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解  説

アドホックネットワークの実用化に向けた課題と実用化動向The application trends to the real systems of an Ad hoc network

松井 進Susumu MATSUI

概 要アドホックネットワーク技術は 1980年代に米国の国防技術として研究が開始され,1990年代には民

間利用を目指した国際標準化も開始された.また,1990年代はユビキタス時代の幕開けであり,アドホックネットワークはユビキタス時代のネットワークプラットフォームとしても期待されていた.2000年代初め頃にはアドホックネットワークを採用した多くの実証実験も行われ,実用化間近との期待も大きかった.ところが,期待とは裏腹に実用化がそれほど進展してこなかった.これは,実証実験を通じてアドホックネットワークの技術的な課題が明確になってきたことに加え,アドホックネットワークでなければならないシステムが見つからなかったことにもよると考えられる.しかし,多くの研究者の努力により,実用化に向けた課題が解決されつつある.また,スマートグリッドや自動車間通信システムなどアドホックネットワークの特徴が非常に有効に利用できるシステムが注目されつつある.本論文では,アドホックネットワークの実用化に向けた課題及びその解決技術,実用化動向を述べる.

1 はじめにアドホックネットワーク技術の研究は 1980年代の米

国での国防関係の研究まで遡ることができる 1).戦場でのロバストなネットワーク構築技術として注目されたのである.一方,1990年代に入ると,身の回りのいろいろな”物”がインテリジェント化/ネットワーク化し協調連携動作することにより人間生活を豊かにするという所謂ユビキタスシステムが提唱され 2),注目を浴びるようになった.無線通信インフラなしに「物」と「物」を自律的に接続可能なアドホックネットワークは,このユビキタスシステムのネットワークプラットフォームとして非常に期待された.1997年には IETF

にMANET(Mobile Adhoc Network) WGが設立され3),アドホックネットワークのルーティング技術の標準化が開始された.国内では 2003年 12月に「アドホックネットワークプラットフォームに関するコンソーシアム」が新潟大学間瀬教授を中心に設立され 4),実用化に向けたいくつかの実証実験が行われた.アドホックネットワークの実用化は間近との印象であった.し

かし,現実にはアドホックネットワークの実用化は余り進んでいない.これは,実証実験を通じて,通信信頼性,マルチホップ時のスループット,セキュリティなどいくつかの技術課題が明確になってきたことに加え,アドホックネットワークでなければならないシステムが明確にならなかったことによると考えられる.アドホックネットワークの特徴は,有線ネットワー

クを必要とせず,素早く,柔軟に無線ネットワークが構築できることである.この特徴を活かしたシステムとして,災害時システム,イベント対応システム,監視システムなどが上げられる.これらのシステムへのアドホックネットワークの適用を考えた場合,災害時システムは別として,「アドホックネットワークを利用すると確かに便利ではあるが,信頼性や性能(スループット)を考えると代替手段でいいのでは」というのがシステム構築担当者の意見であったと考えられる.現在,アドホックネットワークへの注目度は一時ほ

どではなくなったが,2000年代後半に電子情報通信学会にアドホックネットワーク研究専門委員会 5)が設置

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されるなど,多くの研究者が地道な技術開発を推進しており,これらの課題が解決されつつある.また,スマートグリッドや自動車における車車/路車間通信システムなど,アドホックネットワークを積極的に適用するシステムが現れつつある.ここ数年の間に,アドホックネットワークの実システムへの適用が本格化するとの期待が大である.本論文では,アドホックネットワークの実用化に向けた課題及び解決技術,具体的な適用システムについての述べる.

