PFIを基にした公共投資における事業判断の指標の提案
東京工業大学 総合理工学研究科
知能システム科学専攻
高橋 佳典
1.発表の概要
(1)PFIの概要
PFI事業とはどのようなものか現在どの程度の事業を行われているかを整理するPFI事業とはどのようなものか現在どの程度の事業を行われているかを整理する。
(2)PFI事業のメリット公共サービスをPFIの民間資金を活用することにより発生するメリットであるVFMに
ついて整理する。
(3)日本のPFI事業の問題点日本の現行制度におけるPFIにおける問題点をリスクの観点とVFMの算定の観点
から整理する。から整理する。
(4)PFI事業における事業評価の提案問題点から想起される今後の日本のPFIにおいて改善案を提起する。
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2.PFI事業の概要
Private Finance Initiativeを略で、国民に良質なサービスを安く提供する
ために、民間部門(プライベート)の持つ経営ノウハウや資金(ファイナンス)を活用することを目的として導入された政策(イニシアティブ)のことである。これにより、国や地方公共団体の事業コストの削減しながら、より質の高い公共サービスの提供を行うことができるとされているより質の高い公共サ ビスの提供を行うことができるとされている。
また、日本では文教・文化施設、医療施設、廃棄物処理施設などを中心として様々な施設臭いて実施されている。その事業は2013年3月末までに418件の事業が実施され、およそ4兆199億円が投入されている。
(1)PFI事業の歴史
手法は 年 イギ 初め 導入された
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PFIの手法は1992年にイギリスで初めて導入された。
日本では財政悪化による公共事業費削減に対する圧力と景気刺激策として事業に対する要請が根強いことを背景として1997年より検討が行われ、1999年「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI推進法)が成立。2013年にPFI推進法の改正が行われ、対象事業の拡大や新たな方式の導入が行われた。
公共
企画・計画
(2)PFI事業と従来公共事業の違い
従来型公共事業 PFIによる公共事業
公共民間 民間
企画・計画資金調達
設計
建設
維持管
企画 計画
資金調達
設計発注
建設発注
維持管
設計
建設
行政サービス受益者
事業の監視
維持管理
運営
維持管理発注
運営
行政サービス受益者
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維持管理
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(3)PFI事業の仕組み
事業実施主体直接協定
SPC(特別目的会社)
金融機関公共
サービス利用者
PFI事業契約
委託契約
委託契約
建設請負
融資契約
サービス提供
投資家出資
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契約 契約請負契約
(4)改正PFI推進法等におけるポイント
c. コンセッション方式の導入
b. 民間事業者による事業提案制度の導入
a. PFI対象範囲の拡大
と
賃貸住宅、船舶・航空機、人工衛星等を対象に追加
d. 官民連携インフラファンドの設立と株式譲渡の許可
コンセッション方式の概念図 官民インフラファンドの概念図
6内閣府 平成25年度『PFIの現状』より
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2.PFI事業による利点
PFIによる事業のメリットは事業をVFM(Value For Money)が発
生して、投入した税金に対する公共サービスの価値が高くなることである。
維持管理コスト
資金調達コスト
案件形成コスト
リスクコスト
資金調達コスト
案件形成コスト
リスクコスト
利潤追求
VFM
公共による負担
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建設コスト
運営コスト
建設、運営、維持管理コスト
従来の公共調達 PFIによる調達
担
(2)VFMを生み出す源泉
要求するサービスの内容や水準を指標として明示して、その達成手段を民間に任せることで 民間の経営努力により
a.性能発注に基づくライフサイクルの一括管理
b.リスクの最適分配
c.業績連動払い
達成手段を民間に任せることで、民間の経営努力により事業全体としてかかるコストを下げる。
事業実施するときに発生しうるリスクを民間にゆだねることで、公共の負担するべきリスクを軽減する。
支払い キ ムを利用した業績に連動した支払いを行う とで
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d.競争原理の導入
支払いスキームを利用した業績に連動した支払いを行うことで、事業の適切な実施に対するインセンティブを働かせる。
企業間の競争がすすむことにより、各企業の技術力の向上によって事業のコストが下がる。
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3.研究の目的
国及び地方の長期債務残高が平成25年度末におよそ977兆円と見込まれ
