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『晴天の迷いクジラ』 窪 美澄 著

生きること―「晴天の迷いクジラ」を読んで―

 物質化学工学科1年 三雲 理紗

「生きることを止めようとしていた。」私はこの文を読んで息が詰まった。本の後ろに書いてあるあらすじを読んだだけなのに、心の中で何かが溢れているみたいだった。これが私とこの本の出逢いだった。デザイン会社で働く若い男性由人は、激務と彼女

を失ったことにより、うつ病を発症。由人が勤める会社の社長野乃花は、潰れていく会社と共に死を決意した。そんな二人は死ぬ前にクジラを見ようと南の半島に向かっていた。その途中、母との関係で心を壊し死を選ぼうとしていた女子高生正子を拾う。死に向かう三人が、このように出逢い絆を深め、何でも言い合える関係になっていく。本の世界で起こっている出来事だけど、私はそれを「奇跡だ」と思った。若干の羨ましさと、羨ましさからの嫉妬が私の脳内で浮かんでは消えた。私が中学生だった頃、ずっと笑顔を浮かべている

友達がいた。彼女は本当によく笑う人だったから、精神病であることを聞かされても信じることができなかった。彼女はいつしか部活にも学校行事にも参加しなく

なった。活発な子だったから皆驚いて心配したけど、次第にそれもなくなっていった。彼女は笑っている。でも私は彼女の笑顔には心が

ないと感じるようになっていた。彼女に何が起こったのか、私は気になった、聞きたかった、話してほしかった。本の中の正子とは少し状況が違うけど、彼女と正子は似ていると思った。正子には忍という友達が居た。正子と忍の二人は、

はじめは仲があまりよくなかった。ある時正子はこう思った。「忍には話を聞いてほしい」と。私は胸の奥がズキズキするのを覚えた。彼女もそ

う思っていたのかもしれない。もっと彼女の心の中に踏み込んでよかったのかもしれない。苦しんでいる人を助けるのは難しいことだ。その

人が何を求めているのか、見極めるのも大変だし、私みたいな人間がその人の心に入っていって許されるのか分からない。それでもなお、私は思う。行動しないと何も変わらない。変えることができない。由人、野乃花、正子の三人が死という一つの選択肢を選ぶ前にクジラを見に行った。そのことで生という

選択肢が増えた。行動することで自分の選択肢を増やしていく。そうすることで、人生が充実したものになる。生きることは行動することなのかもしれない。何も行動を起こさない人間は死んでいるのと一緒ではないか。少しそう思った。ほんの少しの努力で人は変わることができるのか

もしれない。もちろん、独りではできないことだ。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、私は皆と一緒に前に進みたいと思った。

『アイデアはどこからやってくる?』 岩井 俊雄 著

アイデアの種機械工学科1年 永岡 颯太

僕がこの本を手に取ったのは、このタイトル「アイデアはどこからやってくる?」に興味を持ったからだ。それは自分自身が将来なるであろう技術者にとって「アイデア」というものがとても必要だと自分が考えているからだろう。「アイデアはどこからやってくる?」今の僕には、ぜんぜん分からない。そもそも「アイデア」とは何なのか?そう考えながら、読み始めた。作者岩井俊雄氏は「メディアアーティスト」で、映像

玩具を発展させた作品「時間層Ⅱ」やCGを駆使した作品を制作するなど日本メディア界では有名な人だが、その才能が様々な分野で様々な人に評価されている。その評価の一つが絵本製作だ。この絵本製作には、岩井氏の様々なアイデアが詰まっている。そもそも絵本製作のきっかけは岩井氏の長女が数の数え方でつまずいているのを見たこと。19から20へ、29から30へと数が繰り上がる仕組みが理解できず、きちんと言えてなかった姿を見て、この数の成り立ちを分かりやすく表した絵本を作ろうと思ったのだ。岩井氏のアイデアはこれだけにとどまらず、数の成り立ちをよりわかりやすくするために、ページをめくるごとに段々数を大きくしたいという重いから「たてもの」を描くこと。高さを迫力ある表現にしたいという思いから、従来、横開きしかない絵本を縦開きにすることなどを思いつき、今までにない縦開きの絵本「100かいだてのいえ」が完成した。僕はこのことを知り、どうしてもこの絵本が読んでみたくなった。この歳になって、絵本を読むとは思わなかったが、読んでみるとこの絵本は画期的な絵本だった。10階分を一見開きで表し、それぞれ10階ごとに住んでいる生き物を変えて

