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多様化するクリーンテクノロジー:

「製造環境と製品」の汚染リスクを監視する技術とは 株式会社インテクノス・ジャパン

-落下し表面を汚す粒子の数値化と改善- マーケティングディレクタ 門井剛史

Prologue:「リスクとしての理解、そして複合的な汚染管理技術を」「汚染粒子」それは、テクノロジーの信頼を妨げる見えないリスク・・・

その汚染管理・技術体系全般を、私たちは「コンタミネーションマネジメント

(汚染管理)」と呼んでいる。その中でリスク監視を「コンタミネーションモニ

タリング」、リスク制御技術を「コンタミネーションコントロール」という。こ

れについては ISOクリーンルーム規格やその関連制御分野でも、用語規定されているが、量産工場で起こっている問題の改善にはエポックメイキングな

技術と専門的なノウハウが必要である。それらを含めた複合的な汚染管理は、

進化していく製品の信頼性を追求する上で欠かせない技術であるといえよう。

(「絶縁・短絡」「目詰・摩耗」「加工・成形・組立不良」など製品不具合を起こす汚染粒子:図1)

■ 図1:汚染粒子イメージ

「汚染粒子」による課題を乗り越えていく為には、「汚染粒子」をモノづくりプロセスに与える大きな

「リスク」として再認識し、正しい知識や監視・制御技術と共に、「リスクアセスメント(リスク特定

・分析・評価)」や「リスク対応(対策を講じ、損失などの回避または低減をはかる)」を、企業全体で

取り組むことが必要がある。これを現場任せにしては、本質的かつ持続可能なリスク対策を講じること

は不可能なのだ。(リスク制御については以下を参考)

第1節:New Clean Technology-「新たなクリーンテクノロジーへの要求と多様化の必要性」世界は微細加工技術の進歩により、夢のような未来が現実となってきた。身近には IoT、AI と親和性の高い電動化・自動運転という時代の波が押し寄せ、インダストリー 4.0 やロボティクスがその製造に革新性をもたらしている。それら時代の進化は、先端の「電子デバイス、ディスプレイ、光学、電池、材

料や精密・車載製品」などの広い裾野に、クリーン化によるさらなる信頼性を求めはじめた。

(クリーン領域の広がりと市場要求の変化について、図2を参照)

特に、日本や欧米の主産業である自動車業界では機械に並んで電子が基幹技術となり、100 年に一度の変革期と呼ばれている。これら全ての製品リスクになり得る「汚染粒子」は、歩留まり改善だけで無く、

電動化や自動運転で懸念される「人命」へのリスク回避に向けた CSR「企業の社会的責任」として追加の汚染管理に取り組まねばならない。

そして、安全性への追求や接続性の広がり

で、過去にクリーンを求められなかった製

品や最終組立の製造領域においてクリーン

の定義が見直されている。例えば、海外の

ある自動車メーカーでは、従来必要とされ

なかったエンジン・車体組立の環境汚染粒

子を常時監視し、信頼性向上に取り組んで

いる。これは、今まで以上に組立環境から

のリスクを回避しようとする取り組みなの

である。

このような背景から、クリーン領域の拡大

と多様化は進む。ご想像の通り、日本の一

部の空気清浄化(Air Cleanliness)の基準は非常に高く、「クリーンルーム」は高品質であ

ることが多い。しかし、この高基準の空間に ■図2:電動化におけるクリーン領域の拡大と多様化

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おいても「汚染粒子」との戦は終焉に至っていない。そこで本稿を通じ、時代が求めるクリーン化の方

向と実用的な「汚染粒子」の監視・制御技術の理解を深め、単なる「クリーンルーム」という空間制御

だけに留まらず「製造環境と製品」に有効的な品質リスクアセスメントの助けになれば幸いである。

本稿では、「製造環境と製品」の汚染管理について協議している VCCN(The Association of ContaminationControl Netherlands)や ISO/TC 209/WG 14「粒子堆積率 PDR(Particle Deposition Rate)」、車載部品の国際的指標 VDA(Verband der Automobilindustrie e.V. :ドイツ自動車工業会)19の考え方とネライを咀嚼し考察していく。そこに、私たちが「汚染管理」の専門企業として 30年間培ってきたコンサルティングの経験と「汚染制御エンジニア」としての哲学に加え、今後求められるクリーンテクノロジーを取り巻

