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1
創薬開発における熱測定のITCとDSCの役割とは?
スペクトリス株式会社
マルバーン事業部
アジェンダ
› 熱測定(カロリメトリー)とは?
› ITC(等温滴定型カロリメトリー)の概要と測定例
› DSC(示差走査型カロリメトリー)の概要と測定例
2
カロリメトリーとは?
カロリメトリー: 溶液中の分子が相互作用したり、構造変化したりすることによって生じる熱量(エネルギー)変化をダイレクトに検出すること
・ 分子は相互作用することで、発熱または吸熱する
・ 熱量情報は、分子がどのように機能し、なぜ安定でいられるかの理解に役立つ
・ 医薬品の分子設計や、タンパク質分子の構造安定化あるいは機能改変などのタンパク質工学に応用されている
・ タンパク質の構造安定性の評価も可能
MicroCalには2つ測定手法がある
ITC(Isothermal Titration Calorimetry) - 等温滴定型カロリメトリー
- 分子間の結合時の熱量変化を直接測定
(分子間相互作用解析で使用)
DSC(Differential Scanning Calorimetry) - 示差走査型カロリメトリー
- 分子の構造変化時の熱量変化を直接測定
(タンパク質の構造安定性評価で使用)
3
カロリメトリーは創薬のどこに寄与しているか?
DSC&ITC
化合物
バイオ
医薬品
スクリーニング
安定性評価
最適化
保存条件
ターゲット特定
候補物質
候補物質最適化
前臨床試験
臨床試験
製造
品質管理
品質管理
凝集性
評価
ITC
DSC
カロリメトリーの情報を創薬に用いるメリットは?
構造情報に基づいた化合物候補のデザイン設計
バッチ間の品質管理
開発初期段階でのタンパク質安定性特性を把握
精製や製造プロセス条件の最適化
最適な液剤条件の決定
製造工程の簡略化
4
ITC: Isothermal Titration Calorimetry
等温滴定型カロリメトリー
リファレンスセル サンプルセル
シリンジ
断熱シールド
一定の熱を与え続ける
T=0
相互作用によって生じたΔTのずれをΔT=0になるようにフィードバックをかける
ITCの原理とシステム概要
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
5.2
5.4
5.6
5.8
6.0
6.2
Time (min)
µca
l/se
c
5
MicroCal ITCで何がわかる?
1. 相互作用するか? しないか?
2. 結合が強いか? 弱いか?
3. 結合比がいくつか?
4. 結合の種類は?
MicroCal ITCの相互作用測定の特徴は?
1. ラベルの必要がない(ノンラベル測定)
2. 固定化の必要がない
3. リアルタイム測定
4. 分子量のサイズに制限がない
6
アプリケーション例
•タンパク質 – 低分子化合物
•タンパク質 – 薬剤
•酵素 – 阻害剤
•抗体 – 抗原
•タンパク質 – タンパク質
•タンパク質 – DNA
•タンパク質 – 金属イオン
サーモグラムから得られる情報
横軸;滴定サンプル / セル中サンプル
縦軸;ΔH (熱量変化の総和)
-40
-20
0
0 10 20 30 40
Data: RNAHHH_NDH
Model: 1Sites
Chi^2 = 2795.38932
N1.02 ±0.00159
K5.57E4 ±1.01E3
H-1.359E4 ±29.18
Time (min)
µca
l/se
c
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
-14
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0
Molar Ratio
kca
l/m
ole
of
inje
cta
nt
熱量変化
7
サーモグラムから得られる情報
結合比(N)
結合定数(KA)
ΔG = -RT ln KA
ΔG = ΔH –TΔS
自由エネルギー(ΔG)、エントロピー(ΔS)は理論式から求められる
エンタルピー(ΔH)
• 自由エネルギー変化(ΔG)
パラメータ解説
・ 解離定数(KD) 分子間相互作用の結合の強さを表す指標
・ エンタルピー変化(ΔH)
化学反応(相互作用)の方向性を決める物理量の変化
全ての反応は負の方向に進む
分子間相互作用で生じた熱量変化
• エントロピー変化(ΔS)
分子間相互作用で生じた分子の乱雑さの指標
8
疎水性相互作用
水素結合
イオン結合
配位結合
(CH2)n
疎水性領域
Zn
-C-O
O
N+H2=C-NH-
NH2
-NH
-OH -C
O
カロリメトリーでは分子間で起こる、さまざまな相互作用で生じる熱量を測定することができる
相互作用の種類が想定できる
エントロピー/吸熱
エンタルピー・発熱
エンタルピー・発熱
エンタルピー・発熱
タンパク質 – 低分子化合物の例
セル; carbonic anhydrase II
シリンジ; 4-carboxybenzene-
sulfonomide
N = 0.97
KD = 730 nM
