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Vol.65 No.1 工場管理18

3H(初めて・変更・久しぶり)とは何か

1.事故は3Hに起因する経験則 事故やトラブルへの批判は誰でもできるものであるが、重要なことはいかに未然防止するかである。品質・安全問題への緊急処置と再発防止の重要性は誰しもが認識している。しかし、課題が社会的・経営的に影響が大きい場合には、再発防止をするだけでは不十分で、未然防止の徹底が求められている。これらの課題を体系的に取り組む方法は、経営工学手法など多岐にわたる。いずれの方法も一般人には難解で人工を要することはよく知られている。 一方、事故やトラブルの発生はわれわれの経験則として3H(初めて・変更・久しぶり)(図1)の3パターンの折に多発し、定常時には極めて少ないことを理解している。そこで、ミスの発生しやすい変化点である3Hに着目し、効率的に事故やトラブル未然防止を実現する方法を紹介する。2.古くからある安全管理の標語

 3Hとは、昔から言われている安全作業の標語である。誰が提唱したかは明らかでないが、

Wikipedia 百科事典によれば、「3H作業とは人間が作業を行う際に、ミスや失敗を起こしやすい状況を簡潔にまとめた標語」とある。 ・初めて(はじめて、Hajimete):初めてやる作

業 ・変更(へんこう、Henkou):手順や方法が変更

された作業 ・久しぶり(ひさしぶり、Hisashiburi):久しぶ

りに行う作業 以上の3種類の作業または状況を指す。これらの作業においては、普段に比べて特にミスや失敗が発生しやすく、事故やケガといった災害につながることも多い。この傾向は、仕事でも、人生でも、留意点は同様であろう。 3Hは簡潔に注意を促す標語として、要点を突いているため、継承され現在に至っている。3.反省の3Hから未然防止の3Hへ 2010年1月 29日 東海道新幹線(写真1)の架線が切れ、3時間半にわたって停電し、品川─小田原間で6本の列車が立ち往生、約 3,000人が車内に缶詰め状態になった事故は記憶に新しい。図2の新幹線のようなパンタグラフ舟体交換時にボルト4本を付け忘れたことが原因であった。本質はな

図1 初めて・変更・久しぶり

初めて Hajimete 変更 Henkou 久しぶり Hisashiburi

未然防止の3H(初めて・変更・久しぶり)とは

第2章

SDC検証審査協会 宮野 正克

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工場管理 2019/01 19

特集 変化を見逃すな!ヒューマンエラー未然防止の3H(初めて・変更・久しぶり)

ぜボルト付け忘れが起きたかである。すり板の交換頻度は高いが、めったに交換しない舟体の、「久しぶり」管理の手順が明確でなかった。人命に関わる課題であり、作業者の「気がきく、気がきかない」の問題ではない。ただし、現在の新幹線では事故直後に徹底した再発防止が実行されているため、同類の事故は発生しないと安心してよい。再発防止処置のおかげでシステムの信頼性と安全性はどんどん高まるが、多大な経済的負担や人命に関わる負担の後の改善では遅い。4.問題が発生しない社会・企業へ

 未然防止の重要さを示す事例を紹介しよう。2009年8月カリフォルニア州サンディエゴで、トヨタの高級車「レクサス ES350 」が暴走して、家族4人全員が死亡する悲惨な事故が発生した。事故を起こしたレクサスは、フロアマットにアクセルペダルが引っかかり、アクセル全開のまま戻ら

なくなって暴走したことが原因と結論付けられた。トヨタは該当する車種をリコールした上で、生産・販売を停止した。しかし、フロアマットにアクセルペダルがひっかかった問題は、その後の米国道路交通安全局(NHTSA)の調査により、レクサスES350のフロアマットの上に、レクサスRX 用のフロアマットを二重に敷いていたことが原因と判明した。筆者はレクサスES350と同一設計思想のPRIUSを愛用しているが、構造上、事故が発生することは想像もつかない(写真2、写真3)。 トヨタは社長が率先して対応に当たり、グローバル企業として社会的責任を果たす企業に進化した。これらの教訓からも、問題が発生しない社会・企業の重要さが理解できる。

写真1 新幹線N700系 図2 新幹線パンタグラフ

すり板

舟体

架線

上枠

写真2 筆者のPRIUSのアクセルペダル

写真3 レクサスES350と同一設計思想のPRIUS