く市場の変化に対応した汚染管理技術を述べることとする。

第2節:For Product Reliability-「現在のクリーンルーム管理と目指すべき汚染管理の方向性」ISO 技術委員会 TC209 により「クリーンルーム」から「クリーンルーム及び関連制御環境」と範囲拡大してきたとはいえ、空気中の汚染物質、差圧、温湿度、気流などを一定の範囲に制御している空間の清

浄度技術でしかない。そして、その技術は国際規格を牽引している先端の超精密加工技術や最新医療・

医薬の現場を中心に検討されてきたので、多様化している市場や加速拡大している車載製品の「製造環

境と製品」に最適なクリーンテクノロジーとは言い難い。クリーン化を求める多くの市場と製品の信頼

性を向上させるための「汚染管理」について複眼的な視点と思考で検討していきたいと思う。

■「浮遊微粒子」と品質トラブルの関係性を再認識する

「クリーンルーム」の“クラス何級”は、製造環境の空気中に存在する「浮遊微粒子(Airborne Particle)」が制御された環境を指しているが、1960 年代に、空気清浄度規格として米国連邦規格(FED-STD-209)が制定されて以来 55年、ほとんど変わらずこの定義された「浮遊微粒子」の管理をしている。日本では、精密製品など製造環境の「クリーン化」において、「空気清浄度クラス」を当たり前の設備

設計や管理基準として投資している。

■表1:ISO14644-1:2015 クリーンルームクラス(浮遊微粒子)

そもそも“クラス何級”とは、0.1 ~ 5µm の「浮遊微粒子」を粒径区分し計数することである。半導体の前工程など、一部のシビアな管理領域からその微細な管理粒径が決定され変化もしてきた。(表 1参照)しかし、そのサブミクロンの汚染粒子が付着することで本当に品質リスクが高まるのか? これは製造

製品や工程によって品質への影響度は様々に変化するのだから、この定義も多様化が必要なはずである。

(リスク影響度:VDA19でいう「製品に対する清浄度の限界値」)

一つの例を挙げよう。コンタミ問題を抱える電子デバイス工場の講演会でのエピソードだ。著者が製造

環境のレベルを聞くと「クリーンルーム クラス 1000」と答えたので、続けて汚染粒子による影響度を聞くと、「導電性の 15µm 以上のコンタミがリスク」と回答があった。ではなぜ、サブミクロンの空間管理をしているか聞くと、「昔から当たり前の管理」と答えた。これが規格重視の管理による一つの現実

である。もちろん、半導体をはじめとしたごく一部の工程では、「浮遊微粒子」サイズの影響度が高い

ので、それを製造するクリーンルームは 0.1 ~ 5µm の粒子を極端に少なく管理されなければならない。

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■ 図3:粒子分布の分類と堆積の理解(5µm以下の浮遊微粒子濃度と 5µm以上の粗大粒子堆積に相関性はない)

さらに一部の工程では、約 1nm から100nm の粒径範囲をナノスケール粒子濃度 ( ISO 14644-12: 2018 NanoscaleParticle Concentration)による製品への影響度があることからその監視が定義され

た。既に空気に溶け込んでいるそれら分

子レベルの化学濃度について、超精密分

野に向けて ISO14644-8 や-10は、化学物質濃度(Chemical Concentration)として規定してきた。(表2参照) ■表2:粒子汚染と化学汚染の ISO規格

いわゆる、古い用語でいう超微粒子(UltraFine Particle:0.1μ mより小さい粒子)の制御技術も必要な未来への進歩を遂げている。

しかし、話を戻すと、車載製品やクリーンを求める製品の製造工程では、1nm ~ 100nm の「ナノスケール粒子」はもとより 0.1 ~ 5µm の「浮遊微粒子」が付着しても品質や性能に大きな影響を及ぼさないことも多い。その証拠に、単に“クラス何級”で決定される空気清浄化への投資を行っても、歩留まりが

改善されない例が枚挙にいとまがない。一度、当たり前だと思っていた規格管理について、「製品の汚

染影響度」と「監視・制御方法」を照らし合わせ深呼吸して考える時期に来ているのではないだろうか。

第3節:For Quality Risk-「クリーンルーム」の過信と通常運転時に発塵する「粗大粒子」の課題「クリーンルーム」という空間制御技術は微細加工化と共に完成度を増し、リスク対応として管理値以