読書感想文入賞作品

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ある。それぞれの住人たちが生活している様子が本当に細かく丁寧に描かれていて、見ていてとても楽しい。また、縦開きにしたことで、本に家の高さ感が生まれ、階が上がっていく様子すなわち、数が上がっていく様子が視覚から分かりやすく入ってくる。この絵本がたくさんの子供たちの心をがっちりつかんだのがとてもよく分かった。岩井氏の絵本に対するアイデアはこのあとも続き、多くの絵本が続編を並列的な考え方でシリーズ化していくのに対し、またも岩井氏は続編を前作とは対称的に描くアイデアを出し「ちか100かいだてのいえ」を作った。このアイデアは前作のときの試行錯誤が生んだといってもいい。前作の絵本試作のとき、高さを表現したくて合えて縦開きにしたのに、下から上へとページを開くようにしたところ、絵本を読んだときの感覚が下に下がるということが分かった、そこで岩井氏はこれを逆手にとって上から下へとページをめくることを思いついた。そして、上から下へとページを進めていく「100かいだてのいえ」と下から上へとページを進める続編「ちか100かいだてのいえ」が生まれた。この本を読んで、「アイデアとは、「思いつき」「ひ

らめき」であり、それは必死に考えたからといって出るものではなく、むしろ何気ない日々の中に無数にあって、それに気付けるかどうかなのではないか」と思った。日々の生活の中で「好きなことをもっと良くしたい」と思う気持ちや「苦手なことを克服したい」と思う気持ち「困っている人を助けたい」という気持ち、そんな人が生きている中で当たり前に持つ感情の中に、アイデアの種があり、それに気付いた人だけが、その種を育てることが出来る。そんな気がしてならない。岩井氏が教えてくれたこの教えを胸にこれから技術者への道をしっかり歩んで行きたい。

『8分音符のプレリュード』 松本 裕子 著

8部音符のプレリュードを読んで物質化学工学科1年 矢野 真綾

自分の身の回りに、何らかの分野で功績を残した人が現れたとしたら、自分はその人に対してどのような想いを抱くだろう。たとえば、自分と同じ部活に、自分よりも実力を持った同級生がいるとする。自分は精一杯努力しているのだが、その同級生の足元にも及ばない。そんな人物に対して、自分はどう思うかと言うと、おそらく尊敬するのではなく嫉妬してしまうだろう。そのまま嫌ってしまうか、諦めて感心を向けないようにするか、それともそれを対抗心にしてライバル視するかは人それぞれであるので、嫉妬という感情を一

