NTT技術ジャーナル 2014.974
グローバルスタンダード最前線
スマートホームビジネス展開に必要な技術課題について,私たちは国際標準化という場にて海外通信事業者と連携し,通信事業者間で共通する課題解決を図る活動を進めています.ここでは本活動の一環として進めているHGI(Home Gateway Initiative)での通信事業者共通の要件規定の活動状況,およびその要件文書を活用したZigBee Allianceでの標準化活動の状況について報告します.
は じ め に
スマートホームとは宅内機器をインターネットに接続し,生活を便利にするサービスのことであり,AT&TのDigital Life(1),ドイツテレコムのQIVICON(2)など,海外通信事業者もサービス展開に注力している分野です.スマートホームビジネス展開においては,ホームゲートウェイなどの宅内終端装置と機器類(家電 ・ センサ ・ アクタなど)をつなぐための宅内無線通信方式が重要となります.
そこでNTTは海外通信事業者と連携し,スマートホームビジネスが展開しやすい環境構築,ならびに市場拡大を目指し,業界への影響力を持つHGI(Home Gateway Initiative)(3)
を通して,ZigBee等の主要な宅内無
線通信方式の改善に向けた取り組みを行っています.
HGIでの活動
■HGI概要HGIは,欧州通信事業者が中心とな
り,ホームゲートウェイの要求条件をアプリケーション面と技術面から仕様化することを目的とし,2004年に設立されました.通信事業者,システム ・チップ ・ ソフトウェア ・ ハードベンダから構成され,日本からはNTT,日本電気,沖電気,住友電工,日立製作所,三菱電機などが参画しています.活動方針としては,新たな仕様を作成するのではなく,既存技術を有効利用
し,ホームゲートウェイのビジネス応用面,技術面からの共通要求仕様のとりまとめを行っています.
HGIの組織構成と役割について図 1に示します.要求仕様は,Technical Working Groupを中心に作業を進めており,策定した要求仕様については,ホームネットワーク関連やM2M関連の他標準化団体とのリエゾンを通じて関連標準化団体に提示し,フィードバックをもらうことで,新たな仕様策定につなげる活動を進めています.■Smart Home Task Forceの活動紹介
HGIでは,スマートホームサービスを実現するうえで必要な技術要件を,Smart Home Task Force(SHTF)という技術検討ワーキングの場で議論し,
図 1 HGI組織構成と各役割
Board・戦略策定・経営,財務,法務・他団体とのリエゾン関係構築
CTO/CBO・Board, MC, MKTGの運営・BG, TWG, 各TFの取りまとめ
Management Committee(MC)・新規プロジェクト立ち上げ・ドキュメントリリース管理
Technical Working Group(TWG)・HGW, Media Gateway, QoS, IPv6, IP-PBX, 保守機能等に関する要求仕様策定
Smart Home Task Force(SHTF)・Local service APIs,Device modelling,Remote(cloud)service API,宅内無線通信,スマートメータ等に関する要求仕様策定
Test Task Force・TWG,SHTFで策定した要求仕様に基づくテスト仕様の策定・テストイベントの開催
Business Working Group(BG)・新規プロジェクト検討・MCへの新規プロジェクト提案
Marketing Group(MKTG)・広報・市場調査
スマートホーム分野での海外通信事業者連携による標準化活動─HGI/ZigBee Allianceでの取り組み
山やまざき
崎 毅たけふみ
文 /赤あかざわ
澤 伸のぶゆき
亨 /大おおたか
高 明あきひろ
浩 /高た か ぎ
木 暢のぶひろ
大 /武む と う
藤 健け ん じ
司 /中なかがわ
川 剛たけなお
直 /寺て ら お
尾 和かずゆき
幸 † 1 † 2 † 2 ※ 1 † 2 ※ 2 † 2 † 2 † 3
NTTサービスエボリューション研究所†1/NTT東日本†2/NTT西日本†3
※1 �現,NTTアクセスサービスシステム研究所※2 �現,NTTブロードバンド ・ プラットフォーム
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要求仕様を策定しています(表).扱っている主な技術分野 ・トピックは,ユースケース,アーキテクチャおよびシステム要件,ホームゲートウェイにおける実行環境,宅内無線通信方式に対する要件,デバイスモデルなどです.
ホームゲートウェイにおける実行環境については,ドイツテレコムやオレンジ(旧フランステレコム)が中心となって,Java/OSGiといったソフトウェア環境下で必要となるソフトウェアモジュール群や性能要件を規定しており,またHGIではここで規定した性能要件を検証するためのテストイベントも併せて定期的に企画しています.本イベントは,要件に対する技術の到達点の確認やメンバ間での関係構築に役立っています.■宅内無線通信方式に対する要求仕
様(RD039)策定の取り組み我々は,SHTFにおいて,ドイツテ
レコム,オレンジ,日本電気などと連携し,スマートホームサービス提供の観点から既存の宅内無線通信方式に対する要求仕様(RD039)(4)を策定する取り組みを進めました.
RD039では,ユーザビリティ(簡易設定,設定サポート等),通信信頼性
(干渉回避,カバレッジ等),保守機能(テスト機能,遠隔サポート等),セキュリティ(認証機能,暗号化機能等)などの分野において,宅内無線通信方式が満たすべき要求仕様を規定しており,NTTからは日本での利用が期待されるZigBee IP等の改善を想定し,ペアリングの簡易化,消費電力の適正化,再起動時の適切なアドレスの付与,ネットワークトラブル時の切り分け機能などについて要求仕様を提案しました.
