッドな色から落ち着いたカラーまで8色展開。

あの深海艇「江戸っ子1号」で知られる、墨田区の金属加工メーカー浜野製作所が得意とするプレス技術で仕上げた金属板から、自分で部品を抜き取り、折り曲げ、接合して作り上げるロボット・トイ。ロボット技術がプログラミングではなく機械工学と信じられていた時代の懐かしさを、たっぷりと味わえる大人のホビーだ。デスクトップのオブジェとして、ペーパーウェイトとして楽しみたい。浜野製作所 ファクトリーロボ価格3240円。ファクトリーロボドッグ価格2160円。ステンレス製、専用工具付属。

●アッシュコンセプトh-concept.jp製品に関するお問い合わせはKONCENTwww.koncent.jp

名児耶秀美

アッシュコンセプト代表。武蔵野美術大造形学部在学中にデンマーク人デザイナーのペア・シュメルシュア氏に師事。アッシュコンセプトを設立後はデザイナー、プランナーとして活躍中。

Nagoya Hideyoshi

www.koncent.net

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