2 アドホックネットワークの方式及び標準化状況

2.1 アドホッックネットワークのルーティング方式

図 1にアドホックネットワークルーティング方式の分類を示す.アドホックネットワークのルーティング方式は,ノード間の接続情報を基にルーティングを行う Topology Base方式と,ノードの地理的な位置情報を基にルーティングを行うPosition Base方式に分けることができる.また,Topology Base方式は,ルーティングテーブルを構築するタイミングにより,Reactive

方式と Proactive方式に分けることができる.Reactive方式はアプリケーションから通信要求が出

た時点で,ルートを探索し,ルーティングテーブルを構築する方式である.Reactive方式の代表プロトコルとしてはAODV6),DSR7)が知られている.Proactive

方式はノード間で定期的に情報を交換することにより常にルーティングテーブルをメンテナンスしている方式である.Proactive 方式の代表プロトコルとしてはOLSR8) がある.一方,ノードの地理的な位置情報を基にルーティン

グを行うPosition Base方式は,主に自動車向けのアドホックネットワークの分野(VANET: Vehicle Adhoc

Network)で検討されている 9).自動車の通信サービスの内,交差点での衝突防止などの安心・安全サービスに

図 1 アドホックネットワークルーティング方式の分類

おいては,地理的な特定の場所のいる自動車にデータを転送するGeocast10)と呼ばれるマルチキャストタイプの通信が用いられることが多い.Geocast対応のアドホックルーティングプロトコルとしては,GPSR11),LAR12),MHVB13) 等がある.

2.2 アドホックネットワークの標準化状況

IETF MANET WGは 1997年に発足し,主に IPレイヤにおけるアドホックルーティング方式の標準化を議論してきた.発足当初は種々のルーティング方式が提案されたが,2003年から 2004年にかけてTopology Base

の,Reactive方式で AODV6)と DSR7)が,Proactive

方式でOLSR8)とTBRPF14)がExperimental RFC15)

として選定された.2005年にはAODVとDSRをマージした DYMO16) 及び OLSRを改良した OLSRv217),更にはアドホックネットワーク上でマルチキャスト通信を行うための SMF18) が提案された.更に,上記3方式の共通機能(隣接ノード発見プロトコル,パケットフォーマット規定,パケット内データ表現形式)をくくり出し標準化を推進してきた.2012年 12月現在,共通部分の標準化がほぼ完了している.なお,IETFにはアドホックネットワークのセキュリティや設定自動化を議論するWGも設立されている.一方,IEEE802

委員会内にもアドホックネットワークの標準化を議論する IEEE802.11s TGが設立され,レイヤ 2でのアドホックネットワークルーティングの標準化を行い,2011

年に完了している 19).

3 アドホックネットワークの適用例本章ではアドホックネットワークの適用システム例

を述べる.

3.1 米国の無線メッシュネットワークシステム

米国では,いくつかの都市で市街地をメッシュネットワーク化し,住民へのブロードバンドサービスを提供する試みがなされている.メッシュネットワークとは,無線 LANのアクセスポイント間をアドホックネットワークで接続したネットワークである.例としてはシリコンバレーのミルピタス市で行われている Silicon

Valley Unwired Project20) がある.これはミルピタス市の市街地に 100個以上の無線 LANアクセスポイントを設置し,それらをメッシュネットワークで接続してワイヤレスブロードバンド環境を提供するプロジェクトである.図 2にアクセスポイントのマップを示す.

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図 2 SVNプロジェクトのアクセスポイントマップ(プロジェクトのホームページから引用)

同様の試みは 2004年頃から盛んに計画されたが,計画時に比べ無線 LANアクセスポイントの設置個数を増やす必要が生じるなどのコスト面の問題で,現在は下火になっている模様である.

3.2 災害時対応ネットワークシステム

大規模災害時にネットワークを素早く構築するための実証実験の例としては,新潟大学が開発したスカイメッシュネットワーク 21)が上げられる.これは,大規模災害時に地上のネットワーク設備が破壊された場合,無線 LANのアクセスポイントを搭載した気球を地上50-100mの上空に複数配置し,気球間をメッシュネットワークで接続することにより,災害地のネットワークを構築するものである.2006年に新潟の山古志地区にテストベッドを構築し,各種実験を行っている.

