Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
鈴木美勝Yoshikatsu Suzuki
ジャーナリスト
時事通信ワシントン特派員、ニューヨーク総局長、解説副委員長、『外交』編集長を経てフリー。慶應義塾大学SFC研究所上席所員、立教大学兼任講師。著書に『日本の戦略外交』(ちくま新書)、『いまだに続く「敗戦国外交」』(草思社)など。
8
POLITICS
大スラブ主義者・プーチン大統領に〝陶酔境〟に誘い込まれる安倍晋三首相
戦後の第一のエポックは吉田茂が単
独講和に踏み切ったサンフランシスコ
講和条約の締結︑第二のエポックが岸
自身の決断した日米新安保体制の構築
︵日米安保条約の改定︶だ︒岸は︑そ
して続ける︒戦後に残された大きな課
題は憲法改正と︑外交課題の北方領土
返還である︑と︒岸の"政治的遺言"
を胸に安倍は経済協力を前面に押し出
した﹁新しいアプローチ﹂によって︑
前のめりに対露外交を進めてきた︒に
もかかわらず︑北方領土交渉は進展し
ていない︒なぜか︒思うに︑その停て
い
頓とん
は次の三つの﹁無理﹂に起因している︒
︵1︶ ﹁戦後日本外交の総決算﹂と銘打
ち︑国内政局を意識して決着を
図ろうとする無理︒
︵2︶ "小政治"でもって外交を制しよ
うとする無理︒
︵3︶ ﹁歴史的正義﹂欠落のまま︑レガ
シーづくりで主権問題を決着さ
せようとする無理︒
以下︑詳述する︒
プーチン露大統領の驚きの提案で局
面転換が図られた現在の日露交渉︒そ
の動きは︑昨秋︑ウラジオストクで始
まった︒﹁あらゆる前提条件をつけず︑
年末までに平和条約を結ぼう﹂︒第4
回東方経済フォーラムでのプーチン提
案は唐突だったが︑実はこの場面には
重要な前段があった︒
全体会合での安倍のスピーチがクラ
イマックスに差し掛かった時︑安倍は︑
聴衆の拍手を催促するようにプーチン
倍晋三首相の祖父・岸
信介は証言録の中で︑
戦後外交について語っ
ている︒
安
WEDGE
OPINION
主権守れぬ北方領土交渉 「負の遺産」を残すな
昨秋、安倍晋三首相はプーチン露大統領と共に突如「北方領土交渉」の事実上の戦略転換を図った。
しかし、国家指導者として最も重視すべき点を放棄して決着を急ぐことは、「戦後日本外交」に禍根を残す。
対露外交にある三つの「無理」
「2島プラスα」はマジックカラー
Wedge Special Report
人民元の虚像と実像「元の国際化」を目
もく
論ろ
む中国のジレンマ中国企業に「元建て決済」を求められる日本企業が増えている。ドルの独壇場だった原油取引でも、元建ての上海市場が急成長する。米ドルの足元には及ばないが、人民元の影響力は着実に増しており、好むと好まざるとにかかわらず、その実像を見極め対応する必要が出てきた。
文・李 智雄、倉都康行、Wedge編集部
1213 April 2019
BLOOMBERG CREATIVE PHOTOS/GETTYIMAGES
14
迎えたが︑18年には24・2%と低下し
ており︑23年に22・7%まで低下する
と予想されている︒
一方で中国のそれは00年に3・6%︑
18年に15・9%と上昇を続けており︑
23年には18・0%まで高まることが見
込まれている︒このままいくと30年頃
までには米中のGDPシェアが逆転す
る可能性が高いとみられている︒
さらにいえば︑長期的な二国間の為
替レートの目安となる購買力平価をベ
ースとした経済規模では︑中国はすで
に14年時点で米国を抜いているのだ︒
米国の中国に対する警戒感の発端は︑
このような経済の勢力図変化にある︒
﹁経済﹂覇権以外に重要な要素が︑﹁技
術﹂覇権の争いである︒﹁中国は長ら
く続く知的財産の窃盗︑強制的な技術
移転や他の構造的な問題など米国経済
のみならず世界の経済に与えてきた重
荷に対して取り組む必要がある﹂とい
うペンス米国副大統領の言葉を引用す
るまでもない︒中国の技術力を直接測
るのは困難であるが︑中国のそれは米
国が神経を尖と
が
らせるレベルまで高まっ
ているということだ︒
例えば米国商務省産業安全保障局
は︑バイオテクノロジーやAI︑ロボ
ティクスなど14の先端技術を指定し︑
それらが中国などへ流出しないように
米国企業のみならず︑第三国企業に対
しても輸出規制を課す準備を進めてお
り︑今年1月にパブリックコメントも
終えている︒
米中の対立は技術問題だけにとどま
らない︒その技術が使われる﹁軍事﹂
覇権の争いもある︒世界の軍事費は00
年以降︑大きく増加している︒世界の
防衛費に占める中国の割合は13・1%
と米国︵36・5%︶にはまだまだ及ば
ないものの︑着実に上昇してきている︒
中の摩擦をさまざまな形
で目にしない日はなくな
ってきた︒米国という大
国に対して︑﹁開発途上
米PART
1経済成長で
存在感増す「元」
ドルに挑む「人民元」市場が主導するシェア拡大経済、技術、軍事の覇権をめぐり米国と対立する中国。次に争うのは「通貨」だ。基軸通貨ドルとの差は圧倒的ではあるが、足元での人民元の存在感は徐々に増している。
