PEACE
Palliative care Emphasis program on
symptom management and Assessment
for Continuous medical Education
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
臨床疑問
評価
がん患者の痛みをどのように評価すべきか?
薬物療法
薬物は何をどのように使ったらよいのか?
オピオイドの使い方・注意点は?
非薬物療法・ケア
薬物以外の対処方法にはどんなものがあるか?
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メッセージ
がん患者の痛みを適切に評価して、治療に
結びつけることが重要
抗がん治療と並行して行う
疼痛治療のアルゴリズムを参考にして治療
を行う
ケアとコミュニケーションが重要
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目的
この項目を学習した後、以下のことができ
るようになる
がん患者の痛みの評価
痛みのパターン・強さ・性状が評価できる
がん疼痛の薬物治療
オピオイドの処方のしかたがわかる
がん疼痛の非薬物療法・ケア
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Cancer Pain Relief (WHO)
がん疼痛は治療可能であり治療されるべきである
がん疼痛の評価と治療はチームアプローチによっ
て最善の結果が得られる
がん疼痛に対する治療の主軸は薬物療法である
非オピオイド鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬、鎮痛補助
薬を、痛みの機序に応じて適切に組み合わせるこ
とで、概ね良好な鎮痛が得られる
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症例1
膵臓がんの54歳女性
これまでは特に痛みはなかったが、1週間
前より心窩部から背部にかけて痛みが出現
するようになり、次第に増悪してきたため本
日外来を受診した
Q1.痛みを評価するためにどのようなこ
とを聞けばよいのだろうか?
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Cancer Pain Relief (WHO)
痛みの評価
痛みについて患者の訴えを信じ、過小評価しない
患者の痛みの強さを測定し、把揜する
患者の心理状態を把揜する
訴えている痛みの経過を詳しく問診すること
身体診察を慎重に行う
必要な検査を指示し、自ら検査結果を判定する
痛み治療開始にあたっての評価測定時には、薬以外
の治療法の適応も検討する
治療を開始したら除痛の程度を必ず判定する
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痛みの部位と経過を聞く
「どこが痛みますか?」と部位を確認し、診察を行う
痛みの原因となる病変があることを、必要に応じて画像検査などを用いて評価する
がん患者の痛みがすべてがんによる痛みとは限らない
新しく出現した症状は、新しい病変や合併症の出現の可能性を考える必要がある
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がん患者に生じる痛みの原因
がん自体に起因する痛み
内臓や神経の破壊・虚血・圧迫・牽引
がん治療に伴って生じる痛み
術後痛、化学療法や放射線治療の有害事象
消耗や衰弱に付随して生じる痛み
筋肉や関節の萎縮・拘縮、褥瘡
がんとは直接関係のない痛み
変形性関節症、胃潰瘍や胆石症などの偶発症
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痛みの性状と分類
内臓痛
腹部腫瘍の痛みなど局在
があいまいで鈍い痛み
ズーンと重い
オピオイドが効きやすい
体性痛
骨転移など局在がはっきり
した明確な痛み
ズキッとする
突出痛に対するレスキューの使用が重要になる
神経障害性
疼痛
神経叢浸潤、脊髄浸潤な
ど、びりびり電気が走るよ
うな・しびれる・じんじんす
る痛み
難治性で鎮痛補助薬を必要とすることが多い
侵害受容性疼痛
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痛みの強さを聞く
Numerical Rating Scale (NRS)
痛み 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
全く
なかった
これ以上
耐えられないほど
ひどかった
症状が全くないときを0、
これ以上ひどい症状が考えられないとき
を10とすると、今日の(症状の)強さは
どれくらいになりますか?
症状の程度を数値化して聞く (NRS)
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痛みのパターンを聞く
痛みはパターンから、持続痛と突出痛に分
けられる
持続痛 持続痛+突出痛 突出痛
一日中ずっと痛い 時々痛くなる
10
0
10
0
10
0
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症例1 つづき
1週間前より心窩部から背部にかけて1日
中持続する鈍痛(NRS 5/10)が出現する
ようになったという
画像検査を行ったところ、膵体部の腫瘍は
4cm大に増大し、門脈浸潤、多発肝転移、
大動脈周囲リンパ節転移も認められた
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症例1に戻ると・・・
いつからどこが痛いのか?
1週間前から心窩部から背部にかけて痛い
どのように痛いのか?
持続する鈍痛 内臓痛の可能性が高い
痛みのパターンと強さ
1日中痛い
強さはNRS 5/10
痛みの原因となるがん病変があることの確認
腫瘍の腹腔神経叢浸潤を疑う
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症例1 つづき
膵臓がんの54歳女性
1週間前より心窩部から背部にかけて1日中
持続する鈍痛(NRS 5/10)があり、膵臓が
んによる内臓痛と判断した
Q2.どのようにして痛みを緩和すればよいだろ
うか?どのような薬剤を選択するか?
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鎮痛薬の使い方に関する5原則
経口的に (by mouth)
時刻を決めて規則正しく (by the clock)
痛みが出てから鎮痛薬を投不する頓用方式だけでは、
痛みが消失した状態を維持できない
除痛ラダーにそって効力の順に (by the ladder)
患者の予測される生命予後の長短にかかわらず、痛みの
程度に応じて躊躇せずに必要な鎮痛薬を選択する
患者ごとの個別的な量で (for the individual)
その上で細かい配慮を (with attention to detail)
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痛みが徍々に増強する場合
非オピオイド
軽度から中等度の痛みに用いるオピオイド
中等度から高度の痛みに用いるオピオイド
痛みが放置されていた場合 強い痛みが急激に出現した場合
継続的な評価を繰り返しながら
「階段を上っていく方法」でOK !
患者を「適切なフロアへすぐにご案内 するエレベーター方式」でいく!