3.3 観光地における情報提供システム

これは,総務省四国総合通信局が 2004 年に行った「中山間地域におけるワイヤレスブロードバンドに関する検討会」22)の中で構築されたシステムである.検討会では,四国内子町を対象にワイヤレスブロードバン

図 3 観光案内システム

ドの公開試験システムを構築したが,その一環として,内子町の古い町並みが残る観光地の観光案内システムをアドホックネットワークを利用して構築した.具体的には,観光地区にカメラと無線 LANノードを配置,観光客に無線 LAN機能を持つ携帯端末を配布し,それらをアドホックネットワークで接続した.観光客の携帯端末に,場所に依存した観光情報をプッシュ型で配信するとともに,観光客の状況映像をセンター側で監視する機能を実現している.図 3に携帯端末画面及びセンタ側の監視画面を示す 23).

4 アドホックネットワーク実用化に向けた課題と解決策

上記実証実験や他の実証実験を通してアドホックネットワークの実用化に関するいくつかの課題が明確になった.以下に主な課題とその解決策を述べる.

4.1 通信信頼性向上

アドホックネットワークでは End to Endでの通信品質が,有線ネットワークは勿論のこと,通常の無線ネットワークに比べても悪くなる場合が多い.この理由は以下の二点であると考えられる.

1. 無線品質を考慮しない経路選択

標準化で議論されているアドホックルーティング方式は,基本的にはホップ数が少ない経路を選択するアルゴリズムを採用しており,無線電波強度は考慮していない.また,隣接ノードのリンク確認のためのHelloメッセージは無線 LANの最低伝送速度で送信されるブロードキャストを用いているが,ユーザデータはより高速の伝送速度を用いることが多い.低速での通信であるほど無線品質の悪化に強いことから,Helloメッセージは届いてもユーザデータは届かないことが起こりうる.つ

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まり,Helloメッセージの交換により経路は作られるが,その経路を使ったユーザデータ通信の誤り率が高くなる場合がある.

2. 現行経路でパケット損失が発生してから経路切替

現状では,Helloメッセージが複数回落ちた場合にリンク切断と判断し,経路切替処理を開始している.つまり,切替時に経路がない時間が存在し,パケットが落ちることになる.

この問題を解決するため,無線品質をメトリックとするルーティングプロトコル 24)や,無線品質を考慮した実装などが行われている.一般に無線 LANでは無線電波強度が-80dBmを下回ると誤り率が増加することが知られているが,前記方式は経路決定の際に無線電波強度を測定し,たとえホップ数が増えても無線品質の良いリンクを使う方式である.また,現行経路の無線品質が一定値以下になった場合に経路切替処理を開始することにより,切替時のパケット損失を防ぐ方式も開発されている.ある実験では,無線品質を考慮しない場合のパケット配信率が 60%である環境で,無線品質を考慮することにより配信率が 97%に向上したことが確認されている 25).

4.2 マルチホップ時のスループット低下防止

マルチホップ通信を行う場合,一般には同一周波数を利用する.これにより,電波干渉が起こりうる.無線 LANでメディアアクセス制御として採用しているCSMA/CA方式は,通信開始時に無線信号をチェックし,他のノードが送信していない場合に送信を開始する方式である.同一周波数を利用するマルチホップ通信では,隣り合ったノード間で同一タイミングでは通信が行えないことになる.これによりスループットが低下する.また,隣々接ノード間でも電波干渉や隠れ端末問題が発生し,スループットが更に低下する.電波干渉の範囲が隣接ノードまでに限られている場合には,2ホップでスループットは半分に,2ホップ以上で1/3程度に低下すると言われている.しかし実際には,電波干渉は隣々接ノード以上離れたノードにも影響し,スループットは(1/ホップ数)程度に減少する場合があることが実機により確認されている.この問題の解決策として,ノードに複数の無線 LANインタフェースを実装し,複数の周波数を用いる方式が提案されている 28).ただし,2.4GHz帯を使用する無線 LANの場合,互いに干渉を起こさな独立したチャネルは 3チャ

図 4 マルチホップでのスループと測定結果 26)

ネルしかなく,4ホップ以上ではスループットが減少してしまう.この対策として,無線電波強度を動的に制御するとともに,指向性アンテナを用いて電波送出方向を制御する方式が提案されており,4ホップ以上でもスループットが減少しないことが確認されている 26).図 4にホップ数とスループットの実験結果を示す.