概に悪いものだと言い切ることはできない。しかし、嫉妬という言葉に悪いイメージが付きまとうことからみるに、その気持ちを悪い方向に転換してしまう人は少なくないようだ。本作の主人公である、中学二年生の少女、秋山果南も同じ状況に置かれてしまった。彼女のクラスに、全日本ジュニア・ピアノ・コンクールで優勝したほどの少女が転入してきたのである。もっとも、主人公は根っからの優等生であり、今まで他人に嫉妬されることこそあっても他人を嫉妬するようなことはなかった。そのため、転入生に対しても嫉妬心を抱かなかった。それどころか、その世話役を引き受けて、新しい学校に早くなじむことができるように協力しようとしたまでである。それほどまで、彼女は優しく、純粋だったのだ。しかし、転入生は彼女に冷たかった。いや、彼女に冷たいというよりは、周囲の皆に冷たく当たる、とげのある性格の持ち主だった。転入生は彼女に礼を言わないばかりか、誘ってもらった彼女のいる吹奏楽部の演奏を、耳ざわりだ、子どものお遊びだと侮辱したのだ。そこまで言われると、嫌な気持ちにならない人はいないだろう。彼女もついに、悪い心―本文中から語を借りると、どす黒い感情―ができてしまった。できでしまった、というよりは、気付いてしまったという方が適切かもしれない。彼女は、知らず知らずのうちに積み重なっていたそれに、気付いてしまったのである。あるいは、今まで必死に気付かないふりをしていたのかもしれないが、どちらにせよ彼女は、はじめてそれと正面から向き合ってしまったのである。彼女が、そんな心を持ってしまった自分に対しての、強い自己嫌悪に陥ってしまったのは、言うまでもない。そして、転入生に対して怒りをぶつけてしまい、優等生の化けの皮が剥がれた、とうわさされるのもまた、言うまでもないだろう。彼女もまた、嫉妬の心を悪い方向に向けてしまっ

たのだ。転入生の言動は彼女の怒りを買うきっかけとなったが、すべて転入生のせいだとは決め付けられない。転入生から見れば、勝手に嫉妬して、勝手に暴走したおせっかいな人間に映るかもしれないからだ。彼女は真剣で優しくまじめだったが、その優し

さ故におせっかいにもなりえるし、そのまじめさ故に優等生であらなくてはならない、というプレッシャーを自分にかけてしまうのかもしれない。自らをキャラクターに押し込める、ということは、見栄えはともあれ、内部では非常にきゅうくつな思いをしていることを忘れてはならない。それで耐えきれず爆発する、なんてことのないように、たまにはガス抜きなんてものも必要なのだ。

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『あすなろ三三七拍子』 重松 清

応援し、応援されること  機械工学科2年 田村 直人

この物語の中に出てくる登場人物の実際のモデルとなったのは、同志社大学応援団のOBだという。作者が応援団に興味を持つきっかけとなったのは、このOBとの出会いだった。作者は、自分の著書の出版発表イベントの担当者として、一生懸命自分のために動いてくれたことから、彼と仲良くなり、その彼を好きになり、彼のことが書きたくて、応援団についてのこのストーリーを作り上げたそうだ。実は、私の母がそのOBのことを知っていた。母は、そのOBの数代下の後輩にあたり、青春時代を、この応援団で送ったのだ。私は、数年前、母に連れられ、小説中にも登場す

る、ライバル校との定期戦(立命館との野球の定期戦)を観に行ったことがある。正直、その時は、応援団がどんなものかなど考えもしなかったが、応援席が一丸となって選手を応援するあの独特な雰囲気は、鮮明な記憶として、今も私の心に残っている。夕暮れのスタンドで、こだまし合う両校の応援。吹奏楽の響き。重い団旗をビクともせず支える姿、鼓膜が破れそうな程の音の太鼓、表情一つ変えず、観客に向き、エールを振り続ける団長の姿。藤巻大介や野口健太、保阪翔、松下沙耶、彼らの姿が、私の記憶の中の応援団と重なった。四十五歳の大介は、エール商事の総務課長であるが、リストラ候補にあげられていた。エール商事社長は、かつて応援団団長を務め、現応援団OB会幹事長である。八十六年続いた応援団指導部は、団員不足の為、存亡の危機にさらされていた。応援団をこよなく愛し、この危機を救うべく、思いついたのが、大介を団長にして、応援団を建て直すというもの。これは、会社の辞令、いや、むしろ脅迫とも言える。サラリーマン生活を一時中断して、大学を受験させ、団長として団を建て直す。成功すれば出世を約束するという、リストラと引き換えの条件に、大介は困惑するも、家のローンと娘の学費のために、それをのむのだ。応援団指導部の団員不足は、母がいた当時から深