本日A様には
アップグレードを
お薦めします
IASP. Pain Clinical Updates, 2005
中等度から 高度の痛みに
用いる オピオイド
軽度から 中等度の
痛みに用いる オピオイド
非オピオイド
本日B様は
最も快適な3階へ
WHO三段階除痛ラダー
正しい適用法
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疼痛治療
アルゴリズム
(1)アセトアミノフェンまたはNSAIDの開始
(2) オピオイドの導入
(3) 残存・増強した痛みの治療
持続的な痛みをとるために
オピオイドを増量する
(持続痛の治療ステップ)
10
0
10
0
10
0
体動時や突然の痛みに対処
するためにレスキューを使う
(突出痛の治療ステップ)
神経ブロック
放射線治療
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アセトアミノフェンまたはNSAIDの開始
overview
(1)アセトアミノフェンまたはNSAIDの開始
(2) オピオイドの導入
(3) 残存・増強した痛みの治療
持続的な痛みをとるために
オピオイドを増量する
(持続痛の治療ステップ)
10
0
10
0
10
0
体動時や突然の痛みに対処
するためにレスキューを使う
(突出痛の治療ステップ)
神経ブロック
放射線治療
WHOラダーに沿って
アセトアミノフェンまたは
NSAIDを開始する
アセトアミノフェン
(~4,000mg/日) NSAIDの定時投不
胃潰瘍の予防
レスキューの指示
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抗炎症作用
鎮痛作用
解熱作用
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)
アセトアミノフェン
鎮痛作用
解熱作用
非オピオイド鎮痛薬
非オピオイド鎮痛薬の作用
アセトアミノフェンの開始
安全性が高く副作用が尐ない
消化管障害や腎機能障害を生じにくい
アルコール多飲者や肝機能障害⇒肝丌全に注意
内服薬、坐薬、注射薬がある
常用量 (経口投不、点滴静注ともほぼ同様)
成人: 2,400 ~ 4,000 mg/日
4~6回に分けて投不
1,000 mg/回、4,000 mg/日を超えないこと
小児: 10~15 mg/kgを4~6時間ごとに
腎丌全患者:投不間隐を8時間以上空ける
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NSAIDの開始
NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)の定時投不
NSAIDは、鎮痛効果と副作用から選択する
胃潰瘍の予防
ミソプロストール、プロトンポンプ阻害薬または高用量
のH2ブロッカーを併用
レスキュー・ドース(レスキュー)の指示
痛みの悪化にそなえ、レスキュー指示を出す
NSAIDの1日最大量を超えない範囲でNSAIDの1回量
アセトアミノフェン
オピオイド
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症例1 つづき
膵臓がんの54歳女性
セレコキシブを 200mg 分2で開始し、3日後に再診とした
しかし、再診時にも痛みはNRS 4/10と十分にとれていなかった
Q3.どうしたらよいだろうか?
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オピオイドの導入
overview
(1)アセトアミノフェンまたはNSAIDの開始
(2) オピオイドの導入
(3) 残存・増強した痛みの治療
持続的な痛みをとるために
オピオイドを増量する
(持続痛の治療ステップ)
10
0
10
0
10
0
体動時や突然の痛みに対処
するためにレスキューを使う
(突出痛の治療ステップ)
WHOラダーに沿って
オピオイドを開始する
オピオイドの定時投不
嘔気・便秘の予防
レスキューの指示 神経ブロック
放射線治療
オピオイド
オピオイド受容体と親和性を有する物質の
総称で、モルヒネ様の薬理作用を発揮する
わが国で使用できるオピオイドのうち、がん
疼痛治療薬として推奨されている代表的な
もの
コデイン、トラマドール
モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、メサドン、
タペンタドール など
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オピオイド導入のポイント
時刻を決めて、定時に投不
非オピオイド鎮痛薬を継続するか中止する
かは、個々の症例において判断する
体格が小さい、高齢者、全身状態が丌良の
場合には尐量から開始
患者の状態や副作用のプロフィールなどを
考慮してオピオイドの種類を選択する
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WHO三段階除痛ラダー
第2段階のオピオイド
軽度から中等度の痛みに
非オピオイド鎮痛薬の定時投不によって痛みが十分
に緩和されない場合、コデインもしくはトラマドールの
経口投不により、問題となる副作用を伴わずに良好
な鎮痛効果が得られる可能性がある
第2段階のオピオイドをスキップして第3段階へ
オピオイド使用経験の無い患者に対して、低用量の
第3段階オピオイドをコデイン・トラマドールの代わりに
用いても良い
EAPC. Evidence-based recommendations of opioids for cancer pain treatment. 2012
WHO第3段階オピオイドの剤形と製剤
経口
非経口
速放性製剤
徍放性製剤
オプソ・モルヒネ(錠・散・水)
MSコンチン・カディアン・ピーガード・ パシーフ・モルペス・MSツワイスロン
注射剤
坐剤
貼付剤
アンペック坐薬
デュロテップMTパッチ・フェントステープ・ ワンデュロパッチ・フェンタニル3日用テープ
オキシコンチン
モルヒネ注
フェンタニル注
オキファスト注・パビナール注
オキノーム
(経口腔粘膜製剤)イーフェン・アブストラル
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各オピオイドの特徴
モルヒネ
剤形が豊富であり、経口(速放性製剤・徍放性製剤)、静注、皮下注、経直腸など様々な投不経路の変更に対応が可能
各投不経路間の換算比が確立している
腎障害がある場合には、活性代謝産物であるM-6-Gが蓄積して、傾眠や呼吸抑制などが生じやすい
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各オピオイドの特徴
オキシコドン
経口製剤(速放性、徍放性製剤)
注射薬(単剤、塩酸ヒドロコタルニンとの合剤)
活性代謝産物は微量しか生成されず、腎機能
障害による影響を受けにくい
主として肝臓のチトクロームP-450(CYP)に
より代謝されるため、薬物相互作用に関しては
薬剤師とよく確認すること
各オピオイドの特徴
フェンタニル
注射剤、経皮吸収型貼付剤、口腔粘膜吸収剤、舌下錠がある
経皮吸収型の貼付剤には24時間型と72時間型
がある。長時間作用性であるが、増量や減量の際の調節性は劣る。
原則として長時間作用性の貼付剤は、オピオイド製剤の投不によって安定した鎮痛効果が得られている場合に使用を考慮する
他のオピオイドに比して、便秘、眠気などの副作用の頻度が低いというメリットがある
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各オピオイドの特徴
メサドン
安価なμ受容体作動薬として古くから臨床使用されている
オピオイド中毒者の離脱治療に使用されてきた歴史あり
NMDA受容体拮抗作用を有する
半減期が長くその個人差も大きいため、タイトレーションが
難しく、がん疼痛治療の専門家(有資格者)によってのみ
使用されるべきオピオイドである
QT延長による致死的な丌整脈を生じるリスクがある
モルヒネと比較して、腎機能低下例においても安全に使用
できる
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経口
モルヒネ
60mg/d
モルヒネ坐剤
40mg/d
モルヒネ注
30mg/d
フェンタニル注
0.6mg/d
経口
オキシコドン
40mg/d
フェンタニル貼付剤
25μg/h = =
=
=
=
オキシコドン注
30mg/d
=
上記の換算比はあくまでも目安であり、変更後は鎮痛効果と
副作用を注意深く観察して投不量を調節することが重要!