ΔH = -11.9 kcal/mol
Day, et al, Protein Sci. 11, 1017-1025 (2002)
典型的な1:1結合様式
9
タンパク質の品質管理
バッチ2ではタンパク質の活性が23%しか保持していないと考えられる
Presented by L.Gao (Hoffmann-La Roche), poster at SBS 2009
セル; タンパク質
シリンジ; ペプチド
バッチ1ではタンパク質の活性が100%保持していると考えられる
Molar Ratio
Kcal/
mol in
jecta
nt
1.0 1.5 2.0 0.5 0.0
0
-2
-4
-6
-8
- 結合比を見ることで有効結合活性濃度を求められる
- カーブの傾きを見ることで結合活性の変化を知ることができる
Fully Active
50%
“Fully Active”
Partially Active
アフィニティと結合比を利用
10
DSC: Diffirential Scanning Calorimetry
示差走査型カロリメトリー
Native Unfolded
HEAT
溶液中のタンパク質は熱を加えると高次構造を失う
この時に生じる微妙な熱量変化をDSCで検出
11
DSCの原理とシステム概要
ΔT
Refe
rence
Sam
ple
リファレンスセル サンプルセル
断熱シールド
熱を与え続け温度を
一定間隔で上昇させる 構造変化によって生じたΔTのずれをΔT=0になるようにフィードバックをかける
MicroCal DSCで何がわかる?
1. どれぐらい安定? (Tm; 変性中点温度)
2. どの条件で安定? (保存条件)
3. どうしたら安定? (変異の導入)
4. どのように変性する? (熱容量変化)
5. ドメインはいくつ?
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MicroCal DSCの特徴は?
1. ラベルの必要がない(ノンラベル測定)
2. 熱力学的パラメータを算出できる
3. 複数ドメインの構造変化を同時に解析可能
4. さまざまな生体分子の熱転移を検出
DSCアプリケーション例
• タンパク質の安定性とフォールディング研究
• タンパク質製剤の安定性
• 変異体タンパク質と野生型タンパク質の安定性の違い
• ドメイン構造分析
• 生体膜と脂質の研究
• 核酸研究
• 医薬品探索(低分子)とタンパク質- 医薬分子間相互作用
• DNA-医薬分子間相互作用
13
30 40 50 60 70 80 90
0
2
4
6
8
10
12
14
Cp
(kca
l/m
ole/
o C
)
Temperature ( o C)
定圧熱容量変化 (ΔCp;Kcal/mole/℃)
}
変性中点温度 (Tm;℃)
カロリメトリック エンタルピー変化 (ΔHcal ;cal/mole)
ファントホッフ エンタルピー変化 (ΔHvH;cal/mole)
サーモグラムから得られる情報
パラメータ解説
• 変性中点温度(Tm) 溶液中の半分のタンパク質がUnfoldingした状態
• カロリメトリックエンタルピー変化(ΔHcal) 測定結果から得られる変性の熱量変化
• ファントホッフエンタルピー変化(ΔHvH)
測定結果から導き出したKDを理論式に当てはめて得られる
変性の熱量変化
• 定圧熱容量変化(ΔCp)
タンパク質疎水面の露出に由来した熱容量変化
14
IgG1の可変領域の変化と安定性
S. Demarest et al, PEDS 19, 325-336 (2006); and
S. Demarest et al, MicroCal application note
IgG1の可変領域のわずかな配列の違いが安定性の違いに影響を与えている
↓
安定性の高いIgG = 活性が高い抗体として選ぶことができる
Protein Aからの各種溶出液条件の安定性評価
P. Acharya, MicroCal application note
Onset of
Unfolding
Tm of major
transition
Citrate +
Mannitol
pH3.5 41.0 64.7
Citrate pH3.5 34.1 59.3
• 最も抗体が安定な溶出条件を選択
• 溶液中の安定性が確認されたため、Protein Aカラムへの抗体添加量の増加が可能に(2 mg/ml →15 mg/ml)
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ITC ケーススタディ ジアミノピリミジン-レニン阻害剤の最適化 Sarver, et al, Anal. Biochem. (2007) 360, 30-40
Compound 1
IC50 = 6.6 μM
Kd = 3.6 μM
∆H = -9.50 kcal/M
T∆S = -2.00 kcal/M
開始ポイント– 「結合の弱い」 分子
16
よく使われるG/H/Sのグラフの見方
ΔG = ΔH - TΔS
結合に不利
結合に有利
ギブスの自由エネルギー変化(ΔG)
-20
-15
-10
-5
0
5
10
