リーン クオリフィケーション アプローチ医薬品施設の効率的なクオリフィケーション手法
リーン
クオリフィケーション
アプローチ
監修 中尾 明夫編集 株式会社シーエムプラス GMP Platform
監修
中尾
明夫 編集
株式会社シーエムプラス G
MP Platform
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URS
DQ IQ
基本設計
FinalizedURS
詳細設計
詳細設計
詳細設計
OQ
ユーザー側
エンジ側
コミッショニング
Version-up
DesignReview
DR
図2-3 URSの展開
URからURSへの展開がうまくいけば,すなわちURSの内容が充実すればするほど,その後の基本展開が容易になる。エンジ側は,URSに基づいて基本設計を起こし,詳細設計に移行するが,設計の適格性について設計のレビュー(DR)を繰り返し,最終的な詳細設計について,設計の適格性を確認(DQ)して,最終的な設計として承認される。この最終的な詳細設計に基づいてIQ,OQ等のクオリフィケーションとコミッショニング活動が実施されることになる(図2-3参照)。
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1. クオリフィケーション戦略とは 製造プロセスの開発過程で獲得したプロセスのクオリフィケーションの質,またStage 1での準備状況が,プロセスバリデーションStage 2の成否を左右する(図3-1参照)。各要素,すなわち製法,原材料,作業者および施設・設備,のクオリフィケーション中で,施設・設備のクオリフィケーションは,他の要素のクオリフィケーションに比べて複雑で,時間とコストがかかること,および施設・設備ごとに異なる業者と交渉する必要もあることなどを考慮すると,製法や原材料,作業者のクオリフィケーションとは切り離して実施するほうが便利である。すなわち,施設・設備に対して,全体的なスケジュールを示したクオリフィケーションマスタープラン(QMP)を作成し,そのQMPの中に,個々の施設や設備ごとにクオリフィケーションプロトコル(QP)を立案する。
標準製造手順書
報告書
計画書
PQ 手順書案
開発報告書
実験データ教育・訓練
OQ
IQ
DQ
施設・設備 製法 原材料 プロセスの構成要素作業者
Stage 2
Stage 1
= Production Master formula
図3-1 クオリフィケーション戦略
第 3 章
クオリフィケーション戦略
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プロセス全体のクオリフィケーション戦略は,バリデーションマスタープラン(VMP)の中で明確に示されるべきであるが,施設・設備のクオリフィケーション戦略は,別途,QMPに記述し,VMPにはその旨を引用する。こうすることによって,施設・設備のクオリフィケーションを他のバリデーションプランとは,独立して取り扱えるようになる。 施設・設備のクオリフィケーション戦略とは,目的とする医薬品の品質を安定的に製造するために重要なパラメーター(CQAやCPP)と施設・設備の適格性との関係を,どの段階で,どのように確認するかについて,医薬品のライフサイクルを通じてストーリーを描くことを意味する。
2. 欠陥のないURSをまとめあげる 新しい医薬品を上市する場合は,商業生産を開始する前に,既存の製造設備や製造方法を変更する場合は,その変更を商業生産に移す前に,実生産設備を用いて,開発段階や変更検討で設定した製造条件で目的とする品質の医薬品が製造できることを証明する必要がある。従来,この過程をプロセスバリデーション(PV)と呼んでいたが,本書では,より正確にプロセスバリデーションのStep 2あるいは実生産設備を用いてのプロセス稼働性能の確認(PPQ)と呼ぶことにする。
Stage1
医薬品開発
プロセスバリデーションは,一過的なものではなく,ライフサイクルを通じて継続的にプロセスや品質のデータを収集し,プロセスの改善を目指して実施するもの
プロセス設計 ● 実験室的クオリフィケーション ● 施設・設備のクオリフィケーション(DQ,IQ,OQ)
Stage2
技術移転
プロセス検証 ● 実生産設備でのクオリフィケーション(PPQ) ● 従来の狭い意味でのバリデーション