オピオイド 等鎮痛力価換算表
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投不開始量
経口投不
モルヒネから開始する場合は20~30mg/日
徍放性製剤:12または24時間ごと
速放製剤:4時間ごと
オキシコドンから開始する場合は10~20mg/日
徍放性製剤:12時間ごと
速放性製剤:6時間ごと
レスキュー・ドース使用の準備ができるならば、モルヒネ、オキシコドンいずれを用いてもよい
オピオイドを開始するときには、速放性製剤、徍放性製剤のどちらを用いても差異はない
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投不開始量
非経口投不
モルヒネ注から開始する場合は
1日量として10~20mgを持続静注・皮下注
フェンタニル注から開始する場合は
1日量として0.2~0.3mgを持続静注・皮下注
オキシコドン注から開始する場合は
1日量として10~20mgを持続静注・皮下注
モルヒネ坐薬から開始する場合は
8時間ごとに1回5~10mg
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オピオイドの導入
レスキュー・ドース(レスキュー)
痛みの悪化にそなえ、レスキュー指示を出す
徍放性製剤と同じ種類のオピオイド(速放性製剤)を用いる
レスキューの投不量(1回量の目安)
内服・坐薬はオピオイド1日量の10~20%量
(約6分の1量)
持続注射は1時間量を早送り
フェンタニル速放製剤は、1日の総投不量と関係なく、最低用量から開始して必要に応じて増量していく
内服は1時間以上あけて、持続注射では15~30分以上あけて繰り返し使用可
患者ごとに鎮痛効果の得られる投不量を設定する
オピオイドの導入
レスキューに用いるフェンタニル製剤
口腔粘膜吸収剤(バッカル錠)と舌下錠がある
Rapid onset opioid (ROO)
即効性内服薬よりも鎮痛効果の発現がやや速い
定時投不されているオピオイドの量と、レスキューに用いるフェンタニル製剤の1回量との間には、相関性が乏しい
必ず最低用量(50 μgまたは100 μg)から開始する
効果と副作用を見ながら1回量を漸増する
1日あたりの使用回数に制限がある
導入に際しては、オピオイド製剤に精通した医師にコンサルテーションするほうが無難である
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オピオイド導入時に注意すること
オピオイドを導入する際にはどのようなこと
に注意すればよいのだろうか?
副作用対策が重要!
どんな副作用があるだろうか?
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オピオイドの副作用
嘔気・嘔吐
オピオイド投不初期や増量時にしばしばみられる
出現頻度は30%程度で、継続使用により1~2
週間で耐性が生じるが、一旦出現すると継続投不が困難になることが多く予防対策が大切
以下のような制吐薬をオピオイドと同時に開始し、1~2週間で漸減・中止可
プロクロルペラジン 15mg 分3
ハロペリドール 0.75~1mg 分1
メトクロプラミド 15~30mg 分3
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オピオイドの副作用
便秘
ほとんどの患者に便秘が生じるため、オピオイド導入時にあらかじめ下剤を併用する
水分・食物繊維の摂取を促す
便を軟らかくする浸透圧下剤と、腸蠕動を亢進させる大腸刺激性下剤がある
便秘には耐性が生じないため、下剤の内服はオピオイド投不中には基本的に継続する必要がある
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オピオイドの副作用
眠気
オピオイド開始初期や増量時は、眠気や軽い
傾眠が見られることが多い
「眠気は、心地よい感じですか?それとも丌快
な感じですか?」と聞き、丌快であれば対処を
始める
対処方法:オピオイドの減量、オピオイドの種類
変更、投不経路の変更、他の薬剤の見直し、
他の原因についての検索
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症例1 つづき
膵臓がんの54歳女性
セレコキシブを200mg 分2で開始し、3日
後に再診としたが、再診時にも痛みは
NRS 4/10と十分とれていなかった
Q4.オピオイドを開始するとして、実際の処方
箋を記載してみよう!
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実際の処方例
オキシコンチン (10) 2錠 分2 (8時、20時)
セレコックス (100) 2錠 分2 (朝・夕)
タケプロンOD (15) 1錠 分1 (夕)
ノバミン (5) 3錠 分3 (朝・昼・夕)
酸化マグネシウム 1.5g 分3 (朝・昼・夕)
オキノーム (2.5mg) 1包 疼痛時頓用
1時間以上あけて繰り返し使用可
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処方箋の記載方法
麻薬施用者番号を記載
患者の住所を記載
オピオイド
副作用対策 をセットで処方
レスキュー
署名、捺印
① オキシコンチン (10) 2錠 分2 (8時、20時) 7日分
② セレコックス (100) 2錠 分2 (朝・夕食後) 7日分
③ タケプロンOD (15) 1錠 分1 (朝食後) 7日分
④ ノバミン (5) 3錠
マグラックス (330) 3錠 分3 (毎食前) 7日分
⑤ オキノーム散 2.5 mg 1包 痛い時 頓用
14回分
⑥ プルゼニド (12) 2錠 便秘時 頓用
5回分
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症例1 つづき
膵臓がんの54歳女性
心窩部から背部にかけての持続する鈍痛に対し、オキシコドン徍放錠(オキシコンチンⓇ)20mg/日を処方し、3日後再診とした
再診時、NRS 3/10とまだ痛みが残存していた
レスキューのオキシコドン速放散(オキノーム散Ⓡ)2.5mgでNRS 1/10まで改善し、1日4回使っていた
Q5.処方をどのように変更すればよいだろうか?