上に清浄度クラスを維持している工場が大半だ。しかし、だからといって、監視対象より大きな「粗大

粒子(Macro Particle:5µm以上の粒子)」が本当に製造環境に存在しないのだろうか。(図3上図参照)

現実には、ミニエンバイロメント方式で ISOクラス 1の工場も、乱流式の FEDクラス 10000で管理している工場も、クリーン化を始めたばかりの工場も「粗大粒子」は存在する。「粗大粒子」は気流やフィ

ルタでは制御できないのに、管理者や技術者の中には「パーティクルカウンタで計測して 5µm 以上の粒子が無いから、粗大粒子は存在しない」という声もあり、愕然とすることがある。通常運転時(Operational)の製造ラインでは、「ヒト(図 3 参照)、装置、メンテナンス、清掃行為」で必ずと言っていいほど「粗大粒子」を発塵している。

この認識と実状のひずみは、「粗大粒子」を測っていなかったから「見えていない」だけで、これこそ

が規格管理に頼った「クリーンルームの過信」である。そこからの脱却のため「粗大粒子」というリス

クと向き合い、現在の汚染制御から追加として「粗大粒子」の「見える化」による品質リスクアセスメ

ントに取り組んでいただきたい。

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■図4:ヒトの発塵と弾道的な拡散、その制御方法の違いについて

今までパーティクルカウンタで管理されてきた 5µm 以下の「浮遊微粒子」は、気流で制御したり HEPAフィルタなどで除去や制御が期待できる。しかし、5µm 以上の「粗大粒子」は、「浮遊微粒子」のように空間で均一に分散されずに、空気抵抗を受けながら重力沈降(Fall Out)していく。そして、環境表面や製品に堆積(Deposition)し、表面清浄度(Surface Cleanliness)に大きな影響を与える。様々な実験結果から理解されているように、特に 25µm以上の粒子や比重が大きい金属系粒子の 80~ 90%以上は、空気清浄化システムの気流に乗らない。そのためフィルタリングでの除去がされにくいので、一般的な空

間制御技術や気流だけでは「粗大粒子」の制御はできないのである。(図3下表参照)

つまり、今まで「クリーンルーム」で見られてきた粒子は空間を浮遊し、監視されてこなかった「粗大

粒子」は落下し製品や表面を汚す。既に「粗大粒子」の汚染管理は、ヒトが組み立てる宇宙機器から始

まり、ヒトと装置が多い車載製品の製造工程で注目を浴びている。「粗大粒子」を重視していなかった

「クリーンルーム」業界も、この「環境表面と製品」に落下堆積する大きな品質リスクを監視・制御す

るため、WG 14により「粒子堆積率 (PDR)」のドラフト作成が開始されたのである。

この品質リスクは「ヒト(図 3 参照)、装置、メンテナンス、清掃行為」の「挙動 (Behavior)」により発生するので、“あらゆる製造環境”に現れる。よって、高品質なクリーンルーム、汚染粒子の課題を

抱えている工程、これからクリーン化を目指す現場においても共通の基盤技術となるはずである。

第4節:Macro Particle-自動車製造・車載デバイスの組立環境における「粗大粒子」の存在多くの工場では、この目に見えない「粗大粒子」

の 「落下」と、その堆積した「表面」を適切に

監視・制御していない。

車載製品や精密機械の組立ラインで図 5(右図)のような光景をしばしば目にする。ほぼ全ての管理

者が空気清浄度クラスは管理できていると声をそ

ろえるが、「汚染粒子」の問題がある。それは、HEPAフィルタでキレイな空気を送り、陽圧状態にして

いても、ヒトと製品や装置が閉じ込められた空間

では、「浮遊微粒子」は外部に出ていくものの、「粗

大粒子」は囲われた外に出ることなく製品や製造

ラインを汚染する。これが「品質リスク」となっ

ていた。まさに「浮遊微粒子」にだけ焦点を当て、

正確な知識と本質的な見える化に取り組んでいな

いが故である。「環境と製品」を「粗大粒子」から■図5:囲われた領域での「粗大粒子の堆積」

守るためには、先ず空気中の「浮遊微粒子」と区別し、「落下粒子(Falling Particle)」の発塵タイミング

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と粒子分布を監視し、製品やその周辺に堆積する「表面清浄度」を数値化し、実験的なリスクの回避・

