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JAILA JOURNAL 第 4 号

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ラむフレビュヌのSummaryに関する物語論的考察

−介護老人保健斜蚭入所者のもう䞀぀の事䟋−

A narratological analysis of Life Review’s Summary: Another

case study of two elderly men at a Japanese nursing home

奥田 恭士

兵庫県立倧孊

Yasushi Okuda University of Hyogo

Abstract

The purpose of this paper is to clarify the mechanism and function of life review’s

summary, reconstruction of narratives told by two elderly Japanese men at a nursing home, from a

cognitive and narratological point of view. Firstly, we explain the background behind this research

and the interpretative devices generally used in the narratology. This study is part of a project

currently being carried out in collaboration with researchers in other fields of study, in which the

life reviews of the elderly were collected. Secondly, we present a narratological analysis of the

two contrasting summaries, poor or wealthy in remarkable incidents, focusing on narrative

functions and interpretative devices. Finally, we consider how the narratological analysis can

make a contribution to the ongoing interdisciplinary research.This work was supported by JSPS

KAKENHI Grant-in-Aid for Scientific Research(C) Number 16K02606.

1. 研究の背景ず目的

本論考は、二぀の科孊研究費助成に関わるナラティブ研究1の䞀環であり、介護老人保健斜蚭で収集

したナラティブ・デヌタに基づき、先に共同研究者が文䜓論的芖点から分析を加えた論考2に察しお、

これに連接する郚分を構成し、それずは異なる事䟋を物語論ナラトロゞヌの芳点から扱ったもの

である。前研究では、共同研究者より提䟛されたラむフレビュヌを察象ずしながら具䜓的な分析を進

めた。その結果、物語論の手法を揎甚するこずによっお、非文孊テクストにおける再構成ず認知の関

係に考察を加え、文孊テクスト分析にもいく぀かの新たな芖点を芋出し埗た。その埌、適甚したナラ

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トロゞヌの抂念に補正を加え、最近の発衚3では、ナラティブ研究における「関係性」を軞ずしお、抂

念の敎理をしながら、再床ラむフレビュヌのSummaryに぀いお怜蚎し盎した。本皿は、その結果を螏

たえ、前研究での事䟋分析に加筆・修正をほどこしたものである。

2研究の方法

ラむフレビュヌ分析には、むンタビュヌをトランスクリプトする過皋で聞き手が語りを再構成した

ものを察象ずし、ナラトロゞヌで䞀般的ず考えられるいく぀かの抂念を応甚するこずによっお、分析

手法の汎甚性を暡玢するこずに䞻県を眮いた。分析の前提ずなる抂念に぀いおは、すでにいく぀かの

論考4で論じおいるこずから、この小論ではその詳现を割愛し、最小限の説明にずどめたい。

ラむフレビュヌのSummaryを「テクスト」Texteずしお扱う堎合、Gerard Genetteの理論に準じる

ず、その䞻芁な芁玠が䞉぀考えられる。Genetteは「語り」のレベルを䞉぀に分けた。その䞋䜍抂念の

第䞀に、「物語内容」(Histoire/Story)がある。䞻に出来事の連続䜓を指すが、本皿ではこれを「出来事

性」ずいう甚語で瀺す。内容に関わるレベルずなるため、通垞は「語られるもの」が察象ずなるが、

その背埌に「語られないもの」が朜んでいる点に着目したい。第二に、ラむフレビュヌの䞭味を維持

する別の容噚ずしお「芁玄」(Summary)を䜍眮づける。「芁玄」は、Genetteが分類するもうひず぀の

䞋䜍抂念「レシ」(Récit/Narrative)に圓たり、本皿のキヌ・ポむントずなる「再構成」、すなわちRita Charon

の「プロット化」(Emplotment)ずも倧きく関わっおくるからだ。第䞉は、「語る行為」(Narration/Narrating)

である。Genetteの䞋䜍抂念化のうち最も重芁なレベルであり、ここから筆者は、語り手ず聞き手ずの

「関係性」(Relationship)に目を向けた。双方の個別性(Singularity) がどのように共感あるいは察峙し合

うのか。この点を明らかにするこずが本皿の最終目的ず蚀える。

これに関連する抂念区分をいく぀か補足しおおきたい。本皿で扱う「芁玄」の圢態的特城ずしお、

Genetteの蚀う「パランプセスト」(Palampsest)が想定できる。本来、前の文曞を削り、重ね曞きした矊

皮玙に由来し、暡倣テクストに適甚される抂念である。先行テクスト(Hypotexte)は䞋局、埌続テクス

ト (Hypertexte)は䞊局ずなり、語り手の語り逐語・録音を䞋局の「先行テクスト」(Hypotexte)、䞋

局が透けお芋える䞊局の「埌続テクスト」(Hypertexte)を聞き手の芁玄シヌトの蚘述ずし、暡倣テ

クストの䞀皮ず䜍眮づける。

埌述するSummaryに芋られる珟象ずしお二点指摘しおおく。ひず぀は、「コヌダ」(Coda)である。

アリストテレスは『詩孊』で悲劇物語の基本的な特城ずしお「はじめ」(beginning/commencement)

「䞭間」(middle/milieu)「終わり」(end/fin)ずいう䞀連の流れに着目した。「はじめ」は叀来より冒頭

句Incipit研究の察象ずなっおおり、「䞭間」は「プロット化」の䞭心的な郚分を構成する。「終

わり」に圓たる「結末」は、「䞭間」で展開する出来事の「解決」(resolution)ないし「結果」(result)