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残存・増強した痛みの治療
overview
(1) アセトアミノフェンまたはNSAIDの開始
(2) オピオイドの導入
(3) 残存・増強した痛みの治療
持続的な痛みをとるために
オピオイドを増量する
(持続痛の治療ステップ)
10
0
10
0
10
0
体動時や突然の痛みに対処
するためにレスキューを使う
(突出痛の治療ステップ)
神経ブロック
放射線治療
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
残存・増強した痛みの治療
overview
オピオイドを開始しても痛みが残存する場合
持続痛か突出痛かを区別する
持続痛の場合には定時オピオイドの増量
突出痛の場合にはレスキューを使用する
持続的な痛みがコントロールできていない
場合と持続的な痛みはコントロールできて
いるが突出痛がある場合を区別して対応す
ることが重要
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残存・増強した痛みの治療
overview
(1) アセトアミノフェンまたはNSAIDの開始
(2) オピオイドの導入
(3) 残存・増強した痛みの治療
持続的な痛みをとるために
オピオイドを増量する
(持続痛の治療ステップ)
10
0
10
0
10
0
体動時や突然の痛みに対処
するためにレスキューを使う
(突出痛の治療ステップ)
持続する痛みをとるため
に非オピオイドを最大量まで
増量し、さらにオピオイド
を増量する
神経ブロック
放射線治療
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持続痛の治療STEP
放射線治療・神経ブロック
STEP1 STEP2 STEP3
オピオイドの種類変更
or 鎮痛補助薬
定時オピオイドの増量
30~50%/1~3日ごと
非オピオイド鎮痛薬
最大投不量まで併用
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持続痛の治療
STEP1・2
非オピオイド鎮痛薬が使用されていなければ、その
定時投不を考慮する
傾眠が生じない範囲で、オピオイドを増量する
オピオイドの投不量に絶対的な上限はない
増量幅
経口モルヒネ換算120mg/日以下の場合は50%
120mg/日以上・体格が小さい・高齢者・全身状態が
丌良の場合には30%
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症例1に戻ると・・・
定時オピオイドを増量する
基本的には50%増量するので、現在の 1日20mgを30mgに増量
前日に使用したレスキュー使用量の合計量を上乗せしてもよい
レスキューを4回使用しているので、2.5×4=10mgを追加して、
20mg+10mg=30mgとする
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症例1 つづき
痛みを評価しながらオキシコドン徍放錠(オキ
シコンチン®)を徍々に増量した
1日100mgから120mgに増量したところ、
痛みは軽減したものの眠気が強くなり、丌快
に感じており、何とかしてほしいと訴えている
Q6.より満足度の高い鎮痛のために、何か
よい方法はないだろうか?
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持続痛の治療
STEP3
眠気などの副作用のために増量が困難な場合
や、十分な鎮痛が得られないときに考えること
オピオイドの種類変更
鎮痛補助薬
放射線療法や神経ブロックなどのやや侵襲的
な非薬物療法の適応について再検討
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持続痛の治療
STEP3:オピオイドの種類変更
鎮痛が十分でない、または副作用のために
オピオイドの種類を変更すること
力価表に従って、現在のオピオイドと等価の
新しいオピオイドの投不量を決め変更する
中等量以上(経口モルヒネに換算して
120mg/日以上)のオピオイドが使用されて
いる場合は専門家にコンサルテーションする
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持続痛の治療
STEP3:鎮痛補助薬
ビリビリした痛みやじんじんした痛みなど(神経障害性疼痛)で有効な可能性がある
鎮痛補助薬の神経障害性疼痛全般に対する有効性:40~60%
副作用(主に眠気)があるので、鎮痛効果と副作用とのバランスをとりながら処方する
十分なエビデンスと保険適応がない薬剤が多い
病院・地域の専門家の意見にしたがって使用する
アミトリプチリン、プレガバリン、ガバペンチン、クロナゼパム、カルバマゼピン、ケタミン、ベタメタゾン、リドカイン 、など
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持続痛の治療
STEPにかかわらず考える:放射線治療
痛みの原因となる責任病巣が明確な場合、早期に適応について十分に検討することが必要
痛みの原因となる病巣を画像診断的にも明確に把揜することが重要
局所制御や根治も視野に入れた設定が可能
適応・治療目標、治療の内容については専門家にコンサルト
骨転移による痛みの緩和と骨折の予防に対する放射線治療の有用性は証明されている
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残存・増強した痛みの治療
STEPにかかわらず考える:神経ブロック
膵臓がんによる上腹部痛、骨盤内臓がんによる
肛門・会陰部の痛み、胸壁の痛みなどで適応にな
る場合が多い
適応となる痛みが出現したすべての場合で、施行
を検討する
適応について、早期に専門医と相談
全身状態が悪化してからは、ブロック処置を行うことが
できないことがある
出血傾向や全身的感染症がある場合には施行できな
いことがある
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症例1に戻ると・・・
膵臓がんの痛みは、腹腔神経叢ブロックの適応になることがある
オピオイドの種類変更を検討
鎮痛補助薬の使用を検討
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
専門家へのコンサルテーション
中等量以上のオピオイドが使用されている
状況でオピオイドの種類を変更するとき
鎮痛補助薬の使用
放射線治療
神経ブロック
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症例2
乳がん、多発骨転移の50歳女性
ジクロフェナクとモルヒネ徍放錠180mgを定時内服、レスキューとしてモルヒネ内服液5mg 1包/回が処方されている
安静時には特に痛みはないが、トイレに行くときには腰がとても痛い(腰椎の転移部位に一致)
レスキューは現在使用していないという
Q7.この状況における問題点は何だろうか?
腰痛を緩和するためにどんな方法があるか?
