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150 世界の艦船 2012. 9 増刊

 潜水艦は航海,停泊を問わず水上艦よりも厳しく即応体制が敷かれている。そのため当直も特殊な勤務になっていて,停泊中といえどもいつでも短時間内に出港できる態勢にある。 通常の訓練航海中の勤務を紹介してみよう。 通常航海といっても潜水艦は出航したら常時哨戒(厳重な見張りの意)配備である。艦長は24時間当直しているような態勢にあるが,幹部はそれぞれ職種と職務に応じた部署での当直制となる。 一般科員(海曹士)の当直は,それぞれの職域(魚雷,航海,水測,通信,電側,電整,機械,電機の各専門員)が3交代制で設定され,チーム編成により1直,2直,3直に分けて6時間ごと(状況に応じて4時間ごと)に入れ替わるというシステムである。各直はさらにABC……に分かれるが,複雑になるのでここでは省略する。 6時間当直の場合の第1直の当直に立った魚雷員を例にとると,午前8時に自分の持ち場の発令所で操舵や関係記録の任務に就き,午後2時に非番となって2直員と交替する。交替した2直員は午後8時まで同じ勤務に就き,3直員と交替,3直員は引き続き午後8時から午前2時まで当直し,ここで再び1直員と交替するということになる。1直員は最初(どこを最初とするか説明がむずかしいが)午前8時に立直したが,次の立直時刻は午前2時ということになり,当直時間は6時間ごとにずれてくるから不公平がない。 一般国民の目につかないところで,日夜このような任務に就いている国家公務員(隊員)がいることを知ってもらうことも大事である。実際にどのような当直任務にあたっているのか,そのへんのことは呉の海上自衛隊史料館「てつのくじら館」内に分かりやすくパネルで公開されている。その6時間ワッチの例から抜粋して転記し

てみよう。 通信特技職の乗組員もおおむね同じで,階級や経験年数をもとにチーム編成された各直には最上級者を直長(リーダー)として当直に立つ。 「♪朝だ~夜明けだ~潮の息吹き~」という軍歌「艦隊勤務」の文言は水上艦の場合であって,潜水艦では朝も夜明けも区別がつかない “日陰者” 集団だから,「時間」は分かっても「朝夕」の感覚がないことだろう。行動中はいつも昼でも夜でもないから,夜は艦内の赤灯で夜だと分かるくらいのことである。赤灯のもとで食べる食事は夕食であることを意味する。 そういう雰囲気の中での当直だから,やはりすべてが普通のようにはいかない。潜水艦での「当直」がどのような意味を持つ任務であるか,自分の持ち場以外にも及ぶ責任感は他の社会にはない高いものがあるのではないだろうか。 機関科員も主機(エンジン)と電気に分かれてそれぞれの当直に立つ。潜水艦の主動力は電池なので,機械員も水上艦のようにあちこちで機械の調子を調整したりしなくていいが,楽だということではない。見落しがないようにダブルチェックも行なう。電機員も1時間ごとにバッテリー関連機器の数値を記録する。 補給科員と衛生科員は同じ潜水艦特技を認定されてはいても勤務態様が違うのは任務の内容から当然のことであるが,付記しておこう。 補給科・衛生科(4分隊)は経理員,補給員,給養員,衛生員から成るが,航海中,特に4分隊の業務で忙しいのは食事づくりである。給養員は同じ3直制ではあるが,人数も少なく仕事の中身が違うので,この場合の3チーム分けは前記の当直区分とは勤務の仕方が違う。別項の「調理設備」「食事」で述べるので詳細は省くが,経理や庶務,衛生員でも食材の下ごしらえや調理作業を手伝うところが水上艦よりさらに一体化しているといえる。なかには包丁を握らせたら本職の給養員顔負けの腕のいい経理員や衛生員などもいて重宝がられることもあるという。 取材の折の “みちしお” 船務長久光1尉の雑談だったが,以前潜水艦で補給長をやっていた時の経理員は割烹の板長かレストランのシェフに匹敵するくらい料理が上手だったという。海上自衛隊には時々こういう器用な人材がいる。 ドルフィン・マークを取得するのは容易ではない。補給長も水上艦であれば,経理補給幹部の場合ほとんどの

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航海中の乗組員(科員)の6時間当直の例  0h 6h 12h 18h 24h

1 直

当 直訓練,休息および自由時間

訓練,休息および自由時間

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休息および自由時間 当 直

訓練,休息および自由時間

休息および自由時間

3 直

休息および自由時間

訓練,休息および自由時間

当 直 休息および自由時間

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者が一,二度は配置経験をするが,潜水艦の補給長となると,誰でもできるというものではない。補給長も必要な時には潜航指揮官や哨戒長としての任務に就くサブマリナーである。前記の “みちしお” 船務長が以前は補給長もやっていたというのは,そういう特殊な人事管理制度が背景にある。 前記の表から推測できると思われるが,一日24時間潜水艦を動かしている乗組員に合わせ,交替時間を考慮し,食事時間に幅を持たせ,しかも温かいものは温かく,冷しておいしいものはその温度を保てるように食事を準

備するのは工夫が要ることである。 多少の脱線をまじえながら,主に航海中の当直態勢について書いてきたが,停泊中の潜水艦の当直員は水上艦よりも数倍精神的負担がかかるものであることも述べておきたい。 行動中は艦長の指揮下で乗組員が一致して任にあたるので,その意味では責任は分散している。しかし,先に書いたとおり,潜水艦はいつでも出航できる態勢にあるので,停泊当直中の在艦者は「常在戦場」の心得が要求されているといえる。

1 2 33 時間 4時間

Q 88 潜水艦の当直は原則として 1回何時間か?4 8 時間6時間

操舵コンソール(左上),機関遠隔操作装置(右上),機械室,(左下),調理室(右下)と,それぞれの配置についた“おやしお”型潜水艦“たかしお” の乗員たち。〈編集部〉


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