NTT技術ジャーナル 2015.728
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7年で会員数300万人を 達成した「ひかりTV」
◆貴社の主な事業についてお聞かせください.NTTぷららがインターネットを通じて映像事業に進出
したのは2004年です.2001年には,それまで取り組んでいたISP事業が会員数100万人を突破し,軌道に乗っていた時期でした.そのころは,まだ多くの人がISDNやADSLを使用している時代で,映像の視聴に快適とはいえないネットワーク環境でした.光インフラも整備されていない中でリスクの高い映像ビジネスに敢えて踏み出すことに対して,各方面から反対の意見が多かったのも事実です.
業界のビジネスモデルすら確立されていない状況下で,弊社は映像事業に進出しました.先行き不透明な世界で,何年も先を予測することができる人などいませんし,また,変化の激しいインターネット業界では,慎重になり過ぎているうちに誰かに先を越されてしまいます.結局,私は自分の経験と勘を信じて映像配信をスタートさせることを決めました.それが,後の「ひかりTV」につながりました.◆ひかりTVについて詳しくお聞かせください.
ひかりTVのサービス開始にあたっては,3段階に分けてビジネス展開を考えました.第1段階はとにかく100万会員を集めることで,これは2年で達成しました.第2段階は,VOD(Video On Demand)のマーケット開拓です.2008年 当 時,VODの 市 場 は ほ ぼ ゼ ロ で し た が,2011年には1カ月の視聴回数が2000万回以上となり,マーケット開拓において一定の成果を上げることができた
と思っています.そして,第3段階が現在です.2015年2月には300万会員を達成し,今では日本最大のIPTVサービスに成長したと思っています.
いよいよ2015年12月には 4K-IP放送サービスが開始
◆これからの事業計画をお聞かせください.今後,弊社が目指す事業の方向性は,「サービス ・ コン
テンツの多様化」「サービス ・ コンテンツの高度化」「マルチネットワーク」「マルチデバイス」の4つです.
特に注力したいのが,サービス ・ コンテンツの多様化と高度化です.多様化においては,これまで映像以外にクラウドゲーム,音楽配信,電子書籍,ショッピングなどの新しいサービスを拡充してきたとともに,サービス利用端末もテレビ以外に,スマートフォン,タブレット,PCなどマルチデバイス化を推進してきました.また,高度化については,まさに今注力している4Kサービスの展開が挙げられます.
4Kサービスについては,反響も大きく注目度も高いため,これを軸に映像ビジネスにおいて,各方面のパートナーさまと協業を進め,今後のテレビを変えていきたいと考えています.◆4Kサービスについて具体的にお聞かせください.
2014年10月に日本で初めて商用の「4K-VOD」の提供を開始しました.現在,洋画やドラマ,ドキュメンタリーなど,多彩なジャンルで約300本の作品を提供していますが,2016年3月末までにはこれを700本に拡大し,
http://www.nttplala.com/
「ひかりTV」,4K-VODに続き,4K-IP放送サービスを開始
ISP事業に加えて,2004年より映像配信事業をスタートさせたNTTぷらら.その後,2008年にNTTグループで展開していた映像配信サービスを統合し,「ひかりTV」を展開.2015年2月には300万会員を達成し,ひかりTVを日本最大のIPTVサービスに成長させた.年内中には4KによるIP放送サービスを開始すると発表した同社の板東浩二社長に,今後の事業展開について話を伺った. NTTぷらら 板東浩二社長
株式会社NTTぷらら
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日本最大級の4K映像ラインアップに成長させることが目標です.
さらに,2015年12月には4K-IP放送サービスの提供を開始します.これについては番組コンテンツを充実させ,強化を図っていくことが目標となります.
こうした取り組みを行っていくことで,弊社全体で3年後をめどに年間1000億円の売上を目指しています.
柔軟な技術活用と映像に強い 人財育成が課題
◆研究成果の応用やサービスの展開において,研究部門とはどのように連携しているのでしょうか.弊社が目指しているのは「総合エンターテインメント企
業」です.いくら最先端で素晴らしい技術であっても,ユーザにとってあまりメリットのないものであれば,使っても意味がありません.お客さまが喜んでくれそうな技術やサービスであれば,NTTグループはもちろん,外部の企業も含めてマーケティングを行い取り入れていきます.
映像についていえば,過去7年間でかなりNTT研究所の技術を活用させていただいているのではないでしょうか.現在,NTTメディアインテリジェンス研究所のエンコード技術により,既設の光回線で,高品質な4K映像が配信可能であることを実証しています.また,IPTVフォーラムなどにも積極的に参加し,外部の研究所などと連携しながら規格標準化にも貢献してきました.◆今後はどのような分野に注力したいと考えていらっしゃいますか.今後,4Kサービスを進めていくにあたり,4Kコンテン
ツのラインアップを拡大 ・ 強化していかなければなりませんが,これまでの調達方法に加え,新たなコンテンツ調達の仕組みを検討しています.