本要求仕様は,2014年 5 月に完成し,RD039文書として正式にリリー
スされました.HGIではスマートホーム分野における他標準化団体であるBBF(Broad Band Forum)(5)との協業を2013年 5 月から開始しており,本協業を通じて,本文書RD039は,BBFメンバからも参照可能な要求仕様となっています.
ZigBee Alliance での活動
■ZigBee AllianceとはZigBee Alliance(6)は,無線センサ
ネットワークの標準規格の策定と相互接続性の保証を目的として2002年10月に設立されました.IEEE802.15.4を物理層,MAC層として,その上位のネットワーク層とアプリケーションインタフェースの標準化を推進しています.メンバは,通信事業者,システム ・ チップ ・ ソフトウェア ・ ハードベンダから構成され,日本からはNTT,
沖電気,日本電気,東芝などが参加しています.日本ではZigBee SIGジャパンがZigBee Allianceおよびその他地域の関係団体と連携をとりながら,日本国内での啓蒙活動と,加盟企業の共同による市場調査,普及活動を展開しています.
ZigBee Allianceの組織構成と役割を図 2 に,技術仕様策定の流れを図3 に示します. ZigBee Marketing Steering Committee (ZMSC),およびMarket Working Groupにて市場の要求事項やユースケースをMarket Requirements Document (MRD)として取りまとめ,MRDがZigBee Architecture Review Committee
(ZARC)に送付されます.ZARCは受領したMRDを適したWorking Group
(WG)に送付し,WGにてTechnical Requirements Document (TRD)が策定されます.TRDでは,技術的なスコー
表 HGIリリースドキュメント一覧
ドキュメント番号 ドキュメント名HGI-RD001-R2.01 Home Gateway Technical Requirements: Residential Profile V1.01HGI-GD002-R2.01 Remote Access GuidelinesHGI-GD003-R2 Parental Control in the HomeHGI-GD004-R2 Performance MetricsHGI-GD006-R2 IMS Enabled HGHGI-RD007-R2 Requirements for HG Interworking with an External NTHGI-RD008-R3 HG Requirements for Software Execution EnvironmentHGI-RD009-R3 Requirements for an energy efficient home gatewayHGI-RD010-R3 Home Gateway Requirements for Multiple Session SupportHGI-GD013-R2 QoS WhitepaperHGI-RD015-R3 Requirements for Common Power Supply for Home Networking EquipmentHGI-RWD016-R3 HG and Home Network Diagnostics Module RequirementsHGI-GD017-R3 Use Cases and Architecture for a Home Energy Management ServiceHGI-RD024 Requirements for an NGA(Active Line Access)Capable NTHGI-RD026 IP-PBX Module RequirementsHGI-RD027-R3 Home Gateway QoS Module requirements
HGI-RD039 Requirements for wireless home area networks(WHANS)supporting smart home services
HGI-RD048 HG Requirements for HGI Open Platform 2
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グローバルスタンダード最前線
プを定義し,それを基に技術仕様が作成されます.■技術WGでの活動
NTTは,HGIのRD039での規定内容を基に,ZigBee Allianceに対して宅内無線通信要求仕様を説明し,その必要性について賛同を得ました.また,ZigBeeの技術WGメンバとしてHGIの宅内無線通信要求仕様とZigBeeの技術仕様と照らし合わせ,該当する技術仕様有無を明確化し,技術仕様として規定されていなかった簡単接続機能を新規機能として提案し,その検討を進めています.2014年 6 月現在では,図 3 におけるTRDの策定まで完了しています
展示会での広報活動
HGIのRD039を活用し,ZigBee Allianceなどの無線標準化団体とのリエゾン関係の構築のほか, 海外での展示イベントでの講演等を通じて,宅内無線通信方式改善の働きかけを行っています.これまでに2013年10月にオランダで開催されたBBWF(Broad Band World Forum)や2014年 5 月に日本で開催された「Wireless Japan2014」にて講演をしています(図 ₄ ).
今後の展望
ここではスマートホームビジネス展開に向けて,国際標準化の場を活用した海外通信事業者との連携活動として,HGI/ZigBee Allianceでの活動内容を紹介しました.今後も,本分野における課題解決,およびサービス普及に向け,海外通信事業者と協調の下,該当する技術分野に応じた国際標準化活動を進めていきます.
■参考文献(1) http://www.att.com/shop/digital-life.html(2) https://www.qivicon.com/(3) http://www.homegateway.org/(4) http://www.homegateway.org/publis/RD039-
Req-for-Wireless-home-area-networks.pdf(5) http://www.broadband-forum.org/(6) http://www.zigbee.org/
図 4 「Wireless Japan2014」でのプレゼンの模様
図 3 ZigBee Allianceにおける技術仕様策定の流れ
・ユースケースや市場の要求条件を記載MRD
TRD
0.7
0.9
1.0
・TRDのスコープを基に技術仕様0.7 版を策定・0.7版を基に相互接続試験を実施
・最終的な文言の 修正・認証の準備待ち
・最終版
・MRDがZigBee Marketing Steering Committeeで承認 後,ZigBee Architecture Review CommitteeでTRDを 作成・定義すべき技術的なスコープを記載
図 2 ZigBee Allianceの組織構成と役割
Board of Directors・戦略策定・経営,財務,法務・他業界団体への協力推進
ZigBee Architecture Review Committee・各テクニカルWGのとりまとめ
ZigBee Marketing Steering Committee・各テクニカルWGのとりまとめ
Outsourced Management・外部のコンサルティング会社
Technical WG・ZigBeeの普及に向けた技術的活動を行うWG
Market WG・各国の市場におけるZigBeeの普及を目的としたWG