ずいう圹割頭に察する尻に加えお、もうひず぀「コヌダ」(coda) ずいう䜜品党䜓の“ending”、す

なわち語り手による最終的な締め本䜓に察する尻尟caudaの圹割を果たす。口語分析においおラボ

フ(Labov)ワレツキヌ(Waletzky)が圓初揎甚した抂念である5。もうひず぀は、語り手の越境を瀺す珟

象「メタレプス」Métalepseで、Genetteが象嵌構造を持぀枠物語においお、意識・無意識を問わず

語り手が語りのレベルの境界を䟵犯する珟象ずしお抂念化した。

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最埌に事䟋分析の䞻たる芳点ずしお次の䞉぀を挙げおおく。ひず぀は 「变法」話法である。

Wayne C.Boothは「瀺すこず」(showing)ず「話す[語る]こず」(telling)に二極化した。前者は「堎面」「提

瀺」であり、ミメヌシス性が高く、察話の再珟など、盎接話法が䞻に甚いられる。埌者は「芁玄」「变

述」ずなり、ディ゚ゲヌシスあるいは解説を意味し、間接話法が䞻ずしお甚いられる。Genetteはこれ

を螏たえお䞡者の䞭間圢態を加え、20䞖玀文孊を説明する堎合に䞍可欠な「自由間接話法による拡匵」

を挙げた。第二に、Charonが提唱する「プロット化」だが、これはナラティブの䞭間郚分に深く関わ

り、因果性に基づき再構成する行為ず蚀える。E.M.Forsterがしばしば匕甚され、「ストヌリヌ」(story)

ず「プロット」(plot)の違いに蚀及されるが、Forsterは「謎のあるプロット」a plot with a mysteryに

も觊れおいる。「プロット化」は、間テクスト性(intertexuality) や間䞻䜓[䞻芳]性(intersubjectivity) に

よっお再構成される傟向がある点も泚意したい。䞉぀目は、Genetteが物語を構成するテクストずは区

別すべきもうひず぀のレベルずしお蚭定した抂念、すなわち「パラテクスト」(Paratexte)である。分析

に際しおSummaryに付随し、同時にテクストに圱響を䞎える「二぀の身䜓的指暙」がこれに圓たる。

分析の恣意性や劥圓性に぀いおは、文孊テクストにおいおもその怜蚌は容易ではない。次におこな

う非文孊テクスト分析ぞの適甚に぀いおは、あくたでチャレンゞングな詊みである点を付蚘しおおく。

3. Summaryの分析

3.1 分析察象に぀いお

本皿で扱う資料は、介護老人保健斜蚭入所者を察象ずしたラむフレビュヌの聞き取り調査のうち、

察象者9名のべ15回のむンタビュヌ内容ず芳察蚘録を枚のシヌトに蚘茉したものである。

資料提䟛者である内田勇人の研究は、䞻ずしお認知機胜の向䞊を枬る数倀的方法であるず考えられ

る。R.N.Butlerに始たる「回想法」には、認知機胜を高める利点があり、それを数倀的なパラメヌタヌ

に拠っお裏づけるずいうのが基本なスタンスず蚀えるだろう。ラむフレビュヌを「聞く」ずいうこず

自䜓に意味があり、幎霢高霢の床合い、介護床、認知機胜を枬るHDSR長谷川匏簡易知胜評䟡

スケヌルやMMSEミニメンタルステヌト怜査、堎合によっおはGDS高霢者甚の抑う぀尺床

等の蚈枬によっお回想の前埌に生じる倉化を芋おいくこずになる。資料は、録音蚘録逐語ではな

く、通垞行われおいる調査方法によるものシヌトぞの芁玄である。

3.2 察象ずなるSummaryに関する抂芁

むンタビュヌに関する理論・方法・実践に関しおは、幅広く局の厚い研究がすでになされおおり、

珟圚でもフィヌルドや実践珟堎から研究成果の反映が曎新され぀づけおいる。具䜓的な䟋が数倚くあ

り、それに基づいおむンタビュヌ実習など、孊生の育成にも熱心な取り組みがなされおいるのが珟状

である。高霢者のラむフレビュヌに限定しおも、分野倖の者が知っおおくべきこずが尐なくない。「ト

ランスクリプト」の方法論にもリゞッドな研究䟋が芋られる。資料は䞀連のむンタビュヌ実践のうち、

録音起こし逐語スクリプトがなく、次テクストを省略した圢でのむンタビュヌによる䞀皮のト

ランススクリプトであり、これをどう考えるかが筆者に課された䜜業ずなる。

聞き手は、芁介護高霢者の心身の機胜評䟡に぀いお孊習し、面接経隓の豊富な健康教育孊を専攻す

る倧孊生名である。これたでにも高霢者斜蚭でのむンタビュヌ経隓があり、䞻ずしおラむフラむン

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に沿った䞀定の質問䟋を準備しお人の高霢者に぀いお名ないし名組で話を聞いおいる。厳密

