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富士時報 Vol.78 No.5 2005
特
集
337(17)
XMLによるPLCソフトウェア流通の試み
松本 雅好(まつもと まさよし) 福島 幸治(ふくしま こうじ)
松本 雅好
プログラマブルコントローラのコ
ントローラ支援ツールの開発に従事。現在,富士電機機器制御株式会社システム機器事業部統合コン
トローラ推進室コントローラ開発部担当課長。
福島 幸治
プログラマブルコントローラのコ
ントローラ支援ツールの開発に従事。現在,富士電機機器制御株式会社システム機器事業部統合コン
トローラ推進室コントローラ設計生産部課長補佐。
まえがき
近年,プログラマブルコントローラ(PLC)は,制御容量の拡大や高速な演算制御,情報処理機能の追加,オープ
ンネットワークへの対応などが進んでおり,高度で複雑な
産業用設備への適用の広がりや,生活関連機器,環境関連機器などに至る用途の拡大を見せている。これに伴い,制御ソフトウェア(以下,ソフトウェアという)の複雑化・
大規模化が進行しており,増大の一途をたどるソフトウェ
アのライフサイクルコストの抑制と,環境の変化に迅速に
対応するための生産性向上,品質向上の課題を解決するた
めに,異なるベンダーの製品をインテグレートしやすいマ
ルチベンダー環境が望まれている。
富士電機はこの課題解決への一つの取組みとして,PLCプログラミング言語の国際規格である IEC61131-3に適合するソフトウェアを対象に,IEC言語の普及推進団体である PLCopen Japan(本部欧州)と協働で,XML(eX-tensible Markup Language)を用いた異メーカー,異機種間でのソフトウェアの相互利用と,ソフトウェアの新た
な流通の可能性について研究,標準化を推進している。
マルチベンダー化へのニーズ
ユーザーにとっての PLCのマルチベンダー化の対象と
しては,ハードウェア,ソフトウェア,ネットワーク,エ
ンジニアリングツールの四つが一般的であるが,ユーザー
ごとのアプリケーション機能を直接実現するソフトウェア
は特に重要である。ベンダーごとの独自性を追求した競争とともに進化と変化を遂げたプログラミング言語は,ベン
ダーや PLCシリーズ間ごとに異なるため,結果的にユー
ザーへの負担となっており,導入時の新たなロスの発生要因や,ユーザー本位のシステム構築,エンジニアリング環境構築の妨げとなっている。
例えば,オープンネットワークにより異機種間の接続性は確保されたが,これを利用するためのソフトウェアの
互換性がないために,せっかくのマルチベンダー化のメ
リットを最大限に生かせていない。さらに近年では,ハー
ドウェアの低価格化が著しく,システムを構築するための
ハードウェアコストよりも,ソフトウェアのライフサイク
ルコスト(導入,開発,保守メンテナンス,置換え)が上回るケースが多くなっており,ソフトウェアのマルチベン
ダー化のニーズへの対応の重要性が高まっている。以下に
マルチベンダー化によるユーザーのメリットを述べる。
(1) 相互利用で機器の選択幅が大幅に拡大(2) 要求に最適なシステムを構築可能(不要コストの排除)
(3) 資産活用,繰返し・重複作業の排除による生産性向上(4) 品質の一定化や,保守,メンテナンス性の向上(5) ソフトウェアや技術の現地調達による国際的競争力の
確保 これらにより,ユーザーが真に必要なシステムを効率よ
く構築可能となり,ソフトウェアのライフサイクルコスト
の大幅低減が期待できる。
図 1に示すように,富士電機はこれまでに,ソフトウェ
アのプログラミング言語表現の標準化対応を終え,次フェーズとしてソフトウェアの可搬性の実現に向け,新た
な一歩を踏み出している。
実績 2005年 計画1998年
プログラミング言語の標準化
表現形式,文法の統一
IEC61131準拠
PLCopen Japanとの協働
プロモーション
仕様・実験・検証仕様・実験・検証
PLCopen-XML
PLCopen-XMLの拡張
認証技術
認証技術
認証制度
認証制度
可搬性の確保 相互運用性の確保保証 保証
アプローチ
必要技術
富士電機の取組み
図1 ソフトウェアのマルチベンダー化へのアプローチ
富士時報 Vol.78 No.5 2005
特
集
XMLによるPLCソフトウェア流通の試み
338(18)
国際規格 IEC61131-3
IEC61131-3は,ソフトウェアのマルチベンダー・マル
チプラットフォーム化のための言語仕様のオープン化と,
ソフトウェアの新たな流通市場の形成を目的に,プログラ
ミング言語の世界規模による標準化を目指した国際規格で
ある。この規格の採用は,欧州のユーザーとメーカーを起点として米国でも浸透しており,今日ではアジアも普及の
途上にあり,世界的規模で拡大している。国内においても