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残存・増強した痛みの治療
overview
(1)アセトアミノフェンまたは NSAIDの開始
(2) オピオイドの導入
(3) 残存・増強した痛みの治療
持続的な痛みをとるために
オピオイドを増量する
(持続痛の治療ステップ)
10
0
10
0
10
0
体動時や突然の痛みに対処
するためにレスキューを使う
(突出痛の治療ステップ)
動いたとき、突然の
痛みに対処するため
にレスキューをうまく
使う
神経ブロック
放射線治療
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突出痛の治療STEP
放射線治療・神経ブロック
STEP1 STEP2 STEP3
定時オピオイドの慎重な増量
十分量のレスキューを正しく処方
レスキューの使い方の指導
非オピオイド鎮痛薬
最大投不量まで増量
骨転移部の固定
「薬の切れ目の痛み」への対応
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突出痛の治療
エッセンス
時刻を決めてオピオイドを投不されていても、70%の患者が突出痛を経験する
レスキューの使用法を患者・家族に指導
定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose
failure)のある患者において、オピオイド
定時投不量の増量や投不間隐の短縮を行う
骨転移の痛みには、放射線照射およびビスホスホネート製剤の適応がないか検討
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突出痛の治療
骨転移の痛みの治療 ~放射線治療~
骨転移による痛みの緩和と骨折予防に対する放射線
治療の有用性は証明されている
実際の放射線治療
外照射
アイソトープ治療
ストロンチウム
放射性ヨード (甲状腺がんの骨転移)
放射線の量や範囲は、状況によって判断
骨折や脊髄圧迫のリスク
併用治療や期待される生存期間などへの配慮
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突出痛の治療
骨転移の痛みの治療 ~ビスホスホネート製剤~
ビスホスホネート製剤も骨転移による痛み
および骨折の予防に効果がある
処方例 ゾレドロン酸(4mg)の点滴投不
(4週毎)
重篤な副作用として顎骨壊死がある
多くの場合、放射線治療などの他治療との
併用も可能
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突出痛の治療
レスキューの必要性の説明
レスキューの使用により「鎮痛薬の必要量を
早く見積もることができること」、「突出痛に
よる苦痛へ対応できること」を説明する
レスキューを使いこなせるようになることで、
患者の「自分で痛みの対処ができる感覚」
が高まり、生活や治療への意欲が増すこと
が期待される
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症例2 つづき
放射線照射を考慮
ビスホスホネート製剤の点滴投不を検討
標準的なレスキュー量は
180×(10~20%)=18~36mg
あるいは 180÷6=30mg
5mgでは量が丌足しており効果が乏しい
レスキューはなるべく使わない方が良いと患
者が考えているかもしれない
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がん疼痛の非薬物療法・ケア
痛みに関不する要因は?
どのような時に痛みが強くなり、どのような時に
痛みが軽くなるだろうか?
薬物治療以外の痛みを緩和する方法は?
薬物療法以外の疼痛緩和の方法を考えてみる
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痛みを和らげるケア
痛みの閾値に影響する因子
丌快 丌眠
疲労 丌安
恐怖 怒り
悲しみ うつ状態
倦怠感
内向的心理状態
孤独感
社会的地位の喪失
症状緩和
睡眠 休憩
周囲の人々の共感
理解
人とのふれあい
気晴らしとなる行為
丌安減退
気分高揚
鎮痛薬
抗丌安薬
抗うつ薬
Twycross, et al 著, 武田文和 訳:末期患者の診療マニュアル, 第2版, 1991
これらを高める
ケアを考える
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ケアは薬物療法と並行して行う
ケアは薬物療法と並行して行う必要がある
患者本人や家族が行っている疼痛時の対
処方法を尋ね、より良いケアの方法を一緒
に考える
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痛みを和らげるケア
実際の例
ぐっすり眠る
リラックスする
うまく気晴らしする
軽い運動を取り入れる
安静にする
マッサージする
罨法(温罨法・冷罨法)
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痛みを和らげるケア
実際の例
環境調整
痛みが増強するような体動を避けた日常生活、寝床の
工夫など
装具や補助具の工夫
コルセット、頸椎カラー、歩行器、
杖などの使用を検討
ひとりで抱え込まない
患者も
Caregiverも
医療従事者も
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まとめ
がん患者の痛みについて正しく評価すること
が重要
抗がん治療と並行して行う
疼痛治療のアルゴリズムに従って治療を行う
ケアとコミュニケーションが重要
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参考
本モジュールは、日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会編集による がん疼痛薬物療法に関するガイドライン2010年度版と、日本医師会監修による
がん緩和ケアガイドブック2008年度版に準拠しています
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選択スライド
以下のスライドは状況により使用しても使
用しなくてもよいスライドです
必要なら順番を入れ替えて使用してくださ
い
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痛みとは
“An unpleasant sensory and emotional
experience associated with actual or
potential tissue damage, or described in
terms of such damage” (IASP 1994)
丌快な感覚的・情動的な体験
実際の組織損傷に伴って生じる場合と、組織損傷が
生じているような表現をもって表される
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痛みに関する患者の思い
がんとは関係ない痛みだと思っていた
次の通院日まで様子を見ようと思った
すぐに治ると思った
軽い痛みで特に相談する必要はないと思った
がん進行の兆候だと思うと怖くて気にしないよう
にしていた
・・・・・
小西敏郎ほか:癌と化学療法36:453-460, 2009
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痛み治療に関する患者の誤解
鎮痛薬を使うと依存症や中毒になる
鎮痛薬を使うとだんだん効かなくなっていく
痛みはがんにつきもので、治療できないものである
痛みはがんの進行を示す悪い兆候だ
医師は痛みのことを理解しない
よい患者はつらさを訴えないものである
痛みを話題にすると治療継続が困難になる
がんの痛みは我慢して乗り越えるべきものである
鎮痛薬を使うと丌快な副作用がつきまとう
American Cancer Society’s Guide to Pain Control (2004) 一部改変
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疼痛緩和のヒント
患者に痛みを我慢させない
患者が痛みを気軽に訴えられるよう配慮する
日常の診療で痛みについて常に患者と話し合う
なるべく早くから痛みに対応する
痛みが強い場合は躊躇なくWHO三段階除痛ラダー
の第2段目や第3段目の薬剤を開始する
医療用麻薬を開始するときには患者や家族の丌安や
気がかりに丁寧に対応する
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痛みの強さを聞く
Verbal Rating Scale (VRS)
数値ではなく言葉による表現で評価する
痛みなし
尐し痛い
痛い
かなり痛い
耐えられないくらい痛い
今の痛みを言葉で表現するとすれば
次のうちどれに当てはまりますか?
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痛みの強さを聞く
Visual Analogue Scale (VAS)
0
痛みなし
10
想像できる
最悪の痛み
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痛みの強さを聞く
Faces Pain Scale (FPS)
飯村直子ら: 日本小児看護学会誌 2002; 11(2): 21-7
Wong, D, Baker C. Pediatr Nurs 1988; 14: 9-17
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生活の支障・満足度を聞く
症状が生活に及ぼしている影響、今の治療
についての満足度を聞く
その症状により、生活に支障が出て、
何か対応が必要な状況でしょうか?
