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芽ばえさまざま ̶ 形と生態の多様性 ̶

2013.5.19 大野啓一(千葉県立中央博物館)

1.芽ばえの特徴

多くは地際に子葉があります。単子葉類などを除くと、子葉(しよう)は同形・同大の

2枚の葉が向かい合わせ(対生)につく双葉(ふたば)です。双葉は、へりに鋸歯や凹凸

が無い単純な形で、毛も無いか少ない傾向があり、その後に開く本葉(ほんよう)と形態

が違っているのがふつうです。双葉と本葉という2タイプの葉をもつ小さな植物というの

が、芽ばえであることを見分けるポイントだとも言えます。双葉は形が単純なので、これ

だけで種類を見分けるのは困難ですが、いくつかの分類学的なグループ(属や科)では形

に特徴があり、そのグループの芽ばえだと分かります。分布などを併せて考えると、種類

が特定できることもあります。

2.地上子葉型と地下子葉型

双葉をもつ芽ばえは、胚軸が伸びて地上に双葉が開く「地上子葉型」と、胚軸が伸びず

双葉は地中で種皮に包まれたまま開かない「地下子葉型」の2つに大別されます。樹木で

は、大きなタネをつける種類のほとんどの芽ばえが「地下子葉型」です。「地上子葉型」の

双葉は光合成をして稼ぐのに対して、「地下子葉型」の双葉は多くの貯蔵養分を蓄えており、

それを地下に隠して捕食から逃れようとしているのだと考えられています。ちなみに、ク

リやクルミなどのナッツ類の芽ばえは「地下子葉型」です。ただ、草本では小さなタネの

植物でも「地下子葉型」の芽ばえをつくる種が少なからずみられ、単子葉類にも同様な2

タイプがあるので、「地下子葉型」の意味は、捕食回避の点からだけでは説明しきれません。

3.単子葉類の芽ばえ

以前は(学校の教科書では今も)、被子植物は「双子葉類」と「単子葉類」に2分される

とされていました。しかし近年、DNA を用いた系統解析の結果、「単子葉類」は一まとま

りのグループであるのに対して、「双子葉類」というまとまりは存在せず、双子葉類と一括

されていた植物の中には、単子葉類との間以上に相互に類縁の遠いグループがいくつも含

まれていることが判明しました。

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単子葉類は、文字通り子葉が1枚なのですが、その子葉がどれなのかは一見したのでは

なかなか分かりません。単子葉類でも、「地上子葉型」「地下子葉型」に対応するように地

上に子葉が開くものと開かないものがあります。前者では、発芽の際に葉身の先端にタネ

が付いていることがあり、それで子葉だと分かります。ただ、本葉と子葉との形の違いは

顕著ではありません。地上に子葉を開かない場合、地際か地下にタネがついており、子葉

は鞘状・柄状の部分とタネの中に入った部分とがひとつながりに組み合わさったものです。

平面のある葉らしい葉や貯蔵養分を貯めた地下子葉ではないので、「これが子葉だ」といわ

れてもなかなか納得できないかもしれません。

さらに、地上に開かない子葉をもつ単子葉類の中には、発芽した年には本葉が開かず、

本葉が開いた頃には子葉は腐ってタネもとれてしまう芽ばえが数多く見られます。これら

は芽ばえの状態では地上に現れない「地中性の芽ばえ」とでも言うべきもので、野外での

発見は困難です。「地中性の芽ばえ」は、単子葉類の中のいろいろな科や属の種にまたがっ

て認められるので、平行的に進化したのでしょう。しかし、なぜかいわゆる双子葉類には

ほとんど認められません。不思議な生態ですが、どういう意味があるのか全く不明です。

4.変わった芽ばえ

双葉の一方が退化して消失したり、ごく小さい芽ばえがあります。これらは不思議と草

本種だけにみられ、しかも相互に血縁の薄いいくつかの科にまたがっています。単に消失

したり退化するだけでなく、付随して他にも変わった性質のみられる場合もあります。こ

こで紹介するのは、セツブンソウ、ニリンソウ、ヤブレガサ、ジロボウエンゴサク、コマ

クサ、シクラメン、イワタバコ、ヒシなどです。また、近年、芝生などあちこちに増えて

いる、マツバウンランという身近な帰化植物も、上記とは変わりかたが違うものの、実は

その芽ばえはかなり変わっています。私は最近そのことを知り、身近なところにも面白い

発見?があるものだと改めて認識しました。


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