例えば,映像関係の専門学校,プロの映像制作会社,個人クリエイターなどを対象に,定期的にコンテストを開催し,4K作品を募集したいと考えています.弊社は4Kカメラや編集機器を調達し,貸し出して,4Kの映像作品を制作する支援をします.優秀な作品はひかりTVで配信し,評判が良ければ奨励金も提供しようという企画です.教育機関については,現在,東京,大阪,名古屋に展開している映像制作の専門学校「HAL」との提携を進めています.
この企画は,学校側の反応も良く,学生個人にとっても制作した映像を発表する場が与えられるというメリットが
あります.また,これにより映像制作の人財発掘や社内のスキルアップにもつながると期待しています.今後,このような専門学校のほか,機材メーカー,テレビメーカーなど各方面とのアライアンスを進めていきます.◆社員の方々へメッセージをお願いします.
我々のいるインターネットの世界は変化が激しいのが特徴です.ビジネス環境の変化を見据えながら,臨機応変に即刻対応していくことが要求されるため,従来のNTTのカルチャーとは違う発想で事業展開していく必要があります.先行き不透明な今の世の中で,5年,10年先を想定することは難しいことです.将来の予測は,自分自身が判断していくしかない時代だといえるでしょう.しかし,その直感力は何もないところから突然生まれるわけではありません.可能な限りトップリーダやキーパーソン,特に異業種の人たちと交流を持ち,視野を広げることを期待しています.つまり,好奇心を旺盛にして動き回ることですね.「人間のスケールというものは,そのモビリティに比例
する」という本田宗一郎さんの言葉がありますが,時代を予測する直感力は,そういうところから磨かれるのではないかと思っています.
板東浩二社長の著書『ハートで感じたら走り出せ!〜テレビもスマホと同様に進化する〜』はAmazonの放送メディア部門でランキング 1 位の好評価
NTT技術ジャーナル 2015.730
担当者に聞く
◆現在の業務についてお聞かせください.弊社では,映像配信サービス「ひかりTV」やISPサー
ビス「ぷらら」を中心に,ショッピングや音楽配信,電子書籍,クラウドゲームなど多様なサービスを提供しています.
技術本部では,これらの多様なサービスのサービス仕様策定から,ソフトウェアの設計 ・ 構築,サーバやネットワーク,データベース等のインフラ部分のシステム設計 ・ 運用まで,サービス提供に必要なあらゆる業務を一気通貫で対応しています.業務の内容は多岐にわたっており,大変忙しい部署ですが,非常にモチベーションの高いセクションでもあります. ◆現在,もっとも注力されている事業は何でしょうか.
注力という意味では,やはりひかりTVです.映像サービスといえば,スカパーさんなど弊社より先行していた事業者がいらっしゃいます.提供開始当初のお客さまの印象としては,まだ地上波や衛星放送,CATVに我々が追随しているというイメージが強かったと思います.弊社は後発ではありますが,サービス開始以降,VOD見放題サービスやベーシックチャンネルのフルHD化,マルチサービスやマルチデバイス化など,他社に負けないサービスを積極的に展開してきました.
さらに,どこよりも早く提供したいという思いで準備を進めていたサービスがあります.それが「国内初の商用4Kサービス」です.本当は,「世界初」でやりたかったのですが,米国のNetflix社が先行したこともあり「世界初」という冠は取られてしまいました.しかし,NTTの光ブロードバンドを活用し,4K/60PというNetflixよりも一段品質が高い4K映像を配信するサービスとして国内で初めて提供することができました.◆4Kサービスの展開にあたり,インフラ面ではどのような技術が活用されているのでしょうか.総務省の検討会で策定された日本の4Kの理想的なス
ペックは,3840×2160の解像度で1秒間に約60フレームとなっています.これは従来のハイビジョンの4倍の解像度,2倍のフレームレートということになりますので,
4Kのデータ量はハイビジョンの8倍ということになります.これを既存の圧縮方式であるH.264/AVC方式で提供すると,4Kの配信帯域は1ストリーム当り64 Mbit/s
(8Mbit/s/HD×8倍)となってしまうため,ネットワークやサーバ設備がパンクしてしまいます.「ひかりTV 4K」では,従来の約2分の1の圧縮効率を有する国際標準の
「H.265/HEVC」方式を採用しました.これにより,4K映像の配信帯域は,既存方式の半分以下の約30 Mbit/sで提供しています.