刻な問題だったようで、半強制的に入団させられた学生もいたそうだ。苛酷な練習、理不尽とも言える程の厳しい上下関係と団のルール、自らすすんで入団する学生がいないのは当然とも思える。しかし、母によれば、そんな悪いことばかりではないという。確かに、他人の応援に時間やお金をかけ、何のためにそんな一生懸命頑張るのかと周囲から言われたり、自

分でも思ったことはあったという。しかし、四年間の応援活動を通じて得たものは大きく、人一倍情熱にあふれた団員達は、互いのことを思いやり、はげます優しさを知り、厳しさに打ち勝つ力を身につけて巣立っていくという。大介が団長を務めたのは半年だった。任務を終え会社へ戻るまでの半年で、彼の人生観は変わった。同い年のOBや世代の違う学生達とのつき合いの中で、互いの立場を理解しようという寄り添いの心が生まれる。それが、彼の今までの人間関係をも回復させるのだ。彼はこれを通じて、人生の中で、応援し合う意味、

大切さを知る。「みんなもどうか、自分のことを一生応援してくれる人に出会ってくれ!自分が一生応援したくなる人に出会ってくれ!」彼は、応援団を去る最後の舞台でメッセージを伝

えた。人は一人では生きていけないというが、常に自分という存在は、周りの人に支えられ、応援されながら生きていることに改めて気が付いた。今の自分ははたして、周りの人にエールを送ることができているだろうか。そうでありたいものだ。

『限界集落株式会社』 黒野 伸一 著

理想と現実、そしてその先機械工学科2年 中村 友哉

会社を辞めて事業を興そう。その前に、一度都会から離れて田舎でゆっくりと過ごそう…。そんな気持ちで父の実家のある止村にやってきた主人公は村の現状を知る。村人の数は三桁を切り、その半数以上が高齢者という限界集落、村の子供の願いを聞き主人公はこの限界集落を再生する為に農業の企業を立ち上げることを決意する。誰しも理想を追いかけた事が一度はあるだろう。

しかし、その理想を現実にした人は数少ない。そもそも無茶な理想だった、神様が自分を見捨てた、駄目だった人は様々な言い訳をいう。そして皆がそうだからという理由で、進学・就職していく。それを駄目だと言うことは自分にはできない。自分は理想を本気で追いかけた事がまだない。良く言えば現実的、悪く言えば物事に冷めている。自分が傷ついたり、周りに嫌われたりすることを避けたい。自分にとっては理想を追うより、堅実に生きて親を楽にしたいと子供にしてはませたことを考えていたのかもしれない。しかし、周りから嫌われず、しっかりお金を稼ぐという事自体が理想だと最近考えるように

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なっている。結局、理想と現実の境界は曖昧なものだと思う。し

かしこれは、「一方的な方向で」である。つまり、現実だと思っていた事がいつの間にか理想になっていることはあっても、理想が自然に現実になることはほぼないということだ。では、理想を現実にできるのは生まれながらに才能を持っているか、運がいい時だけなのか。それは違う。理想を実現する為に一番大事なのが運や才能ではないと強く感じた。物語の中で主人公は数々の困難にぶつかった。意

見の分かれる村人達、野菜の販売先の確保、敵対してくる自分達より豊かな農村。普通ならば諦めてもおかしくない状況を主人公や村人達は耐え抜いた。耐えることで、困難に負けないことで自分達の理想が叶うと本気で信じる。誰もができそうなことで、誰もができないこと。失敗すれば、先にあるのは悲しみや苦しみである。それでも、可能性の低い成功を信じて自分ができること、皆でできることを全て出し切る。その勇気が、その覚悟が理想を叶える唯一の方法で、少数しか叶えることができない最大の理由ではないだろうか。誰もが全ての理想を叶えた世界は絶対に有り得な