Stage3
商業生産
プロセス実践 ● 継続的ベリフィケーション ● リスク評価,継続的改善
図3-2 ライフサイクルを通じてのプロセスバリデーション/ FDA, 2011(図1-5を再掲)
施設・設備のクオリフィケーションは,これまでも述べたとおり,製造方法を反映したユーザー要求(UR)を施設・設備の導入担当部門のエンジニアと共有することから始まる。ユーザー側は,URとして製造方法および付随するノウハウをエンジ側に提示し,エンジニアリング側は,URを実現するために,「どのような施設や設備,製薬用水や空調等のユーティリティシステムが必要か?」,「既存の施設設備を使うのか?」,「新規に機器を購
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表5-1 URSのインパクト分析
分類 分類基準
A製品に直接接触する製品と直接接触する賦形剤や原薬の製造に必要である
Bコンタミの原因となる洗浄や滅菌に使用される製造環境維持に使用される
Cパラメータの設定によっては品質に影響する製品の品質を維持するために使用される製品品質に影響する制御システムである
D 合否判定に関するデータ,情報を提供するE 品質に影響しない
原薬の中間体等を製造する設備に適用する場合は,製品を中間体に読み替え,少しでも中間体の品質に影響する項目を選び出すつもりで,インパクト分析を実施すればよい。 このURSを活用したインパクト分析の評価結果をエクセルなどの表ソフトによって整理することを推奨する。URS作成以降の一連のクオリフィケーション活動,すなわち,URSとリスク分析,さらにはクオリフィケーションまでを,URSと紐付けるようにしてクオリフィケーション活動を管理するのである。工場単位での設備投資の際には膨大な設備機器が導入されるため,文書管理についてもきちんとした方針検討をしておかないと,クオリフィケーション段階で大きな負担を負うことになる。
URS Risk分析
1.インパクト評価2.重要度評価
DR Commissioning
DQ IQ OQ
図5-1 URSからの連鎖
図5-1に示したように,すべてのURS項目をインパクト分析によってリスク評価し,品質に影響を与える項目だけをDQの対象とする。
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1. VMP体系 ある製造プロセスのバリデーションには,そのプロセスに関連する多くのバリデーションが付随する。そのプロセスに用いる製薬用水や空調システム,品質試験用の試験法バリデーション,さらには設備洗浄のバリデーション,コンピュータ化システム等が典型例であろう。バリデーションの規模が大きくなると,当然ながら多くの関係者や業者が関わり,バリデーションをスケジュール通り順序よく,完全に実施することが困難になる。バリデーション活動をスムーズに進行させるためにバリデーションマスタープラン(VMP)を作成し,バリデーションの進捗を管理する必要がある(図6-1参照)。
分析法バリデーション
空調システムバリデーション
洗浄バリデーション
水システムバリデーション
コンピュータバリデーション
● 製法の適格性評価● 原材料の適格性評価● 作業者の適格性評価
● 施設・設備の適格性評価
・適格性評価_施設A・適格性評価_施設B・適格性評価_施設C・適格性評価 ……… ……………
VMP(Validation Master Plan)
プロセスバリデーション QMP(Qualification Master Plan)
図6-1 VMP体系
第 6 章
クオリフィケーション
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第7章 DQの進め方
は製品の品質に対して影響があるとは思えない。リスクアセスメントにより製品品質に影響がないと評価されたユーザーの要求項目はコミッショニングとして,施設・設備メーカーに対応を一任し,対応レベルを正当化しながらメリハリをつけて進めていくことが合理的である。
URS
DQ IQ
基本設計
FinalizedURS
詳細設計
詳細設計
詳細設計
OQ
ユーザー側
エンジ側
コミッショニング
Version-up
DesignReview
DR
図7-1 URSの展開(図2-3を再掲)