削減・分離・分散による改善に取り組んでほしい。それは多くの場合、空間制御に費やすエネルギーと

コストを大きく削減できる活動に発展するはずである。

■先駆けとなった車載製品の組立環境「VDA19.2 Technical Cleanliness in Assembly」VDA19.2 「組立における技術的清浄度(Technical Cleanliness in Assembly)」では、自動車業界で製造される流体回路を有する部品、機械や電気装置(表 3参照)について、機能的損傷を及ぼす汚染範囲を、「環境・搬送・組立設備・要員」とし、“できるだけ”でなく、“必要な限り”の清浄化を原則としている。

■表3:粗大粒子の監視・改善が期待される市場(特にヒトが働く ISOクラス 5~ 9(FED100~ 100000)で有効)

この規格は、VDA19.1 「技術的清浄度(Inspection of Technical Cleanliness)」 と同様に、適応範囲は 5µm以上とした上で、環境からの「沈降する粒子」について、最終製品の機能に対して影響度が高い粒子サ

イズ以上を監視の対象としている。その中で環境大気を経由した粒子汚染(浮遊微粒子汚染)は低く、

再汚染に関連性が高いメカニズムを、「重力」「弾道的拡散」「表面と要員」(粗大粒子汚染)としている。

さらに、環境の清浄度区分を、「クリーンル

ーム(CG3)」と、「従来管理されていない空間(CG0)」だけでなく、その中間に、「清浄度ゾーン(CG1)」や「清浄度ルーム(CG2)」として分離したルームコンセプトに区分して

いる。(図 6参照)

このガイドラインでは、製造環境の管理粒子

サイズの理由を、「既に確立している半導体

の ICR( Industrial Cleanroom) や BCR(Biological Cleanroom)の 5µm以下の浮遊粒子管理や対策は、超微細加工工程以外の多く

の自動車およびそのサプライヤー業界では小

さな関係性しかなく、高いコストを伴うが技術 ■図6:VDA19.2清浄度等級(CG)の選定

的な清浄度レベルを改善しない可能性がある」

とし、「現在のクリーンルームは、発生する 5µm 以上の粒子管理をすることはできない」と記述している。必要以上の空間制御ではなく最終製品に便益をもたらす投資を推奨しているのである。

第5節:Macro particle will be deposited.-「粗大粒子は〝落下〟して環境と製品の〝表面〟を汚す」これまでの「クリーンルーム」は、空気中の「浮遊微粒子」濃度をパーティクルカウンタで測定するこ

とができていたので、空気清浄化技術が成熟したといえる。しかし、「ヒト、装置、メンテナンス、清

掃行為」から発塵する「粗大粒子」はその監視技術と規格がなかったために、制御技術が確立されなか

った。そこで VCCNや ISOのワークグループから品質リスクアセスメントに有効な「粒子堆積率 PDR」という概念が提唱され、ISO14644-17(2020年予定)への反映が現在WGによって協議されている。

「 粒子堆積率 (PDR)= 堆積粒子数(N :≧ Dµm)/面積(1 dm²または m²)/時間(1 Hour) 」

■クリーンルームにおける浮遊粒子濃度と粒子堆積率の関係性

通常運転時における「粗大粒子」の品質リスクアセスメントの代表的な数値化として、「粒子堆積率(PDR)」が提唱されるまでの経緯で検討された、ISO/TC 209/WG 14のメンバーによる「実験」「論文」から2つ

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のデータをここに添付する。先ず、ご存じのように、クリーン環境における「浮遊→落下→堆積」のメ

カニズムは「重力」「乱流堆積」「ブラウン拡散」「静電引力」などによって起こるのだが、25µm 以上の粗大粒子については 80%以上が重力沈降する。(表4参照)これを「落下粒子(Falling Particle)」と一部の規格では定義され、非常に近い領域に弾道的に沈着する粒子として分類している。

■表4:クリーンルームにおける粒子堆積率(2.7mの高さ・0.0036m/s)

表5は乱流式 ISO クラス 8(0.1 ~ 5µm は同じ条件)に普段着のヒトを入室させ「粗大粒子」を故意に増加させた実験データである。この表からも特に 25µm 以上は気流に乗らない「落下粒子」であることを理解することができる。