るている。人口減少による税収の減少、高齢化による社会保障費の増加が見込まれる中で、財政の健全化を行いながら、社会インフラの整備を始めとする公共サービスの提供をするためには 公共の力のみでは限界があるとする公共サ ビスの提供をするためには、公共の力のみでは限界があると考えられ、PFI(Private Finance Initiative)を始めとする民間のノウハウ・資金を活用する手法を取り入れることが重要であると考えられる。
平成24年のPFI推進法等の改正に伴い、コンセッション方式の導入や官民
連携によるインフラファンドの設立、株式譲渡の許可など、より民間資金の活用の可能性を高めるようにに制度改正が行われてきている。しかし、日本の従来のPFIによる事業は、適切なリスク評価やリスク移転の伴わなず、事業の
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有効性が適切な評価ができていない状況で行われてきていることなどが指摘されている。このため、より可能性の広がったPFIの制度を活用して、より民間のノウハウ・資金を活用していくためには、PFIなどの事業の適切な評価が必要なると考える。PFIを含めた民間活用の評価方法を提案することを目的としている。
4.日本のPFI事業に見られる問題
(1)事業におけるリスクについてa.リスク分担に関する問題
共通 た ク も事業ごと 分担は異な るおり 共とPFIに共通したリスクについても事業ごとに分担は異なっているおり、公共と民間の間に事業分担について明確に取り決めがない。
b.リスク評価に関する問題モニタリングによるリスク管理が不十分であるケースや定量的なリスク評価を検証している事例は見られない。
(2)VFMに関してa.算定における問題
表され 確な算定根拠 基づ 算定され ず 使 す 割 率
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公表された明確な算定根拠に基づいて、VFMの算定されておらず、使用する割引率によりVFMが変化する。
b.評価における問題多くの場合において個々の事業のVFMの評価・検証は行われていない。
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(1)PFI事業のリスク分担について
研究施設の整備・維持管理・運営
複合施設の整備・維持管理・運営
教育文化施設の整備・維持管理
余熱利用施設の整備・維持管理・運営
廃棄物処理施設の整備・維持管理・運営
病院施設の整備・維持管理運営
臨港緑地整備事業
金利変動リスク 民 官・民 官・民 設定なし 民 官・民 民
契約変更リスク 設定なし 設定なし 官・民 設定なし 設定なし 官・民 設定なし
不可抗力リスク 官・民 官・民 官・民 官・民 官 官 官・民
税制変更リスク 官・民 官・民 官・民 官・民 官 官・民 民
物価変動リスク 官・民 官・民 官・民 官 官 官・民 官・民
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(総務省公表資料を基にデータを追加)
リスクによって、事業ごとに負担者がまちまちとなっているものがある。官・民両方の負担とされているリスクについては、分担の詳細はあいまいでわかりにくいとの指摘を受けている。多くの場合で公共が対価を支払うサービス購入型の事業となっており、条件設定をつけ多くの事業で需要リスクを官が負担している。このため、多くの事業で業績連動払いの幅は小さく、条件のために民間の自由度が低く十分な活用ができていない。
(2)PFI事業のリスク評価について
。・ リスクについて定性的な議論しか出来ておらず、定量的な議論がされていない また 定量的な計算による事業評価は行われていないれていない。また、定量的な計算による事業評価は行われていない。
・ 十分なモニタリングがされていないケースも見られ、事業実施中のリスク管理が十分行われていない事例も見られる。
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総務省「PFI 事業に関する政策評価-効果の把握結果-」より
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日本のPFIにおけるVFMの算定方法
PSC:公共が自ら実施する場合の事業期間全体を通じた公的財政負担の見込額の現在価値
PFILCC:PFI事業として実施する場合の事業期間全体を通じた公的財政負担の見込額の現在価値
現在価値:一定の利回り(割引率)で運用した後に目的金額になる現在の金額
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日本のPFIにおけるVFMの問題a.VFMの算定時の問題
使用根拠が不明な割引率
具体的な手法が数値の不明なま処理を行 数値明なま処理を行い、数値のないまま定性的に減額処理を行い費用を算出
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・割引率について
事業内容VFMが算定された年
実際のPFI事業に適用された割引率
公表されたVFMの額(事業者選定前のVFMの額)
VFMが算定された年の長期国債利回りの平均値
長期国債利回りの平均値で試算したVFMの額
複合施設の整備・維持管理・ 2001年 4.00 930 2.90 893
(単位:百万円,%)
備 維持管理運営
教育文化施設の整備・維持管理
2003年 4.00 300 2.17 187
教育文化施設の改修・維持管理
2004年 4.00 242 1.90 ▲160
社会福祉施設の整備・維持管理運営
2005年 4.00 269 1.90 ▲201
総務省「PFI 事業に関する政策評価-効果の把握結果-」より
