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Page 1: は じ め に る。ESCOは、そのような運用時(建設後)の状態把握を前提に、さまざまな側面を有する建築設備の性 能をコストという一つの側面のみで代表させ評価することになり、評価尺度としてはある種の偏りを有

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は じ め に

本報告は、平成 17年 4月から平成 20 年 3 月までの 3年間における空気調和設備委員会・既設設備の

省エネルギー改修小委員会の活動をまとめたものである。

1.研究の目的

既設設備の省エネルギー改修は、その潜在的省エネルギーの可能性が極めて高いことより、建築の長

寿命化への要求と相まって近年精力的に進められている。さらに、省エネルギー改修にとどまらず、エ

ネルギー効率改善にかかわるすべてのサービスを提供する業務として ESCO が展開しつつある。

本小委員会では、既存設備の省エネ改修を対象として、コミッショニングおよび ESCO の考え方を取

り入れ、総合的な省エネルギーを達成することを目的とした。ただ、ESCO の中心的な課題である経済的

な側面よりは、LCA, LCCO2などの観点より設備の更新、エネルギーの使用に関して、現状と課題の把握、

将来の方向模索に重点を置いた。なお、本小委員会は、これまでの新蓄熱システム運転制御小委員会の

研究成果を基礎とし、省エネの対象をより広げたものとなっている。

2.報告書の概要

3年間の委員会活動のなかで、各委員から発表、提案された成果の一部を、以下のように大きく分類

した。

第1章 ESCOの現状と課題

第2章 ベースライン補正の課題と手法

第3章 省エネルギー改修と運転制御における種々の手法

第4章 住宅における省エネルギーについて

すなわち、第1章では、民間資金活用型 ESCO 事業を積極的に推進している大阪府の事例を題材とし

て、基本的な考え方と ESCO の特性を説明するとともに、ESCO 事業の実施に係る法的課題、実施におけ

る種々の課題などについて整理した結果を記述した。また、ESCO 適用事業についての詳細な測定結果を

もとに、導入した技術の評価と課題をまとめている。事業者選定手続きの簡素化や海外への展開などに

ついても紹介している。

ESCO における 重要課題の一つであるベースライン補正に関しては、実 ESCO プロジェクトを通して

種々のベースライン補正手法の比較検討が行われた。実 ESCO で使用されている補正ベースラインと外気

温のみを用いた単純モデル、ASHRAE モデル、詳細な解析モデルなどを比較し、それら手法の妥当性を検

証するとともに問題点を探った。それらの結果が第2章にまとめられている。

第3章は、ESCO あるいはコミッショニングの基礎となる種々の省エネルギー改修手法、考え方の中か

ら、本委員会において議論され、今後その適用が期待される手法を中心にまとめたものである。既往の

技術を省エネルギー改修に適用しその性能評価を行ったものを中心に、新築建物ではあるが運転・運用

における改善活動の有効性を示した研究、インバータの導入がトータルな観点からの 適化を必要とし

ていることを例示した研究、あるいは熱源が面的に分布している場合にエネルギーを融通して使用する

という考え方の可能性について検討した研究など、新しい方向を示唆するものが多く提案されている。

住宅は、非住宅建物とは異なりまだ本格的な ESCO 事業の対象となっていないが、その可能性を検討

するための基礎となるエネルギー消費に関する調査事例をはじめとして、家庭のエネルギー消費におい

て大きな割合を占める給湯負荷が設備改修によりどのように変わるのかを集合住宅における調査により

明らかにした結果を第4章では報告している。さらに、ライフスタイルの変更が難しいことを考慮し、

その変更を前提としない高効率な住宅設備機器への買い替えがエネルギー消費に及ぼす効果を実験住宅

において検証している。エネルギー消費量の少なさのゆえにビジネスの対象とするには越えるべき多く

のハードルが存在するが、日本全体としてのエネルギー使用量を考慮すると、今後対応が必要な領域で

ある。

3.最 後 に

建設後に設備が初期設計時の性能を発揮しているか、その後の運転実績を各部における温度、圧力、

熱流、電力使用量などの詳細な測定に基づき性能を検証するコミッショニングの考え方が定着しつつあ

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る。ESCO は、そのような運用時(建設後)の状態把握を前提に、さまざまな側面を有する建築設備の性