これらのデータとその他の実験結果

からクリーンルーム中の 0.3 ~ 0.5µmの浮遊微粒子の 99%は HEPA などによる気流や換気で除去されるのだが、

25µm 以上の粒子のほとんどは気中から沈降し消え去り(パーティクルカ

ウンタでほぼ見えない理由)製品を

含むどこかの表面に堆積することが

証明されてきた。■表5:浮遊微粒子 VS 粒子堆積率

故に、通常運転時の環境および製品の「暴露面積」は、「暴露時間」に相当して「落下粒子」が堆積す

るリスクがある。この品質リスクを削減するには、「暴露時間」中における発塵のタイミングを知り、

その要因となるヒトや装置の「挙動」を制御(規律や制限)する必要がある。この「挙動」による発塵

は、要員、クリーンルームウエアの搬送・保管・使用回数、工場への入室手順・入室人数制限、室内規

律、清掃手順や方法などを要因とした各々の「表面付着粒子」の差によって、その粒子量や粒子分布に

差が生じる。発塵の削減策の代表は「表面付着粒子」の削減である。この「見える化」しなければなら

ない「落下粒子」と「表面付着粒子」リスクの監視技術についての詳細は後述する。

第6節:Numerical Contamination Control for Advanced Technology-「落下粒子監視技術の発達」過去一部では、「落下堆積塵」はウエハや液体を張ったシャーレを現場に置き、堆積した粒子サンプル

を目視や顕微鏡で観察してきた。サンプルを検査室に運ぶリスクやヒトによる測定の力量差があるにも

関わらず、その方法は何十年も変化していない。何よりも、置きっぱなしの堆積塵サンプルでは、「粗

大粒子の見える化」で最も必要なファクター「挙動」を監視することができない。「いつ」「どんな挙動」

で発塵したかという最も改善に重要な情報が抜けているのだ。「顕微鏡をのぞく」・「材質を解析する」

という分析行為だけでは、リスクの「回避」「削減」「分離」「分散」に必要な策は生まれない。監視の

定義は「不適切な状態を検知し、処置をとることが可能となること」で落下のタイミングを検知し制御

するべきである。

■ Particle Deposition Monitor:APMON(アップモン)今まで「粗大粒子」の落下を監視する機材がなく、粗大粒

子用のパーティクルカウンタでも「製造環境と製品」への

堆積リスクの検知ができなかった。しかし 2018 年、ISOTC209/WG14 の活動が飛び火し、日本でもそのリアルタイムの監視が可能になった。「APMON」と命名されたその画期的な監視機材は、クリーン環境で起こる「粗大粒子」の

「 Particle Event」(≓不適切な状態)を自動的に検知する。製品が暴露されている場所やクリティカルな組立ラインの「落 ■図7:落下粒子モニタ「APMON」

下粒子」が影響を及ぼす領域に設置することで、今まで、影

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に潜んでいたリスクを計測技術の進歩で照らすことができるようになったのである。

■ 粒子堆積を監視する監視「APMON」の測定原理センサ上部に配置された、広い検出カートリッジ

(25cm²)に堆積した粒子を立体に捉える技術はホログラフィ原理。センサで三次元ホログラム画像を

記録し本体で再生する。その再生計算するプロセス

で粒子の周囲を動く矩形から最長径(Feret)を決定する。「粒子堆積率(PDR)」監視で重要になる、常時監視機能と検出面積の広さを合わせ持つ「APMO ■ 図8:測定原理のイメージ図

N」は標準粒子に対し± 0.25µm以内で校正されている。粗大粒子用のパーティクルカウンタでは、リスク管理として重要な「汚染粒子の最長径」が得られない

上に、空間制御やフィルタの破損検査で有効的な技術であっても、空気中から急速に表面堆積していく

「粗大粒子」の粒子堆積率 PDRは監視できず、「APMON」とのデータ相関性は得られない。

■ TNO(オランダ応用科学研究機構)による開発この類を見ない計測機構は、欧州で最大級の中立総合研究所である TNO で開発された。TNO の技術革新力と開発コンセプトにより、宇宙開発や先端製品の信頼性を求める海外で活用され、さらに高機能素

材や医療分野にもインパクトを与えている。この有用性と革新性から評価され、クリーンルームイノベ

ーションアワードを受賞した。任意のタイミングでデータを取得することができ、モニタ上で“発塵時

間とそのタイミング”、“粒度分布”が簡単に一目でわかることで「粗大粒子」の改善に大きく役立つ。

■図9:リアルタイムの粒子径数(Number of Particle ) ■図10:粒子分布(Particle Distribution)

(ヒトの作業や清掃行為などの Particle Eventの監視) (粒子分布の 75%はヒト、皮膚 15-30µm、繊維> 100µm)