この規格は JIS B 3503で制定されており,2001年には国土交通省の電気設備工事標準に採用され,その普及が加速している。
この規格の特徴を以下に記す。
(1) 適材適所で使い分け可能な 5言語を規定(図 2)
① ラダーダイヤグラム(LD) ② ファンクションブロックダイヤグラム(FBD) ③ シーケンシャルファンクションチャート(SFC) ④ ストラクチャードテキスト(ST) ⑤ インストラクションリスト(IL)(2) PLCの機種に依存しないプログラム言語として規定
している。これにより,複数ベンダーからの PLC導入時における教育負担の低減が可能である。
(3) ソフトウェアを部品化し,構造化プログラミングや,
オブジェクト指向プログラミングを可能とするための仕組みとして,ファンクションや,ファンクションブロッ
クを規定している。これらによりソフトウェアの可読性の向上や,保守の容易化が可能である。
(4) 上記に加え,変数を用いたプログラミングを規定して
いる。これにより,PLCの機種に依存しない独立性の
高いソフトウェア部品の作成,再利用,資産化が可能と
なるため,ソフトウェアの生産性と品質の向上,および
ソフトウェア部品の流通が可能である。
新たな課題
富士電機は,1998年から統合コントローラ「MICREX-
SX」で IEC61131-3を採用し,継続してその普及を推進し
ている。また,この規格を採用した PLCベンダーからは
ファンクションブロックの独立性を生かしたソフトウェア 部品の供給が始まっている。さらに,この規格を採用して
いる各国のソフトウェア技術者は,ベンダーからのプログ
ラミングツールが異なっていても,同じ背景,同じ概念で,
同じ言葉を用いて,ソフトウェアについての議論ができる
ようになっている。これは長年閉ざされていた PLCソフ
トウェアの世界では,それだけでも革新的といえる。また
将来的には,サードパーティからのソフトウェア部品の供給も期待されている。
しかしながら,IEC61131-3は,プログラミング言語の
ユーザーインタフェース,すなわち表現仕様のみを定めた
ものであり,そのソフトウェアのデータ構造仕様(ファイ
ル仕様)にまで踏み込んで規定されていないため,作成さ
れたソフトウェアは,異なるベンダー間でのデータの互換性が保証されていない。したがって,IL,STによるテキ
スト言語で記述されたソフトウェアは,そのテキストデー
タゆえの特性により特別な規定がなくても,各ベンダー
のツール間でデータの交換が可能であるが,LD,FBD,SFCによるグラフィック言語で記述されたソフトウェア
は,各ツール間でのデータの交換ができない。
グラフィック言語によるソフトウェアは,国内の主流を
占めるため,富士電機が目指すソフトウェアの真のマルチ
ベンダー化の実現に向けての新たな課題となっている。富士電機は PLCopen Japanと協働で,XML技術を適用し,
この課題の解決を推進している。
XMLの採用
IEC61131-3に準じたベンダー間や PLCシリーズ間の,
ソフトウェアのデータ交換によるポータビリティ(可搬性)の確保には,各ベンダー間で共通のファイル仕様が必要である。XMLは,構造化文書を作成するために,デー
タ構造や意味を自在に定義・記述するのに適した言語であ
り,IEC61131-3のソフトウェアモデルや,プログラム言語の構成要素も構造化して分解・表現可能であることから,
両者の親和性が高く,図 3に示すようにこのファイル仕様およびデータファイル(XMLドキュメント)の定義言語
ILLD AANDN BST
C:=A AND NOT B
C
ST
STEP1A
ACB
B C
LD
AND
FBD SFC
STEP4
STEP2 STEP3
図2 IEC61131-3におけるプログラミング言語
IEC61131-3ソフトウェアA社A機種
プログラミングツールC社C機種
プログラミングツール
B社B機種プログラミングツール
A機種PLC
C機種PLC
インポートエクスポート
インポートエクスポート
インポートエクスポート
インポートエクスポート
A社A機種プログラム
C社C機種プログラム
B社B機種プログラム
PLCopenXML
ドキュメント
B機種PLC
D社
E社
F社,G社…
図3 XMLによるソフトウェアの可搬性確保
富士時報 Vol.78 No.5 2005
特
集
XMLによるPLCソフトウェア流通の試み
として採用された。
これにより,例えば,C社 C機種用に作成したソフト
ウェアを,ツールによりいったん XMLドキュメントとし
てエクスポートし,A社 A機種用に,ツールにてこれを
インポートして利用可能となる。このように IEC61131-3に準じたオープンなソフトウェアであれば,そのプログラ
ミング言語に関係なく異機種間での相互利用が可能となる。
また,PLCopen Japanとの協働の中においては,ユー
ザーに対しマルチベンダーの範囲を保証するために,ベン
