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8 グループについて。 千野氏――前身の 1999 年に創業したドリー ムバイザー・ドット・コムは、もともと個人投資 家向けに金融証券市場関連の情報提供を行っ ていた会社だ。2005 年に東証マザーズに上場 し、2007 年には日本証券新聞社を子会社化し たものの、昨今のインターネットの台頭により思 うように業容を拡大できていなかった。そこで、 三菱地所に在籍していた私が 2006 年に独立し て立ち上げた不動産アセットマネジメント会社で あるウェルス・マネジメントと、2013 年に株式 交換を実施。商号をウェルス・マネジメントに変 更した後に、2014 年に私が社長に就任してから、 不動産の投資・運用を行う不動産金融事業を中 核とする企業グループに大きく変貌した。日本 証券新聞社は2015 年に譲渡。現在はウェルス・ マネジメントが持株会社となり、傘下に不動産 A M 業務を提供するリシェス・マネジメント、ホ テルオペレーターのホテル W マネジメントなどを 抱える。この体制変更と機を同じくして不動産 市況が回復、当社には上場企業である信用力か ら機関投資家や事業会社から資金が集まるよう になった。この資金と自己資金でファンドを組成 し、物件取得を進めているところだ。 不動産金融事業の戦略は。 千野氏――バランスシートを大きく使ってア ウェルス・マネジメント 千野和俊社長に聞く セットを抱えていく戦略は採りたくない。金融リ スクや市場リスクを常に考慮し自己資金と投資 家資金を組み合わせた上で、適切な借入れとの オプティマイズ(最適化)によりアセットを積み 上げていく。現在、主にホテルを投資対象とし ているため、ホテルオペレーションの観点から 1 物件の取得につきそれぞれ SPC を組成し、当 社と投資家により共同出資を行っている。現在、 大阪の「イビススタイルズ大阪」と京都の「サン ルート京都」を SPC 経由にて取得、京都・東山 区でも物件を取得し今後開発した上でホテルの 開業を目指している。「イビス大阪梅田」は所有 を投資家に委ね、「イビススタイルズ大阪」と同 様にホテル Wマネジメントがホテルの運営を担う。 当社は 2 年前に策定した中期経営計画において、 2020 年までに AU M を 1000 億円に積み上げリー トを上場させる目標を掲げている。東京の物件 も仕入れ、他社との連携や M & A も視野に入れ ながら実現させていきたい。 なぜホテルセクターに注力しているのか。 千野氏――理由は大きく2 つある。1 つは投 資家の志向。当社が投資家を募ると香港、中国、 シンガポール、マレーシア等東南アジアを中心 とした海外の富裕層から反応が良い。こうした 海外投資家は投資先としてホテルを好む。オフィ スも丸の内のような一等地であれば投資したいと 「供給少ないブティック型ホテルを狙う 海外アセットに投資し地政学リスクを分散」 2005 年に東証マザーズに上場したウェルス・マネジメントは 2013 年に千野和俊氏が社長に 就任して以降、ファンドを活用した不動産金融事業への選択と集中を進めている。なかでも 10 年以上実績を積み上げてきたホテルの投資・開発を積極化しており、2020 年を目途に J リー トの上場も視野に入れる。三菱地所投資顧問の創設を担った経歴を持つ千野和俊社長に、ウェ ルス・マネジメントグループの戦略や不動産金融事業、ホテル投資について聞いた。

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Page 1: wealth-mngt.com - ウェルス・マネジメント 千野和 …8 グループについて。 千野氏――前身の1999年に創業したドリー ムバイザー・ドット・コムは、もともと個人投資