い。もしそんな世界になれば、社会の基盤が崩れて生活が成り立たなくなってしまう。だから、多数の人は夢描いた未来を歩むことはできない。そして現実を直視する。この時が理想を叶えられなかった人にとっての最大の分かれ道だと思う。現実を直視し、それで妥協するのか、それとも、その現実の中で理想に近づけようと努力するのか。前者なら失敗の確率はほぼないだろうが、面白味もあまりないだろう。後者ならば人生が楽しく感じられるかもしれないが、失敗の可能性があり二度と立ち直れない可能性もある。成功を信じるか、それとも失敗を避けるか。人そ

れぞれの考え方があり、どちらが正解ということでもない。しかし、理想を追い求める姿は輝くものであり、そして理想を叶えた人がいる。これだけは無視してはいけない、理想を馬鹿にしてはいけない絶対的な理由であると思う。

『舟を編む』 三浦 しおん 著

できることを ―「舟を編む」を読んで― 情報工学科2年 石田 豊実

辞書をつくる話。さぞかし重たい話なんだろうと思っていたが、そうでもなかった。登場人物には変人がいて、お調子者がいて、頑固オヤジ、仕事がで

きる人、おじいさんもいて..。その人達の絡みはとても面白かった。この本を読んで知らないことをたくさん知れた。辞書について今まで考えたことはなかったからつくる工程の話は新しかった。とんでもなく地味で面倒くさい作業だなと感じた。この本では、多くの登場人物が自分がこの仕事に向いているのかと悩んでいる。物語が進むにつれて、解決していくことになる。僕でも想像しやすいことだったから読んでいて納得できることがあった。自分が将来する仕事が自分に向いているかなんて分からない。その仕事が好きだったとしても、そうでなかったとしても向き不向きはあるはずだ。僕がもし、就職した時にこの仕事向いてないなと思ってしまったら僕はどうすればよいのか考えてみると、おそらく、とても悩むし、それだけで仕事を辞める理由になるかもしれないと思った。この本の中でも同じ悩みを抱える西岡という人物がいる。西岡の性格は軽口ばかりのお調子者。辞書をつくる仕事は当然地味な作業で、黙々と仕事をしなければならない。明らかに西岡の性格には合わない。西岡以外は皆、地味な作業ができるのでいつも西岡は仕事の邪魔をするような存在になってしまうのだった。誰がどう見ても辞書の仕事には向いていないと思うし西岡自身もそれについて悩んだ。自分がいなくなっても仕事は進む、そう考えた。しかしある時この考えが変わった。どう変わったか。それは、「自分にできることをしよう。例えそれが大きなことでなくても。」だった。西岡は対人スキル、特に交渉するのが上手かった。実は、辞書をつくるためには地味な作業だけでは成り立たない。辞書には色んな分野の言葉を載せるために多分野の専門家に言葉の意味を書いてもらわなければならない。そこで西岡は自分の持てる力(教授ごとの性格などを書いたメモ)を交渉の苦手な同僚のために残すことに決めた。こうして自分の役割を見つけて仕事をするというのは重要なことだと知った。自分には少し不向きな仕事でも、自分にできることはあるはずだからそれを探して実行しようと思えた。「自分にできることをしよう」、簡単に思いつくことかもしれないが、それを本の中で具体的に触れることができて本当によかったと思う。そして、将来の悩みをここで解決できたこの本に感謝したい。最後にもう一つ。実はこの本、カバーが作中に出

てくる主人公達が長い年月をかけてつくりあげた辞書「大渡海」と同じデザインになっている。大渡海のデザインの描写を見た時は驚いた。そして「大渡海」という名前。考えてみれば当たり前なことで、国語辞典に名前があることも知らなかった..。この名前、