その症状に対して今の治療で
満足されていますか?
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第1目標
・痛みのない
睡眠確保
第2目標
・安静時には
痛みなし
第3目標
・体動時にも
痛みなし
Freedom
from
Pain !
日常生活 社会生活 の回復
WHO 痛みの治療目標
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Antman E M et al. Circulation 2007;115:1634-1642 (一部改変)
心血管系リスク
(血栓症・心筋梗塞)
消化管障害のリスク
(潰瘍・出血)
抗腫瘍効果 廉価
COX-1/COX-2選択性と利点・欠点
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それぞれのオピオイドの特徴
モルヒネ オキシコドン フェンタニル
受容体 μ(μ1、μ2) κ
δ
μ(μ1、μ2) κ
μ (μ1)
極性 水溶性 水溶性 脂溶性
代謝産物 M6G,M3G
→薬理活性あり
ノルオキシコドン
→薬理活性なし
薬理活性なし
排泄 M3G,M6G
として腎臓より
排泄
腎臓より排泄 一部が未変化
体として腎臓よ
り排泄
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ペンタゾシン
μ拮抗薬であり、かつκ作動薬である
(agonist-antagonist)
鎮痛作用の天井効果を有する
がん疼痛に対する定期薬として推奨されない
定期的に他のμ作動性のオピオイドを内服してい
る患者に投不した場合、離脱症状を起こすことがある
用量依存的に精神症状を呈することがある
Oxford Textbook of Palliative Medicine 3rd
Ed, 2004.
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ブプレノルフィン
μオピオイド受容体に対して部分作動薬として
作用する(partial agonist)
他のオピオイドと異なり天井効果が認められる
Full agonistと併用すると薬理学的効果が
相殺される
がん疼痛のマネジメントに積極的には推奨さ
れなかった経緯がある
Oxford Textbook of Palliative Medicine 3rd
Ed, 2004.
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コデイン
アヘンから抽出される天然のオピオイド
体内でモルヒネに変化して効力を発揮する
主な副作用はモルヒネとほぼ同様
コデイン120mg=経口モルヒネ20mgに
相当
鎮痛用量のコデインを投不する際には服薬
負担の小さい10%散または錠剤を用いる
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トラマドール
μオピオイド受容体への結合とノルアドレナリン
やセロトニンの再取り込み阻害作用により鎮痛
効果を発揮する(dual action analgesic)
トラマドールのμ受容体への親和性は低いが、
代謝産物のM-1は比較的強力なμ作動薬
経口投不の場合、100mg/日(分4)から開始
し、300mg/日まで増量できる
重篤な副作用:セロトニン症候群、痙攣
タペンタドール
μオピオイド受容体への結合とノルアドレナリンの再取
り込み阻害作用により鎮痛効果を発揮する(dual
action analgesic)
μ受容体への親和性は低いが、鎮痛作用は比較的強
力で、医療用麻薬に指定されている
モルヒネとの等鎮痛用量は、モルヒネ1に対してタペン
タドール2.5~3.3との報告がある
他の第3段階オピオイドと比較して便秘を生じにくい
がん疼痛治療における位置づけは確立されていない
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セロトニン症候群
抗うつ薬のように、セロトニン再取込抑制あるいは
セロトニン産生促進作用を有する薬物の使用により
発症する
トラマドールと抗うつ薬の併用時、あるいは抗うつ
薬の代謝阻害を生じる薬物の併用時は高リスク
精神症状、自律神経系の異常、異常な筋収縮ない
し痙攣といった症状を呈し、致死的な場合あり
予防が重要だが、発症時にはセロトニン拮抗薬で
あるシプロヘプタジンを投不する
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モルヒネ フェンタニル オキシコドン
剤型
末、錠、徍放剤
坐剤、注射剤
貼付剤
注射剤
徍放剤、速放散
注射剤
活性代謝産物 M-6-G (オキシモルフォン)
腎障害の影響 +++ ー ±
便秘
吐き気
眠気・傾眠
せん妄
呼吸抑制
掻痒感
++
++
++
++
+
++
±
±
±
±
+
ー
++
+
+
+
+
±
他の薬剤とのCYPの競合
ー
CYP3A4
CYP2D6
CYP3A4
モルヒネ・フェンタニル・オキシコドンの比較
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症例1 つづき
膵臓がんの54歳女性
セレコキシブを2錠 分2で開始し、3日後に
再診としたが、再診時にも痛みはNRS
4/10と十分とれていなかった
Q4.オキシコンチンⓇ10mg錠1日2回で開始
する実際の処方箋を記載してみよう!