(kcal
mo
l -1 )
G
H
-TS
ΔG :自由エネルギー
ΔH :結合エンタルピー
TΔS :結合エントロピー
[ kcal/mol ]
[ kcal/mol ]
[ kcal/mol ]
典型的なグラフのパターン
~そこから得られる情報~
A. 強固な水素結合のネットワーク形成に構造変化を伴う相互作用パターン
B. 疎水結合が支配的な相互作用パターン(非特異的結合が起こりやすいと予測される)
C. 水素結合と疎水性相互作用が共存するパターン
Kcal/m
ol
A B C
結合に不利
結合に有利
-25
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
エントロピー (-TS )
エンタルピー (H )
自由エネルギー ( G )
ΔG = ΔH – TΔS
17
-20
-15
-10
-5
0
5
10
1 2 3 4K
ca
l/m
ol
∆G ∆H -T∆S
レニン阻害剤のアフィニティは 、3.6 μMのリード化合物から 45倍向上した79 nMの化合物へ最適化された
レニン阻害剤の最適化
DSC ケーススタディ 抗体評価 – Tm値を基準として
18
IgG1のコンストラクト選択
›Tm値の比較よりAntibody 3 を候補から外すことができる
›これらの測定は1日もかからず、迅速にコンストラクトの選択が可能 MicroCal Application Note, F. Ollila, 2004
Courtesy Novartis
Courtesy Biogen Idec
Courtesy of Novartis
pH条件の最適化
Fusion protein Antibody
pH 8
pH 7
pH 6
pH 5
pH 4.5
pH 7
pH 6.5
pH 6
pH 5.5
pH 5
pH 4.5
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他の手法による抗体の安定性評価の比較
›治療用抗体をpHを変えて各手法で1次スクリーニング
›DSCが最も正確、且つ迅速に最適な製剤の緩衝液条件を予測可能
ゲルろ過;凝集
光散乱;分子サイズ
Isoaspartate
Formation CE
DSC;Tm
Black: T=0
Grey: 2 weeks at 40 °C
Red: 4 weeks at 40 °C Ollila, Novartis Pharma AG
DSCの熱力学的パラメータの
創薬開発における意義
20
抗体精製条件の最適化による収量の向上
›抗体精製時に使用する低pH溶液は安定化を低下させる
結果として、、、
•カラムへの添加量を増やせない
•凝集が起こる可能性が高い
•プロセスで余計な操作を要する
Further Processing
Protein A
Capture
Elution Hold Step
UF/DF
Acharya, MicroCal Application Note
Tm and T1/2を元にした処方条件の検討➀
TM vs buffer/pH The data TM
Tm は安定性のインジケーターとして活用
MicroCal Application Note
courtesy Diosynth Biotechnology
21
T1/2 はTmで着目したエリアのピーク幅から
構造のコンパクトさを評価
T1/2
Tm and T1/2を元にした処方条件の検討②
バイオシミラー開発への活用
開発中のタンパク質の相対的安定性は?
先行薬と候補薬の高次構造の類似性は?
先行薬とバイオシミラーのフィンガープリントと類似性を評価
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DSCのタンパク質創薬への寄与
› DSCのみが、タンパク質の熱変性に関わる多様なパラメータ (Tms,
T1/2, Tonset, ΔCp, 可逆性, scan rate dependence)を推定できる
› DSCで得られた情報は特定のタンパク質の「変性プロファイルのフィンガープリント」 ストレス安定性と生物学的同等性の評価に有用
› DSC はFDAよりHOS(Higher Order Structure)の生物学的類似性評価のキーテクニックとして言及されている
カロリメトリーの情報を創薬に用いるメリットは?
構造情報に基づいた化合物候補のデザイン設計
バッチ間の品質管理
開発初期段階でのタンパク質安定性特性を把握
精製や製造プロセス条件の最適化
最適な液剤条件の決定
製造工程の簡略化
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まとめ
› タンパク質安定性のプロファイルや最適化は、異なるテクニックを用いて包括的に評価する必要がある
› ITCとDSCのアプリケーションはバイオ医薬品開発初期のセレクション、リード物質の最適化から製剤、QC
などほとんどのステップをサポートする
› ITCとDSCの生物物理学的な評価により、タンパク質安定性のプロファイルや、タンパク質ーリガンド間相互作用の詳細な情報を得られる
電話・メールによるお問い合わせ