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「辞書は言葉の海を旅する舟である。」から来ている。なるほどなぁ。題名までつながってくるとは。ほかにも聞いたことのないような語句など作中には思わず国語辞典を開けたくなるような所がいたる所にみられた。設定がよく練られているなぁと心の底から関心させられる作品でした。いつかまたこのような作品に出会いたい、そう思った。

『終末のフール』 伊坂 幸太郎 著

「死んでも死なない」という決意―「終末のフール」を読んで―

情報工学科2年 林 大泰

この本の物語は寿命があと3年という話から始まる。人の寿命ではなく、世界の寿命が、だ。3年後に世界は滅亡する、そういった状況下で様々

な思いや悩みを持った8人の登場人物の生き様が短編小説としてそれぞれに描かれている。正確には「8年後に小惑星が地球に衝突し世界は滅亡する、と告げられた日から5年後の世界」という設定。「明日」などではなく「3年後」という微妙に残された時間の中で人はどのように生きていくべきなのだろうか。この本の8作目の話「深海のポール」は、こんな世界の中でレンタルビデオ屋を経営する主人公が友人や家族と普段通りにふれあい、世界の終わりについて考える様子が描かれている。最後の話でもあるからか「生きる」ということに対し

ての言葉が多く散りばめられているように私は感じた。そして、その中のいくつかのセリフに心を惹かれ、考えさせられた。『頑張って、とにかく、生きろ』。暴漢に立ち向かった父が自分に言った最期の言葉だ、と、ある客が主人公に言った言葉。私はこの「とにかく」の部分にとてつもない力強さを覚えた。生きることの困難さを「とにかく」で端的に表して

いる。それがたとえ世界が終わってしまうとしても、決して諦めずに生きる様がこのセリフには含まれ

ているのではないか。そしてこれとは別に、『じたばたして、足掻いて、

もがいて。生き残るのってそういうのだよ、きっとさ』と主人公の妻が言ったセリフ。先程述べた、決して諦めずに生きる様というのはまさしくこのセリフなのでは無いかと思う。「じたばたして、足掻いて、もがいて」と「生き残る」、どちらも生きることの必死さが感じ取れる言葉だ。そこから連想される姿は生々しく、みっともない

かもしれない、だが必死に生きることは本当にみっともないだろうか。

少なくとも私はそうは思わない。ほぼ全ての人は生きたいと思っているだろうし、それが当たり前だ。作中でも『死に物狂いで生きるのは、権利じゃな

くて、義務だ』と主人公の友人が言う。「生きるのは義務」、これに違いない。人は必死に生きなければならない、義務なのだ。ましてやこれを放棄することなどは許されないのである。この物語の最後のシーン、主人公の娘が『死んで

も死なない』と口ずさむ。このセリフこそ、人が生きるという必死さを最も強く表現していると思う。そのままの意味だと難解な言葉だが、私が考えるのは「たとえ死ぬほどの恐怖や困難があっても生き抜く」という意味だ。もはや「何があっても生きろ」と命令されているようなものだが、この場合、自分で生きると決心していることに意味がある。人は生きなければならないが、生きることを強制

されているわけではない。自分が生きるということを自分で決める、これが大事なのだと、私は思う。もし私がこの本のような状況ならどうするだろう。残りの時間で普段はできないようなことをしてい

るかもしれないし、普段通りに過ごすかもしれない、まぁ自分から生きることを放棄することはないだろうが、分からない。自分が何をするかなんて、その時が実際に来るまで誰もわからないのだ。もし人生の中で迷ったことがあっても、とりあえず生きてみる、この姿勢が大事だとこの本から学んだ。これから先、私には困難や選択といった迷いが必ずあるだろう。ただ、何があっても私は諦めない。生きてみる。

『ロボコン』 大崎 知仁 著

目標を持つことの重要性 物質化学工学科2年 森 貴典

自分は高専生です。高専というのは五年制で大学受験がなく、普通の進学校とは違い専門的な教育を受けることができます。これは高専に来る生徒は自分のやりたいことがある程度決まっている人であることを意味しています。しかし中には「就職率が高かった」や「高専からの大学編入は普通に大学受験するより楽そう」など様々な動機の人がいます。高専で学ぶ分野に興味がわかないと失敗してしまう可能性は高いと思います。