PFI事業によるかどうかの判断する際に、算出されるVFMは使用される割引率により大きく変化する。使用されている4%は国交省による『技術指針』により公表されている数字である。一方内閣府のガイドラインには長期国債利回りにより計算する方法が例示されているが、現在も4%を使用している例がみられる。多くの事業において使用根拠は示されていない。
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・コスト削減率の公表について (単位:件(%))
総務省「PFI 事業に関する政策評価-効果の把握結果-」より
b.VFMの評価の問題
先に示した通り、日本のPFIのVFMはコスト削減率のみを示すものであるが、その算出
において要因となる割引率やコスト削減率はもっぱら不明となっている。そして、実際にVFM達成されているかどうか、どのような原因でVFMが発生しているかなどの評価及び検証とその公表は行われていない。
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• PFI推進法等の改正 • 政府によるアクションプランの公表
• 東日本大震災の復興における積極的な活用
PPP/PFIによるインフラ事業の活用の拡大
5.これからの日本のPFI事業
日本のPFIにおける問題・リスク分担やリスクに対する評価や管理が十分に行われていない。
・事業の客観的な評価が支出の削減率のみに着目した根拠が不明な算出によるVFMによるのみ。
形だけのPFI/PPPに事業の増加や、それにより失敗する事例も増加する恐れが出てくる
これからの日本のPFI事業は事業のアカウンタビリティがより重要になる。
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事業におけるリスクもふまえVFM以外の事業の価
値に着目した事業の効率性についての指標も同時に用いて評価・検討するべきではないか。
6.PFIによる事業の評価における提案
ゆえに、PFIによる事業の評価についてはのリスクをふまえた
事業そのものの評価を同時に行い、事業を多元的な観点か
VFM➡現在示されている数値は事業費の削減率のみしか示していない
事業そのものの評価を同時に行い、事業を多元的な観点から客観的な評価する必要があると考えられる。
・どのような指標を用いるべきか?
PFIによる事業において活用されたり、形成された社会資本
により生み出される公共サービスに係る諸費用を、リスクを加味した資本サービスに係る原価として、その事業の原価率をサ ビスの効率性の指標とすることができる考えている
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率をサービスの効率性の指標とすることができる考えている。
VFMによる事業費の削減率と原価率による事業の価値を判断する指標を同時に用いてその事業がどれだけ有効であるかを判断することが有効であると考える。
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7.これからの方向性
・PFIに事業において、失敗した事例のある病院運営などに関する事業において原価計算の試算を実際に試算してみる。そして、事例の間で比較検討を行い そこからわかることや有効性を考察する。
・既にインフラファンドの設立が行われて、PFIによる事業の株式の売買などが行われているイギリス、オーストラリア、韓国などの海外において政府やインフラファンドにおいてどのように事業の評価をはかる指標を用いて評価しているのかを調べ、その有効性の比較検討を行う。
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・上記などの考察から得られた知見をまとめて、複雑ではなく簡易に算定できる民間を活用した公共事業についての事業の有効性の指標の算定方法のモデルを提案する。
参考文献
[1]野田由美子『PFIの知識』日経新聞社(2003)
[2]尾林芳匡・入谷貴夫『PFI 神話の崩壊』自治体研究社 (2009)
[3]総務省「PFI 事業に関する政策評価-効果の把握結果-」(2007)http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/seisakunaiyo/pdf/070528_2_1‐3.pdf
[4]内閣府『PFIの現状について』(2013)http://www8.cao.go.jp/pfi/pfi_genjyou.pdf
[5]内閣府「VFM(Value For Money)に関するガイドライン』(2008)
http://www8.cao.go.jp/pfi/guideline3_v.pdf
[6]国土交通省『公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針(共通編)』(2009)http://www.mlit.go.jp/tec/hyouka/public/090601/shishin/shishin090601.pdfp // g jp/ / y /p / / / p
[7]熊谷弘志『脱「日本版PFI」のススメ-リスク移転で解き明かすPFI の真の姿』相模書房
(2007)
[8](株)日本総合研究所「PFI事業におけるリスクマネジメントの在り方に関する調査」(2009)
[9]岸道雄『PFI(Privete Finance Initiative)の有効性に関する一考察』 政策科学 18‐3 Mar 2011
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