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 グループについて。

 千野氏――前身の1999 年に創業したドリー

ムバイザー・ドット・コムは、もともと個人投資

家向けに金融証券市場関連の情報提供を行っ

ていた会社だ。2005 年に東証マザーズに上場

し、2007年には日本証券新聞社を子会社化し

たものの、昨今のインターネットの台頭により思

うように業容を拡大できていなかった。そこで、

三菱地所に在籍していた私が2006 年に独立し

て立ち上げた不動産アセットマネジメント会社で

あるウェルス・マネジメントと、2013 年に株式

交換を実施。商号をウェルス・マネジメントに変

更した後に、2014 年に私が社長に就任してから、

不動産の投資・運用を行う不動産金融事業を中

核とする企業グループに大きく変貌した。日本

証券新聞社は2015年に譲渡。現在はウェルス・

マネジメントが持株会社となり、傘下に不動産

AM 業務を提供するリシェス・マネジメント、ホ

テルオペレーターのホテルWマネジメントなどを

抱える。この体制変更と機を同じくして不動産

市況が回復、当社には上場企業である信用力か

ら機関投資家や事業会社から資金が集まるよう

になった。この資金と自己資金でファンドを組成

し、物件取得を進めているところだ。

 不動産金融事業の戦略は。

 千野氏――バランスシートを大きく使ってア

ウェルス・マネジメント 千野和俊社長に聞く

セットを抱えていく戦略は採りたくない。金融リ

スクや市場リスクを常に考慮し自己資金と投資

家資金を組み合わせた上で、適切な借入れとの

オプティマイズ(最適化)によりアセットを積み

上げていく。現在、主にホテルを投資対象とし

ているため、ホテルオペレーションの観点から

1物件の取得につきそれぞれSPCを組成し、当

社と投資家により共同出資を行っている。現在、

大阪の「イビススタイルズ大阪」と京都の「サン

ルート京都」をSPC経由にて取得、京都・東山

区でも物件を取得し今後開発した上でホテルの

開業を目指している。「イビス大阪梅田」は所有

を投資家に委ね、「イビススタイルズ大阪」と同

様にホテルWマネジメントがホテルの運営を担う。

当社は2年前に策定した中期経営計画において、

2020 年までにAUMを1000 億円に積み上げリー

トを上場させる目標を掲げている。東京の物件

も仕入れ、他社との連携やM&Aも視野に入れ

ながら実現させていきたい。

 なぜホテルセクターに注力しているのか。

 千野氏――理由は大きく2つある。1つは投

資家の志向。当社が投資家を募ると香港、中国、

シンガポール、マレーシア等東南アジアを中心

とした海外の富裕層から反応が良い。こうした

海外投資家は投資先としてホテルを好む。オフィ

スも丸の内のような一等地であれば投資したいと

千野 和俊

「供給少ないブティック型ホテルを狙う海外アセットに投資し地政学リスクを分散」

 2005年に東証マザーズに上場したウェルス・マネジメントは2013年に千野和俊氏が社長に

就任して以降、ファンドを活用した不動産金融事業への選択と集中を進めている。なかでも

10年以上実績を積み上げてきたホテルの投資・開発を積極化しており、2020年を目途にJリー

トの上場も視野に入れる。三菱地所投資顧問の創設を担った経歴を持つ千野和俊社長に、ウェ

ルス・マネジメントグループの戦略や不動産金融事業、ホテル投資について聞いた。

Page 2: wealth-mngt.com - ウェルス・マネジメント 千野和 …8 グループについて。 千野氏――前身の1999年に創業したドリー ムバイザー・ドット・コムは、もともと個人投資

9不動産経済ファンドレビュー 2017.9.15

思っているが、そうした物件はほとんどマーケッ

トに出ない。一方、ホテルは今でこそ価格が上が

り投資目線の合う物が少なくなっているものの、

3~4年前は比較的大型の物件でもそれなりの

目線で買うことができていた。巨大なマーケット

の中で、当社が強みを発揮できるのはニッチ市

場。限りある社内資源を有効に使うため選択と

集中を考えた時、自ずと投資家に好まれるホテ

ルセクターに注力する方向性になった。もう1つ

の理由が、旧ウェルス・マネジメント(現リシェス・

マネジメント)におけるホテルセクターでの実績。

私が、2006 年に立ち上げたウェルス・マネジメ

ント(現リシェス・マネジメント)は当時、リーマン・

ブラザーズが共同出資し、同社のグローバルファ

ンドに対するエクスクルーシブのAM会社として

営業していた。日本で1990 年代の不良債権処

理に関連するビジネスを手掛けていたリーマン・

ブラザーズと共同で取得した資産は約1000億円

程度。このうち半分程度がホテルのポートフォリ

オだった。「つかさ」のウィークリーマンションも

その1つ。当社はAMとして保健所から指摘され

ていた問題点を改善して、ホテルにコンバージョ

ン。加えて新規で開発型ファンドを組成してバ

ジェット型ホテルを約10棟開発し、将来は上場

リートにする計画をしていた。リーマンの破綻に

より計画は頓挫したが、リーマンの後継スポン

サーの下で2013年頃まで運用し、ホテルのポー

トフォリオと運営会社をフォートレスに売却した。

それらアセットのほとんどは現在のインヴィンシ

ブル投資法人に売却され、運営会社はマイステ

イズ・ホテル・マネジメントになっている。

 ホテルセクターをどう見る?