な意味でのトランスクリプトではないから、語りの内容の芁玄ず芳察蚘録をシヌトぞ蚘茉するずいう

圢を取っおいる。話し蚀葉の分析に甚いるトランスクリプト・システムに基づく曞蚘方法や通垞よく

甚いられおいる蚘号などを倚甚するこずはない。しかし「談話を文字化するための原則」のうち、カ

テゎリヌデザむンず読みやすさずいう点は十分に考慮しおいる。䟋えば、芁玄シヌトを䜜る際に甚い

る蚘号は、通垞われわれがノヌトやメモを取るずきに心がける皋床のものに限られおいるものの、䞭

黒・や小䞞ଠによる項目の列蚘、たずたりごずに□★☆や区切り線を䜿い、䞋線を匕いお矢

印や棒線をのばしお欄内・欄倖に補足や蚀い換えを曞き蟌む、たた による別蚘、□や○での囲

みを䜿った匷調など、聞き手の個性に応じた分かりやすいたずめ方ずなっおいる。

シヌトは、巊偎が自由蚘述の倧きなスペヌス芁玄、右偎に項目に现分された芳察蚘録欄蚘録

が蚭けおある。聞き手は高霢者のラむフレビュヌを、その人のラむフラむンに沿っお質問しながら、

10分間聞く①小さかった子どもの頃、小孊校の頃、10歳代の頃、②20歳代から30歳代の頃、③40æ­³

代から50歳代の頃、④60歳代以降、たずめ。芳察蚘録は簡朔に項目ぞの該圓があるかの有無を基本

にしおいるが、聞き手によっおは、芳察蚘録の欄倖に「窓の方をみお考えおたけど、話す時はこちら

を芋おくれる」など、自分が感じたこずをできるだけ蚘そうずしおいる。

Summary資料には、逐語資料ずは異なり、基本的には聞き手ず語り手ずの臚堎的芁玠はない。たた、

察話の䞭で語りのパッセヌゞを取れるかどうかを枬る䜜業もカットされる。たた、時間的な秩序に制

玄されず、基本的にはどこから読んでもよいずいう利点がある。逐語スクリプトや䞀定量を持぀テク

ストでも同様の読み方は可胜だが、ひず぀が枚のシヌトの範囲で構成されおいるため、芖芚的・空

間的に把握しやすい。メモ構成のため、日本語衚蚘の䞊では基本的には人称が蚘されず、暗黙の䞉人

称ずいう圢態を取る。ラむフレビュヌの聞き取り調査察象は9名のべ15回であり、この小論ではすべお

を均等に分析するこずはむずかしい。そこで、察比的な二぀の事䟋、出来事性の䜎いさん、出来事

性の高いさんを取り䞊げ、聞き手孊生を/’ずしお分析を進める。

3.3 ラむフレビュヌSummaryの分析 (1)

3.3.1 最も短いSummary

のべ15回のラむフレビュヌのうち、最も出来事性に乏しく、きわめお簡略にたずめられたさん男

性の事䟋を芋おみよう。原文は手曞き、曞蚘は原文のたた

◇回目「20代たで芚えおいない。20〜40代→持船の倧工。週間から週間どっかに行っおるこず

もあった。」[さんに察しお䞀人の聞き手女子孊生がおこなったむンタビュヌ]

20歳たでは空癜、20歳代から40歳代たでの出来事は、「持船の倧工」ずいう蚀葉にずどたる。それ

にプラスされるのは、どの時点か明確でない「どこかに行っおるこずもあった」ずいう短い行為の衚

珟である。これが、第回目10分のむンタビュヌの䞭から聞き手がずらえるこずのできたさん

の人生の断片ずいうこずになる。回目の蚘述を芋おみよう。

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◇回目(1)「20歳たで遊んでいた。幎生からお仕事でおじさんの所にお手䌝いしおいた。持船を䜜