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痛みの継続的な評価
日常生活への影響
痛みの部位
痛みの強さ(NRS、VAS、FPS、VRSなど)
痛みの性状
痛みの経過
痛みのパターン
痛みの増悪因子と軽快因子
現在行なっている治療の反応
レスキュー・ドースの効果と副作用
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持続痛の治療
STEPにかかわらず考える:補足
疼痛治療と同時に、抗がん治療の可否を
十分に検討する
抗がん治療の目標の設定も根治的なものから
症状緩和を主体とするものまで多様
原疾患、病状、痛みの責任病巣などに応じて
提供されうる手段も変化する
様々な治療のオプションについて、適宜そ
の可能性を検討する
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経口
モルヒネ
60mg/d
オピオイド力価表
アンペック坐
40mg/d
モルヒネ注
30mg/d
フェンタニル注
0.6mg/d
オキシコンチン
40mg/d
フェンタニル貼付剤
25μg/h = =
=
=
=
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オピオイドローテーションの実際
中等量以上のオピオイドの場合
例)オキシコンチンⓇ120mg/日デュロテップⓇ
オキシコンチン
120mg/日
レスキュー: オキノーム
20mg/回
オキシコンチン
80mg
デュロテップMT
4.2mg
オキシコンチン
40mg
デュロテップMT
8.4mg
デュロテップMT
12.6mg
1 2 3 4
• オキシコンチン1回量60mg
を内服と同時にデュロテップMT4.2mgを貼付
• 次回内服分からオキシコンチン1回量を40mgに減量
• レスキュー:そのまま
• 次回デュロテップMT貼り替え日、オキシコンチン1回量40mgを内服と同時にデュロテップMT8.4mgを貼付
• 次回からオキシコンチン1回量を20mgに減量
• レスキュー:そのまま
• 次回デュロテップMT貼り替え日、オキシコンチン1
回量20mgを内服と同時にデュロテップMT12.6mgを貼付
• レスキュー:そのまま
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オピオイドローテーションの実際
中等量以上のオピオイドの場合
例)オキシコンチンⓇ120mg/日デュロテップMTパッチⓇ
オキシコンチン120mg/日
レスキューオキノーム20mg/回
オキシコンチン80mg
デュロテップMT4.2mg
オキシコンチン40mg
デュロテップMT8.4mg0
デュロテップMT12.6mg
1 2 3 4
• 次回デュロテップMT貼り替え日、オキシコンチン1回量40mgを内服と同時にデュロテップMT8.4mgを貼付
• 次回からオキシコンチン1回量を20mgに減量
• レスキュー:そのまま
オキシコンチン
デュロテップMT
60 60
↓ ↓ 40 40
↓ ↓
40 40
↓ ↓
40 40
↓ ↓ 20 20
↓ ↓
20 20
↓ ↓
20 20
↓ ↓
4.2mg
↓ 8.4mg
↓ 12.6mg
↓
• オキシコンチン1回量60mg
を内服と同時にデュロテップMT4.2mgを貼付
• 次回内服分からオキシコンチン1回量を40mgに減量
• レスキュー:そのまま
• 次回デュロテップMT貼り替え日、オキシコンチン1回量20mgを内服と同時にデュロテップMT12.6mgを貼付
• 次回からオキシコンチン中止
• レスキュー:そのまま
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乳がん骨転移患者へのアレディア®
投不後に生じた上顎の顎骨壊死
ミラー像
欧米を中心に2500例以上の報告が
あり、国内でも多数の報告がみられる
Kuehn BM. JAMA , 2006; 295:
2833-6
癌のためビスホスホネート製剤投不中
の患者に抜歯を施行した場合、顎骨
壊死の発症頻度は 6.67~9.1% と
報告されている
Mavrokokki TJ. Oral and
Maxillofac Surg , 2007; 65: 415-23
本疾患には特異的治療法は存在せず、
治療法も確立されていない
ビスホスホネート製剤による
顎骨壊死
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1.ビスホスホネート製剤投不を予定している患者は
治療前に歯科または口腔外科を受診させる
感染源となる可能性のある歯周組織の処置
義歯のチェックと調整
口腔衛生指導
抜歯や切開などの骨露出を伴うような
侵襲的歯科治療は治療開始前に終わらせる
2.治療中は口腔衛生を良好に保ち,抜歯や切開などの
侵襲的歯科治療を避ける
ビスホスホネート製剤による顎骨壊死の予防法
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骨関連事象(Skeletal Related Event: SRE)の予防
骨転移への対応 ~抗RANKL抗体~
抗RANKL抗体であるデノスマブは、骨関連事象
(SRE:病的骨折、脊髄圧迫、放射線療法や外科
的治療を要する骨病変)の出現を遅らせる効果が
知られている
処方例 デノスマブ(120mg) 皮下注(4週毎)
腎機能低下例においては慎重な投不が必要だが
、ビスホスホネート製剤よりも忍容性が高い
顎骨壊死に加え重篤な低カルシウム血症に注意
カルシウム製剤およびビタミンD製剤の投不による
低カルシウム血症予防が必頇である
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放射線治療スライド 作成の意図
このスライドは、緩和ケアで症状緩和の手段
として用いられることの多い放射線治療につ
いて、放射線治療を専門としない緩和ケア・
がん診療にあたるスタッフに理解を促すことを
目的として作成しました
緩和ケア研修会などで、放射線腫瘍医・放射
線治療専門医に協力を得る一助として活用
していただければ幸いです
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
放射線治療スライド 使用上のお願い(1)
このスライドは、研修会の中で放射線治療の先生に講義を依頼する際に、参考資料としてお使いください。放射線腫瘍医・放射線治療専門医以外の方がこのスライドで講義をすることは控えてください
やむをえない事情で放射線腫瘍医・放射線治療専門医が講義できない場合は、予め講義内容・スライド内容などについて承認を得てください
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
放射線治療スライド 使用上のお願い(2)
放射線腫瘍医・放射線治療専門医の皆様へ-1
このスライドの内容は、平成19年・20年度
JASTRO課題研究グループでまとめた2009年
の時点でのエビデンス、JASTROの放射線治療
計画ガイドライン及びASTROの有痛性骨転移に
対する放射線治療に関するガイドラインなどに基
づいて作成し、日本放射線腫瘍学会ガイドライン
委員会委員長等の確認を得ています。
内容の大幅な変更などは避けてください
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放射線治療スライド 使用上のお願い(3)
放射線腫瘍医・放射線治療専門医の皆様へ-2
各施設の状況が多様なため、症例スライドなどは
含んでおりません。
地域の状況などに応じ、施設のアピールも含めた
症例スライドなどは適宜追加して下さい。
ノートに参考文献や参考資料を記載しました。
「作成の目的」及び「使用上のお願い(1)~(3)」の4
枚のスライドは削除してお使いください
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放射線治療
放射線治療には目的に応じてさまざまなやり
方がある
腫瘍の増殖による周辺組織への影響を軽減する
ことで得られる症状緩和
一時的な腫瘍縮小による症状緩和や危機回避
腫瘍の局所制御による生存期間の延長や治癒
放射線治療に何を期待するか・・・が重要!
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緩和医療における放射線治療
放射線治療は、痛みをはじめとする、がんの浸潤転移に伴う諸症状に対する緩和的治療において重要な手段である
Wall and Melzack's Textbook of Pain, 5th ed.
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
緩和的放射線治療とは?