一方で,H.265/HEVCを利用しても,そのパラメータ設定により映像品質は大きく変化します.弊社では,NTT研究所との共同実験等を通して,圧縮した映像で見られるノイズや歪(ひずみ)の特性を1つひとつ検証してエンコードパラメータを決定するとともに,高い映像品質を維持しながら,さらに圧縮効率を高めるための技術検証を進めております.◆4Kサービスに対する世の中の期待度はいかがでしょうか.
ひかりTVのサービスを開始した2008年当時は,映像業界の中で弊社の存在感は薄かったのですが(苦笑),それを一転させたのが4Kでした.4Kサービスを日本で先駆けて発信したことによって,総務省の4K ・ 8Kロードマップ検討会等においても一定の存在感を出すことができ,映像業界におけるIPTVサービス,つまり弊社の立ち位置は大きく変わったと思っています.
また,4Kサービスを提供する以前から,弊社ではテレビやスマートフォンの基幹部品を製造している海外企業等と情報交換をさせてもらっています.最近では4Kを意識したお問い合わせも多くなり,数年先を視野に入れた技術ロードマップの意見交換をしています.
総務省の4K ・ 8Kロードマップによれば,来年度には基幹放送による4K試験放送も開始されます.そうなると,放送局をはじめとして4Kの映像制作もさらに加速するので,映像制作や放送〜VOD連携といった面での協業などが進められていくと思っています.◆今後の目標についてお聞かせください.
昨年度は4月から順次4K-VOD,4K-IP放送のトライア
左から 宮里系一郎さん,木谷靖さん
NTTぷららが映像業界で先頭に立つチャンス技術本部 技術開発部長 宮里系一郎さん 技術本部 ネットワーク管理部 副部長 木谷靖さん
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ルを実施し,10月には4K-VODの商用サービスを立ち上げました.そして今年度は,4K-VODの提供作品のさらなる充実に加え,12月に4K-IP放送の商用サービスを開始する予定となっております.また,これらの動きと併せ,ひかりTV 4Kに対応する市販4Kテレビの開発も加速させ,4K市場のさらなる拡大に向けた環境整備を着実に進めていきます.
技術面では,現在検討を進めているものに「ハイダイナミックレンジ(HDR)」があります.HDRは,カメラで撮影した映像から,これまでのテレビでは表現し切れなかった色の明暗(輝度)を,より忠実に再現できる技術です.我々が目指すのは,4Kの高精細さを活かしながら,より人の目にリアルに感じられる映像表現です.リアルであり,これまでテレビを通じては体験したことがないインパクトのある映像を,今後発売されるテレビで再現できる
よう,開発を進めているところです.今後,ブロードバンドの世界は,光アクセス網の高速化,
および5Gにみられる無線アクセスのさらなる広帯域化が進んでいきますが,弊社が提供する高品質映像サービスは,NTTグループが提供していく次世代のネットワークにおいてもキラーサービスとなっていくと考えています.一例として,昨年,NTTドコモ研究所が開発した5G試験網上での4Kストリームの複数同時伝送を行うデモに協力するといった取り組みを行いましたが,このような数年先を見据えたアクティビティも積極的に進めています.
このように,弊社では圧倒的なスピード感で4Kの拡充を進めています.ここまでやるからには,もうー段踏み込んで,完全に他社を振り切る意気込みで臨みたいと思っています.
■宮里美香選手との契約の経緯2011年2月1日より,プロゴルファーの宮里美香選手はNTTぷららの所属プロとして活躍しています.その当初,次々と新
しいサービスに取り組んでいた弊社は,世界のトップを目指して挑戦を続ける宮里選手の姿に共感し所属契約を締結しました.ひかりTVでは,宮里選手のコースマネジメントに迫るゴルフ番組「宮里美香のProfessional Style !」やスイングを4Kスー
パースローカメラで撮影した「宮里美香 Shot in 4K」等の提供をしており,番組を通してゴルフ人気の向上と彼女のファン層拡大に貢献し,支援しています.■宮里美香選手応援ツアー
普段はアメリカを主戦場としているため日本でプレーする機会は限られますが,日本での大会に出場する際,社員から希望者を募り応援ツアーを実施しています.5月10日,今季初の応援ツアーを実施し,ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップに出場した宮里選手を応援してきました.ぷらら社員やスタッフ,そのご家族など約80名が集まり,彼女のラッキーカラーであるオレンジ色のポロシャツを全員で着て応援してきました.大会終了後,恒例となった懇親会で宮里選手は,試合の疲れを見せず気さくに社員と接し,サインや写真撮影にも応じてくれました(写真).
NTTぷららア・ラ・カルトア・ラ・カルト
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