ダーへの認証制度の確立を推進している。この認証を受けた複数のベンダーを採用すれば,その間ではソフトウェ
アのポータビリティが保証される。ベンダーがこの認証情報を公開すれば,ユーザーの,採用検討のための分かりや
すい判断材料を提供できる。さらには,インタオペラビリ
ティ(動作互換を含んだ相互運用性)の認証についても確立に向け推進中である。なお,これらの認証用の基準プロ
グラムも XMLにより整備・拡充する予定である。
以上のように,ソフトウェアの真のマルチベンダー化の
実現のためには,下記の 3項への対応が必要不可欠である。
(1) IEC61131-3によるユーザー表現の統一(2) XMLによるベンダー依存のないデータ互換の確保(3) 保証の範囲を明確にする認証制度 また,輸出向け機械や,プラント制御,モーション制御などにおいて,IEC61131-3準拠の指定が拡大している中,
世界規模の標準化の流れに,日本のユーザー,ベンダーが
取り残されないためにも,一刻も早い認証システムによる
保証の実現が必要である。
XML スキーマ
XMLスキーマとは,図 4に示すように,XMLドキュ
メントファイルを作成するためのファイル仕様を定義した
データであり,下記の二つの役割を持つ。
(1) ソフトウェアのデータ変換のファイル仕様
ライブラリ配布のためのファイル仕様 実際に XMLを用いて文書やデータを作成するには,文書中でどのようなタグ(データ自体の構造とデータ型を定義するもの)や属性が使われているかなど,具体的な構造を定義しなければならない。これを行うのがスキーマで
ある。PLCopen Japanとの協働の中においては,特に LDのスキーマ開発に注力し,日本が主導して推進してきた。
実際の XMLスキーマの構成は図 5に示すように IEC 61131-3のソフトウェアモデルを構造的に分解した形式と
なっており,図 6に示すように LD言語の構成要素をさら
に構造的に分解したデータ構造となっている。
なお,LDでは FBDの要素も混在記述が可能となるよ
う考慮されている。図 7には,LDオブジェクトの構成要素である接点の構造を示す(図 6の接点の下位階層)。
表1には,グラフィック言語用に定義された XMLタグ
(グラフィックシンボル名)と,各言語への適用範囲を示す。SFCの記述にはすべてのタグを必要とするが,FBDは最も少ないタグで記述可能であり,効率的である。
339(19)
ILLD AANDN BST
C:=A AND NOT B
C
ST
STEP1A
AC
B
B C
LD
AND
FBD SFC
STEP4
STEP2 STEP3
IEC 61131-3 ソフトウェア
プログラミングツール
PLCopenXML
ドキュメント
XMLスキーマ
図4 XMLスキーマの位置づけ
図5 XMLスキーマの構成
図6 LDスキーマの構成
図7 接点の構成
接点の位置(x,y)
折れ点(x,y)の集合
接続折れ点の集合
接点のデバイス変数名
富士時報 Vol.78 No.5 2005
特
集
XMLによるPLCソフトウェア流通の試み
表 2には,グラフィック言語用タグの主要な属性を示す。
この属性には,インタオペラビリティを可能とするための
重要な要素として,実行順番も与えられている。
図 8に示すサンプルソフトウェアを,このスキーマによ
り出力した XMLドキュメントファイルの一部を図 9に示
す。
新たなソフトウェア流通とXML記述の可能性
この XMLドキュメントファイルは,業界初のベンダー
非依存のソースファイルとなる。この意味は,サードパー
ティを交えたマルチベンダー化の拡大を可能にするばかり か,ソフトウェアの新たな流通をもたらす可能性を持つ。
今日,各ベンダーからは,自社機種向けにファンクション
ブロックを主流としたソフトウェア部品の供給が独自に始まっているが,今後はソフトウェアベンダーからもソフト
ウェア部品の供給が可能となる。PLCベンダーやソフト
ウェアベンダー,インテグレーターを問わず,高度なノウ
340(20)
表1 グラフィック言語用タグと適用範囲
グループ名
.commonObjects
グラフィックシンボル
.comment
.error
.block
.inVariable
.outVariable
.inoutVariable
.label
.jump
.return
.leftPowerRail
.rightPowerRail
.coil
.contact
.step
.macroStep
.jumpStep
.transition
.selectionDivergence
.selectionConvergence
.simultaneouseDivergence
.simultanenousConvergence
説 明
コメントボックスエラーボックス
ファンクションブロック入力変数出力変数入出力変数ラベルジャンプリターン
左母線右母線コイル接点
ステップマクロステップジャンプステップトランジション選択分岐選択合流並列分岐並列合流
