第13章音の物理
音波が伝わるのは媒質に弾性があるからである。縦方向の弾性変形は媒質内に変化する圧力(応力)を生じる。音さが振動して音さの端が外側へ動くと,すぐ前の空気が圧縮されて圧力と密度が増加し,密の部分となってこれが外側に伝搬する。逆に音叉が内側に動くと,外側の空気の圧力と密度が減り,疎の部分となる。音叉が連続的に振動すると,疎と密の部分が外側に伝わっていき,音波の縦波(疎密波)をつくる。
空気の密度が変わる → 元に戻ろうとする → 音波(縦波)
音波
疎密 密 密疎
1GHz
1MHz
20kHz
20Hz
超高周波音波
高周波超音波
低周波超音波
可聴音波領域
超低周波音波
超音波音波にはいろいろの振動数があり,電
磁波と同じようにスペクトルをつくる。音のスペクトルは3つの振動数領域に分けられる。すなわち,約20Hz~20kHzの可聴領域を中心とし,これ以下(<20Hz)を超低周波領域,また越えると(>20kHz)超音波領域となる。
音のスペクトラム
物理的に測定できる量として,音の強さ I がある。これは決まった面積を通過するエネルギーの割合を表し,例えば,1[m2]を1[s]あたり何ジュール[J/s]のエネルギーが通過するかで音の強さを表すことができる。1秒当たりの1[J/s]が1[W]に等しいので,音の強さの単位はW/m2となる。
人間の耳に聞こえる最小の音の強さ(聴覚のしきい値)は約1012[W/m2]である。聞こえる音の強さの範囲が広いので,普通は10を底とする対数スケールにして扱いやすい数値とし,音の強さのレベルはデシベル[dB]で表す。音の強さを I,しきい値を I0とすると,音の強さのレベル は,
[dB]=10 log10(I / I0) [dB]
となる。音の強さが倍になると3[dB] 増し,1桁増えると20 [dB]増すことになる。
音の強さ
固体中を伝わる速さ
密度 ヤング率 Y
気体中を伝わる速さ
密度 体積変化率 B
ただし,
Yv
Bv
PBV V
※空気中の音の速さ(温度 T [K])
331 1273
[m/s]Tv
音の速さ
超音波診断装置(エコー)
超音波洗浄機
超音波加湿器
魚群探知機
超音波
救急車が60[km/h]で走っているとすると,秒速は17[m/s]となる。近づいてくるときは,同じ方向の波を追うことになるので,音速340[m/s]に対して,17[m/s] / 340[m/s] =5%が圧縮され,遠ざかるときは逆に5%伸張される。このように音源や観測者が移動することで,音の周波数が変化する現象をドップラー効果という。
救急車のサイレンの音は,770[Hz]と960[Hz],音階で言うと’ソ’(783[Hz])と’シ’(987[Hz])に近い音なので,止まっている時に音を聞くと’ソーシーソーシー’と聞こえ,5%はほぼ半音に相当するので,60[km/h]で近づく救急車の音は’ソ#ードーソ#-ドー’に聞こえる。(実際の音には760[Hz]と970[Hz]のビブラートが加わっている。他にも住宅モード(850Hz、680Hz)というものもある。)
救急車のサイレン
960Hz770Hz
831Hz(ソ#)
1046Hz(ド)
ここに注目
音源に近づくと振動数が大きくなる
ドップラー効果(観測者が音源に向かっていくとき)
ここに注目
音源から離れると振動数が小さくなる
ドップラー効果(観測者が音源から離れていくとき)
ドップラー効果(観測者が動くとき)
波の速度v+
波の見かけの速度vuo
観測者の速度uo
波の速度v+
波の見かけの速度vuo
v = f
' ov u
f
' ov u
f
uoが負なので,f′はfより大きくなる
uoが正なので,f′はfより小さくなる
観測者の速度uo
'ov u f 'ov u f
前の波は波長が短く(振動数が高く),後の波は波長が長く(振動数が低く)なる。
ドップラー効果(音源が移動するとき)
ドップラー効果(音源が移動するとき)
++音源の速度us 波の速度v
波の見かけの速度vus
音源の速度us波の速度v
波の見かけの速度vus
v = f
' sv uf
' sv uf
usが正なので,′はより小さくなる
usが負なので,′はより大きくなる
'sv u f 'sv u f
ドップラー効果
観測者の速度uo 波の速度v+
波の見かけの速度vuo
観測者の速度uo
波の速度v+
波の見かけの速度vuo '
ov uf
++音源の速度us 波の速度v
波の見かけの速度vus
音源の速度us波の速度v
波の見かけの速度vus
音源
観測者
' sv uf
' sv uf
を ' ov u
f
に代入すると 0 0' ' s
v u v uf f
v u
uo [m/s]us [m/s]
v [m/s]
u0 [m/s]us [m/s]
v [m/s]
u0 [m/s]us [m/s]
v [m/s]
u0 [m/s]us [m/s]
v [m/s]
音源の振動数: f [Hz]音源の動く速度: us [m/s]観測者の動く速度: uo [m/s]音の速度: v [m/s]観測者が受ける振動数: f ′ [m/s]
音源が動くことによって,波長が変化する。この音波を観測者が動きながら受け取る。この振動数を f′ [Hz]とすると,
となる。ただし,us,u0は音の伝わる速度で, v と同じ向きを正とする。
図の赤矢印が正,青矢印が負
ドップラー効果
''o o
s
v u v uf f
v u
上り電車が300[Hz]の警笛音を鳴らしながら,速さ20[m/s]で踏切に近づいている。音の速さを340[m/s]として,次の問いに答えなさい。
1) 踏切に立ってる人が聞く警笛音の振動数 f1 は何[Hz]か。
2) この電車の警笛音を,前方から速さ20[m/s]で近づく下り電車に乗っている人が聞くとき,その振動数 f2 は何[Hz]か。
例題
音速を超えると
(a) 亜音速
(b) 音速
(c) 超音速戦闘機が音速を超えた瞬間
亜音速や音速で飛ぶ飛行機の先端からは,頭部波が生じる。
飛行機の速度が音速と等しくなったとき,頭部波が全て重なり,高圧の円板(ディスク)が生じる。音速を超えた瞬間,ディスクを維持する条件が突然消え,一気に膨張するため,ドーンという爆発音と共に,急激に冷却された水蒸気が凍結して雲が発生する。
超音速の場合は,高圧の衝撃波が生じ,観測者の上を通過するときに衝撃音として聞こえる。
音速と超音速
2つの近い波長の音を同時に出したとき,音が大きくなったり小さくなったりして聞こえる。これをうなりと言う。
うなりの振動数 fは,
f = f1 f2のように,それぞれの振動数の差に等しい。
440Hz 441Hz 442Hz
440.5Hz
うなり
音の周波数が2倍になると,1オクターブ上がったと感じる。27.5HzのA0を基準に,さらにその倍の周波数55Hz,110Hz,220Hz,440Hzをそれぞれ,A1,A2,A3,A4の音階という。
1オクターブの間隔の音は,さらに12の音階に分割されている。一般に,1オクターブの間をとなり合う音階の周波数が21/12となるように決められており,これを平均律音階という。
音階A4に対する比
周波数 音名
A4 1 440 ラA#4 21/12 466 ラ#B4 22/12 494 シC4 23/12 523 ド
C#4 24/12 554 ド#D4 25/12 587 レ
D#4 26/12 622 レ#E4 27/12 659 ミF4 28/12 698 ファ
F#4 29/12 740 ファ#G4 210/12 784 ソ
G#4 211/12 831 ソ#A5 2 880 ラ
音色