っおいた→50mくらい。20〜40歳たで 友達ずあっちこっちで怒られおいた。」

第回目では、さんは20歳たでのこずは芚えおいないず蚀ったが、ここでは「遊んでいた」ずい

う蚀葉に倉わっおいる。「幎生」ずいう明確な幎次ず、その尐幎期に「おじさんの手䌝い」ずいう

具䜓的な蚀葉が曞き蟌たれた。そしお、20歳代以降、第回目で唯䞀䞻芁な出来事であった「持船の

倧工」に぀いおは、その察象である「持船」が「50mくらい」であるず報告される。曎に、第回目

の前埌関係が明確でなかった「週間から週間どっかに行っおるこずもあった」ずいう衚珟から、

同様に関係性が特定できない「友達ずあっちこっちで怒られおいた」ずいう、䞻䜓に具象性が付䞎さ

れた蚘述ぞず倉わった。これは、回目では光の圓たっおいなかった郚分が本来光を発しうるもので

あり、それを掚枬し想像力をふくらたせれば、回目でもその出来事に想いをめぐらすこずが十分で

きたこずを瀺しおいる。もしそうであれば、回目のラむフレビュヌがどんなものずなるかを想定す

るこずがいくぶんかは可胜であろう。尐なくずも、蚘された内容がそこで終わっおいないずいう認識

だけは「曞き手」に残る。それを蚌明するかのように、回目の蚘述の最埌はこう終わっおいる。

◇回目(2)「いっぱい話しおくれたが、聞き取るこずができなかった。」

この短いラむフレビュヌ報告は、䜕を意味しおいるのか。

3.3.2 Summaryの解釈

さんの話した内容をもずに、聞き手が拟い出した「出来事」はきわめお尐ない。蚘述は䞊に挙げ

たものに限られおいる。しかし、は蚘述できないがさんの物語が「あった」こずを「いっぱい話

しおくれたが、聞き取るこずができなかった。」ず曞くこずによっお蚌蚀しようずしおいる。

このラむフレビュヌは確かにさんの物語である。出来事の䞻䜓はさんであり、省略されおいる

が元の人称は「私」さんである。しかし、さんが人称で語ったもの自䜓は衚面に珟れおいな

い。圌の蚀葉は、聞き手であるむンタビュアヌの芖点から、䞻ずしお出来事の圢きわめお尐ないが

で「芁玄」再構成されおいる。では、さんが物語ったもの自䜓はどこにあるのか。それはオヌ

ラルの圢で時間の流れに沿っお「存圚した」10分間の「蚀葉」であり、今は消えおしたっお存圚しな

い。ICレコヌダヌによる録音蚘録逐語あるいはむンタビュアヌの聞き曞きによる逐語に近いメモ

があれば、それがさんの物語ったものずほが等䟡ずいうこずになる。しかし、等䟡ではあるが同じ

ものではない。口述が曞承に倉わるずき、「ナラティブ」内容を維持する噚も倉化したず考えら

れるからだ。Genetteの定矩する物語内容むストワヌルが別の物語蚀説レシに還元されたもの

ず衚珟するこずができるだろう。なぜなら、出来事性を報告する䞻䜓は、この堎合「聞き手」だから

である。察話の再珟ではなく、語り手による蚀説である以䞊、この皮の「芁玄」はほがすべおこの圢

態であり、ミメヌシス性がきわめお匱いず蚀える。

ここで、先ほど回目のシヌトの最埌に蚘された蚘述を思い出しおみよう。それは、「いっぱい話

しおくれたが、聞き取るこずができなかった」ずいうものであった。この䞻䜓は明らかに「聞き手」

である。文孊テクストであれば、この珟象を、さんの物語の䞭に芁玄行為を行う「語り手」この

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堎合はむンタビュヌの「聞き手」が突然䞻䜓ずしお「介入」しおきた、ず解釈するこずができる。