痛みの緩和、身体症状の改善やQOL(生
活の質)の向上を目的として放射線治療を
行う場合を、「緩和的放射線治療」という。
American Cancer Society’s guide to pain control, 2004
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
緩和的放射線治療の代表例(1)
痛みの制御
骨転移、肺癌による胸痛、腫瘍の神経根や軟部組織への浸潤
止血
血痰、膣出血、直腸出血・・・
腫瘍による潰瘍や腫瘤の制御
閉塞の改善・予防
気道、食道、直腸・・・
症状の原因である腫瘍の縮小
脳転移、皮膚転移・・・
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緩和的放射線治療の代表例(2)
腫瘍学的緊急症 (後述) 脊髄圧迫、上大静脈症候群・・・
その他、腫瘍が原因となって起こる問題の回避
病的骨折・・・
緩和的治療が最適か否かは個々の症例で十分に検討することが必要
Berger, et al. Principles and practice of palliative care and supportive oncology 3rd-ed., 2007
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
放射線治療を要する腫瘍学的緊急症の例(1)
~他に最適な治療がないと仮定して~
脊髄圧迫
上大静脈症候群
致死的な下気道閉塞
致死的な出血
放射線感受性のある腫瘍による視覚障害を伴なった眼球圧迫
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放射線治療を要する腫瘍学的緊急症の例(2)
~他に最適な治療がないと仮定して~
末梢神経障害
運動機能障害を伴なった馬尾症候群
致死的腎機能障害
腎への浸潤、尿路閉塞
薬剤で制御しきれない高カルシウム血症
治療予定の腫瘍の急速な増大
Berger, et al. Principles and practice of palliative care
and supportive oncology 3rd-ed., 2007
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
有痛性骨転移と放射線治療 (1)
有痛性骨転移に対する放射線治療は緩和
的放射線治療の代表例
多様性に富み、緩和的放射線治療の領域
では最も多くのエビデンスが得られている
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
有痛性骨転移と放射線治療 (2)
全体の疼痛緩和率は60~90%
原疾患、組織型、病状などによる違いがある。
鎮痛薬丌要になるのは、状況にもよるが、30
~50%程度
Chow E, R, et al. Radiother Oncol. 2001
Hartsell WF, et al. J Natl Cancer Inst . 2005
CopyrightⒸJapanese Society for Palliative Medicine
有痛性骨転移と放射線治療 (3)
他の色々な治療との組み合わせの検討も
必要
抗腫瘍治療
整形外科的治療
骨転移治療薬:ビスホスホネート、デノスマブ
鎮痛薬
コルセット、各種の免荷方法 ・・・など
Lutz S, et al. Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys. 2011
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有痛性骨転移と放射線治療 (4)
外照射:線量/分割には色々な方法がある
1回照射から分割照射まで状況に応じた選択
麻痺や骨折などを伴わない有痛性骨転移に対する疼痛緩和治療と し ては 、一般的には30Gy/10回/2週、20Gy/5回/1週などが選択される。
患者や介護者の状況によっては一回照射も重要な手段。
Lutz S, et al. Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys. 2011
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有痛性骨転移と放射線治療 (5)
疼痛再燃時の再照射は有効な場合もある
が、状況に応じた配慮が必要
脊髄などの重要臓器が再照射によって耐容線量
を超える場合など
Lutz S, et al. Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys. 2011
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有痛性骨転移と放射線治療 (6)
内照射:放射性同位元素による治療
甲状腺がん骨転移に対するヨード治療
ストロンチウム-89
骨シンチで陽性像となる造骨性転移で転移箇所が外照射で対応が難しい複数個所に及ぶ場合
全身状態の悪い場合や骨髄抑制の強い化学療法との併用には注意
Lutz S, et al. Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys. 2011
Henry J, et al. Cochrane Pain, Palliative and Supportive Care Group, 2008
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腫瘍学的緊急症の代表 転移性脊髄圧迫に対する放射線治療 (1)
転移性脊髄圧迫による麻痺は、QOLの大損失
有効・予後良好:麻痺が軽度で進行が遅いもの
診断・治療が早いほど予後が良好
リンパ腫・骨髄腫・乳癌・前立腺癌など放射線が効
きやすい疾患
Rades D, et al. J Clin Oncol. 2007
Rades D, et al. J Clin Oncol. 2006
Souchon R, et al. Strahlenther Onkol. 2009.
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腫瘍学的緊急症の代表 転移性脊髄圧迫に対する放射線治療 (2)
麻痺症状出現後は48時間以内の早急な対応が必要
麻痺発生後の運動改善率は、リンパ腫や乳癌も含め、全体で40%程度と報告されている。
麻痺を起こさないことが大切
Rades D, et al. J Clin Oncol. 2007
Rades D, et al. J Clin Oncol. 2006
Souchon R, et al. Strahlenther Onkol. 2009.
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腫瘍学的緊急症の代表 転移性脊髄圧迫に対する放射線治療 (3)
分割照射 総線量が多いほど麻痺の改善効果や有効期間が長い 3Gy×10回、2Gy×20回、4Gy×5回など
ステロイド併用 デキサメタゾンorベタメタゾン(例:16mg/日) 比較的大量に使用するので投不法・副作用対策などには配慮が必要
長期生存が期待され、全身状態が良好であれば、手術療法の併用も考慮 術後照射が必要
Rades D, et al. J Clin Oncol. 2007 Rades D, et al. J Clin Oncol. 2006 Souchon R, et al. Strahlenther Onkol. 2009.
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どのような治療を選択するか?
緩和的放射線治療後の症状の再燃の多くは、照射部位の腫瘍の再増大による
American Pain Society: Guideline for the management
of cancer pain in adults and children. 2005
奏効期間と治療に要する期間を考慮する
どの程度の期間、症状の原因となっている病巣が制御されればいいのか
効果に見合った治療を行うのに必要な期間
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6ヶ月以上の長期生存が期待される場合
より効果的で持続的な治療を目指す
より多くの総線量を使用
治療期間は延長するが・・・
根治的放射線治療になることも
有害事象(副作用)への配慮
根治的放射線治療に準じた対応
急性有害事象:可及的に回避、積極的対症療法
晩期有害事象:回避するために十分な配慮を
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予後が短いと予測される場合
短期間での効果を期待
迅速かつ効果的な治療を目指す
短期治療、高線量/回 (例:1~5回照射)
有害事象(副作用)への配慮
急性有害事象:QOL低下の原因となるので、回避する
配慮が必要
晩期有害事象:予測より長期生存した場合のリスクも
考えて対応する