能をコストという一つの側面のみで代表させ評価することになり、評価尺度としてはある種の偏りを有

していると言えるかもしれない。ただ、イニシャルコストに圧倒的な重みが置かれていたこれまでの設

計に対して、ランニングコストの重みを増した、いわゆるライフサイクルコストで評価しようという試

みであり、コストのみとはいえライフサイクルで評価するという考え方をやっと実務において実現した

ものといえる。これにより、従来は困難であった高効率だが高価な設備機器の導入が可能となり、建設

後の性能検証の重要性・必要性が一層明確にされることになった。

ただ、ESCO は、それが進めば進むほど初期投資の回収が容易な対象建物は少なくなるというジレンマ

を抱えている。今後も適用事例を蓄積することにより ESCO の課題を明確にし、その可能性を探るととも

に、ESCO の長所を生かす技術の展開と新たな方向性が必要とされており、空調設備技術者の技量が問わ

れ期待されている領域と言えよう。

既設設備の省エネルギー改修小委員会

主査 鉾 井 修 一

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委員会構成

名称: 既設設備の省エネルギー改修小委員会

設置期間: 平成 17 年 4 月~平成 20 年 3 月

委員構成:

空気調和設備委員会

委員長 石野 久彌(首都大学東京大学院)

既設設備の省エネルギー改修小委員会

主査 鉾井 修一(京都大学大学院) (3.0、4.0)

幹事 福田 正 (大阪ガス(株))(17 年度)

〃 中島 秀和(大阪ガス(株))(18 年度、19 年度) (3.1)

委員 岡本 泰英(東京電力(株))(17、18 年度)

〃 山本 秀希(東京電力(株))(19 年度)

〃 北野 博亮(三重大学)

〃 栗山 知広((株)日建設計総合研究所) (3.3)

〃 甲谷 寿史(大阪大学大学院) (3.7)

〃 古寺 典彦((株)竹中工務店)

〃 小林 陽一((株)安井建築設計事務所) (3.5)

〃 佐伯 昌彦(ダイダン(株)) (1.2)

〃 相良 和伸(大阪大学大学院) (4.1)

〃 田邊 陽一(大阪府庁) (1.1、4.2)

〃 鄭 明傑((株)三晃空調) (2.4)

〃 村澤 達 (東洋熱工業(株)) (3.2)

〃 山口 弘雅(関西電力(株)) (3.4)

〃 山下 植也(三機工業(株) (3.6)

〃 大石 晶彦((株)大林組)

〃 吉田 治典(京都大学大学院) (2.1、2.2、2.3)

〃 三浦 尚志(独立行政法人建築研究所)(19 年度) (4.3)

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目 次

第1章 ESCOの現状と課題

1.1 ESCO事業の現状と課題 ―大阪府における ESCO プロジェクト例を通して― ・・・・・・・・・・1

1.2 大阪府立母子保健総合医療センターESCO事業における省エネルギー手法と実績 ・・・・・・・・・9

第2章 ベースライン補正の課題と手法

2.1 ベースライン簡易補正手法の比較検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

2.2 シミュレーションによるベースライン補正手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

2.3 実建物を用いたベースライン補正手法の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45

2.4 システム有効度による空調システムの評価に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52

第3章 省エネルギー改修と運転制御における種々の手法

3.0 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65

3.1 S ビルの省エネエネルギー設計と実績 ―BEMS フォロー会議 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66

3.2 熱源トータル最適制御システム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72

3.3 熱損失の削減と面的熱融通 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78

3.4 低温送風を用いた空調リニューアル事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83

3.5 空調熱源設備更新時における容量分割についての検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88

3.6 部分負荷を考慮した変流量水搬送システムの紹介 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90

3.7 業務用ちゅう房の改修事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94

第4章 住宅における省エネルギーについて

4.0 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・105

4.1 都市住宅のエネルギー消費実態と住民意識に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・106

4.2 給湯設備の改修による集合住宅の給湯負荷の変化と環境共生の効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112

4.3 住宅におけるエネルギー消費と削減の可能性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118


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