統括的芖点を維持しおきたはずの「曞き手」はここで性質の異なる「語り手」ぞず倉わっおいるので

ある。確かに、日本語は英語・フランス語ず違っお、人称や時制が分かりにくい。たた、「芳察蚘録」

の䜙癜は自由蚘述であるから、曞き手にずりわけ「介入」の意識があったずするこずはむずかしいず

も蚀える。しかし、この蚘述を文孊テクストずしお扱うならば、統括的芖点が䞀定であった䞉人称的

なテクストの均衡が、䜜者の突然の介入によっお厩れたず解釈するこずができる。物語論的には䞀皮

の「メタレプス」に盞圓し、語り手が語りのレベルの境界を䟵犯する珟象ず考えられる。文孊䜜品の

䞭でも特に象嵌構造を持぀枠物語では、意識・無意識を問わず語り手が枠を越境するずいった珟象が

しばしば芋られるからである。

变法的にはどうだろうか。基本的な变法は「瀺すこず」のレベル「さんは私に蚀った“僕は持船の

倧工だった”」ではなく、「語るこず」のレベル「さんは私に自分(he)は持船の倧工だったず蚀った」

であり、最埌の蚀説は「語るこず」のレベル「私は自分(I)が聞き取るこずができなかったず

思った」であるよりもむしろ、Genetteの蚀う二぀の䞭間的な蚀説、぀たり「間接話法に転換された

蚀説」「私は思った。自分(I)はそれを聞き取るこずができなかったず」に倉わったず考え

るこずができる。「語るこず」よりもミメヌシス性が高く、実際に考えたこずを忠実に再珟したず「読

み手」に保蚌を䞎えるずいう圹割よりも、むしろ自由間接話法に近いず蚀うこずができる。この变法

の倉化によっお、テクスト内郚に存圚しなかったはずの人物䜜者がテクスト内䞻人公に぀いおコ

メントする圢ず䌌た印象を「読み手」筆者に䞎えた。このような䞀皮のコメントはブヌスの蚀う

「論評」(commentary)ず解釈するこずも可胜だが、統括的芖点からの「は聞き取るこずができなか

った」ずいう客芳的蚘述や、本来の䞻䜓さんを芖点ずする「僕はさん(she)は聞き取るこ

ずができなかったず思った」ずいう蚘述ずは異なっおおり、新たな語り手によっお前の語り手による

出来事のほずんどを括匧に括る「ディクション」(diction)になったず考えるこずができるだろう。「聞

き手」であったが「聞き手」から客芳的な「曞き手」に倉わり、その䞻䜓が蚘述を進めおいくのだ

が、最埌で新たな「語り手」ぞず倉貌する。そのため、はその存圚を匷調するかのように、さん

の出来事は「存圚した」が、自分には「蚀葉にするこずができなかった」ず蚀明するこずになったの

である。

この短いSummaryは「語り」のパッセヌゞではないし、たた出来事性も䜎いため、語りの基本構造

である「はじめ」「䞭間」「終わり」の流れを圢成するには至っおいない。しかし、䞍思議なこずに

読み手筆者にはむンパクトがあった。それは、芖点や变法の倉化を䌎う圢で、最埌の蚀説が䞀皮

の「コヌダ」を成しおいるからではないか。この点を曎に別の角床から芋おいこう。

3.3.3 Summaryの「パラテクスト」

このラむフレビュヌは、「東倧匏芳察評䟡スケヌル」を参考ずし、これに蚀語的コミュニケヌショ

ン、および非蚀語的コミュニケヌションの皋床に぀いおの芳察蚘録を远加したシヌトに蚘述されたも

の聞き手名である。具䜓的には、さん男性の芳察蚘録は以䞋のように蚘された。

◇回目①発語回数 普通 ②発語の明快さ あたり明快ではない ③話のたずたり あたりない

④話し方の印象 がそがそ話す ⑀顔の衚情 あたり倉わらず ⑥れスチャヌの有無 無し

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◇回目①発語回数 倚い。前回より増えた。 ②発語の明快さ 蚀っおいるこずがわかりにくく、

ききずりができなかった。 ③話のたずたり 空欄 ④話し方の印象 空欄 ⑀顔の衚情 前回より

も増えた。 ⑥れスチャヌの有無 前回はたったくなかったが、今回はあった。䞋線筆者.以䞋同じ

この情報は「テクスト」ずはレベルの異なるテクストであり、テクスト本䜓を補完するだけではな

く本䜓に倧きな圱響を䞎えるテクストである。Genetteが䜍眮づけた䞀皮の「パラテクスト」ず芋なす

こずができる。テクストにはなかった、ひず぀のはっきりずした心理的掚移が感じ取れるからだ。衚

情の倉化や身振りが増え、話す内容も増えた。しかし、䞀方で、もずもず分かりにくかった話が、前

よりももっずたずたりがなくなった。テクスト本䜓には珟れおこないが、語り手ず聞き手の察面によ

る臚堎性が珟れおおり、回目よりもたくさん話しおくれた、それなのに、自分には理解できる郚分

が尐なかったず、聞き手が感じたこずがこの「パラテクスト」から読み取れる。

テクストだけを察象ずした堎合、聞き手が10分間にわたるラむフレビュヌの詳现を数行で「芁玄」

しおいるように䞀芋受け取られる。しかし、末尟に「いっぱい話しおくれたが、聞き取るこずができ

なかった。」ず蚘述するこずによっお、光を圓おるこずのできなかった郚分が「たくさんあった」こ

ずを匷く暗瀺する圢になった。テクストだけを読むず、それが䜕故なのか聞き手読み手には分か

らなかったが、パラテクストを介しおラむフレビュヌ・プロセスの臚堎性がより鮮明に䌝わっおくる。

この芳察蚘録は聞き手の感じたたたの盎感的な蚘述ず蚀えるが、これに数倀的な情報もうひず぀

のパラテクストを付加するず、元の蚀説の意味がもうひず぀別のレベルに眮かれるこずが分かるだ

ろう。䞀定時点での数倀であるずいう留保を぀けた䞊で、認知床怜査の結果を以䞋に瀺す。

◇男性80歳半ば、介護床、認知機胜HDSR13、MMSE12

介護床が䞊限であるこず、「HDSR20以䞋、MMSE21以䞋」は認知症ず疑われるこずから、

身䜓的・認知床的にナラティブが可胜の範囲を倧幅に䞋回っおいるこずが分かる。

聞き手が事前にこの客芳的数倀を知らされおいたかどうかは䞍明であるが、むンタビュヌの開始前

埌から掚枬するこずは十分にできたず考えられる。確かに、聞き取りにおける「出来事性」は䜎い。

しかし、先ほどの蚘述は、さんに朜圚的な出来事性が内圚するこずを、この蚘述の読み手䟋えば

筆者に掚枬するこずを可胜にしおいる。その曞かれるこずのなかった圱の郚分に、ただ倚くの出来

事が含たれおいるず読み手に思わせ、想像する䜙地がたくさんあるず感じさせるのはなぜだろうか。

その理由は、むンタビュヌの「聞き手」ずいう䞻䜓が、Summaryの「曞き手」が維持しおきた客芳性

を飛び越えお「いっぱい話しおくれたが、聞き取るこずができなかった。」ず蚘述した、この䞀点に

尜きる。この段階で、それたで「なかった」ず思われおいたものが姿を珟しおくるのである。

3.3.4プロット化

光っおいる郚分が尐なく、語られない圱の郚分の倚いもの、満面に光を攟っお、月であるこずがは

っきりず分かるほど茝いおいるもの、さたざたなラむフレビュヌがある。その意味では、さんのラ

むフレビュヌは、光っおいる郚分が尐なく、語られない圱の郚分が倚い。しかし、出来事性の乏しい

さんの語りに、「語られない圱の郚分」がただたくさん「存圚する」ず、聞き手であった孊生は「蚀

いたかった」のだず掚枬できる。ニュヌトラルな曞き手ずしお蚘述しながら、どうしおも最埌に「こ

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れで終わりではない」ずいう“意思衚瀺”を、新たな語り手ずしお唐突に「介入」するこずで瀺した。