 千野氏――ホテル特化型リートが5つあり、

総合型リートもホテルを積極的に組み入れるよ

うになった。融資環境も含め10 年前と比べると

大きく変わった。2006 年頃はホテルではファイ

ナンスがなかなか取れなかった。金融機関にし

てみると、ホテルのキャッシュフローは複雑だ。

収益源は客室から飲食、ウェディング・宴会、ス

パまで多岐にわたり、部門経費も原価も部門の

特殊性により一括管理しにくい事から、会社に

融資する感覚と変わらない。その分かりにくさか

ら、ノンリコースローン(NRL)の借入は難しかっ

た。そこで当社は宿泊特化のバジェット型に絞っ

て収益構造をシンプルにし、NRLの調達を成功

させた。今では、一部のノンリコースレンダー

だけでなくメガバンクも融資するようになり、バ

ジェット型のホテルファンドの組成が一気に増え

た。昨今は大手デベロッパーも相次いで参入し

ている。しかしそれだけに、これからはバジェッ

ト型で勝負しにくい。需給バランスもどこかで崩

れるだろう。バジェット型のADR(客室単価)は

平均すると、この4年間ほどで倍増。例えば首

都圏では8000円が1万6000円に上がった。一

方バジェット型は、いまだにどんどん供給され続

けているため、おそらくどこかでオーバーフロー

して、人気があるホテルと人気がないホテルの

ADRが二極化してくるだろう。結果として物件の

質がしっかりしていて、サービスが良く利便性の

2001年4月 三菱地所投資顧問

株式会社投資営業部長、2003

年4 月 同社取締役。2006年4

月 ウェルス・マネジメント株

式会社(現リシェス・マネジ

メント株式会社)設立、同社

代表取締役社長(現任)。2013

年 6月 当社代表取締役社長、

2017年4月当社代表取締役 兼

社長執行役員(現任)。

前職の三菱地所グループにお

ける実物及び受益権双方の不

動産取引実績は1兆円を超え

る。2001年 9月より三菱地所

が過半を出資する三菱地所投

資顧問の設立メンバーとして取

締役を務め、同社の経営に参

画した。同社では、6つの不動

産ファンド及び2つのNPLファ

ンドを運用し、その受託総額

は3000億円に上る。不動産業

界では37年のキャリアを有す

る。

●プロフィール

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10

高いホテルが現在のADRを維持できるようにな

るのではないか。

 では、どこを狙うのか。

 千野氏――マーケットをADRで見ると1万~

1万5000円のバジェット型と、5万円以上が取

れている外資系の5つ星・6つ星ホテルはすでに

それなりに供給されている。一方、3万~4万円

で提供するブティック型のホテルが少ない。当社

はこの中間価格帯を狙う。国内の大手の老舗ホ

テルが今までこの価格帯で展開してきたものの、

外資系の高級ブランドのホテルの進出で苦労し

ている。高コスト体質な上、アセットサイズが大

きく老朽化で建替えるにも多額の資金を要する

ためバリューアップが上手くいかなかった。海外

に目を移すとこの価格帯のブティックホテルが善

戦している。ニューヨークでは「ノマド」や「エー

スホテル」等のノンブランドのホテルや、マリオッ

トやアコーが「モクシー」や「Mギャラリー」など

のブティックタイプの新しいブランドを投入して

いる。宿泊費に7万円は高過ぎるけど、15㎡の

狭い部屋にも泊まりたくない。こうしたニーズは、

個人で海外旅行するインバウンドのFITや、国

内のシニア層を中心に着実に増えている。

 ブティック型の具体的なイメージは。

 千野氏――客室は25~40㎡を確保しFB(飲

食)とスパを入れる。ポイントはFB。内装はおしゃ

れで格好のいい高級感のあるものがいい。但し

カジュアルなレストランを導入する。飲み物代込

みで1人当たり7000 ~8000円ほどで楽しめる

価格設定が最適。日本の高級ホテルではそうし

たスタイルの店があまりなく、レストランウェディ

ングを展開している会社等がこの分野を牽引して

いる程度。宿泊客だけでなく外部からも人を呼

ウェルス・マネジメント 千野和俊社長に聞く

「供給少ないブティック型ホテルを狙う海外アセットに投資し地政学リスクを分散」

び込めるよう立地には留意する。また、ADRの

㎡単価は典型的なバジェット型が600~700円

なので、ブティック型は1200 ~1300円の単価

設定を意識した物づくりとノウハウが必要となる。

 ホテルの取得競争は厳しいが。

 千野氏――ソーシングはできている。当社は

ファンド形式でホテルに投資してきたキャリアが

長い。ホテル業界へのノンリコースレンダーと付

き合いが長く、当社がホテル投資に明るいこと

はよく理解されている。そのため、事業承継な

どで何か案件が出てくれば、当社に持ってきて

もらえる関係を築いている。また、マーケットか

ら良い買い手として認識されている点も大きい。

マーケット動向を理解しているし、リーマンとの

取り組みを通じてグローバルオペレーターとのつ

ながりもあるから、リブランドなど何か新しい知

恵を出して良い条件で買ってくれるのではないか

との期待を持たれている。現在はエリアを大阪、

京都、東京、リゾートなら箱根に絞って見ている。

 今後に向けて。

 千野氏――インバウンドは官民が連携して日

本の観光資源、観光インフラをしっかり整備し

ていければ、6000万人までいける実力があるは

ず。投資のチャンスはまだまだある。ただ、ホ

テルは他のどのアセットタイプよりも地政学リスク

が高い。何かリスクが発生した時のインパクトは

大きいセクターと言える。地政学リスクを分散す

るには日本国内だけに拘わらず、日本と相関性

の低い海外アセットに投資する必要があると考え

る。目下、ハワイやシンガポールに関心がある。

Jリートだと規制が厳しいため、たとえば海外ア

セットだけでポートフォリオを作り、私募リート化

する方法もあり得るだろう。