第7節:Surface Cleanliness by Particle Concentration (SCP)-「表面清浄度の測定」空気中の 5~ 25µm 以上の粒子はいずれ落下堆積し、「製造環境と製品」の表面を汚していく。直接製品に落下しなかったとしても、この堆積塵は気流では動かないので適切な清掃で除去するしかない。この

「表面付着粒子」を放置すれば、「挙動」によって、空気中に再入したりヒトや部品に接触し、製品に

付着する「リスク」となるのである。このリスクを監視するため VDA19.2や ISO14644-9(表面清浄度の分類 Classfication of surface cleanliness by particle concentration )は「表面清浄度」の測定を定義した。

■ Particle Counter for Surfaces _ PartSensVDA19.2 G.3「表面清浄度」に測定手順として記載されている「PartSens」は、5µm 以上の「表面付着粒子」の検知と“清掃の妥当性評価”を目的に開発

された。測定原理はグランシングライト照射式。右

図の測定プローブ内の左右から照射される LED 光で、生成された「表面付着粒子」のデジタル画像か

ら、粒子の最大径と個数を計数することが可能にな

る。(図12参照)測定時間は約3秒である。

■図11:表面に当て計測する「PartSens」

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■ ISO14644-13清掃効率の妥当性評価脚光を浴びている使用方法は、製造装置とワーク ■図12:清掃の妥当性評価に実用性の高い転写パッド

周辺における清掃効率の妥当性評価だ。清掃器具

やその材質を選定する際の性能評価にも利用でき、

現在の清掃方法と手順、日常の清掃が正しく行わ

れているのか数値で評価することができる。

また、「PartSens」にオプションにある「転写パッド」で壁や床、作業台や湾曲している製品表面な

どの「表面付着粒子」を転写させて計測すること

で様々なポイントの表面を「見える化」することができる。このテープリフト法と呼ばれる「転写パッ

ド」は、間接測定法とはいえ 99%以上の粒子を表面上から転写することができる革命的なツールといえよう。(図12参照)

最終節:Summary- 「製造環境と製品」の品質リスクアセスメント、「粗大粒子」監視に取り組む

空気清浄度クラス分類と「粗大粒子」堆積の関係性はなく、その堆積する「落下粒子」は、通常運転時

の「ヒト、装置、メンテナンス、清掃行為」の「挙動」で生まれ、その発塵量や粒子の大きさと分布は

「挙動」に関連する様々な「表面清浄度」に大きく依存していることを解説してきた。

品質リスクとなる「粗大粒子」は、「クリーンルーム」のための空間・気流制御といったお金をかけた

設備投資だけでは決して効果が得られない。発塵のタイミングを監視し、その要因となる「挙動」の制

御と、清掃の妥当性を評価・適正化し、関連事項の規律化や手順書づくりを継続させることではじめて

効果が得られる。この「粗大粒子」に対するリスク対応は、先ず発生・搬送のメカニズムを正しく理解

した上で、「発塵のタイミングから製品を守るアイディア」や「製品の暴露時間と面積を削減する」な

どの今までとは違った角度でアプローチすることも必要になる。そして、「製造環境と製品」のために

追加されるべき汚染粒子制御は、必ず数値で監視・評価していかなければならないのである。

“測定できないものは、コントロール

出来ない”、この「粗大粒子」の見える

化は拡大・多様化するクリーンテクノ

ロジーの要求であり、本質的な「清浄

化」への近道でもある。

・「現状の把握」← 数値化

・「改善の効果」← 数値化

・「効果の持続」← 数値化

このステップを繰り返し、最適な清浄

化技術を必要なだけ高めるのだ。あっ

てはならないのは“予測だけの改善”

と“便益をもたらさない投資”。

世界は進化している。私たちがすべき

なのは、過去や現在の規格管理だけに

留まること無く、ましてや、汚染粒子

トラブルに着手しないことでもない。

「汚染管理」を組織的に行い、専門的

かつ最適な監視・汚染制御技術を高める■図13:「粗大粒子」の数値化

のだ。そこから新しいクリーンテクノロジーと未来への技術の扉が開かれることを期待したい。

参照文献:VDA19.1、VDA19.2、ISO14644-1(2015)、-5(2004)、-9(2012)、-13(2017)、※相当する JISや和訳を用語として参考

「Comparison of the removal of macroparticles and MCPs in cleanrooms by surface deposition and mechanical ventilation」by Koos Agricola -


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