それが、この芁玄に内圚する物語論的芖点の特城ず蚀える。

「物語」を聞く、読むずいう䞀般的な行為には「想像」ず「連想」が぀きものである。物語を読み、

テクストを媒䜓ずしお読解を進めおいくプロセスの䞭では、「想像」ず「連想」による䞀皮の「転移」

(transference)が必ず付随する。これは誰もが経隓するこずだ。「聞き手」あるいは「読み手」には、テ

クストから「連想」を広げ、元のテクストを「プロット化」する手段がいく぀かある。

ひず぀は、「間テクスト性」による連想である。しかし、このテクストには、「はじめ」も「終わ

り」もなく、䞭間はほずんどない。最埌の蚀説がかろうじお「コヌダ」の圹割を果たしおいるのでは

ないかず先ほど述べた。どこにも他のテクストぞの蚀及はないし、誰もが想像できる範囲は限られお

いる。語り手から聞き手ぞ、聞き手が曞き手ずなっお読み手筆者ぞ、このプロセスの䞭で䜕が起

こりうるのか。

「持船」「若い頃」「怒られた」ずいう単玔で誰にでも起こりそうな出来事が、読み手によっおは、

どれほど尐ない出来事でも連想を広げるこずを可胜にする。読み手の「個別性」を根拠ずし「経隓」

に基づく「読曞」から、具䜓的な䜜品の情景を思い浮かべるこずは誰にでも起こりうる珟象ず蚀える。

たた、これず関連しお、もうひず぀「間䞻䜓性」[間䞻芳性]に基づく連想を忘れおはならない。「間

テクスト性」に先立ち、䜕らかの集合的意識が想定できるずすれば、海の近くで育った経隓や持船か

ら感じるむメヌゞ、あるいは「おじさん」「手䌝い」ずいった蚀葉から聞き手や読み手が受ける印象

によっお、連想は広がりを持぀こずができるだろう。さんの堎合、分かっおいる出来事が尐ないが、

その代わり「䜙癜を埋める」ずいう行為には無限の可胜性が朜んでいる。

この二぀の事象は、個人的な連想に䌎う「フラッシュバック」に他ならない。あくたで「個別性」

に基づくものであり、同じテクストにすべおの人が同じ連想をおこなうず考えるこずはできないが、

語りが新たな経隓ずしお同期し、共有されるこずは十分にありうる。人はこのような方法でテクスト

を「プロット化」するこずができるのである。

3.4 ラむフレビュヌSummaryの分析 (2)

3.4.1出来事性の高いSummary

次に取りあげるさんのラむフレビュヌ報告出来事性が高いは、さん出来事性が䜎いず

は察局にある。したがっお、Summaryも詳现であるため、その党文を蚘さず、聞き手が蚘述する出来

事の「たずたり」ごずに番号を笊り、テクストず䜵蚘しながら、※で指瀺をし、簡略に説明したい。

◇回目聞き手、’の名組は、出来事性がきわめお高い。「語り」にたずたりがあり理解

しやすかったこずが芁玄の仕方からも分かる。たずたりごずに空癜を入れレむアりトを工倫しおおり、

䞋線・波䞋線・括匧・矢印の䜿甚によっお芖芚的に理解しやすいようになっおいる。䌚話の臚堎性が

䌝わるように「~ ~」「笑」を䜿甚しおいた「でも自分は日本人よ~ ~笑」。

(1)「功瞟残しおいる気は昔はあったかな」「孊校の先生もしおたけど、そろばん教えおた地名」

※過去の自分の䜍眮づけが芋られる。「孊校の先生」に波䞋線が匕かれ説明が加えられる。「そろば

ん」の話題で「法」ずいう聞き手孊生にはむずかしい蚀葉が䜿われるが、矢印↓のコメン

トを読むず、聞き手である孊生にも理解しやすく話そうずする姿勢が芋られ、「教垫」であった点が

䌝わる。盎接話法ず掚枬できる「な」ずいう助詞が付加された。

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(2)「長女がミス地名自分のきょうだい」「自分は日本生たれではない」「日本人よ〜笑」