ユーザー要求が適切に設計に展開されていることを検証することは,全体の施設・設備のクオリフィケーションの中でも,最も重要なプロセスである。なぜなら設計段階で忘れられていた機能を後で追加することは非常に困難な場合が多いためである。したがって,DRも最も重要な活動であると位置づけられ,図7-1で示したように,詳細設計についてDRを繰り返し,不都合や改善の必要性がないか確認する。さらに,ISPEのC&QではEDR
(エンハンスドデザインレビュー)として,GMP適合性について評価することを推奨しているが,どこまでをDQとして評価するべきかについて明確にすることが,その後のクオリフィケーション活動を容易にするために重要である。
DR
DQ
Design Review
DesignQualification
図7-2 設計の品質管理
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きたのは知っているが,製作してみないとわからないものを回答するのは不可能と言っているらしい。【PMr】
海外サプライヤーのエンジニアリング能力を知っておくべきだった。サプライヤーは2週間で直すと言っているが,配管図を描かずに製作するのでは修正後も取り合い位置にはならない。このまま引き取ることにしようと思うがどうか。【CMr】
この生産機器に関しては,天井裏の配管も施工が済んでいないために工事変更はない。FATの現場での取り合い位置を写真とデータを基に変更の図面を起こすが,最終的には現場合わせになる。問題は,排水配管である。排水勾配が決まっているために機器との取り合い位置を機器に合わせて床を削る必要がある。床は削りたくないので排水配管が一度立ち上がる(ポケットができる)ことになる。【VMr】
オートクレーブの排水配管にポケットを作ると排水管に凝縮水が溜り,滅菌温度異常を起こす可能性がある。【PMr】
それでは,工事は大変だが,ユーティリティと排水配管は,機器に合わせて現場を変更することにしよう。幸いにも搬入が早いぶん,現場での調整作業の時間が十分に取れる。工事の追加は発生するが,海外サプライヤーとの追加交渉をするより確かなプロジェクト遂行ができる。まず,CMrのほうで概算追加見積もりを作成してくれ。打ち合わせを開き,変更追加連絡書は私が作成し,ユーザーのプロジェクトマネージャに承認をもらおう。
A/C A/C
このままでは接続できない
天井裏配管工事を待って現場合わせ
機器が搬入される前に変更
床下配管工事を変更して現場合わせ
図8-1 機器取り合い配管の変更例
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1. URSの要求事項 URSの要求事項には,大きく分けて3種類ある。
CQA● 純度● 安定性● 同等性など
クオリフィケーション
コミッショニング
GMP● 製造管理,衛生管理● 校正● 人的ミスの防止など
NonGMP
● 安全性● 効率性● 安定稼働● 関連法規● 機器重量など
図9-1 URSの要求事項
第一は,製品品質の要求からくるCQA,CPPに関する事項 第二は,製造管理,衛生管理,校正,人的ミスの防止などGMP要件に関する事項 第三は,安全性,効率,安定稼働,機器重量などGMPに関係のない事項である。 医薬品製造施設の設計・施工を依頼しているユーザーにとってはどの項目も大切なものであり,施工業者のコミッショニングの対象である。しかし,必ずしもすべての項目を,クオリフィケーションの対象とする必要はない。クオリフィケーションの対象とは,GMP査察の対象,すなわち品質保証責任者の管理対象であることを意味している。 設計・施工を完全に遂行するためには,本来,業者が行う自主検査記録も非常に重要な
第 9 章
コミッショニングとクオリフィケーション
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ものであるが,ユーザー側の品質保証部門の担当者が理解できないような設計・施工関連の文書や図面を照査あるいは承認することに意味はない。したがって,「GMPに関係のない事項は,業者の責任で確認すること,すなわちコミッショニングの対象としてのみ取り扱うこと」をお勧めする。 クオリフィケーション対象となるURSを決めた後,実際のIQやOQの確認項目はどう決めればよいのだろうか? 第5章では,製造プロセスに付随するCPPやCQA等,医薬品の品質に直接影響するユーザー要求についてリスク評価の例を示したが,本章では間接的に品質に影響する製造環境に対するユーザー要求の例として,空調設備を取り上げてみよう。表9-1に空調設備に対するURSとそのリスク分析の結果を示す。