文・李 智雄 Lee Chiwoong 三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト
通貨の覇権争いの「胎動」
国﹂といわれてきた中国が台頭してき
たことで︑多くの次元において対立が
起こっている︒重要なポイントは︑米
中の貿易摩擦という対立の構図が︑単
に一大統領や︑一政党によるものでは
なく︑﹁覇権争い﹂によって生じたも
のであることだ︒その覇権とは︑﹁経済︑
技術︑軍事︑通貨﹂という4つの分野
にまたがるものである︒どちらかがそ
の覇権争いを放棄しない限り︑両国の
対立と︑その表れとしての保護主義︑
貿易摩擦は続く可能性が高い︒
米中貿易摩擦問題の発端は︑中国の
急速な経済発展にある︒それが﹁経済﹂
覇権争いである︒米国経済の低成長と
中国経済の高成長の結果︑顕著となっ
たのは米国の世界に占めるGDP︵名
目︑ドル換算︶シェアの低下である︒
IMF︵国際通貨基金︶によると︑米
国は2002年に31・5%とピークを
IKON-IMAGES/AFLO
DAN
IEL
GRIZ
ELJ/
GETT
YIM
AGES
20
近の為替市場や株式市場
の慌ただしい展開に比べ
れば、国際通貨制度の動
きは極めて緩慢である。
10年前の金融危機の際には「ドルの信
認低下」が世界中で騒がれたが、IM
F(国際通貨基金)の統計によれば、
昨年9月末時点での準備通貨における
ドルのシェアは61・9%と、ユーロの
20・5%、円の5・0%、ポンドの4・
5%を大きく引き離しており、事実上
の「世界通貨」としての地位は揺らい
でいない。
とはいえ、ドルの占める割合が徐々
に低下していることもまた事実であ
り、2015年3月末の66・0%とい
う水準から約3年半で4・1%のシェ
ア・ダウンとなっていることを考えれ
ば、今後一段と低下する可能性もない
とは言えないだろう。
では、この間に準備通貨のシェアは
どう変わったのだろうか(21頁図)。
ドル以外の通貨をみると、ユーロは
20・0%からわずかに上昇、3・8%
と同水準にあった円とポンドはともに
1%超の上昇となっている。豪ドルや
カナダドルは1%台のシェアでさほど
変わっていない。一方で16年12月末か
最
PART
2人民元の限界とドル覇権
政治に左右される為替管理国家資本主義・中国の限界一帯一路政策や IMFのSDRバスケット構成通貨入りなどで人民元の国際化は目覚ましいが、流動性の低さや為替管理リスクなどを孕
はら
み、「基軸通貨」の地位はまだまだ遠い。
文・倉都康行 Yasuyuki Kuratsu RPテック代表取締役・国際資本システム研究所長
「基軸通貨」の夢は遥か彼方
ALEXSL/GETTYIMAGES
土居丈朗Takero Doi
慶應義塾大学経済学部教授
東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手などを経て現職。『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社)で2007年度日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞を受賞。税制調査会委員等を兼務。
52
POLITICS
安心﹂かどうかを検証するのである︒
夏には参議院選挙が予定されてい
る︒加えて︑安倍晋三内閣は︑第一次
政権期に年金記録問題に翻ほ
ん
弄ろう
された経
験から︑年金が選挙の争点となること
を忌避しているともいわれる︒すると︑
今年の財政検証は︑参議院選挙後にな
るのか︒
そうすることは︑恐らく困難と思わ
れる︒過去2回の財政検証は︑200
9年2月と14年6月には結果を公表し
た︒選挙後に先送りすれば︑検証結果
を選挙前に示せないほど政権にとって
都合が悪いのか︑と疑心暗鬼になりか
ねないからだ︒
年は公的年金の財政検
証が5年ぶりに行われ
る︒わが国の公的年金
がいわゆる﹁100年
今
では選挙前に出るであろう年金の財
政検証では︑何が焦点になるか︒それ
は︑将来にわたって安定して所得代替
率が50%を維持できるような給付が出
せて︑かつ100年後でも年金積立金
が枯渇しないかどうかを検証すること
である︒
ここでいう所得代替率とは︑受給開
始時の年金額がその時点の現役世代の
所得に対してどの程度の割合かを示す
もので︑夫が正社員として40年間平均
賃金で働き︑妻が無収入の専業主婦で
ある夫婦︵モデル世帯︶が2人で受け
取る年金額を前提としている︒受け取
る年金額は︑①夫の基礎年金︑②妻の
基礎年金︑③夫の厚生年金からなる︒
夫婦で40年間加入しているから︑夫
婦はそれぞれ満額の基礎年金︵現在で
月に約6万5000円︶がもらえ︑平
WEDGE
OPINION
時代錯誤の検証で年金改革を遅らせるな
少子高齢化が進み年金制度は限界に近付いている。今年は5年ぶりに年金の財政検証が行われるが、
時代錯誤のモデルケースに基づく楽観的な検証では、持続可能な年金制度は構築できない。
「100年安心」の落とし穴
見落とされる非正規労働者