※人の姉ず自分末っ子ずいう家族から、出生地に぀いお「䞭囜倧陞の地名」「䞡芪は

日本の地名」「日本人よ~ ~笑」ずいう蚘述から䌚話の臚堎性が䌝わる。

(3)「和尚人名の圱響で※昔からある栌闘技を始める」

※䞋線を匕き「教えおはないけど石割れる」「子どもらに教えおずいわれた 努力が足らんず蚀っお

断った」ず远蚘された。「断わった」ずいう衚珟に含意するものがあるず掚枬される。

(4)「士族がしそんだったが差別は嫌い」※先祖の間違い聞き手「地名」「昔は階玚が

十個くらいあったのよ」 ※盎接話法ず掚枬できる「よ」ずいう助詞が付加された。

◇回目聞き手同じく名組も、出来事性がきわめお高い。発語が明快で話にたずたりがある

点は回目ず同じである。むしろ、回目よりも情報の質が高くなる。现郚の説明が詳しく、聞き手

の感情に蚎えるような゚ピ゜ヌドが芋られるようになった。蚘述に埓前どおり「たずたり分け」はあ

るが、回目ほどはっきり分かれおいない。空癜を利甚したレむアりトがなく、どちらかずいうず列

挙する圢で、䞭黒・が倚甚される。䞋線・波䞋線・括匧・矢印の䜿甚量が枛った。䌚話の臚堎性

を䌝える曞き方がない。その理由が語り手に由来するのかどうかは最埌たではっきりずしない。

(1)「公→の藩士」「癟人䞀銖の話 地名の倧䌚に出た」「倩皇ず同い幎」

(2)※地名が列挙される。そのうちのひず぀「地名」に䞋線→「公民通でそろばんを教えおた」

「地名の孊校の先生だった」※回目よりも具䜓化「算」※「法」から

分かりやすい蚀葉に倉わる「緎習が足りないから」※以䞋は括匧぀きで蚘されおいる“「䞀生

懞呜やったら石でもわれる」生埒が「割っお」ず石をもっおきた。→わっおみせた” ※かなり

具䜓的な゚ピ゜ヌド、回目では「断わった」ずしおいたが、その埌状況が展開したこずをはっきり

ず瀺しおいる。

(3)「地方名」「地名」※具䜓化「歊人名」※回目にも出おきた

が具䜓的な゚ピ゜ヌドが加わる※ここで「原爆」だず掚枬できる蚘述が突然出おくる「S.20.8.6

にふっずんだ」そのあず「修孊旅行」「遠足で行っおたらしい近くの人は」※ず’は、蚘述

の関連性を぀けおいない。意識的か無意識的かは分からないが、蚘述の連続性によっお、この日子ど

もたちがどうなったのかは容易に掚枬するこずができる。

(4)平均寿呜の話 「出生地䞭囜倧陞の地名」※このずきの説明が回目よりも詳しくなる。

父の友人のこず。倧きくなる前に日本の地名ぞ来たこず。父がなくなったこず。母が郜

垂名に出お仕事。小孊校は郜垂名など、幌尐期のこずが続けお蚘されおいる。

3.4.2 Summaryの解釈

さんのSummaryは、回ずも出来事がたくさんあり、たたそれらは秩序立っおいたためか、聞き

手は容易にたずめ盎すこずができおいる。枚のシヌトから蚘述の党䜓的むメヌゞがしやすかった。

しかし、䞀方で曞き手は、シヌトが読たれるこずを想定し、パヌツ分け・行間などに気を配っおいる。

聞き手の明快な質問ず話し手の明快な答えが掚枬できる。逐語にした堎合でも、内容の豊富さやニュ

アンスの違いはあっおも、この芁玄でほがすべおが蚀い尜くされおいるず感じられる。

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「ストヌリヌ」は出来事性に富んでいる。出生、家族、戊争、これを経お次に「戊埌の生掻」が続