表9-1 URSとリスク評価/空調設備
URS リスク評価
中項目 小項目 仕様 URS No. Impact Parameter
空調方式製造エリア 外調機+循環機 1 E一般エリア 外調機+パッケージエアコン 2 E
空調能力
温度条件 22℃±3℃ 3 C 温度,Critical湿度条件 50±10% 4 C 湿度,Critical清浄度条件 非稼働時 10000 5 B 清浄度,Critical換気回数 20回以上 6 B 清浄度回復,Major室間差圧 15Pa以上 7 B 清浄度,Critical
フィルター方式外調機 プレフィルター +中性能 8 B 清浄度,Majorダクト末端吹出口 HEPAフィルター 9 B 清浄度,Critical
室圧制御方式給気側 定風量装置(CAV) 10 B 清浄度,Critical排気側 室圧制御ダンパ(PCD) 11 B 清浄度,Critical
環境モニタリング
温度監視 製造室温度の監視,記録ができること 12 D 温度,Major
湿度監視 製造室湿度の監視,記録ができること 13 D 湿度,Major
室圧監視 製造室圧の監視,記録ができること 14 D 室圧,Major
Utility冷水供給 供給温度 7℃ 15 E蒸気供給 供給圧力 0.5MPa以上 16 E温水供給 供給温度 40℃ 17 E
リスク評価の欄のImpactの項は「表5-1 URSのインパクト分析」に従って分類した結果であるが,Parameterの項は,インパクト分析によって選び出したURSの中から,以下に示す製造環境の重要なパラメータに関係するURSを選び出したものである。A:清浄度
各清浄度グレードによって稼働時(In Operation)と非稼働時(At Rest)の清浄度を維持すること。
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第10章 適格性評価(IQ,OQ,PQ)
3.10. OQは通常IQの後に実施されるが,設備の複雑さによっては,据付時/運転時適格性評価(IOQ)として一緒に実施する場合もある。
3.11. OQには,少なくとも下記の事項を含めること:(i) システムが設計された通りに作動することを保証するために,プロセスやシステム,
設備に関する知識に基づいて開発された試験(ii) 運転の上下限や「ワーストケース」の条件を確認するための試験
3.12. 成功裏にOQを完了すれば,標準作業手順や洗浄手順,作業者のトレーニング,予防的メンテナンスの要件等を最終化できること。
場合によっては,設備の複雑さによってIQとOQを同時に行ってもよいとしているが,例えば,施設建築のクオリフィケーションでは,部屋の寸法検査,内装仕上げの確認等のIQ項目と扉のインターロックの確認,エアシャワーの据え付けと動作チェック等のOQ項目を含んだ試験を同時に実施したほうが簡明であり,IOQとして実施すべきであろう。 OQ試験は,各システムが設計した通りに動くかを確認する試験であるから,何が目的か,何を目的として設計したのかを再確認して,計画しなければならない(図10-1)。
設計上限
運転上限OQ上限OQ下限
設計下限
運転下限
設備の設計範囲
OQの確認範囲
実際の運転範囲
図10-1 運転,OQ確認,設計範囲の関係
撹拌機の例でも述べたが,クオリフィケーションの前のコミッショニングステージで機器の実力を知り,実際の運転に支障のないこと,実際の運転が実施可能であることを検証する。一般的に生産機器サプライヤーはOQ完了と機器の検収がリンクしているため,実際の運転はさておき,機器の検収のために一瞬でもよいから最高のパフォーマンスを出し記録する傾向にある。実際に必要なことは,安定稼働できる運転範囲を知っておくことであるので,URSの設定時に設計者側に十分な情報交換をしておかなければならない。 さらにOQの成功で標準運転操作,操作手順,洗浄手順,教員訓練,機器の予防保全の最終設定ができるようにすると書かれており,コミッショニングとOQの活動を通して,標準作業,操作手順,洗浄手順,予防保全プログラムが策定できる必要データがそろわなくてはならない。