4.3 セキュリティ

アドホックネットワークでは無線通信範囲に存在するすべてのノードがデータを受信できることから,アドホックネットワークの不正利用を防止するセキュリティ対策が不可欠である.アドホックネットワークでは無線 LANを用いることが多いが,IEEE802.1xなどの従来の無線 LANセキュリティは,認証サーバの使用や,事前の鍵共有を前提としているため,サーバが不在であり,接続するノードが流動的なアドホックネットワークには適していない.そこで,アドホックネットワークでは,認証サーバの存在を前提としないセキュリティ方式を検討する必要がある.これに対し,制御メッセージの交換時にノード間で相互認証を行う方式が提案されている 27).

5 アドホックネットワークの新展開4章で述べたように,アドホックネットワークの実

用化を阻害するいくつかの技術課題が解決しつつある.今後,実用化が大いに進展することが期待される.また,最近になって,従来考えられてきた応用以外に,アドホックネットワークの新しい応用分野が注目されるようになった.特に注目されているのが,スマートメータシステムへの適用及び車車間通信システムへの適用である.これらの適用に向け,新しい標準規格も検討されている.本章では,アドホックネットワークの新展開として,この二つの分野の動向について述べる.

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図 5 スマートメータシステムの構成

5.1 スマートメータシステムへの適用

スマートメータシステムは,各家庭に取り付けられた双方向通信機能を持つメータ(電力メータやガスメータなど)の検針値を,ネットワークを介してサーバに収集するシステムであり,AMI (Advanced Metering

Infrasuructure)とも呼ばれている.図 5に典型的なスマートメータシステムの構成を示す.このシステムにおいて,メータとゲートウェイ間をアドホックネットワークで接続することが検討されている.スマートメータシステムの特徴は以下である.

1. 大規模対応システム

ゲートウェイ当たりのメータ数は 500から 1,000

台程度が検討されている.つまり,500から 1,000

ノードのアドホックネットワークを構成する必要がある.

2. 小リソースでの動作

アドホックネットワークの無線部分は,省電力化の観点から,無線 LANの他,伝送速度が数百 kbps

の小電力無線の利用も検討されている.このような低伝送速度上で,大規模なアドホックネットワークを構築する必要がある.また,低コスト化のため,各メータのメモリや CPUなどのリソースは制限されていると考えられる.

3. 通信はゲートウェイとメータ間

アドホックネットワーク上でのメータ間通信は基本的には考えれておらず,ゲートウェイとメータ間で(マルチホップで)通信できればよい.

以上の特徴を考えた場合,AODVや OLSRなどの従来のアドホックネットワークルーティング方式を適用するのは難しいため,新たなアドホックルーティング方式の適用が検討されている.具体的には,リソースの限られたセンサーネットワーク向けに 2008 年にIETFの ROLL (Routing Over Low power and Lossy