くこずが予想される。曞き手はSummaryの䞭でさんの物語を「プロット化」しようずしおいるず感

じられる。このずき、話し手ず聞き手ずの「関係性」にも着目する必芁があるだろう。語り手は聞き

手が若い女子孊生名組であり、自分がか぀お教垫であったこずから、語りによる効果を意識

しながら出来事を提䟛しおいるず理解するこずができる。たた聞き手偎は、話の出来事性に興味を瀺

し、その語りから埗られる情報を可胜なかぎり再珟するために「再構成」に工倫をほどこし、その敎

合性にも泚意を払っおいる点がはっきりず分かる。この分析から読み取れるものは䜕か。

第に芖点の問題がある。短くはあったが、さんの蚘述は統括的芖点が支配するテクスト最埌

に曞き手から聞き手の芖点に倉わったであったのに察しお、さんの堎合、随所に「盎接話法」に

圓たる蚘述が芋られた。察話の臚堎性や語り手の声が想像できる。たた、聞き手の様子も目に浮かぶ

ようにむメヌゞしやすい。第に人称だが、さんずいう䞻䜓がはっきりずテクストに珟れおおり、

ミメヌシス性が高いず蚀える。芁玄は䞻ずしお「語るこず」に重心があるが、この堎合、「瀺すこず」

の床合いが匷いず考えられる。蚘述から、聞き手を含めた挔劇的堎面を圷圿ずさせ、堎の臚堎性が匷

く䌝わっおきた。さんの事䟋ずは違っお、聞き手曞き手の「介入」や「論評」は芋られない。「コ

ヌダ」はどうだろうか。回目の「終わり」には、戊埌の生掻に向けた䌏線が匵られおいる。物語が

このあず続くずいう予感を残しながらテクストはいったん閉じる。

3.4.3 Summaryの「パラテクスト」

さんのテクストに付随する「パラテクスト」ずしお、回分の芳察蚘録を比べおみる。

◇芳察蚘録発語は明快で話にたずたりがある。話し方の印象「窓の方をみお考えおたけど、

話す時はこちらを芋おくれる」、顔の衚情にこやか、れスチャヌかなり倚めずいう蚘述か

ら、語りの豊かさが掚枬できる。

◇芳察蚘録発語回数倚い、発語かなり明快、話のたずたり有は回目ず倉わら

ない。話し方の印象机の方を芋぀぀も、顔を芋お話すからは、芖線の方向性が回目ず同じであ

り、そこから話す前埌は「窓」回目や「机」回目を芋おいるが、話す時は聞き手の方を

芋るずいう同皮の行為であったこずが確認される。顔の衚情豊かれスチャヌ有は回目ずほ

が同じだず思われるが、「その他生埒の話をしたずきに涙ぐんでいた」によっお、回目にはない

状況説明が远加された。䞋線は筆者

蚘述が回目よりも具䜓化するが、聞き手に察する奜意や配慮は倉わっおいない。「生埒の話をし

たずきに涙ぐんでいた」ずいう回目にはない状況説明が加わっおいるこずから、昔の「生埒」の状

況を回目よりも思い出したのか、情動的な倉化悲しさが感じられる。

次に、認知機胜に関する数倀は以䞋のずおり。

◇数倀男性、80歳前半、介護床、認知機胜HDSR27、MMSE27

認知床は高く正垞範囲であるこずが分かる。録音をするこずで語り手に䟵襲性を䞎えるこずも考えら

れるため䞀抂には蚀えないが、Summaryから掚枬するかぎり、むンタビュヌの逐語蚘録による語り分

析の察象ずしお、パッセヌゞの取りやすい事䟋ず感じた。

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3.4.4プロット化

さんの堎合に比べお、出来事性の高いさんのラむフレビュヌには「間テクスト性」の䜙地がか

なりある。䜜品ぞの連想も可胜ず思われるが、「そろばん」「癟人䞀銖」「和尚人名」「

公」などから、䞻ずしお歎史や文化に関わるテクストぞの連想が可胜である。そこから語り手を具

䜓的にむメヌゞするこずができる。「間䞻䜓性」ずいう芳点からも、戊時䞭や戊埌に぀いお盎接経隓

がなくずも、間接的な情報は倚く、そこから「聞いたこず」「芋たこず」に応じお、読み手の「個別

性」に基づく連想の堎を広げるこずが可胜だず思われる。

さんの語りには、光っおいる郚分が倚くあり、さんずは反察に圱の郚分はないように芋える。

しかし、この回のむンタビュヌから、聞き手曞き手は、読み手筆者に次のこずを掚枬できる

ように蚘述の条件を敎えおいる点は泚意を惹く。

回目の語りは「孊校の先生」をしおいた時代から始たっおいた。聞き手が孊生であり、自分が教

えおいた生埒たちを思い出すずころが「はじめ」である。焊点ずなる「石を割る」ずいう行為が語り

の導線を䜜り、生埒ずの関わり䞭間郚を圢成しおいくず考えるこずができる。さんの“a plot with

a mystery”E.M.Forsterにおけるキヌワヌドは、「生埒」「石が割れる」「教えなかった」「石を割

っおみせた」である。そこに「S.20.8.6にふっずんだ」「修孊旅行」「遠足」ずいう連想が継起する。

しかし、最も重芁なキヌは、回目の芳察蚘録に聞き手によっお曞かれた「生埒の話をしたずきに涙

ぐんでいた」ずいう衚珟である。さんは、聞き手である孊生に察しお奜意的で、いろいろ話すうち

に、語りの関係性を原因ずしお、昔の「生埒」のこずを思い出すに至った。その結果、語るはずでは

なかった珟実、盎接的には忘れおいたかもしれない光景、それらが䞀挙に内面に溢れたのだず考えら

れる。その生埒たちがその日どうなったのか、語りには珟れない「事実」が「存圚」するず想定され

る。分析者ならば、それをはっきりず蚀葉にする必芁があるだろう。しかし、蚘述の間隙を埋めるに

はあたりにも重すぎる。「芁玄」は解釈を避け、掚枬の域を出るこずを差し控えた。このSummaryを

ひず぀のテクストずしお読むならば、そこには玛れもなく“a plot with a mystery”があるず考えられる。

さんの語りの出来事性は確かに高い。そしお、それらの出来事はひず぀ひず぀が連想の糞によっお

玡ぎ出されおいる。話す前には、語り手自身もここたでの「フラッシュバック」が生じるずは予枬し

おいなかったかもしれない。「語り」は人の心に朜むものを語り手に思い出させる。そしお、それを

可胜ずするのは、語り手曞き手ず聞き手読み手の間に生み出されるある領域に他ならない。

「語り」が本来的に持぀䞀皮の「深淵」、「関係性」ずいう垯、ず蚀い換えるこずができるだろう。

4おわりに

以䞊、非文孊テクストを察象ずしおナラトロゞヌの芖点から分析を詊みた。前述したように、これ

たでにあたり行われおいない分析であり、圓然のこずながらその恣意性・劥圓性に぀いおは異論もあ

るず考えられる。課題ずしおは、今埌新たな分析に圓たっお、共同研究者から提䟛される事䟋の粟査

および説明抂念の曎なる怜蚎・補正を繰り返し緎り盎すこずによっお、分析事䟋を重ねおいきたい。

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基盀研究(C)䞀般課題番号16K02606 2 寺西雅之・内田勇人. (2017). 「ラむフレノュヌに関する文䜓論的考察―介護老人保健斜蚭入所者の

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ずの邂逅」,日本質的心理孊䌚第 14 回倧䌚2017.9.9,銖郜倧孊東京荒川キャンパス. 4 奥田恭士,「ナラティブ研究の可胜性文孊ず医療をどう結ぶか」,『兵庫県立倧孊環境人間孊郚研

究報告』, 第 19 号, pp.153-167, 2017; 奥田恭士,「なぜ今ナラティブか−その珟状・背景・問題に぀い

お−」,『兵庫県立倧孊環境人間孊郚研究報告』, 第 18 号, pp.67-76, 2016. 5 ラボフ(Labov)ワレツキヌ(Waletzky)の Proceeding1966 以降、coda は chute ずも衚蚘され、その䜍眮

づけは埮劙である。ナラティブには coda がないものもあり、その基本的芁玠からはずすこずが倚い。