SFCへの適用
○
○
○
○
LDへの適用
○
○
○
ー
FBDへの適用
○
○
ー
ー
.fbdObjects
.ldObjects
.sfcObjects
表2 主要タグの属性
グラフィックシンボル
.comment
.error
.block
.block-inputVariables
.block-outputVariables
.block-inoutVariables
.inVariable
.outVariable
.inoutVariable
.label
.jump
.return
.leftPowerRail
.rightPowerRail
.coil
.contact
説 明
コメント
エラー
ブロック
FBの入力引数
FBの出力引数
FBの入出力引数
入力変数
出力変数
入出力変数
ラベル
ジャンプ
リターン
左母線
右母線
コイル
接点
入力端子
ー
ー
ー
○
ー
○
ー
○
○
ー
○
○
ー
○
○
○
出力端子
ー
ー
ー
ー
○
○
○
ー
○
ー
ー
ー
○
ー
○
○
識別番号
○
○
○
ー
ー
ー
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
実行順番
ー
ー
○
ー
ー
ー
○
○
○
○
○
○
○
ー
○
○
仮引数名
ー
ー
ー
○
○
○
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
接続折れ点
ー
ー
ー
○
ー
○
ー
○
○
ー
○
○
ー
○
○
○
SW1 SW1TON_1TONIN Q
PTT#5s CT_1ET
SW2TON_2TONIN Q
PTT#5s CT_2ET
図8 サンプルソフトウェア
富士時報 Vol.78 No.5 2005
特
集
XMLによるPLCソフトウェア流通の試み
ハウをファンクションブロックにカプセル化して実装し,
XMLにてベンダー非依存の商品として市場に流通させる
ことができれば,新たなソフトウェア市場を形成できる。
今後は,PLCopen Japanと協働で,ユーザーグループに
も当活動への参加を募り,新たなソフトウェア流通の可能性を模索,検証していくフェーズに入る。
さらに今後,XMLドキュメントファイルに期待される
用途を図 に示す。
7.1 OPCサーバとの連携
各制御プロセスのデータ構成を XMLで標準化すること
で,機種に依存しない「プロセス間のデータ交換」の実現が可能となる。この XMLは PLC内のデータの格納場所やデータへの命名規則が統一されているので,OPCサー
バと連携すれば,クライアントアプリケーション側での
PLCへの依存性を排除できる可能性が高い。
7.2 HMI〈注〉
や周辺アプリケーションとの連携
制御システムの機器構成,プログラムやデータ構成を
XMLで標準化することで,メーカーや機器に依存しない
周辺ツール(コンフィグレータ,監視用ソフトウェア,ド
キュメンテーションツール)の構築が可能である。特に,
ベンダー非依存でサードパーティ製の開発競争によるユー
ザーインタフェースの向上や,コスト競争がユーザーメ
リットとなる。
このようにソフトウェアがオープンでフラットに接続で
きる状況下では,PLCベンダーとサードパーティには同様な機会がもたらされる。PLCベンダーにとっての差別化ポイントは,ユーザーのシステムに向いた使い勝手向上の追求である。例えば,これまでのツール類はソフトウェ
アと PLCの関連づけを主体としてきたが,今後は,ソフ
トウェアと制御対象となる機械全体や,プロセス全体との
関連づけを重点としたアプローチが重要となる。
あとがき
IEC61131-3,XML,認証によるマルチベンダー環境の
実現と,XMLによる新たなソフトウェア流通の可能性を
紹介した。今後もユーザーの立場に立った標準化,オープ
ン化の対応を推進し,ハードウェアとネットワーク,ツー
ル,流通するソフトウェア部品を自在に組合せ可能な,モ
ジュラーオープンな環境の実現に一層貢献していく所存で
ある。
参考文献
(1) 垂石肇ほか.PLCopen-XMLの動向と日本での取り組み.
PLCopen Japan セミナー 2005資料.
(2) 宮澤以鋼ほか.PLCにおける XMLとインタオペラビリ
ティ.計測自動制御学会 システム・情報部門学術講演会
2004資料.
(3) PLCopen-Japan XML-WG.
PLCopen-XML 仕様説明 Rev.1. 2004-10-04.
341(21)
〈注〉HMI:Human Machine Interface
図9 XMLドキュメントファイルの例
他の開発ツール
開発ツール
XML
XML
XML XML
XML
OPCサーバ HMI
ドキュメンテーションコンフィグレータ
図10 XML記述の可能性
* 本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。