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物語の主人公である女子高専生の葉沢里美はなんとなくで高専に来てしまった一人です。彼女は授業についていけず、打ち込めることを見つけることもできずに学校生活を送っていました。しかし提出した製作実験の課題である手作りのロボットのできが悪かったため、ロボット工学担当の図師先生に呼びだされてしまいます。そして居残り補習を回避するためにロボコンに参加します。そして変わり者しかいないメンバーと共に大会に挑みます。僕自身が高専に来た理由には彼女に近い部分があ

ります。周りに高専という所もあると教えてもらい、自分自身も理科が好きだったのと公立の入試とかぶらないから受けたといった感じです。高専に入り専門科目が増えていくとレポート等の課題も増え、そのレポートで最低限のことを書いて提出するという作業をただこなすようにすごしていました。このように、僕と里美は明確な目的を持たずに生活していたという共通点がありました。しかし里美は半ば強引に参加させられたロボコンをきっかけに変わっていきます。彼女がロボコンに参加させられた日はロボコン

の地区大会の二日前であり、いきなり当日のロボットの操縦者を任されてしまいます。結果はロボットが六十パーセントの出来で未完成だったこともあって、一回戦で敗退してしまいました。しかしアイデアが評価され全国大会に推薦されます。この時に地区大会に参加したため居残りは免除されるのですが、

これまで乗り気ではなかった彼女が全国大会に出ることを決意します。彼女はロボコンを本気で取り組んで、何に対しても無気力だった自分を変えようとしたのです。それからあらゆる問題を乗り越えて他のチームメンバーとの絆を深めていきます。そして全国大会でついに優勝します。この作品の登場人物がロボコンという目標にむかって努力する姿を見て、自分に今欠けているものだと感じました。僕はその時にしなければならないことをこなすだけで終わっていました。しかし、日々の生活で目標を立てて行動することでモチベーションがうまれて、過ぎていくだけだった時間が充実したものになりました。そもそも目標を立ててそれにむかって頑張ることは人が自然とやっていることだと思います。僕の場合は目標を設定していても課題等の忙しさを理由に努力することを怠り、またどのようにすれば目標に近づくかを考えることを放棄していたと思います。これまで自分がこんな疲弊した生活を送っているのは高専に来てしまったからだと考えたことも少しありました。しかしそれは違いました。もし違う学校に行ったとしても同じことを考えていただろうと思います。やはり自分が物事にどのように取り組むかによって変わるものです。僕はこれから高専で学ぶことを無駄にしないためにも、自分で考えて直面するであろう問題にも向き合っていきたいです。

図書館の本は大事に扱いましょう時々、付箋が付いたままだったり、中に書き込みがしてあったりする専門書が返却されます。誰か他の人が貸してくれた本に、付箋を付けたまま返しますか?中に書き込みをしますか?図書館の本は、あくまで借り物です。皆の本です。そのことを分かったうえで利用してください。

図書館では静かにしましょう小声で勉強を教え合うのは構いませんが、時々大きな私語や笑い声が聞こえます。しばらく続

くようであれば、注意しに行きます。息抜きでちょっとお喋りしたい気持ちは分かります。でも、静かな館内に、貴方たちだけの声が響き渡っていませんか?貴方が一人で勉強している時、うるさくしている人たちに苛々したことはありませんか?一人一人が気を付けましょう。

返却期限を守ってください期限内に読み切れなかった本(雑誌)は、他の人に予約さ

れていなければ返却期限を延長することができます。手続きをせず、そのままズルズルと借り続けることはやめましょう。図書の延滞があると、新たな貸し出しはできません。

図書館の利用にあたっての注意


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