図 6 RPLの動作原理

networks) WG 29)で議論が始まった RPL30)が適用されようとしている.RPLでは一つのノードを Rootとしたツリー構造を構築する.図 6に RPLの動作原理を示す.RPLではRootノードへのホップ数を rank数と呼ぶ.各ノードはDIOメッセージを定期的に送信することにより自ノードの rankを周りのノードに知らせる.DIOを受信したノードは最小の rankを送信したノード(のうちの一つ)を自分の親ノードとし,自信のrank数を+1する.また,DAOメッセージにて自分の親ノードとして選んだことを親ノードに知らせる(この情報は Rootノードまで伝わる).Rootノードから各ノードへの通信は経路を指定したソースルーティング,その他のノードからRootノードへの通信は親ノード経由となる.この処理において,ネットワーク全体にフラッディングされるメッセージはないため,ノード数が増加した場合も制御メッセージによるネットワーク負荷の増加を抑えることができる.また,各ノードはルーティング情報として親ノードの情報のみを持てば良いため,ルーティングテーブルのメモリ量が少なくて済む.Rootノードには全ノードの情報が蓄積されるが,リソースが豊富なゲートウェイがRootノードになれば良いため,大きな問題にはならない.スマートメータシステムの実現には,Rootノード付

近での輻輳問題など残された課題はあるが,それらについてもいくつかの提案がなされている.現在,各機関で検討が進んでおり,数年先には導入が開始されることが期待できる.

5.2 車車間通信システムへの適用

車車間通信システムは,出会い頭での衝突防止など,安心安全な車社会を目指したシステムである.具体的には,周囲の車との間で定期的に自車の位置,速度などの情報を交換するとともに,衝突発生や緊急車両接近などの緊急情報をその情報が必要な地理的場所にいる

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図 7 車車間通信システムのイメージ(C2CCCのホームページより引用)31)

車に送信することにより,安心安全度を高めようとしている.図 7に車車間通信システムのイメージを示す.米国,欧州,日本などで検討が進んでいる,特に欧州では,車メーカを中心に C2CCC (Car 2 Car Communi-

cation Consortium)31)を設置し,車車間通信の標準化を進めている.図 7は C2CCCのホームページより引用した図である.C2CCCでは上記前者のメッセージをCAM (Cooperative Awareness Message),後者のメッセージを DENM (Decentralized Environment Notifi-

cation Message)と呼んでいる.このうちCAMはワンホップ通信として検討が進んでいるが,DENMについてはアドホックネットワーク技術を利用した地理的場所へのマルチホップ通信,すなわち Geocastが検討されている.方式としては,CAM交換で得られた周囲の車の情報を元に送信側で転送ルートを指定する方式 32)

と,送信車の位置,自車の位置,宛先位置の情報から受信側で転送すべきかどうかを判断する方式 13) が提案されている.後者の方式の場合,送信元から遠い車ほど短い遅延時間で転送処理を行うことにより,無駄な転送を防いでいる.車車間通信システムの導入に関する各国の進捗状況

はまちまちではあるが,欧州では 2015年頃の適用を目指している.

6 おわりにアドホックネットワークの実用化に向けた課題と実

用化状況について述べた.アドホックネットワークの実用化については,通信信頼性,マルチホップ時のスループット,セキュリティなどいくつかの阻害要因があったが,多くの研究者の努力により解決されつつあ

る.今後の実用化の進展が期待される.また,スマートメータシステムや車車間通信システムなど新しい分野への適用も始まっている.これらの分野では,システムの大規模化や Geocast通信機能など,新しい検討課題があるが,これらについても技術開発や標準化が進んでおり,数年先の実用化が期待されている.これらのシステムが実用化された場合,国内だけでも億オーダのノードがアドホックネットワーク化されることになり,アドホックネットワーク技術が多いに社会に浸透し,社会貢献できると考えられる.従来ネットワークに比べてネットワークの柔軟性が

飛躍的に高いインタネットの普及により,新しいシステムやビジネスが立ち上がった.アドホックネットワークは更にネットワーク構成の柔軟性が高まったシステムと捉えることができ,更なる新しいシステムやビジネスが創世されることを期待している.

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(まつい すすむ/大阪工業大学)

松井 進

1980年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻修了.同年 株式会社日立製作所システム開発研究所(現 横浜研究所)入社.2012年大阪工業大学情報科学部教授(現職).情報ネットワークに関する研究に従事.博士(工学).電子情報通信学会(アドホックネットワーク研究専門委員会委員長),情報処理学会,IEEE各会員.

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